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Milliman Client Report
Prepared for:
株式会社日本医療データセンター
Prepared by:
ミリマン東京オフィス
岩崎宏介
小合徳幸
出井基晴
ヘルスケア部門
放置高血圧者の受診勧奨の医療費削減効果
について
〒102-0083
東京都千代田区麹町 1-6-2
アーバンネット麹町ビル8階
Tel 03 5211 7031
Fax 03 5211 7034
jp.milliman.com
2014年1月
Milliman Client Report
目次
背景 ...................................................................................................................................................................... 3
要約 ...................................................................................................................................................................... 4
分析結果 .............................................................................................................................................................. 5
1.
2.
3.
4.
5.
データソース .......................................................................................................................................... 5
放置高血圧者の有病率 ............................................................................................................................ 5
放置高血圧者の医療費 .......................................................................................................................... 10
非糖尿病放置高血圧者に対する受診勧告による降圧剤服用後医療費の削減 ...................................... 12
注意点 ................................................................................................................................................... 13
禁煙外来の医療費削減効果について
2014年1月
2
Milliman Client Report
背景
日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン(2009 年)によると、収縮期血圧が 140mmHg 以上または拡張期
血圧が 90mmHg 以上の状態を高血圧と定義しています。本態性高血圧(一次性高血圧)とは、特に明らかな
異常がなく原因がはっきりしない高血圧をいいます。遺伝的な要素や生活習慣が関係していると考えられて
おり、高血圧患者のうち 9 割以上がこれに該当します。一方、二次性高血圧とは、腎臓病やホルモン異常な
ど、明らかな原因となる病気があって生じる高血圧をいいます。こちらは、原因となる病気が治ると高血圧
も改善します。高血圧自体は自覚症状が乏しいですが、そのまま放置しておくと動脈硬化を起こし、やがて
脳卒中や心臓病などの合併症を引き起こします。
厚生労働省の平成 23 年 患者調査によると、日本の高血圧性疾患の患者(継続的に医療を受けている者)は
906.7 万人いるとされており、増加傾向にあります。また、厚生労働省の平成 23 年 国民健康・栄養調査によ
ると、収縮期血圧が 140mmHg 以上または拡張期血圧が 90mmHg 以上の人は 35.4%いるとされています。
(これは降圧剤服用者も含めた上での割合を表します。)これを人口に換算すると約 4,526 万人にもなり、
潜在的な高血圧患者が多く存在することが推測されます。
厚生労働省によると、平成 23 年度の国民医療費は 38 兆 5,850 億円とされています。一人当たりでは 30 万
1,900 円となり、全体でも一人当たりでも増加傾向にあります。年齢別では 65 歳以上が 55.6%を占め、傷病
分類別では循環器系の疾患(高血圧性疾患、心疾患、脳血管疾患など)と新生物(がんなど)だけで 33.9%
を占めます。このように、区分ごとに医療費とその人口を見ていくと、特定の病気を持つ少人数の集団が大
部分の医療費を押し上げているという構造が浮かび上がってきます。
政府が推進する「データヘルス計画」とは、保険者が保有するレセプトや特定健診・特定保健指導などの情
報を活用し、加入者の健康づくりや疾病予防、重症化予防につなげるという事業です。この中では、データ
の活用にもとづいた計画の策定と具体的な事業をPDCAサイクルで実施することを健保組合に求めていま
す。こうした取り組みにより、加入者の健康管理が可能となるだけでなく、特定の病気を持つ患者に対する
予防策による全体の医療費の抑制といった、費用対効果を追求した保険事業を実施することが可能となりま
