平成19年度 経済産業省委託事業 平成19年度 産業競争力強化高度人材育成事業(アジア人財資金構想 共通カリキュラムマネージメントセンター事業) 報告書 平成20年3月 財団法人 海外技術者研修協会 本書は、財団法人海外技術者研修協会が経済産業省より平成 19 年度受託事業として委託 を受け実施した「平成19年度産業競争力強化高度人材育成事業(アジア人財資金構想共 通カリキュラムマネージメントセンター事業) 」の報告書です。 目次 はじめに 第1章 事業概要 1.1 事業内容・実施方法............................................................................................. 1 1.2 実施体制............................................................................................................... 2 1.3 事業の実施期間 .................................................................................................... 5 第2章 カリキュラム・教材および評価ツールの開発について 2.1 研修コンセプトについて...................................................................................... 6 2.2 研修カリキュラム・教材の開発内容について...................................................... 8 2.3 評価ツールの開発内容について ......................................................................... 12 2.4 カリキュラム・教材および評価ツールの開発のまとめと考察........................... 15 第3章 WEBサイトの開発について 3.1 目的.................................................................................................................... 18 3.2 構成.................................................................................................................... 18 3.3 運用結果............................................................................................................. 18 3.4 第4章 WEB サイトに関する考察 ................................................................................. 19 講師研修について 4.1 講師研修概要...................................................................................................... 20 4.2 講師研修内容...................................................................................................... 23 4.3 講師研修実施に関する考察 ................................................................................ 25 第5章 巡回指導について 5.1 目的.................................................................................................................... 27 5.2 巡回指導概要...................................................................................................... 27 5.3 研修拠点での実施状況 ....................................................................................... 28 5.4 巡回指導に関する考察 ....................................................................................... 29 第6章 今年度の評価結果について 6.1 BJT個別テスト .............................................................................................. 33 6.2 CDS、行動変容評価 ....................................................................................... 36 6.3 ポートフォリオ .................................................................................................. 37 第7章 今年度事業に関する考察と次年度事業への課題 7.1 カリキュラムマネージメントセンター事業実績 ................................................ 39 7.2 良好な研修実施モデルのタイプ ......................................................................... 40 7.3 次年度共通カリキュラムマネージメントセンター事業の課題........................... 41 添付資料 ①共通カリキュラムマネージメントセンター事業 ②カリキュラムフロー ③教材例 ④Can Do Statements 例 ⑤行動変容評価シート例 ⑥ポートフォリオ例 ⑦WEBサイト構成図 ⑧講師研修日程表 ⑨巡回指導訪問先リスト 委員会委員名簿 はじめに 近年、我が国企業のアジア等を中心とした海外事業展開の加速に伴い、日本とアジア 等の架け橋となる高度海外人材の育成が重要となってきている。また、世界的に高度人 材の国際移動が拡大する中、国際的な知的ネットワークの形成等により、国際競争力の 強化が重要となってきている。 経済産業省及び文部科学省では、留学生に対し、日本の産業界で活躍する専門イノベ ーション人材の育成を促進する「アジア人財資金構想」を平成 19 年度より実施してい る。具体的には、我が国企業に就職意志のある、能力・意欲の高いアジア等の留学生に 対し、人材育成から就職支援までの一連の事業を大学・企業等からなるコンソーシアム に委託する形で行なわれている。 「アジア人財資金構想」事業は、 「高度専門留学生育成事業」と「高度実践留学生育成 事業」に分けられるが、いずれも産学連携によるコンソーシアムが全国に形成され企業 ニーズを踏まえた留学生の日本企業就職支援プログラムを実施している。今年度は全国 61 拠点において 555 名の留学生がプログラムに参加し、熱心に研修に取り組んでいる。 本報告書においては、当協会が実施した「アジア人財資金構想共通カリキュラムマネ ージメントセンター事業」について第 1 章において事業の全体の概要を述べ、第 2 章か ら第5章にかけて主要事業であるカリキュラム・教材・評価ツールの開発、WEBサイ トによる情報等の配信、講師のための研修、さらに全国のコンソーシアムおよび実施拠 点に対する巡回指導について概略・考察を行なう。第 6 章では初期評価ならびに中間評 価として実施されたBJT個別テスト(ビジネス日本語能力テスト)の結果および各種 評価ツールに触れ、本事業による研修成果の検証を行なう。第 7 章では今年度において 当協会が実施した「アジア人財資金構想共通カリキュラムマネージメントセンター事業」 全体についての考察とそれを踏まえた次年度事業への課題を取り上げている。 当協会は、本事業の実施あたって産学の有識者による複数の委員会を設置し、幾多の 助言・提言を戴いた。委員の方々に深く感謝を申し上げたい。また、各地のコンソーシ アムでプログラム実施に努力している関係者の方々に敬意を表するとともに、当協会事 業に多大な協力をいただいたことにお礼を申し上げたい。 本報告書が「アジア人財資金構想」事業実施の一助になり、予定されている本事業の 自立化に向けた取り組みに役立つことを切に願っている。 平成 20 年 3 月 財団法人海外技術者研修協会 理事長 金 子 和 夫 第1章 事業概要 「アジア人財資金構想共通カリキュラムマネージメントセンター事業」(以下「共通 カリキュラムマネージメント事業」という)は、各コンソーシアムにて、共通した研修 が実施されることが想定されるビジネス日本語研修・日本ビジネス研修について、教材 開発と提供、講師研修、評価・改善等を実施することで、各コンソーシアムにおける研 修の効率的・効果的かつ円滑な運営・実施につなげることを目的として実施された。 1.1 事業内容・実施方法 (1)日本語研修とビジネス研修の統合カリキュラム・教材開発事業 留学生の企業内活動へのソフトランディングを可能するビジネス日本語やビジ ネス文化・知識および社会人としての行動能力が学習できる統合型の研修カリキュ ラムとそれに対応する教材を開発した。 ここで言う「統合型カリキュラム」については、第 2 章で具体的に触れるが、カ リキュラム開発や研修実施という側面からは、日本語教育関係者とビジネス関係者 の連携・協働で行ない、研修内容という側面からは日本語研修とビジネス研修の統 合を指し、さらに、研修における学習活動という側面からは、社会的な活動とそれ に付随する知識やスキルの習得の統合を目指す。このように多層的な統合を含んだ カリキュラムという意味で用いられている。 (2)講師研修事業 開発した教材等を使用する各コンソーシアムの関係者ならびに研修管理者、研修 担当講師等に対して、円滑に研修プログラムが実施できるよう講師研修による指 導・助言等を実施した。 (3)各コンソーシアムのための支援事業 各コンソーシアムに対して、以下のような支援を実施した。 ①巡回指導 各コンソーシアムに対して巡回指導を行い、コース・授業運営の助言等のコンサ ルティングや情報の共有化を図った。 ②プロジェクト型研修の実施サポート WEBサイトを立ち上げ、各コンソーシアムに対し開発教材や評価ツール等を配 信するとともに、コンソーシアムや留学生等に対しWEBサイト等を活用し、研修 リソースの共有化や活動報告、留学生同士の情報交換等を可能にし、事業実施の円 滑化を図った。 ③電話・メールによる各種問い合わせ対応 AOTS日本語教育センターが、共通カリキュラムマネジメントセンターとして 各コンソーシアムからの各種問合せに対応した。 1 (4)学習成果に対する評価事業 必要とされる学習項目の習得度や能力を適切に測定するための各種評価ツール を開発し、効果的なプログラムの要件の検討と次年度以降の改善に活用する。 ①受講生に対する習得度評価 コンソーシアムの研修の到達度を定性・定量的に評価するため、各種評価ツール を開発した。独立行政法人日本貿易振興機構(以下「JETRO」という)のBJ Tビジネス日本語テストをはじめとする既存の評価ツール等も活用し、事業の円滑 化と効率化を図った。 ②各コンソーシアムの研修カリキュラムに対する評価 各コンソーシアムで実施する研修について、運用実態や受講生からの評価につい て調査を実施した。 (5)研修事業に関わるデータベースの構築 「アジア人財資金構想」事業におけて留学生の成績等の情報を管理し、共通カ リキュラムマネージメント事業の円滑な実施および評価を行うために、研修事業 に関わるデータベースを構築した。 (6)報告書の作成 共通カリキュラムマネージメント事業の実施結果を取りまとめ、経済産業省への 事業報告書を作成した。 1.2 実施体制 (1)事業実施に当たっては、事業全般に対し助言を行なう「共通カリキュラムマネー ジメント委員会」を筆頭に、開発部門として「カリキュラム教材開発委員会」 「評価 開発委員会」を設けた。また「カリキュラム教材開発委員会」および「評価開発委 員会」にはそれぞれ作業チームとしての「作業部会」を設置した。 さらに、「作業部会」のひとつとして「編集作業部会」「語彙リスト作成作業部会」 をも立ち上げ、開発教材の充実を図った。 (2)AOTS事業担当者と担当者 統括責任者 研修担当常務理事 桂 開発責任者 AOTS日本語教育センター長 春原 憲一郎 担当管理職 AOTS調査役 飯塚 達雄 開発担当 AOTS日本語教育センター 神吉 宇一・志村拓也 (3)AOTS経理担当者 出納長 半澤 昭一 2 好和 (4)実施体制上のAOTSと各種委員会の関係図 共通カリキュラム マネージメント 委員会 AOTS 【統括責任者】 研修担当常務理事 桂 好和 【経理責任者】 出納長 半澤 カリキュラム 教材 開発委員会 【開発責任者】 評価 開発委員会 AOTS日本語教育センター 昭一 センター長 春原 JETRO 憲一郎 BJT個別テスト(ビジ ネス日本語能力テスト) 提携協力 【担当管理職】 調査役 飯塚 達雄 【ビジネス日本語開発担当】 【ビジネス日本語開発担当】 AOTS 日本語教育センター AOTS 日本語教育センター 神吉 宇一 志村 拓也 委員会名 委員の構成(名簿は添付) 共通カリキュラム 日本語教育関係者、学習評価専門家、民間企業委員、 マネージメント委員会 インストラクショナルデザイン専門家 カリキュラム教材 日本語教育関係者 開発委員会 評価開発委員会 学習評価専門家、インストラクショナルデザイン専門家 3 1.3 事業の実施期間 (1)事業実施期間:平成 19 年 6 月 1 日から平成 20 年 3 月 31 日まで (2)事業実施日程(実績) 平成19年 (1)カリキュラ ム、教材、評 価ツール等の 開発 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 カリキュラム開発 教材開発 評価ツール作成 (2)開発した教 材等に関わる 講師研修 (3)円滑な研修 実施のための サポート 教師用手引き・評価 ガイドライン策定 集合型講師研修 巡回指導 Web サイトによる研修 実施サポート 電話・メールによる各種 問い合わせ対応 (4)成果に対す る評価と教材 等の改善提案 評価調査実施 次年度に向けたカリキ ュラム・教材の改善 研修事業に関わるデー タベース構築 (5)事業報告書 の作成 平成20年 事業報告書の作成 4 ・内在化評価 コンソーシアムごとに実施される研修内容が異なることから、 内在化評価についてはアジア人財資金構想での統一的な評価 は不可能である。 ・BJT個別テスト 本テストは語学レベルが低い対象者には適切なテストではない ため、このような留学生には個別に手当てが必要である。 ・CDS、行動変容 留学生による定性的な自己評価であるため、本結果だけでは統 一的な評価結果にはならない。また、講師による第三者評価についても同様である。今後、 評価のガイドラインのような記述が必要であると思われる。第2章 カリキュラム・教材 および評価ツールの開発について 本章では、共通カリキュラムマネージメントセンター事業において開発したカリキュラ ム・教材および各種評価ツールについての開発コンセプトと内容について説明する。 2.1 研修コンセプトについて 研修のコンセプトについては、企業が求める人材像と就職後の留学生が直面する課題と いった社会ニーズを中心に考慮し、実践的内容を目指した。以下にその背景、課題等を説 明する。 (1)人材ニーズ・背景について 法務省入国管理局「平成 19 年 7 月 平成 18 年における留学生等の日本企業等への就職 について」によれば、平成 18 年における留学生の日本企業における就業者数は、前年の約 5,800 人から約 8,300 人に急増している。 これは以下の3つの観点を反映したものであると考えられる。 ・ 日本社会における人口減少社会への突入 ・ 日本企業活動のグローバル化に伴うグローバル人材の必要性 ・ 外国人留学生数の増加 しかしながら、これらの社会ニーズの高まりとともに、実際に留学生が就労する際には 様々な課題が存在している。これらを解決するための研修コンセプトを考慮するうえで、 平成 18 年度経済産業省委託事業「日本企業における外国人留学生の就業促進に関する調査 研究」における日本企業および日本の大学・大学院出身の外国人社員に対する調査から、 日本企業側の社会ニーズと留学生側の課題を抽出した。 (2)企業の求める人材像について 日本企業が留学生を採用するときのポイントとしては、 「日本語能力」、 「専門知識」、 「日 本語以外の語学力」が上位を占めており、採用の際、日本語能力を重視していることが明 らかとなった。具体的な日本語能力としては、「『まったく』又は『概ね』業務遂行に問題 がない」レベルといった高い日本語能力を求めている。 5 また、さらに特徴的であるのは、入社後の日本語能力の育成はあまり考えていない点で ある。これに対し、日本企業文化や社会人力といった能力を有していることを期待してい るものの、入社時にはあまり基準に達しておらず入社後にこれらの能力については育成し ようとしている。 (3)元留学生からの意見と留学生側の課題 現在日本企業で働いている元留学生からの意見としては、学生時代に日本語能力につい て自身を持っていたものの、就職後に能力不足を実感したという声が特徴的である。これ は学生生活で用いる日本語能力と社会人生活で求められる日本語能力との間に差異が生じ ていることをあらわしている。 不足している日本語能力は、具体的には以下の3つの点が挙げられる。 ・相手や場面に応じて使い分けるコミュニケーション能力 ・電話やメールなどの「非対面型」コミュニケーション能力 ・文書や資料の作成・理解 また、日本語能力以外にも、日本企業の組織性、仕事の進め方といったビジネス文化の 理解や、チームワーク、規律意識、協調性、ビジネスマナーといった日本の社会人として 必要となる行動能力の向上といった課題が挙げられている。 (4)研修コンセプトまとめ 上述の企業側が求める人材像と、留学生側が抱える課題を考慮すると、以下の3点の課 題があるものと考えられる。 ・ ビジネス日本語能力の養成(日本語能力向上) ・ ビジネス文化・知識の理解 ・ 社会人としての行動能力の養成 これらの課題が克服されることにより、留学生が日本社会で就労する上で必要とされる 幅広いコミュニケーション能力を身につけ、日本社会へのソフトランディングおよびブリ ッジ人材の育成を目指す。 上述の課題を内包した幅広いコミュニケーション能力の発現を目指すために、これらの 課題を個別に学習するのではなく、統合した形式であるProject Based L earning(以下、PBLという)で学習することにより、社会生活において必要と されるミッションに対し、知識・情報を吸収・理解した上で行動に移し、日本語を用いて 成果を出す訓練を行うものとする。 6 ①ビジネス日本語能力の養成 ・相手との関係や場面に応じた表現方法 ・電話応対、メール作成力 ・ビジネス文書の読解・作成能力 (例)新聞、報告書、企画書、礼状 ②ビジネス文化・知識の理解 ・日本での就業目的の明確化 ・企業活動の疑似体験 ・企業文化や企業を取り巻く現代事情の理解 ③社会人としての行動能力(社会人基礎力)の養成 ・情報収集、分析、集約能力 ・チームワーク力、協調性 ・プレゼンテーション能力 ・ディスカッション能力 ・ビジネススキル・マナー グローバル人材としての能力の養成 ・日本と現地の比較対照能力 これらの要素を統合したProject Based Learningが必要 図2-1 研修コンセプトまとめ 2.2 研修カリキュラム・教材の開発内容について 日本企業社会へのソフトランディングとブリッジ人材の育成を念頭においたPBL学習 という研修コンセプトから、以下のような研修カリキュラム・教材を開発した。 (1)カリキュラムデザインについて 就職に向けた訓練から企業活動の疑似体験までを日本語を通じて経験、実践するという カリキュラムをデザインした。 また、2年間の事業期間を考慮し大きく4つのフェーズを設けた。 就職に向けた訓練から企業活動の疑似体験までを日本語を通じて経験する 3年次 M1次 4年次 M2次 目的: テーマ① 就職に向けて 目的: 日本と自国の違いを知る 企業・社会を知る テーマ② 日本と自国の比較調査 テーマ③ 企業の社会貢献 初期評価 目的: 仕事を知る テーマ④ 企業活動 シミュレーション 中間評価 図2-2 カリキュラムデザイン 7 最終評価 卒業・ 就職 自己を知る カリキュラムの特徴は以下の通りである。 ・ 単に学習する「コンテンツ」や「場面」が『ビジネス』なのではなく、PBL型の 研修カリキュラムにより、日本のビジネス社会で生き抜く上で必要となる言語能力、 一般常識、行動能力を包括した社会人としての幅広いコミュニケーション能力を身 につける。 ・ 企業活動をPBL活動に置き換え、必要とされる能力への『気づき』とその『養成』 を行う。 ・ アメリカやヨーロッパといった諸外国における外国語教育のスタンダードと同じく、 単なる言語教育に留まらない、学習内容と言語を統合した幅広い研修内容とする。 ・ カリキュラム・教材だけでなく、研修効果を多角的に検証できる評価ツールも開発 する。 (2)研修テーマについて アジア人財資金構想事業の特性である案件ごとの独自性や地域事情、事業環境の差異と いった条件にも対応できるよう、以下のような研修テーマを設けた。これにより、積み上 げ型およびモジュール型の使用にも耐えられるように配慮されている。共通カリキュラム マネージメントセンターの標準としては、12 テーマ 270 時間のカリキュラムであるが、事 情に応じて、必要テーマを抽出しての使用が可能となっている。 各カリキュラムの概要 1コマ1.5時間とし、1テーマあたり15コマ(22.5時間)として設計 フェーズ テーマタイトル 日本語教材 レベル 1 就活へ!始めの一歩 就職活動を知る 自己を知る ~就職に向けて~ 2 業界・企業研究入門 ~会社選びの第一歩~ 準2級 相当以上 3 つかめ!面接のコツ 4 人生のキャリアプラン 自国と他国の 違いを知る 5 インターンシップハンドブック 6 知的財産権プロジェクト 1級 相当以上 7 仕事と家族 8 自立支援による地域振興 9 男女共同参画社会の推進 企業・社会を知る 持続可能な地域おこしイベント、 10 エコツアーの企画 1級 相当以上 11 東アジア進出企業の海外戦略 自国を売り込むツアー企画プロジェクト (旅行観光業) 団塊世代向け商品企画プロジェクト 13 (貿易業) 仕事を知る ~企業活動シミュレーション~ 環境にやさしい製品開発プロジェクト 14 (製造業) コンビニ新規店舗企画プロジェクト 15 (流通業) 12 1級 相当以上 共通研修内容 主な個別研修内容 就職活動一般 チームワーク構築 産業界概観 プレゼン技法 面接 グループワーク 自己分析と自己表現 日本の人事システム 待遇表現 人生ゲーム インターンシップ プレゼンテーション 社会人マナー 知的財産権 教室外活動 ディベート 口頭議論 教育と家庭 企業人と家庭 レポート作成 フェアトレード、マイクロクレジット 地域振興 口頭発表 性差問題と企業の取り組み 情報収集 労務問題 環境保護と経済発展 資料読解 企画書作成 ビジターセッション グローバル経済 企業の海外進出 ノートテイキング 旅行観光業概論 マーケティング、企画書 スタディスキル 貿易業概論 マーケティング、企画書 製造業概論 マーケティング、企画書 流通業概論 マーケティング、企画書 合計 図2-3 研修テーマ一覧 8 標準カリキュラム 3テーマを実施 =22.5H×3テーマ=67.5H 3テーマを選択 =22.5H×3テーマ=67.5H 3テーマを選択 =22.5H×3テーマ=67.5H 3テーマを選択 =22.5H×3テーマ=67.5H 12テーマ 270時間 (3)PBLの活動の流れについて PBLの講義内の活動の流れについては以下の通りである。 研修テーマの違いに拘らず、大きな活動の流れは共通している。また、内包される言語 活動のうち、リソース探し、プレゼンテーション、資料作成などといった活動は、テーマ 内においても、テーマ間においても頻出する。これらの活動は、社会において必要とされ る能力であり、繰り返し学習することで、研修効果を高める狙いである。 また、各研修テーマの具体的なカリキュラムフローは別添資料②のとおりである。 1テーマあたりの講義時間: 1.5時間×15コマ=22.5時間/テーマ 総講義時間: 22.5時間/テーマ×12テーマ=270時間 人数: 10人~15人 活動内容 1 オリエンテーション 2コマ 2 ガイダンス プロジェクト企画 3コマ 3 タスク実施 タスク1 タスク2 : タスクα 8コマ 4 まとめ 2コマ 言語活動例 動機付け (プリタスク指示) リソース探し (プリタスク共有) ①情報収集 ②情報分析 ③情報まとめ ④チーム作り ⑤計画立案 ⑥発表 ⑦講評 ⑧次回までの課題確認 スキャニング スキミング ノートティキング 作表 要約 企画書作成 報告 ディスカッション プレゼンテーション ①準備 ②実施 ③分析・確認 ④共有・発表 ⑤評価・フィードバック ⑥改善 資料作成、アポ取り インタビュー 報告書、礼状作成 報告、ディスカッション 成果発表 評価 フィードバック パワーポイント作成 プレゼン、QA 共通カリキュラムマネージメントセンターでは標準モデルを作成。 案件の実施環境に応じて、所要コマ数、活動内容の調節が可能。 図2-4 PBLの活動の流れ 9 図2-5 キャリアプラン教材における活動の流れ (4)教材開発内容について 教材の具体的な種類としては、 ・ 活動冊子 ・・・タスク活動の指示書 ・ リソース集 ・・・活動のための資料集 ・ 教師用手引き ・・・テーマの狙いや教え方の解説書 ・ 語彙リスト ・・・テーマ内で登場する日本語能力試験2級以上の語彙のリスト の4種類を作成した。 10 活動冊子、語彙リストについては、各コンソーシアムにおけるカスタマイズを考慮して、 それぞれWORD,EXCEL形式で、リソース集、教師用手引きについてはPDFファ イルで作成した。 これらの教材群は全て共通カリキュラムマネージメントセンター事業のホームページ上 で配信された。教材例は別添資料③の通り。 また、教材を作成する上で、リソース集等において、著作物の引用が多いことから、著 作物の使用に当たっては、原著作者等に対して使用許諾申請を行い、許諾を得て使用して いる。 2.3 評価ツールの開発内容について カリキュラム・教材作成と同時に、留学生の日本社会適性に対する幅広いコミュニケー ション能力の評価が行えるように、各種評価ツールを開発した。 研修内容に直接関係する内在化評価ツールは共通カリキュラムを利用する場合に利用で き、BJT個別テストを中心とした習得度に関する外在化評価ツールは、全コンソーシア ム共通で利用できるものである。 (1)評価体系について 各コンソーシアムで実際される研修内容は一律でないことから、その習得度等を計測す る上で、共通カリキュラムマネージメントセンターとしては、研修内容に拘らず全てのコ ンソーシアム共通の評価指標を外在化評価と位置づけ、コンソーシアムの研修内容によっ て異なる個別の評価を内在化評価と整理した。 また、留学生の本事業における研修効果を測定する習得度評価と、研修内容等に関して の満足度を測定するプログラム評価の2つの評価を考慮した。 以上の概念をまとめると、以下のようになる。 【評価項目】 測定項目 大項目 中項目 小項目 測定内容 測定方法 説明 情報収集能力 コンテンツ 内在化評価 ●テーマ内総合評価 報告書、発表内容 カリキュラム・教材内容と連動 宿題等の日常のクラス活動 口頭表現能力 日本語 文書作成能力 日本語 習得度評価 ●BJT個別テスト (JETRO) 独立行政法人日本貿易振興機構のBJTビジネス日本語 能力テストの簡縮版 コンソーシアムの要望にあわせ、テスト実施が可能 Can Do 日本語 Statements ●Can Do Statements 行動目標に対する達成度を留学生と教師が評価 行動変容 行動能力 ●行動変容チェックリスト 行動に対す態度の変化を留学生と教師が評価 プログラム内容 妥当性 ●プログラム評価 聴読解力 外在化評価 プログラム評価 外在化評価 - 日本語 図2-6 評価体系 11 プログラムの実施環境や運用、研修内容についてのアン ケート評価 習得度評価のうち、内在化評価については研修カリキュラムごとに実施される。外在化評 価については、研修開始時期としての初期値、1年目終了時の中間値、2年目終了時の最 終値の3回を実施する。プログラム評価は年度末に実施する。 (2)内在化評価 研修テーマカリキュラム内毎に実施する評価活動である。PBLで培われる社会人とし ての幅広いコミュニケーション能力を、 「情報収集能力」、 「文章表現能力」、 「口頭表現能力」 の3つの観点で、講義単元ごとに講師が観察、記録する。講師用手引書には、どの単元で 何を観察するのかが記載されている。 3.評価方法 11 回分の宿題(予習・復習用)シートとクラスでの作業活動によって、以下の項目を評価 する。評価点は、A+、、A、B、C、Fとし、それぞれA+ (90%以上)、A(80%以上-90% 未満) 、B (70%以上-80%未満)、C(60%以上-70%未満)、F(60%未満)に相当する。 評価者: 評価項目 作業活動 1. 情報収集能力 DVD から情報収集 (内容理解力) ウェブサイトの検索 2. 文章表現能力 (論理的構成力) 3. 口頭表現能力 (対面的な説得力) 宿題シート クラス 第1回 第2 回 大量の資料から必要な情報を探す 第3 回 資料を読む 第3 回 地域の情報収集 第5回 第6 回 情報のまとめ・分析 第3回 第4 回 レジュメの作成 (要点のまとめ) 第4回 活動計画表、ヒアリング調査票の作成 第6回 第6 回 企画書の作成 第 7/8/13 回 第8 回 礼状の作成 (待遇表現) 第8回 第8 回 調査計画案/調査票 第9回 第9 回 調査報告書 第 11 回 第 11 回 PP/パンフレット/キャッチフレーズ 第 14 回 第 14 回 自己評価/振り返りシート 第 14/15 回 第 15 回 レジュメに基づいて発表/ディスカッション 第5 回 電話でアポを取る (待遇表現) 第6回 第6 回 ヒアリング調査と結果報告 第6回 第7 回 面接調査 (待遇表現) 第 10 回 第 10 回 プレゼンテーション/ディスカッション 第 14 回 ※語彙力(漢字語彙力を含む)・文法力は、全評価項目の下位項目として含まれる。 総合評価: コメント: 図2―7 講師用手引きにおける内在化評価のガイドラインの例 12 評価 (3)BJT個別テスト JETROの協力により、通常年2回実施される「BJTビジネス日本語能力テスト」 をコンソーシアムおよび研修実施場所単位でオンデマンド方式受験できるように、 「BJT 個別テスト」としてアジア人財資金構想に導入した。 BJTテストの特徴は、文法や語彙の知識があるか否かを測るテストではなく、そうし た知識を活用して、与えられたビジネス上の課題を以下に処理できるのかという総合的な 技能を測るテストである。(BJT公式ガイドより) 今回のアジア人財資金構想における「BJT個別テスト」では、通常2時間要するテス トを学内で実施されることを想定し、1 時間 30 分で実施可能なように簡縮化した。総得点 は 800 点満点のままとし、テスト結果およびその診断については、通常の「BJTテスト」 と同様な指標を得ることが出来るように配慮されている。 (4)Can Do Statements PBLで培われる社会人としての能力を、諸活動に具体化してCan Do Stat ements(以下、CDSとする)として記述した。