小学校における情報リテラシー育成カリキュラムの研究 ∼「教科学習」「総合的な学習」を通して∼ 内堀 洋伸*1 村瀬 康一郎*2 <概要> 現在、小学校では、情報リテラシー育成を主眼とした「情報教育」の時間や、 「教科学習」 「総合的な学習」の時間における情報活用能力育成のためのカリキュラムの開発・試行実 践が行われている。小学校での情報活用能力育成において、情報リテラシー育成の教育課 程への位置づけと、情報リテラシー育成カリキュラムの実施は児童に情報活用能力を育成 する上で必要不可欠なものになってきている。 そこで、小学校における情報リテラシーの定義と教育課程への位置づけを検討し、情報 リテラシー育成カリキュラムを「教科学習」「総合的な学習」の時間で検討し、実践カリキ ュラム開発・実践を行う。カリキュラムの実践通して、小学校における情報活用能力の育 成を図る情報リテラシー育成カリキュラムの具体的な提示を行う。そして、小学校の教員 がより実践しやすく、児童が着実に情報活用能力を習得できるカリキュラムのポイントを 明確にする。 <キーワード> 情報活用能力、情報リテラシー、カリキュラム開発、教科学習、総合的な学習 1.はじめに 今日、現代社会における情報化の進展はあ らゆる方面・分野に及び、高度情報通信ネッ トワーク社会というにふさわしい状況を迎え ている。特に、コンピュータ、インターネッ ト、携帯電話等の普及、そしてブロードバン ドの整備等、想像を遙かに超える速さで私た ちの生活に浸透し、社会構造そのものを変え ようとしている状況が存在している。当然の ことながら、子ども達をとりまく環境におい ても、その変化は著しいものがある。インタ ーネットに接続している家庭が増え、TVゲ ームの情報を収集する子ども、Eメールを使 いこなす小・中学生も珍しくない状況である。 また、学校生活でも情報収集の手段として、 授業の中でインターネットを活用した学習も 多く見られるようになってきている。これか らの学校教育においては、このような社会を 生きていく子ども達が、様々な情報の中から 必要な情報を主体的に選択し、適切に活用で きるために、コンピュータや情報通信ネット ワーク等の情報手段を活用できる基礎的な資 質や能力、いわゆる「情報活用能力」を育て ることが重要となる。 第 15 期中央教育審議会答申(1996 年)に おいて、「情報化が進展するこれからの社会 に生きていく子どもたちに、どのような教育 が必要か」 、 「子どもたちの教育の改善・充実 のために、コンピュータや情報通信ネットワ ーク等の力をどのようにしたら生かしていく ことができるか、また、どのようにして生か していくべきか」という2つの視点から、情 報化の進展とそれに対応した教育の在り方が 示されている。 そこで、これらの社会の流れを考慮し、次 代を担う子ども達のために「小学校における 情報活用能力育成のための、情報リテラシー の育成の在り方」という視点から、児童の基 礎的な資質、多様な能力や学習意欲に対応で きる情報リテラシー育成カリキュラムの検 討・開発・実践が課題になってきている。 *1 Uchibori,Hironobu : 輪之内町立仁木小学校(〒503-0214 安八郡輪之内町海松新田 826) *2 Murase,Koichirou: 岐阜大学教育学部(〒501-1193 岐阜市柳戸 1-1) 3.研究の内容 前述した研究の目的を受けて、具体的な研 究内容を以下のように設定する。 2.研究の目的 情報教育は、第 15 期中央教育審議会答申 等でも示されているように、社会の情報化に 対応して、主体的に情報を活用していける能 力(情報活用能力)を育成していくこととさ れている。その一端として、コンピュータや ネットワークなどの新しい情報手段の活用が 行われる必要があるのだが、実際には、それ の情報手段すなわち機器の操作技術の習得が 情報教育の大部分になってしまい、それらの 機器を使って具体的に、何をどうしていくの か、情報そのものをどのように捉え、どう扱 っていくのかという点に関しては、あまり省 みられていないのが現状である。 