生物多様性セミナー <日本経済新聞社共催> 生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)に先立ち、中部経済連合会は企業から見た生 物多様性や COP10 の理解促進を目的に、中経連会員に向け「生物多様性セミナー」を実施した。 あいさつ (社)中部経済連合会 専務理事 山内 拓男 中経連ではCOP10 支援実行委員会に呼応し、 「生物多様性フォーラム」(平成 22 年 10 月 25 日開催)のほか、会員企業の先端技術開発や環境問題への取り組み状況視察など独自事業を 計画している。さらに生物多様性宣言を策定していく方針だ。 生物多様性は温暖化問題に比べ認知度が低いが、COP10 によって多くの人々が理解を深め、 その保全と賢い使い方を考える契機になることを期待する。9月まで5回開催する本セミナー もその一助になれば幸いだ。 第1回 「生物多様性・COP10とは?」 (平成 22 年6月 30 日開催) ■講演1 「COP10 に向けて」 環境省自然環境局 自然環境計画課 生物多様性地球戦略企画室長 鳥居 敏男 氏 伝統と近代科学の融合で里山のノウハウを世界へ 生物多様性とは、多様な生態系、種が存在し、同じ種でも遺伝的に性質の異なる多様性が確 保されること。地域固有の自然・生物が存在し、生きもの同士のつながりが持続しなければな らない。植物が酸素を供給する、生物が食料や医薬品等の原料になる、サンゴ礁やマングロー ブ林が津波の被害を抑える――どの事象も生物多様性が維持されないと成り立たないが、いま それが危機にひんしている。 本来自然は、ある程度人の手を加えても自力回復するが、ある転換点(ティッピングポイン ト)を超えて自然が破壊されると多様性の損失を止められなくなる。いかに損失速度を落とし ティッピングポイントを超えないようにするかを議論するのがCOP10 の大きな焦点だ。 「ポスト 2010 年目標」を採択と、 「遺伝資源の利用と利益配分」(ABS)に関する国際的な 枠組みを検討することも課題。日本からは「SATOYAMAイニシアティブ」を発信して持 続可能に利用していくノウハウを世界に広げていきたい。 環境省では「生物多様性民間参画ガイドライン」を策定している。 COP9 で立ち上げられた「ビジネスと生物多様性イニシアティブ」の流れを日本で引き継 いでいく「生物多様性民間参画パートナーシップ」も動き出している。ぜひこのパートナーシ ップに参加して生物多様性への持続的な取り組みをしていただきたい。 1 ■講演2 「生物多様性の企業にとっての意味」 名古屋大学エコトピア科学研究所 教授 林 希一郎 氏 経済の根幹で配慮する仕組みをリスクをチャンスに変える 地球規模での生物多様性保全はまさに急務である。ところが世界全体のGDPが約 6,000 兆 円あるにもかかわらず、生物多様性保全に使われる政府開発援助の金額は現在、数千億円程度 と非常に少ない。経済社会の根幹部分を、生物多様性に配慮する仕組みに変えていくことが必 要だ。そのためには生物多様性配慮製品を育成・供給し、また需要を生むことがまず基本とな る。生物多様性への配慮は今後大きな付加価値になることが予想されるので、認証を取得して 差別化するといったブランドづくりなどは企業にとって、大きなビジネスチャンスとなる可能 性がある。将来的に環境規制が緩くなる可能性は薄く、ガイドラインなどに則して、先手を打 ってリスクをチャンスに変える企業活動が求められるだろう。 生物多様性条約に則し、グローバルな経済社会システムを再構築することで生物多様性問題 の本質を解決していこうという取り組みも進みつつある。遺伝資源供給国への利益配分がコス ト増の要因になる可能性がある。しかし遺伝資源にアクセスする仕組みが持続的に確保できる ようになれば、メリットになるだろう。グリーン開発メカニズム(GDM)を作る動きもある。 また欧州主導で「生態系・生物多様性の経済学」(TEEB)プロジェクトが進んでいる。こ れらのほか生物多様性に関する国際標準化を進め、それをマーケットの基本にする動きなど、 欧州を中心にビジネスベースでの動きも活発になっている。世界動向から目を離さない方がい いだろう。 