す。
このレポートでは、高血圧値を健康診断で指摘されていながら高血圧の治療を受けていない、いわゆる放置
高血圧者を早期に受診させるというアクションが、どの程度医療費の削減に結び付くのか、試算しました。
禁煙外来の医療費削減効果について
2014年1月
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要約
血圧値が高いことを健康診断などで知りつつ、医師の診断を受けず高血圧の治療を開始せずにそのままにし
ておく人を、放置高血圧者と呼ぶことにします。標準的な組合員1万人の健保組合において、放置高血圧者
は約705人いるものと推定されます。最も人数が多いのは男性の働き盛りである40代の人たちです。放
置高血圧者は血圧値が高いことを知りつつ、平均6年そのまま放置しています。
放置高血圧者に対しては、受診勧告を行うことが必要です。受診勧告によって、彼らは早期に高血圧の治療
を受けることができて、将来の合併症を防ぐことができると同時に、合併症による多額の医療費を削減する
ことができます。
日本医療データセンターのデータを用いて計算すると、1年長く放置すると、降圧剤服用後医療費は 11%増
加することがわかりました。この結果、もし組合員1万人の標準的な健康保険組合が、過去に遡ってすべて
の中位度以上(160/100 以上)高血圧者に受診させていたら、毎月の医療費は 52 万円安くなっていたことに
なります。この額は、組合員1人当毎月 52 円になります。
禁煙外来の医療費削減効果について
2014年1月
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分析結果
この章では、詳細な分析方法とそれに基づく結果を、順番に述べます。
1. データソース
日本医療データセンターの保有する170万人分のデータのうち、健康診断データを持つ健保組合を選び、
それらのレセプトデータ、適用データ、健康診断データ(2005年1月から2012年12月まで、のべ
42百万人月)を用いました。月別加入人数は下図のようになりました。
図 1 データソースにおける年月別加入人数の推移
800,000
700,000
600,000
人数
500,000
400,000
家族
300,000
従業員
200,000
100,000
200501
200506
200511
200604
200609
200702
200707
200712
200805
200810
200903
200908
201001
201006
201011
201104
201109
201202
201207
201212
0
年月
2. 放置高血圧者の有病率
放置高血圧者とは、健康診断の結果血圧が高いことがわかっていながら、医師の診断を受けていない人を指
します。この人たちが人口に対してどの程度の割合で存在するのか(有病率)を見るために、以下、組合員
全体を、血圧によって分類し、さらに降圧剤を服用しているかどうかで区分し、年齢別性別の分布を計算し
ます。
放置高血圧者の有病率を特定するための分母
まず、最新の状況から健保組合に標準的な年齢別性別の人数分布を計算します。ここでは、まず、上述のデ
ータソースから、2012年1月に加入状態にある人のみ、合計70万人を抽出しました。次に性別年齢グ
ループ別に集計し、70分の1を乗じて、総組合員数1万人の健保組合の標準的な年齢別性別人数分布を計
算しました。
結果は次の図のようになります。この1万人のうち 7,592 人が年齢20歳以上となります。
禁煙外来の医療費削減効果について
2014年1月
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図 2 標準的な健保組合の年齢別性別分布(対1万組合員)
700
600
500
人数
400
300
男性
200
女性
100
0
年齢グループ
高血圧の基準
血圧には、心臓の収縮期と拡張期により、収縮期血圧と拡張期血圧の2種類があります。日本高血圧学会の
高血圧治療ガイドラインにより、高血圧者を次のように定義します。
糖尿病の有無
血圧
糖尿病患者
収縮期血圧 130mmHg 以上または拡張期血圧 80mmHg
それ以外
収縮期血圧 140mmHg 以上または拡張期血圧 90mmHg
以下、糖尿病患者の定義を、糖尿病と診断されたか、もしくは糖尿病薬を服用している人と定義しました。
なお、糖尿病の診断は、国際疾病分類大10版(ICD10)コードにより、下のいずれかのコードを有するレ
セプトデータを持っていることとしました。
ICD10 コード
内容
E10
インスリン依存性糖尿病
E11
インスリン非依存性糖尿病
E12
栄養障害に関連する糖尿病
E13
その他の明示された糖尿病
E14
詳細不明の糖尿病
糖尿病薬は、解剖治療化学分類(ATC 分類)において A10 糖尿病用薬と定義しました。
禁煙外来の医療費削減効果について
2014年1月
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高血圧者の割合
標準的健保組合の20歳以上の組合員(7,592 人)において、上記の定義による高血圧者数とその割合は、次
のようになりました。
表1
標準的健保組合における高血圧者の割合
20歳以上の組合員
うち糖尿病患者
うち糖尿病患者以外
高血圧者数
高血圧者の割合
970
13%
307
50%
663
9%
なお、この高血圧者には、過去に高血圧と診断され降圧剤を服用しているため血圧がコントロールされてい
る人を含みません。彼らを加えれば、高血圧者の割合はさらに大きくなります。
年齢・性別には次の図のようになります。
図 3 高血圧者の年齢別性別割合
45%
40%
高血圧者の割合
35%
30%
25%
男性
20%
女性
15%
10%
5%
0%
20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64
年齢グループ
65+
この図から次のようなことがわかりました。

