吉野川市山川町の植物

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2012.7
阿波学会紀要 第58号(pp.25-36)
吉野川市山川町の植物
―――――――――――――――― 植物相班(徳島県植物研究会)――――――――――――――――
*1
木下 覺
*6
小松 研一
*2
片山 泰雄
*7
成田 愛治
*3
谷川 光秋
*4
小川 誠
*4
茨木 靖
*5
松枝 悦子
*8
植北ちず子
要旨:旧山川町の植物相および巨樹について調査を行った。高越山の山頂付近では極めて珍しいキバナノショウキラ
ン,シコクカッコソウや当山が基準産地であるウスバヒョウタンボクなど数多くの希少植物が現存していた。また,
船窪のオンツツジ群落は200種以上の植物から構成され,徳島県版RDB搭載の絶滅危惧種が多数生育していた。この
ように,高越山や船窪周辺は多様な植物が生育し,豊かな自然生態系が維持されていることが確認できた。岩尾谷川
では県内最大規模のオオミクリ群落を確認した。町内全域では50種以上の希少植物を記録した。本町には多くの神社
があり,多数の巨樹・巨木が神木等として保護されていた。市街地や河川敷では外来種が増加し,県内初記録のもの
を含め多くの帰化が見られた。
キーワード:高越山,水害防備竹林,希少植物,基準産地,帰化植物
1.はじめに
れ,高越山から船窪周辺は放牧場に,集落に隣接す
る山麓の広い地域は開拓パイロット事業として拓か
本地域は古くから植物の調査研究が活発に行わ
れ,アワコバイモ,ウスバヒョウタンボク,セトウ
チホトトギスなどが高越山を基準産地(新種記載の
基準になる種の本籍地のような場所)として学会誌
に発表されてきた。また,群生しているオンツツジ
の規模は西日本一であるとされる「船窪のオンツツ
ジ群落」は国の天然記念物に指定されていて,開花
れるなど,自然環境は急激に変貌を遂げて今日に至
っている。
今回の調査では本地域で最も自然植生が残る高越
山,船窪などを中心に,吉野川河畔の河畔林や川田
川,蛍川,岩尾谷川などの植物。水田,畑地などの
耕作地の植物,社寺林,低山の二次林などの植物を
重点的に調査した。
期には群落全体が燃えるような朱色に染まり,多く
の観光客が訪れるなど,高越山一帯は多様な植物が
生育する自然豊かな山岳地域である。また,吉野川
や川田川流域の低地は忌部古墳群が物語るように,
古い時代から人々の生活の場として開発されてきた
地域である。そのため,多くの神社や寺院があり,
その聖域には人々に保護されてきた鎮守の森や神木
の巨樹・巨木が残されている。しかし,近年の経済
発展の著しい時代には山間地の開発が大規模に行わ
2.自然環境
本町の北側は吉野川を隔てて阿波市と接し,東か
ら南側にかけては吉野川市川島町及び美郷に,西は
美馬市穴吹に隣接していて,南側の美郷地域に囲ま
れた飛び地の西野峰を含めて面積43.83km2の地域で
ある。南側の船窪からやや北寄りには最高峰の高越
山(1122m)がそびえ,その西方から南方の船窪を
経て東方にいたっては,やや高度を下げながらも海
*1 鳴門市北灘町粟田字西傍示139
*2 名西郡神山町神領字川北 *3 鳴門市大津町木津野字北川縁32−1
*4 徳島県立博物館
*5 徳島市北沖洲1−6−6 *6 徳島市新浜町4−2−25
*7 海陽町大里松原32−126
*8 那賀町西納
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吉野川市山川町の植物/植物相班
抜約900m∼1150mの峰々が穴吹町や美郷との分水
内,勾配の緩やかな斜面は部分的に放牧場に開発さ
嶺をなして続いている。
れ,山麓は果樹園などに開拓されている。北部は沖
河川は美郷の奥野々に源を発する川田川が北流し
積平野が広がり,標高は極めて低く,吉野川の川原
て向坂付近で東方から町内に流入し,中央部を北に
やその沿線の水田地帯は標高がわずかに20∼25m程
貫流して吉野川に流入している。もともとは川田川
度にすぎない。その平坦地の大部分は吉野川と川田
の派川である蛍川は現在は堤防によって川田川との
川によって作られた沖積平野で,住宅地や農耕地と
連絡を断たれたため,流水量を著しく減少させて中
して人々の生活の場となっている。また,東部山麓
央部から東北方向に流れている。その他,川田川の
の川田川流域には洪積層の台地や河岸段丘が見ら
支川の岩尾谷川が本川の東を流れ,さらに西部地域
れ,ここも集落や耕作地として利用されている。
たな ぼ やま
では種穂山からの支川が吉野川に注いでいる。
本町の気象はメッシュ気候値によると年平均気温
地質は三波川帯に属す結晶片岩層で,緑泥片岩,
は15.5℃,降水量は県内最小値の穴吹にやや近い
紅れん片岩,石墨片岩などが含まれている。高越山
1487mmである(徳島地方気象台他1990)。そのこ
