(平成26年7月15日~17日)において当社技術の「計測ボーリング

全方向連続N値計測新ボーリングシステムの開発
全方向
連 続 N値
計 測 新 ボ ー リン グ シス テム
株 式 会 社 東 設 土 木 コン サル タン ト 山 内 優
株 式 会 社 東 設 土 木 コン サル タン ト 惣 塚 潤 一
株 式 会 社 東 設 土 木 コン サル タン ト 正 会 員 ○相 川 信 幸
1 .標 準 貫 入 試 験 の 課 題
ボ ー リン グ 調 査 で用 い られ てい る標 準 貫 入 試 験 ( s ta nd a rd p en e t r at io n te s t) は,全 世 界 で 用 い られ てい る 地
盤 の工 学 的 指 標 値 ( N値 ) を求 めるた めのボ ー リン グ マシ ン を 用 いた 試 験 方 法 で あり ,日 本 で は関 東 大 震 災
( 1 9 2 3 年 ) 以 来 地 盤 工 学 およ び建 設 技 術 の発 展 に 大 きな役 割 を 果 た し て きた。 し かし こ の 試 験 は, 周 知 のと お
り 6 3 . 5 k g の モ ン ケン を 7 6 c m 持 ち 上 げ て ノ ッ キ ン グ ヘ ッド に鉛 直 に 自 由 落 下 さ せ,地 中 先 端 の専 用 貫 入 管 を
30 c m 貫 入 さ せる 方 法 を 用 いる ため ,以 下 の 課 題 を有 す る。
・ 鉛 直 下 向 き 以 外 ,例 え ば トン ネル 内 か らト ン ネル 上 部 や斜 め 方 向 の試 験 は不 可 能 。
・ 1試 験 3 0 c m 区 間 を 必 要 と する ため ,小 さな 空 洞 や地 盤 の細 か な ゆ るみ 状 況 ,地 質 の 細 か な変 化 を 把 握 で き
な い。
・ 試 験 区 間 前 後 に 前 打 ち,後 打 ち を 要 する ため , 1m 区 間 内 に2 つ のデ ー タ以 上 は得 る こと がで きない 。
・ 1回 の 試 験 毎 に ボ ー リ ン グロ ッ ド を 引 き上 げ , 貫 入 試 験 用 サン プ ラ ー を 掘 削 用 コ ア チュ ー ブ に交 換 する 時 間 が
か かる 。
2 .新 ボ ー リン グシ ス テム の開 発
2 .1 開 発 目 的 と経 緯
水 力 発 電 所 の 水 路 ト ン ネ ル 上 部 に は ,水 路 トン ネ ル 施 工 時 に 人 為 的 にで き た 上 部 空 洞 , およ び そ の 後 の地
下 水 の 動 き や降 水 に 伴 う 細 粒 分 の 流 出 に よ りで き たと 考 え ら れ る 空 洞 が あ り ,水 路 の老 朽 化 に 伴 い こ れ ら が地
表 面 に 向 か っ て 進 展 す る と 社 会 的 問 題 を 引 き 起 こ す 。 空 洞 が ト ン ネ ル の 直 上 に あ る場 合 は レ ー ダ ー 探 査 で 調
査 可 能 で あ るが , 上 部 に 進 展 し 始 め た 空 洞 を 調 査 す る に は ,地 表 また
は 水 路 トン ネル か ら の ボー リ ン グ調 査 が 必 要 とな る。
地 表 から のボ ーリン グで は標 準 貫 入 試 験 により N値 は分 か るが,前
述 の 課 題 が あ る。 ま た地 表 に は 建 物 等 様 々 な 構 造 物 が あ り , 調 査 す る
場 所 がな い場 合 も ある。 一 方 水 路 内 か らの 上 向 きの調 査 は,標 準 貫
入 試 験 自 体 が 実 施 でき ない 。
こ の た め 近 年 ク ロ ー ラ タ イ プの ロ ータ リ ー パ ー カ ッ シ ョ ン ド リ ル に 各 種 セ
ン サー を取 り付 け,水 路 内 か ら上 方 向 に 計 測 値 から N値 を求 める こと
が で き る エン パ ソ ル 等 の シス テム が 用 い ら れ るよ う に な っ た 。 し か し ロ ー タ
リ ー パ ー カ ッ シ ョンド リ ル は給 進 装 置 用 の ガ イ ド セル( 標 準 4. 8m ) を有 す
図1
システムの構成
る た め, 改 造 し ても 2 . 8m 以 下 の小 さな トン ネル で は使 用 で きな いこ と,
特 注 のた め調 査 機 の数 が少 ない こと が問 題 で あ っ た。
