卒業論文 土星リングの起源と間隙 天文学研究室 09S1

卒業論文
土星リングの起源と間隙
天文学研究室
09S1-010
川島 雅大
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はじめに
卒業研究のテーマとして土星のリングを取り上げてきた。
土星はその美しいリングを持つ惑星として有名である。太陽系の惑星では土
星以外にもリングを持つ惑星に木星、天王星、海王星が挙げられるが、土星
の持つリングはこの 3 つの惑星とは比べ物にならないほど、はっきりとして
いて特徴的である。そこで本論文では、研究のメインテーマとしてこのリン
グが何でできているのか、そしてどのようにできたのか考えてみたいと思う。
次にリング中に存在する様々な間隙がどのように作られたのかをまとめて
みる。
1 章では簡単な土星についての紹介をしてみたいと思う。様々な物理量等を
この章で紹介する。2 章では土星のリングが何でできているのかを紹介し、
そしてその構成物質がどのような状態なのかをまとめてみる。3 章ではリン
グの起源として様々な説が挙げられているが、計算や推理等を通じてどの説
が1番起源の説明として相応しいのかを考察してみる。4 章ではリング中の
間隙がどのように作られたのかを周りの衛星との関係等から導いていく。そ
して最後に研究全体を通してのまとめを記述しておく。
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目次
1章 土星とは
P4
1.1 どんな惑星か P4
1.2 土星の主な物理量 P5
2章 土星のリング
P6
2.1 リングの概要 P6
2.2 リングの幅、軌道半径、粒子サイズ
3章 リングの起源
P7
P8
3.1 様々な説 P8
3.2 潮汐力とは P8
3.3 潮汐力の式 P9
3.4
3.5
3.6
3.7
3.8
ロッシュ限界とは P11
ロッシュ限界の式 P11
ロッシュ限界の算出 P13
土星形成時の残りの物質からできた説
E リングとエンケラドゥス衛星 P14
4章
リング中の間隙
4.1 様々な間隙
P14
P15
P15
4.2 カッシーニの間隙 P16
4.3 間隙内の氷粒子と 3 つの衛星の公転周期
まとめ
P19
3
P17
1章 土星とは
1.1 どんな惑星か
太陽からの距離が地球の 10 倍、
直径も地球の 10 倍あり、太陽
系では木星に次いで 2 番目に
大きな惑星である。木星型惑
星に属し、太陽に近いほうか
ら 6 番目の惑星である。水素
やヘリウムのガスを主成分と
しているガス惑星でもある。
NASA のカッシーニの赤外線画像
土星の内部構造は木星と似ていて、中心に岩石質の核があり、その上に氷の
層、そしてその上に液体金属水素とヘリウムの層といった形で階層ごとに異
なる物質が存在している。また内部はとても高温であり、核では 12000(K)
に達し太陽から受けるエネルギーよりも多くのエネルギーを外に放出して
いる。
土星の内部構造
土星でも地球と同じく極でオーロラが発生する。ハッブル宇宙望遠鏡による
紫外線観測で観測された。赤外線オーロラは非常に微弱で画像としては捉え
られていないのである。土星のオーロラは特に夜明
け側で顕著である。
ハッブル望遠鏡により撮影
4
1.2 土星の主な物理量
太陽からの平均距離
9.55491(AU)
平均公転半径
1,426,725,400(km)
公転周期
29.46(年)
赤道面での直径
120,536(km)
表面積
4.38×1010(km2)
質量
5.69×1026(kg)
体積
827 兆(km3)
自転周期(赤道面)
10 時間 13 分 59 秒
自転周期(極)
10 時間 39 分 25 秒
平均密度
0.70(g/cm3)
ここで注目するべき点は、土星の平均密度である。水の密度は約 1(g/cm3)な
のであるが土星の平均密度はそれよりも低い 0.70(g/cm3)なのである。すべ
ての惑星を収容できる巨大な水槽があるとして太陽系の惑星を全てその中
に入れるとすると他の惑星は水の中に沈むのであるが、土星だけは水に浮く
のである。このことから水に浮かぶ惑星とも言われている。
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2章 土星のリング
リングの構成粒子(イメージ図)
真横からみた土星(ハッブル望遠鏡により撮影)
2.1 リングの概要
土星の 1 番の特徴と言えるものは、やはりリングである。このリングは 99%が
水の氷の粒子でできていて、残りはシリカや酸化鉄等である。リング中の氷粒
子は土星の衛星からの重力の影響を受け、リングでは様々な現象が起きている。
また、このリングは非常に薄く、土星を真横から見るとリングはないように見
える。
土星のリングは内側から順に D リング、C リング、B リング、A リング、F リン
グ、G リング、E リングとなっていてアルファベット順ではない。この中で A リ
ング、B リング、C リングはメインリングと呼ばれている。ちなみに地上から容
易に観測できるのは A リングと B リングのみである。これは、A リングと B リン