は登山口から頂上までのすべてが塩基性片岩で構成
とから,本地域は高越山の標高の高い山岳地帯を除
され,その大部分は藍閃石片岩で,県下最大規模の
けば,温暖で雨の少ない地域に属している。
含銅硫化鉄鉱々床を含み,東麓の楠根地にはかつて
3.植生の垂直分布
採掘された高越鉱山がある(岩崎1990)。
地形は南部が四国山脈の北斜面に当たり,高越山
本町においては高越山の山頂付近とその南西の稜
を中心とする山岳地帯で大部分が山林である。その
線のピーク付近及び高越寺周辺に及ぶ一帯が標高
阿 波 市
17
14
15
16
22
18
川
島
町
19
美
馬
市
9
2 5
43 1
美 郷
8
21
N
20
11 10
7 6
13
12
図1 調査地図
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1000m前後の区域で,冷温帯植物区に該当している。
おおむ
そこから高度を下げて概 ね中ノ郷(標高約600m)
付近までが推移体の中間温帯植物区になり,それ以
下の地域は暖温帯植物区である。
2012.7
①山頂とその周辺の冷温帯区域(高越寺∼奥の院
に至る周辺)「調査地z」
*ブナが優占し,林床にはマイヅルソウ,ウスバ
ヒョウタンボクが生育
山頂とその周辺部には冷温帯植物区の指標植物で
4.調査結果
あるブナが優占し,林床にはウスバヒョウタンボク
今回の調査では,高越山やその周辺の最も標高の
高い山地から山麓及び吉野川の河畔林,社寺林など,
できるだけ広範囲に調査した。その調査場所を示し
たのが図1である。高越山とその周辺部については
が多く生育していて,樹林の組成は次のようであっ
た。
(
)内の数字は幹周囲,単位はcm,以下同じ。
高木層:ブナ(優占:295,272,228),コハウチワカエデ
(204,186),ツガ(218),ハリギリ(302),イヌシデ(151)
,
ヒノキ,サワグルミ,ミズキ,ウリハダカエデ。亜高木層:
登山口から山頂までに出現する自然性の高い植生の
コハウチワカエデ,イヌシデ,ウリハダカエデ。低木層:シ
場所を調査した。植物名は通常の場合,出現順に記
ラキ,アズキナシ,ミヤマガマズミ,シロモジ,ツリバナ,
録した。以下,調査結果を報告する。なお,紙面の
イヌシデ,ウラジロノキ,ミヤマクロモジ,ケクロモジ,ツ
都合で確認した種についてはその多くを割愛した。
ガ,ミヤマザクラ,アセビ,コバノミツバツツジ。草本層:
シラキ,シロモジ,ハリガネワラビ,ツタウルシ,ウスバヒ
1)冷温帯植物区(落葉広葉樹林帯)
ョウタンボク,タンナサワフタギ,ナルコユリ,サルトリイ
a 高越山の植物
バラ,コゴメウツギ,コウヤザサ,イヌツゲ,クマノミズキ,
*希少植物が多産するホットスポット
イトスゲ,ミヤマエンレイソウ,サラシナショウマ,アオテ
ンナンショウ,ツルシキミ,クロフネサイシン(50株以上),
高越山は本町の南西端にそびえ,北方の吉野川を
モミジガサ,キバナアキギリ,フタリシズカ,ナガバモミジ
隔てた阿波町側から見える端正な山容から「阿波富
イチゴ,イシヅチウスバアザミ,ナガバハエドクソウ,ヒナ
士」の異名をもつ美しい山である。山頂には天日命
スミレ,トチバニンジン,ミズナラ,マイヅルソウ,アキノ
を祀る高越神社と山岳信仰の名刹である高越寺があ
る。高越寺の開基は天智天皇(在位661∼671年)の
えんのおづの
えんのぎょうじゃ
時代に役小角(別名 役 行 者)によってなされたと
される。山頂付近は古くから聖域として保護されて
きたため,参道沿いにはスギの巨樹・巨木が多く,
最大規模のものは幹周721cm,と705cmのものがあ
り,「高越神社の大杉」とか「灯明杉」などと呼ば
れている。スギ・ヒノキなどの植栽樹の他にブナ,
キリンソウ,ヒメノガリヤス。
②奥の院とその周辺部「調査地x」
*植栽木と自然木が混生する樹林
ここは植栽されたスギと自然木であるブナなどが
混生している樹林で,巨樹・巨木が多く生育し,林
床には希少種のキバナノショウキラン(図2)が確
認された。ここでは次の植物を記録した。
スギ(704,721(道上大杉),505,411,329,313,298,
298,282,232,234),ツガ(362),ブナ(332:地上1m位
サワグルミ,カエデ類,シデ類,ウラジロモミ,ツ
ガなどの冷温帯の特徴をもつ自然植生の樹林も残さ
れている。その林床には当地が基準産地であるウス
バヒョウタンボクの群落が各所に見られた他,スギ
植林地や自然林などの林床,林縁などにはシコクカ
ッコソウ,オオキヌタソウ,クロフネサイシン,キ
バナノショウキラン(図2),キクガラクサ,アワ
コバイモ,オオバウマノスズクサ,ハナタツナミソ
ウ,オオヤマカタバミ,サワルリソウ,ケオオクマ
ヤナギ,イワギリソウなどの極めて希少な植物が多
数生育していた。特徴的な区域に分けて記すと次の
ようであった。
図2 キバナノショウキラン
