食欲低下で体重減少を呈した 73歳男性 沖縄県立 南部医療センター・こども医療センター GIM 症例:73歳 男性 【主訴】 体重減少 食欲不振 【既往歴】 虫垂炎:手術歴(+) 【アレルギー】 特記すべきことなし 【嗜好歴】 タバコ吸わない・酒飲ま ない 【家族歴】 特記すべきことなし 【現病歴】 ・去年9月中旬より、齲歯も影響あり食欲が 低下していた。 ・齲歯の治療後も食欲不振続き、お粥と だし汁を飲めるようになったが、肉や魚に 関しては匂いするだけで食欲がなくなり 吐き気が出てしまう状態であった。 ・体重減少も1ヶ月に3kgあり同年10/30に 内科新患外来を受診する。 【Vital sign】 血圧:100/60mmHg 脈拍:78回/分 体温:35.1℃ 【身体所見】 GCS:full HEENT 顔色:やや黄色 眼:充血(-)/貧血(-)/黄疸(ー) 口:左下歯:治療(+)、ほか特に所見なし 舌:乳頭萎縮なし 頚部:異常所見なし 胸部:wheeze(-)、crackle(-) 心臓:心雑音なし、脈不整 腹部:BS→、軟 圧痛(-) rebound(-) 右側腹部に手術痕(+) 四肢:浮腫(-)、皮疹(-) 直腸疹:mass(-) うーん、何だろ・・・(。 。;) 作戦(=オーダー)をたてましょう。 【Labo data】 • • • • • • • • Na:137mEq/L K:4.4mEq/L Cl:101mEq/L Ca:9.1mg/dl TP:6.5g/dl Alb:3.6g/dl BUN:13mg/dl Cr:1.1mg/dl • • • • • • • • • GOT:25IU/L GPT:15IU/L ALP:152IU/L LDH:174IU/L γ-GTP:39IU/L T.Bil:1.4mg/dl D.Bil:0.5mg/dl Hb-A1C:6.3% BS:112mg/dl 【Labo data】 • WBC:6900/㎕ • RBC:488×10⁴ /㎕ • Hb:14.6g/dl • Ht.:42.5% • MCV:95×10⁴/ml • MCH:32.6pg • MCHC:34.5% • Plt.:24.7×10⁴/㎕ • HTLV-1(+) • HBs(-) • HCV(-) 【Labo data】 尿検査 • 比重:1.012 • 糖(-) • 蛋白(ー) • 潜血(ー) • ケトン体(ー) • ビリルビン(ー) • WBC:<1/HPF 【胸部Xp】 • 浸潤影なし • 腫瘤影なし 【心電図】 ・心房細動 1回目のassessmentをたてましょう。 Problem List #1 体重減少 #2 食欲不振 #3 齲歯 #4 HTLV-1 Assessment #1 消化器悪性腫瘍 #2 感染性疾患 #3 血液疾患 追加の検査項目 • TSH Free-T3 Free-T4 • 腹部CT • FGS CFなどの内視鏡 一週間後・・・ 【現病歴】その後・・・ ・前回の外来からお粥や水分は取れているが、 ほとんど元気がなく寝たきりの状態。 ・体重減少も進んでいる。食事もほとんどとれて いない。 ・体重は69.8㎏→68.2㎏まで減少。 ・しかし、それ以外の症状はない。 ・睡眠はとれている。 【Labo data】 ・TSH:3.775μU/ mL ・Free-T3:3.78pg/mL ・Free-T4:0.53ng/dl 【腹部CT】 ・胆嚢腫大以外特記すべきこと所見なし 【FGS】 ・慢性胃炎 【CF】 ・異常所見なし 10日後・・・ 【現病歴】その後 ・食事摂取できるようになってきた。意欲も向上 している。倦怠感も軽減。 ・本人は元気になっているとの家族のコメントも あり。 ・Vital sign 身体所見 体重の変化などは著変 なし。 【現病歴】さらにその後・・・ • 外来でのさらなる精査予定を組んだが本人 の同意が得られず。心房細動に対する外来 での治療の話も出たが本人は拒否され、外 来も1月以降は来なくなっていた。 【現病歴】さらにさらにその後・・・ • しかしながら外来に来ていなかった間は、食 欲もほとんどなく、体重減少は止まらずに何 度も家族から病院へ行こうとすすめられてい た。