グの氷粒子のサイズが他のリングと比べて大きいからである。
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2.2 リングの幅、軌道半径、粒子サイズ
リング
幅
軌道半径
粒子サイズ
A リング
14580 (km)
122200~
136780(km)
1(cm)~10(m)程度
B リング
25580(km)
92000~
117580(km)
1(cm)~10(m)程度
C リング
17500(km)
74500~92000(km)
1(cm)程度
D リング
7500(km)
67000~74500(km)
ミクロンサイズ
E リング
300000(km)
180000~
ミクロンサイズ
480000(km)
F リング
30~500(km)
140220(km)
μm~cm サイズ
G リング
9000(km)
166000~
175000(km)
ミクロンサイズ
シリーズ現代の天文学 9 太陽系と惑星より引用
このように各リングによって粒子サイズや、幅等は大きく異なっている。粒子
サイズが大きいところは明るく見え、そうでないところは暗く見える。
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3章 リングの起源
3.1 様々な説
土星には特徴的なリングが存在するが、このリングは果たしてどのようにして
誕生したのかを考えてみる。土星を形成した物質の残りから形成されたという
説や隕石が衛星に衝突してその衛星が砕けてできた説、そして 1 番注目されて
いるのが、19 世紀にエドゥアール・ロシュが提唱したもので、土星の周りを周
っていた氷衛星の軌道がロシュ限界よりも近くなり、潮汐力によって粉々にな
ったとするものである。まず第一に、この氷衛星が土星の潮汐力によって破壊
された説を考えてみる。
3.2 潮汐力とは
潮汐力とは天体に働く引力の差によって天体を引き延ばす力のことである。土
星とその周りを周る衛星を考えると土星が衛星に及ぼす引力は衛生の表面と中
心では大きさが違う。この引力の差を潮汐力と言う。よって衛星は形を歪める
ようになり、引力に耐え切れなくなったときに破壊されてしまう。
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3.3 潮汐力の式
質量 M[kg] の天体Aが R[m] だけ離れた半径 r[m] の質量 m[kg]天体Bに、ど
のような重力作用を及ぼすか考えてみる。
G を万有引力定数として天体 A が天体 B の表面に及ぼす引力を Fa とすると
Fa=GMm/(R-r)2
天体 B の中心に及ぼす引力を Fo とすると
Fo=GMm/R2
潮汐力の大きさは Fa-Fo なので
GMm/(R-r)2-GMm/R2
となる。
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(1)
(1)式を変形すると
GMm{1/(R-r)2-1/R2}
ここで
1/(R-r)2=(R-r)-2=[R{1-(r/R)}]-2
一般に x≪1(x が非常に小さい、1 と比べて無視できる)ときは
1+xn=1+nx(n はマイナスでも良い、x2 以上の項は無視する)
-2
つまり(1-x)
=1+2x であるので
{1-(r/R)}-2=1+2(r/R)
(r≪R だから)
よって
[R{1-(r/R)}]-2=R-2+2(r/R3)
よって
1/(R-r)2-1/R2=2r/R3 (-1/R2=R-2)
なので潮汐力の式は
2GMmr/R3
となる。
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3.4 ロッシュ限界とは
ロッシュ限界とはフランスの天体力学者、エドゥアール・ロッシュが 1848 年に
理論的に打ち出したもので、主星に対して衛生や彗星が近づきすぎると、衛生
や彗星は主星による潮汐力で引き伸ばされて、その形を保てず崩壊する。主星
に衛生や彗星が近づいて崩壊を始めるときの主星の中心と衛生や彗星の中心間
の距離のことである。つまり氷衛星がこのロッシュ限界内に入って、土星から
の潮汐力に耐え切れなくなり、破壊されてリング状に散ったという考えがある
のである。
3.5 ロッシュ限界の式
ロッシュ限界の式は主星からの潮汐力=衛星自身の重力で求めることができる。
2GMmr2/R3=Gm2/r22 (2)
ここで
G:万有引力定数 M:主星の質量
m:衛星の質量
r2:衛星の半径
R:主星と衛星間の距離
である。
主星の密度を ρ1,主星の半径を r1,衛星の密度を ρ2 とすると
M=4πr13・ρ1 (3)
m=4πr23・ρ2 (4)
となる。
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ここで(3),(4)式を(2)式に代入し計算すると
R={2(ρ1/ρ2)}1/3・r1 (5)
と算出できる。
(5)式から先は厳密には計算できず、エドゥアール・ロッシュが近似的な式を導
出した。
R≒2.456(ρ1/ρ2) 1/3・r1(6)
