2次3次の行列式

1
2次の行列式
逆行列があるかないかは、基本変形により調べることができるが、た
とえば行列の成分に文字がある場合は、基本変形は容易でない。この章
で定義する行列式が逆行列があるための判定条件をあたえる。
はじめに逆行列はいつもあるわけではない.逆行列の存在条件は既に
定理 1 により,与えてある.この節ではその内の条件 (iii) が役立つ.
n 次ベクトル x に関する方程式
Ax = b
において,b = 0 の場合を同次方程式 といい,b 6= 0 の場合を非同次方程
式という.x = 0 は同次方程式
Ax = 0
の解である.これを同次方程式の自明な解という. 同次方程式が x 6= 0 で
ある解をもつとき,その解を非自明な解という.
定理 1 n 次ベクトル x に関する同次方程式 Ax = 0 の解が自明な解 x = 0
のみであることは,A が逆行列をもつ必要十分条件である.
証明 既に証明はすんでいるが,必要性は簡単に証明できる.A−1 が
存在するとする.x が Ax = 0 を満たすとすると,A−1 を両辺にかけて
A−1 (Ax) = A−1 0.
A−1 (Ax) = (A−1 A)x = Ex = x, A−1 0 = 0
であるから,x = 0 を得る. 十分性の証明が長くなるのである(第3章
を復習). 終.
系 1 Ax = 0 をみたす x 6= 0 があれば,A−1 は存在しない.
"
#
2 −1
例 1 A=
の場合,方程式 Ax = 0 は
−6 3
(
2x1 −x2 = 0
−6x1 +3x2 = 0
x1 = 1, x2 = 2 は確かに解である.ゆえに Ax = 0 が零でない解 (x1 , x2 ) =
(1, 2) をもつから,A−1 は存在しない.
1
数 a が逆数をもつ必要十分条件は a 6= 0 である。それでは2次正方行
列の場合、これに対応する条件はなんであろうか。逆行列を求めるため
には行列方程式 AX = E をといてみればよいのであるから、そのために
"
#
a b
A :=
c d
を係数行列とする一般的な方程式
(
ax + by = p
cx + dy = q
(1)
をまず解いてみよう。y を消去するために (1) × d − (2) × b を計算する。
また x を消去するために (1) × c − (2) × a を計算する。その結果
(
(da − bc)x
= dp − bq
(cb − ad)y = cp − aq.
(2) × −1 と掛け算の交換法則により
(
(ad − bc)x
= pd − bq
(ad − bc)y = aq − pc.
と書き換えると、左辺の係数は同じになる。
定義 1 上の2次正方行列 A に対して det(A) := ad − bc と定義し、A の
行列式という。det(A) の代わりに |A| とも書く。また次のような書き方
もする:
¯
¯
¯ a b ¯
¯
¯
¯
¯ = ad − bc
¯ c d ¯
このように定義すると、上のように計算してできた方程式の左辺の係数
ばかりでなく、右辺の係数も行列式であらわされる:
¯
¯
¯
 ¯
¯ a b ¯
¯ p b ¯

¯
¯
¯
¯


= ¯
¯
¯x
¯


¯ q d ¯

 ¯ c d ¯







¯
¯ a b
¯
¯
¯ c d
2
¯
¯
¯
¯ a p
¯
¯
¯y = ¯
¯
¯ c q
¯
¯
¯
¯
¯
定理 2 A を上のような2次正方行列とする。
(i) det(A) 6= 0 ならば、A は可逆行列で
#
"
1
d −b
A−1 =
det(A) −c
a
であり、連立方程式
の解は次の唯一組である。
¯
¯
¯
¯
¯
x = ¯¯
¯
¯
¯
(
ax + by = p
cx + dy = q
¯
¯
¯
¯
¯
y = ¯¯
¯
¯
¯
¯
p b ¯¯
¯
q d ¯
¯
a b ¯¯
¯
c d ¯
¯
a p ¯¯
¯
c q ¯
¯
a b ¯¯
¯
c d ¯
(2)
(ii) det(A) = 0 ならば、
(
ax + by = 0
cx + dy = 0
(3)
は非自明解をもち,A は可逆ではない。
定理 2 で与えられた解の公式は(2次の)クラーメル(またはクラメー
ル)1 の公式という。この公式は一般の次数の場合に後で拡張する。
定理13の証明まず A の可逆性を調べてみよう。det(A) 6= 0 とする.
このとき x, y が方程式
(
ax + by = 0
(4)
cx + dy = 0
の解であるとすると,|A|x = 0, |A|y = 0 を満たすから,x = y = 0 であ
る.従って定理 1 により,A は正則である.同じ定理により,方程式 (1)
は唯一組の解をもつ.解の候補は (2) だけであり,これが解になる.
次に A−1 を計算する.そのために
"
#
x1 x2
X :=
y1 y2
1
Cramer
3
とおき、行列方程式 AX = E を解いてみる。 両辺の第1列、第2列をそ
れぞれとりだすと
(
(
ax1 + by1 = 1
ax2 + by2 = 0
cx1 + dy1 = 0
cx2 + dy2 = 1
この二つの方程式は前のように次の方程式に変形される
¯
¯
¯
¯
 ¯
 ¯
¯ a b ¯
¯ 1 b ¯
¯ a b ¯


