危険物事故関連情報 海外での石油タンク事故 横浜国立大学 安心・安全の科学研究教育センター 吉田 聖一 因で引火して、爆発が起きたものである。 はじめに 筆者は(一社)日本高圧力技術協会(HPI)の エネルギ−貯槽等安全性研究 EST- 委員会 CAPECO 社では、タンクの液面管理をコン ピュータ化し、コントロール室で以前は行って で、国内外の石油や天然ガス設備に関する事故 いたが、事故当時は故障していた。そのため、 を報告してきた。製油所、タンクターミナル、 タンク外面に取り付けた液面計を作業員が計測 化学プラント、パイプライン等に発生したもの していた。また、爆発直前には蒸気雲が、直径 で、2012年は190件、2013年には304件報告した。 約 200m に な っ た。こ の 事 故 原 因 は、米 国 連 それらの情報は、事故発生時にインターネット 邦 政 府 機 関 Chemical Safety and Hazard から収集したものである。また、小規模なもの Investigation Board(CSB)が調査中であり、そ を除いた事故の概要を、HPI 誌「圧力技術」に の報告書は未だ公表されていない。そのため、 報告した (1)∼(4) ガ ソ リ ン 漏 洩 の 経 緯 は 不 明 で あ る。図 。 本稿では、EST- は 委員会で報告した事故の 中で、2009年10月以降に海外で発生した、石油 タンクの比較的大規模な事故を17件紹介する。 なお、文中の時刻は全て現地時間である。 プエルトリコでの大規模火災 2009年10月23日(金) 時23分頃、米国自治 領プエルトリコの首都 San Juan 近郊の Bayamon に あ る、Caribbean Petroleum Corporation (CAPECO 社)のタンクターミナルで、蒸気雲 図 CAPECO 社ターミナルの大規模火災(5) 爆発による大規模火災が発生し、石油タンク約 40基中32基が炎上して被害を受けた。鎮火は 日後の25日(日)夜で、この事故により 名が 負傷した。 同ターミナルの 基の石油タンクが、San Juan 港からガソリンをパイプラインで受け入 れ中に、満液状態を超えても充填し続けたため、 オーバーフローした。しかし、タンク上部から の漏洩に気づかすに受け入れを続けたため、漏 れたガソリンから発生した蒸気雲に何らかの原 Safety & Tomorrow No.156 (2014.7) 24 図 事故直後の CAPECO 社ターミナル(6) CSB が公表した火災写真(5)、図 になり倒れた。 は米国商務 省 National Oceanic and Atmospheric 19時25分頃に、濃い蒸気雲がターミナル全体 Administration が公表した鎮火後のタンク群 に広がり、大爆発が起きた。着火源は不明であ (6) の写真 る。これにより、IOCL 社関係者 である。 同ターミナルは製油所として建設されたが、 名、外部 名の計11名が死亡し、45名が負傷した。ガソリ 2000年に精製機能を停止し、その後は石油類貯 ンタンク近くで倒れた 蔵のタンクターミナルとして使われてきた。ガ た。 名の作業員も死亡し この爆発と同時に、タンクヤード内の ソリン、ディーゼル、航空機燃料を San Juan 港 基の 本のパイプラインで、約40基の 石油タンクも爆発し、火災は石油が燃え尽きる タンクに受け入れてきた。同ターミナルの貯蔵 まで11日間続いた。この場所からやや離れたと のドックから 3 ころにある 能力は22.7万 m である。 基のガソリン貯蔵浮屋根式タンク にも、数時間後に延焼した。この この事故で、20基のタンクが全損、12基が焼 基は当初リ 損した。また、CAPECO 社はプエルトリコで ング火災であったが、浮屋根が沈み全面火災に 消費する自動車燃料の大半を供給し、島内に なった。図 (7) は同ターミナルの火災状況であ 184箇所のガソリンスタンドを有していたが、 る 2010年 Earth 写真であり、11基の燃えた後のタンクが 月12日にこの事故が原因で破産した。 。また図 は、事故後に撮られた Google 写っている。 