第2回 「生物多様性への企業の取り組みの指針」 (平成 22 年7月 22 日開催) ■講演1 「企業の指針およびアンケート報告について」 名古屋市立大学 経済学研究科 准教授 香坂 玲 氏 企業の活動、 「森林」が中心 文化的背景への配慮も必要 数年前まで生物多様性に関心を向ける企業は決して多くなかったが、最近は多様な取り組み が広がっている。大手ゼネコンは、地域の動植物の情報を集積するシステム構築や都市・道路 での野生動物への配慮でクライアントへの提言力を高めたり、不動産の価値を高める努力をし ている。また鉄鋼メーカーが生産過程で発生する副産物のスラグを活用してサンゴ礁の再生に 取り組む事例もある。主要なハウスメーカーでは違法伐採の木材を排除する調達ガイドライン を示しており、さらに飲料会社が全国各地の自然保護への寄付活動を積極化したり、流通業が 生物多様性の表彰制度を設けるなどの取り組みもある。 ここで、日本経団連の主要会員企業を対象に行ったアンケート調査の結果について紹介した い。これによると、生物多様性に経営テーマとして関心があると答えた企業は全体の約9割。 各社が実際に取り組んでいるプロジェクトを合計すると、500 以上にのぼる。その内訳を見る と「森林」が 200 を越える大部分を占めているのに対し、 「海洋」や「河川」 「湿地」などは少 数となっている。保全への取り組みを行わないことによる企業のリスクとしては、 「企業の社 会的責任(CSR)評価の低下」 「ブランド力の低下」 「市民・消費者の不評」 「原材料調達や製 2 品供給の困難化」などが上位に挙げられている。 ただしリスクについてグローバルに考えてみると、単発の地域での植林活動だけではCSR と見なされないこともある。これからは世界の人々の文化的背景の違いなどに一層配慮しなが ら、生物多様性保全への取り組みやコミュニケーションを進めていくことが重要になるだろう。 ■講演2 「企業にとっての生物多様性課題の分析と対応戦略」 日立製作所地球環境戦略室部長 / 国際電気標準会議(IEC)TC111 議長 市川 芳明 氏 企業のリスクは経済的負担 国際ルールへの警戒必要 生物多様性の問題には2つの異なった概念があり、とらえ方によって議論の内容は大きく変 わってくる。一方が「生物種の保存」の概念で、多様な生き物を守る重要性を強調するものだ。 最近は生物多様性オフセットや、乱獲された資源を使用していないことを示す製品認証、さら に1ヘクタール当たり生物の生息地としてどれだけの豊かさがあるかを評価するHEPなど の話に発展してきている。 もう一方の概念が「生態系サービスの持続的活用」で、自然を1つの価値あるものとしてと らえることで、経済価値に換算しやすくなる。 近年の生物多様性の議論では、生物種の多様さを保全しようという本来の考え方に比較して、 経済価値評価などの部分が極端に大きくなっていることが指摘できる。生物多様性に関する企 業にとっての最大のリスクは、端的に”お金“だといえる。生物多様性を金銭取引する市場メ カニズムやGDM(グリーン開発メカニズム)が導入され、約束した目標をもしクリアできな かった場合、未達分を支払わなくてはならないなどの可能性もあり得る。もう一つの大きなリ スクが、サプライチェーン上流における生態系へのインパクトだ。海外での森林伐採など、か なりの上流部分にさかのぼった経済的補償を、川下企業まで要求されることが考えられる。さ らに出荷製品について、生物多様性のオフセットが社会的に必要とされることも想定される。 その場合、企業にはオフセットと認証の2つのコスト負担が発生する。 これから日本が警戒すべきことは、国際ルールの行方だ。標準化を決める場はかなり分散し ており、例えばカーボン・フットプリント制度では、国際標準化機構(ISO)などの団体や国々 が、自らに有利なルールになるよう激しい競争を繰り広げている。日本人は昔から決められた ルールに黙々と従うことが好きだが、もし生態系サービスの評価基準が日本企業に納得できな いものになった場合、企業の環境経営は相当困難になる。国・企業が一丸となり、生物多様性 の分野で戦略的な手を打っていく必要がある。 