¯
¯
¯
¯
¯
¯




¯
¯ x1 = ¯
¯
¯
¯ x2 =




¯
¯
¯
¯
¯
¯
c
d
0
d
c
d











¯
¯ a b
¯
¯
¯ c d
¯
¯
¯
¯ a 1
¯
¯
¯ y1 = ¯
¯
¯ c 0
¯
¯
¯
¯
¯







¯
¯ a b
¯
¯
¯ c d
¯
¯ 0 b
¯
¯
¯ 1 d
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯ a 0
¯
¯
¯ y2 = ¯
¯
¯ c 1
¯
¯
¯
¯
¯
右辺の行列式を計算してつぎの等式を得る。
|A|x1 = d |A|x2 = −b
|A|y1 = −c |A|y2 = a
したがって det(A) 6= 0 ならば、解 x1 , x2 , y1 , y2 が一意的にきまり、定理
のように A−1 = X が決まる。
det(A) = ad − bc = 0 とする.このとき (3) は次のような非自明解をも
つ.a = c = 0 ならば,x = 1, y = 0 は非自明解である.a 6= 0 とする.こ
のとき x = −b, y = a は非自明解である.c 6= 0 の場合は,x = d, y = −c
は非自明解である.従って定理 1 により,det(A) = 0 ならば,A は正則
ではない.
"
#
3 4
例2 A=
とする.det(A) = 3 × 6 − 4 × 5 = −2 6= 0 であるか
5 6
ら,A−1 が存在し,
"
# "
#
1
6
−4
−3
2
=
A−1 =
−2 −5 3
5/2 3/2
行列式は次の性質をもつ。
定理 3 (i) 列が同じならば,行列式は零である.
¯
¯
¯ a a ¯
¯
¯
¯
¯=0
¯ c c ¯
4
列を入れ替えると行列式の符号がかわる:
¯
¯
¯
¯ b a ¯
¯ a b
¯
¯
¯
=
−
¯
¯
¯
¯ d c ¯
¯ c d
¯
¯
¯
¯
¯
(ii) ある列を定数倍(k 倍)すると、行列式も定数倍(k 倍)される:
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯ ka b ¯
¯ a b ¯
¯ a kb ¯
¯ a b ¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯ = k¯
¯, ¯
¯ = k¯
¯
¯ kc d ¯
¯ c d ¯
¯ c kd ¯
¯ c d ¯
(iii) ある列が和に分解すると、行列式も和に分解する(列に関する分配
法則)
:
¯
¯ ¯
¯ ¯
¯
¯ a + a0 b ¯ ¯ a b ¯ ¯ a0 b ¯
¯
¯ ¯
¯ ¯
¯
¯
¯=¯
¯+¯
¯
¯ c + c0 d ¯ ¯ c d ¯ ¯ c0 d ¯
¯
¯ ¯
¯ ¯
¯
¯ a b + b0 ¯ ¯ a b ¯ ¯ a b 0 ¯
¯
¯ ¯
¯ ¯
¯
¯
¯=¯
¯+¯
¯
0
0
¯ c d+d ¯ ¯ c d ¯ ¯ c d ¯
(iv) 行についても同じ性質が成り立つ。
問 1 上の定理を証明せよ。
2
3次の行列式
3次の正方行列

a1 a2 a3


A :=  b1 b2 b3 
c1 c2 c3

を係数行列とする連立方程式


 a1 x + a2 y + a3 z = p
b1 x + b2 y + b3 z = q

 c x+c y+c z = r
1
2
3
(5)
を解いてみる。y, z を消去して x だけの方程式を導こう。(2),(3) 式を y, z
について解くと考える。
(
b2 y + b3 z = q − b1 x
(6)
c2 y + c3 z = r − c1 x
5
と変形して,前節と同様に計算すると
¯
 ¯
¯ b b ¯