これを四技能(聴く・読む・話す・ 書く)に分けて項目化している。これにより、留学生の語学的な目に見えにくい能力につい て、評価・測定を行う。 (別添資料④参照) CDSは何ができるようになるべきかという目標と、今何がどのくらいできるのかとい う現状の確認、何ができるようになったのかという進捗を自己評価することで、自己評価 による学習支援ツールとしての効果が期待できる。また、講師による第三者評価を同時に 行うことで、各段階における 目標・現状・進捗を留学生と教師とで共有し、授業活動に おける対話ツールとして使用できる。 (5)行動変容評価 社会人として必要とされる行動能力について、経済産業省が発表している「社会人基礎 力」の概念を用いて考慮した。今回のアジア人財資金構想では、留学生が行動力も身につ けることが必要である。単にテスト成績・結果だけを評価するのではなく、学習の過程の 留学生の行動を評価する必要があることから、一般的に企業内で用いられる能力評価シー トと同様な評価シートを作成した。 (別添資料⑤参照) これにより先のCDSと同様に受講者と教師との間の学習支援ツールとして活用できる だけでなく、企業内でもとめられる活動に対する気づきを与えることも狙った。 (6)ポートフォリオ 上述の各種評価ツールの有機的且つ効果的な運用を図るため、ポートフォリオを作成し た。 (別添資料⑥参照)ポートフォリオは、以下のような教育的効果を目的として作成され る。 13 ・学習者の学習の軌跡を明確にする。 ・学習を自らの計画に従って遂行できるような、自律的学習者を育成する。 ・学習プログラム全体の透明性や一貫性を確保する。 ポートフォリオを作成することによって、学習者自身に対しては、現在出来ることと努 力すれば出来そうなことを見据え、自分で出来ることと助けがあればできることを適切に 把握し、次の学習のステップに進んでいくための内省的(学習を自分自身で振り返る)資料 とすることを目指している。また、コース全体を通して、学習者自身の内省、学習者とコ ースコーディネーターや講師がインタラクティブな関係を作るためのリソース、各コンソ ーシアムと共通カリキュラムマネージメントセンターをつなぐリソースなどとして活用す ることを目指している。 2.4 カリキュラム・教材および評価ツールの開発のまとめと考察 これまでの共通カリキュラムコンセプトおよびデザインをまとめた研修カリキュラムのオ ブジェクティブスは以下の通りである。 アジア人財資金構想 共通カリキュラムにおける 留学生の就労のために必要な研修事業のカリキュラムデザイン 外的要因 企業・社会ニーズ 元留学生からの課題 共通カリキュラムコンセプト・研修内容 方策 日本語能力 の向上 language 研修ゴール 社会に対するゴール 日本企業社会へのソフトランディング ブリッジ人財の育成 日本社会における就労の ための幅広いコミュニ ケーション能力の発現 コミュニケーション能力 の定義 社会生活において必要と されるミッションを、知 識を吸収・理解した上で 行動し、日本語を用いて 成果を出すこと。 定義 社会人として社会生 活をおくる上で必要 な言語能力 具体的研修項目 待遇表現 非対面コミュニケーション 文書作成・読解能力 ビジネスマナー 知識の習得 knowledge 社会人として必要な 一般常識・知識 就職活動 日本企業文化 現代社会事情 考え抜く力 行動力の体得 activity 社会人として必要な 基礎行動力 前に踏み出す力 チームで働く力 総合能力の具体的項目 図2―8 研修成果を測定する評価が必要 評価ツール 情報収集能力 BJT個別テスト 口頭表現能力 Can Do Statements 文書表現能力 行動変容評価 共通カリキュラムのオブジェクティブス 14 留学生の日本企業社会へのソフトランディングとブリッジ人材の育成という事業成果を 通じ日本社会に裨益するため、企業・社会ニーズや元留学生からの課題といった外的要因 を考慮して研修のゴールを設定し、この研修ゴールから研修内容を決定した。また、この 研修効果を測定するため、計測すべき効果を具体化し、各種評価ツールを開発した。 以上のような観点からカリキュラム・教材と評価ツールを開発したが、次のような問題 点が考えられる。 (1)カリキュラム・教材に関する考察 あまり類を見ない大規模なPBLカリキュラム、教材ゆえに以下のような課題があるも のと考えられる。 ・教材の陳腐化 社会における「旬」な題材を使用し、著作物などのリソースを 使用していることから、短期間のうちにリソースが古くなるこ とが予想される。 ・カスタマイズ アジア人財資金構想は全国のコンソーシアム、研修拠点で授業 が行われる。コンソーシアムや地域、実施環境といった条件に より、本教材をカスタマイズして使用する必要がある。 ・留学生の語学レベル 本教材は、日本語能力試験1級相当の留学生を想定して作成さ れているが、理系の大学院生など、この語学レベルに達してい ない留学生には語学的な手当てが必要となる。 ・講師の育成 通常のレクチャー形式の日本語講義と異なり、PBL学習であ ることから、教える講師側のPBL講義への対応が必要不可欠 である。講師側のブラッシュアップが必要である。 (2)評価ツールに関する考察 PBLカリキュラムの研修効果を同一尺度で評価することは、一般的には容易ではない。 各種評価ツールにより評価体系を構築したが、以下のような課題があるものと考えられる。 ・評価の重要性 コンソーシアムの関係者が十分これらの評価の重要性を理解し、 適切な評価が行われる必要がある。 ・ポートフォリオ ポートフォリオの実践の仕方および活用方法について、関係者 が十分理解する必要がある。 15 第3章 WEBサイトの開発について 本章では、共通カリキュラムマネージメントセンター事業において開発したWEBサイ トについて説明する。 3.1 目的 アジア人財資金構想では、各コンソーシアムの形態が多種多様であり、研修の実施体制、 研修実施場所等も多様である。このような状況下において、研修に必要な情報を発信・周 知するのは、非常に困難である。 このため、必要な情報を各コンソーシアム関係者と周知 すべくAOTSのホームページ内に共通カリキュラムマネージメント事業のホームページ を開設した。 3.2 構成 一般向け、アジア人財資金構想の関係者向けおよびその他の情報と大きく3つの内容で 構成される。ホームページの構成図については別添資料⑦参照のこと。 アジア人財資金構想の関係者向けのページでは教材、評価ツールを頒布したが、各コン ソーシアムおよび経済産業省などの関係者毎にID番号、パスワードを設定し、アクセス の履歴を確認できるように配慮した。 また、AOTSの個人情報保護方針もAOTSの本サイトに準じ合わせて掲載し、社会 責任を保っている。 3.3 運用結果 平成 19 年 10 月 1 日にホームページを開設し、運用を開始した。平成 20 年 3 月現在での 閲覧状況は以下の通りである。 全体(2007/10~2008/03まで) アクセスページ http://www.aots.or.jp/asia/ http://www.aots.or.jp/asia/curriculum/ http://www.aots.or.jp/asia/curriculum/grade.html http://www.aots.or.jp/asia/curriculum/training.html http://www.aots.or.jp/asia/manage/ http://www.aots.or.jp/asia/privacy_otoriatsukai.html http://www.aots.or.jp/asia/privacypolicy.html http://www.aots.or.jp/asia/r_info/ http://www.aots.or.jp/asia/sitemap.html http://www.aots.or.jp/cgi/asia/instructor/ https://www.aots.or.jp/asia/contact.html 表3-1 内容 ヒット数 共通カリキュラムマネージメントセンタートップページ 5,046 「共通カリキュラムとは」 2,321 「評価について」 460 「研修内容について」 666 「共通カリキュラムマネージメントセンターとは」 1,495 「個人情報のお取り扱いについて」 28 「個人情報保護方針」 45 平成18年度経済産業省委託事業 「日本企業における外国人留学生の就業促進に関す 1,313 る調査研究」 「サイトマップ」 187 「管理法人、講師の皆様」向けトップページ 202 「お問い合わせフォーム」 3 WEBサイト閲覧状況 16 また、開設以来の月別のヒット数は表3―2の通り。 開設及びカリキュラム・教材群をリリース直後の平成 19 年 10 月が最も閲覧人数が多か ったが、平成 20 年に入り安定したヒット数になりつつある。 (平成 20 年 3 月は本報告書作 成時点のヒット数) 年月 平成19年 10月 11月 12月 平成20年 1月 2月 3月 合計 表3-2 ヒット数 2,750 1,863 1,412 2,122 2,060 1,559 11,766 WEBサイト閲覧状況 3.4 WEBサイトに関する考察 教材開発にあわせて短期間による作成であったため、以下のような課題があるものと考 えられる。 ・発信力の強化 現在の状態では情報が更新されても、関係者へ情報がなかなか 周知されにくい。更新にあわせメールマガジンをセットにする など、情報の発進力の強化が必要である。 ・双方向化 今年度は教材、評価ツールの発信が大目的であったため、コン ソーシアム側からの情報についてはあまり反映されていない。 今後情報発信が双方向化するような取り組みが必要と思われ る。 17 第4章 講師研修について 共通カリキュラムマネージメントセンターでは、各管理法人の研修担当者に対する講師 研修を行った。本章では、講師研修の実施状況と今後の課題について述べる。 4.1 講師研修概要 (1)目的 「アジア人財資金構想」の共通カリキュラムでは、PBLを中心とした「ビジネス+日 本語」統合型の研修を行っている。PBLでは、留学生が主体的に研修テーマについて調 査、考察、プレゼンテーションなどを行う。これらの活動を通じ、留学生が日本の企業に 就職したときに必要とされるビジネス日本語能力、ビジネス関連知識、ビジネススキル、 社会人としての行動能力の育成を目的としている。 従来の日本語教育と比して、授業実施講師にはより多くの役割が求められ、単なる語学 教育に留まらない留学生の活動全般の指導、すなわち研修プログラムのファシリテーター としての能力が必要とされる。