3 第3回 「企業にとってのリスクとチャンスⅠ」 (平成 22 年8月5日開催) ■講演1 「生物多様性の企業リスク」 日経BP社 環境経営フォーラム事務局 生物多様性担当プロデューサー 藤田 香 氏 取り組み定量的に開示 米国メキシコ湾での石油流出事故の原油回収や住民への補償で、英石油メジャーのBPはブ ランド価値を著しく下げてしまった。また平成 22 年3月のワシントン条約締約国会議ではク ロマグロの禁輸案が話題になったが、これは単なる通商問題や食文化の問題ではない。乱獲に よって回遊するクロマグロが減少し、蓄養クロマグロのビジネスが生態系に負荷をかけて成り 立っているという問題が浮き彫りになった。 ほとんどすべての企業活動は生物資源に負荷をかけている。クロマグロを例に取れば、漁業 者や蓄養業者だけでなく、商社や卸、水産加工業者、輸送、倉庫業者、保冷機器メーカー、小 売業者、飲食業者など、消費者の手に届くまでに数多くの企業がかかわっている。 生物多様性を損なう調達にかかわっていただけで評判リスクにさらされることもある。 「知 らなかった」では済まないのだ。 先進的な企業では、持続可能な生物資源活用を目指すさまざまな取り組みを実行している。 例えば建設・住宅業界では、独自の木材調達基準を決めて、目標を明確化している企業がある。 また農産物の受粉に在来種のマルハナバチを使用する技術を確立した食品メーカーもある。リ スクをゼロにはできないかもしれない。それでも自社の事業活動による環境負荷を定量的に評 価し、それをどこまで改善しようとしているのか、取り組みを分かりやすく開示していくこと が重要だ。 ■講演2 「生物多様性のプロジェクトリスク~金融の観点から」 みずほコーポレート銀行 グローバルストラクチャードファイナンス営業部 グローバル環境室長 小田原 治 氏 融資先と評価基準共有 企業融資手法の一つに「プロジェクトファイナンス」という形態がある。特定のプロジェク トに対して、プロジェクトの収益のみを返済原資とし、そのプロジェクトにかかわるすべての 資産や権利を担保にする金融手法だ。このプロジェクトファイナンスを行うときに世界の主要 な金融機関 67 行が採択している「エクエーター原則」という環境ガイドラインがある。融資 対象のプロジェクトが地域の自然環境に与える影響を評価し、影響が大きい場合には事業者に 対策を求め、行動計画をしっかりと作ってその実施と報告を融資契約の条項とするものだ。 生物多様性に大きな影響がありそうな計画を検討する上では、まず可能な限り回避すること、 生態系に影響を与えない方法を考えることが優先される。しかし、どうしても回避できない部 分は影響を最小限に抑え、プロジェクトが終わった後に復元できるならば復元する。最後にど うしても残ってしまう生態系への影響に対しては、類似した生態系を持つ別の地域で代償・保 全する生物多様性オフセットや追加的な保全活動を行う。 環境リスクを明確にし、低減することで生態系に配慮したビジネスを広げられるだろう。 4 ■講演3 「生物資源探索のリスク」 ニムラ・ジェネティック・ソリューションズ社長 二村 聡 氏 公平な利益配分が必要 生物資源探索とは、商業的な価値のある生物資源を世界中から見つけ出していく仕事。薬効 成分を含有する動植物や化学品を合成する細菌・バクテリアなど、人に役に立つ可能性のある 生物資源を国内外に探し求めることは、医薬品や健康食品の研究、あるいは農産・畜産物や園 芸作物の品種改良などを進める上でも不可欠だ。現在、生物資源を数多く保有する国や地域か ら「利用する利益還元をするべき」という声が上がっている。これが生物多様性条約の主要な 議題の一つだ。 企業や大学、研究機関などが生物資源探索を行う場合、まず資源保有国側に対して必要な 情報を事前告知し、資源へのアクセスをして良いか同意を得ることが必要だ。 「この薬草はこの病気に効く」といった伝統的な知識を含め、生物資源の恩恵は原産国に も権利があることを普通に考え、相手国の心情に配慮しながら適切な契約を結んで進めていく ことが大切だ。 