禁 煙 治 療 っ て ど ん な も の ? 禁煙治療ってどんなもの? 【タバコを吸いたくなる気持ちには 2 種類ある】 禁煙治療ではニコチンパッチやチャンピックスといった禁煙補助薬を使います。そして、この禁 煙補助薬に対しては「嘘のようによく効いた」という人から、「禁煙補助薬を使ってみたが、まっ たく効かなかった」という人まで、さまざまな評価があります。つまり人によって効果に大きな差 があるのです。それでは、どうしてこのような差が起きるのでしょうか? 実は 「タバコを吸いたくなる気持ちには 2 種類ある」 というところに、このような差が起きる秘密/原因があります。 2 種類あるために、1 つのタバコを吸いたくなる気持ちをいくら抑えても、もう 1 つのタバコを 吸いたくなる気持ちのために禁煙が失敗してしまう人も少なくないのです。そのため、禁煙を成功 させるためには、この 2 種類のタバコを吸いたくなる気持ちを理解する必要があります。 【薬が効く「ニコチン切れのストレス」】 まず「タバコを吸いたくなる気持ち」の 1 つには「ニコチン切れのストレス」があります。 タバコを吸うと脳が変化してしまい、 「タバコを吸わないと(ニコチンが体の中にないと)イライラ する体」に変化してしまいます。今どれだけタバコを吸っている喫煙者も、子供の頃はタバコを吸 わなくても何ともなかったはずです。それがタバコを吸ってしまったことで、「タバコを吸わない と(ニコチンが体の中にないと)イライラする体」に変わってしまったのです。そのためタバコを吸 った瞬間は、ニコチンが一気に体に入っ て来るため、ほっとした落ち着いた気持 ちになります。しかし体に入ったニコチ ンは代謝され、最後には尿となって体の 外へどんどん出て行くため、 1 時間、2 時間と時間が経つうちにイライラと落ち 着かなくなります。そこでタバコを吸え ば再びニコチンが入って落ち着くのです が、また 1 時間、2 時間と時間が経つと …という繰り返しで、一日に何本ものタバコを吸う事になるわけです。この「タバコを吸わないと (ニコチンが体の中にないと)イライラする体」でいる限り、タバコをやめようと思っても、強いス トレスが襲って来て、禁煙が続かないということになります。 -1- 禁 煙 治 療 っ て ど ん な も の ? それではこの「タバコを吸わないとイライラする体」はもう二度と治らないかというと、そんな ことはありません。まったく 1 本も吸わずに 3 週間程もすると、「タバコを吸わないとイライラす る体」から、子供の頃のような「吸わなくてもイライラしない体」へと戻ってきます。 ただし、1 本も吸わないでいると、3 週間どころか 2,3 時間でイライラが襲って来て、次のタバ コに手が出てしまいます。そしてこれを繰り返していると、いつまで経っても「吸わなくてもイラ イラしない体」に戻れません。 というわけで、そこで役に立つのが「ニコチン切れのストレス」を抑えてくれるお薬ということ になります。ニコチンパッチやチャンピックスといった禁煙補助薬は、この「ニコチン切れのスト レス」に効いて、禁煙しやすくするためのお薬なのです。禁煙補助薬を使えば、スッキリまではし ませんが、タバコを吸わないことに対して我慢しやすくなります。 【薬が効かない「タバコを吸えばスッキリする」という記憶】 さて、こういう話をするとニコチンパッチやチャンピックスを使えば、それだけで禁煙できそう な気になってきますが、話はそう簡単ではありません。「タバコを吸いたくなる気持ち」はもう 1 種類あるのです。それは何かと言うと… あなたは今まで何本のタバコを人生で吸って来られたでしょうか? 例えば、一日 20 本を吸って いた人が 10 年間吸っていると、20×10×365=7 万 3,000 本のタバコを吸って来たことになりま す。つまり多くの喫煙者は、何千本、何万本ものタバコを吸って来ています。ということは、 「あぁ、この状況で吸ったら心が落ち着くだろうな」→吸う→「ふぅ、落ち着いた」 という体験を何千回、何万回も繰り返しているということになります。 となると、この記憶は絶対に消えません。 「嫌なことがあった」→「タバコを吸えば楽になれるはず。ここで吸わないと辛い気持ちのままだ」 「お酒の席で皆が美味しそうにタバコを吸っている」→「自分もここでタバコを吸えば話がはずん で楽しいはず。ここで吸わないと楽しくない」 この「タバコを吸えばスッキリする」という思いは、何千回、何万回もの喫煙体験による記 憶 が 起こす思いですから、ニコチンパッチやチャンピックスのような禁煙補助薬はまったく効きません。 禁煙補助薬はあくまで「ニコチン切れのストレスに効くお薬」以上でも以下でもないのです。これ が薬がよく効く人と、薬が効かない人との差が出てくる理由なのです。 【必要なのは度胸と勇気】 まとめるとニコチン依存症と言われる状態は、先にあげた 1. 薬が効く「ニコチン切れのストレス」 2. 薬が効かない「タバコを吸えばスッキリするという記憶」 -2- 禁 煙 治 療 っ て ど ん な も の ? の 2 種類の吸いたい気持ちからできています。