インド Jaipur での大規模火災 インド石油天然ガス相は、事故発生の翌日に 2009年10月29日(木)19時25分頃、インド 名の専門家から成る事故調査委員会を設置 Rajasthan 州 Jaipur に あ る 国 営 石 油 会 社 Indian Oil Corporation Limited (IOCL 社)の タンクターミナルで、蒸気雲爆発による石油タ ンク11 基の大規模火災が発生した。 同ターミナルには、Gujarat 州 Koyali にある 同社 Gujarat 製油所からパイプラインでガソリ ン、灯油、ディーゼルが移送され、地元に供給 していた。また、同ターミナルは、Gujarant 州 IOCL 社ターミナルの大規模火災(7) 図 Mundra か ら Uttar Paradesh 州 Mathura と Haryana 州 Panipat にある同社製油所へ原油 を送るパイプラインの中継基地でもある。 同ターミナルでは事故当日に、地元ユーザー からガソリンと灯油の発注を受け、パイプライ ンで移送することになった。灯油タンクから移 送を開始した後、ガソリンタンクへ作業員が移 動した。同日18時10分頃、作業員がパイプライ ンのバルブ操作を間違い、バルブからガソリン が噴出した。この作業員と救助に駆け付けたも 図 う一人の作業員は、発生した蒸気雲で呼吸困難 25 事故後の IOCL 社ターミナル (2011年11月14日撮影) Safety & Tomorrow No.156 (2014.7) し、60日以内の報告を命じた。その報告書(7)は 2010年 月29日に提出され、現在ネット上で公 開されている。筆者はその内容を別報で報告し 中国・遼寧省大連での大形原油タンク火災 2010年 月16日(金)18時 寧省大連の大連大孤山新港にある中国石油の国 (8) 家石油備蓄基地で、 IOCL 社ターミナルの全タンクの払い出しラ の火災があった。 た 。 分頃、中国・遼 基の10万 m3原油タンク インでは、自動ゲートバルブ、Hammer Blind 前日15時30分頃から、シンガポール太平洋石 Valve、手動ゲートバルブの順で、タンク側か 油公司所属のリビア国籍30万トン級タンカー ら設置されていた。自動ゲートバルブはコント Cosmic Jewel 号から、パイプラインへの原油卸 ロール室から遠隔操作で開閉を行っていたが、 作業が開始され、20時頃に脱硫剤の注入が始 タンクとコントロール室が離れていることか まった。翌16日13時頃に原油卸作業が一時停止 ら、操 作 変 更 時 に 不 便 で あ っ た。そ の た め、 されたが、脱硫剤の注入は続けられ、16日18時 2003年から自動ゲートバルブの手前に「開」 、 分頃にパイプラインが爆発した。この爆発で 「閉」、 「止」の 個のボタンの付いたパネルを置 き、ボタン操作に変更した。 Hammer Blind Valve は形状がシンプルで、 かつ操作が簡単で、 箇所で配管内の流れを完 パイプラインから原油が漏れ、 基の10万 m3 原油タンクとパイプラインに火災が発生し、原 油が海へ流出した。火災は15時間後に鎮火し、 死傷者は出ていない。 全に遮断できる等の利点がある。このバルブの 事故の原因は、原油卸作業が停止しているに 操作を行うとき、一時的にパイプライン内が大 もかかわらず、強い酸化剤を含む脱硫剤の注入 気に曝されるため、両側のゲートバルブを一端 を続けた結果、 化学反応が発生したことにある。 閉じなければならない。 脱硫剤は原油から硫黄分を取り除くために注入 バルブ操作を担当した作業員が死亡している ため、このバルブ操作ミスの真相は不明である。 されていた。 現場の国家石油備蓄基地は、広さ110万 m2の 事故調査委員会(7)では、 「作業員が下流側の手 敷地に事故当時99基の石油タンクがあり、757 動バルブを最初に開き、次に Hammer Blind 万 ton の原油を備蓄していた。さらに、火災が Valve を開こうとした。この操作中に、逆流に 発生したタンクから半径100m の範囲には、液 よる下流からの漏れが開口部にあり、自動ゲー 体化学製品の小形タンクが51基あった。タンク トバルブの「閉」ボタンを押すべきところ、慌 間距離は、国家安全基準の最低限しか取られて てたために誤って「開」ボタンを押した。 」と推 いなかったため(30∼50m)、道路の幅は消防車 定している。 