第4回 「企業にとってのリスクとチャンスⅡ」 「TEEB D3(ビジネス分野向けの報告)について」 (平成 22 年8月 25 日開催) IUCN(国際自然保護連合) チーフエコノミスト ジョシュア・ビショップ 氏 生物多様性の経済価値定量化に注力 TEEBは 2008 年に欧州連合(EU)とドイツ政府がイニシアチブを取って開始したプロジ ェクトで、私が属するIUCN(国際自然保護連合)を含め多くの国の政府、機関、団体が協力 している。 プロジェクトでは生物多様性の喪失・保全を経済的価値で計測して定量化する手法の開発に 注力。まず我々は 10 年から 50 年の間に、土地の転換や利用方法によって、全世界の約 750 万 平方キロメートルの自然が減少し、それにより生物種の多様性が 61~72%喪失すると予測。そ の損失額を経済的価値に置き換えると1兆~3兆ユーロに上ると試算した。全世界一元的に通 用する定量化ツールを開発するのは難しいが、各地域で活用できるよう、世界の地域ごとにデ ータベースを作成している。 企業活動への提言 7章できめ細かく 報告書は、生態系あるいは経済という観点から見た基礎リポートの「D0」 、国内外の政策 立案者に対する「D1」 、地方自治体に対する「D2」 、ビジネス分野向けの「D3」 、一般市 民用「D4」の5冊に分かれている。 このうち私が担当しているが全7章からなるD3で、取りまとめに必要な資料提供など経済 団体を含め多くの企業に協力していただいた。 経済活動が大きく影響 ビジネスが生物多様性生態系サービスに与える影響は大きく、今後はその影響や損失を市場 価値などに反映させていく措置が重要。保全や損失回復なども組み込んだ経済の仕組みが必要 5 となる。 複数指標駆使しリスクをチャンスにする動きも 生物多様性・生態系サービスが市場や生活活動などにどう影響しているかについて、年次報 告書の中で言及している企業の数は、温暖化ガス排出に関して言及している企業数に比べて格 段に少ない。その理由は認知度の低さに加え、温暖化ガス排出量のような統一的な指標がない から。 生物多様性の大きな特徴は、カーボンニュートラルのように“差し引きゼロ“でなく、回復・ 保全により、プラスの効果を生み出せること。そこに着目し、リスクをチャンスに変える新し いビジネスモデルを狙う企業は今後、数多く生まれてくるだろう。そのためにも、それをやり やすくする仕組みをもっと整備していくことが必要だ。その一端として、リスク管理のための ツール・手法が数多く開発されてきている。 「統合生物多様性評価ツール」は、新しい事業立地を決定する際、生物多様性という側面か らどこが生物多様性に最も影響が少ないか、回避手法なども含めリスクを明確にするのに有効 だ。 「ビジネスと生物多様性オフセットプログラム」は事業所が発生する生態系への負荷を明確化 し、それを最小化、相殺する対策を図るためのツールだ。 「認証とラベリング」は原料から製品に至るまでのサプライチェーン、バリューチェーンの効 果的管理でリスクを最小限に抑えるために有効だ。 英国のある企業は、これらの手法を使い、開発で失われた湿地帯の回復などに、経済価値の 評価テクニックを基に喪失量や回復コストを定量化。復元には相応のコストがかかるが、それ によってコスト以上の便益が得られることをシミュレーションし、投資判断を行ったという事 例などもある。 すぐに行動を起こすことが重要 このような形で生物多様性・生態系サービスを支えるビジネスは、事業の成長の上でも持続 可能な社会の実現の上でも、期待が高い。まずは、それを促進する政策、枠組みを早急に整備 すべきだ。 従来型の自然保護モデルはもはや機能しないと考える。それは自然を変えてしまったり、結 果的に破壊につながることも多いからだ。慈善事業ではなく、生物多様性・生態系を保全する ことで持続的に利益が得られる構図にする必要がある。 こうした状況の中、民間が参画する生物多様性保全・回復活動や、保護活動にかかわるルー ル・規則づくりがいかに重要かを認識・理解する政府が増えていることを非常に心強く思って いる。D3の報告には様々な行動原理、宣言、指針が含まれる。生物多様性・生態系に関して (平成 22 年6月 30 日開催) どの程度の範囲で価値が定量化されているか、あるいは社会的な側面、第三者の視点が含まれ ているかが、その中から見えてくると思う。 