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置,255),サワグルミ(537:地上80cm位置),(196+319+
97:3分岐),ヤドリギ,オトギリソウ,キバナノショウキ
ラン,クロフネサイシン,シコクスミレ,トチバニンジン,
ツルアジサイ,オタカラコウ,シコクウツギ,コウツギ,テ
ツカエデ,タカネハンショウヅル,アオベンケイ,オオアカ
ネ,サイコクイボタ,ナガバハエドクソウ,トチノキ。
③駐車場終点∼奥の院参道沿いの植物「調査地
c」
*参道沿いにはミツバツツジ類が生育
船窪から高越寺へは地蔵平と呼ばれる広場まで車
道が通じている。そこから高越寺までは徒歩で約20
分の道のりで,車を利用する参拝者が最も多く利用
図3 キクガラクサ
している参道である。参道沿いの東側は急傾斜や断
崖地が多く,自然植生のアカシデ,イヌシデ,コハ
ウチワカエデなどの高木が見られ,コバノミツバツ
s 船窪のオンツツジ群落とその周辺部の植物
ツジ,アワノミツバツツジなどの低木やタンナトリ
①船窪のオンツツジ群落「調査地n」
カブト,キバナアキギリなど,様々な種類の草本類
*豊かな生態系が維持された群落
が生育していた。
船窪は高越山から尾根伝いに奥野々山に続く,標
④地蔵平∼参道裏斜面の植物「調査地v」
高1060mにある高原状の窪地である。地形が船底状
*参道裏側の樹林はイヌシデ・アカシデなどの二
をしていることから船窪と呼ばれ,ここには,西日
次林が成立
本一の規模といわれるオンツツジの群生地があり,
車道の終点の地蔵平から高越寺の裏側に出る裏参
1985年(昭和60年)に「船窪のオンツツジ群落」と
道がありその斜面や両川沿いには自然度の高い樹林
して国の天然記念物に指定された。群落の面積はお
が多く残されている。林床は崩壊した礫が堆積して
よそ3ヘクタールあり,約1200株のツツジ類が生育
いて,変化に富んだ林床にはウスバヒョウタンボク,
しているとされる。その約80%がオンツツジで占め
サワダツ,ヤマシャクヤクなどの希少種が生育して
られ,コバノミツバツツジ,アワノミツバツツジ,
いた。
トサノミツバツツジ,ヤマツツジなどのツツジ類が
⑤高越寺∼行場∼中ノ郷「調査地b」
混生している。オンツツジ群落が国の天然記念物に
*採取厳禁の希少植物が多く生育する参道周辺
指定されて以降,地元に保護団体が結成され,保護
高越寺の昔からの参道は山川駅から川田川の橋を
の名目で平成7年から,指定群落内にオンツツジの
渡り,観音堂から中ノ郷を経て,赤門(旧女人監視
幼木の補植が行われるようになり,平成19年までに
所),高越大権現の鳥居を通って高越寺に至るコー
約700本が植栽された。平成19年の調査では,植栽
スである。この参道沿いでは中ノ郷から高越寺に近
されたもののうち約200本前後が現存している。国
づくにつれて自然植生に近い樹林が多くなり,植林
の天然記念物の群落内に人為的に多数のオンツツジ
地内であってもツガの大木が残されていたり,林床
の苗を補植することが国の天然記念物を保護する上
にはシコクカッコソウ,ニシノヤマタイミンガサ,
で,ふさわしいか否かが問題となり,文化庁の指導
クロフネサイシン,キクガラクサ(図3)などの希
のもとに今後の保護管理計画策定のための委員会が
少植物の群落が見られるようになる。また,古くか
設けられた。協議の結果,オンツツジ群落の現状把
らイワギリソウが数個体生育していて,シコクカッ
握のための基礎資料を得るための調査の一環とし
コソウとともに採取厳禁の種として保護されている
て,平成21年から22年にかけて筆者の木下と徳島大
高越山の最重要種である。
学学生の源典子さんたちとで群落の植物相調査を行
った。その結果,偽木柵で囲まれた狭い面積の指定
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群落内に219種もの植物を確認することができた。
ブラ,タラノキ,チドメグサ,リョウブ,アセビ,トサノミ
その中には,環境省や徳島県のレッドデータブック
ツバツツジ,アワノミツバツツジ,ヤマツツジ,コバノミツ
に搭載されている絶滅危惧種のカタクリ,クロフネ
バツツジ,オンツツジ,オカトラノオ,エゴノキ,タンナサ
ワフタギ,アサマリンドウ,ツルリンドウ,アカネ,ハシカ
サイシン,セトウチホトトギス,ツリフネソウ,テ
グサ,ヨツバムグラ,ヘクソカズラ,クサギ,ヒキオコシ,
リハキンバイ,コフウロ,ヒメニラ,オオヤマサギ
ヒロハアキチョウジ,アキノタムラソウ,キバナアキギリ,
ソウなどRDB掲載種が8種も確認され,オンツツ
シコクママコナ,ムラサキサギゴケ,オオバコ,コツクバネ
ジ群落は多様な植物によって構成され,豊かな生態
ウツギ,スイカズラ,ニワトコ,コバノガマズミ,ガマズミ,
ヤブウツギ,オトコエシ,ツリガネニンジン,ツルニンジン,
系が維持されている貴重な群落であることが分かっ