男性65歳以上を除いて、加齢とともに高血圧者の割合は増加する。

男性の割合は女性の割合よりも大きい。
なお、男性65歳以上において高血圧者の割合が若干減少するのは、データソースが健保組合であることか
ら、65歳以上のグループは健康で働くことができる方々の割合が大きくなっているためだと考えられます。
また、血圧別の組合員数は次の表のようになります。図の中で赤く塗った部分が高血圧と定義された人たち
です。糖尿病患者において高血圧者の割合が大きい(50%)理由は、高血圧の定義が 130/80 と、糖尿病患者
でない人の定義 140/90 に比べて低いからだけではなく、血圧値の高い人の割合が大きいからでもあることが
わかります。実際、糖尿病患者の中で 140/90 以上の人の割合は 22%で、非糖尿病患者の中で 140/90 以上の
人の割合 9%よりも2倍以上大きくなっています。
禁煙外来の医療費削減効果について
2014年1月
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表2
標準的健保組合の血圧別組合員数とその割合
130/80 未満
130/80 以上 140/90 未満
140/90 以上 150/100 未満
150/100 以上 160/100 未満
160/100 以上 180/110 未満
180/110 以上
合計
高血圧者数
高血圧者の割合
対1万組合員
血圧別分布
組合員数
合計=100%
20歳以
20歳以
上組合員 糖尿病者 その他 上組合員 糖尿病者 その他
5,208
302
4,906
69%
50%
70%
1,586
172
1,414
21%
28%
20%
483
78
405
6%
13%
6%
128
24
104
3%
6%
2%
146
27
119
1%
2%
1%
41
6
35
1%
1%
1%
7,593
610
6,983
100%
100%
100%
970
307
663
13%
50%
9%
また、非糖尿病高血圧者中、血圧が 160/100 を超える者の割合は 23%(=(119+35)/663)となり、180/110 を
超える者の割合は 5%(=35/663)となります。
高血圧者中降圧剤服用者の割合
高血圧者の中で、降圧剤を服用している人の割合は次の表のようになりました。糖尿病患者の降圧剤服用者
の割合は 50%にのぼるものの、非糖尿病患者の降圧剤服用者の割合はわずか 17%であるため、全体の降圧剤
服用者の割合は 27%にとどまっています。
表3
高血圧者のうち降圧剤を服用している者の割合
高血圧者数
20歳以上の組合員
うち糖尿病患者
うち糖尿病患者以外
970
307
663
高血圧者中
うち降圧剤服用者 降圧剤服用者の割合
266
27%
153
50%
112
17%
なお、降圧剤は、解剖治療化学分類(ATC 分類)において次のいずれかの薬と定義しました
ATC コード
内容
C02
降圧剤
C03
利尿剤
C07
ベータ遮断薬
C08
カルシウム拮抗剤
C09
レニン・アンジオテンシン系作用薬
年齢・性別に、高血圧者中降圧剤服用者の割合は、次の図のようになります。男女ともほぼ変わらず、年齢
が増すにつれて降圧剤を服用する者の割合は増えることがわかりました。
禁煙外来の医療費削減効果について
2014年1月
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図 4 高血圧者中降圧剤服用者の年齢別性別割合
60%
降圧剤服用者の割合
50%
40%
30%
男性
女性
20%
10%
0%
20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65+
年齢グループ
放置高血圧者は、高血圧者でありながら降圧剤を服用していない人たちです。上記の分析から、組合員1万
人の標準的健保組合における放置高血圧者数は 705 人(=高血圧者数 970-うち降圧剤服用者数 266)とな
ります。年齢・性別の放置高血圧者数は次の図のようになります。
図 5 標準的健保組合における年齢別性別放置高血圧者数(組合員一万人当)
80
70
放置高血圧者
60
50
40
男性
30
女性
20
10
0
20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64
年齢グループ
65+
これにより、放置高血圧者数は

男性が女性よりも2倍以上多い(男性 494 人、女性 210 人)。

男性は40代(働き盛り)がピーク
となることがわかりました。
禁煙外来の医療費削減効果について
2014年1月
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3. 放置高血圧者の医療費
高血圧者の医療費
標準的な健保組合において、1人当毎月医療費と医療費指数を血圧別に計算すると、次の表のようになりま
す。医療費指数とは、年齢・性の影響を除いた後に、医療費が平均に比べてどのくらいの割合になるかを示
した指数です。具体的には、医療費を、年齢調整後組合員平均医療費(年齢・性別組合員平均医療費を、該
当部分の年齢・性別分布で加重平均した額)で割ったものです。
この表から次のことがわかります。