教師にとって「情報を活用する」というこ とは、具体的なイメージを持ちにくく実態を 捉えることが難しい。 「情報活用能力の育成」 といわれても、教育課程(学習指導計画)の どこに位置づけ、実際に何をどのようにすれ ばいいのかよくわからないというのが現場の 教師の実状である。 しかし、児童にとっては、これからの現代 社会(高度情報通信ネットワーク社会)を、 生きるための資質としての「情報活用能力」 の習得が重要になってくる。児童一人一人が、 現代社会で生活していく上で、生きて働く力 (「生きる力」)として、情報活用能力を捉え ていくことが簡要なのである。 小学校においては、担任の教師が自分の受 け持つクラスの「情報活用能力」の実態を把 握し、実態に合わせて情報活用能力を育成す るカリキュラムを実施することが理想である。 しかし、小学校現場の状況を考えると実状と しては不可能といわざるを得ない。学校現場 によっては、カリキュラムそのものが明確に されていないこともある。 そこで、本研究においては現在の小学校現 場の状況も念頭に置き、以下のような研究目 的を設定し研究を進めるものとする。 ①「情報教育の概念」について文献・論文 等に求めて、その概念の定義を明らかに する。 ②「情報活用能力」の3つ具体目標(「情 報活用の実践力」「情報の科学的理解」 「情報社会に参画する態度」)を明確に し、小学校における「情報活用能力」と 「情報リテラシー」の本質を明らかにす る。 ③「情報活用能力」を育成するための「情 報リテラシー育成カリキュラム」を「教 科学習」及び「総合的な学習」の時間に おいて検討・開発する。 ④カリキュラムに基づいた授業実践を行 う。授業実践後、児童の情報リテラシー の変容の考察を行う。それを基に授業実 践したカリキュラム、効果的な実践方法 の検討・改善を行う。 4.研究の実施 (1)研究内容①について 「情報教育」とは何か。小学校段階でその内 容をどのように捉えるのか。このことをまず、 明確にしておく必要がある。実際、学校現場 の教師や教育行政関係者、さらには教育研究 者の間でも、 「情報教育」という「教育」につ いて解釈の違いが存在している。特に「情報」 という概念は、そのものに曖昧性や多義性が あり、この分野の学問や技術の発展とともに、 その捉え方は常に変化しているのが現状であ る。小学校段階における「情報教育」の概念 とその定義について考えていく上で、これま で大きな役割を果たしてきたのが、1990 年に 文部省(現:文部科学省)が発行した「情報 教育に関する手引き」である。しかし、この 「手引き」においても「情報教育」という用 語の明確な定義はどこにも示されていない。 この「手引き」を詳細に読んでいくと、 「情報 教育」の他に「情報処理教育」 「コンピュータ 教育」という用語が出てくる。また、現在の メディアの発達にともなって「メディア教育」 という用語も使われることが多くなってきて 現代社会を生きるための資質(「情報活用 能力」)を児童に習得させるため、系統的・体 系的な情報教育の在り方を明らかにし、高度 情報通信ネットワーク社会に対応できる資質 の育成をめざす情報教育の具体的な実践的カ リキュラムの開発を行う。 2 いる。 「情報教育」の本質的な概念を定義する ために、これらの用語の概念を検討し整理す る。 成する」 ことにあり、 「メディアを利用して教 える」ことではないということである。 「メデ ィアを利用して教える」ことについては、日 本では視聴覚教育や放送教育といった分野が あり、長い歴史をもっている。その意味では、 「コンピュータを利用して教える」ことも、 視聴覚教育に含めて考えることもできる。 ○情報処理教育 「情報処理教育」は情報処理技術者養成の ための専門教育、職業教育であり、その分野 で仕事をするための専門的な知識・技能を習 得させることを目標としている。つまり、そ こで、習得させるべき能力は、情報処理に関 わる仕事をこなすための特別な能力であり、 一般の人には必ずしも必要となるものではな い。そこでは、仕事の即戦力として必要な知 識・技能はもとより、その分野で永く仕事を こなしていくための分野固有の問題解決力や、 自己学習力等も習得させる必要がある。 ○情報教育 日本では、1980 年代半ばに「メディア教育」 と「コンピュータ・リテラシー教育」が同時 に注目されることになった。坂本昴らは「メ ディア教育」の研究の中に「コンピュータ・ リテラシー教育」を含めてそのカリキュラム を提案している。「メディア・リテラシー」や 「コンピュータ・リテラシー」の本質は、メ ディアやコンピュータの上に表現されている 「情報」を正しく理解することに始まり、最 終的には、自分自身が「情報」を創造し、適 切に表現できるようになることである。 また、この時期に、臨時教育審議会が設置 され、情報化に対応した教育の在り方が中心 的なテーマの1つとなった。このような展開 の中で、学校教育においても、情報化に対応 して、子どもたちに新たな資質を育成するこ との必要性が認識され、その資質とは本質的 にどのようなものかが議論された。その結果 として誕生したのが「情報教育」であり、そ れによって育成すべき「情報リテラシー」を 「情報及び情報手段を主体的に選択し、活用 していくための個人の基礎的な資質」と定義 した。このことは、臨時教育審議会委託研究 報告書に明記されている。 ○コンピュータ教育 「コンピュータ教育」という用語は、2つ の 意 味 で 使 わ れ て き た 。 CAI ( Computer Assisted Instruction)に代表される「教育分 野におけるコンピュータの活用」という意味 であり、英語の educational computing に相 当するものである。一方、1980 年代に入った 頃から日本でもその必要性が認識され始めた 「コンピュータ・リテラシーを育成する教育 =コンピュータ・リテラシー教育」を略して 「コンピュータ教育」と言っているものであ る。諸外国では、これに相当するものを computer science とか computer study とい った科目名で呼んでいる場合が多い。ここで いう「コンピュータ・リテラシー教育」は「コ ンピュータ・リテラシー」 、すなわち「コンピ ュータを利用するための基礎的な技能・知識」 を教える教育である。 以上のように各用語の概念を考えてくると、 「情報教育」 とは、社会の情報化に対応して、 子ども達に新たな資質を育成することを目標 に検討され、その結果「コンピュータ・リテ ラシー教育」と「メディア教育」が融合する 形で誕生したものであると考えることができ る。そして、 「情報教育」の持つ本質的な意味 は、子どもたちに「情報活用能力を育成する ための教育」 、すなわち「情報及び情報手段を 主体的に選択し活用していくための個人の基 本的な資質を育成する教育」と定義される。 ○メディア教育 「メディア教育」の源泉は、イギリスやア メリカなどで行われてきた映画視聴教育、マ スコミ教育にあると考えられている。この教 育の重要性が強調されるのは、TV 番組が子 どもたちに与える影響を考慮して、欧米で、 子ども向けの TV 番組について少なからず規 制があることと無関係ではないと考えられる。 「メディア教育」を理解する上で特に重要 な点は、 「メディア教育」の目的が「メディア について教える=メディア・リテラシーを育 3 (2)研究内容②について 〈情報活用能力の3つの具体目標について〉 第 15 期中央教育審議会の中間答申を受け て、文部省(現:文部科学省)は「情報化の 進展にともなう初等中等教育における情報教 育に関する調査研究協力者会議」 (1997 年) を発足させ、情報教育の目標などについて詳 細に検討した。 この調査研究協力者会議により「情報活用 能力」は、 「情報活用の実践力」 「情報の科学 的な理解」 「情報社会に参画する態度」 の3つ の具体目標によって構成されると整理されて いる。以下に3つの具体目標を示す。 