風車翼の長大化を実現する空力設計* ~高性能・低騒音翼型を適用した風車翼(φ102m)の開発と洋上風車への展開~ Aerodynamic Design for Large-Sized Wind Turbine Blade 深見 浩司** 本田 明弘** 黒岩 隆夫*** 林 健太郎** Akihiro HONDA Takao KUROIWA Kentaro HAYASHI 2.風車翼(φ102m)の開発方針 低風速地域への対応と設備利用率の向上を目的とし, 直径 102m の長大翼を開発する.基本設計条件を IEC 風車クラス 2A とし,設備利用率 51%以上,風車騒音 105dBA 以下を狙う.同クラスの 2MW 級他社風車(カ タログ値)との比較を図2に示す. 52 51 Capacity Factor [%] 1.はじめに 地球温暖化の抑制を目的とした CO2 排出規制強化,近 年の燃料価格高騰,さらに,2011 年 3 月の福島原発事 故以降,日本国内においても再生可能エネルギーへの 期待が高まっている.全世界の風力発電の導入量推移 は 2020 年には陸上でおよそ 100GW/年,洋上でおよ そ 25GW/年と予想されている[1].現在の陸上風車の 主流は定格出力 2~3MW,翼直径 100m 以上であり, 定格出力に対して,翼の長大化が進行している.これ は,低風速地域への市場拡大と設備利用率の向上を目 的としている.一方,洋上風車は海洋構造物・輸送建 設等の費用が追加されるため,単機出力を大きくする ことによって経済性を高める必要があり,現在開発が 進められている洋上風車の主流は定格出力 5MW 以上, 翼直径 150m~170m である. 今後, 洋上風車について, 定格出力の増大と並行し,設備利用率の向上のため, 翼の超長大化が予想される.陸上・海岸・沿岸では風 車と居住地の近接によって低騒音性(本論文で音響パ ワーレベルを単に騒音と表現する)が重要である,長 翼化には,長翼化を実現する荷重低減技術,高周速化 に伴う低騒音化技術,高性能化技術,製造・コスト低 減技術が重要な技術課題である. 50 49 48 47 46 A B C D 開発目標 B C D 開発目標 108 Sound Power Level [dBA] Koji FUKAMI 107 106 105 104 No data 103 A 図2 開発目標 本論文の構成を以下の通りとする. ・風車翼(φ102m)の開発と実証試験(図1) ・高性能・低騒音翼型の空力設計と風洞試験 ・検証済の設計技術を洋上風車に展開 長大翼の設計方針を以下とした. ① 発電量向上のために翼を長くする. ② 重量低減のために翼を厚くする. ③ 荷重低減のために翼を細くする. ④ 騒音低減のために翼端を捻り戻す. (ツイストバック) ⑤ タワー近接距離を確保するため風上に曲げる. (プリベンド) 図1 風車翼(φ102m) *平成 24 年 11 月 28 日第 34 回風力エネルギー利用シンポジウムにて講演 ** 会員 三菱重工業(株) 技術統括本部 〒851-0392 長崎市深堀町 5-717-1 (A) 長翼化に応じて年間発電量は増大するが,従来翼 型を用いた長翼化では開発目標に対して未達(未達量 1%) ,(B) 長翼化に伴って騒音・荷重・重量・撓みが 増大するという技術課題が生じた.さらに,(B) 騒音・ 荷重・重量に係る対策は,(A) 年間発電量の向上と背 *** 会員 三菱重工業(株) 原動機事業本部風車事業部技術部 - 303 - 反する関係にあるため,年間発電量の未達量は最終的 に 1%から 3%に拡大すると予想された.以上の技術課 題を解決するため,新規翼型の開発・適用による発電 量向上+3%と騒音低減-2dB を図った. 翼型名をMHI-F xx(xx:翼厚比%)とした. 3.MHI-F 翼型 [1] 設計揚力係数 : 設計揚力係数の向上は一般に最大 翼厚位置を前方配置かつハイキャンバとすることで実 現できるが,失速特性のリスクを伴うため,既存翼型 [2][3][4][5] で既に達成されている設計揚力係数 1.15 を MHI-F18 の設計目標とした.MHI-F21, 24, 30, 36, 42 については, 『翼の全ての半径位置で翼素効率を最大限 に発揮させるための設計揚力係数の組合せ』 (図5)を 設計思想とし,最適設計を実施した. 3.1 空力特性(図3,図4) MHI-F 翼型に求められる空力特性を以下に整理する. 