高血圧者の医療費は、平均医療費の約2倍(14670/7630=1.9)。年齢・性による影響を排除し
ても、高血圧者の医療費は平均の 1.39 倍となる。

高血圧者の医療費が高い主な理由は、糖尿病患者と降圧剤服用者の医療費が高いから。実際、非
糖尿病患者でかつ降圧剤を服用していない高血圧者(非糖尿病非降圧剤服用者)の医療費は、平
均医療費よりも安い。

非糖尿病非降圧剤服用者についても、血圧が高ければ高いほど、医療費は高くなる。しかしなが
らその理由は、高齢者の割合が大きくなるから。実際、医療費指数は、血圧によって増加してい
ない。
表4
標準的健保組合における1人当毎月医療費と医療費指数
1人当毎月医療費
医療費指数
非糖尿病 非糖尿病
非糖尿病 非糖尿病
20歳以上 糖尿病患 非降圧剤 降圧剤服 20歳以 糖尿病患 非降圧剤 降圧剤服
組合員
者
服用者
用者
上組合員
者
服用者
用者
130/80 未満
¥6,671
¥24,290
¥5,234
¥22,626
95%
236%
78%
195%
130/80 以上 140/90 未満
¥8,544
¥26,723
¥5,281
¥19,871
103%
226%
70%
159%
140/90 以上 150/100 未満
¥11,645
¥28,113
¥6,158
¥21,736
117%
223%
70%
170%
150/100 以上 160/100 未満
¥12,504
¥26,653
¥6,904
¥19,591
114%
200%
71%
143%
160/100 以上 180/110 未満
¥13,043
¥26,628
¥6,348
¥23,600
119%
204%
64%
189%
180/110 以上
¥12,430
¥25,366
¥8,311
¥17,786
118%
221%
83%
148%
合計
¥7,630
¥25,673
¥5,340
¥21,344
100%
228%
75%
173%
高血圧者
¥14,670
¥27,034
¥6,414
¥21,547
139%
221%
70%
168%
放置期間別放置高血圧者の医療費
放置高血圧者について、放置期間を、健康診断で初めて高血圧と指摘されてから降圧剤を服用するまでの期
間(ただし4か月以上)と定義します。2005年から2012年までのデータの中で特定された放置高血
圧者の放置期間別分布(ただし放置期間が27か月以内のみ)は次の図のようになりました。
しかしながら下の図は次の2つの理由で、放置月別放置者の完全な分布を表したものではありません。