そのため、共通カリキュラムマネージメントセンターでは、 高度専門留学生育成事業(以下「高度専門」という)および高度実践留学生育成事業(以 下「高度実践」という)を実施する各コンソーシアムの研修管理者や研修担当講師に対し て、共通カリキュラム・教材の指導方法等に関する実務的な講師研修を実施し、研修で取 り扱う内容に関して、各コンソーシアム内で広く伝播してもらい、本事業に関する研修の 円滑化を促すことを目的とした。 (2)ねらい 講師研修を実施したねらいは以下の6点である。 ①共通カリキュラムの概要やコンセプトを理解すること ②テーマプロジェクト型研修を実施する際のポイントについて理解すること ③留学生に求められる能力についての理解と、それを測定するための評価ツールについ て理解すること ④共通カリキュラム・教材の具体的な指導法について理解すること ⑤研修実施環境や留学生の日本語能力レベルに応じて、カリキュラム・教材のカスタマ イズをどのように行っていくか考えること ⑥共通カリキュラムマネージメントセンターの役割を周知徹底すること (3)講師研修実施講師(五十音順 川端 一博 敬称略) 財団法人 日本国際教育支援協会 日本語教育普及課 事業部 作題主幹 武井 直紀 国立大学法人 東京工業大学 中村 和弘 株式会社 ケー・エー・アイ カイ日本語スクール 春原 憲一郎 AOTS日本語教育センター 18 留学生センター センター長 教授 教務主任 北条 尚子 独立行政法人 日本貿易振興機構 貿易投資相談センター 堀井 惠子 人材開発支援課長 学校法人 武蔵野女子学院 人間社会・文化研究科 武蔵野大学大学院 教授 山本 弘子 株式会社ケー・エー・アイ 山本 富美子 学校法人 立命館 カイ日本語スクール 代表 立命館アジア太平洋大学 アジア太平洋学部 教授 (4)研修日時、場所および参加者 第1回 関東地区 日時:2008 年 8 月 27 日(月)~2008 年 8 月 29 日(水) 一日目 13:30~19:00 二日目 9:15~17:45 三日目 9:15~16:30 場所:AOTS東京研修センター 東京都足立区千住東 1-30-1 参加者数計:41 名 参加者内訳: 高度専門 参加者数 管理法人名 研修担当者お 管理法人担当者 よび担当講師 (オブザーバー) 東北大学 1 0 千葉大学 1 1 理工学振興会(東京工業大学) 0 1 立教大学 1 1 東京大学 2 1 群馬大学 1 0 石川県産業創出支援機構(金沢大学) 1 0 中部生産性本部(名古屋工業大学) 1 2 立命館アジア太平洋大学 2 0 10 6 計 高度実践 参加者数 管理法人名 19 研修担当者お 管理法人担当者 よび担当講師 (オブザーバー) 札幌商工会議所(北海道) 5 0 テンプスタッフユニバーサル株式会社(東北) 3 1 産学連携教育日本フォーラム(関東) 6 1 中部産業連盟(中部) 3 0 ひろしま産業振興機構(広島) 2 1 琉球大学(沖縄) 2 1 21 4 計 第2回 関西地区 日時:2008 年 9 月 3 日(月)~2008 年 9 月 5 日(水) 一日目 13:30~19:00 二日目 9:15~17:45 三日目 9:15~16:30 場所:AOTS関西研修センター 大阪市住吉区浅香 1-7-5 参加者数計:35 名 参加者内訳: 高度専門 参加者数 管理法人名 研修担当者お 管理法人担当者 よび担当講師 (オブザーバー) 立命館大学 2 1 京都大学 2 0 石川県産業創出支援機構(金沢大学) 1 0 北九州産業学術推進機構 2 1 計 7 2 高度実践 参加者数 管理法人名 研修担当者お 管理法人担当者 よび担当講師 (オブザーバー) 3 0 大阪労働協会(大阪) 2 1 中国地域ニュービジネス協議会(中国) 0 1 岡山県中小企業団体中央会(岡山) 2 2 四国生産性本部(四国) 7 1 KYO の海外人材活用推進協議会(京都) 留学生版安全・安心ネット(兵庫) 20 麻生塾(九州) 6 0 琉球大学(沖縄) 1 0 21 5 計 4.2 講師研修内容 本節では、講師研修の内容について簡単に触れる。以下、講師研修の内容についての記 述は、各講師が準備したプレゼンテーションの内容をもとにまとめたものである。各研修 担当講師詳細は別添資料⑧を参照のこと。 (1)共通カリキュラム概要 ①研修コンセプトについて まず、本事業に対する社会的背景やニーズについて概要を説明し、引き続き、企業の 求める人材像について具体的な調査報告をもとに説明を行った。さらに、元留学生から の聞き取りを元に、元留学生が就職後に直面している課題について概観した。その後、 世界の語学教育の潮流と本事業で行おうとしている研修コンセプトの関係について説明 を行い、最後に共通カリキュラムの特徴について説明を行った。 ②研修カリキュラムについて 具体的なカリキュラムの流れと、共通教材として提供している研修テーマの説明を行 い、その後PBLについて説明を行った。 (2)プロジェクトワークの進め方について ①ビジネス日本語教育の必要性 企業のニーズ、留学生のニーズ双方の状況を概観した。 ②ビジネス日本語とは ビジネス日本語教育の対象者として考えられる学習者について、および、ビジネス日 本語とアカデミックジャパニーズとの関係について説明を行った。 ③具体的に必要とされる能力 基礎的な日本語力を保持した上で、企業で活躍するために特に必要とされる能力につ いての説明を行った。具体的に必要とされる能力は、「情報収集能力」「文章表現能力」 「口頭表現能力」である。 ④外国人社員の問題点 先行研究をもとに、外国人社員が企業内で直面する問題点について説明した。具体的 には「責任に対する意識の違い」「協働に対する意識の違い」「離職率の高さ」という三 点にまとめられる。 ⑤プロジェクトワークで育成する能力 一般的にプロジェクトワークで育成されると考えられる能力についての説明を行った。 具体的な能力としては「日本語の実践的運用能力」 「社会で通用するコミュニケーション 21 能力」「自律的学習能力」 「社会文化適応能力」の四点があげられた。 ⑥プロジェクトワーク実施における留意点 プロジェクトワーク実施上の留意点について、特にファシリテートが重要であるとの 説明を行った。 ⑦具体的なカリキュラム・教材の内容 カリキュラムの具体的な内容について、全体の流れを提示し、その後、教材例を用い て、教材の内容について簡単に説明を行った。具体的な教材の説明については、「カリキ ュラ・教材の指導法」の時間に行った。 ⑧講師に求められるもの 本事業のビジネス日本語研修でプロジェクトワークを行う際に、授業担当講師に求め られる資質について説明を行った。 ⑨評価について 本事業における学習評価について、概略の説明を行った。詳細説明は、 「留学生に対す る評価について」で行った。 (3)留学生に対する評価について ①評価設計概要 本事業での評価項目、評価体系、評価実施のイメージについて説明を行った。 ②BJTについて JETROが行っているBJTについての説明を行った。本事業では、BJTと同様 の試験結果が得られる、BJT個別テスト(2章 2.3 参照)を評価項目の一環として採用 しているため、授業実施講師がBJTについての理解を深めることを目的として説明し た。具体的には、BJT概要、評価基準、日本語能力試験との関係、難易度、測定する 能力、テストの構成、問題例、得点、項目改善、作題プロセス、BJT実施状況につい ての説明を行った。 (4)共通カリキュラム・教材の指導法について 共通カリキュラムマネージメントセンターが提供したカリキュラム・教材について、 実際の教材を見ながら、教材作成委員による教材解説を行った。具体的には、以下の4 テーマについての解説であった。 ①就職に向けて ②自国と他国の違いを知る ③企業・社会を知る ④仕事を知る (5)レベルに応じた指導法と研修カリキュラム・教材カスタマイズについて 本事業では、日本語能力試験1級ないし2級超レベルの学生を対象とすることになっ 22 ているが、実際には、個人内での能力の偏りやクラス内での能力のばらつきが考えられ る。そこで、研修実施担当者がテーブルごとに分かれて、現状の報告を行うと共に、レ ベル別対応や今後の方針についてディスカッションを行った。当該ディスカッションに は、教材作成委員と共通カリキュラムマネージメントセンターのメンバーも同席し、活 発な意見交換を行った。 (6)共通カリキュラムマネージメントセンターのサポート事業について 研修開始後にカリキュラムマネージメントセンターが各実施拠点のサポートとして行 うことについて、具体的な方向性を説明した。主な説明は以下3点についてであった。 ①研修リソース・コンテンツの情報提供および共有化を促進するための環境設定を行う。 ②研修内容に関する問い合わせ窓口を設置し、適宜相談に応じる。 ③全国の実施拠点に対して、年2回ないし3回の巡回指導を実施し、情報共有を促進す ると共に、よりよい研修実施に向けた相談やアドバイスを行う。 4.3 講師研修実施に関する考察 講師研修を行った結果、その成果と課題が明らかになった。本節では、研修参加者から 多かった声をもとに、講師研修についての考察を述べる。 (1)成果 もっとも多かった感想は「カリキュラムの具体像がわかって安心した」 「統合型ビジネス 日本語教育について理解できた」というものであった。講師研修を通して、カリキュラム の全体像やコンセプトの説明を行ったことにより、本事業における研修が何を目指そうと しており、具体的にどのような方策を採ろうとしているのかという点について、共通理解 が図られたといえる。特に、PBLという、従来の日本語教育では十分に取り入れられて なかった学習活動が推奨されていることから、現場講師にとっては不安感が先にたつ状況 であったと推測されるが、そのような不安感を払拭する一助となったともいえる。このこ とは、 「具体的にどのような授業をやればいいか理解できた」という声からも明らかである。 具体的な教材とそこでの活動の流れを提示したことによって、参加者間で授業イメージが 醸成されたといえる。 一方で、 「各地域で共通の課題や違いがわかってよかった」という声もあった。講師研修 の実施は、その内容を伝播するのみならず、そこに集う人々の関係性を構築し、今後の事 業運営に際してのネットワークを構築する場だとも言える。今年度の研修において、全国 各コンソーシアム代表と研修担当者が一同に会し、種々の情報交換を行えたことは、事業 実施のネットワーク作りという側面でも大きな成果といえる。 (2)次年度講師研修実施への考察 研修参加者からの声から、次年度、さらなる講師研修を行う場合の示唆も得られた。多 23 かったのは「研修実施の具体的な話が多かったのはよかったが、管理法人担当者向けの全 体的な話をするような研修もしてほしい」 「各拠点で状況が異なるため、一斉に行う講師研 修では難しい点もある」 「(日本語教育が専門ではないので)日本語教育に関する略語などが よくわからなかった」という声であった。今回の研修は、ビジネス日本語研修の実施を統 括する立場にある人を対象として開催したため、研修担当者や現場講師として参加した 人々に対しては、十分に実りのある成果が得られたが、逆に、コンソーシアム全体の運営 に関わる立場の人にとっては、やや期待とのずれがあったものと思われる。 