発電量向上 発電量向上 発電量向上 翼騒音低減 1.6 CLdesign [-] ・高い設計揚力係数 ・最適化された設計揚力係数 ・高い最大揚力係数と最大揚抗比 ・翼後縁の境界層排除厚 1.7 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 1.0 42 36 30 24 18 12 Relative thickness [%] 設計揚力係数 向上 細翼でも 高性能化 設計揚力係数 最適組合せ 高性能化 図5 設計揚力係数の設計目標 年間発電量 +3% 最大揚力係数 向上 厚翼でも 高性能化 境界層排除厚 薄く 翼空力騒音 -2dB 低騒音翼型 [4] 境界層排除厚 : 空力騒音の主要因は翼後縁から吐 出される乱流境界層内の渦であり,低騒音化のために は,最大翼厚位置から後縁側の背面形状の最適化で境 界層排除厚を薄くする方針とし, 『最大翼厚位置と後縁 間の dY/dX が S 字状(図6) 』を設計思想として最適 設計を実施した. 図3 MHI-F 翼型の設計方針 CL (揚力係数) CLmax CLdesign (設計揚力係数) 失速防止 L/D L/Dmax (揚抗比) 高性能 細長翼 Angle of attack 0.0 Angle of attack DSTAR (翼後縁 境界層排除厚) 耐ラフネス 騒音低減 (翼端) 耐剥離 L.E. Angle of attack Angle of attack 3 1 Better L.E. 2 T.E. DSTAR XTR (乱流遷移位置) T.E. [3] 最大揚抗比 : 最大揚抗比の向上は可変速域での性 能向上に重要である.ハイキャンバ,後縁側の薄い翼 厚分布,最大翼厚位置の前方配置で実現できる. dY/dX 最大揚抗比 向上 [2] 最大揚力係数 : 最大揚力係数の向上は高風速域で の性能向上および流入風変動時の失速防止の観点で重 要である.翼根側ほど,風速変化の迎角変化への影響 が大きいため,より高い最大揚力係数を目標とした. Better 0.0 L.E. 図4 翼型の空力特性に関する定義 X/C X/C T.E. 図6 背面形状・翼面流速・境界層排除厚の関係 - 304 - 三菱重工業 (株) 長崎研究所 大型汎用風洞 空力性能計測 風上から 圧力孔 ▲ NACA63-4xx 1.6 CLdesign 1.4 1.2 1.0 Optimum CLdesign 0.8 0.6 L/Dmax 15 18 21 24 27 30 33 36 39 42 45 Relative thickness [%] 160 140 120 100 80 60 40 20 15 18 21 24 27 30 33 36 39 42 45 Relative thickness [%] 1.8 1.6 CLmax 3.3 風洞試験 MHI-F18, 21, 24, 30 について,風洞試験による検証試 験を実施した(図7) .設計揚力係数,最大揚力係数, 最大揚抗比,翼後縁から吐出される境界層排除厚の計 測結果を図8,図9に示す.性能面について,設計揚 力係数,最大揚力係数,最大揚抗比ともに,従来翼型 よりも向上した.設計揚力係数の向上によって,長翼 化・荷重低減に必要となる細翼設計を行ったときにも 高性能を維持することが可能となった.さらに,破線 で示す最適な設計揚力係数の組合せをほぼ満足してい るため,翼の全ての半径位置で翼素効率を最大限に発 揮させることが可能となった.翼根側で使用される厚 翼型の最大揚抗比の向上は大きく,重量低減に有効な 厚翼設計を行ったときにも高性能を維持することが可 能となった.騒音面について,MHI-F18 は境界層排除 厚が最も薄く,既存翼型(NACA63, NACA64, DU) に対して,同一周速で最も低騒音性を有すると判断さ れた.また,MHI-F 翼型は高い設計揚力係数を有する ため,設計周速比を上昇させることなく細翼化を実現 することができるため,翼先端周速の上昇回避による 騒音低減も期待される. ● MHI-F 1.4 1.2 1.0 15 18 21 24 27 30 33 36 39 42 45 Relative thickness [%] 図8 MHI-F 翼型の空力特性 (Re=6x106 換算) Measurement MHI-F18 0.10 Displacement thickness [-/chord length] 3.2 翼型形状 高い設計揚力係数を達成するために,最大翼厚位置を 前方配置とし,後縁側の翼厚分布を薄くする方針をと った.最大翼厚位置を前方に配置することによって, 設計揚力係数向上,最大揚抗比向上,境界層厚低減の 傾向が得られ,翼後縁エッジ方向の強度を保ちながら 最適設計を実施した.キャンバ分布については,最大 キャンバ位置を前方配置とすることで最大揚抗比向上, 境界層厚低減の傾向が得られるが,最大揚力係数が低 下するため,最適範囲を見出す必要があった.