放置月が28月以上となっている者も存在するため

観測可能期間が有限なので、観測期間を超えて降圧剤を服用したかどうかわからないため
禁煙外来の医療費削減効果について
2014年1月
10
Milliman Client Report
図 6 放置期間別放置高血圧者数(データ中のサンプル数)
140
放置高血圧者数
120
100
80
60
40
20
0
4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27
放置月
放置月の分布、特に平均放置月数を計算するには、(放置月が4か月以上の)放置者を集め、3月目を10
0%として、診断されればそこから落ちていくという生存分析モデル(この場合は「生存」ではなく「放置」
i
となります)を考えます。カプラン・マイヤーの方法 から推定される平均放置期間は 72.2 月すなわち約6年
になります。
放置期間別に、降圧剤服用後の1人当毎月医療費を計算すると、次の図のようになりました。これは、放置
期間が1年伸びれば、降圧剤服用後医療費は 12%(=exp(0.1118)-1)増加することを示しています。図8に
よって、年齢による医療費増加分は 0.8%(=exp(0.0077)-1)であることがわかるので、放置期間1年増加
によるネットの医療費増加割合は 11%となりました。
降圧剤服用後1人当毎月医療費指数
図 7 放置期間別降圧剤服用後医療費
(放置期間=0の医療費を100%とした指数)
180%
160%
140%
120%
y = e0.1118x
R² = 0.5221
100%
80%
60%
40%
20%
0%
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
放置期間グループ
禁煙外来の医療費削減効果について
2014年1月
11
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図 8 年齢別放置高血圧者の服用後医療費
降圧剤服用後1人当毎月医療費
¥40,000
¥35,000
¥30,000
¥25,000
y = 20162e0.0077x
R² = 0.7339
¥20,000
¥15,000
¥10,000
¥5,000
¥0
20
30
40
50
60
70
80
年齢
4. 非糖尿病放置高血圧者に対する受診勧告による降圧剤服用後医療費の削減
糖尿病患者でない放置高血圧者に対して受診勧告を行い、その者が降圧剤を服用した場合の、降圧剤服用後
医療費はどのくらい削減できるかを、モデルを使ってシミュレーションします。
放置高血圧者1人に対するシミュレーション
組合員1万人の標準的健保組合において、非糖尿病降圧剤服用者は、表3より人数は 112 人、表4より1人
当毎月医療費は 21,547 円となることがわかります。この 112 人は、平均6年放置された後に降圧剤を服用し
始めたものと見なせます。
以下、既存放置者と新規放置者について、降圧剤服用後の医療費削減額をシミュレーションします。
まず、新規放置者については、受診勧告を行わなければ平均6年放置され、医療費は現在の降圧剤服用者の
平均である 21,547 円となると考えられます。もし放置期間が6年から0年に短縮されたならば、降圧剤服用
後医療費は 11,467 円(=21547/1.11^6)となるので、医療費削減額は 10,080 円となります。
既存放置者については、現時点ではすでに3年放置されたと見なせます。もし放置期間が6年から3年に短
縮されたならば、降圧剤服用後医療費は 15,718 円(=21547/1.11^3)となるので、医療費削減額は 5,828 円
となります。
表 5 受診勧告による医療費削減モデル(放置者1人当り)
現時点で受診した場合の医療費(毎月)
現時点の放置年数
これからの放置年数
診断後医療費削減率(毎放置年)
放置後医療費
医療費削減額(毎月)
禁煙外来の医療費削減効果について
2014年1月
既存放置者
¥15,718
3.0
3.0
11%
¥21,547
¥5,828
新規放置者
¥11,467
0.0
6.0
11%
¥21,547
¥10,080
12
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健保組合全体のシミュレーション
組合員1万人の標準的健保組合において、過去に遡って、非糖尿病で中位度以上の高血圧(160/100 以上)
と判明したすべての人に、即座に受診させ、受診したすべての人がが降圧剤を服用した場合のシミュレーシ
ョンを行います。
表 6 現状と受診勧告によって降圧剤を服用した場合の比較
現状
非糖尿病高血圧者
降圧剤服用者
非降圧剤服用者
毎月医療費
降圧剤服用者
非降圧剤服用者
非糖尿病高血圧者の医療費合計(毎月、万円)
中位度以上
完全受診
112
551
¥21,547
¥6,414
¥595
234
429
¥11,467
¥6,414
¥544
表3より、非糖尿病高血圧者は 663 人いて、うち 112 人は降圧剤を服用しています。このうち、血圧が
160/100 を超える者(高血圧者の 22%)がすべて降圧剤を服用していたと仮定すると、完全受診シナリオで
は降圧剤服用者数が 234 人と約2倍になります。
表4より、現状の降圧剤服用者の医療費(21,547 円)は、非降圧剤服用者の医療費(6,414 円)よりも高い
ですが、完全受診シナリオでは、表5より降圧剤服用者の医療費は 11,467 円となります。
この結果、非糖尿病高血圧者全体の医療費合計(毎月)は、現状の 595 万円から 544 万円と減少します。こ
れは組合員1人当毎月の額としては 52 円の減少になります。
5. 注意点
この分析は、日本医療データセンターの提供したデータに依存しており、ミリマンはその質についてチェッ
クしていません。
分析対象は全組合員のうち血圧値のデータの有る人に限りました。その際、血圧値のデータの有無は、医療
費に関してバイアスが無いものと仮定しました。
図8放置期間別降圧剤服用後医療費において、放置月数とその他医療費に与える要素(年齢や健康状態など)
は相関していないものと仮定しました。
受診遅延月別降圧剤服用後医療費の計算においては、2005年から2012年までの毎年の医療費のトレ
ンド(増加率)をゼロと仮定しました。
この分析では、放置月による医療費増加額の要因については、高血圧を原因とするさまざまな病気の発生確
率の増加が予想されるものの、明らかではありません。
このレポートにおける結果は、標準的な健保組合と単純化されたモデルをベースとしたものであり、実際の
数字は健保組合ごとに異なります。
このレポートは、日本医療データセンターのスポンサーによって作成されました。
禁煙外来の医療費削減効果について
2014年1月
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