平成 27 年度 熱力学第 3 回授業 H 26 4.27 1. 熱とは? 熱という言葉を聞いてどのようなイメージを思 い浮かべるだろうか。高校の物理で熱容量を測定 する実験をした人も多いだろう。受験勉強で,熱 量計を用いた問題を解いた経験がある人も多いだ ろう。 そのとき,熱量についてどのようなイメー ジをもっただろうか。多くの人は熱量をまるで物 質のように考えて問題を解いたのではなかろうか。 事実,熱は 19 世紀の中頃まで物質の一種と考えら れていた。その「物質」にはカロリックという名 前がつけられていた。当時は,燃焼も物質内から フロジストンと呼ばれる物質が出て行く現象だと 考えられていた。それが,現在のように熱がエネ ルギーの一種だという考えが確立したのは,19 世 紀中ごろジュール (Joule) による有名な実験がな されて後である。ジュールの実験は,おもりの落 下という力学的な仕事が温度上昇につながるとい う実験である。 2.簡単な熱力学の実験 2.1. 仕事と熱 仕事が熱に変わると いうことは簡単な実験 により体験することが できる。ペンシルバル ーンという商品名で売 られている細長い風船 を用いて実験すること ができる。これを急に 図1 引っ張って唇の下に当 てると熱くなることがわかる。さらに,しばらく 引っ張ったままにしておいて,急にもとの長さに 戻すと冷たくなることを確認できる。ここで,風 船を引き伸ばすときには風船の張力に逆らって風 船に外から仕事をすることになるので, ・風船を引っ張る=外から風船に仕事 ⇒ 温度上昇 = 熱くなる ・風船を急に縮める=外から風船に仕事をする ⇒ 温度低下 = 冷たくなる となる。 これと熱の働き ・物体に熱を与える ⇒ 温度上昇 = 熱くなる ・物体から熱を奪う ⇒ 温度低下 = 冷たくなる と比べると,物体の温度変化に対して,熱と仕事 は同等の働きをしていることがわかる。 このことから,熱はエネルギーの一種というこ 24M 1/2 とができる。物体は原子,分子からできている。 物体中の原子,分子の持つポテンシャルエネルギ ーとの和を内部エネルギーとよび U で表す。外部 から仕事をされ,熱量を与えられたとき,内部エ ネルギーの変化ΔU は ΔU = (外からされた仕事) + (外から与えられた熱量) が成り立つ。この関係を熱力学の第一法則という。 物理学で基本法則というのは,証明できないもの である。数学でいえば公理に相当し,これを前提 に理論体系を展開する。 2.2. ペンシルバルーンの熱機関 ペンシルバルーンにおもりを結びつけてつるし, 熱湯をかける。そうすると,ペンシルバルーンは 縮み,おもりは持ち上がる。冷却すると再びペン 冷却 加熱 繰 り 返 し ペ ン シ ル バ ル ー ン 図 2 ペンシルバルーンの熱機関 , シルバルーンは伸びてもとの長さに戻る。 順番にお湯をかけたり冷やしたりすると,伸び たり縮んだりして仕事を続ける。このように熱を 利用して仕事を続ける仕組みを熱機関という。 ペンシルバルーンを熱いお湯の中につけっぱな しにしておいても連続した仕事は出来ない。連続 して仕事を外にさせるためには,冷却することに より熱を適当に放出する必要がある。このことか ら,熱機関が働くためには温度差が必要であるこ とがわかる。これを法則化したのが熱力学第 2 法 則である。言葉で書くと, 「熱機関が外部に対して正の仕事をするためには 高温の熱源と低温の熱源が必要」 あるいは, 「ただ一つの熱源から熱をもらい,外部に仕事を する以外の変化をしない熱機関は存在しない。」 とも表される。このほかに,同等であることが証 平成 27 年度 熱力学第 3 回授業 H 26 4.27 24M 明されている表現がいくつかある。 熱力学第 2 法則は他の物理法則と同様,数式で 表すことも可能である。これについては,かなり 準備が必要である。この授業の後半で述べる。こ こでは,概略のみ述べることにする。 熱力学第2法則を定式化するためにエントロピ ーとよばれる物理量が用いられる。純粋に熱力学 的にエントロピーを導入するには,長い準備が必 要である。この授業では 12 回目になって始めて導 入する。 熱力学的におけるエントロピーの定義は分かり にくいので,その物理的意味だけを説明しておく ことにする。エントロピーS は系の乱雑さを表す 尺度である。系の微視的な状態の数を W とすると, S k B ln W 2/2 このように温度差による熱の流れがないと熱を 仕事に変えることができない。 熱の流れを水の流れにたとえるとわかりやすい (図 4)。このとき,100 %の水の運動エネルギー を発電のための仕事に変えることは出来ない。 同様に高熱源からもらった熱を 100%仕事に変 えることもできない。熱を仕事に変換する効率に ついては理論上の上限が存在する。このことを利 用して熱力学第 2 法則を定式化することができる。 詳しくは一連の授業の後半で説明する。 (1) で定義される。ここで,kB はボルツマン定数とよ ばれ,気体定数をアボガドロ数で割ったものであ る。系に熱量 Q が与えられたときのエントロピー 変化をS とすると TS Q (2) となる。これが熱力学第2法則を式で表したもの である。外部との熱のやりとりが無い場合はS 0 となり,系の状態が変化すると必ずエントロ ピーが増大する。 もし絶対温度 T が 0 とすると,内部エネルギー U が極小のとき平衡状態となる。T 0 の時には, 平衡状態は内部エネルギーとエントロピーの兼ね 合いできまる。系の体積 V が一定の時には, (3) F U TS が極小のとき平衡状態となる。F を自由エネルギ ーという。 ペンシルバルーンと同様の事を理想気体を用い てさせることもできる。図 3 のようなピストンと シリンダーを組み合わせた系を考える。これを加 熱すると理想気体は膨張し,冷却すると縮む。こ れを仕事に変えることができる。この場合も,高 熱源と低熱源が必要である。このような気体の膨 張と収縮をうまく理由したものにスターリングエ ンジンと呼ばれるものがある。 高熱源と低熱現の例として,火力または原子力 発電をあげる。 ボイラー(または原子炉) → 蒸気発生 → 蒸気の流れ → タービン回転 (発電)→ 蒸気放出 図 3 シリンダーとピストンの系。 高熱源 熱 Q1 熱 -Q 1 熱機関 低熱源 仕事 W 水車 仕事 図4
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