24. 放射線金属化学研究部門 部門担当教授(兼) 四竃 樹男 (2009.4 ~) 【構成員】 教授:四竃 樹男/助教:本間 佳哉、李 徳新、山村 朝雄 /大学院生[2 名]/学部生[0 名] 【研究成果】 当部門は我が国の大学では唯一、超ウラン化合物の電子物性研究に取り組んできた。その一環で、 強磁性転移を示すスクッテルダイト化合物 NpFe4P12(Tc=23K)および EuFe4As12(Tc=152K)の 57Fe メスバウ アー分光を行い、スペクトルの非対称性から、Fe サイトの電場勾配と内部磁場の寄与を解析した。 NpFe4P12 は<100>方向に、EuFe4As12 は<111>方向に磁気モーメントが向いていることが、Fe の内部磁場 から決定した。さらに 151 Eu メスバウアーにより、EuFe4As12 は Eu2+と Eu3+の混合原子価状態であること が確認された。また、以前測定した NpFeGa5 の 57Fe メスバウアースペクトルの精密解析を行った。Np モーメントによる Fe サイトの双極子磁場を詳しく検討した結果、TN=117K で(1/2,1/2,0)の伝搬ベクト ルで示される面内の磁気モーメントは 77K 以下で面から約 30°の煽り角を示すことが確認された。以 上は、磁化測定、中性子回折、核磁気共鳴と相補的な結果となっており、5f 電子の軌道の自由度を反 映した多彩な磁性を反映している。 一方、三元系NMAD(Non-magnetic Atom Disorder)新規化合物を探索すると共に、引き続きU2TSi3、 U2TGa3およびR2TSi3(R=希土類、T=遷移金属)系物質のスピングラス現象や磁気メモリー現象などスピ ンフラストレーション効果に対して研究を行った。特に、U2PtSi3単結晶に対してc面内での磁気メモ リー効果の実験測定を完成した。その結果、磁場中冷却(FC)あるいは零磁場中冷却(ZFC)に関わら ず、磁気記憶性質の存在が確認した。それはスピングラス状態でフラストレートした磁気相互作用の ランダム凍結による誘起された現象であることを明らかにした。U2PtSi3の磁気メモリー効果は広い温 度範囲で観測でき、約0.75 Tf(Tfはスピングラス転移温度である)で最も顕著である。一方、良質な Ce2CuSi3単結晶および多結晶Pr2AgIn3試料に対して、DC・AC磁化率、比熱、磁気緩和及び電気抵抗の測 定が完了し、スピングラス効果を観測した(Ref. 1)。特に、Pr2CuSi3およびNd2CuSi3と異なり、Ce2CuSi3 は単純なスピングラス現象が現れ、低温でスピングラス状態の形成はCe2CuSi3の本質的な特徴であるこ とを確認した(Ref. 2)。また、PrPdInとNdPdInの異常磁性および磁気熱効果を測定し強磁性物質の特 徴および大きいな磁気熱効果を発見した(Ref. 3) 。 他方、当部門では電気化学、無機化学に基づくアクチノイド及び類似元素の錯体の化学と工学に関 する研究を推進した。ウラニル5価([UO2]+)は不均化反応(2[UO2]+ + 4H+ → [UO2]2+ + U4+ + 2H2O) のため不安定であり研究が遅れているが、アクチノイドイオンにおける最も基本的な電子配置(5f1) を持つとの観点から興味を持たれている。申請者はウラニル5価錯体の有効磁子数が、5f1 電子の軌道 角運動量−スピン角運動量の結合(LS 結合)より期待される 2.54 よりも小さな 1.8 以下であり、さら に著しい温度依存性も見られることから、一軸対称性の配位子場による強い磁気異方性の考慮が必要 である。ほとんど孤立した 4f 電子を持つ希土類元素の場合、LS 結合で分裂した後、配位子場の効果と、 配位子と金属との結合は摂動項として作用し、シュタルク副準位の分裂が生じる。重希土類イオンで は、配位子場異方性により磁気異方性を生じさせて単分子磁石(SMM)を目指す研究が可能である。 Stevens 因子が負の Tb3+、Dy3+等では一軸性配位子場でイジングタイプ異方性が発現するが、正の Er3+ では赤道面配位子場が必要である(Ref. 4)。ウラン5価の一軸対称性配位子場における縮退の破れの 様子(基底状態の Jz 値が±1/2 であるか、±5/2 であるか)は複雑な成因に基づき現在検討中である。 