この問 題 を解 決 するために,同 様 のセン サーを小 型 ロータリーボーリン グ
マ シ ンに 取 り付 け, 小 さ なトン ネ ル 内 ( 径 2 m 以 上 )か ら も 調 査 が可 能 な「 全
方 向 連 続 N値 ボ ー リン グ シス テ ム」 の 開 発 を 試 みた 。
2 .2 シス テ ムの 構 成
本 シ ス テ ム は 主 に各 種 セ ン サ ー を 取 り 付 け た ボ ー リ ン グ マ シン , 計 測 記 録
機 器 , 掘 削 用 車 両 か らなる ( 図 1) 。 それ ぞ れの 詳 細 を 以 下 に 示 す 。
写真1
計測機ディスプレイ
( 1) セン サ ー取 り付 け ボ ー リン グ マシ ン
使 用 ボ ー リン グ マ シン は 油 圧 ス ピ ンドル 式 ロ ータ リ ー ボ ー リン グ マシ ン( 掘 削 能 力 5 0m ) ,取 り 付 け た セン サ ー は
深 度 セン サ ー, フ ィー ド油 圧 セン サ ー, 回 転 数 セン サ ーの3 種 で あ る。 ボ ー リン グ掘 削 口 径 は 調 査 速 度 を 優 先 と
し て ,通 常 ロ ッ ドク ラ ウン を 用 いた φ 4 2 m m で 掘 削 する が, φ 66m m でオ ールコ ア サン プリ ン グ を し なが ら , セン サー
D e v e lo p m en t o f t h e n e w d r ill in g s y st em m ea su r in g c on t inuo us N va lu e in a ll d ir e c t io ns
To u s e ts u C iv i l E n gin e e r in g C on su lt a nt I nc . G eo lo gy In f o rm a t ion D ivis io n , M as a r u Ya m au ch i, J yun ic h i
S o u zu k a , N o b u y u k i A ik a w a
の デ ータ か らN 値 を 求 め る こと も可 能 で ある 。
( 2)計 測 記 録 装 置
シ ス テ ム の コン トロ ー ル お よ び各 セ ン サ ー のデ ー タ を収 録 する 装
置 で , 収 録 状 況 を グ ラ フ で 示 す デ ィス プ レ イ を 有 す る ( 写 真 1) デ ー
タ は 1 c m 掘 進 毎 に掘 進 に 要 し た時 間 , 掘 進 時 推 力 , 掘 進 時 回 転
数 を収 録 する。 な おボーリン グロ ッドの継 ぎ足 し時 等 にス ピン ドル を
後 進 させ た場 合 の記 録 は取 らな いよ う に 設 定 され てい る。
( 3)掘 削 用 専 用 車 両
移 動 時 間 短 縮 のため,クローラト ラ ックを用 いる。掘 削 時 はアウ ト
リ ガ ー に より トン ネル 敷 か ら 推 力 の反 力 を 得 る 。
2 .3 各 種 計 測 デ ー タの N値 へ の変 換 方 法
図2
実験によるN値変換式(φ42mm)
各 種 計 測 デ ー タ の N値 へ の 変 換 は 地 表 か ら 近 接 位 置 で 鉛 直 下
向 き に 計 測 ボ ー リ ン グと 標 準 貫 入 試 験 を 近 接 し て実 施 し , 掘 削 エ ネルギ ー BE と N 値 の 関 係 式 を 求 め, こ の式
を 用 い て行 う 。
掘 削 エ ネルギ ー BE は 次 式 か ら求 める 。
BE = L × Tb
L : ロ ッ ド 推 力 , Tb : 1 cm 掘 削 に要 す る時 間 (s )
BE と N 値 に は 高 い 相 関 性 が認 め られ る( R 2 = 0. 7819: 図 2)
3 .開 発 シス テム によ る調 査 成 果
開 発 し た 「 全 方 向 連 続 N 値 計 測 新 ボ ー リ ン グ シ ス テ ム」 を 用
い , 水 路 トン ネル 内 か ら トン ネル 上 部 地 盤 の 調 査 を 実 施 した 結
果 を ト ン ネル 上 部 の 詳 細 N値 縦 断 モ デル 図 と して 図 3 に 示 す。
調 査 孔 の 間 隔 は 1 0 m , 掘 削 口 径 は 4 2 m m であ る。 地 質 は 砂