タニギキョウ,ヨモギ,ケシロヨメナ,ノコンギク,アメリ
た。したがって,オンツツジ群落の保護は単にオン
カセンダングサ,イシヅチウスバアザミ,ノアザミ,シコク
ツツジにのみに視点をあてた保護・管理ではなく,
アザミ,ヒメジョオン,ヒヨドリバナ,ヨツバヒヨドリ,ニ
ガナ,アキノキリンソウ,コメナモミ,コウヤボウキ,フキ,
これらの多様な生態系の全てを保護・保全すること
ヒメニラ,アマナ,ウバユリ,ヒメホウチャクソウ,ホウチ
の重要性が明らかになった。本年度も引き続いて植
ャクソウ,カタクリ,ショウジョウバカマ,アマドコロ,サ
物相の調査をし,新たに確認した種を追加したもの
ルトリイバラ,シオデ,ヤマジノホトトギス,セトウチホト
を,紙面の都合で和名のみを記すことにした。また,
トギス,ヤマノイモ,ヒメドコロ,オニドコロ,ヌカボシソ
ウ,クサイ,ツユクサ,トダシバ,ノガリヤス,カゼクサ,
保護柵外の周辺にも絶滅危惧種のクシバタンポポ
コヌカグサ,ササガヤ,アシボソ,ススキ,ネズミガヤ,チ
(3株),ハナタツナミソウ,ヤマブキソウなどの希
ヂミザサ,スズメノヒエ,ヌカキビ,ミツバテンナンショウ,
少植物を確認した。保護柵内の植物は次のとおりで
あった。
マンネンスギ,トウゲシバ,ゼンマイ,ワラビ,ハリガネ
ワラビ,ヤワラシダ,シシガシラ,イヌワラビ,ヤマイヌワ
ラビ,イヌガヤ,ヒノキ,ツガ,アカシデ,イヌシデ,クリ,
コナラ,ケヤキ,クワ,ヤマグワ,クサコアカソ,コアカソ,
アカソ,クサマオ,ミズ,ドクダミ,フタリシズカ,クロフ
ネサイシン,イタドリ,ミズヒキ,タニソバ,ナガボハナタ
アオテンナンショウ,マムシグサ,ケスゲ,ヒゴクサ,ジュ
ズスゲ,タマツリスゲ,ヒカゲスゲ,タガネソウ,ヒメシラ
スゲ,オオバノトンボソウ。追加種:オオヤマサギソウ,オ
オバウマノスズクサ,ヒナスミレ,オクタマスミレ。計219
種(変種,品種等を含む)
②船窪(奥野々山登山道周辺Alt.1077m)「調査地
m」
ヒノキ植林地:ヒノキ(植栽),ゼンマイ,ダイコンソウ,
デ,ハナタデ,シロバナイヌタデ,ヨウシュヤマゴボウ,ナ
コダイコンソウ(県内未報告),ワラビ,コゴメウツギ,コ
ンバンハコベ,ワチガイソウ,ミヤマハコベ,マツブサ,ヒ
フウロ,イヌワラビ,フタリシズカ,ドクダミ,コガクウツ
カゲイノコヅチ,ケクロモジ,ミヤマクロモジ,シロモジ,
ギ,ヤマルリソウ,サイコクイノデ,ハリガネワラビ,ヒロ
タンナトリカブト,サラシナショウマ,ボタンヅル,トリガ
ハアキチョウジ,ウツギ,イグサ,サルトリイバラ,クマイ
タハンショウヅル,シギンカラマツ,ミツバアケビ,サルナ
チゴ,ボタンヅル,ホドイモ,シロモジ,ナナカマド,ミズ,
シ,オトギリソウ,タケニグサ,ムラサキケマン,ヒメエン
ゴサク,アオツヅラフジ,ナツツバキ,アカショウマ,シコ
クトリアシショウマ,ウツギ,マルバウツギ,コガクウツギ,
ノリウツギ,ヒメキンミズヒキ,キンミズヒキ,ヤブヘビイ
チゴ,ダンコウバイ,ミツバツチグリ,テリハキンバイ,カ
マツカ,ウワミズザクラ,ミヤマザクラ,テリハノイバラ,
ノイバラ,モリイバラ,ヤブイバラ,クマイチゴ,クサイチ
ゴ,ニガイチゴ,ナワシロイチゴ,ナガバモミジイチゴ,コ
ゴメウツギ,ネムノキ,ヤブマメ,ホドイモ,ヌスビトハギ,
ヤブハギ,ノササゲ,クズ,クララ,フジ,カタバミ,コフ
ウロ,ゲンノショウコ,ミヤマシキミ,ツルシキミ,カラス
ザンショウ,イヌザンショウ,ツタウルシ,ヌルデ,ヤマウ
ルシ,イタヤカエデ,ウリハダカエデ,コハウチワカエデ,
ツリフネソウ,イヌツゲ,アオハダ,ソヨゴ,ツルウメモド
キ,ツリバナ,ノブドウ,ナツヅタ,アマヅル,ツボスミレ,
タチツボスミレ,コタチツボスミレ,ナガバタチツボスミレ,
オタカラコウ,ハナタツナミソウ,ダンコウバイ,タンナサ
ワフタギ,ウワバミソウ,キツリフネ,ノリウツギ,ヨツバ
ムグラ,タカクマヒキオコシ,シケチシダ,アオテンナンシ
ョウ,ウバユリ,キバナアキギリ,ベニシダ,ツルリンドウ,
ヒゴクサ,ウスヒメワラビ,オニルリソウ,ミヤマクマワラ
ビ,コバノイシカグマ,ジュズスゲ,ヤマサギゴケ,シロバ
ナタカクマヒキオコシ(県内初記録)。
2)中間温帯植物区(推移体)・暖温帯植物区
(常緑広葉樹林帯)
a 高越山山門下部
①行場下部∼中ノ郷のブナ・ツガ混交林「調査
地,」
*ツガが優占し,ブナが混生する樹林
高越山山頂部を除いてその下部から中ノ郷付近ま
エイザンスミレ,ヒゴスミレ,ケマルバスミレ,シハイスミ
での登山道沿いはスギ,ヒノキの人工林が多いが,
レ,キブシ,アマチャヅル,ミズキ,クマノミズキ,コシア
伐採後に生じた二次林もかなり見られ,全体は中間
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吉野川市山川町の植物/植物相班
温帯植物区に属する区域である。しかし,高越寺か
