観光イノベーションへの挑戦-中国地域白書2014

観光イノベーションへの挑戦
概要
第1節 観光イノベーションの概念と分析視点
本書では「観光行動・ニーズの変化に対応した、集客増などの成果に結び付く新たな取り組み」
を観光イノベーションとした上で、これを事業者レベルと地域レベルに二分し、前者については
資源発掘、事業化、販売、接客、組織体制・制度の各側面、後者については事業者の取り組みの
促進・支援および観光振興の組織体制・制度として捉える。また、その実施主体についても観光
関連等の事業者および行政等の団体に二分して捉える。
観光イノベーションの概念図
観光イノベーション(新たな取り組み)
(調達先獲得) (財貨創出)
資源発掘
事
業
者
観光行動
・ニーズ
の 変 化
(販路開拓)
(生産方式)
販売
接客
事業化
成果
・経済的成果
・社会的成果
(組織実現) 組織体制・制度
先獲得)
事業者の取り組みの促進・支援
源発掘
地
域
観光振興の組織体制・制度
観光イノベーションの実施主体
土産品
小売業
宿泊業
飲食
サービス業
観光施設・資源
農林
水産業
旅客
運送業
情報通信
・出版業
世界遺産、文化財
博物館、美術館、動植物園
スポーツ・レジャー施設
公園、遊園地
旅行業
観光
案内業
(ガイド)
医療
福祉
観光
協会
観光関連事業者・団体
(注)
事業者、
製造業
商工会
行政
(自治体)
農協
漁協
その他の事業者・団体
団体
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中国地域白書 2014
観光イノベーションへの挑戦
概要
第2節 観光イノベーションの背景
全国各地で観光イノベーションが活発化している背景として、国内観光が団体旅行から個人旅
行へ移行しニーズが多様化するとともに、訪日外国人観光(インバウンド)が増大していること
が挙げられる。こうした中、中国地域を訪れる国内観光客は増加傾向にあり、外国人観光客も増
えているが、外国人観光客の全国シェアは低く特にアジアの割合が低くなっている。
中国地域の観光エリアごとにみると、首都圏や中国地域からの観光客が多いのは広島、宮島、
い ずも
倉敷、出雲、関西圏からの観光客が多いのは鳥取であり、広島、倉敷、宮島、出雲が続いている。
こうした実態および前節で整理した観光イノベーションの概念と分析視点(実施主体の明確化)
を踏まえ、下表に掲げる旅行形態・地域(テーマ・対象事例)を取り上げて、中国地域における
観光イノベーションの事例分析を行う。
事例分析対象とする旅行形態・地域
テーマ・対象事例
しんもん
伝統的 出雲大社神門通り
観光地 宮島
うつぶきたまがわ
町並み
倉吉・打吹玉川地区
観 光
概要
出雲大社の大遷宮を契機とした門前町の再生
新商品開発と町家を活かした事業参入による商業観光の活性化
歴史的建造物を活かした商業施設整備等の観光産業化
広島風お好み焼
ご当地グルメのブランド化とフードテーマパークによる誘客
西条酒蔵通り
酒まつりと酒蔵通りめぐりを核とする酒蔵ツーリズムの展開
食観光
真庭市バイオマスツアー
業
み ね
光 宇部・美祢・山陽小野田
のCSRツーリズム
広島湾ベイエリアの体験
田 舎 型修学旅行
ツーリズム
しまね田舎ツーリズム
産
観
山陰地域
インバ 瀬戸内しまなみ海道
ウンド 広島市周辺地域
木質系バイオマスを活かした地域産業振興のツーリズム化
産業遺構・施設を活かし広域で取り組む大人の社会派ツアー
民泊等の体験プログラム整備による体験型修学旅行の誘客
独自の農山漁村民泊等の制度創設による実践者の支援
韓国人登山客をターゲットとした誘客と広域観光の展開
台湾からのサイクリストをターゲットとした受入態勢の整備
外国人観光客向けの二次交通や宿泊サービスの提供と口コミ活用
中国地域観光推進協議会 プロモーション、情報発信、受入態勢整備の広域連携の推進
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中国地域白書 2014
観光イノベーションへの挑戦
概要
第1節 伝統的観光地のブラッシュアップ
出雲大社神門通りや宮島といった伝統的観光地のブラッシュアップでは、地域の伝統や資源を
取り込んだ新たな土産品等の商品開発、近隣地域からの飲食店や土産品店の新規出店のほか、伝
統建築(町家)を活かした旅館や新業態・業種の店舗の立地が事業者の観光イノベーションとな
っている。
地域における観光イノベーションとしては、官民一体、住民理解のもとでの町並み整備や、新
規事業者の参入を支援・促進する受入態勢の形成のほか、事業者の連携による地域全体でのおも
てなし力の強化が挙げられる。
第2節 町並みを活かした観光産業振興