¯ 2 3 ¯


¯
¯y



 ¯ c2 c3 ¯







¯
¯
¯ q−b x b ¯
¯
1
3 ¯
= ¯
¯
¯ r − c1 x c 3 ¯
¯
¯
¯
¯ b b ¯
¯ b q−b x
¯ 2 3 ¯
¯ 2
1
¯
¯z = ¯
¯ c2 c3 ¯
¯ c2 r − c3 x
¯
¯
¯
¯
¯
(7)
(7) の第1式右辺の行列式は次のように変形できる.
¯
¯
¯
¯ ¯
¯
¯ q−b x b ¯
¯ q b ¯ ¯ −b x b ¯
¯
¯
¯
¯
¯
1
3
3
1
3 ¯
¯
¯ = ¯
¯+¯
¯
¯ r − c1 x c 3 ¯
¯ r c3 ¯ ¯ −c1 x c3 ¯
¯
¯
¯
¯
¯ q b ¯
¯ b b ¯
¯
¯ 1 3 ¯
3 ¯
= ¯
¯ − x¯
¯
¯ r c3 ¯
¯ a3 c 3 ¯
したがって
¯
¯
¯
¯ q b
¯ b b ¯
¯
¯ 2 3 ¯
3
¯y = ¯
¯
¯ r c3
¯ c2 c3 ¯
¯
¯
¯
¯ b b ¯
¯
¯ 1 3 ¯
¯
¯
¯ − x¯
¯ c1 c3 ¯
¯
を得るから,移項して
¯
¯
¯ ¯
¯
¯ q b
¯ b b ¯ ¯ b b ¯
¯
¯ 1 3 ¯ ¯ 2 3 ¯
3
x¯
¯y = ¯
¯+¯
¯ r c3
¯ c1 c3 ¯ ¯ c2 c3 ¯
¯
¯
¯
¯
¯
同様に (7) の第2式を変形して
¯
¯
¯
¯
¯
¯ b b ¯
¯ b b ¯
¯ q b
¯ 1 2 ¯
¯ 2 3 ¯
¯
2
−¯
¯x + ¯
¯z = −¯
¯ c1 c2 ¯
¯ c2 c3 ¯
¯ r c2
¯
¯
¯
¯
¯
以上により,(5) の第1式とあわせて,x, y, z が (5) を満たすとき,次の
連立の式が成り立つ.