共通カリキュラムマネージメントセンターからは、全国統一の「モデル」を提示したわ けであるが、現場の実情に応じて、さまざまな対応が迫られることから、 「一斉研修では難 しい点がある」という意見が出てきたものと思われる。このことから、次年度以降のカリ キュラムマネージメントセンター事業としては、講師研修を受講する対象者を絞った対象 別研修と、事業実施体制や学生の実情に応じた案件タイプ別研修を設定し、多様性のある 研修を行っていく必要があるだろう。対象別として考えられる具体的な対象としては、コ ンソーシアム管理者、研修コーディネーター、授業実施講師などである。また、案件タイ プ別では、地域独自性を考慮した地域別研修や、参加学生の属性(文理や学部・院の別)に よって分類した研修などが考えられる。 さらに、講師研修の形態や内容として重要なことは、カリキュラムマネージメントセン ターから一方的に情報を提供することだけにとどまらないということであろう。一年間に わたって事業を実施した各現場での知見を集約し、情報交換するような「事例検討型」の 研修を数多くこなすことで、事業経験の蓄積が有効活用され、自立化の促進が行われてい くと考えられる。講師研修の成果から、各地の担当者とネットワーク形成の重要性が明ら かになったことからも、このような形態の研修は重要だと考えられる。 なお、「事業の全体像が見えない中での研修だったので、理解が十分ではなかった」「教 材をカスタマイズする際の具体的な指針がほしかった」という声もあった。 上記2点に関しては、その後の巡回指導で個別に対応を行っている。事業の全体像の把 握は、各コンソーシアム内でのコミュニケーションを図って、研修統括責任者と研修実施 者の情報交換を促進するようにアドバイスしている。また、教材のカスタマイズに関して は、各案件によって状況が異なるため、これも巡回指導によって個別対応を行っているの が現状である。 24 第5章 巡回指導について 本章では、アジア人財資金構想の全国拠点における研修実施補助として、共通カリキュ ラムマネージメントセンターが行った巡回指導について述べる。 5.1 目的 本事業では、全国各地でさまざまな取り組みが行われている。共通カリキュラムマネー ジメントセンターとしては、講師研修を行うことで、研修内容についての共通理解は図っ たが、とはいえ、各現場の実情を勘案して、さらなるサポート体制を構築する必要がある と考えた。巡回指導では、現場の授業・学生の様子・講師の声などを丹念に集め、カリキ ュラムマネージメントセンターとして可能なサポートを模索するとともに、各コンソーシ アムとの綿密な協力体制のもとに、より質の高い研修実施を導くことを目的とした。 5.2 巡回指導概要 共通カリキュラムマネージメントセンターでは、各コンソーシアムにおける研修実施の サポートとして、全国のコンソーシアムに対して巡回指導を行った。巡回指導は、「研修開 始時」「研修実施中」「研修終了後」に対応するように、年度内3回実施することを目安と した。 巡回指導は、高度専門(12 管理法人)、高度実践(9管理法人)すべての案件に対して実施 した。2008 年 10 月 15 日に開始し、2008 年 3 月 14 日に終了した。この間、延べ 110 ヶ 所を訪問し、情報収集に努めた。訪問日と訪問先の詳細については別添資料⑨を参照のこ と。 以下では、巡回指導の具体的な内容について述べる。 (1)研修開始時期 研修開始時期には、各コンソーシアムを訪問し、研修実施環境の把握に努めるとともに、 各コンソーシアム関係者との関係を構築することを一番の目的とした。また、研修実施に 際しての細かい疑問点に対して回答を行ったり、実施体制に関するアドバイスを行ったり した。この時期の訪問では、開講式への出席なども積極的に行い、参加学生の実情把握に も努め、以後の巡回指導の計画立案をするための情報を収集した。 (2)研修実施期間中 研修実施期間中の訪問では、授業見学を中心に情報把握と研修実施支援に努めた。授業 見学後は、可能な限り時間をとり、研修カリキュラム担当者や授業担当講師に対して、日 本語教育面、ビジネスコンテンツ面、学習活動実施面など多面的な角度からコメント・ア ドバイスを行い、現場での研修実施の支援を行った。また、共通カリキュラムマネージメ ントセンターが委嘱しているカリキュラム教材開発委員に同行してもらい、授業見学を行 うとともに、研修実施面でのアドバイスを行なった。さらに、訪問に際しては、時間が許 25 す範囲で参加学生とも話をし、学生たちの要望・期待・不安などについても情報を収集し、 今後の研修実施に対するアドバイスを行なう上での参考とした。 (3)今年度研修終了期 研修終了期の訪問では、今年度の総括と次年度の方向性についての話し合いを中心に行 った。特に、各実施地における個別の課題の把握と、全国的に共通する課題の把握を行っ た。また、比較的円滑に研修が実施されている案件のタイプについて考察を行うために、 取り組みのよいコンソーシアムの情報を積極的に収集した。 (4)その他 巡回指導を通して収集した他案件の情報を各コンソーシアムに提供することによって、 コンソーシアム間で個別に連絡を取り合って、相互に授業見学を行うなどの取り組みも見 られるようになった。また、巡回指導による話し合いから、3月にアジア人財資金構想に 関するシンポジウムを開催した地域もあった。ここでは、地域の日本語教育機関の人々や、 企業関係者、行政関係者が一堂に会したことで、本事業の概要、ねらい、実施状況などを 広く周知することができた。 5.3 研修拠点での実施状況 巡回指導により散見された平成 19 年度の研修実施状況について触れる。 (1)共通教材の使用状況 共通カリキュラムマネージメント事業として開発された共通教材は、そのままの形で の使用、一部使用、あるいはカスタマイズして使用という三つのタイプがある。高度専 門・高度実践合わせて 61 研修拠点のうち 55 拠点において、上記三つのタイプのいずれ かの形で使用されている。他の6拠点では、独自開発教材あるいは市販教材を使用して いる。 (2)ビジネス日本語研修実施時間帯 研修の行なわれる曜日・時間帯は大きく平日の昼間、平日の夜間、週末(土曜または 日曜あるいは両方)、春休み・夏休み等の長期休暇中に集中して行なわれるケースに分か れている。高度専門の場合は平日の昼間に行なわれていることが多く、高度実践の場合 は週末あるいは平日の夜間に行なわれていることが多い。一部において長期休暇中に集 中して行なわれているケースもある。また、平日や週末に行なっているところでも、長 期休暇の一部を使って集中研修を実施しているものも散見される。 (3)ビジネス日本語研修クラス数および研修時間数 全 61 拠点における研修は 79 クラスで実施されているが、日本語研修の時間数に関し 26 ては今年度は実施していないところから今年度だけで 500 時間に及ぶ研修を行なったと ころまで多岐にわたっており、さらに高度専門と高度実践の研修実施形態の違い、研修 の開始時期の違い等があり一概には言えないが、巡回指導で得られた情報から、約 60~ 80 時間程度の研修を行なったところが多いことがわかった。 5.4 巡回指導に関する考察 (1)実施状況比較 本節では、巡回指導を通して得られた情報をもとに、研修実施状況を比較する。ここで とりあげる特徴は、最大公約数的に多くのコンソーシアムに見られるゆるやかな共通点と いう意味合いであり、実際には、各コンソーシアムとも独自性があり単純化することが必 ずしも適当でないことも付言しておく。 ①高度専門・高度実践 研修実施体制 研修場所 高度専門 高度実践 大学関係者が積極的に関与して 行政や産業界との連携、コンソ いるところが多いが、学内での ーシアム内の連携はとれている 事業の周知とさらなる連携が課 が、大学関係者との連携が弱い 題になる。 ところが多い。 学生の所属大学内施設を使用し 外部施設や大学の教室を借り上 ているところが多い。 げて実施している。外部施設の 場合、距離的時間的に学生の授 業参加が大変な場合もある。 研修内容 日本語とビジネスを分離して行 統合型研修が主で、ほとんどの っているところが多く、高度実 地域で共通教材を何らかの形で 践に比べると共通教材よりも自 使用している。日本語力に応じ 作教材の使用比率が高い。 たレベル別対応がやや弱いとこ ろが散見される。また、PBL を行う際の時間確保が課題とな っているところが多い。 講師 ビジネス、日本語それぞれの専 統合型で行っているところが多 門性を持つ講師がそれぞれの研 いため、ビジネスを専門とする 修を担当している。 講師が日本語面のフォローを求 められたり、逆に日本語講師が ビジネスに関する内容を担当し なければならない場合がある。 自立化への取り組み 独自カリキュラムや教材を作成 地域による変数が大きく、各地 している、研修を学内で単位化 域の状況に合わせて自立化を模 しているなどが見られる。 索している段階である。 27 ②大学院生・学部生 学生の属性 大学院生 学部生 理系の学生が多い。高度専門・ 文系・理系の学生が同数程度参 高度実践ともに参加者がいる。 加している。学部生の多くは、 出身地も比較的多様である。 高度実践の参加者である。圧倒 的に中国系学生が多い。 学習の様子 多くの大学院生は理系であるた 比較的時間に余裕があるが、ア め、研究のために多くの時間を ルバイトのために学習時間の確 割かねばならない。そのため、 保が難しいとの声も聞かれる。 学習時間の確保が難しい。また、 各学生の正規の時間割との兼ね 合いで、学生全員が集まれる時 間の確保が難しいところもあ る。さらに、授業外での課題を こなす時間の確保も困難となっ ている。 日本語について 学部生に比して、日本語力が高 日常会話や大学生活を送る上で くない学生が多いという傾向が 必要な日本語はほぼ習得できて みられる。 いる。しかし、大学生活におい て、まとまったものを日本語で 書くという経験が少なく、書き 言葉 の習得が課 題と考えられ る。 日本語使用環境 研究室では英語でコミュニケー アルバイトをしている学生が多 ションを行うことが多い。研究 い。また、大学生活を通しても、 室でも日本語でのコミュニケー 日本語で講義を受けており、日 ションができるように、指導教 本人学生と日常的に行動を共に 官や研究室の日本人学生たちに する学生も多い。したがって日 個別に頼んでいる学生たちはい 本語使用の環境は十分にある。 るが、全体としてはそのような しかし、親しい友達とのコミュ 環境の構築ができていないよう ニケーションが多いため、適切 である。 な待遇表現を用いてやりとりを また、大学院生は研究の時間を することが少ないという点が課 確保するために、アルバイトを 題である。 することが難しく、研究室以外 での日本語でのコミュニケーシ ョンが不足しがちである。 