女性の「性」、その姿

Editorial Interview
女性の「性」
、その姿
―「二人が幸せ」になるために
漫画家 さかもと未明
Mimei Sakamoto
東邦大学医学部泌尿器科学講座講師 聞き手
永尾光一
Koichi Nagao
には喘息が出て、私は精神科のお世話になりました。た
OL・主婦から漫画家へ
またま、ちょっと優等生だったものですから、いまここ
で高校をやめてももったいないなと計算が働くなかで、
●永尾(聞き手)―「レディスコミックの女王」
「現代
体が動かなくなってくるようなずいぶんひどい症状が出
の若者の性のカリスマ」と呼ばれている、さかもと先生
て。一時期は境界例(ボーダーライン)なんて言われて
に現代の人々の性、それから男性と女性の性の違いにつ
いたんです。
いてお伺いしたいと思います。
●永尾―そうなんですか。
さっそくですが、ご略歴についてお伺いしてもよろし
●さかもと―とにかく家にいたくなかったので仕事を
いでしょうか。先生はOLから漫画家デビューという過程
しようと思いまして、OLになりました。大学を卒業する
をたどっていますが、その経過などをお聞かせいただけ
まで自分の中でぎりぎりのところで押さえていたんです
ればと思います。
よね。ですからOLになってからすぐにひどい神経症状が
●さかもと―私は医療関係に大変お世話になっている
出て、朝6時には家を出るんですけど何回も帰ってし
人生で、若い頃父のDV(ドメスティック・バイオレンス)
まって、12時ぐらいにならないと会社に着けないんです。
がひどかったんですね。神経症だと思いますが、妹と弟
会社でも3時間ぐらい仕事をしていると、本当はこんな
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ED Practice 03
ことはやりたくなかったなんて思って涙が止まらなく
で広まっていかなかったりするじゃないですか。私もレ
なって。結局会社からは「辞めてくれ」と言われました
ディスコミックでは性について真面目にメッセージを描
し、病院からも「もう無理だと思うので、入院するなら
きたかったのですが、ニーズがある「快楽のほうをメイ
しましょう」と言われちゃったんですけど、親は「精神
ンに描いてほしい」とか、どうしてもポルノグラフィに
科なんて」というような感じで…。
なっていってしまって、インタビューに呼ばれるときに
●永尾―かかりづらいと?
もわりと色物的な扱いを受けるので、「これだけやって
●さかもと―ええ、そうなんです。入院はさせてくれ
いたらだめだな」って痛感しました。
なかったし、お金もなくなってしまったので、「どうし
要するに性は人間の基本であり、すごく大事なことな
よう…」と思っていたら、そのときたまたま同級生が結
んですけど、それを素直に受け止められる人は少なくて、
婚しようと言ってくれたので、結婚しました。
性のことをやっていると格下だと思われたり、「そうい
夢を追い始めたのはそれからです。「主婦としてきち
うことは話すことじゃない」と思われたりする現状とい
んと家事をすれば、漫画を描いてもいい」ということだ
うのはいつまでも変わらないんだなって痛感したんで
ったので始めたら、2 年後にかなってしまって、デ
す。それで、逆に「そういうこと」をより正しく皆さん
ビューできました。そうしたら人生がいろいろ変わって
に伝えるためにも、それ以外の場所で評価されることが
しまいました。今お話ししたような家庭の事情があった
すごく大事だなと思って、週刊「SPA!」で時事批評漫
ので、結婚するときに「子どもは欲しくない」と言って
画を連載したり、いろいろなことを始めました。これが
あったんです。でも、彼は結婚してしばらくすると考え
またいいかたちで評価されてくると、今度はセックスの
