機能性成分の生体内挙動(生体利用性)評価モデル □□□ 人工消化-腸管吸収試験 □□□ 1. 機能性成分の生体利用性 3. 試験結果例 薬剤学において,生体利用性とは,服用した薬 物のどれくらいが全身循環に到達するかを示す割 合であり,投薬量の計算には必ず考慮される事項 です。 機能性食品においても,実際に成分がどの程度 生体内に取り込まれ,どのような成分が機能性に 関与しているかを解明することは,機能性食品の 開発にとって非常に重要であると考えられます。 代表的なフラボノイドであるケルセチンは,主 に配糖体として食品より摂取されますが,糖が 2 つ以上結合した配糖体(例:ルチン)は,主に大腸 から吸収されます。それに対し,グルコースが 1 つ結合した配糖体(例:イソケルシトリン)は,主に 小腸から吸収されることが知られています(図 1)*1。 このように,物質の構造や性質によって消化管 内での挙動は大きく異なります。本試験では,検 体を人工消化し,目的の成分がどれだけ腸管膜か ら吸収されたかを評価します。 ① ルチン ② イソケルシトリン 吸収 小腸 加水分解 ケルセチン(アグリコン) 腸内細菌 吸収 [1] タンパク質の分解および腸管吸収 乳タンパク質であるカゼインの消化吸収動態を, サイズ排除クロマトグラフィーにより確認しまし た。 カゼインタンパク質が人工消化により低分子化 され,透過液中には低分子物質(遊離アミノ酸な ど)が比較的多く含まれていることが確認されま した(表 1)。 分子量範囲 6000以上 1000~6000 200~1000 200未満 合計 ピーク面積百分率 (%) 消化前 消化後 透過液 97 5 22 3 2 43 10 1 35 82 100 100 100 表 1. 分子量分布測定結果. [2] 機能性成分毎の腸管吸収性の違い ローズマリーおよび黒ウコンチップにおける消 化液・透過液中の機能性成分を,液体クロマトグ ラフィーにより確認しました。 ローズマリーでは,消化液中のロズマリン酸・ カフェ酸などが,透過液中では殆ど検出されませ んでした。 一方黒ウコンでは,黒ウコンに含まれるポリメ トキシフラボノイド類(PMF)が,腸管膜から吸収さ れていることが分かりました。 加水分解 ローズマリー 消化液 ケルセチン(アグリコン) 大腸 吸収 ローズマリー 透過液 黒ウコン 消化液 黒ウコン 透過液 肝臓 全身へ 図 1. ケルセチン配糖体の吸収 2. 試験方法 検体について,ペプシン溶液およびパンクレア チン/胆汁酸混合用液を用いて人工消化します。 得られた液を,小腸上皮様に分化させたヒト結 腸癌由来株化細胞 Caco-2 細胞膜に添加し,吸収試 験を行います(図 2)。 【管腔側】 検体 消化液 ↓ ペプシン溶液添加 ↓37℃,1時間 (pH:1.8) パンクレアチン/胆汁酸 混合溶液添加 ↓37℃,2時間 (pH:6.5) 管腔側に添加 ↓37℃,3時間 【基底膜側】 透過液 基底膜側の液を採取 Caco-2単層膜 図 2. 試験方法の概略 ロズマリン酸 カフェ酸 など PMF 図 3. HPLC 測定結果 4. さいごに 腸管吸収は様々な経路が知られており,本モデ ルで網羅される訳ではありません。対象となる各 素材・成分毎に,評価可能となる試験設計を行う ことが重要です。また,現状ではカロテノイドな どの低極性物質の評価は難しいと考えられます。 まだまだ課題の多い試験ですが,ご興味ござい ましたら,お気軽にご相談ください。実際の素材・ 目的成分毎に評価系を考えていきたいと思います。 [出典] *1 山田耕路 編著:食品成分のはたらき,朝倉書店 (2004) 一般財団法人 日本食品分析センター 2013 年 12 月
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