核の量子性を考慮したトリチウム 化学反応過程の理論シミュレー ション法

核の量子性を考慮したトリチウム
化学反応過程の理論シミュレー
ション法の開発
特定領域研究:核融合トリチウム
公募研究(平成22-23年度)
埼玉大学 大学院理工学研究科 物質科学部門
(理学部 基礎化学科)
高柳敏幸
核の量子性による同位体効果
・Kinetic Isotope Effect (反応速度論的同位体効果)
動力学過程に関わる同位体効果:速度定数、拡散定数
・Geometric Isotope Effect (幾何同位体効果)
分子構造、結晶構造(格子定数)
・熱力学的な安定性の違い
ポテンシャルエネルギー曲面が必要
(グローバルな分子間相互作用)
量子化学(電子状態理論)により計算可能
核の運動を考慮 → 自由エネルギー曲面
核の量子性を取り入れた動力学が必要
Kinetic Isotope Effect
H -- H -- H
D -- H -- H
Energy
T -- H -- H
H + H2
D + H2
T + H2
H2 + H
DH + H
Zero point energy
TH + H
Reaction coordinate
T/K
k[D+H2 → DH + H] ref.2
k[T+H2 → TH + H] ref.3
200
1.86E-18
1.80E-18
250
3.40E-17
300
k[H+H2 → H2 + H]
2.76E-16
ref.1
2.96E-16
ref.1 : Park, T. J. et al. J. Chem. Phys. 1989, 91, 974.
ref.2 : Mielke, S. L. et al. Phys. Rev. Lett. 2003, 91, 063201.
ref.3 : Srinivasan, J. et al. J. Phys. Chem. A 2000, 104, 1965.
2.80E-16
単純な予測は
不可能!
Geometric Isotope Effect
核の量子性による空間広がりの違い
→ 分子構造(核間距離)の変化
水素結合系で顕著
H3O+の例
熱力学的な安定性の違い
単純な振動解析では予測不可能
非調和性、エントロピーの影響
100 K
100 K
100 K
300 K
核量子化理論の必要性
ポテンシャルエネルギー / kcal mol-1
HCl(H2O)4クラスターのポテンシャル
HCl(H2O)4クラスターの
構造異性体
PM3-MAISポテンシャル曲面
(水素結合補正を取り入れた半経験的分子軌道法)
理論シミュレーション法
核の量子性の取り扱い
・経路積分法
量子統計に基づく
熱平衡構造の計算
多次元系へ適用化
動力学理論ではない
・波動方程式の直接的数値解
グリッド法、時間依存波束法
動力学情報が得られる
多次元系では難しい
ポテンシャルエネルギー
経路積分法
量子(仮想粒子(ビーズ)の集
合)
古典
核の量子性を取り入れた方
法論の必要性
トンネル効果(プロトン移動)
ゼロ点振動エネルギー
経路積分分子動力学法
Path-Integral MD (PIMD)
量子論に基づいた熱平衡構
造(核分布)が得られる
・十分に収束した核分布を得るには
数十~数百ビーズ(温度に依存)
長時間サンプリング ~ 100 ps
∆t = 1 fs: 100000 step x 30 beads
PIMD シミュレーションの計算結果
PIMD (T = 100 K)
Cl
D2
EQ0, 2, 3, 6, 11
Cl
D3
EQ4, 8, 9, 10, 12
D1
EQ1, 5, 7
Cl
Classical MD (T = 300 K)
H2SO4(H2O)6のPIMD核分布(原子雲)
Ow
Ow
Os
S
安定構造
Os
S
250 Kにおける古典MD計算
安定構造の付近でゆらいでいる
↓
固体に近い振る舞い
250 KにおけるPIMD計算
様々な原子配置をとっている
↓
液体に近い振る舞い
量子論では相転移(構造変化)が起きやすい
本研究プロジェクトの目的
トリチウムが関わる化学反応の特殊性の追及
反応速度定数等の異常同位体効果
核融合炉実現に関わる化学反応(過去のデータ)
反応メカニズム自身の違いが存在するか?
ミュオニウム(Mu)の水中の拡散
酸性水中でのイオン拡散 H3O+の拡散機構
理論的な反応機構の提案
自然界におけるトリチウムの異常同位体濃縮
地球科学との関連
大気反応:オゾンの例(18O17O16O)
プロトンの輸送機構
Grotthus Mechanism
H3O+: Eigen ion
H5O2+: Zundel ion