が変わるんじゃないかと思っていたらしくて。私のなか
こともきちんとした媒体で語れるようになるじゃないで
でどれだけ拒否感があるかわかってもらえなかったんで
すか。
す。私も彼には幸せになってほしかったので、離婚して
●永尾―そうですね。やはり表現としてはくだけた感
東京へ出てきまして、それから本当に夢中でただひたす
じでやらないと、特に若い人は入ってくれないというこ
らやってきました。でもおかげ様で何とか十何年ずっと
とですか。
漫画を描いてこられて、レディスコミックでかなり目
●さかもと―入ってくれないですね。
立ったところまで行けたわけです。
●永尾―われわれはどちらかというと真面目なほうか
性のことに関して描くのはもちろん好きですし、それ
ら入っていますので、なかなか若者からは支持されない
でトップが取れたということは幸せだなと思っているん
ような面はあります。
です。でも「ED」という言葉や、いろいろな医薬品によ
●さかもと―さじ加減が難しいんですよね。
る治療が「どうしても恥ずかしい」というような気持ち
男性の性と女性の性の違い
Mimei Sakamoto
●永尾―「ED Practice」では、病院勤務、また開業
さかもと未明
1965年、神奈川県出身。
OL・主婦を経て1989年に漫画家デビュー。
漫画家としてレディスコミックスを発表する
傍ら、エッセイ・ルポ・イラスト・評論・小
説家・モデルとして活躍中。女性誌では恋愛
の達人として恋愛相談などを繰り広げる傍
ら、2003年からは扶桑社「SPA!」にて時事
批評憂国漫画『ニッポンの未明』を連載開始。
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医の医師の先生を主な読者対象としています。読者の方
はレディスコミックという名前はご存じかもしれないで
すけど、どんな内容なのかというのはよくわからないと
思いますので、簡単にご説明いただけますか。
●さかもと―簡単に言えば、女性向けのポルノグラフ
Editorial Interview
ィです。
●永尾―ああ、ポルノグラフィになるわけですね。
●さかもと―ええ。一番最初はレディスコミックとい
うと、大人の女性のための漫画ということだったんです。
でも、その中で女性にとって大切なこととしてセックス
の描写が入ったら、すごく受けてしまって。ハードなら
ハードなほど売れたんです。それで結局「レディスコ
ミック」という名前自体が、女性向けのポルノというこ
との意味になってしまったんですが、本来は大人の女性
たぶんあらゆる女性が
「精神的な愛情で満たされること」と
「快感」が非常に近い。
も読める、きちんとしたドラマのある漫画ということだ
と思っています。
●永尾―「性的な欲求を満足させるところもある」と
いうことで、方向は一緒ですけど内容的にどうですか、
ただ、男性の漫画というのはわりとストーリーがなく
男性と女性では。
て、最初にいい女が出てきてバンと脱いで、足を開いて、
●さかもと―全然違います。描いていて男性の性と女
それでセックスが始まってしまうような内容の作品が多
性の性は違うんだなと思い知らされるのですが、女性の
いんですけど、女性は関係性ができるまで。どういう相
場合は、まず絵がきれいじゃないとだめなんです。清潔
手なのか、どういうふうに口説かれたか。自分をどうい
感があって、夢がないとだめなんです。やはり女性はロ
うふうにほめてくれるのか。そういうことをきちんと描
マンスを求めますし、男性のいう気持ちよさと女性のい
写しないで、いきなりセックスシーンに入るだけだと、
う気持ちよさは違っていますよね。たぶん、あらゆる女
読者はついてこないんです。
性が「精神的な愛情で満たされること」と「快感」が非
●永尾―非常に勉強になりました(笑)
。
常に近い。
●さかもと― 一人の男性として(笑)
?