これが導出された式であり、ロッシュ限界を求めるための式である。
R:ロッシュ限界
ρ1:主星(土星)の密度
ρ2:衛星の密度
r1:主星(土星)の半径
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3.6 ロッシュ限界の算出
(6)式に土星の密度
氷の密度
土星の半径
ρ1=0.70(g/cm3)
ρ2=0.92(g/cm3)
r1 =6.03×104(km)
を代入して計算すると
ロッシュ限界 :約 1.4×105(km)
よってこの計算結果から氷衛星が土星の中心から約 1.4×105 (km)の位置で破壊
されたことになる。ゆえに土星の A リング付近で氷衛星が破壊され、氷粒子が
リング状に飛び散ったと考えることができる。
氷粒子のサイズが大きい A リング付近で氷衛星が砕け始め、とてもサイズが小
さい D リング付近で完全に砕けたと考えれば、土星のリングは氷衛星が潮汐力
によって破壊されてできたという説は有力な考えなのではないだろうか。
ちなみに土星のリングを形成する氷粒子の総質量や氷の密度の関係から、潮汐
力によって破壊された衛星は土星の衛星のミマスと同じくらいもしくはそれ以
上の大きさと考えられている。
仮に衛星ミマスが土星からの潮汐力によって破壊されたとしても、ロッシュ限
界の値はだいたい 1.4×105(km)となる。
衛星ミマス(カッシーニにより撮影)
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3.7 土星形成時の残りの物質からできた説
次に土星形成時の残りの物質からできた説について考えてみる。
土星のリングの構成物質は氷を主成分とした微小天体で、その存在範囲(リン
グの厚さ)はわずか数百メートルしかない。先程も述べたとおり、非常に薄い
のである。当然微小天体同士の衝突が起こり長年月(数億年程度)の間には環
は消えてしまうはずである。 したがって現在のリングは比較的新しい時代に
できたものと考えることができる。ゆえに、土星形成時の残りの物質からでき
たとは考えにくい。
3.8 E リングとエンケラドゥス衛星
今までリング形成の 2 つの説について考えてきたが、1 番外側の E リングは他の
リングと形成の理由が異なる。土星の周りにエンケラドゥスという氷の衛星が
周っていて、そのエンケラドゥスの南極の氷成火山が噴火し、そこから噴き出
る水蒸気と氷の結晶が E リング付近の軌道まで流れ込みリングが形成されてい
るのである。この氷成火山の噴火の理由として考えられるのは、エンケラドゥ
スは強大な土星によって、ゴムマリのように楕円に伸びるほど引っ張られる。
伸びたり縮んだりすることで、内部の氷や岩石がこすれて熱が発生する。よっ
て水蒸気が噴出すると考えられている。また、氷の結晶はこの水蒸気が氷結し
たものであると考えられている。
エンケラドゥス(カッシーニが撮影)
エンケラドゥスの水蒸気の噴出(NASA より)
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4章 リング中の間隙
4.1 様々な間隙
土星のリングの中には、様々な間隙が存在している。これらの間隙は、リング
の中やリングの外に存在している衛星からの重力の作用によって、形成されて
いる例えば A リング中にキーラーの間
隙という間隙が存在するのであるが、
幅が約 42(km)の間隙である。この間隙
ができている理由は 2005 年 5 月 1 日に
発見された小衛星ダフニスがその中を
公転し、間隙内の物質を一掃している
ためである。またこの衛星により、間
隙の端に波を生じている。
キーラーの間隙(カッシーニにより撮影)
また同じく A リング中にはエンケの間隙という幅が約 325(km)の間隙が存在して
いて、これもキーラーの間隙と同じように、内側を公転する小衛星パンの影響
によって形成されている。
このようにリング中に小衛星が公転することによって氷粒子が一掃されて、形
成されている間隙が存在しているのである。
エンケの間隙(カッシーニが撮影)
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4.2 カッシーニの間隙
カッシーニの間隙とは A リングと B リングの間にある間隙のことで 1675 年にフ
ランスの天文学者、ジョヴァンニ・カッシーニによって発見されたことからこ
の名がつけられた。幅は約 2600(km)あり、高精度の望遠鏡であれば地上からで
も観測することができる。間隙中にはごく少量ではあるがリングを構成する粒
子が公転している。
このカッシーニの間隙が構成されている理由は、キーラーの間隙やエンケの間
隙が構成されているのとは異なる。キーラーの間隙やエンケの間隙は間隙の中
の小衛星が粒子を一掃していたのであるが、カッシーニの間隙の場合は土星の
外を公転する衛星の重力作用によって作られてい
る。土星の衛星であるミマス、エンケラドゥス、そ
してテティスが間隙の構成に関わっているのであ
る。この 3 つの衛星の軌道はカッシーニの間隙から
ずっと遠くにある。しかし間隙中の粒子とミマス、
