Untitled - 社労士事務所 HRMオフィス

内容
1.賞与原資をどうやって決めるか ............................................................................... 3
◆「賞与の決め方」の2つの意味 ............................................................................... 3
2.賞与算定基礎をどう考えるか .................................................................................. 5
◆賞与算定基礎とは ................................................................................................... 5
◆賞与の算定基礎に基準内賃金の一部を使う場合 ....................................................... 6
◆賞与の算定基礎を賃金と切り離す場合 .................................................................... 7
3.賞与配分の考え方 ................................................................................................... 7
◆賞与配分とは .......................................................................................................... 7
◆人事評価との連動 ................................................................................................... 8
◆人事評価と賞与原資の関係 ...................................................................................... 9
◆ポイント方式賞与の考え方 .................................................................................... 10
4.賞与をめぐる法律実務 ........................................................................................... 12
◆賞与は義務? ........................................................................................................ 12
◆成果の上がっていない社員の賞与をゼロにできる? .............................................. 13
◆賞与は支給日に在籍していないともらえない? ..................................................... 14
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賞与は、月額の賃金に比べて、柔軟に決めることが可能な賃金項目です。
人件費を業績に連動するようにコントロールしたいという場合、賞与は有効なツールとな
ります。
一方、賞与を上手に活用して、
「がんばって成果を上げよう」と社員を動機づけることもで
きますし、会社への帰属意識を高めることもできます。
当社の賞与をどうするか?
「賞与?それどころではないよ」
「春先よりは業績が持ち直してきたし、冬は少しでも増やしたい」
「苦しいことに変わりはないけど、従業員のやる気を引き出すために、何とかしたい」
会社によって、事情はさまざまでしょう。
悩ましい問題も多いと思いますが、しっかり検討し、賞与を、社員が活き活きと働くツー
ルとなるようにしたいもの。
そこで、この小冊子で、「賞与の基礎知識」をお送りします。
内容は次の2つ。
・賞与の決め方
・賞与をめぐる法律知識
これらについて、私のコンサルティング経験も踏まえてお届けします。
1.賞与原資をどうやって決めるか
◆「賞与の決め方」の2つの意味
「賞与の決め方」--これには、2つの意味があります。
1つは、総額(平均額)をどうするかということ。
つまり、賞与原資に関する問題です。
もう1つは、従業員 1 人 1 人の賞与をどうするか。
これは、配分の問題です。
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このパートでは、賞与原資の決め方のお話をします。
◆付加価値と労働分配率
賞与原資は、会社の業績に連動させて決めます。
業績のとらえ方にもいろいろなものがありますが、ここでは、
「 付加価値」を使ってみます。
付加価値とは、「企業が生み出した経済価値」と定義されます。
この算出方法も様々ですが、たとえば中小企業庁では次のような方法を使っています。
付加 価値 = 経常 利益 + 労務 費+ 人 件費 +支 払 利息 割引 料 -受 取利 息 配当 金
+賃借料+租税公課+減価償却費
この付加価値に占める人件費(上記算式では、労務費と人件費の合計)を「労働分配率」
といいます。
労働分配率=人件費÷付加価値
◆付加価値を使って賞与原資を決める
労働分配率をどうするかは、過去の業績実績から決めます。
これを「目標分配率」とします。
次に、付加価値見込額を算定します。
①付加価値費目のうち、経常利益、人件費以外の費目の見込み額を算出
②経常利益の見込額と、その場合に見込まれる人件費額を算定
③上記費目を合計して、付加価値見込額を算定
付加価値見込額に目標分配率を乗じた数字を「目標人件費」とします。
この額が、②の人件費額と一致していれば、②の数字がそのまま使えます。
しかし、そうならないことの方が多いでしょう。
②の人件費見込額>目標人件費
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目標分配率を人件費見込みが上回っている状態です。
この場合、人件費見込み額を圧縮します。
②の人件費見込額<目標人件費
上記とは逆で、目標分配率を人件費見込みが下回っている状態です。
この場合、人件費見込み額を増やします。
ただし、人件費の増減は、経常利益に影響します。
この点も勘案して、人件費総額を調整します。
また、ここでは経常利益の「見込額」
(予想額)を使いましたが、経常利益には、目標額(予
算額)や、最低限確保したい額などもあります。
それぞれの場合の人件費総額も検討します。
以上の検討を経て、人件費総額を算定し、そこから賞与原資を算定します。
人件費には、毎月の賃金など、賞与以外の項目もあります。また、既に支払済みの賞与も
あるかもしれません。これらの費目を引いた残額が、賞与原資ということになるのです。
2.賞与算定基礎をどう考えるか
◆賞与算定基礎とは
賞与の算定式の典型的なパターンは、「賞与算定基礎×月数±人事評価対応分」です。
上記算式の「賞与算定基礎」とは何でしょうか?