男性の場合は─どちらかというと日本の男性の場合で
●永尾―そういった男性と女性の違いが、われわれは
は─自立してしっかり働いている女性より、簡単に家庭
性機能を専門にやっていますので非常に興味があるし、
に入ってくれて自分の言うことを聞いてくれそうな、自
勉強しなければいけない分野ではあるんです。
分が偉い立場になる女性のほうがお好きみたいです。男
それで性の問題と、あとは恋愛に関しての感じ方もや
性では、性というのは「自分の力強さとかを確認する場
はり男性と女性では違うのでしょうか。
面」で、できれば女性が自分より下の立場にいてほしい、
●さかもと―そうですね。私が恋愛をしていて思うの
みたいなところがある。だからわりとレイプものが多い
じゃないですか。
Koichi Nagao
●永尾―そうですね。
●さかもと―女性のほうも、これは男女それぞれの本
質的な部分も根底にはあるのでしょうけど、残念ながら
極端にレイプ的になってしまうか、あとは絶対あり得な
い男性が現れるようなファンタジーぽいセックスになっ
てしまうか、どっちかなんです。
永尾光一
1988年昭和大学大学院卒。現在、東邦大学医
学部泌尿器科学講座講師。日本性機能学会理
事、日本泌尿器科学会専門医、日本形成外科
学会専門医。
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ED Practice 05
は、恋愛はむしろセックスと逆で、男性は恋愛というも
かりませんけれども。それがまた社会によってより強化
のに対して本当にファンタジーを持っていらっしゃる。
される。それによって恋愛のダイナミズムや性欲などが
女性は、恋愛というのは仕事だと思っていますから、非
生まれてきていると思います。
常にリアリスティックです。これはなぜかというと、女
だからEDという問題は、現代社会の文明病だと思いま
性の場合は、恋愛の向こうに結婚があって、結婚の向こ
す。たとえば本当に体を使った狩猟をやっていた男性、
うに生活があって、どういう男性とお付き合いをして結
あるいは軍人が戦場において女性に対してどう振る舞う
婚すれば、子どもをどういうふうに育てられるかという
かといったことが歴史的に証明していると思いますが、
ことまで、全部先までストーリーがあるからだと思うん
男性がより雄々しく、その力が評価される社会では私は、
です。
EDはあまり起こらないのではないかと思います。
男性はどうかというと、女性というだけで、自分に対
して優しくて、かわいくて、きれいで、できれば性器な
EDの起こる背景
んかも匂いがしなくて、というふうにファンタジーを
持っていらっしゃる。現実の大人の女性よりは、そうい
●永尾― 最近、EDが増えている。特にセックスレス
う漫画のなかの女性とか、ファンタジーに対するあこが
を象徴として増えているという状況ですね。どうしてこ
れが強いので、男性のほうは恋愛の場ではかなり子ども
うセックスレスが増えているのか。何かお考えがありま
です。女性が恋愛の向こうに生活など見ているというこ
すでしょうか。
とを認めたがらないので、いざ女性が金銭的なお話とか
●さかもと― まずは男性が体を動かさなくなったこ
をすると、もうぺしゃんこになって、次の女性に行って
と。今は受験をしないと社会では生き残っていけないで
しまう男性が多いみたいです。
すから、お母さんが、小さいころから運動をさせないで
●永尾―それは男性、女性の違いですか。社会的な立
勉強をさせます。それで体ができていないから、成熟が
場、たとえば収入が男性のほうが多くて、奥さんは働か
あまりしないまま大人になってしまうということがある
なくていいというような感覚がそうさせているのか、も
と思います。
ともとの男性、女性の本質的なものなのか。
もう一つは女性の自立の問題を含めた、いろいろ社会
●さかもと―両方あると思うのですが、私は最近はや
的なプレッシャーがあると思いますね。「男性は女性を
りのジェンダー論を結構ばかにしていまして。社会的な
平等に扱わなければいけない」とか、またちょっとお尻
刷り込みのせいなのだから、完全にフェアな男女なら、
を触ったりするとセクハラと言われたりするなど、女性
まったく問題は起きないと言う人がいます。けれど、も
を性的なものとして見ることが結構禁止されていたりす
しそうなったら私は全員の男性がEDになると思います。
るじゃないですか。そういう中でどう振舞っていいかわ
文化的な差異によって発情するという複雑なシステムが
からないということ。
性にはあると私は思うので。まるっきりフェアな状態で
私が恋愛したり、いろいろ仕事をしていて感じるのは、
語り合えるはずの大卒同士の男女というのは恋愛が起こ