ータベースの仕組みと設計、コンピュータ 内部の処理メカニズム、アルゴリズムとプ ログラミングの意味) 」 「モデル化の方法」 「シミュレーションの方法」「統計的見方 考え方」 「実験観察、 調査における情報手段 の活用」 「認知的特性 (人間の認知的特性と 情報手段)」 〈情報社会に参画する態度〉 「情報化の社会への影響」「人間への配慮」 「社会における情報処理の例と仕組みと」 「ネットワークシステムの仕組み」「コン ピュータに依存した社会の問題点」「情報 モラルマナー」「コンピュータ犯罪、コン ピュータセキュリティ」「パーソナルメデ ィアとしてのコンピュータ」「情報公開と 責任」 ○課題や目的に応じて情報手段を適切に活用 することを含めて、必要な情報を主体的に 収集・判断・表現・処理・創造し、受け手 の状況などを踏まえて発信・伝達できる能 力:「情報活用の実践力」 ○情報活用の基礎となる情報手段の特性の理 解と、情報を適切に扱ったり、自らの情報 活用を評価・改善するための基礎的な理論 や方法の理解:「情報の科学的な理解」 ○社会生活の中で情報や情報技術が果たして いる役割や及ぼしている影響を理解し、情 報モラルの必要性や情報に対する責任を考 え、望ましい情報社会の創造に参画しよう とする態度:「情報社会に参画する態度」 ※なお、実際の学習活動では、情報手段を具 体的に活用する体験が必要であり、必要最 小限の基本操作の習得にも配慮する必要が ある。 これらの内容をよくみると、情報科学やシ ステム科学で扱っている専門的な内容という よりは、主体的に情報活用できるようにして いくための、基礎的な知識と態度の育成とい う点に焦点が当てられていることが分かる。 〈情報リテラシーの概念〉 「情報リテラシー(information literacy)」と いう語は、日本の教育行政・教育現場では「情 報活用能力」と解釈し、近年の情報教育を推 進する理念の一つと考えられている。 「リテラシー」とはもともと「識字学、読 み書き可能なこと」を意味する言葉である。 「言語の読み書き能力」と言った場合、すで にその概念は、「自分の名前が識別できる程 度の読み書き能力」から「書物や新聞が読め る程度の読み書き能力」まで、かなり幅があ る。この点から厳密に考えると、リテラシー 概念は次の二つの概念に区分されると考えら れる。 また、具体的には、次の内容項目が挙げら れている。 〈情報活用の実践力〉 「問題解決における情報活用」 「情報手段の 適切な活用」「問題の分類と問題解決の手 順」 「情報手段の特性(文書処理(WP)、 表計算、ブラウザ、プレゼンテーションツ ール、データベースなどの応用ソフトウェ アの活用) 」 「プレゼンテーションの手法」 「情報技術の仕組み」 〈情報の科学的な理解〉 「情報の表現方法(数値、音声、画像等の 情報のディジタル表現、符号化、情報量、 ビット、 情報の圧縮) 」 「情報の処理方法 (デ ○「必要不可欠」という意味での、必要条件 的能力としてのリテラシー概念 ○「あると望ましい」という意味での、十分 条件的能力としてのリテラシー概念 リテラシーの概念を「必要最小限の能力」 としてとらえたものを「必要条件的リテラシ ー」とする。このリテラシーは、現代社会に おける必要条件的なリテラシーであり、「日 常の社会生活上、必要不可欠な能力」を意味 する概念である。言い換えれば、必要条件的 4 リテラシーとは、「あって当然、ないと困る」 という意義を持った概念である。 一方、書物や新聞が読める程度の読み書き 能力をリテラシーと考える場合には、その概 念は、「社会生活を送る上であると望ましい 一通りの読み書き能力」である。これは、 「社 会生活上ないと困る」という意義だけでなく、 「あると望ましい」という意義を含む概念で ある。これを、 「十分条件的リテラシー」とす る。このように「リテラシー」は2つの概念 を持っていると考えられる。(図 1 参照) 以上、「情報リテラシー」 の概念の指し示す 意味としては「情報活用能力」とほぼ同意語 と考えられる。しかし、この2つの用語は立 脚する立場を厳密に考えるならば、異なる立 場に立っている。 「情報活用能力」は、その定義である「情 報及び情報手段を主体的に選択し活用してい くための個人の基本的な資質」という視点か ら見るならば、 「情報」 に携わる全ての人々に ついて共通に必要とされるものである。 