これも会社によって様々です。
・基本給
・基準内賃金
・基準内賃金の一部
この「算定基礎連動部分の設計のしかた」に、会社の賞与に対する考え方が色濃く出ます。
ここでは、次のような、日本企業で典型的な賃金構成を前提に考えてみます。
・基本給(職能給+年齢給)
・役職手当
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・家族手当
・住宅手当
基本給構成が職能給と年齢給となっていることから、この会社の基本給は、緩やかな能力
主義賃金ということができます。
この場合、次のようなことが言えます。
1)基本給を算定基礎にする
上記のとおり、基本給が「緩やかな能力主義」という性格をもつことから、賞与も同様に
「緩やかな能力主義」ということになります。
これに成果部分をどの程度賞与に反映させるかがポイントになります。
もし基本給が能力によって大きな格差がつく構造になっていれば、賞与もそのような性格
を持つことになります。
基本給連動部分の比率が大きいほど、賞与と基本給は同一の性格をもつようになります。
2)基準内賃金を算定基礎にする
この場合も上記同様、
「賞与算定基礎×月数」の比率が大きければ、賞与と基準内賃金が同
一の性格をもちます。
つまり、月例賃金と賞与が、同じ基準できまるということになります。
基準内賃金全体を算定基礎にする場合は、その性格がますます強まります。
一方、基準内賃金の一部を算定基礎にする場合、どの項目を選ぶかによって、賞与の性格
が変わってきます。
◆賞与の算定基礎に基準内賃金の一部を使う場合
基準内賃金が次のような構成になっているケースを想定してみます。
・基本給(職能給+年齢給)
・役職手当
・家族手当
・住宅手当
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もし、賞与の算定基礎を、基本給と役職手当の2つにする場合、基本給の決定基準にもよ
りますが、賞与とポストの関連が強くなります。
役職は通常、能力や実績に応じて決められますから、賞与と能力・実績の連動性が高くな
ります。
一方、賞与の算定基礎を、基本給と家族手当、住宅手当にする場合は、賞与の生活保障的
要素が強くなります。
◆賞与の算定基礎を賃金と切り離す場合
では、賞与の算定基準を、基本給や基準内賃金などの月例賃金と切り離すというのは、ど
うでしょうか?
これには、ポイント制など、賞与を基本給などとはまったく別の要素で決めるという方法
が考えられます。
この方法を全面的に取り入れるか、この部分の割合を大きくすれば、賞与と月例賃金の関
係は切れるか、薄くなります。
3.賞与配分の考え方
◆賞与配分とは
賞与原資が決まったら、従業員一人一人の賞与額を算定します。
これを「賞与配分」といいます。
賞与配分の決定にあたって検討すべきは、次の3つになります。
①賞与算定基礎
②人事評価
③賞与算定式
しかし、これらを検討する前に、決めておくべきことがあります。
それは、「当社の賞与は何を基準にするか」ということです。
言い方を変えると、「当社の賞与とは何か?」です。
当り前のようで、意外とこれがはっきりしていないことが多い。
「できる人に報いたい」
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こう言いますが、では、「できる人」とはどんな人なのか?
賃金の決定基準と賞与の決定基準は同じなのか、違うのか?