倉吉市の打吹玉川地区における観光産業の創出においては、その初期に第三セクターの赤瓦に
より行われた歴史的建造物のレトロな商業施設への再生と、その後に展開されていく個人商業者
による空き家を活用した多様な商業施設の創出などが事業者の観光イノベーションとなっている。
地域における観光イノベーションとしては、行政・住民による積極的な町並み保存の推進、商
業者等によるイベント開催など町並み観光のソフト面の取り組み、商工会議所や行政による観光
産業化(新規出店)の支援、行政による町並み観光のハード面の受入環境整備が挙げられる。
第3節 食観光と地域産業の相乗的発展
広島風お好み焼と西条酒蔵通りの食観光では、お好み焼フードテーマパークの整備、酒造会社
によるギャラリーや飲食店の併設などの食資源の観光事業化とともに、お好みソースメーカー等
を中心とした食資源のブランド化や食観光連携体制の構築が事業者の観光イノベーションとなっ
ている。
地域における観光イノベーションとしては、酒蔵通りでの食資源の保全と町並み整備の推進、
イベント開催等を通じた食資源の観光事業化やブランド化の促進のほか、散策マップや観光案内
所など食観光受入環境の整備と、酒蔵ツーリズムなど食観光推進体制の構築が挙げられる。
第4節 産業観光による企業と地域の発展
真庭市バイオマスツアーと宇部・美祢・山陽小野田のCSRツーリズムでは、産業資源を活かし
たコンセプト・ストーリーの明確化と関連商品の開発、ガイド配置による解説手法の工夫と顧客
ニーズに対応したツアーの再編、顧客満足度向上への取り組みのほか、宿泊や食事を盛り込むな
ど産業観光の効果を広く波及させる仕組みの構築が事業者の観光イノベーションとなっている。
地域における観光イノベーションとしては、関係主体の連携による着地型産業観光の実施体制
の確立が挙げられる。
iii
中国地域白書 2014
観光イノベーションへの挑戦
概要
第5節 おもてなし精神に支えられる田舎ツーリズム
広島湾ベイエリアや島根県における田舎ツーリズムでは、
「普段着の観光」といえるような地域
のありのままの資源を活用した体験プログラムの提供に加え、感動体験につながる真心のこもっ
たおもてなしの提供が事業者の観光イノベーションとなっている。
地域における観光イノベーションとしては、独自制度・体制による民泊家庭等の育成・支援の
推進、修学旅行生や都市住民をターゲットとしたプロモーションの展開、地域全体でのおもてな
しの提供のほか、田舎ツーリズム普及に向けた独自制度の導入と推進体制の整備が挙げられる。
第6節 インバウンド誘客による新市場開拓
山陰地域、瀬戸内しまなみ海道、広島市周辺地域のインバウンド誘客では、ゲストハウスでの
外国人対応の新たなサービスの展開、韓国や台湾向けなど集客増につながる国別ニーズへの対応、
口コミ情報誘発に資する満足度向上の取り組みが事業者の観光イノベーションとなっている。
地域における観光イノベーションとしては、ターゲットを絞ったプロモーションの展開、言語
別の情報提供など外国人観光客にわかりやすい受入環境整備、地域全体および中国地域観光推進
協議会による広域連携のもとでの外国人観光客への対応が挙げられる。
コラムで紹介した取組事例等
(伝統的観光地のブラッシュアップ)
○新たな魅力創出を続ける国際観光文化都市(松江市)p33
○倉敷美観地区の再生(倉敷市)p34
(町並みを活かした観光産業振興)
も めん
○平田木綿街道の資源掘り起こしと産業化へのチャレンジ(出雲市)p53
(食観光と地域産業の相乗的発展)
○高級食観光・下関ふぐ(下関市)p69
(産業観光による企業と地域の発展)
い わみ
○産業遺産を活かす~石見銀山とたたら製鉄(大田市、雲南市)p85
○ジーンズと学生服のまち・児島(倉敷市)p86
○工場夜景による産業観光と広域連携(周南市)p87
(おもてなし精神に支えられる田舎ツーリズム)
○体験型教育旅行に取り組む五しの里さじ地域協議会(鳥取市)p104
○やまぐちスロー・ツーリズムに取り組むやましろ体験交流協議会(岩国市)p105
(インバウンド誘客による新市場開拓)
○インバウンドの窓口・下関港(下関市)p124
○国際的評価の高い中国地域の観光資源 p125
(観光イノベーションの方向性・ヒント)
○交通インフラ事業者による観光振興の取り組み p132
○観光ビジネスにおける「おもてなし」p137
iv
中国地域白書 2014
観光イノベーションへの挑戦
概要
第1節 観光イノベーションの循環的サイクル
観光関連産業が地域経済を支える基幹産業の役割を果たす上では、付加価値の高い商品・サー
ビスをより効率的に提供することにより生産性を高める必要があり、そのための観光イノベーシ