ギ,イタドリ,ヒメナツトウダイsp.,フキ,コタチツボス
ら下って標高約900m付近までは冷温帯の指標種で
ミレ,シロモジ,オオマルバノテンニンソウ,キヨタキシダ,
あるブナが出現する。この区域には幹の直径が1m
タカクマヒキオコシ,ナガバモミジイチゴ,モミジガサ,ム
カゴイラクサ,コゴメウツギ,ヒナスミレ,サカゲイノデ,
前後のツガが多く残されているのが大きな特徴であ
ツルニンジン,カエデドコロ,トチバニンジン,シコクチャ
る。スギが植林されている場所であっても,ツガの
ルメルソウ,ケスゲ,コチャルメルソウ,ナガバノスミレサ
高木が混生しているので,伐採時に有用樹として意
イシン,コハウチワカエデ,カラクサイヌワラビ,エンコウ
カエデ,クマノミズキ,アカメガシワ(剥皮),サルナシ,
図的に残されたものと推測された。ブナが優占する
アカシデ,イヌシデ,メツクバネウツギ,ツヤナシイノデ,
樹林,ツガが優占する樹林などの自然度の高い樹林
ヒロハイヌワラビ,ヌカボシソウ,ミズヒキ,コミヤマカタ
を選んで調査すると次のようであった。
②高越寺∼穴吹登山道分岐付近のツガが優占する
樹林:Alt.900m「調査地.」
高木層:ツガ(347,324,382,329,367:地上1m位置)
,
ブナ(260,212),イヌシデ,イタヤカエデ,スギ(植林),
バミ,ゼンマイ,シギンカラマツ,ハシリドコロ,イトスゲ,
ヒナスゲ,ウワバミソウ,ヒメウワバミソウ,フタバアオイ,
トゲヤマルリソウ,ジュウモンジシダ,イラクサ,イタヤカ
エデ。
③垢離取∼高越寺参道合流点「調査地⁄1」
垢離取周辺:ジロボウエンゴサク,ハダカホオズキ,クサ
コハウチワカエデ。亜高木層:コハウチワカエデ,ツガ,カ
ヤツデ(約200株),シコクチャルメルソウ,ハナタツナミソ
ヤ,ブナ。低木層:ヤマウルシ,カクミノスノキ,アセビ,
ウ,ガマズミ,ウリノキ,アワコバイモ,タンナトリカブト,
シロモジ,スギ,シラキ,シキミ,マルバウツギ,カヤ,イ
ヌガヤ,ケクロモジ,マツブサ,ソヨゴ,ダンコウバイ,ミ
ヤマクロモジ,ケオオクマヤナギ。草本層:ミヤマシキミ,
ツタウルシ,シラキ,ミヤマクロモジ,コガクウツギ,ヤブ
ムラサキ,シシガシラ,ヤマウルシ,アワノミツバツツジ,
コハウチワカエデ,ツリバナ,コウヤザサ,シソバタツナミ,
アサマリンドウ,シコクママコナ,コウヤボウキ。
s 奥野井付近(林道奥野井線∼高越山登山道)
ヤマコウバシ,マルバウツギ,ナガバモミジイチゴ,シコク
ブシ,オオバウマノスズクサ,ミゾシダ,オウレンシダ,マ
ンサク,ヒカゲツツジ,コバノミツバツツジ,リョウブ,ネ
ジキ,コツクバネウツギ,タムシバ,カイナンサラサドウダ
ン,アカマツ。垢離取∼登山道:コナラ(優占),コバノト
ネリコ,ワラビ,ナルコユリ,シコクママコナ,ヤマツツジ,
ヤシャブシ,クリ,アオハダ,ツルシキミ,ヒノキ(植栽),
カンサイスノキ,ダンコウバイ,アサマリンドウ,コバノガ
①垢離取川周辺「調査地⁄0」
マズミ,ヤマザクラ,シロモジ,カラマツ(植栽),トサノ
*マンサクが生育する垢離取周辺
ミツバツツジ,ヤブイバラ,アカシデ,ミヤマガマズミ。ス
山川町側から高越山への登山道は複数のルートが
ギ植林地:ユリワサビ,アキノタムラソウ,ミツバカエデ,
サルナシ,アワブキ,チドリノキ,ヤマアイ,マムシグサ,
あるが,その一つ奥野井の少年自然の家跡下の林道
キツリフネ,ミツバテンナンショウ,キクガラクサ,ナガバ
奥野井線から昔の凍り豆腐製造跡地を経て垢離取に
タチツボスミレ,ナルコユリ,トリガタハンショウヅル,ニ
下り,そこから急傾斜の登山道を登ると高越寺の地
蔵平からの参道に合流する。利用者は少ないが,奥
野井谷川に下る参道沿いにはケヤキ,フサザクラ,
コハウチワカエデ,クマノミズキなどが生育してい
て,二次林ではあるが自然性が高く,林床にはナガ
バノスミレサイシン,アワコバイモ,ハシリドコロ,
コミヤマカタバミなどの草本類も豊かである。また,
垢離取川を渡る付近にはマンサクが多く見られ,渓
畔にはシコクチャルメルソウ,コチャルメルソウ,
さらに登るとタムシバ,カイナンサラサドウダンな
どとともに裁植されたカラマツなどが生育してい
た。それぞれの場所で確認した植物は次のようであ
った。
②林道奥野井線∼凍り豆腐製造跡地
ケヤキ,フサザクラ,ウリハダカエデ,カラスザンショウ,
イシヅチウスバアザミ,イチリンソウ,アワコバイモ,ウツ
30
ワトコ,ムラサキケマン。
d 飛び地の西野峰の植物(Alt.300m∼880m)
*コナラやミズキが優占する自然性の高い二次
林,林床にはエビネの群落。
西野峰は山川町の飛び地で,地図上では山川町の
南東の美郷地区にあり,偏5角形状で,北西に高く
西および南側が低い地形である。北西側は山川町と
美郷との分水嶺から連続する山地で,最も高い付近
は標高約880mくらいで,西および南側は美郷の樫
平地域に接し,標高は最も低い地域で約300m程度