が 同ターミナルでは、払い出しラインの自動 ゲートバルブを、2003年まではコントロール室 から遠隔操作ができたが、事故当時はバルブ近 台通れるほどしかなく、自由に動くことが できなかった。また、化学消火剤の備蓄が足り ず、 事故発生後に空輸しなければならなかった。 図 は事故後の2014年 月に撮影された同基 くでのボタン操作のみであった。ボタンパネル 地の Google Earth 写真である。矢印で示した が防油堤外にあれば、あるいは遠隔操作ができ 被災原油タンク跡は、更地になっている。同基 れば、漏洩を止めることができ、大規模な蒸気 地のタンク基数は事故時より増え、10万 m3級 雲発生も防げた。 タンクが、この時点で百数十基存在する。 この事故では原油が海へ流出し、大規模な環 境汚染問題になり、養殖・漁業被害も出て、現 Safety & Tomorrow No.156 (2014.7) 26 図 中国・遼寧省大連の国家石油備蓄基地 (事故後の2014年 月23日撮影) 図 BOPEC 社タンクターミナル(事故前) 場から30km 離れたリゾート地の金石灘にも汚 Curacao 島にある Isla 製油所で、119,000m3原 染 が 広 が っ た。中 国 石 油 は 原 油 流 出 量 を 油タンクが火災を起こし、同日朝に鎮火した。 1,500ton と発表している。 また、2010年 事故から 月11日(土)に、ベネズエラ本 ヵ月後の2010年10月24日(日)16 土の Paraguana 半島にある、Cardon 製油所で 時頃、同基地の被災原油タンクの解体中に、 残っ ドッグ中の船が火災を起こした。PDVSA 社 ていた可燃性ガスに、作業中に出た火花が引火 は、ほぼ同時期に して火災が発生した。延焼はまぬがれ、同日23 になる。 箇所で火災を起こしたこと 時頃に鎮火した。 インドネシア・中部ジャワでのタンク火災 オランダ領 Antilles 諸島でのナフサタン 2011年 月 日(土) 時半頃、インドネシ ク火災 ア・ジャワ島中部の Cilacap にあるインドネシ 2010年 月 日(水)、ベネズエラ本土から約 ア国営石油会社 PERTAMINA 社の製油所で、 80km 北のカリブ海の、オランダ領 Antilles 諸島 タンク番号31-T2の10,000m3 ガソリンタンク Bonaire 島で、Bonaire Petroleum Corporation が 火 災 を 起 こ し た。折 か ら の 強 風 で、隣 の 3 (BOPEC 社)タンクターミナルの31,800m ナ 31-T3、31-T7タンクにも火が移った。 日(月)に鎮火した。残り フサタンクが、落雷による火災を起こし、10日 基は 基(31-T7)は、 3 3,500gallon(13m )/分の泡放射砲を使い、 (金)に鎮火した。浮屋根式タンクの全面火災 である。 日(火)10時半頃に鎮火した。 BOPEC 社 は ベ ネ ズ エ ラ 国 営 石 油 会 社 同製油所には270基のタンクがある。1995年 Petroleos de Venezuela(PDVSA 社)が所有し に雷による火災を起こし、 ている。同ターミナルは、原油・石油製品を米 基の石油タンクが 週間燃え続けた。 国や中国に輸出するための積み出し港である。 また Bonaire 島は、スキューバダイビングとさ ん ご 礁 で 有 名 な 観 光 地 で も あ る。図 ジブラルタルでのスラッジタンク爆発 は 2011年 月31日(火)15時37分、英国領ジブ BOPEC 社 タ ン ク タ ー ミ ナ ル の、事 故 前 の ラルタルの港で Royal Caribbean International Google Earth 写真である。 社のクルーズ船「Independence of the Seas 号」 PDVSA 社では2010年 月 日(木)未明に、 が停泊中に、近くのスラッジタンクで溶接作業 Bonaire 島 隣 の オ ラ ン ダ 領 Antilles 諸 島 が原因の爆発が起き、タンクの固定屋根が吹き 27 Safety & Tomorrow No.156 (2014.7) 図 ジブラルタルの事故現場 (2012年10月 日撮影) 図 ジブラルタル港の事故タンク(9) 飛んだ。