が、本人は❝病院嫌い❞で拒否していた。 次第に脱力が生じ家庭内での生活にも支障 が出てほとんど寝たきりの状態となっていた。 • 10月に外来受診してから6ヶ月経過した時点で、 20kgの体重減少をきたした。食事量がほとん ど減り、受診前の2、3日間は食事もほとんど 摂取できず、すぐに吐いてしまう状態であった ため、3/16内科外来受診した。 • 腹痛や下痢、便秘などの消化器症状や、頭痛、 麻痺などの神経症状も認めない。 • 昨年の9月ごろに長女からカナダ在住の恋人 との結婚の話が浮上し、本人は婚約に反対で あったが、長女は強引に婚約してしまった。そ の頃と食欲低下が重なっていると家族は話し ていた。 【Vital Sign】 • 血圧:104/60mmHg • 脈拍:60回/分 • 呼吸数:18回/分 • 体温:35.2℃ • SPO2:100%(RA) • 体重73→53㎏、明らかに痩せている。 【身体所見】 GCS:full HEENT 眼:充血/貧血/黄疸(ー) 瞳孔3/3 対光反射(+) EOM:full 眼振(ー) 口:義歯(+) 咽頭発赤(ー) 扁桃腫大(ー) 頚部:リンパ節腫脹(ー) goitor(ー) 胸部:W/C(ー)左右差なし HS:心雑音なし、脈不整 腹部:BS→、軟 圧痛(-) rebound(-) 右側腹部に手術痕(+) 直腸診:前立腺やや腫大 硬結なし 直腸内にmass(-) 便潜血(-) 四肢:浮腫なし 振戦なし ばち状指なし 【身体所見】 • 神経学的所見は異常なし • MMT:上肢5/5 下肢5/5 • 歩行可能 • 運動失調なし 【Labo data】 • Na:129mEq/L • K:4.1mEq/L • Cl:94mEq/L • Ca:9.1mg/dl • Mg:2.0mg/dl • TP:7.0g/dl • Alb:4.1g/dl • BUN:18mg/dl • Cr:0.8mg/dl • UA:4.2mg/dl • • • • • • • • • GOT:3.5IU/L GPT:17IU/L ALP:265IU/L LDH:169IU/L LAP:84IU/L γ-GTP:39IU/l ChE:216IU/L Amy:91IU/L BS:50㎎/dl • • • • • • • • • TG:62mg/dl T.chol.:149mg/dl HDLchol.:33mg/dl T.Bil:1.2mg/dl D.Bil:0.5mg/dl Fe:80μg/dl TIBC:168μg/dl UIBC:88μg/dl フェリチン:844ng/ml 【Labo data】 • WBC:7500/㎕ • RBC:411×10⁴ /㎕ • Hb:13.2g/dl • Ht.:38.0% • MCV:93×10⁴/ml • MCH:32.2pg • MCHC:34.8% • Plt.:18.7×10⁴/㎕ 2回目のassessmentをたてましょう。 Problem List #1 体重減少 #2 食欲不振 #3 心房細動 #4 貧血 #5 低ナトリウム血症 #6 娘の婚約 Assessment #1 消化器悪性腫瘍 #2 内分泌疾患 #3 精神疾患 鑑別していきましょう 悪性腫瘍 甲状腺機能亢進/低下症 感染性疾患/慢性疾患 うつ病 糖尿病 副腎不全 尿毒症 COPD 拒食症 炎症性腸疾患 吸収不良症候群 どんどん除外診断していきましょう! 病歴・身体所見のまとめ • 約20kgの体重減少と食欲不振 • 元気がない、易疲労感 • 身体所見上では明らかな異常はない • 既往歴も特にない • 娘が婚約・・・ 検査まとめ 胸部CT:右肺尖部の陳旧性胸膜肥厚 腹部CT:前立腺腫脹 FGS:慢性胃炎所見 CF:異常所見なし 心電図:Af 心US:EF preserved 【追加 WORK UP】 腫瘍マーカー • CEA:1.3ng/ml • PSA:1.89 • CA19-9:5.9U/ml • CA125:28.9U/ml • SCC:1.0ng/ml • AFP:<1.0ng/ml • RPR:(-) • TPHA(-) • 抗核抗体:40倍 • 精神科コンサルト 精神科コンサルテーション 病室来訪時、横になってテレビを見ているが起き上が れない。