男性のほうが女性よりはるかに繊細で優しくて、気が弱
りにくい。セックスもそのような男女がうまくいってい
い存在だと思うんです。だから社会の構造として男尊女
ないケースが多いと思います。私は性の現場でずいぶん
卑みたいな文化の助けがあった昔のほうが、「女なんて
いろいろなものを見ていますが、現場を見るにつけ男と
やっちゃえばおれのもんだ」とか「男が固くて、大きく
女というのはまったく違った性だと感じますね。それは
て、強ければ女は喜ぶ」みたいな幻想、誤解があったと
発生学的にいうと、ホルモンのいたずらなのかどうかわ
きのほうが、むしろ雄々しくなれたんじゃないかと思う
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結果が得られればいいのではないか。
女性の立場では、セックスがすごく上手
な男性と出会えば自分は変わるんじゃない
かと思っている女性は多いんですけど、そ
うではなくて、自分の目の前にいる、自分
を愛してくれる男性がどんな男性なのか真
剣にコミュニケーションしたら、男性は必
ずその女性に尽くしてくれると思うんで
す。ですから女性のそういうコミュニケー
文化的な差異によって発情するという
複雑なシステムが性にはあると私は思うので、
EDという問題は現代社会の文明病だと思います。
ション能力を増やしてほしい。
私はEDの男性とお付き合いしていたこ
ともあるんです。半年くらいそういう状況
でした。私はその方のこととても好きだっ
んです。昔の男尊女卑はあまりひどいので、同じ女性と
たの。一生懸命仕事をしているし、全然よかった。その
して今みたいな社会になったのはありがたいのですが。
方はすごく気になさっていて「3年くらい仕事が忙しく
でもそれが違うということになり、「じゃあ、どうした
て女性と付き合わなかったからだめかもしれない」と最
らいいか」と言われても─私もずいぶんいろいろな媒体
初からおっしゃってたの。私は普通に恋人ですから、キ
で語り続けていますけれど─男の人は変わらない。男性
スとかペッティングはするのでそれでハッピーなのでい
を雄々しくするためのテクニックを女性も失ったし、文
いんです。男性は性器が硬くならないとだめだと思って
化も失ってしまったと思います。
いらっしゃるのですが、それは本当に男性の誤解で、女
たとえば、自分と対等な女性で、「あなたにぴったり
性は好きな人と一緒にいて、おしゃべりができて自分の
の方です」という女性にはうまくいかない。でも、SM
ことを「好き」と言ってくれたら十分。それで、「もし
クラブに行って、
「おれが絶対優位だ」みたいなM嬢に出
あなたが病院へ行くのだったら一緒についていってあげ
会ったとき、あるいは、自分のお母さんに厳しく育てら
るけど、行きたいの?」と聞いたら「仕事が忙しいか
れたときの印象を与えるような女王様に会ったときだけ
ら」って。「でももし行きたくなるから一緒に行くから
勃起するみたいな男性もいると思います。そういうこと
ね」と言っていたら半年後くらいに、寝ていたときに突
もばかにしてはいけない。
然起こされて、
「硬くなったから今して」と言われて
(笑)
。
イレクトするということは、男性は女性よりはるかに
すごくその方は喜んでて、私も嬉しかった。そういうふ
精神的な要素が強いのではないかと思います。繊細な性。
うにリラックスすることでその方は回復したので、「す
●永尾―そういう方も性機能外来には結構来ます。思
ごく自信がついた」と喜んでいました。たぶんそういう
春期あたりの快感の得かたに感動してしまったというの
ことは現代社会では多いのではないかと思うので、二人
がずっと残っているみたいです。
の共同のコミュニケーションが大切だと思います。
●さかもと―それをずっと再現していきたいんですよ
他にも、お薬によって、一回成功したことによって、
ね。だから自分の中ではもしかして異常かもしれないと
成功体験の自信が─「薬によってできた、おれはできる、
いう思いがあっても、それを話し合うことで、女性が
できるんだ」と思うことによってその感覚を覚えて、機
「うん、わかった」と言ってあげて、二人が満足できる
能が回復したという方にも私は会ったことがあります。
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いう気がするんですけど。だって情報量だと思うんです、
女性からみたED治療薬
絶対。どんどんPRすることで変わってくるんじゃないで
しょうか。
●永尾―5年前にEDの治療薬が発売されましたけれど
も、女性のなかでは薬で勃起させているのではないかと
EDの外来なんかもカップルでどんどん気楽に行けるよ