企業、または産業として手をこまねいて待っている必要はもはやない。今すぐにでも政府や 関連機関と手を組んで、まずD3で挙げたことを実行してほしい。 6 第5回 「生物多様性マーケティング」 ■講演1 「生物多様性マーケティング」(平成 23 年 11 月 22 日) 電通ソーシャル・ソリューション局 ソーシャル・ビジネス開発部 生物多様性プロジェクト専任部長 横山 陽二 氏 チャンスを開く事例も多彩に 生物多様性マーケティングの最近の動向について、4P(製品、プロモーション、流通、価 格)の視点から見ていきたい。まず「製品」に関しては、生物多様性に配慮した商品であるこ とを示す認証マークが世界的に広がっている。MSC認証や、FSC認証、さらに農業のレイ ンフォレスト・アライアンス認証のカエルのマークは日本の消費者にも認知が高まってきた。 一方で国内の地方産品などでは、 “生き物マーク”を付けた商品が増えている。 また「プロモーション」では、商品の売り上げの一部を自然保護活動などに寄付するコーズ・ リレーテッド・マーケティングが近年注目されている。 「流通」の分野についても、大手小売 りが認証マーク付き商品の取り扱いを増やしたり、また外食チェーンが自ら生物多様性に配慮 した原材料を使用するなどの動きもある。 「価格」に関しては、生物多様性に配慮した商品は プレミアム価格になるが、消費者から高い人気を集める事例が少なくない。さらに企業のコミ ュニケーション活動においても、生物多様性保全活動をテーマにした広告や、生物多様性を守 る技術の広告など、様々な切り口で展開されている。 今後の可能性としては、食料自給率向上をめざす国民運動「フードアクションニッポン」と 連携し、生物多様性に配慮しながら自給率を高めていく活動などもあり得るだろう。また生物 多様性を守る街づくりで不動産の価値を高めたり、地域ブランディングに役立てる展開もビジ ネスチャンスとなる。 一方で日本は国際ルールづくりにもっと積極的に参画すべきことを提案したい。生物多様性 マーケティングでは、自社の活動全体が生態系にどんな影響を与えているかを検証し、専門の 有識者やNGOと連携した取り組みが不可欠となる。 ■講演2 「伊藤忠商事の生物多様性への取り組み」 伊藤忠商事 総務部 地球環境室 室長代行 茂木 康次郎 氏 事業と社会貢献の両面で生態系に配慮 当社のビジネスの柱は、商社のコア機能である「トレーディング」と、自ら経営参画する「事 業投資」だ。トレーディングにおいては、一つの商品の原材料調達から製造、輸送、販売、使 用、そして廃棄に至るライフサイクル全体について、商社として直接かかわらない部分も把握 し、自然生態系など環境への影響を最小限にするためのチェックシステムを導入している。事 業投資に関しても、企業の社会的責任(CSR)や環境面でのリスクを評価し、環境への影響の 最小化に努めている。 さらに当社では、自然生態系に配慮したビジネス展開にも力を入れている。その一例が「プ レオーガニックコットン」のプログラムだ。当社では、生産減少分を仕入れ値に上乗せする有 機農法化を支援する取り組みを開始した。そのプレオーガニックコットンを使ったTシャツな どに、バイヤーや消費者からの関心も高まってきている。 もう一つの同様の事例が、中米のコーヒーだ。当社も出資するグアテマラの現地企業のUn 7 exグアテマラ社では、中小農家などにNGOレインフォレスト・アライアンスなどのコーヒ ー農園認定基準をクリアするための有機農法を指導。認証マークが付けられたコーヒー豆は日 本でも販売されている。 こうしたビジネス展開に加え、 「ボルネオ島の熱帯林再生及び生態系保全活動」を始めた。 このプログラムは世界自然保護基金(WWF)が推進する事業を支援するもので、伊藤忠グル ープが担う植林面積は 967 ヘクタールと一般企業の植林活動支援としては、最大規模となる。 社員の植林体験ツアーも年に1~2回実施し、参加者一人ひとりが生物多様性の重要性への認 識をさらに深めている。そうした社員の高い意識が、今後の企業活動に活かされていくと期待 している。 8
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