である。植生区分では暖温帯から推移帯に属し,ス
ギ,ヒノキの人工林が大部分を占めているが,場所
によってはコナラが優占する良好な二次林が残って
いる。その林床にはエビネのやや大きな群落が見ら
れた。また,峠付近では徳島県初記録となるヤマア
マドコロの生育を確認した。以下,特徴的な樹林の
03_阿波学会_025_036_植物相4 12.7.12 4:55 PM ページ31
阿波学会紀要 第58号(pp.25-36)
組成をあげると次のようであった。
①西野峰のコナラの二次林1 Alt.510m付近「調
査地⁄2」
榎谷から西野峰に向かって右折しながら進み,西
2012.7
川右岸は,種野山の山塊が吉野川にせり出して川幅
が最も狭くなり,その河畔は基盤岩が浸食された断
崖地で,河岸に厳島神社が祀られている。国道を隔
てた山裾はJRの徳島本線唯一のトンネルがある。
野峰林道の起点を右折してさらに林道終点に向かう
そのトンネル口の山側の擁壁や吉野川河畔の岩場に
と,標高510m付近にコナラに混じってミズキが多
ザラツキギボウシが多く生育していた。本種はこれ
く生えている二次林があり,その樹林を調査した。
までスダレギボウシと呼ばれていて吉野川の大歩
そこから上方の道路に沿って出現する植物を記録し
危,小歩危や祖谷川,松尾川などの渓畔岩場には多
た。続いて曲がり角の道沿いの斜め上方に細い道が
く生育しているが,本町における分布は吉野川流域
あり,そこを進むと,スギ植林地を通って小さい沢
では最も下流に見られて特記すべきものである。ま
に下る道があり,その途中のスギ林の林床にはナベ
た,ここの渓岩上にはトネリコと思われる低木が3
ワリが生育(約5株程度)していた。
本生育していた。同じものが半田町の河畔にも生育
②コナラが優占する二次林Alt.820m∼850m「調
査地⁄3」
しているが,四国には分布記録がなく,分布的に疑
問な植物であり,さらに検討中である。その他,同
頂上付近へ通じる林道沿いにはコナラが優占する
所にはホソバノイブキシモツケなども生育してい
自然度の高い二次林が続いている。小さい涸沢を挟
た。この岩場周辺には県下に2箇所にしか生育記録
んだ斜面にエビネの群落があり,4カ所で合計約30
のないイブキボウフウが記録されている(阿部
株程度が採取を免れて生育していた。樹林の組成は
1990)。しかし,最近は確認できなくなっていて絶
次のようであった。
滅が危惧される。ここで確認した植物を記すと次の
高木層:コナラ(優占),ミズキ,フサザクラ,イヌシデ,
アカマツ。亜高木層:ウラジロノキ,イタヤカエデ,オオモ
ミジ。低木層:イヌシデ,アセビ,ウツギ,ヤマツツジ,カ
ナクギノキ,ツリバナ,コツクバネウツギ,ウラジロノキ,
アワノミツバツツジ,ヤマコウバシ,カマツカ,オンツツジ,
ミズキ,フサザクラ,サンカクヅル,エンコウカエデ,コマ
ユミ,ガマズミ,ダンコウバイ,イロハカエデ,モチツツジ,
ネジキ。草本層:ナワシログミ,ケシロヨメナ,コウヤボウ
キ,サルトリイバラ,ケスゲ,コバノガマズミ,ヒサカキ,
コナラ,ケクロモジ,ミツバアケビ,ゼンマイ,ミゾシダ,
エビネ(4集団),ヤブムラサキ,シシガシラ。林縁:シコ
クアザミ,リュウノウギク,アシボソ,フシグロ,ヒオウギ,
ネコハギ。ヤマアマドコロ(Alt.850mの峠付近)
。
f 吉野川・川田川・岩尾谷川の植物
本町が吉野川に接している区域は西端の穴吹町と
の境から東端の川島町との境界までおよそ7.8kmに
及んでいる。この区間には河畔岩場,低水敷,高水
とおりである。
JR徳島本線トンネル口(西側の線路脇擁壁):ザラツキ
ギボウシ(約50株)。
吉野川河畔岩場:アカメヤナギ,ネコヤナギ,タチヤナギ,
ザラツキギボウシ(約60株),ホソバノイブキシモツケ,イ
ワカンスゲ,ノイバラ,アキニレ,キハギ,イタチハギ,タ
カサゴユリ,コオニユリ,アオカモジグサ,ノキシノブ,ナ
ワシログミ,テイカカズラ,ヤブカンゾウ,メドハギ,ヒメ
ジョオン,アキグミ,イワヒバ,コバノヒノキシダ,チョウ
センガリヤス,クワ,フジ,ススキ,メリケンガヤツリ,カ
モジグサ,ネズミムギ,イタドリ,キシュウスズメノヒエ,
アメリカセンダングサ,ホシダ,ビワ,スギナ,クサヨシ,
ケアリタソウ,ウツギ,ヨシノヤナギ,テリミノイヌホオズ
キ,ナガバギシギシ,ノチドメ,ヒメヒオウギズイセン,ヤ
マカモジグサ,イヌドクサ,シマスズメノヒエ,エゾノギシ
ギシ,シナダレスズメガヤ,ユキノシタ,アオツヅラフジ,
カタバミ,ヤマノイモ,コモチマンネングサ,ナンバンカラ
ムシ,テリハヤブソテツ,ネザサ,センニンソウ,ヌルデ,
敷,河畔林,水害防備竹林,川原など多様な自然環
セッツイボタ,カワラマツバ,シュロ,アラカシ,センダン,
境が出現し,その環境に応じて様々な植物が生育し
キヅタ,クズ,ヤブツバキ,トネリコ(3株),ニラ。
ていた。特徴的な場所をあげると次のとおりである。