ウランと化学的性質の類似するバナジウムについて、バナジウムの2価と3価、4価と5価の間の 酸化還元反応を利用したバナジウムレドックスフロー電池(VRB)はエネルギー密度が低いことから、 バナジウム錯体固体塩を用いた電池で 80 Wh/kg の値を得た(Ref. 5 )。この値は、VRB の 3-4 倍、鉛畜 電池の 2-3 倍、ニッケル水素電池と同程度の値である。 Ref. 1 D. X. Li, T. Yamamura, K. Yubuta, S. Nimori, Y. Haga, T. Shikama Evidence for spin-glass state in nonmagnetic atom disorder compound Pr2AgIn3 Journal of Physics: Conference Series, 320 (2011) 012041 1-6 Ref. 2 D. X. Li, S. Nimori, S. Ohta, Y. Yamamura and Y. Shikama Random spin freezing in single crystalline Ce2CuSi3 Journal of Physics: Conference Series, (2012), in press. Ref. 3 D. X. Li, S. Nimori and Y. Shikama Magnetic ordering and magnetocaloric effect in PrPdIn and NdPdIn Journal of Physics: Conference Series, (2012), in press. Ref. 4 A. Yamashita, A. Watanabe, A. Akine, T. Nabeshima, M. Nakano, T. Yamamura, T. Kajiwara, Wheel-Shaped ErIIIZnII3 Single-Molecule Magnet: A Macrocyclic Approach to Designing Magnetic Anisotropy, Angew. Chem., 50 (2011) 4016-4019. Ref. 5 T. Yamamura, X. Wu, S. Ohta, K. Shirasaki, H. Sakuraba, I. Satoh, T. Shikama, Vanadium solid-salt battery: Solid state with two redox couples, J. Power Sources, 196 (2011) 4003-4011. 【研究計画】 アクチノイド系には、当センタで発見された NpPd5Al2 超伝導だけでなく、URu2Si2 や Ube13 など 古くから知られていながらその超伝導機構が十分に解明されていない物質が多数ある。そこでドハー ス・ファンアルフェン効果や核磁気共鳴測定や低温電子物性を極低温、高圧下で測定してその機構解 明にせまる予定である。また、237Np や 197Au に加え、57Fe、151Eu、119mSn メスバウアーを適用して多く の物質の磁気的振る舞いを明らかにする予定である。酸化物燃料、金属燃料に関してもこれまで培っ てきた基礎物性研究的なアプローチで取り組んでいく予定である。一方、f電子系 NMAD 化合物のス ピンフラストレーション効果に関する研究を更に深化させる。特に、単一スピンのランダム凍結と 長距離磁気秩序の中間状態と考えられるクラスタークラスターグラス状態が存在する物質を注目し、元素置換、 外部磁場および外部圧力など有効手段を利用して、非磁性原子の無秩序度を積極的に制御し、ここか ら引 き起こされるスピンクラスターの生成・成長およびクラスターグラス挙動の変化を究明する。一方、ス ピングラスおよびスピンアイス振舞を示すパイロクロア型酸化物を選択し、圧力および磁場中 ac 磁化率の測定 により、スピングラスおよびスピンアイス状態の動力学特徴を調べる。 核燃料サイクルとの関連で還元剤、酸化物化促進剤としてアルデヒドを用いた低温水熱合成を開発 しましたが、この低温酸化物化を従来 1700ºC もの高温が必要とされた希土類複合酸化物への応用研究 を進めています。加えて、バナジウム固体塩の電池研究が、アクチナイド研究にも固体塩状態での表 面反応の活性化という果実をもたらすものと期待して研究を進めます。
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