こうしたことをしっかり検討したうえで、具体的な制度に落とし込んでいく必要がありま
す。
ここで考えるべきは、「なぜ賞与があるのか」ということです。
ひとつは、盆暮れの出費を援助するためという考えもあります。
生活保障的な考え方です。
賃金の後払い的な性格もあります。
会社業績はいつどうなるか分からないので、毎月の賃金は無理のない範囲にしておき、余
裕があれば、賞与として支払うという発想です。
これに、
「支給日在籍要件」
(支給日に在籍する社員に支払うということ)を組み合わせて、
定着を促すという考えもあります。
これらも、賞与の性格として、いまでも有効です。
しかし改めて、
「なぜ賃金と賞与を分けるのか?」ということを考えると、もっと賞与に積
極的な意味合いをもたせるべきです。
「人材マネジメントのツールとしての賞与」ということです。
先ほど述べた「余裕があれば、賞与として支払う」という点をもっと進化させましょう。
それは、次の2つです。
①賞与と業績の連動→人件費の変動費化
②成果達成へのインセンティブ機能
①は、前述の、賞与原資の決め方に関するお話です。
②が、賞与算定基礎と賞与配分の問題になります。
◆人事評価との連動
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従業員1人1人の賞与は、何らかのかたちで人事評価と連動させます。
完全年俸制(いったん年の初めに決めた年俸が報酬のすべて。賞与はなし)のような場合
を別にすると、賞与は業績の状況と、人事評価結果によって上下するのが一般的です。
「業績の状況」によって賞与原資、つまり賞与総額が決まります。
「人事評価結果」によって、従業員一人一人の賞与額が決まります。
ここで考えなくてはならないのは、賞与総額と人事評価の関係です。
単純に考えると、評価Aの人が3人の場合と、評価Cの人が3人の場合とでは、前者の方
が賞与総額は大きくなります。
こんなことにはならないように、賞与制度を設計するわけですが、要は、原資コントロー
ルの仕組みをきちんと考えるということです。
人事評価で陥りがちな評定者バイアスのひとつに「寛大化傾向」というのがあります。
評価が甘くなってしまうということですね。
評価段階が、S、A、B、C、Dの5段階になっているが、A評価が8割もついている、
なんていうのが典型例。
こうなると、何のために人事評価をやっているのか分からなくなります。
さらに言えば、これなら人事評価などやらない方がいいでしょう。
「全員同じだよ」と言っているわけですから。
これは極端な例ですが、いずれにしろ、評価結果がどのようになっても、総原資に影響が
ないような仕組みを考えなくてはなりません。
◆人事評価と賞与原資の関係
人事評価結果によって賞与総額が変動しないようにする、
「原資コントロールの仕組み」を
どうしていくか、事例を元に考えてみましょう。
ここでは、賞与の算定式が次のようになっているとします。
賞与=基本賞与(賞与算定基礎×基本月数)+
成果賞与(賞与算定基礎×成果賞与月数×人事評価係数)
人事評価係数:S:1.5,A:1.2,B:1.0,C:0.8,D:0.5
パターン1:成果賞与を最初に確定する
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①成果賞与月数を決める
②人事評価を実施する→成果賞与総額確定
③総原資を決める
④総原資から成果賞与総額を差し引いた残額が基本賞与総額となる
⑤「基本賞与総額÷賞与算定基礎総額」で基本月数を算出する
この方法をとる場合、人事評価を早めに実施・確定する必要があります。
また、業績がよくなり、賞与総額が増えた場合、基本賞与が増えることになります。
しかし、業績向上の果実は、成果賞与に反映させたいと考える会社が多いでしょう。
その場合は、①の成果賞与月数を「仮決め」としておいて、総原資が決まってから再度調
整します。
パターン2:人事評価をコントロールする
①人事評価分布を決める(S=○人、A=○人…)
②総原資、基本月数、成果賞与月数を決める
③人事評価を実施する
④人事評価を、①の分布になるよう調整する
この方法をとる場合、評価者がつけた評価が、評価分布によって修正されることになりま
す。
下方修正されることが多いでしょう。
したがって、本人には、
「元の評価は○○、賞与配分上では○○」という説明をすることに
なります。評価の納得感が弱くなります。
パターン3:人事評価係数をその都度決める
①総原資、基本月数、成果賞与月数を決める
②人事評価を実施する
③人事評価係数を、成果賞与総額が原資内におさまるよう調整する
人事評価係数をその都度決めるという、柔軟性の高い方法です。
その分、毎年設計を考えなくてはなりません。
◆ポイント方式賞与の考え方
前述の通り、賞与算定方法には、基準内賃金や基本給などの、月々の賃金にリンクさせる
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方法と、切り離す方法があります。
また、両方を併用する方法もあります。
賃金にリンクさせる方法として、さきほど例示した、
「基本賞与(賞与算定基礎×基本月数)
+成果賞与(賞与算定基礎×成果賞与月数×人事評価係数)」という算式があります。
この、
「成果賞与月数」と「人事評価係数」をどうするかによって、賞与のメリハリの度合
いが決まります。
では、賃金にリンクさせない方法にはどのようなものがあるでしょうか。
ここでは、ポイント方式をご紹介します。
ポイント式賞与では、賞与は、「ポイント単価×人事評価別ポイント」という算式で決ま
ります。
この「人事評価別ポイント」をまず設計します。
ポイントの差が大きいほど、評価による差が大きくなります。
次に人事評価を実施します。
人事評価が確定すれば、総ポイント数が算定できます。
それと並行して、賞与総原資を決めます。
賞与総原資と総ポイント数が確定すれば、次の算式でポイント単価が算定できます。
ポイント単価=賞与総原資÷ポイント合計
次に、上述のとおり、
「ポイント単価×人事評価別ポイント」という算式一人一人の賞与額
を算定します。
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<ポイント式賞与の例>
4.賞与をめぐる法律実務
それでは、賞与をめぐる法律について、Q&A 形式でお話していきましょう。
◆賞与は義務?