クルーズ船はタラップを引き上げ、安 Causeway の近くで、Pelican 島には Texas 全な場所に移動した。船にいた乗客12名、スペ A&M 大学の Galveston キャンパスがある。事 イン人溶接作業員 名が 故直後に Shelter-in-Place 命令が発令され、同 名は後に死亡し 日 22 時 半 に 解 除 さ れ た。ま た、同 日 深 夜 に た。同日19時40分に隣接タンクへ延焼し、翌日 Pelican Island Causeway の通行止めも解除さ 夜明け前に鎮火した。 れた。 名、救助中の警察官 負傷した。40才の溶接作業員 2011年11月17日にジブラルタル政府は、本事 故の調査報告書(9)を公表した。それによれば、 エジプト Suez でのナフサタンク爆発 2012年 タンク所有者 Nature Port Peception Facilities 月14日(土)18時頃、エジプト Suez は、タンクの適切な維持管理をせずに固定屋根 にある Nasr Petroleum 社製油所で、 部の腐食を放置し、事故後の調査で フサタンクが爆発して火災を起こし、隣接 基合計約 基のナ 基 60個の穴が見つかった。その穴から放出した のタンクへ延焼した。この事故で、 ベーパーに、溶接の火が引火し爆発したもので 12名負傷した。翌日一時鎮火したが、折からの ある。図 強風でその後も数回火災を起こした。17日 (火) は事故後の2012年10月に撮られた現 場の Google Earth 写真、図 き飛んだスラッジタンク 名死亡、 には、規模の大きい火災が生じた。 は固定屋根が吹 (9) である。 ベネズエラ Amuay での製油所火災 2012年 米国 Texas 州 Galveston 島での原油 月25日(土) 時07分頃、ベネズエ タンク火災 ラ北西部 Paraguana 半島 Amuay にあるベネ 2012 年 月 23 日(木)19 時 30 分 頃、米 国 ズ エ ラ 国 営 石 油 会 社 Petroleos de Venezuela Texas 州南部 Texas City 沖の Galveston 島に (PDVSA 社)の Paraguana Refinery Complex ある、Galveston Bay Biodiesel 社プラントで、 にある Amuay 製油所の、プロパンとブタンを 3 基の1,900m 原油タンクが火災を起こした。 隣接タンク 基に延焼し、翌24日(金) 分頃に鎮火した。同社作業員 名と消防士 時30 名 が軽傷を負った。 現 場 は Pelican 島 へ 渡 る Pelican Island Safety & Tomorrow No.156 (2014.7) 28 貯蔵する球形タンクのエリアでガスが漏れて爆 発し、隣接する 基の原油とナフサ貯蔵円筒形 タンクに延焼した。26日(日) 時の時点で 基のタンクが燃え続け、27日(月) は別のタンクに延焼し 時15分に 基が燃え続けた。鎮火 は28日(火) 時15分頃である。この事故で42 名が死亡した。その中の約20名は警備の兵士で ある。負傷者は150名以上である。 同 Complex に は Amuay 製 油 所 の 他 に PDVSA 社の Cardon 製油所があり、Complex 全体で精製能力99.5万 BPD(barrel/day)であ り、インド Gujarat 州 Jamnagar の Reliance 図 Industries 社 Jamnagar 製油所の124万 BPD に 次ぐ世界 ハリケーン通過後の Motiva Enterprises 社ターミナル(10) 番目の規模である。Amuay 製油所 の精製能力は、ベネズエラ最大の64.5万 BPD である。同製油所は鎮火 ターミナルで、ハリケーン Sandy の洪水によっ 日後の31日(金)に 基の1,270m3 ディーゼルタンクが破損し、 て 一部操業を再開した。 うち 10 部分は防油堤内に留まったが、約1,100m3 が 米国 Louisiana 州 Braithwaite での石 油タンク漏洩 2012年 基から漏洩した。漏れたディーゼルの大 Arthur Kill 水路に流出した。 