前者は薬が効きますが、後者は薬が効きません。そ れでは、この「タバコを吸えばスッキリするという記憶」にどう対応すればいいのでしょうか? 「ここでタバコを吸ってスッキリしなければ、仕事に集中できない」 「ここでタバコを吸ってスッキリしなければ、家族にイライラをあたってしまう」 「ここでタバコを吸ってスッキリしなければ、自分の人生は寂しいものになってしまう」 そんな不安が生じて来ることも少なくありません。 しかし「ここでスッキリしなければならない」という思いを抱える限り、タバコと別れることは できません。 ということは、 「 タ バ コ が 吸 え ず ス ッ キ リ で き な く て も 、 何 と で も な る 」 と気持ちを変えて、タバコのない世界に、覚悟を決めて思い切って飛び込んでみる。そしてその 世界に慣れる、ということしかありません。不安を感じられるかもしれませんが、 「度胸と勇気を持って飛び込み、慣れる」 しかないのです。 【もし吸いたくなったら】 「タバコを吸いたい」という思いが頭に浮かんで来たとき、「吸ってはいけない、吸ってはいけな い」と考えると、逆に頭の中にはタバコのことがどんどん浮かんで来て、ますます吸いたくなるこ とがよくあります。逆説的な話ですが「吸ってはいけない」と考えること自体が、吸いたいという 欲求を高めてしまう、ということもあるのです。 このような場合、まず「吸ってはいけない」と考えるよりも、 「『タバコを吸いたい』という思いが浮かんで来たけれど、今はそんなことよりも…」と 「別の楽しいことを考える」 「別の楽しい行動をとる」 ことによって、タバコのこと自体を気にしないようにするのが一番良い方法です。よく「タバコ 以外に楽しいものが思い浮かばない」という方が少なくないのですが、そんな方こそ一所懸命、自 分が本当に楽しいと思えることを探してみてください。まだタバコを吸っていなかった子供の頃、 必ずタバコ以外の自分の楽しかったことがあったはずです。この「自分が心から楽しめること」を 見つけることが、禁煙成功の大きな鍵になります。 【少しずつ時間をかけて減らす場合は、大半は自費での診療が必要】 「すっぱりやめるのはどうしても怖くて、チャンピックスを内服しながらでも徐々に本数を減らし て行き、それで最後にはゼロにしたい」 -3- 禁 煙 治 療 っ て ど ん な も の ? そう言われる方もおられます。私はそれでも良いと思います。ただし、これをしようとすると「保 険が使える期間」の問題にぶつかることがよくあるので、これには十分ご注意ください。実は、ニ コチンパッチは 10 週間まで、チャンピックスは 12 週間までしか保険の期間が認められていないの です。こういう話を聞かれると 「じゃあ、12 週目にゼロになるように本数を減らして行こう」 と考えられる方がおられるのですが、これはたいていうまくいきません。なぜかというと初めにお 話ししたように「吸わなくてもイライラしない体」に戻るためには、「1 本も吸わずに 3 週間」か かるからです。やっとタバコの本数がゼロになったところで薬をやめてしまったら、当然「ニコチ ン切れのストレス」に襲われてしまい、結局また吸ってしまうことになる危険性が高いのです。タ バコの本数がゼロになってからも、最低 1 ヶ月はチャンピックスの内服が必要となってきます。結 局、少しずつ時間をかけて減らす場合は、自費での診療が必要となる方が大半であり、それも考え た上で減らしていかないとうまくいかないことが少なくありません。 【ニコチン依存症と禁煙に終わりはない。だからこそ…】 よく「何ヶ月、タバコをやめられたら禁煙成功でしょうか?」というご質問を受けることがあり ます。これに対して、タバコ関連の論文では「12 週間(3 ヶ月)」を一つの目安にしているものが多 いようです。しかし私はこれを一つの目安に過ぎないと思っています。先ほどお話ししたように、 「タバコを吸えばスッキリできる」 という記憶は大なり小なり一生つきまといます。そして禁煙期間が何年続いても、ある日、一本 吸ってしまえば、また「ニコチン切れのストレス」に襲われる体に戻ってしまい、再び毎日吸うよ うになってしまう方が大半です。ニコチン依存症と禁煙に終わりはありません。 と書くと、絶望的な気持ちに襲われるかもしれません。確かに「一生、もうタバコを吸えないの か」と考えると、気が遠くなりそうです。しかし、だからこそ、 「将来の自分がどうなるかはわからない。でも、『今』はタバコを吸わずにおこう」 という気持ちの切り替えが大事なのではないかと思います。 人はどれだけ悔やんでも過去を変えることはできません。しかし未来を変えることはできます。 そして未来は「今」の積み重ねで変わって行きます。未来を考えすぎて絶望するのではなく、まず 「今」を大事にすること。それこそが本当に豊かな未来を作って行くことになるのではないかと思 います -4-
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