産業と技術の歴史 第2回 数と計算の起源 2009年4月24日 国際環境経営学部 大谷卓史 目次 前回のコメントから 授業スライドの閲覧について 数と計算の起源 前回のコメントから 毎回の授業で、前回授業コメントから興味深 いものを紹介していきます。 きちんとみなさんのコメントは読んでいますの で、しっかりと書いてください。 コメントは、内容が課題にきちんと対応してお り、分量が多ければ多いほど、評価します。 前回のコメントから 冷蔵庫の温度をコンピュータで「支配」する。 電子レンジの温度をコンピュータで「支配」す る。 日本語では、機械のcontrollは、「制御」といいま す。 電子レンジや冷蔵庫の複雑な温度制御は、確か にマイクロコンピュータが行っています。 空気清浄機やエアコンの制御。 前回のコメントから 飛行機の自動航法システム。 確かに、大型の飛行機は、離着陸以外、パイロットは何も しなくてもよいといわれています。 電車の制御システム。 デジタルATCでは、コンピュータが制御に使われています 。速度超過の監視、停止すべき場所の指定など。 エレベータの制御システム。 どの階から順番に回る課などはプログラムで決まってい ます。 前回のコメントから 電光掲示板 情報の表示も確かにコンピュータが使われてい ます。 インターネット ゲームやメール、新聞、チャット、電話などさまざ まな使われ方がしています。 ゲーム Playstation3は、たんぱく質の遺伝子解析、発現 解析にも利用されている。 授業スライドの閲覧について 授業スライドは、次のように閲覧できます。 大学のトップページ(http://kiui.jp)にアクセス。 「環境経営学科blog」バナーをクリック。 環境経営学科ブログの一番下まで移動して、 右側の研究室ブログ一覧から「大谷研究室」 をクリック。 「吉備国際大学大谷卓史研究室」ブログの 「授業関連」から「産業と技術の歴史2009」を クリック。 授業スライドの閲覧について 吉備国際大学大谷卓史研究室のURL http://otanisemikiui.seesaa.net/ 実際に大学のトップページからたどってみま す。 目次 前回のコメントから 授業スライドの閲覧について 数と計算の起源 数・計算と計算の起源 最古の数表現 古代文明における数・計算 最古の数表現 「イシャンゴ・ボーン」(紀元前18000∼20000 年)・・・数記号らしきものが刻まれたヒヒの骨 Ishango Bone from two different point of view , From “Ishango Bone,” Wikipedia (by courtesy of Science Museum of Brussels ) 最古の数表現 イシャンゴ(Ishango)とはどこか?・・・ Googleマップで検索してみよう。 ザイールとの国境に近いコンゴ共和国の湖 「エドワード湖」の北湖畔。ヴィルンガ国立公 園内。 最古の数表現 紀元前18000∼20000年って、どれくらい前? その頃、世界は後期旧石器時代。 前期旧石器時代・・・約250∼約12万年前(ホモ・ハビリス+ホモ エレクトゥス、ハンドアックス+剥片石器) 中期旧石器時代・・・約30∼約3万年前(ネアンデルタール人+現 生人類、ルヴァロワ技法による剥片製作) 後期旧石器時代・・・約3∼約1万年前(現生人類、狩猟・採集、石 刃技法による剥片製作、投げ槍、芸術・シンボルの登場) 中石器時代・・・約2万∼約9000年前(狩猟・採集、細石器・細石 刃) 新石器時代・・・約9000∼約5500年前(農耕、土器、石鏃、巨石 建造物) 最古の数表現 ラスコー洞窟(Lascaux)の壁画(フランス南 西部の遺跡、後期旧石器時代) Photograpohy of Lascaux animal painting by Prof. Saxx. Wikimedia commonsより。 最古の数表現 ヴィレンドルフのヴィーナス(ローア・オースト リアのヴィレンドルフ出土、後期旧石器時代) Venus von Willendorf, Naturhistorisches Museum Wien by Oke. Wikimedia Commonsより。 最古の数表現 “Great Leap Forward”:5万年前以降、人類 の文化が大きく飛躍したという仮説。 生態学者(ethologist)のJared Diamondが提唱 (『人間はどこまでチンパンジーか?』(新曜社、 1993年))。 抽象思考、計画、発想法、シンボル行動。 「文化のビックバン」と称される。 しかし、人類の文化の発達は漸進的なもので、5 万年前以前にも現代的行動の痕跡が見られると する人類学者もいる。 最古の数表現 イシャンゴ・ボーンの刻み目は、素数が記さ れている。 素数とは? 1と自分以外には約数を持たない数のこと。 たとえば、3、5、7、11、13、17、19・・・ 最古の数表現 イシャンゴ・ボーンを詳細に見ると・・・ 左側のカラム。 中央のカラム。 右側のカラム。 “Ishango Bone,” Wikipediaより。 最古の数表現 「イシャンゴ・ボーン」は何を数えていたの か? 一種のそろばんのようなもの? 天文現象(月の満ち欠け)を示している?(月齢カ レンダー?)・・・古代においては、数学は天文学 や会計学と深く結び付いている。 古代文明における数・計算 メソポタミア文明ウルク後期(おそらく紀元前 3300∼前3100年頃)、粘土板による記録シ ステムが誕生。 