第3回

平成 18 年度(財)日本情報処理開発協会
委託調査
「小中学校におけるIT基盤整備に関する調査研究」∼概要∼
∼教員一人一台のコンピュータ整備に向けた校務情報化の実態を調査∼
第3回報告∼海外先進事例の分析①
6月 1 日発行の第85号から始まった連載(10 回)の第3回目の今回は、校務情報化について台
湾台北市で展開されている先進的なシステム化事例をヒアリング調査した結果を下記に報告する。
台湾台北市での訪問先は、政府教育局、国立台湾師範大学、台北市立麗山高級中学、台北市立建
政國民中学、台北市立大湖國民小学である。なお、中国、韓国については文献調査を行っており、
第4回と第 5 回で報告する。
(1)台湾における教育制度の概要
・台湾では、日本の文部科学省に当たる教育部が台湾全体の教育について法令の制定や指導・監
督を行っている。また、台湾省では教育庁が、台北、高雄の直轄市では市の教育局が管轄して
いる。直轄市以外の市や県では各教育局が所管している。
・台湾の学制は6,3,3,4年制で、義務教育(国民教育)は国民小学6年、初等中学3年の
計9年間で日本と同じ(授業料無料)である。
(2)日本との大きな違いは、台北市政府教育局が校務の情報化システムを約 10 年も前から市内
の各学校に提供していることである。これは、もっぱら日本が授業の情報化にのみ集中的に予算
を投下してきたのとは対照的である。
・台北市は中華民国政府の直轄市であるため、他の市や県よりも多額の教育情報化予算が投入さ
れており、施設設備ともに日本の平均的な学校よりもはるかに充実している。一般的に情報化
予算は小中学校よりも高等学校のほうがより多額だが、その使い方は各学校に任されていて、
その効果や成果は学校ごとに異なる。台北市は、教育へのコンピュータやネットワーク利活用
のために、ITに詳しい教員を市政府教育局に出向させている(職員 200 名中 10 名くらい)。
・個別の学校で開発した校務ソフトでも、各学校で利用できるところはお互いに取り込んでいる。
(3)こうした状況の中で、生徒の成績管理や出欠管理、時間割作成、報告書作成、校長の業務報
告や予算要求、事務職員の校納金管理や施設管理、備品購入等の市政府への申請などに到るまで、
幅広い業務がシステム化、ネットワーク化されている。その導入は国民中学校が一番早く 1996
年、国民小学校が 1997 年、高級中学校が 1998 年より校務にコンピュータを導入し始めている
が、システムの開発・委託はすべて同一メーカー1 社に委託している。
・既に 10 年以上運用しているシステムは、近々第二世代に切り替える予定になっている。また、
出欠管理についてはデジタル学生証によって行い、その内容や成績については学校のホーム
ページ上で生徒や保護者が閲覧できるようになっている。
(4)通知表の扱いについて日台で異なる点は、日本では、児童・生徒に関する所見を集めて教員
が評価・記載するのが一般的であるのに対して、台湾では文章での所見がなく、成績のみが記載
される事である(台湾での所見とは、面談や相談の診断に近いもののようである)。
(5)教員の質を上げるために、インターネット、パワーポイント、アウトルック、ワード、エク
セルのうち3つ以上を習得するよう検定試験があり、市政府が教育も行っていて、教員自身の努
力もあり、かなり活用能力が上がってきている。例えば、学級ごとにホームページを持っていて
教員が更新したり、全生徒の情報を教員同士が閲覧できるようにしている。ただし、情報セキュ
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リティ担当者は訪問した学校では一人で、ほぼ専任とはいえ、かなり忙しい。
(6)校務の情報化をして教員がメリットを感じるのは、手作業の削減、正確さのほか、生徒だけ
でなく、親も情報を入手できること、そして、個別の学級、生徒や担任に問題が生じても、すば
やい対応策や予防策をとることができるということにある。
・ただし、いくら校務を情報化しても、コンピュータに詳しい校長がリーダーシップをとってい
ても、教員にはそれほど余裕はない、というのが本音のようである。とはいえ、各学校が市政
府教育局と良好な関係を築いており、市政府や周りの教員のサポートがあるからこそ、教員一
人一人のヤル気、バイタリティがあふれており、この点は日本とかなり異なっているといえる。
(文責事務局 村松)
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