a1 x
+a2 y
+a3 z =
p






¯
¯
¯
¯
¯
¯


¯ b b ¯
¯ b b ¯
¯ q b ¯


¯
3 ¯
 ¯¯ 1 3 ¯¯ x + ¯¯ 2 3 ¯¯ y
= ¯
¯
¯ c1 c3 ¯
¯ c2 c3 ¯
¯ r c3 ¯




¯
¯
¯
¯
¯
¯


¯ b b ¯
¯ b b ¯
¯ q b ¯


¯ 1 2 ¯
¯ 2 3 ¯
¯
2 ¯


+¯
¯z = −¯
¯

 − ¯¯ c1 c2 ¯¯ x
¯ c2 c3 ¯
¯ r c2 ¯
6
第2、第3式の y, z の係数が同じであることに着目すると、次のように
して y, z を消去できる。すなわち
¯
¯
¯ b b ¯
¯ 2 3 ¯
(1) × ¯
¯ − (2) × a2 − (3) × a3
¯ c2 c3 ¯
により
¯
¯ b
¯ 2
a1 ¯
¯ c2
¯
¯
¯
= p¯
¯
(
b3
c3
b2
c2
¯
¯
¯
¯ b
¯
¯ 1
¯ − a2 ¯
¯
¯ c1
¯
¯
¯
b3 ¯¯
¯
¯ − a2 ¯
¯
c3 ¯
¯
¯
¯
¯ b
¯
¯ 1
¯ + a3 ¯
¯
¯ c1
¯
¯
¯ q
q b3 ¯¯
¯
¯ + a3 ¯
¯ r
r c3 ¯
b3
c3
¯)
¯
¯
¯ x
¯
¯
b2 ¯¯
¯
c2 ¯
b2
c2
定義 2 3次の正方行列 A の行列式 det(A) を上の式の x の係数により定
義する。すなわち
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯ a a a ¯
¯ b b ¯
¯ b b ¯
¯ b b ¯
¯ 1 2 3 ¯
¯
¯ 2 3 ¯
¯ 1 3 ¯
¯ 1 2 ¯
¯
det(A) = ¯ b1 b2 b3 ¯ := a1 ¯
¯
¯ − a2 ¯
¯ + a3 ¯
¯
¯
¯ c2 c3 ¯
¯ c1 c3 ¯
¯ c1 c2 ¯
¯ c1 c2 c3 ¯
行列 A の i 行と j 列を除いてできる 2 次正方行列を Aij とおくと,
det(A) = a1 |A11 | − a2 |A12 | + a3 |A13 |
である.
このように行列式を定義すると、x の方程式の右辺は A の第1列の
成分 a1 , b1 , c1 をそれぞれ p, q, r でおきかえた行列の行列式である。した
がって
¯
¯
¯
¯
¯ a a a ¯
¯ p a a ¯
2
3 ¯
¯ 1 2 3 ¯
¯
¯
¯
¯
¯
x
=
(8)
¯ b1 b2 b3 ¯
¯ q b 2 b3 ¯
¯
¯
¯
¯
¯ c1 c2 c3 ¯
¯ r c 2 c3 ¯
3次の行列式についても,定理 3 の性質が成り立つ. まず列に関して次
の計算法則が成り立つ.
定理 4 (i) 行列の一つの列を k 倍すると,行列式も k 倍になる.
(ii) 行列式は列に関して分配法則がなりたつ.
(iii) 二つの列が同じならば,行列式は零である.二つの列を入れ替え
ると,行列式は −1 倍される(行列式の符号が変わる).
7
証明 (i),(ii) は2次行列式の対応する性質をもちいて,3次行列式の定
義式から直接導き出すことができる.
(iii) 方程式 (5) の右辺において,p = q = r = 0 の場合,すなわち,同
次方程式


 a1 x + a2 y + a3 z = 0
(9)
b1 x + b2 y + b3 z = 0

 c x+c y+c z = 0
1
2
3
の場合,A の第1列と第2列が同じならば,


 a1 x + a1 y + a3 z = 0
b1 x + b1 y + b3 z = 0

 c x+c z+c z = 0
1
1
3
(10)
となる.この場合 x = 1, y = −1, z = 0 は明らかに解である.したがって
式 (8) が x = 1 に対してなりたつ.また p = q = r = 0 であるから,(8)
の右辺は零である.ゆえに det(A) = 0 を得る. A の第1列と第3列が同
じ場合も同様である.
A の第 j 列(j = 1, 2, 3)を仮に αj とおき,det(A) = |α1 , α2 , α3 | と表
す. このとき |α1 + α2 , α1 + α2 , α3 | は第1列と第2列が同じであるから,
零である.一方 (ii) の分配法則
|α1 + α2 , α1 + α2 , α3 | = |α1 , α1 + α2 , α3 | + |α2 , α1 + α2 , α3 |
= |α1 , α1 , α3 | + |α1 , α2 , α3 | + |α2 , α1 , α3 | + |α2 , α2 , α3 |
= |α1 , α2 , α3 | + |α2 , α1 , α3 |
ゆえに |α1 , α2 , α3 |+|α2 , α1 , α3 | = 0 であるから,|α2 , α1 , α3 | = −|α1 , α2 , α3 |.
同様に第1列と第3列が同じであるとき,行列式が零であるから,第1
列と第3列を入れ替えたとき,行列式は符号が変わる. この列の入れ替
えを繰り返して
|α1 , α2 , α3 | = −|α2 , α1 , α3 | = (−1)(−1)|α3 , α1 , α2 |
= (−1)(−1)(−1)|α1 , α3 , α2 | = −|α1 , α3 , α2 |
を得る. したがって第2列と第3列が同じならば,この式で α3 を α2 に
置き換えて
|α1 , α2 , α2 | = −|α1 , α2 , α2 |
となるから,|α1 , α2 , α2 | = 0 を得る.
8
補題 1 x, y, z が方程式 (5) の解ならば,(8) 式と,次の式が成り立つ.
¯
¯
¯
¯
¯ a a a ¯
¯ a p a ¯
3 ¯
¯ 1 2 3 ¯
¯ 1
¯
¯
¯
¯
(11)
¯ b1 b2 b3 ¯ y = ¯ b1 q b 3 ¯ ,
¯
¯
¯
¯
¯ c1 c2 c3 ¯
¯ c1 r c 3 ¯
¯
¯
¯
¯
¯ a a a ¯
¯ a a p ¯
¯ 1 2 3 ¯
¯ 1 2
¯
¯
¯
¯
¯
¯ b 1 b 2 b 3 ¯ z = ¯ a2 b 2 q ¯
¯
¯
¯
¯
¯ c1 c2 c3 ¯
¯ a3 c 2 r ¯
(12)
証明 (11) 式を示す. 方程式 (5) は次のように書き換えても同じである.