うになってもらえたらいいなと思います。
いう疑いを持っている人もいるのですが。
●さかもと―というか、一緒に飲めばいいのに(笑)
。
女性の性は成長する
私は、自分のためにここまでしてくれるんだと思うと嬉
しい。
●永尾―ちょっと気になるというか、面白いところは、
それから逆に女性の立場で伺いたいのは、薬で無理し
要するに男性は女性の性機能に関してあまりよくわから
て体に負担がかかるんじゃないですか。愛しい人だから、
ない。先ほどいろいろ教えていただいたのですが、わか
それが一番の心配なんです。お薬で喜んでむきになって
らないということが多い。個別にもいろいろ違いますし、
やることで、別の併発的な疾患が出たりするとすごく怖
どういうふうに捉えたらいいかということでひとつ、女
いので、コントロールを女性がしてあげたい。その人に
性の性は成長するという話を著書で書かれていました。
も喜びを得てほしいのですが、私を喜ばせるためにもっ
それについて教えていただきたいと思います。
とすごくならなければいけないんじゃないかという誤解
●さかもと―男性の場合、若いときに一つの印象で快
を持ってほしくないから、私は使っているんだったら教
感を得ると、それが生涯ずっと続きやすいということは
えてほしい。体調が悪そうなときには、今日はやめよう
たぶんあると思います。だから男性は自分のなかのド
と提案したい。
リームガール、理想の女性がいて、そういう女性をいつ
●永尾―基本的には血流をよくする薬ですので、体に
までも追い求めて、人によっては浮気を繰り返したり、
はそれほど悪くないんです。一緒に使ってはいけないよ
あるいは自分の結婚相手が見つからないということがあ
うな薬や、体力のない人には性行為自体にある程度の危
ると思います。けれども女性に、いわゆるマスターベー
険はありますが。
ションのときに何を考えますかと聞くと、覆面の、ある
●さかもと―でも逆に血流がよくなりすぎて、何か問
いは顔のない男性に犯されるという答えが多いんです。
題が起きることというのはあるんですか。
これは逆に、どの男性でも自分をすごく愛してくれる男
●永尾―むしろ心臓の血流もよくなりますので、機能
性だったらいいという意味だと。顔が明らかに現れてい
的にはよくなるみたいです。
る場合は好きな人がいる状態で、また、ほかの人を受け
●さかもと―私は薬はどんどん広まってほしいと思う
入れられるときは覆面の男性が出てきたりするのではな
ので、リスクのことは男女ともに学びたいと思います。
いかと思うんです。自分もわりとそうなんですけど。
あとは、量が増えたりしないのか心配なのですが、それ
最初は女性は挿入すると非常に痛いです。それが何年
は大丈夫なんですか。
もかけて、たとえば愛してくれる男性と数年かけて、よ
●永尾―量は決まっていますので、それ以上は飲めな
い状態でしてもらうと、だんだん体が「開いて」いく。
いということです。
または、相手がたまたま替わったときに、また自分の
●さかもと― じゃあ、そういうことをたくさんPRし
違った部分が引き出される。あるいは、たとえばソフト
てくれれば。ピルなんかもみんなずいぶん怖がっていた
SM的な体験をしたようなときに、自分が攻めるのが好
わけじゃないですか。あれはPRがやっと効いてきたなと
きだったとか、愛情はあるけど、ちょっといじめられる
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●さかもと―そうかもしれませんね。
●永尾―でもこれを女性にあまり聞けないもので。恋
愛論から話をすすめていると、時間は関係ないという意
見もありますが、3分だったら15分のほうがいいという
ようなことがあればお話しいただければと思います。
●さかもと―特に若い女の子なんかはそうだと思うん
ですけど、男性に導いていってほしいという気持ちが強
いので、やっぱり最低でも3分ぐらい持続してほしい。
「花を育てるように接して欲しい」という表現は
すばらしいと思いました。
できれば15分ぐらいあると、いろいろコミュニケーショ
ンしながら挿入ができるのでは。理想値としてはたぶん
適正なんだと思います。
ことでより快感を覚えるということを発見していくこと
●永尾―こういった目標と、恋愛など心と心の絡み合
によって、自分でも女性として体の反応がすごく違うと
いが問題なんですね。こうやって「15分を目標にしまし
いうことを感じてきたんです。
ょう」といった場合に、
「じゃあ、15分やればいいのか」
●永尾― 著書にも書いてありましたけど、
「花を育て
と短絡的になってしまう可能性があります。その辺りを