「メソポタミア(Mesopotamia)」・・・ティグリス・ ユーフラテス川流域地方のこと。 当時の文明の担い手は、「シュメール人」と呼 ばれる人々。 古代文明における数・計算 西側にユーフラテス川、東側にティグリス川。Wikimedia Commonsより。 古代文明における数・計算 発掘されたウルク古拙文書の85%は、行 政・経済記録。 残る15%は、職業、容器、地名などの語彙リスト。 楔形文字の原型となる「古拙文字」を使用(前 川和也『世界の歴史1』(中央公論社、1998 年)158頁) 。 古代文明における数・計算 複雑な公共組織である都市国家の成立が、 粘土板記録システム登場の背景。 「公共的な大組織を管理、運営するために、 つまり奴隷、家畜や、物品の数をかぞえ、穀 物の量をはかり、土地面積を計算するために、 記録システムが成立したのである」(前川和 也『世界の歴史1』(中央公論社、1998年) 156頁) 古代文明における数・計算 文字記録登場以前は、「もの」をどう数え、計 量していたか?・・・トークン・システム トークン・・・2、3センチほどの粘土のかたまり。 古代文明における数・計算 トークンから粘土板記録へ 前8000∼前7500年頃、家畜や収穫された穀物の 計量にトークンの使用が開始される(プレーン・トー クン)。 前4000年紀、交易や税の収納の必要上、より複雑 な形状のトークンが登場(コンプレックス・トークン)。 数・計算表現が複数並行して存在する時代 粘土ボール(ブラ)で包み印章で押印するシステムの登場。 「トークン押印タブレット」の登場。平らな粘土板にプレー ン・トークンを押し付けて数字ユニットを示す。 粘土板記録システムへ(ウルク後期)。 古代文明における数・計算 シュメール文字(紀元前3300年∼紀元前24 世紀)における数の表現・・・60進法 60進法とは?・・・59までは10と1の倍数の組 み合わせ。それ以上の数は、60の倍数と組 み合わせて表現。 私たちの数のシステム・・・10進法。10の倍数 を単位として数字を表現する。例) 7532=7×1000+5×100+3×10+2×1 古代文明における数・計算 シュメール文字による60進数表現。 シュメール文字は位取り記数法。いちばん右が1 の位、次が60の位、その次が3600の位。 A×60n+B×60n-1+・・・・Y×60+Z×1 A∼Zは、0∼59までの値を取る(0の場合は、何 も書かない)。 古代文明における数・計算 アラビア数字をシュメール文字の数字に置き 換えてみよう。 ① プリント2に、好きな数字をアラビア数字で書く。 ② プリント1を参考にして、アラビア数字をシュメー ル文字に置き換える。 ③ プリント2のアラビア数字を隠して、隣の人にシ ュメール文字を見せる。 ④ 隣の人がシュメール文字からアラビア数字を当 てることができるか聞いてみよう。 古代文明における数・計算 古代エジプトの算数ドリル・・・『リンド・パピル ス』と『モスクワ・パピルス』 『リンド・パピルス』・・・書記アアフ・メスが紀元前 1650年頃にそれよりも200年前の原本から筆写。 長さ約5.5m、幅約33cmの巻物。 『モスクワ・パピルス』・・・同時期の遺物。長さ約 4.6m、幅7.62cm。 古代文明における数・計算 古代メソポタミアから出土する計算問題も、現 実の測量や穀物量の計算ではなく、仮想の 問題と思われる問題が多数ある。 古代において、測量術などの必要ばかりでな く、大規模組織の管理者教育のために、数 学・算数が用いられた証拠と考えられる (『カッツ数学の歴史』) 本日のまとめ 最古の数表現とされるイシャンゴ・ボーンは、 一種のそろばんか月齢カレンダーと考えられ ている。 人類最初の記録システムは、大規模な公共 的組織を維持するために登場した。 数や計算の記録は、経済・行政文書や天文 学などの必要性によって発達した。 古代では、、数学・算数は、大規模組織の管 理者教育のために用いられた。 本日の課題 任意のアラビア数字をシュメールの60進法で 表そう。 3つのアラビア数字(3桁以上)と、それに対 応する3つのシュメール数字がどれかわかる ように、出席票に書いて提出してください。 桁数の大きな数字をうまく表わせれば、高く 評価します。 ちょっと時代は飛ぶけれど・・・ ローマ数字による数の表現に挑戦しよう。 アラビ ア数字 ローマ 数字 1 I 5 V 10 X 50 L 100 C 500 D 1000 M 基本的な原則・・・大きな数字は原則的 に左に書く。すべての数字を合計する と、表示する数になる。 減算則・・・4や9などの表現をするとき、 IV、IXと書く。90は、XCとなる。ただし、 右側の大きな数字は左の数の5倍もし くは10倍でなければならない。 つまり、IV=5-1=4、VI=5+1=6、 IX=10-1=9、XCIX=100-10+10-1=99. 本日の課題 ヨーロッパ世界では、12世紀にアラビア数字(私た ちが現在使っている数字)が導入されるまで、ロー マ数字を使っていた。 ローマ数字は、位取りがないうえ、ある位が空っぽ であることを示す0がない。したがって、筆算ができ ない。 それでは、アラビア数字以前、ヨーロッパ人はローマ 数字を使って、どのように計算をしていただろうか? 想像してみてほしい。 正答でなくてもよいが、題意を外した解答はNG。
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