金属疲労について −溶接構造を中心として(1/2 1/2) )ー 徳島文理大学・工学部・ 機械電子工学科 機械電子工学科 祝 賢治 ■概 要 機 械・構造物の 破壊事故は、 疲労によるものが多 い。なかには 、飛行機の機体破損 による 墜落事故のように社会的に 影響が 大きな 事故もある。 ここでは、私 が関与 した 事 例に基 づいて 、溶接構造を 対象として、 疲労破壊に対 する原 因の究 明から 疲労強度の評 価・対 策までの一連 の流れをまとめた。 「現地 での様 々な調 査」、「顕微鏡によ る 破面観察」、「 FEM解 析による分 析」、「疲労実験で の確認 」などの情報 に基づいて亀 裂の発生原因 を特定 し、強度評価 を行い 、疲労強度の 向上策 の考案 に結び 付ける 付ける 。 このようにして 、いくつかの 問題を 解決してきたが、そ の経験 に基づいて、 疲労破壊を防 ぐ推奨 モットーを最 後にあげた。 1.機械・構造物の損傷要因の分析 4.金属破面の調査 62% 70% 60% 比率 図 1に、ある機関で調べた機械・構造物の 損傷案件 20件に占める損傷要因の比率を示 す。疲労が 65% 、熱応力が 30% 、振動が 20%、衝撃が 15% 、材料と制御がそれぞれ 10%、その他が 30% となっており、その他 には剛性・摩擦力不足などが含まれる。損 傷要因として最も多い疲労では、非溶接部 での疲労破損に比べ溶接部での破損は 62% となっており、溶接部が重要な部位といえ る。 38% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 疲労 熱応力 振動 衝撃 材料 制御 その他 損傷要因 図1 損傷要因の比率 2.疲労破壊の事例 亀裂を生じた金属組織・破面を破壊試験 により調査・観察することにより、つぎの ような情報を得ることができる。 (1)亀裂の起点 (2)亀裂の進展方向・進展速度 (3)最終破断領域 (4)金属組織の欠陥 (5)補修跡の有無 (6)亀裂の形態 これらの情報に基づいて、破壊形態(延性 破壊、脆性破壊、疲労破壊の区別)を評価 できる。 図 5に破面調査結果の一例を示す。同図 (上)は、亀裂面に垂直な断面のマクロ組 織である。亀裂は隅肉溶接の止端部から発 生し、板厚方向に直線状に進展している。 溶接構造の疲労破壊の事例を図 2に示す。 同図 (上)は鋼管柱基部の三角形のリブ上端よ り亀裂が生じた事例である。柱部材の寸法 はφ 267× 6( STK400)、リブの板厚はt= 19 ( SS400)であり、リブは柱部材に隅肉溶接 にて接合されている。 同図(中)は亀裂面のマクロ組織である。 亀裂の起点が 2か所あり、亀裂は楕円形状に 進展したことがわかる。進展状況を示す ビーチマークが見える。 同図 (下)は吊り金具のピン穴まわりの円環 状の補強板の溶接部より亀裂が生じ破断し た事例である。吊り金具の板厚は t=38 ( SM570)であり、補強板にはφ 380× 56 ( SM570)の寸法の板が 2枚使用されている。 補強板はレ形開先とした部分溶け込み溶接 にて吊り金具に接合されている。 同図(下)は亀裂面の一部を電子顕微鏡 で 2400倍に拡大した図である。亀裂の進展 時に生じるストライエーションが比較的明 瞭に見える。 (上 ) 亀裂に垂直な断面のマクロ組織 (上 ) 鋼管柱基部 ( 下) 吊り金具 図2 疲労破壊の事例 (中)亀裂面のマクロ組織 5.破面観察に基づく 亀裂進展応力の推定 (下)亀裂面のミクロ組織 図5 破面の調査結果の一例 3.亀裂の現地調査 図 5(下)に示すような写真より、ストライエーション間隔を読み取り、所定の関係式を 用いて亀裂進展応力の推定を試みることがある。しかし明瞭なストライエーションが得ら れることは少なく、また読み取り誤差を伴うために、計算して得られた亀裂進展応力は参 考値として扱われることが多い。表 1に、このような方法で求めた亀裂進展応力範囲の推定 結果の一例を示す。 亀裂は、保守点検時に発見されることが 多い。初期亀裂は小さいため、見落とさな いためには知識・経験を要する。 表1 亀裂進展応力範囲の推定例 図 3に標準的な非破壊検査のフローを示す。 まずは目視にて疑わしい傷の有無を点検し、 範囲を絞った後、必要に応じて機器を用い て探傷試験を行う。各種の探傷試験にはそ れぞれ得失があり、亀裂の検出精度も異な る。各探傷試験の特徴をごく簡単に図 3の右 に示す。 a(mm) ストライエーション 間隔 S(mm/cycle) 1.5 2.2×10 亀裂長さ 図3 非破壊検査のフロー 亀裂近傍の金属組織を調べることによっ て、様々な情報が得られる。これは「破面 調査」といわれ、非破壊試験と破壊試験に 分類される。 (1)非破壊試験には、金属表面 のマクロ組織試験およびスンプ試験があり、 (2)破壊試験には金属内部のマクロおよびミ クロ組織試験がある。 -4 応力拡大係数 3/2 ΔK(N/mm 1045 ) 亀裂進展応力範囲 2 Δσ(N/mm ) 430 1.7 3.3×10 -4 1279 494 3.1 4.5×10 -4 1494 427 6.応力・振動等の現地計測 機器を用いて、図 6にその一例を示すような種々の現地データを採集する。これらを分析 することにより、例えば、図 7に示す亀裂発生点近傍のひずみの頻度分布を知ることができ る。