月29日(水)にハリケーン ISAAC 米 国 商 務 省 National Oceanic and が米国メキシコ湾岸に上陸し、Louisiana 州 Atmospheric Administration は、Sadny 通過後 New Orleans 近 郊 の Braithwaite に あ る の航空写真を公開した(10)。図 Stolt-Nielsen Limited 社 の Stolthaven New Motiva Enterprises 社ターミナルの一部で、11 Orleans ターミナルにある 月 基の石油タンクが 日に取られたものである。左上と右下に矢 基礎の一部を破損し、またヤード内の石油貯蔵 印を示した、 貨車が転倒し、ジエチルエタノールアミン、ベ わかる。 ンゼン、スチレン、トルエン、キシレンなど合 はそのときの 基のタンクが移動しているのが ま た、近 く の Carteret に あ る Kinder 3 計720m の化学物質を漏洩した。同ターミナル Morgan 社タンクターミナルでも、約38m3のバ は Mississippi 川に面し、高さ2.1m の堤防が イオディーゼルが漏洩し、Arthur Kill 水路に流 あったが、タンクヤードは浸水し、一部のタン 出した。 クが移動した。 Coast Guard の National Response Center に 12 インド Gujarat 州 Hazira でのガソリン よれば、ハリケーン ISAAC により93件の石油 タンク火災 関連施設事故が報告された。Braithwaite に近 2013 年 月 日(土)12 時 30 分 頃、インド い Alliance にある ConocoPhillips 社 Alliance Gujarat 州 Surat の西18km の Hazira にある、 製油所でも、石油タンクからのヤード内の漏洩 国営石油会社 Indian Oil Corporation Limited があった。 (IOCL 社)の Hazira タンクターミナルで、容量 9,600m3のガソリンタンクに火災が発生した。 11 タンクは火災時に約5,000m3のガソリンを貯 米国 New Jersey 州でのディーゼルタ ンク漏洩 蔵していた。同ターミナルには、17基の燃料タ 2012年10月29日(月)夜、米国 New Jersey 州 ンクがあり、火災タンクと同じエリアには、ガ Sewaren にある Motiva Enterprises 社タンク ソリンタンク 29 基、ディーゼルタンク 基が Safety & Tomorrow No.156 (2014.7) 同州最大規模の石油&ガス生産会社である あった。タンク間距離が狭く、折からの強風で 基に留まっ Noble Energy 社では、Weld County の約7,600 日(日)昼頃にガソリンが燃え尽きて の油井&ガス井のうち、約10%が停止した。二 あったが延焼は免れ、火災はこの た。翌 番目の規模の Anadarko Petroleum 社も約10% 鎮火した。負傷者はいない。 が停止した。 日前にも同ターミナル内の別のタンクが漏 洩し、その溶接補修時に爆発が起き、浮屋根が 約30m 飛ばされ、 15 名の作業員が死亡した。 米国 West Verginia 州 Charleston で の化学物質貯蔵タンク漏洩 13 2014年 韓国・蔚山での水張試験中の水タンク破裂 月 日(木)朝、米国 West Virginia 月26日(金)17時31分頃、韓国・蔚 州 Charleston にある Freedom Industries 社貯 山広域市南区にあるサムスン精密化学の敷地内 蔵施設のステンレス鋼製151m3 貯蔵タンクか のポリシリコン工場新築工事現場で、水張試験 ら、4- メ チ ル シ ク ロ ヘ キ サ ン・メ タ ノ ー ル 中の貯水タンクが破裂し、近くで作業をしてい (crude MCHM)が漏れ、近くの Elk 川に28m3 2013年 た作業員 名が死亡、12名が重軽傷を負った。 が流出した。