表情は笑顔なく、精彩なし。体の倦怠感を訴 える。意欲はあると発言しているが、話の内容からは エネルギーが感じられない。 診断:うつ病 抑うつ気分、意欲低下が持続し、体重減少もあり、 診断基準を満たしている。 精神症状の自覚がなく、自律神経症状の目立つ 「仮面うつ病タイプ」。症候性の除外が必要。 症候性の抑うつ状態をきたす 疾患の鑑別 • 脳器質的疾患 – – – – 脳血管障害、脳炎、脳腫瘍 アルツハイマー病、正常圧水頭症 多発性硬化症 側頭葉てんかん • 甲状腺機能亢進症/低下症 • 副腎機能不全症 • ペラグラ、ビタミンB12欠乏症 • 薬物誘発性のうつ症状 (インターフェロンや鎮静剤な ど) 【さらに追加 Labo data】 ACTH:6.3pg/mL コルチゾール血清:1.0以下㎍/dl Rapid ACTH test(コートロシンテスト) ①負荷前採血 →コルチゾール:5.1㎍/dl ②コートロシンⓇ250㎍(1Ap)IV ③30分後採血 →コルチゾール:1.2 ㎍/dl ④ ①と③の間で9㎍/dl以上の増加がなければ副腎 不全にて治療開始する。 治療はソル・コーテフ100㎎をIV ソル・コーテフ100㎎IV後数時間後訪床すると 「ついにやりました!」 との発言あり。表情も明るくなり、 食事量もUPしてきた。 dynamic pituitary function test TRH(ヒルトニン)200㎍ LHRH(ルタミン)100㎍ GRH(ソマトレリン)100㎍ CRH(ヒトCRH)100㎍ を負荷し、負荷前と負荷後(30・60・90分)の各 種内分泌分泌反応をみる。 結果は・・・ FSH mIU/ml LHRH GRH GH ng/dl 25 100μg LH 100μg 50 mIU/ml 50 20 40 40 15 30 30 10 20 20 5 10 10 0 30 ACTH CRH pg/ml 50 60 90 120 cortisol μg/dl 25 100μg 0 TSH μIU/ml 25 30 60 90 TRH 120 PRL 200μg 25 ng/ml 40 20 20 20 30 15 15 15 20 10 10 10 10 5 5 5 0 30 60 90 120 0 30 60 90 120 以上の検査結果をふまえて・・・ 診断 ACTH単独欠損症 治療: 当初、抗うつ薬も開始したが、症状改善せず。 ソル・コーテフ100mg使用すると →数時間後には表情改善し、意欲向上した。 翌日より、プレドニン10mg開始した。 経過 ステロイド使用後2日目には、食事(1600kcal)を 全量摂取することができた。とくに悪心嘔吐なく、 過ごされた。病棟内歩行も可能であり、表情が全く 異なっていた。 10日後には本人の希望により退院となった。 ACTH単独欠損症 ACTH産出細胞の障害 ACTH分泌低下 コルチゾール分泌低下 続発性副腎皮質機能低下症 ACTH単独欠損症の障害 動脈硬化による 血管障害 自己免疫性の機序 • 橋本病などの合併率が高い • 抗TPO抗体 遺伝子異常 • 抗ミクロゾーム抗体 • 抗下垂体抗体 ACTH産出細胞の障害 ACTH単独欠損症の症状 ① 全身倦怠感 93% ② 食欲不振 78% ③ 精神機能低下 67% ④ 低血圧 63% ⑤ 低血糖 62% ⑥ るいそう 58% ⑦ 耐寒性低下 47% ⑧ 無月経、性欲低下 45% ⑨ 皮膚乾燥 40% ⑩ うつ状態 27% ⑪ 陰毛、腋毛の脱落 27% ACTH単独欠損症の症状 ① 全身倦怠感 93% ② 食欲不振 78% ③ 精神機能低下 67% ④ 低血圧 63% ⑤ 低血糖 62% ⑥ るいそう 58% ⑦ 耐寒性低下 47% ⑧ 無月経、性欲低下 45% ⑨ 皮膚乾燥 40% ⑩ うつ状態 27% ⑪ 陰毛、腋毛の脱落 27% ACTH単独欠損症の診断 いきなり上記の診断を疑うことはない! 