「情報リテラシー」は、その概念特性「情 報リテラシーが求められる領域を特定し、必 要とされる情報リテラシーの内容を明らかに した上で位置づけられるもの」という視点か らみると、全ての人に共通の内容で行われる べきものではない。 「情報活用能力」が、「一 人の人間がその生涯を通じて育成していく資 質全体」であるに対して、 「情報リテラシー」 は「一人の人間のある発達段階における情報 活用能力の到達すべき資質(達成すべき資 質)」と考えられるのである。 学校教育においては、発達段階におけるそ れぞれの「情報リテラシー」のステップアッ プそのものが、 「情報活用能力」を構成し、育 成する過程に相当するのである。 (図 2 参照) (図 1:リテラシー概念の二義性) この概念の違いは「リテラシー」を適応す る教育現場(学校教育・企業教育・生涯教育 等)の違いによって生じてくるものである。 教育を受ける者にとって、その学習内容と必 要性の度合いによって、概念の違いが出てく るのである。 「情報リテラシー」の概念には、狭義の概 念と広義の概念がある。 『通信白書』(郵政省, 1998)では「情報リテラシーの定義」に狭義、 広義の二義性があることを指摘している。狭 義にはコンピュータなどの「情報機器」を操 作する能力であり、広義には「情報そのもの」 を主体的に活用する能力であるとしている。 前者の場合は「情報機器」を中心とした見 方であり、 「情報機器」の利用を前提として、 情報を処理する能力を指している。代表的な ものとしてコンピュータ・リテラシーが挙げ られる。後者の場合は機器を利用する・しな いに関わらず、一般的な意味での「情報を主 体的に活用する能力」を指しており、機器の 利用はその一手段として位置づけられる。こ の概念は、 「情報教育の手引き」 「情報化の進 展にともなう初等中等教育における情報教育 に関する調査研究協力者会議」が示している 「情報活用能力」の概念とほぼ適合する。 (図 2:情報活用能力と情報リテラシー) それぞれの発達段階において、 習得すべき「情 報リテラシー」が存在しており、発達段階ご との「情報リテラシー」の具体的内容と習得 目標を明確にすることが重要になる。明確に された内容の習得が「情報活用能力」の育成 となっていくのである。情報教育のカリキュ ラムを検討・確立していく場合、 「情報活用能 力」を育成しようとする発達段階での「情報 リテラシー」の内容を明確にし、その内容を 5 達成できるカリキュラムとして確立すること が重要になるのである。 覧表」においても同様である。 各単元における達成すべき具体目標を重 点化し、単元ごとの「情報リテラシー単元指 導計画」とリンクしてカリキュラムの実施を 行うようにする。 (3)研究内容③について 情報リテラシー育成カリキュラムとして輪 之内町では、平成2年度より「情報活用能力 段階表」を作成し、町内の3小1中学校が連 携して情報リテラシー育成を推進してきてい る。(図 3 参照) (図 4:「情報リテラシー単元一覧表」) 各学年の「情報リテラシー単元一覧表」に リンクして、 「情報リテラシー単元指導計画」 がある。これは、教科の単元指導計画内容に 合わせて、学習活動に「情報活用能力」の具 体目標を位置づけたものである。単位時間に おける、情報リテラシー育成の位置づけが示 してあり、どのような学習活動を行うことで、 どのような情報リテラシーを育成するのかを 明確にしている。単位時間内の学習活動の展 開は、教師の判断に委ねられるものであるが、 どのような活動によって、どのような情報リ テラシーが習得できるのかを意識することで、 児童の情報リテラシーの習得は大幅に向上す ると考えられる。学習活動を仕組む教師が、 常に情報リテラシーに対する意識をもって授 業に臨むことも、カリキュラムを実施する上 で重要な要素になると考えられる。 (図 3:情報活用能力段階表) この段階表を基本とし、発達段階に合わせ て情報リテラシー育成カリキュラムを開発す る。 〈教科学習におけるカリキュラム〉 低学年「生活科」 、中・高学年「社会科」を 中心となる教科に設定し、カリキュラムを検 討・開発する。 