約 mile 下流には水道水を供給 事故は、サムスン精密化学と米国半導体ウエ する West Verginia American Water 社プラン ハー製造大手 MEMC 社との合弁会社 SMP 社 トがあり、West Verginia 州の約30万人に、水 の新工場に設置される、直径10.5m、高さ17m、 洗トイレ以外に水道水の使用を禁止する「Do 3 容量1,300m の貯水タンクで発生した。タンク Not Use Order」が出た。 mm、側板厚さ2.3mm で、スプリ Do Not Use Order は、 月14日(火)20時に ンクラー用水や工業用水として供給するための 39%が解除された。Charleston 市内のレスト は底板厚さ ものだった。 3 日前から1,000m の水を注入し ランはそれまで営業ができなかった。また、 ていたが、事故時にタンクが突然破裂して横転 月17日12時50分に一部地域(Buffalo, Frazier s し、近くにいた作業員がよけられず、タンクと Bottom, Pliny)を除いて、Do Not Use Order が 支え台の下敷きになった。鋼製タンクが紙のよ 解除された。 うに折れ曲がって倒れた。 タンク底板には inch(25.4mm)の穴があっ た。crude MCHM は石炭の不純物処理に使う 14 米国 Colorado 州での洪水による油井と もので、Freedom Industries 社貯蔵施設では貯 ガス井の破壊 蔵と出荷のみ行い、製造は行わないため、公的 2013年 月11日(水)から14日(土)にかけ 機関の検査は1991年以来行われなかった。同施 て、米国 Colorado 州のロッキー山脈東側の 設の防油堤には、多くのき裂や穴があった。近 Denver, Boulder, Colorado Springs 一帯で大雨 くには Yeager Airport があり、Charleston 市 洪 水 が あった。同 州 には 油 井 & ガ ス 井 が 約 内のホテル営業ができないため、一部の航空便 51,300あり、このうち洪水被害を受けた北東部 の 運 航 が 中 止 さ れ た。連 邦 法 The Toxic Weld County には約20,500がある。これらの施 Substances Control Act では、crude MCHM は 設では、貯蔵タンクの転倒、移動、漏洩、パイプ 規制対象外であった。 ラインの破壊、漏洩が起った。Colorado Oil & 州 の 環 境 保 護 当 局 は、 月 10 日(金)に Gas Association(COGA)は、 月17日(火)に Freedom Industries 社 に 対 し、16km 西 の 約1,900の油井&ガス井が停止したと発表した。 Nitro にある同社施設へ事故施設にある化学物 Safety & Tomorrow No.156 (2014.7) 30 図10 West Virginia 州 Charleston 図11 事故前の Freedom Industries 社貯蔵施 設(Google Maps より) 17 質の移動を命じた。しかし、Nitro の施設でも 2014年 防油堤に穴が見つかった。West Verginia 州知 事は、同施設内タンクの 韓国・蔚山での原油タンク漏洩 月 日(金)15時30分頃、韓国蔚山 広域市蔚山群温山邑にある、S-Oil 社製油所の 月15日までの解体撤 直径84.75m、高さ21.9m、容量90,500m3原油タ 去を命じた。 図 10 は Freedom Industries 社 貯 蔵 施 設 と ンクで、ミキサー器軸が離脱して 日(日)11 3 West Verginia American Water 社プラントの 時の時点で約21,900m が漏洩したが、防油堤内 位置を示す Google Erath 写真である。図11は に止まり、海には流出していない。 日(日) 3 事 故 前 の Freedom Industries 社 貯 蔵 施 設 の 15時30分の時点で、60,500m を別タンクへ移送 Google Maps 写真である。 し、残り8,100m3も21時までに完了した。同製 油所の精製能力は、669,000 BPD で同国 16 アルゼンチン Mendoza 州 Malargue の規模である。 