副腎不全の鑑別をして診断につなげる! • 病歴・身体所見 • スクリーニングテスト • ホルモン負荷テスト 副腎不全の鑑別 症状や身体所見から疑う スクリーニングテスト コートロシン250μgを静注後 30、60分後のコルチゾール を測定 正常以下:副腎不全 ACTH高値: ACTH低値: 続発性副腎不全 原発性副腎不全 ACTH高値: 原発性副腎不全 ★特発的萎縮:自己免疫性、副腎白質ジストロフィ ★感染症: 結核 真菌(ヒストプラズマ、コクシジオイデス) HIV ★出血 ★癌や病気の浸潤 ACTHの上昇 色素沈着が 身体所見での 鑑別のポイント ACTH低値:続発性副腎不全 ★下垂体機能低下 • • • • ACTH単独欠損症 リンパ球性下垂体炎 下垂体腫瘍、出血 術後 ★ステロイド使用による下垂体系の抑制 既往歴や薬物使用歴を正確に聴取すること! ホルモン負荷テスト ~ MEGA test /dynamic pituitary test • TRH200㎍ • LHRH100㎍ • GRH100㎍ • CRH100㎍ 0 30 60 TSH ○ ○ T3 △ PRL ○ ○ ○ △ LH ○ ○ ○ △ FSH ○ △ ○ ○ GH ○ ○ ○ △ ACTH ○ ○ ○ △ Corisol ○ △ ○ ○ ○ 90 分 △ △ FSH mIU/ml LHRH GRH GH ng/dl 25 100μg LH 100μg 50 mIU/ml 50 20 40 40 15 30 30 10 20 20 5 10 10 0 30 ACTH CRH pg/ml 50 60 90 120 cortisol μg/dl 25 100μg 0 TSH μIU/ml 25 30 60 90 TRH 120 PRL 200μg 25 ng/ml 40 20 20 20 30 15 15 15 20 10 10 10 10 5 5 5 0 30 60 90 120 0 30 60 ACTH単独欠損症の場合 90 120 FSH mIU/ml LHRH GRH GH ng/dl 25 100μg LH 100μg 50 mIU/ml 50 20 40 40 15 30 30 10 20 20 5 10 10 0 30 ACTH CRH pg/ml 50 60 90 120 cortisol μg/dl 25 100μg 0 TSH μIU/ml 2.5 30 60 90 TRH 120 PRL 500μg 25 ng/ml 40 20 2.0 20 30 15 1.5 15 20 10 1.0 10 10 5 0.5 5 0 30 60 90 120 0 30 60 90 120 汎下垂体機能不全(リンパ球性下垂体炎での例) ACTH単独欠損症の治療 通常の副腎不全の治療に準じる • 急性期治療 • 慢性期治療 副腎不全の治療~急性期 副腎不全の治療~慢性期 ヒドロコルチゾン(コルチゾール)は、普通20~30mg/日 程度である。生理的な分泌に合わせて、1日投与量の 2/3を朝、1/3を夕に服用する。 potency • Cortisol • Cortisone • Prednisolone • Dexamethasone Dose Relative 20mg 25mg 5mg 0.75mg 1.0 0.8 4.0 30-150 最後に~ meals on wheels M:medication E:Emotional (情緒障害、うつ病) A:Alcoholism、abuse、anorexia L:Late Life Paranoia (老年期妄想状態) S:Swallowing Problem (嚥下障害) O:Oral Problem (口腔内・歯障害) N:Nasocomial Infection (結核・偽膜性腸炎・ピロリ感染) W:Wandering (徘徊などの行動障害) H:Hyperthyroidism、Hyperglycemia E:Enteral Problems (腸の吸収障害) E:Eating Problem (摂食障害) L:Low salt、Low cholesterol (減塩、低コレステロール食などの食事制限) S:Stones、Shopping Problems (胆石、食材買い物困難)
© Copyright 2024 Paperzz