エンケラドゥス、テティスはそれぞれ 2:1、3:1、
4:1 の強い共鳴を起こし、この間隙から粒子を吹
き飛ばすのである。間隙中の粒子はブランコを押す
たびに大きく揺れるように、3 つの衛星の共鳴によ
って外側の軌道に押し出されやがて、間隙となるの
である。
カッシーニの間隙(探査機カッシーニが撮影)
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4.3 間隙内の氷粒子と 3 つの衛星の公転周期
ここで実際に間隙中の氷粒子、ミマス、エンケラドゥス、テティスの公転周期
を求めてみる。
GMm/r2=mv2/r (7)
ここで左辺は土星からの万有引力で右辺は遠心力である。
G:万有引力定数
M:主星(土星)の質量
m:衛星 or 氷粒子の質量
r:衛星 or 氷粒子から主星(土星)までの平均距離
v:衛星 or 氷粒子の速度
(7)式から速度 v を求める。そして
T=2πr/v
から公転周期 T を算出する。
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(8)
ここで
G=6.7×10-11
M=5.69×1026(kg)
ミマスと土星との平均距離=185500(km)
エンケラドゥスと土星との平均距離=238000(km)
テティスと土星との平均距離=294619(km)
カッシーニの間隙内の氷粒子と土星との平均距離
=119890(km)
として、それぞれの数値を(7),(8)式に代入して計算すると
ミマス: v≒1.4×104(m/s) T≒8.1×104(s)
エンケラドゥス:v≒1.3×104 (m/s)
T≒1.2×105 (s)
テティス:v≒1.1×104 (m/s) T≒1.6×105(s)
間隙内の氷粒子:v≒1.8×104 (m/s) T≒4.2×104(s)
と求めることができ、間隙中の粒子とミマス、エンケラドゥス、テティスはそ
れぞれ 2:1、3:1、4:1 の共鳴を起こし、それによってカッシーニの間隙が構
成されていることがわかる。
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まとめ
土星のリングは、板状のリングではなくたくさんの氷粒子等がリング状に集ま
ってできているのである。そして氷粒子のサイズはミクロンサイズのものから
10(m)くらいのものまで幅広く、それぞれのリングによってサイズが異なる。地
上から観測できるのは氷粒子のサイズが大きい A リング、B リングのみである。
土星のリングの起源は、まだはっきりとはわからないが、氷衛星もくしは氷の
彗星が土星に接近しすぎて潮汐力によって破壊され構成されたという説が有力
であると考えられる。潮汐力やロッシュ限界の計算、破壊された衛星の大きさ
の予想、そして現在のリングの状態(リングの薄さ)等からこの説が 1 番有力と
考えられる。しかしこれは今現在考えられている説で 1 番有力なだけであり確
実とは言えない。今後の土星探査機からの情報等で別の説また新たな説が有力
視されるかもしれない。ゆえに土星探査機の今後の情報からは目が離せないで
あろう。
土星のリング中の様々な間隙は、小衛星が間隙中を公転することにより、中の
氷粒子を一掃したり、また土星の衛星からの共鳴によって氷粒子が外へと押し
出されたりして構成されている。間隙から遠く離れた衛星からの共鳴によって
も間隙は構成されるため、衛星からの重力作用はとても巨大な力であると考え
られ、リングの間隙等を研究するにあたって、重要ではずせない事柄であると
考えられる。
土星にはいまだに不明なことが多く、特にリングについて(リング中で起こる
様々な現象)未解決なことがたくさん存在する。今後の土星探査機の活動等から、
こういった土星の不明な事柄が 1 つ 1 つ解明されることを期待し、そして土星
探査そのものに常に注目していきたいものである。
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参考文献
シリーズ現代の天文学 9 太陽系と惑星
渡部潤一、井田茂、佐々木晶[編]
日本評論社
太陽系探検ガイド エクストリームな 50 の場所
デイヴィット・ベイカー、トッド・ラトクリフ[著]
渡部潤一[監訳]
マーカス・チャウンの太陽系図鑑
後藤真理子[訳]
朝倉書店
マーカス・チャウン[著] 糸川洋[訳]
オライリージャパン
参考ホームページ
http://cedec.kumamoto-u.ac.jp/2002/article/mech/mech005/WWW/ic_monokuri/
sub1.htm
http://www7a.biglobe.ne.jp/~falcons/rochelimit.html
http://www.s-yamaga.jp/nanimono/taikitoumi/choseki.htm
http://www.geocities.jp/planetnekonta2/hanasi/ring/ring.html
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