Caco-2細胞を用いた腸管消化・吸収試験 検討事例(2014年02月)

機能性成分の生体内挙動(生体利用性)評価モデル
□□□ 人工消化-腸管吸収試験 □□□
1. 機能性成分の生体利用性
3. 試験結果例
薬剤学において,生体利用性とは,服用した薬
物のどれくらいが全身循環に到達するかを示す割
合であり,投薬量の計算には必ず考慮される事項
です。
機能性食品においても,実際に成分がどの程度
生体内に取り込まれ,どのような成分が機能性に
関与しているかを解明することは,機能性食品の
開発にとって非常に重要であると考えられます。
代表的なフラボノイドであるケルセチンは,主
に配糖体として食品より摂取されますが,糖が 2
つ以上結合した配糖体(例:ルチン)は,主に大腸
から吸収されます。それに対し,グルコースが 1
つ結合した配糖体(例:イソケルシトリン)は,主に
小腸から吸収されることが知られています(図 1)*1。
このように,物質の構造や性質によって消化管
内での挙動は大きく異なります。本試験では,検
体を人工消化し,目的の成分がどれだけ腸管膜か
ら吸収されたかを評価します。
① ルチン
② イソケルシトリン
吸収
小腸
加水分解
ケルセチン(アグリコン)
腸内細菌
吸収
[1] タンパク質の分解および腸管吸収
乳タンパク質であるカゼインの消化吸収動態を,
サイズ排除クロマトグラフィーにより確認しまし
た。
カゼインタンパク質が人工消化により低分子化
され,透過液中には低分子物質(遊離アミノ酸な
ど)が比較的多く含まれていることが確認されま
した(表 1)。
分子量範囲
6000以上
1000~6000
200~1000
200未満
合計
ピーク面積百分率 (%)
消化前
消化後
透過液
97
5
22
3
2
43
10
1
35
82
100
100
100
表 1. 分子量分布測定結果.
[2] 機能性成分毎の腸管吸収性の違い
ローズマリーおよび黒ウコンチップにおける消
化液・透過液中の機能性成分を,液体クロマトグ
ラフィーにより確認しました。
ローズマリーでは,消化液中のロズマリン酸・
カフェ酸などが,透過液中では殆ど検出されませ
んでした。
一方黒ウコンでは,黒ウコンに含まれるポリメ
トキシフラボノイド類(PMF)が,腸管膜から吸収さ
れていることが分かりました。
加水分解
ローズマリー
消化液
ケルセチン(アグリコン)
大腸
吸収
ローズマリー
透過液
黒ウコン
消化液
黒ウコン
透過液
肝臓
全身へ
図 1. ケルセチン配糖体の吸収
2. 試験方法
検体について,ペプシン溶液およびパンクレア
チン/胆汁酸混合用液を用いて人工消化します。
得られた液を,小腸上皮様に分化させたヒト結
腸癌由来株化細胞 Caco-2 細胞膜に添加し,吸収試
験を行います(図 2)。
【管腔側】
検体
消化液
↓
ペプシン溶液添加
↓37℃,1時間 (pH:1.8)
パンクレアチン/胆汁酸
混合溶液添加
↓37℃,2時間 (pH:6.5)
管腔側に添加
↓37℃,3時間
【基底膜側】
透過液
基底膜側の液を採取
Caco-2単層膜
図 2. 試験方法の概略
ロズマリン酸
カフェ酸 など
PMF
図 3. HPLC 測定結果
4. さいごに
腸管吸収は様々な経路が知られており,本モデ
ルで網羅される訳ではありません。対象となる各
素材・成分毎に,評価可能となる試験設計を行う
ことが重要です。また,現状ではカロテノイドな
どの低極性物質の評価は難しいと考えられます。
まだまだ課題の多い試験ですが,ご興味ござい
ましたら,お気軽にご相談ください。実際の素材・
目的成分毎に評価系を考えていきたいと思います。
[出典]
*1 山田耕路 編著:食品成分のはたらき,朝倉書店
(2004)
一般財団法人 日本食品分析センター
2013 年 12 月