Q:業績が悪化したため、今期は賞与を前期比で半額程度にすることにし、社員に説
明した。そうしたところ、ある社員が、「賞与も賃金なのだから、一方的なダウンは
無効だ。」と主張、前期実績額の支払いを要求してきた。
会社は、賞与はあくまでも業績対応の一時金ととらえている。したがって、業績によ
っては大幅ダウンや支給ゼロもあり得ると考えているのだが…
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A:賞与の性格には、次の2つがあります。
①業績配分
②生活費の補填
賞与は義務ではありません。
しかし、就業規則に定めがあれば、その規定に基づく支払義務が会社に生じます。
もし就業規則に「賞与は毎年6月10日と12月10日にそれぞれ基準内賃金の2か月分
を支払う」という定めがあると、会社はそれに従って賞与を支払わなければならなくなり
ます。
このような内容で賞与を支払うことを、会社が従業員に約束しているからです。
一方、次のような定め方になっている場合は、どうでしょうか?
・賞与は業績と本人の評価に応じて支払う。
・月数等はその都度決定する。
・業績が悪いときは支払わないこともある。
このような場合は、賞与の支払いを会社が約束したとまでは言えません。
したがって、賞与の支給決定(月数、支払日などに関する会社の決定または労使合意)が
あって、はじめて会社に支払義務が生じます。
ただし、これまでずっと賞与を支給していたという場合、賞与を全額支払わないとするに
は、合理的理由が必要と考えたほうがいいでしょう。
◆成果の上がっていない社員の賞与をゼロにできる?
Q:当社の賞与は、基本給にリンクした一律部分と、半期の人事評価に対応した、成
果反映部分の 2 本立てになっている。
成果反映部分は、人事評価によっては、0 円もあり得る。
ところで、当社の営業部員で、まったく成果の上がらない者がいる。
前期から、成果反映部分はゼロにしているが、今期は一律部分もゼロしようと思って
いる。
一律部分とは言え、そもそも賞与は、会社の業績や個人の成果に応じて支払うものな
のだから、問題ないと考えている。
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賞与は会社の義務ではありません。
しかし就業規則や労働契約、労使協定に定められていれば、会社に支払い義務が生じます。
また、賞与であっても、定められた算定基準、算定式に則って支払わなければ、違法とな
ります。恣意的な運用は許されません。
したがって、賞与が、一律部分と査定部分に分かれている場合、人事評価が悪くても、一
律部分を減らすことは許されません。
会社業績が悪化して、一律部分も減らすということはあると思います。
しかしそれはあくまでも、全体の原資を減らすということであって、上記とは問題の所在
が異なります。
◆賞与は支給日に在籍していないともらえない?
Q:当社は賞与の支給要件を、次の2つとしている。
①算定対象期間の全期間在籍
②支給日当日在籍
ところが、算定対象期間は全部在籍していたが、支給日前に退職することとなり、賞
与が支給されない(②の要件を満たさない)社員から、「算定対象期間のすべてに在
籍した時点で、賞与の権利が確定している。しかも賞与は、賃金の後払い的性格が強
い。したがって、支給日にいないからといって賞与を支給しないのは不当である」と
クレームがついた。
A:賞与には過去の労働に対する対価という、「賃金の後払い的性格」があります。
しかし、それだけではなく、将来への期待という性格も併せもちます。
したがって、支給日在籍を賞与支給の要件とすることは、問題ないとされています。
ただし、定年退職者や被解雇者のように、退職日を選択できないような場合は、支給日在
籍要件は無効と解すべきという見解もあります。
これが通説とまでなっているわけではありませんが、定年退職者や会社都合退職者には、
支給日在籍でなくても賞与支給対象とする会社もあります。
こうした点を考慮に入れてもいいかもしれません。
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社労士事務所
HRMオフィス
〒179-0084
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設立:2006 年 7 月 7 日
特定社会保険労務士
杉山
秀文
登録番号:第 13040544 号
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