各学年のカリキュラムは、単元名と単元内 容に応じた情報リテラシーの位置づけを明記 した「情報リテラシー単元一覧表」を年間カ リキュラムとして作成する。そして、単元ご との指導計画にリンクさせる形で、「情報リ テラシー単元指導計画」をカリキュラム細案 として作成する。 ここでは、1年生「生活科」の「情報リテ ラシー単元一覧表」 (図 4 参照)と、5年生 「社会科」の「情報リテラシー単元指導計画」 (図 5 参照)について述べる。 1年「生活科」の年間カリキュラムでは、 「情報活用能力」の具体目標の3つ中で、そ の単元で重視したい内容について位置づけて いる。単元名とその単元で行う具体的活動内 容を、合致する具体目標の項目内に位置づけ ていく。このことにより、年間のどこで、ど の具体目標(情報リテラシー)を達成する活 動を具体的に仕組むのかを明確にしていく。 これは、他の学年の「情報リテラシー単元一 (図 5:5年社会科 「情報リテラシー単元指導計画」) 6 〈総合的な学習におけるカリキュラム〉 本校では、学年別にテーマを決めて「総合 的な学習」を実施している。ここでは、本校 5年生の「総合的な学習」の第2単元である 「お米プロジェクト」のカリキュラムについ て述べる。(図 6 参照) 報リテラシーの育成状況を把握できるように し、情報活用能力の育成状況を評価できる。 (4)研究内容④について 〈5年生:社会科の実践より〉 単元名:「私たちの生活と食料生産」 目標:輪之内町内における農産物の生産状況 と、生産に携わっている人々の工夫や 努力が分かる。 情報リテラシーの目標(報告会) :交流メモをもとに、各調査担当からの 発表を聞き、必要な情報を整理し、ま とめに役立てる。 (問題解決における情報活用) 実施日時:平成 13 年 6 月 子ども達は、町内で生産される農産物3品 目(キュウリ、イチゴ、鶏卵)を選び、4つ の調査隊に分かれて追求活動を行う。以下が 4つの調査隊である。 (図 6:「総合的な学習」のカリキュラム) 「お米プロジェクト」は第1単元「アイガ モ農法に挑戦!∼環境に優しい米をつくろう ∼」とリンクしたカリキュラムである。アイ ガモ農法による直接的体験学習を受けて、一 人一人が個別テーマを持ち、追求活動を行っ ていく学習として展開している。 カリキュラムは大きく3区分されている。 ①農協探検隊 ②農家探検隊 ③図書(室)探検隊 ④パソコン探検隊 農協探検隊と農家探検隊は近所の人や学校 を通じてコンタクトをとり、社会科の時間や 放課後、 休日を利用して調査・取材を行った。 図書(室)探検隊は社会科の時間、休み時間、 休日(町の図書館利用)を利用して調査を行 った。パソコン探検隊は学校のコンピュータ で社会科の時間、休み時間、放課後に調査を 行った。取材時にデジタルカメラやカセット レコーダーなど、情報機器を利用する子ども もいた。(写真 1,2 参照) ①追求テーマの設定と発表 ②テーマ追求活動(中間報告会) ③追求のまとめと最終報告の公開 それぞれの段階における活動で、「情報活 用能力」の具体目標に合わせた活動を示し、 その活動における情報リテラシーを明確にし ている。各段階は、 「調べる」→「まとめる」 →「つたえる」を一つのサイクルとして活動 ができるようにしている。活動サイクルは他 の学年のカリキュラムにおいても同様である。 ①の段階では、このサイクルを自覚させる ことを大切にしている。②の段階では、この サイクルを数回繰り返すことで、段階を追っ た情報リテラシーの育成を、繰り返して行え るようにしている。③の段階では、最終報告 を Web ページにすることで校内(状況によっ ては学校外)へ公開する。 教師は、個人の追求活動の記録(活動記録 ファイル・児童個人の文書データ・発表時作 成の資料・個人文書データ・個人 Web 作成デ ータ等)をポートフォリオ的に収集し、年間 を通じて比較検討することで、一人一人の情 (写真 2) (写真 1) 7 調査・取材してきたことより、探検隊ごと に報告のための資料づくりを行った。多くの 子ども達は、B紙に調べた内容をまとめ表や グラフ、デジタルカメラで撮った写真を貼付 して資料を作成した。