るように接してほしい」という表現はすばらしいと思い
どういうふうに表現していったらいいのか。精神面とテ
ました。
クニックの面とを。
●さかもと―これは早漏を治そうということなんです
お互いが満足できるセックスのために
か。
●永尾―そうです。早漏は最近結構治療薬が出てきま
®
●永尾―ところで、いまEDについてはレビトラ など
して。2時間ぐらい前に飲む薬ですけれども、有効率が
のいい薬が出まして、うまくいくようになってきていま
90%ぐらい。射精まで5分以上長くなるのは60%ぐら
すが、射精障害、特に早漏について新しい研究テーマに
い。
しようと考えています。女性が希望する挿入から射精ま
●さかもと―あ、すごいですね。それは男性の快感も
での時間を調査しています。なぜかというと、男性は射
ちょっと鈍くしちゃうんですか。
精においてだいたい満足できるということで、女性に合
●永尾―ええ、そうです。快感を少し抑えて、心の波
わせれば双方が満足できる。ではどのくらいの時間がい
を激しくしないということなんです。
いか。精神面から話したらこんなものは邪道だという意
●さかもと―なるほど。それで自信が出てくれば、よ
見もあるかもしれませんけれども。これは一般の女性の
り長く自分はできるんだという自信がどんどん増えてく
アンケートですけれども、2時間と希望する人もいれ
るでしょうから。薬を使ってそのようにできるのであれ
ば…。
ば、どんどん利用すればいいと思うんです。あとはコミ
●さかもと―女性が? まあ。
ュニケーションの部分で、挿入の前に一度女性をいかせ
●永尾― そうです。30秒でもいいという人もいると
てしまうことによって、男性は入ってすぐにいっても、
いうこと。中央値を取りますと、挿入から射精までの時
とりあえず「君はオーケーだよね」というコンセンサス
間が15分ぐらいが妥当ではないかというのが女性側の意
がお互いにできるじゃないですか。女性が先にいって、
見です。
それから挿入する。そうすれば今までより5分長くなっ
2005 Vol.3 No.3
ED Practice 09
たりしたら、十分じゃないですか。
●永尾―もう一点は、女性によって時間は非常にばら
つきが多いということなんです。あまり即物的に聞けな
いということが多いのですが、それはやっぱり聞くほう
がよいのでしょうか。
●さかもと― 聞いてください。これはまず一つには、
さっきお話ししましたけど、女性の性は成長するという
意味で開発度みたいなところによると思うんです。遅漏
も早漏もどっちも女性と別れちゃう確率は高いと思うん
ですけど、遅漏もそういうお薬で、ある程度女性がお願
いしたときいってくれるとありがたいですよね。もう一
ED治療薬も早漏の治療薬もすべて
ハッピーメディシンだと思います。
皆さんに本当にハッピーになっていただきたい。
つは、これはいいのかな…。女性は、男性が平均より
ちょっと大きかったり、30分とか40分とか長く挿入で
いと思える人とは(すごくスキンシップはあるんですけ
きることによって、「ほかの女性より私はいい男と付き
ど)ごくふつうに前戯が20分、挿入15分みたいなこと
合っている」という意味で自尊心が満足させられること
で満足できるんです。
もあるみたい。
だから私は女性に対して満足させるために男性が焦る
●永尾―あるんですか、やっぱり。
というのは本末転倒で、それだと男性に肉体的にも精神
●さかもと― あると思います。「私の彼は長いのよ」
的にもすごくプレッシャーがかかります。特に激務をさ
とか「固いのよ」と女同士だと言います、みんな。だか
れている方は、2時間、3時間のセックスには応えられな
ら女同士のわい談ってすごいんですよ。見栄もあるんで
いと思います。だから男性に立派に働いてもらうために
しょうね。私がお付き合いした男性では、15分以上の男
も、女性がそんなに求めなくてもいい状態をつくるとい
性なんてそんなにいないですよ。ふつうの男性は5分か
うのも大事だと思います。そういう意味では、その前に
ら10分ぐらいだと思いますが、女性はそれで十分うれし
女性を安心させる。この男性は自分をすごく愛してくれ
いんですよ。だけど女性は見栄があるでしょう。5分と
て、忙しい中で一生懸命抱いてくれるんだと女性が理解
言えないんです、
「うん、30分ぐらいかな」なんて。そ
できていればだいぶ違うと思います。男性はそういう女
れでどんどん尾ひれがつくようになると思います。だか
性の気持ちとセックスがものすごくリンクしているとい
らこういうデータで言えば、15分というのは結構下駄を
うことをわかって「ああ寂しいんだ、じゃあ、どうした
履かせていますね。10分だったら十分だと思います。男