図3
トンネル上部の詳細N値縦断モデル
礫 また は 玉 石 混 じ り 砂 礫 で あ る。
図 3 中 の 各 孔 の地 質 柱 状 図 の 右 側 に 1 cm 毎 のN 値 を ,最 大 N 値 300 の グラ フ に して 付 し た。 この 詳 細 N値 に
よ り トン ネル 上 部 に は厚 さ 1 0 cm ~ 2 5 cm の小 さな 空 洞 がト ン ネル上 部 1m ~ 2 . 5m 付 近 に 小 範 囲 に分 布 して い る
こ と, トン ネル 直 上 部 に は 一 部 崩 積 土 が分 布 して い るこ と,ト ン ネル上 部 4m 範 囲 内 に は 緩 み域 と考 え ら れる 軟
質 な砂 礫 が 層 状 に 分 布 し てい る ことが 分 か っ た。
な お 本 シ ス テム の 調 査 速 度 は , コ ア採 取 無 しの 小 口 径 ( 4 2m m ) ボ ー リン グ のた め速 く, 4m × 4 本 /日 程 度 で
あ っ た 。ま た地 質 の 判 定 は N 値 グ ラ フ の波 形 , およ び 掘 削 完 了 後 に 行 う C CD カメ ラ によ る 孔 壁 観 察 によ り行 う 。
4 .開 発 シス テム によ る効 果
開 発 した 新 ボ ー リン グ シス テ ムに よ り, これ まで 不 可 能 で あ っ た 小 口 径 トン ネル 内 から 上 方 に向 か っ て, 詳 細 な
N 値 を 連 続 的 に短 時 間 で得 る ことが 可 能 にな っ た。 これ によ り 小 空 洞 の 分 布 状 態 ,地 盤 の緩 み域 の 分 布 状 況
が 詳 細 に 分 か り ,効 率 的 に グ ラ ウ チン グ 等 対 策 工 が 実 施 で き, 水 路 ト ン ネル 等 の 上 部 地 盤 の 陥 没 を 未 然 に防
ぐ こ とが 可 能 にな っ た。
また 新 ボー リ ン グシス テ ム はオ ール コ ア ボー リ ン グ を しな が ら, 詳 細 な N 値 を 得 るこ とが 可 能 なた め, これ までオ
ー ル コ ア ボ ー リン グで は 分 か ら なか っ た小 さな 空 洞 の 存 在 や 力 学 特 性 を 同 時 に 得 ること がで き るよ う にな っ た。 ま
た これ まで ほとん ど 分 か らな か った 地 すべ り の滑 り 面 , 断 層 等 の 薄 層 の力 学 特 性 を 知 る こ とが 容 易 にな っ た。
本 シ ス テ ムで は試 験 の度 にボ ーリングロ ッド昇 降 の必 要 がな いため,支 持 層 確 認 のための一 般 的 ボー リング
調 査 がこ れま での 半 分 以 下 の コス トで可 能 で あ る。 なお 砂 質 土 と粘 性 土 の 判 定 は ,送 水 圧 の セ ンサ ー を 取 り付
け て 送 水 圧 の 変 化 に よ り判 定 す る。 さ ら にス ピ ンド ル 式 ロ ータ リ ー ボ ー リ ン グ マ シン は地 質 調 査 用 マシ ンと し て 普
及 し て いる ため , セン サー お よび 計 測 器 を 付 加 す るこ とに より 簡 易 にシ ステム を 作 ること がで きる 。
5 .まと め
トン ネル 内 か ら 上 方 地 盤 の N 値 を 測 定 す る こと を 目 的 と して, 「 全 方 向 連 続 N 値 計 測 新 ボ ー リ ング システ ム」
を開 発 した 。 このシ ス テ ム によ りトン ネル 内 部 か らトン ネル 上 部 地 盤 中 の小 空 洞 や緩 み域 の分 布 状 況 を, 短 時
間 で 把 握 す るこ と が可 能 に な った 。ま た これ まで 不 可 能 で あ っ たオ ール コ ア サン プ リング し な が ら N 値 を得 る こと ,
滑 り 面 や 断 層 周 辺 の 力 学 特 性 を 知 るこ と が 可 能 と な っ た。 また 液 状 化 判 定 , 杭 長 判 定 等 の 一 般 的 土 質 調 査
の 低 コ ス ト 化 が 可 能 で あ る 。 さ ら に こ の シス テ ム は す で に 普 及 し て い る 地 質 調 査 マ シン に , セ ン サ ー 等 を 付 加 す
る こ とによ り 簡 易 に作 る こと ができ る。