厚翼型 については,翼背面厚みを抑えすぎて腹面の膨らみが 大きくなりすぎると低迎角で腹面剥離が発生する可能 性が生じるため,腹面後縁側の凹形状の最適化で剥離 を回避させる方針とした[3]. Measurement DU96-W-180 0.09 CFX MHI-F18 CFX NACA63-418 0.08 CFX NACA64-618 0.07 CFX DU96-W-180 0.06 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0.00 ウェイクレイク -2 コード長 1.5m 0 2 4 6 8 10 12 Angle of attack [deg] 6 図9 MHI-F18 の騒音特性 (Re=2x106 換算) 翼後縁背面から吐出される境界層排除厚 図7 MHI-F 翼型の風洞試験 (Re=2x10 ) 三菱重工業(株) 長崎研究所 大型汎用風洞 - 305 - 14 Power output [kW] 2500 2000 1500 1000 500 0 0 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 11 12 13 14 15 107 106 105 104 103 102 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Wind speed at hub height [m/s] 厚翼でも高性能 発電量向上・重量低減 図12 MWT102/2.4 実証データ (認証機関計測) 最大揚抗比の向上 → 発電量向上 設計揚力係数の最適組合せ 発電量向上 設計揚力係数の向上 低騒音翼型 低騒音化 細長翼でも高性能 発電量向上・荷重低減 ツイストバック 低騒音化 1 Wind speed at hub height [m/s] Sound power level [dBA] 4.風車翼(φ102m)の設計と実証試験 重量低減を目的として翼を厚くし,荷重低減を目的と してコード長を細くなるように設計した.新規開発翼 (φ102m)の当社従来翼(φ95m)との翼形状比較を図1 0に示す.翼素運動量理論と三次元流動解析を用いた 性能評価, NASA 実験式に基づく手法[6][7]を用いた騒音 評価を実施し,風車翼(φ102m)を適用した MWT102 /2.4 の設計評価は,開発目標である設備利用率 51%, 風車騒音 105dBA を満足したため,風車翼(φ102m) の実翼を製造し,MWT102/2.4 実機での実証試験を実 施した(図11) .社外認証機関による性能・騒音計測 を実施した結果(図12)から,年間平均風速 8.5m/s, 空気密度 1.225 kg/m3 に換算した設備利用率は 51.1%, 風車騒音は 104.9dBA となり,開発目標を達成した. また,翼の空力設計の精度も確認された. 長翼化 102m プリベンド → タワー近接距離確保 φ102m (新規開発翼) φ95 (当社従来翼) 図10 翼形状比較 図11 MWT102/2.4 (米国) 5.おわりに IEC 風車クラス 2A を基本設計条件とし,設備利用率 51%,風車騒音 105dBA を目標とし,高性能・低騒音 翼型(MHI-F 翼型)の開発・適用で直径 102m の長大 翼を開発した.MWT102/2.4 実機試験では設備利用率 51.1%(年間平均風速 8.5m/s,空気密度 1.225kg/m3 換算) ,騒音 104.9dBA を達成し,高い経済性と環境性 を有する風車の開発に成功した.本技術は、今後市場 拡大が見込まれる洋上風車 MWT167 にも水平展開を 実施中である.三菱重工は,自然エネルギーの有効利 用と高い環境性を両立できる地球環境に優しい風車を お客様に提供できるよう技術開発を進めていく. 参考文献 [1] BTM Consult, 2012 [2] Abott, etc,“Theory of Wing Sections,” Dover, 1956 [3] Timmer and van Rooij, “Summary of the Delft University Wind Turbine Dedicated Airfoils,” Journal of Solar Energy Engineering, November, 2003, vol.125, pp.488 [4] Tangler, etc, “NREL Airfoil Families for HAWTs”, updated AWEA 1995.doc [5] Fuglsang and Bak, “Development of the Riso Wind Turbine Airfoils,” Windenergy, July, 2004, pp.151 [6] Brooks, etc, “Airfoil Self-Noise and Prediction,” NASA RP1218, 1989 [7] 林健太郎, 他, “風車翼の低騒音設計技術”, 三菱重 工技報 Vol.49 No.1 (2012) 新製品・新技術特集 - 306 -
© Copyright 2024 Paperzz