一部、コンピュータの プレゼンテーションソフトを利用しようとす る子どももいたが、ソフトの活用スキル習得 が十分でなかったため、発表に使うまでには 至らなかった。 報告会として、農産物ごとに時間を設定し、 報告会を行った。それぞれの探検隊が調べた 内容について発表し、他の子ども達が質疑応 答を行う形式をとった。発表グループによっ ては、取材したときの録音テープを流したり、 デジタルカメラで撮った写真を大きく印刷し て、仲間に見せたりするなどの工夫も見られ た。(写真 3,4 参照) 調査したことだけでまとめるのではなく、仲 間からの多くの情報をもとに、自分の考えを まとめようとする姿が見られた。報告会は農 産物ごとに3回行った。最後の報告会でのノ ートのまとめで、仲間の報告を利用した子ど もは 32 人に増加していた。報告会を重ねる ことで、仲間からの情報を利用することが定 着してきていると考えられる。 〈5年生:総合的な学習の実践より〉 単元名:「お米プロジェクト」 目標:自分たちが毎日食べている米に興味を 持つことで、自分たちを取り巻く環境 や文化・生活に対して課題や疑問を持 ち、自分自身で事実を追求する力を育 成する。 情報リテラシーの目標 :「調べる」→「まとめる」→「つたえ る」の学習サイクルを通じて、情報活 用の実践力を身につける。 (問題解決における情報活用) (情報手段の適切な活用) (問題解決の手順) (情報機器活用スキル) 実施日時:平成 13 年 4 月∼平成 14 年 2 月 (写真 4) (写真 3) 子ども達は、アイガモ農法による有機米づ くりを直接体験し、米作りに対して強い関心 を持っている。4 月∼5 月にかけ、社会科で は「米作り」について学習している。これら の学習活動をもとに、一人一人のお米に対す る、興味関心を掘り起こすことから学習はス タートする。この学習は NHK のフルデジタ ル教材「お米」とリンクして行うため、NH K教育放送番組「お米」や、番組ホームペー ジを利用して興味・意欲を高め、調べ学習を 行うこともできる。(写真 5 参照) 子ども達は交流メモ(図 7 参照)をもとに 発表を聞き、分かったことや気づいたこと、 疑問に思うことをメモしていった。メモをも とに発表グループに対して意見や質問を行い、 質問されたことに対して、発表グループが相 談しながら答える場面も見られた。どの調査 グループも、自分た ちの課題を解決する ための方法を考え、 必要な情報手段や情 報機器を利用しよう とする姿が見られた。 報告会での情報リ テラシーの目標達成 状況を、交流メモ・ 授業後のノートから 見ると、約半数(21 (図 7:交流メモ) 人)が発表者の報告事 項を、自分のまとめに利用していた。自分が (写真 5:「お米」ホームページ) 8 子ども達の個人テーマは全部で大きく9つ に区分できる。 (追求課題はそれぞれ異なって いる) 料づくりでは、一人一人が、自分の調べたこ とをグループで集約し、伝えたいことをB紙 に書いたり、書画カメラで提示できるように したりと工夫していた。(写真 7 参照) ①アイガモ農法について ②農薬とお米の関係 ③害虫と益虫について ④お米づくりの歴史について ⑤世界の米作りについて ⑥お米づくりの道具について ⑦お米の栄養について ⑧お米の流通について ⑨お米を使った料理について 子ども達は、似通ったテーマの仲間とグル ープを組み、分担して調べたり、調べた情報 を交流したりしながら、個人課題の追求を行 っていった。その際、単位時間ごとに追求す る方法を一人一人に決定させ、その方法を最 低2時間は続けることで、追求方法の有用性 を実感できるようにした。子ども達は、自分 のテーマ追求に合う方法を確定するまで、調 べる方法をいろいろ試せるようにした。その 結果、自分のテーマ追求に最も有用性の高い 方法を決定し、後の学習活動では教師の指示 なしで活動していた。 仲間同士の交流活動も、クラス内だけでは 少しずつ意欲が減退してくる。 そこで、 「お米」 のホームページを利用して、大阪市の小学校 と交流活動を行うようにした。交流活動は、 「お米」ホームページの掲示板や日記による ものに加え、TV会議システムを利用(平成 13 年 10 月∼11 月実施)して情報の交流を行 えるようにした。