また、外力の特定等にも役立つ。 「スンプ法」は金属表面を研磨・エッチング 処理し、レプリカフィルムに金属表面組織を 転写して、光学金属顕微鏡で観察する方法で ある。曲面や多少の段差でも検査でき、長期 保存が可能である。 図 4にスンプ法による試験結果の一例を示 す。同図(上)は亀裂部のマクロ組織である。 同図(下)が亀裂先端付近のスンプ法による 結果で、亀裂は粒界に沿っており、亀裂の幅 が不均一で先端がとがっているとの情報が得 られる。 (上) 亀裂部のマクロ組織 ( 下)スンプ法による結果 図4 スンプ法による試験結果の一例 図6 現地計測データの一例 図7 現地計測データに基づく 亀裂発生点近傍のひずみの頻度分布 金属疲労について −溶接構造を中心として(2/2 2/2) )ー 祝 賢治 徳島文理大学・工学部・機械電子工学科 機械電子工学科 7.FEM解析による分析 9.S-N線図による疲労寿命の評価 FEM解 析 によれば広範囲にわたる 応力分布および亀裂発生点近傍の 高応力 を 調 べることができる。 図 8は、鋼管柱基部を取 り出し たモデルによる解析例で あ る。三角形の リブの 上端付近で柱部材の 外殻が 曲げられることにより大き な 応 力が生 じることがわかる。 S-N線 図により疲労寿命 を評価 する方 法は現 在もよく採用 されている。 評価応 力 として 亀裂発生点の 板表面 の溶接 ビード に直交 する応 力(ホットスポット 応 力 )を採 用することがある。 図 12に ホットスポット応力 の求め 方の一 例および ホットスポット 応力照査用の S-N線 図を 示す。 このように、 各種基準により S-N 線 図が異 なるため、ホットスポット 応力の 求め方 も各種基準に 適合したものを採 用 する必 要がある。 (左) 解析モデル (右)解析結果(三角形リブ上端付近の応力分布) 図 12 ホットスポット応力の求め方の例(左)およびホットスポット応力照査用の S-N線図(右) 図 8 鋼管柱基部の解析の例 図 9は FEM解 析により応 力の変 動を追 跡した 例である。同 図 (左) に示すよう な 軌道を 列車が 通過するときに軌道上面の 特定点 に生じ る応力 の変動 を同図 ( 中)に 示すモデル等 で解析 した結 果が同 図(右 )である。 解析技術およびコンピュータの性 能の向 上により、現 在ではかなり 複雑な 挙 動 を解析 で追求 することができる。 ただし 、解析 にはモデル化 による 誤差が 伴 うため、 誤差の 把握に は常に 注意が 必要である。 ( 左) 解析の対象 ( 中) 解析モデル 10.亀裂の進展計算による疲労寿命の評価 破壊力学の手 法を用 いた亀 裂の進展計算 によって疲労寿命を 計算することが できる。 この方 法は疲労亀裂進展速度と応力拡大係数と の間に 図 13に 示すよう な 関係があることを利 用する 。応力拡大係数はΔ K= F・f (Δσ , a)で 表され る 。 Fは 継手 、亀裂形状、 亀裂位置等に 関する 補正係数である。図 14に補正係数 Fの 計算結果 の例を 示す。 ( 右) 解析結果(応力の変動波形) 図 9 解析による応力の変動の追跡例 8.モデル実験による疲労強度の確認 図 13 疲労亀裂進展速度と応力拡大係数の関係 疲労強度を知 るための最も 信頼のおける 方法は 、モデル実験 による 方法で あ る 。汎用的な継手構造 については、 過去の 疲労実験データを参 考にできる。 し か し、新 しい構 造については 疲労実験が必 要なことが多 い。 図 10に 小形試験片による実験例を 示す。 実験結果は一 般に、 同図( 右)に 示 すような S-N線 図に 整理される。 11.疲労強度の向上(補修・補強方法) 疲労強度の向 上のためには 、 新規設計時に疲労破壊防止の 配 慮 をすると効果 が高い 。 既設の 構造に 疲労亀裂が生 じ て 補修・ 補強を 行わねばならな い 場合は 、種々 の制約条件が あって疲労強度 の改善 にも限 界 が 生じる 。図 15は 鋼管柱基部 の 補強案であるが 、 25% 程度の 応 力改善がなされるに留 まる。 ( 中) 実験状況 (左)試験片 ( 右) 実験結果(S-N線図) 図 10 小形試験片による疲労実験の例 図 14 補正係数 Fの計算結果の例 ( 12%) ( 21%) ( )内は計算による応力の改善 効果 最近 の例として、 図 16に 示 すように 亀裂部 を炭素繊維シ ー ト で応急補修す るアイデアが あ る。 近年、 小形試験片で は実構造の疲労強度 を把握 しきれないとの報告 があり 、 よ り実構造に近 いモデルでの 実験が 盛んに 行われている 。図 11はそのような 例 である。 実構造 の一部 を取り 出した モデル の試験体を採 用した 。 図 16 炭素繊維シートによる亀裂の応急補修のアイデア 12.疲労破壊を防ぐために(推奨モットー) (左)試験体と実験状況 ( 中) 実験中のひずみの変動 ( 右) 実験結果(S-N線図) 図 11 実物大の試験体による疲労実験の例 ( 25%) 図 15 鋼管柱基部の補強案 ○ ○ ○ 事例に学ぶ 事後の対策より事前の配慮 専門家への相談
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