 a2 y + a1 x + a3 z = p
b2 y + b1 x + b3 z = q

 c y+c x+c z =r
2
1
3
(8) 式を導き出した方法により,
¯
¯ a a a
¯ 2 1 3
¯
¯ b2 b1 b3
¯
¯ c2 c1 c3
¯
¯
¯
¯
¯ p a a ¯
1
3
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯ y = ¯ q b 1 b3 ¯
¯
¯
¯
¯
¯ r c 1 c3 ¯
が成り立つ. 左辺の行列式において第1列と第2列を入れ替え,右辺の行
列式において第1列と第2列を入れ替えると,
¯
¯
¯
¯
¯ a p a ¯
¯ a a a ¯
3 ¯
¯ 1
¯ 1 2 3 ¯
¯
¯
¯
¯
− ¯ b1 b2 b3 ¯ y = − ¯ b1 q b 3 ¯
¯
¯
¯
¯
¯ c1 r c 3 ¯
¯ c1 c2 c3 ¯
であるから,(11) が成り立つ. 同様に (12) も成り立つ.
特に方程式 (5) の右辺において,p = q = r = 0 の場合,すなわち x, y, z
が同次方程式 (9) の解ならば,
|A|x = 0, |A|y = 0, |A|z = 0
が成り立つ.
9
(13)
定理 5 det(A) 6= 0 ならば,方程式 (9) の解は x = y = z = 0 のみであ
る.したがって係数行列 A は正則行列である.方程式 (5) の解は次のよ
うに書ける(クラーメルの公式).
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯ p a a ¯
¯ a p a ¯
¯ a a p ¯
2
3 ¯
3 ¯
¯
¯ 1
¯ 1 2
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯ q b 2 b3 ¯
¯ b1 q b 3 ¯
¯ b1 b2 q ¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯ r c 2 c3 ¯
¯ c1 r c 3 ¯
¯ c1 c2 r ¯
¯
¯ y=¯
¯
¯
x = ¯¯
¯ a a a ¯ z=¯ a a a ¯
¯
a
a
a
1
2
3
1
2
3
1
2
3
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯ b1 b2 b3 ¯
¯ b1 b2 b3 ¯
¯ b1 b2 b3 ¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯ c1 c2 c3 ¯
¯ c1 c2 c3 ¯
¯ c1 c2 c3 ¯
証明方程式 (9) の解は,(13) を満たす. det(A) 6= 0 ならば,この解は
x = y = z = 0 のみであるから,定理 1 により,A は正則である.逆行列
A−1 が存在するから,任意の p, q, r に対して方程式 (5) の解 x, y, z が存
在する.方程式 (5) の解は,(8), (11),(12) を満たすから, 定理の解の公式
を得る.
例3
¯
¯
¯
¯
¯
¯
¯
次の行列式を計算する:
¯
¯
¯
¯
2
3 0 ¯¯
¯ −2 4 ¯
¯ 1 4
¯
¯
¯
¯
1 −2 4 ¯ = 2 × ¯
¯−3ׯ
¯
¯ −3 0 ¯
¯ 5 0
5 −3 0 ¯
¯
¯
¯
¯ 1 −2
¯
¯
¯+0ׯ
¯
¯ 5 −3
¯
¯
¯
¯
¯
= 2 × (0 − (−12)) − 3 × (0 − 20) = 24 + 60 = 84
2.1
3次の行列式の諸性質と正則性条件
前節では 3 次の正方行列に対して,行列式が零でなければ行列は正則
であることを示した. この節ではその逆も成り立つことを示す.その前に
行列式の行に関しても列の場合と同じ性質が成り立つ.
まず定理 5 により det(A) 6= 0 ならば,方程式 (13) の解は自明解のみで
あるから,その対偶命題として次の系が成り立つ.
系 2 方程式 (13) が非自明な解をもてば,det(A) = 0.
3次行列式の列に関する性質(定理 6)は行に関しても成り立つ.
定理 6 (i) 行列の一つの行を k 倍すると,行列式も k 倍になる.
10
(ii) 行列式は行に関して分配法則がなりたつ.
(iii) 二つの行が同じならば,行列式は零である.二つの行を入れ替え
ると,行列式は −1 倍される(行列式の符号が変わる).
証明 (i),(ii) は列の場合と同様,2次行列式の対応する性質をもちいて,
3次行列式の定義式から直接導き出すことができる.
(iii) 例えば A の1行と2行が同じならば,方程式 (13) は実は
(
a1 x + a2 y + a3 z = 0
c1 x + c2 y + c3 z = 0
であるから,非自明な解 x0 , y0 , z0 があり,|A|x0 = 0, |A|y0 = 0, |A|z0 = 0
が成り立つ. ゆえに系 2 により,det(A) = 0 を得る. A の他の行が同じ
であるときも,同様に det(A) = 0 を得る. このことと,(ii) を用いて,A
の二つの行を入れ替えると符号が変わる事を証明できる.
定理 7 行列式はある列の定数倍を他の列に加えても,値が変わらない.
行についても同じである.
証明 A の第 j 列を αj とおく.たとえば,行列式 |α1 , α2 , α3 | において
第2列に第1列の k 倍を加えると,
|α1 , α2 + kα1 , α3 | = |α1 , α2 , α3 | + |α1 , kα1 , α3 |
= |α1 , α2 , α3 | + k|α1 , α1 , α3 |
= |α1 , α2 , α3 | + k0 = |α1 , α2 , α3 |
定理 7 を用いて,系 2 の逆が成り立つこと示す.
定理 8 det(A) = 0 ならば,方程式 (9) は非自明な解をもつ.
証明 A の第1列の成分がすべて零であるならば,x = 1, y = z = 0 は
方程式 (9) の非自明な解である.
A の第1列に零でない成分があるとする.このとき a1 6= 0 としてよい.
そうでなく a1 = 0 で,たとえば b1 6= 0 の場合は方程式を書く順序をか
えて第1式と第2式を入れ替える. このようにしても方程式の解は変わ
11
らないし,係数行列は行が入れ替わるから,det(A) = 0 ならば,新しい
方程式の係数行列の行列式も零である.
改めて a1 6= 0 とする.方程式 (9) を掃きだし法で解くことを考える.
そのために係数行列を基本変形する.A の第2行に第1行の −(b1 /a1 ) を
加えた行列を B とする.その結果 B の (2, 1) 成分は零である.さらに B
の第3行に第1行の −(c1 /a1 ) を加えた行列を C とする.その結果 C の
(3, 1) 成分は零である. C は次のような形の行列になる.