(写真 6 参照) (写真 7:書画カメラを使って話す) このような交流活動で得られた情報や、自 分たちが調べてきたことなどを使って、一人 一人が中間報告書を作成した。報告書は、ワ ープロソフト活用して、絵や写真、グラフな どを取り入れレイアウトも工夫したものであ る。作成にかかる時間は、一人一人の機器操 作スキルの習熟度により、かなりの差が見ら れたが全員作成することができた。(写真 8 参照) (写真 8:中間報告書) 中間報告書をみると、自分の活動ファイル から必要な情報を選択し、自分の課題に沿っ て報告書を作成しようとする姿が多く見られ た。絵や写真、グラフ、表などの取り込みや 文書の体裁の整えなど、情報機器活用スキル が付いてきている。しかし、その定着度には (写真 6:TV会議の様子) 子ども達は、県外の小学生と交流をすると いうことで、学習活動に意欲的に取り組むこ とができた。TV会議による交流のための資 9 中間報告書と Web ページを比較すると、記 載される情報の内容が同じでも、情報の表現 方法や記入の仕方に違いをみることができる。 中間報告書は、 「自分のまとめをする」 という コンセプトで作成しているのに対し、Web ペ ージは「多くの人に見てもらう」というコン セプトで作成しようと意識している子が15 人ほどいた。このことは、自分が調べてまと めたことを公開するという活動を通して、 「情報を発信する」ということに対する認識 が高まっていることを示している。追求活動 を行う中で情報活用の実践力が高まり、情報 に対する認識が高まってきたと考えられる。 個人差がかなり存在し、スキルの高い子ども が低い子に教えていく体制を取るようにした。 このことは、インターネット等の情報通信メ ディアを利用した調べ学習においても同様で、 スキルの高い子どもと、低い子どもの差を少 なくしていく手だてが必要である。スキルの 差によって、情報活用の実践力の定着に大き な差が出てきているのも事実である。 中間報告書作成後、報告会を行い、一人一 人の追求状況を発表した。 この交流会により、 追求テーマに変更をした子どもが6人いる。 この子ども達は、課題追求の計画をうまく進 めることができず、自ら追求テーマの修正を 行うことになった。 中間報告会後、自分のテーマのまとめに向 けて、一人一人がまとめの Web ページを作る 活動が主になった。子ども向けの Web ページ 作成ソフトを利用して、中間報告書や新たに 調べた情報を加えて作成を行った。このペー ジは校内 LAN により、全学年に公開するこ とにしたため、どのような内容を、どのよう に伝えるのかを真剣に考え作成する姿が見ら れた。(写真 9,10 参照) 5.成果と課題 ○情報教育の概念を明らかにしたことで、情 報教育に対する基本的なコンセプトを持つ ことができた。 ○「情報活用能力」と「情報リテラシー」の 関連を明らかにすることで、情報リテラシ ー育成カリキュラムの開発方針を確立しカ リキュラムの開発を行った。 ○「教科」「総合」での情報リテラシー育成カ リキュラムの実践・検証により、カリキュ ラムの有用性と実効性が検証できた。 ●全学年を通したカリキュラムの一貫性を明 確にし、情報活用スキルの定着を促進し、 情報活用の実践力を高める必要がある。 〈参考文献〉 ・文部省(1991)「情報教育に関する手引き」 ・文部省(1999)「小学校学習指導要領解説」 ・文部省(1997)「情報化の進展にともなう 初等中等教育における情報教育に関する調 査研究協力者会議」 ・教育システム情報学会 編(2001)「教育シ ステム情報ハンドブック」 ・竹之内 禎「情報リテラシー概念の分析」 ・藤岡完治、大島聡 編(1999)「学校を変え る情報教育」 ・堀口秀嗣 監修(1999) 「総合的な学習と情 報教育」 ・永野和男 編(1995) 「これからの情報教育」 ・水越敏行 編(1999) 「メディアを活かす授 業づくり」 (写真 9:Web ページの作成) (写真 10) 10
© Copyright 2024 Paperzz