ら彼女は安心するんだろう」ということで、スキンシッ
性は気持ちよくて、早くいきたいのを我慢して10分で
プや言葉、あとはプレゼントなどという部分でケアして
しょう。女性にとって名誉なことじゃないですか。だか
くださると、こういう飢えみたいなものがちょっと減っ
ら私はそういうことをもっとオープンにして、そんなに
て、男性に対するプレッシャーが少し減るのではないか
長くなくていいと知らせていくべきだと思います。
と、私は体験的に思います。
自分の経験なんですけど、すごく好きな相手でも、こ
●永尾―最後は精神的なものであるということで、非
の人に捨てられちゃうんじゃないかという恐怖感がある
常にいいお話をいただきました。では、最後に、ED治療
と、いくらセックスを長い時間してもあまり満足できな
薬に対する期待について伺いたいと思います。
かったんです。でも、絶対この人は私から離れていかな
●さかもと―自信を与える意味でサポート的にもいい
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Editorial Interview
たり、誤解があったりすると、恐怖を持ったり、それに
よって傷ついたり、使い方を間違えると死んじゃったり
するじゃないですか。だから本当に人生の要だと思いま
す。だから上手に使って、最高の人生の幸せを得てほし
い。私はわりと年寄りの恋人がいたし、自分もだんだん
年を取ってきていて感じるのですが、年を取れば取るほ
ですし、私たちは聖人君子ではないですから、男性も女
ど性とか人生の幸せに対して貪欲になる部分があるじゃ
性も体がつながっているということで得られるハッピー
ないですか。老人ホームでも問題になりますけど、年を
というのはものすごく大きいわけです。だからこんなに
取れば性欲がなくなると思っている人は多いし、年を取
みんな性のことに悩むんだと思います。それをたかだか
って「何を今さら」と思っている人も多いと思いますけ
「お薬」ですけど、それによって救っていただけるのだ
ど、人生に対する執着が出てくるんだと思います。でも
ったらこんなにいいことはない。ある意味では「お薬様」
それは決して汚いことではなくて、残り少ないんだから
です。だからさっきお話をうかがって私はほっとしたの
よりハッピーになりたい。これは自然で、すばらしいこ
ですが、リスクが非常に少なくて、それを正しく使うこ
とだと思います。だから年を取ってからこそこういうも
とでハッピーになれるんだったら、何の迷いもないと思
のを使って、奥様も旦那様もハッピーになるということ
います。ED治療薬も早漏の治療薬もすべてハッピーメデ
は、人生の残りをよりハッピーに生きるために大事だと
ィシンだと思います。そういう認識をもっと広めて、皆
思うので、ぜひもっとPRをしてたくさんの人に幸せにな
さんに本当にハッピーになっていただきたい。
ってほしいと思います。
セックスも薬もそうだと思うんですけど、上手に使え
ばこんなに幸せにしてくれることってないです。間違っ
●永尾― すばらしいお言葉でありがとうございまし
た。
対 談 を 振 り 返 っ て
今回はとても有意義な対談をさせていただき、さかもと未明さ
ん、
「ED Practice」編集部のみなさまに感謝します。さかもと
さんは1つのことを質問するとわかりやすくたくさん話してく
れるので聞き手としては助かりました。性に関する女性の考え
方をまじめに話していただき勉強になりました。女性は愛情が
最も重要であることが再確認できました。女性には花を育てる
ように、よく観察し水や肥料をあげ日
をあてるよう接する。弱い花でも、強
い花でも愛情が必要なのでしょう。男
性も少しでいいから愛情がほしいです
よね(笑)。
永尾 光一
今回は、永尾先生のような素敵な先生に、話を聞いていただけ
て、とても幸せでした。セクシャルな話というのは、発信する
側と受け取ってくれる側のアンテナが、
両方感度がよくないと、
誤解が生まれて難しいんですよね。今日、かなりストレートに
語らせていただけたのは、永尾先生の視線が決して興味本位で
なく女性への愛と誠意に満ちていると感じたからです。これっ
てきっとコミュニケーションの本質。
女性を活かせてくださるのは男性だっ
てことだと思うんですね。男性が見守
ってくだされば女性はどこまでも飛べ
ること、そしてその喜びを男性にお返
しするのが女性の仕事。それは難しい
けれど、お話していて、必ず実現可能
なんだと思いました。大切なのは言葉
です。読者の皆さんもご夫婦で沢山コ
ミュニケーションをとって、喜びのあ
る性を育んでくださいね!
!
さかもと 未明
2005 Vol.3 No.3
ED Practice 11