a1 a2 a3


C =  0 b02 b03 
0 c02 c03
C を係数行列とする方程式は


 a1 x +a2 y +a3 z = 0
b02 y +b02 z = 0


c02 y +c03 z = 0
(14)
であり,方程式 (9) と同じ解をもつ. 定理 7 により,|C| = |B| = |A| であ
る.仮定 |A| = 0 により,|C| = 0 を得る. 行列式の定義より
|C| = a1 |C11 | − a2 |C12 | + a3 |C13 |.
C12 , C13 は共に第1列が零であるから,|C12 | = |C13 | = 0. したがって
¯
¯
¯ b0 b0 ¯
¯
¯
a1 ¯ 20 30 ¯ = a1 |C11 | = |C| = 0
¯ c2 c3 ¯
を得る.a1 6= 0 であるから,|C11 | = 0 である.ゆえに定理 2 により,
(
b02 y +b02 z = 0
c02 y +c03 z = 0
は非自明な解をもつ.その解を y = y0 , z = z0 とし,
x0 = −(a2 y0 + a3 z0 )/a1
とおくと,a1 x0 + a2 y0 + a3 z0 = 0 である.ゆえに x = x0 , y = y0 , z = z0 は
(14) の非自明な解である.したがって方程式 (9) は非自明解 x = x0 , y =
y0 , z = z0 をもつ.
定理 5 より,det(A) 6= 0 ならば,A は正則であり,上の定理より,
det(A) = 0 ならば,A は正則ではない.したがって次の定理が成り立つ.
12
定理 9 (i) det(A) 6= 0 は A が正則であるための必要十分条件である.
(ii) det(A) = 0 は同次方程式 (9) が非自明な解をもつための必要十分
条件である.
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