ョンが求められている。観光イノベーションの概念整理と具体事例を踏まえると、それぞれの取
り組みは、①観光資源を整える「資源発掘・事業化」、②観光客を掴む「ターゲティング」、③観
光客に売る「マーケティングミックス」
、④接客「ホスピタリティ」、⑤円滑化の仕組み・仕掛け
「組織体制・制度」のいずれかの構成要素に位置付けられる。
今後は、観光地のことをよく知る着地側の事業者・団体において、横8の字型の循環サイクル
により観光ビジネスを展開する中で観光イノベーションに挑戦していくことが重要と考えられる。
観光ビジネス展開の構成要素と循環サイクル
モノ・コト
(資源)
①観光資源(お宝)を整える
【資源発掘・事業化】
着
地
側
の
事
業
者
・
団
体
③観光客に売る
【マーケティングミックス】
・現状調査(観光客、資源)
・商品のパッケージ化、プランづくり
・資源の発掘、整理
(各種ツアー、プランの造成・提供)
・商品づくり、観光施設・店舗づくり
・商品(旅行商品、物産)の販促活動
・ターゲットに応じたブラッシュアップ
・資源・商品や地域のブランド化
など
など
従来の旅行商品・
従来の着地型観光
これからの
の考え方・・・・
の考え方
観光の考え方
④接客(おもてなし)
【ホスピタリティ】
②観光客を掴む
【ターゲティング】
・観光客ニーズへの適切な対応
・おもてなしの気運醸成、従業員教育
・受入環境整備(マップ、案内サイン、
情報提供態勢)
など
・余暇の過ごし方、消費動向の把握
・観光ニーズ、観光動向の把握
・ニッチ市場、マニアック市場の把握
・リピーター獲得、顧客情報管理・分析
など
発
地
側
の
観
光
客
(
消
費
者
)
ヒト
(意識・思い)
⑤円滑化の仕組み・仕掛け 【組織体制・制度】
・人材・リーダー、財源、役割分担・連携手法 など
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中国地域白書 2014
観光イノベーションへの挑戦
概要
第2節 観光イノベーションの方向性・ヒント
1.わが社でもできる観光イノベーションの方向性・ヒント
(1) 観光資源を整える「資源発掘・事業化」
ニューツーリズム関連等の①新たな観光商品開発のほか、小売業・飲食サービス業の②土産品
開発やご当地グルメ提供、③買物・飲食の観光事業化、宿泊業の④新たな宿泊サービスの創出や
宿泊サービスの高質・効率化、旅客運送業の⑤交通サービスの観光事業化が求められる。
(2) 観光客を掴む「ターゲティング」
遠方の大都市圏等だけでなく、①地元客をターゲットとした支持獲得が求められる。
(3) 観光客に売る「マーケティングミックス」
地域資源を活かした観光展開に向けて、①地域限定旅行業等を要とする着地型観光マーケティ
ング、特に情報通信技術活用による②旅行商品の情報発信・ブランド化が求められる。
(4) 接客「ホスピタリティ」
観光案内業における①ガイドの魅力的な観光案内による顧客満足度向上のほか、②真心のこも
ったおもてなしや、③情報通信技術を活用したおもてなし力向上が求められる。
(5) 円滑化の仕組み・仕掛け「組織体制・制度」
新たな取り組みを進めるための①社内組織革新や起業、企業間連携とともに、観光関連産業を
核に幅広い産業を巻き込んだ②観光起点の6次産業化や地産地消が求められる。
2.わがまちでもできる観光イノベーションの方向性・ヒント
(1) 観光資源を整える「資源発掘・事業化」の促進・支援
起業家支援の仕組みを構築するなど①新規参入が連鎖的に生じる好循環システム形成とともに、
誘客イベント開催や町並み整備など②新規参入を促す事業環境整備が求められる。
(2) 観光客を掴む「ターゲティング」の促進・支援
関係主体が一丸と成り得る①地域における観光誘客ターゲティングが求められる。
(3) 観光客に売る「マーケティングミックス」の促進・支援
地域を挙げての①地域プロモーション・ブランディングや、同業事業者等が一体化した②組織
的な商品・サービスプロモーションが求められる。
(4) 接客「ホスピタリティ」の促進・支援
人材育成の支援や住民を含めた気運醸成など①地域を挙げてのおもてなし力向上とともに、地
域観光・交通情報の総合的な提供など②地域におけるおもてなし環境整備が求められる。
(5) 観光振興の「組織体制・制度」
ニューツーリズム等の普及に向けた①地域独自の観光振興制度創設、②地域における観光振興
の推進体制確立のほか、経済的効果に社会的効果も含めた③総合的な地域活性化効果発現、さら
に中国地域レベルまでの多様な階層における④観光地をつなぐ広域連携が求められる。
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中国地域白書 2014