①JR徳島本線トンネル口・吉野川河畔岩場「調
査地⁄4」
*ザラツキギボウシ(スダレギボウシ)が生育す
る河畔の岩場
本町内を流れる吉野川の最も上流部にあたる吉野
②舟戸∼バンブーパーク(大塚)までの吉野川河
畔「調査地⁄5」
*昔の姿をとどめる水害防備竹林や外来植物が繁
茂する堤防
水害防備竹林は吉野川河畔に広く残っていて,竹
の種類は主としてマダケであるが,所によってはモ
31
03_阿波学会_025_036_植物相4 12.7.12 4:55 PM ページ32
吉野川市山川町の植物/植物相班
ウソウチク,ホテイチク,ハチク,メダケなどの群
落がある。本町の川田から瀬詰大橋下流域にかけて
も広範囲に竹林が残っている。国土交通省は平成8
年から子供たちの水辺での遊びや自然体験を支援す
るために「水辺の楽校プロジェクト」を進め,本町
でも地域の要望に基づいて川田字大塚付近の竹林を
活用して遊歩道や運動場などの基盤整備を行った。
工事は平成10年から開始し,平成14年2月に完成し
た。それ以降,吉野川市がバンブーパークとして管
理・運営している施設である。
バンブーパークのある大塚付近から上流の吉野川
図4 オオミクリ
河畔は河岸に沿って車道が整備されている。その堤
防沿いの高水敷にはアカメヤナギが優占し,オオタ
チヤナギ,ヨシノヤナギ,エノキ,オニグルミなど
ジョウソウ,コミヤマミズ,ヤブランなどの群落が
から構成される河畔林が成立している。さらに河畔
わずかに目立つ程度であった。竹林を抜けて川田川
林が途切れる付近から上流部の舟戸までは目立った
に出ると,そこは氾濫源の草地で,細い水路が蛇行
樹木は少なく,堤防付近にはセイバンモロコシの群
して流れ,その流路に沿って,局所的に狭い湿地が
落が最も旺盛で,ナンバンカラムシ,オオオナモミ
出現し,希少植物のウスゲチョウジタデ,ミズマツ
などの外来種が繁茂する草地が続く。高水敷にはカ
バなどが生育していた。さらに岩尾谷川排水機場付
ナムグラ,ノイバラ,クズなどが繁茂し,多くの外
近から岩尾谷川に入ると水路の幅がやや広くなり,
来種が生育する草地となり,場所によってはアカメ
上流に沿ってツルヨシ,ミゾソバ,ヤナギタデなど
ヤナギ,オオタチヤナギ,アキニレ,ヨシノヤナギ
の群落がモザイク状に生育し,それらに混じってオ
などの高木やメダケの群落が見られる。低水敷には
オミクリ(図4)の群落が高頻度で出現し,周辺の
カワラヨモギ,タチヤナギ,ネコヤナギ,シナダレ
水路を含めると個体数は500株以上が確認できた。
スズメガヤなどが生育し,植生のほとんど見られな
本種は県内では小松島市,板野町などに生育してい
い川原から水辺に移行する。
るが,生育地は限られている貴重な植物で,これま
③瀬詰大橋∼岩尾谷川排水機場「調査地⁄6」
で西日本最大といわれていた小松島の神田瀬川の群
*県下最大規模のオオミクリ群落
落が衰退したので,それに代わって当地域が最大の
瀬詰大橋の袂から河川敷を通って水害防備竹林を
群落となる。岩尾谷川は在来の水生植物が多く生育
調査し,川田川河畔から岩尾谷川排水機場付近を経
て岩尾谷川を踏査した。
吉野川堤防から高水敷付近はセイタカアワダチソ
ウ,ノイバラ,クズ,セイバンモロコシ,カナムグ
ラなどが繁茂していた。それらの群落に混じって希
している自然生態系の豊かな川である。
④山川町瀬詰大橋下流「調査地⁄7」
*竹林の林床に生育している希少植物のアキザキ
ヤツシロランやエビネ
瀬詰大橋下流の吉野川河畔の堤防沿いにも広範囲
少植物のオオカラスウリの雄株の生育を確認した。
に竹林が残っている。マダケの林内はやや疎林であ
川岸に近づくにつれてマダケやメダケが生育する竹
る上に,夏の相次ぐ台風による洪水で,林床の植物
林となり,場所によってはエノキ,ヨシノヤナギ,
は流失したり,粘土質の土砂が2∼3cmも堆積し
オオタチヤナギなどの高木が混在している。竹林の
ていて,植物は少なく,ジャノヒゲ,イヌビワ,マ
多くは管理されずに放置状態になっていて林内は腐
ンリョウなどが見られる程度であった。しかし,一
朽した竹が折り重なって倒れていた。また,竹林内
部ではエビネ,ニッケイなどの希少種も確認できた。
は光量不足のために植生は貧弱な場所が多く,キチ
また,堤防際の区域は洪水の影響が少ないため,林
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03_阿波学会_025_036_植物相4 12.7.12 4:55 PM ページ33
阿波学会紀要 第58号(pp.25-36)
2012.7
床の植生は損傷が見られず,無葉緑の菌根ランであ
ばれる植物が多く生育していたが,除草剤の普及や
るアキザキヤツシロランが多数確認できた。竹林を
圃場整備などによってこれらの植物は減少した。時
通って高水敷に移動するとアカメヤナギ,ヨシノヤ
に,耕作に適さない湿田などに昔に見られた水田雑
ナギなどの高木が見られ,さらに低水敷に近づくに