28 (2)巡回指導から見られる次年度事業への考察 研修実施に関して、今後の改善が必要な点も多くあげられる。以下、全国的に共通する と思われる点について考察を行う。 ①講師育成 ビジネス教育と日本語教育を統合して考えた場合、その双方に造詣の深い人材が不足し ているという問題がある。特に、地方都市での人材不足が顕著である。また、一人の講師 が日本語もビジネスもということは現実的ではないため、多様な知見を有した専門家集団 が有機的な協力体制を構築して事業に関与する必要がある。 ②コミュニケーション・連携 高度専門では、学内コミュニケーションを促進し、学内の異なる専門分野の人々が協力 体制を構築することが不可欠である。高度実践では、コンソーシアムと大学関係者の連携、 地域社会に散在しているビジネス関係者と日本語関係者の連携や、企業・行政・教育機関 のさらなる連携が今後の課題となる。 ③「中級」対応 全国各地で、共通カリキュラム・教材が対象とした日本語力に達していない参加学生が 在籍している。巡回指導の結果、この傾向は次年度以降さらに加速されるのではないかと 危惧される。したがって、研修内容の柔軟な改変やカリキュラムの工夫などの取り組みが 必要とされる。このような取り組みは、各現場の実情に応じて各コンソーシアムが行うと ともに、共通カリキュラムマネージメントセンターとしても全国の事例を収集し、日本語 力に課題を持つ参加学生の支援体制を全国的に構築していく必要がある。 ④研修実施体制の拡充 研修実施に関しては、PBL実施上の課題が見える。PBLでは、授業外の課題を数多 くこなすことが前提とされているが、そのための時間確保が難しい。また、教室外に出て 活動することも推奨されるが、そこでの移動時間と移動手段の確保も課題となる。特に、 地方都市では交通の利便性の問題もあり、困難な状況が見て取れる。 本事業の研修、特に多くの高度実践案件に関しては、大学の授業外に研修を設定してい る。したがって、そこに参加する学生の動機付けを維持することが非常に重要である。現 在、少しずつではあるが、出席率が低下しつつある状況も散見されるため、各現場の実情 に応じて、学習者の学習意欲を高める方策を講じる必要がある。特に、二年次の参加学生 に対しては、就職が決定した後の研修参加の意義を明確化する必要がある。そのためには、 就職後の社内活動を視野に入れた、実践的な研修内容を構築していく必要があり、共通カ リキュラムマネージメントセンターとしても、そのような観点から支援を行っていく必要 がある。 29 (3)巡回指導実施を通した考察 短期間とはいえ「可能な限り現場へ赴く」という考えの下、数多くの訪問を行うことが できた。そのことで、各地の研修の取り組み状況を把握することができた。また、コンソ ーシアム担当者や授業担当講師との関係性が構築され、今後の事業実施をさらに進めてい くための素地が作られた。次年度も、継続的に巡回を行い、現状把握と関係性構築に努め る必要がある。巡回指導を通して、現場からの要望で最も多かったものは、他案件の情報 がほしいということと、具体的にカリキュラム・教材作成やカスタマイズを行う上での相 談であった。次年度はこの2点についてさらにサポートしていく必要があるが、この問題 を解決するためには、講師研修と巡回指導をうまくかみ合わせて行っていく必要がある。 巡回指導は、研修実施現場を見ることができる、多くのコンソーシアム関係者と話をす ることができる、参加学生と話すことができるなど、その利点は多岐にわたる。次年度以 降も、共通カリキュラムマネージメントセンターの支援活動として、巡回指導が果たす役 割は非常に大きくかつ重要であると言える。 30 第6章 今年度の評価結果について 本章では、研修成果の検証のために収集したデータについて述べる。 6.1 BJT個別テスト BJT個別テストは各コンソーシアムにおける研修実施拠点で、各々の研修スケジュー ルにあわせ、初期評価としては研修が開始された平成19年10月~12月にかけて、中 間評価としては平成20年1月~3月にかけてテストが実施された。 (1)BJT個別テスト実施結果 初期、中間評価のテスト結果の概要は以下の通りである。 受験人数 最高点 最低点 平均点 初期評価(第 1 回目) 505 752 159 456(J2レベル相当) 中間評価(第 2 回目) 423 734 160 473(J2レベル相当) 表6-1 BJT個別テスト結果概要 中間評価のほうが初期評価と比べ、平均点に伸びが見られている。また、得点の分布を 比較すると以下の通りとなる。 BJT個別テスト 得点分布(人数) 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 図6-1 751~775 726~750 701~725 676~700 651~675 626~650 601~625 576~600 551~575 526~550 501~525 476~500 451~475 426~450 401~425 376~400 351~375 326~350 301~325 276~300 251~275 226~250 201~225 ~175 176~200 初期評価(第1回目) 中間評価(第2回目) BJT個別テスト得点分布(人数) 25 点ピッチによる解析結果では、初期評価における得点分布のピークは 451~475 点で あり、中間評価については 476~500 点となっており、平均値の伸びと共にピークも合わせ て推移していることが分かる。この現象はアジア人財資金構想が高い日本語能力の習得を 目指したプログラムであり、日本語能力が向上し始めたことに起因するものと考えられる。 31 人数毎の得点分布では、受験人数の差異があるため詳細な考察ができないため、分布人数 を受験人数で除して無次元化し、割合を見ると以下の通りとなる。 BJT個別テスト 得点分布(割合) 20.0% 初期評価(第1回目) 中間評価(第2回目) 15.0% 10.0% 5.0% 図6-2 726~750 751~775 651~675 676~700 701~725 551~575 576~600 601~625 626~650 451~475 476~500 501~525 526~550 376~400 401~425 426~450 276~300 301~325 326~350 351~375 201~225 226~250 251~275 ~175 176~200 0.0% BJT個別テスト得点分布(割合) 初期評価と中間評価では、先述した得点ピークの推移と共に、400~475 点の人数割合が 減じ、550~650 点にかけての人数割合が高くなっているのが特徴的である。また、これと 比較し 350 点以下の初中級者ではあまり顕著な推移がない。これは所謂中~上級レベルの 日本語能力から上級~超級レベルを目指すという共通カリキュラムの設計思想を反映して いるものと考えられる。BJTのレベルで言えば、J2レベルからJ1レベル相当へと移 行している。 また、部門別(聴解、聴読解、読解)のランク結果は図6-3~5のとおり。各部門の 平均点は以下のとおり。 部門 初期評価(第 1 回目) 中間評価(第 2 回目) 聴解 4.05 4.30 聴読解 4.29 4.61 読解 3.88 4.11 表6-2 部門別平均点 聴解よりも読解の結果の方が若干低い結果となった。これは留学生が学生生活のコミュ ニケーションにおいて、読解よりも聴解という技能を使用しているためと思われる。また、 各部門別の得点分布は以下の通りである。 32 第1部 聴解(割合) 第1部 聴解(人数) 250 50.0% 200 40.0% 150 30.0% 初期評価(第1回目) 中間評価(第2回目) 100 初期評価(第1回目) 中間評価(第2回目) 20.0% 50 10.0% 0 0.0% 1 2 3 4 5 6 7 1 図6-3 2 3 4 5 6 7 聴解結果 第2部 聴読解(人数) 第2部 聴読解(割合) 50.0% 150 40.0% 100 30.0% 初期評価(第1回目) 中間評価(第2回目) 初期評価(第1回目) 中間評価(第2回目) 20.0% 50 10.0% 0 0.0% 1 2 3 4 5 6 7 1 図6-4 2 3 4 5 6 7 聴読解結果 第3部 読解(人数) 第3部 読解(割合) 50.0% 200 40.0% 150 30.0% 初期評価(第1回目) 中間評価(第2回目) 100 初期評価(第1回目) 中間評価(第2回目) 20.0% 50 10.0% 0 0.0% 1 2 3 4 5 6 7 1 図6-5 2 3 4 5 6 7 読解結果 得点が伸びていることに相関して、どの部門でも高いランク点の伸びが見られる。聴解、 読解については明確なピークを持つ正規分布の形状を示しているのに対し、聴読解ではこ れらに比べるとピークがなだらかな計上を持つことが特徴的である。 33 (2)BJT個別テストに関する考察 BTJ個別テストに関する詳細な解析は今後の課題といえる。アジア人財資金構想事業 が継続されていく中で、以下のような考察が必要であると考えられる。 ・研修内容との相関 研修プログラムの内容(カリキュラム、研修時間、使 用教材、学生属性等)とテスト結果の伸びの相関を解析 し、能力向上に与える研修内容因子を考察する必要があ る。 ・他の評価ツールとの相関 CDSや行動変容といった他の評価指標との相関を解 析し、評価体系の理論的・統計論的な検証作業を行う必 要がある。 ・試験実施の徹底 本テストは各コンソーシアム単位で試験が実施される が、特に高度実践案件では試験日に留学生が所用等で欠 席するケースが見られる。中間評価実施時期は特に留学 生の一時帰国により欠席するしていたりするケースが 多く、初期評価と比べ受験者数も少なかった。今後、試 験の実施を徹底することが必要である。 6.2 CDS、行動変容評価 BJT個別テストと並行して、CDS,行動変容についても各コンソーシアムにおいて 評価が実施された。これらは留学生による自己評価及び担当講師による第三者評価による 評価であり、定性的な評価である。 (1)評価ツールの運用 これら評価ツールが適切に運用されることによる効用が発現しつつある。代表的な事例 を以下に述べる。 ①自己の現状に対する気づき 初期評価と比べて中間評価において自己評価点を落とした事例が散見される。これは、 当初自己能力を過信していたのに対し、本研修プログラムにより客観的な自己評価ができ るようになり、必要とされる能力を認識したため評価点を落としたものと推察される。 ②到達目標に対する具体的な気づき 各種評価ツールで示される評価項目から、留学生自身に求められている必要能力を自覚 し、 「自分には社会人基礎力の中の発信力が足りない」といった形で、自己分析と認識を行 っている。それを通して、より明確で具体的な学習目標の設定が可能となっている。 ③学習成果に対する気づき 評価項目が明文化されていることで、カリキュラム内のタスク活動の意義を知り、学習 に対するモチベーションの向上につなげているケースが見受けられる。また、プレゼンテ ーション活動等繰り返し実施されるタスク活動の評価を通じ、徐々に能力が向上しつつあ 34 ることを自己認識しているケースが見られる。 (2)CDS、行動変容評価に関する考察 運用を模索しながら行ってきた中で、以下のような課題が散見される。 ・評価実施時期の徹底 コンソーシアムによっては十分に評価ツールの実施の必要性 が認識されておらず、BJT個別テストと比べ評価実施が遅 れるケースが見られた。各コンソーシアムに対し今後十分周 知を行う必要がある。 ・対話の促進 講師と留学生の間で、評価結果について共有し、研修成果や 課題について、十分なコミュニケーションを促進することが 必要である。 ・評価項目の整理 CDSについては、設問数や設問内容について再整理し、留 学生等に対して分かり易いものに改編する必要がある。 6.3 ポートフォリオ ポートフォリオについては各種評価ツールを統合するための推奨評価ツールであるため、 コンソーシアムにより活用されている場合とされていない場合が見られる。以下に円滑に 運用されている事例を報告する。 (1)運用方法 ポートフォリオのオリジナルは留学生が所有し、複製物を管理法人で所有する。これに 各種評価ツールの結果だけでなく、毎回の講義における宿題やレポート、課題を蓄積して おり、これらの日々の課題と評価の結果が軌跡として分かり易く綴られており、学習カウ ンセリングへ活用されている。 また、管理法人側には毎回の講義における留学生の個人別内在化評価やコメントが蓄積 され、年度末のCDS、行動変容評価に活用できるようになっている。 (2)管理方法 管理法人内の事務所内に施錠できる専用の戸棚を設け、クラスごとにファイリングされ ている。担当講師は必要時に管理法人事務所にてポートフォリオを閲覧し、講義準備、評 価活動を行なう。 以下にポートフォリオとその管理状況の実例を示す。 35 写真6―1 ポートフォリオ例 写真6―2 ポートフォリオ管理状況 (3)ポートフォリオに関する考察 ポートフォリオについては活用方法等について十分認知されている評価ツールではない ため、各コンソーシアムにおいての運用方法等について認識の差異が非常に大きい。今後、 上述のような円滑に運用されている事例などを周知し、ポートフォリオを十分に活用する 必要がある。 36 第7章 今年度事業に関する考察と次年度事業への課題 本章では、第2章から第6章までの各項目における考察をまとめ、次年度の共通カリキ ュラムマネージメント事業への課題についてまとめる。 7.1 カリキュラムマネージメントセンター事業実績 第2章から第6章までの事業実績をまとめると以下のようになる。 (1)各種開発事業 留学生の就業促進という留学生の就職に対するニーズや日本企業社会ニーズを勘案して、 ビジネス日本語、日本ビジネス教育および社会人としての行動能力習得を統合したPBL 型学習の研修カリキュラム、教材と、それに対応した各種評価ツールを開発した。また、 その開発成果物の情報を発信するために、WEBサイトを構築して、開発成果物の配信お よび情報発信を行った。 (2)各コンソーシアムに対する事業コンセプトと研修コンセプトの周知 本事業が円滑に実施される上では、アジア人財資金構想という事業コンセプトと必要と される研修コンセプトを十分理解する必要がある。事業が目指すべき方向性とそれに基づ く研修の方向性が関係者間で十分周知されなければ事業成果が期待できない。また、共通 カリキュラムを利用する場合には、カリキュラム・教材および評価ツールについて、各コ ンソーシアムの担当者が内容を十分咀嚼した上で研修を実施する必要がある。 これらについて、講師研修やWEBサイト構築、巡回指導といった活動を通じ関係者に 周知した。 (3)コンソーシアム間の情報共有の促進 アジア人財資金構想の特徴として、同時に国内の多地点において、同一の研修目標に向 かって様々な活動が行われたことが挙げられる。また、産学官連携および地域により様々 な活動形態があり、それに関係して様々な研修実施形態、内容が生ずるため、コンソーシ アム間の情報共有のニーズが高い。そういったニーズに応え、講師研修において情報を発 信しただけでなく関係者間の交流を図り、巡回指導などを通じ継続して情報を発信した。 (4)コンソーシアム内の情報共有と協力体制構築を促進 先述したように情報の周知が必要ではあるが、地域事情等によりコンソーシアム内の連 携や情報共有が十分でない事例もあったことから、巡回指導を通じてその必要性を訴え、 事業実施の円滑化に寄与した。 37 7.2 良好な研修実施モデルのタイプ 今年度については研修を開始して間もないため、研修効果という点においては今後の経 過を見る必要があるものの、研修実施の取り組み、実施方法等が良好である研修実施もモ デルが散見される。そのモデルが有する特徴は、以下の点である。 (1)コンソーシアム内協力体制・管理体制の構築 コンソーシアム内(管理法人、企業体、大学、日本語教育関係者)のコミュニケーショ ンと情報共有と意思決定が十分に行われ、協力体制が構築されている。また、コンソーシ アム外の行政や地域といったセクターとのコミュニケーションが良好である。さらにこれ らの関係者が研修のデザインから実施にいたるまで、委員会活動等を実施しながらさまざ まな人々からの意見を収集、議論しながら事業を展開している。 また、コンソーシアム内部において、講義の運営や連絡体制等研修実施に係る管理マニ ュアル等を作成し、研修実施体勢について関係者に徹底している。 (2)就職だけでなく就業後の企業活動も見据えた、実践的な日本語研修の実施 単に講師が教えるだけの一方通行の講義ではなく、学生が研修に主体的・能動的取り組 む双方向型の学習スタイルを保持し、参加学生の自律的協働的な学習参加を促進する学習 活動を行っている。これらにより従来の「就職のためのビジネススキル」を付与するたけ でなく、社内・社外における高度なコミュニケーションが行えるような実践的学習活動と なっている。 (3)他地域の実施情報の積極的収集 他のコンソーシアムや類似の事業の情報を入手すべく、見学や実施事例の情報交換など を通して、他地域の実施状況を把握し、研修実施に役立てている。 (4)積極的な外部情報発信 新聞・テレビなどのメディアを通して、本事業の取り組みを積極的に外部発信している。 また、研修内容を検証し、学会などで積極的に報告を行っている。 コンソーシアムという枠組みを活用して、地元産業界に向けて研修内容を公開し、社会 的認知と理解を促進するようなシンポジウム等を開催するなどの活動を行っている。 38 7.3 次年度共通カリキュラムマネージメントセンター事業の課題 これまでの事業実績や考察から、次年度以降に共通カリキュラムマネージメントセンタ ー事業として重点的に取り組む課題は以下のようになると考えられる。 (1)共通カリキュラムマネージメントセンターとしての課題 ①研修カリキュラム・教材の継続的更新、開発 現在の研修カリキュラム・教材のテーマや内容の「陳腐化」を防止するために、研修リ ソースや内容について継続的に更新していく必要がある。また、現在の 15 テーマ以外の新 規テーマの教材を開発し、多様な社会ニーズに基づくカリキュラム・教材を継続的に開発 する必要があると考えられる。 また、理系の大学院生を念頭におき、研修カリキュラム・教材のカスタマイズの検討を 考慮すべきである。 ②研修実施支援の強化 共通カリキュラム・教材はあくまでも標準形を考慮しているが、実際には地域の特性や 研修実施環境等の事情によりカリキュラム・教材をカスタマイズして使用することが多い。 各コンソーシアムで実施される研修に対して、カスタマイズされたカリキュラム・教材や コンソーシアム独自カリキュラム・教材の開発に対して、助言・指導などの開発支援を行 う必要がある。 ③評価事業の強化と拡充 研修効果について各種評価ツールの評価結果を用いて継続的に検証すべきである。また、 評価事業の必要性と実施を関係者に周知徹底する必要がある。 ④コンソーシアム間の情報共有と発信 各コンソーシアムで実施されている研修カリキュラム・教材や評価事業について、共通 カリキュラムマネージメントセンターが中心となり情報共有を行い、事業の相互の波及効 果を高める必要がある。 ⑤アジア人財資金構想事業自立化への支援 アジア人財資金構想事業終了後における各コンソーシアムの事業自立化を見据えた事業 支援が必要である。 (2)カリキュラムマネージメントセンターとしての具体的な方策 ①研修実施現場からのフィードバックによるカリキュラム・教材の改善活動 各コンソーシアムで実施された研修カリキュラム・教材の分析を行い、研修現場からの 具体的な研修ニーズを収集して、カリキュラム・教材の継続的な改善、開発活動につなげ 39 る。また、現在のカリキュラム・教材の簡縮化を検討し、留学生の幅広い日本語レベルに 対応できるようにする。 ②ベストプラクティスモデルの策定 先述したような良好な研修実施モデルのタイプや実際に使用されたカスタマイズ教材、 独自教材等の情報を収集および分析し、研修実施体制および研修内容およびカリキュラ ム・教材のベストプラクティスモデルの策定を図る。各コンソーシアムに対してこのベス トプラクティスモデルの情報を発信、共有化することで、研修実施の支援を行う。 ③評価結果の解析 継続実施され評価結果を蓄積して、統計手法等も取り入れながら、研修要因との相関や、 他の評価指標との相関を解析、検証を行う。また、評価結果の情報入手の際には各コンソ ーシアム関係者等に対して評価事業の意義を十分に説明するだけでなく、報告書等を通じ、 評価結果のフィードバックを図る。 ④コンソーシアムとの情報交換の促進と情報共有 レクチャー型ではなく、参加者同士の事例発表、検討するような講師研修の場を設け、 コンソーシアム間の情報交換を円滑化する。また、共通カリキュラムマネージメントセン ターが各コンソーシアムへ巡回し、蓄積された研修に関わる諸情報を発信する。さらにW EBサイト等の遠隔ツールを用いて、情報発信を行う。 ⑤研修リソースの整備 カリキュラム・教材の拡充を図り、多様な研修ニーズに対応できるように対処する。ま た、物的リソースだけでなく、講師研修を拡充して、統合型ビジネス日本語研修に対応で きる講師の質、量という人的リソースの拡充を図る。講師研修については、先述したよう に単なるレクチャーだけでなく受講者同士が啓発しあうような研修をする。具体的には研 修形式についてはレクチャー形式、ワークショップ形式、セミナー形式等の組み合わせが 考えられる。また、受講対象者についてはコンソーシアムのプロジェクトリーダー、研修 コーディネーター、ビジネス日本語講師等が考えられ、これらの講師研修にかかわる因子 を組み合わせ多様化する。 以上 40
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