での原油タンク火災 2014年 番目 韓 国 で は、2013 年 11 月 10 日 に 蔚 山 の SK 月21日(金)12時45分頃、アルゼン Energy 社製油所へ原油を送る海底パイプライ チン Mendoza 州 Malargue にある、アルゼン ンから原油が流出した。また、2014年 チ ン 国 有 石 油 会 社 Yacimientos Petrolíferos に全羅南道麗水の GS Caltex 社製油所にタン Fiscales(YPF)の Cerro Divisadero 原油処理 カーから原油を送るパイプラインから160m3が 施設で、 基の容量14,000m3原油タンクに火災 海に流出した。 が起きた。翌22日(土)には 月31日 基のタンクに延 焼し、17名が負傷した。火災は23日(日)遅く おわりに に鎮火し、タンクは融けた。 海外で起きた石油タンクの事故17件の概要を 同プラントでは9,183BPD の原油を生産し、 報告した。いずれも、インターネットからの情 州都 Mendoza 近くの Lujan de Cuyo 製油所に 報であり、 それ以上の詳細な情報は得ておらず、 供給している。この量は、YPF 全体の3.8%に その後の事故原因調査についても、ほとんどが な る。YPF は 2012 年 に 国 有 企 業 に な っ た。 フォローできていない。 Lujan de Cuyo 製 油 所 の 精 製 能 力 は、 HPI の EST- 委員会で報告した事故の国別 106,000BPD である。Malargue は Mendoza の 件数では、 米国が最も多い。その理由の一つは、 南420km にある。 情報開示がなされていることにある。我々の知 らない多数の石油タンク事故が、世界各地で起 31 Safety & Tomorrow No.156 (2014.7) きているものと思われる。 Administration, Caribbean Petroleum Corporation (CAPECO),http: //incidentnews. 参考文献 (1) noaa.gov/incident/8133/, 2013. 吉田聖一,最近のエネルギー貯槽関連事故報 告,圧力技術,Vol.49,No.5,pp.232-240,2011. (2) 吉田聖一,2011年に発生したエネルギー貯槽 関連事故,圧力技術,Vol.50,No.5,pp.271-284, 2012. (3) 吉田聖一,2012年に発生したエネルギー貯槽 2013. 関連事故,圧力技術,Vol.52,No.3,pp.136-152, 2014. (5) U.S.Chemical Safety and Hazard Investigation National 2010. 吉田聖一,インド Jaipur での石油タンクの大 規 模 火 災 事 故,圧 力 技 術,Vol.51,No.2, pp.53-59,2013. Goverment of Gibraltar, Fire and Explosion Incident at North Mole, Port of Gibraltar on 31 May, 2011, 2011. (10) National Board, http://www.csb.gov/gallery/, 2013. (6) Petroleum & Natural Gas,Government of India, (9) 吉田聖一,2013年に発生したエネルギー貯槽 Independent Inquiry Committee,IOC Fire Accident Investigation Report,Ministry of (8) 関連事故,圧力技術,Vol.51,No.3,pp.116-131, (4) (7) Oceanic and Atmospheric Safety & Tomorrow No.156 (2014.7) 32 Oceanic and Atmospheric Administration, Hurricane SANDY Response Imaginery Viewer, http: //storms. ngs. noaa. gov/storms/sandy/, 2012.
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