草が多く残っている場合があるが,本町では該当場
つれて,低木のタチヤナギ,ネコヤナギ,ツルヨシ,
所は見つからず,市街地に近い休耕田の植物を調べ
ヤナギタデなどの群落に移行し,やがて植生の疎ら
た。その結果,ミズワラビ,ホタルイなどの在来種
な川原(阿波市側)に到達した。高水敷の別の場所
も生育していたが,ホソバヒメミソハギ,アメリカ
ではノイバラ,カナムグラなどが繁茂する場所が多
ミズキンバイ,シマツユクサなどの外来種が高頻度
く見られた他,メダケの群落も出現した。また,氾
で出現した。
濫原ではシナダレスズメガヤが優占していたが,増
水時に流路となって長時間水没していた場所では群
⑦榎谷の奥野井谷川沿いの植物(榎谷のアメゴ養
殖場付近Alt.290m)「調査地¤0」
落全体が枯死していて,本種が水没には耐性の弱い
*希少種のミヤコミズやシダ植物が生育する林縁
植物であることが分かった。さらに下流域の阿波市
かつて朝霧荘のあった場所にはアメゴ養殖場があ
との境界付近では外来植物のコゴメイを確認した。
る。奥野井谷川沿いは空中湿度が高く,土壌も湿潤
⑤蛍川の植物「調査地⁄8」
な環境であるため多くのシダ植物が見られた。また,
*投入されたアサザや外来種が増加
四国では本県にしか確認されていない希少植物のミ
川田川の派川である蛍川は,町東部の山麓から北
ヤコミズの生育を確認した。
流し,湯立付近で国道192号線に沿うように東に流
⑧榎谷の奥野井谷川河畔周辺「調査地¤1」
れ,鴨島町に流入している。上流部はコンクリート
*イヌアワが群生する河岸
3面張りで水流も速いが,中流部付近では川幅が広
県道248号線の奥野井阿波山川停車場線を奥野井
くなり,流れも緩やかになって流路は河床の低部を
谷川に沿ってしばらく行くと,路面と川床とが接近
蛇行して流れている。流路に沿った低水敷にはカナ
し,川幅がやや広くなった川原に,外来種のエゾノ
ムグラ,ミゾソバ,セイバンモロコシなどの群落が
ギシギシやオランダガラシなどが繁茂していた。ま
多く,流水中にはナガレミズヒキモ(正式には未記
た,同所の道路沿いの山麓は河岸段丘の小規模な草
載種:角野1990)の群落が広範囲に見られた。湯立
原で,オオヒメワラビや希少種のイヌアワなどが多
から上流部に行くにつれて,川岸に近い浅水域にア
く生育していた。
サザの群落が次々と出現し,一部の群落には開花個
体が確認できた。アサザは全国的に希少な水草とし
⑨忌部山古墳,歓喜天とその周辺(山川町字忌部
山)「調査地¤2」
て注目された植物であるが,当地域では過去に生育
*コナラ・ノグルミが生育する二次林
記録がないので本来の自生とは考えられず,聞き取
忌部山古墳群のある地域は,コナラが優占し,ノ
り調査を行った。その結果,高越山中腹の中の郷の
グルミが多く生育する二次林である。また山麓の神
万代池とともに,阿波市土成町のものを投入したこ
社には小さな溜め池もあり,エビモなどの水生植物
とが明らかになった。その他,人間生活や本来の自
が生育していた。
然生態系に悪影響を及ぼす侵略的外来生物として環
g 巨樹・巨木が残る社寺林
境省が特定外来生物に指定しているオオフサモや要
本町は古くから各地域ごとに集落ができて発展し
注意外来生物に位置づけられているコカナダモ,オ
てきた歴史の古い地域であるためか,神社の数が多
ランダガラシなども多く生育していた。
いことも特徴である。通常,神社には社殿の後背に
⑥沖積平野や台地の植物「調査地⁄9」
神社林があり,鎮守の森として保護されてきたため
*外来種が多い水田
に,地域の潜在自然植生を知る上で貴重な樹林とな
吉野川及び川田川流域に広がる沖積地は田園が広
っている場合が少なくない。しかし,本町の場合は
い面積を占めている。水田には一般に水田雑草と呼
古くから開発が進んだためか,自然植生の社寺林は
33
03_阿波学会_025_036_植物相4 12.7.12 4:55 PM ページ34
吉野川市山川町の植物/植物相班
極めて少なく,少数の巨樹・巨木や植栽された若木
が社域に見られる場合が多い。今回の調査では,38
ヶ所の社寺等を調査した。その結果,高越山を除く
と,楠根地の白人神社,種穂忌部社,舟戸の藤岡神
社,バクチノキが市指定の天然記念物になっている
金木神社などが比較的自然植生に近い樹林が残され
ていることが分かった。市街地にある神社では人間
の生活が優先されるため,本町随一の立派な巨樹で
あっても枝が切除されていたり,境内に除草剤が散
布されているところが見られた。また,杵築神社の
樹林下には希少種のスズムシバナ(図5)が群生し
図5 スズムシバナ
ていた。その個体数は県内一であり,大切に保護す
べき貴重な群落である。以下,紙面の都合で幹の直
径が約1m以上の樹木や特殊な樹木,希少種の生育
地のみ報告する。
巨樹・巨木の(
瀬詰八幡神社(山川町字八幡191付近):ムクノキ(405,
3 4 8 ), ク ス ノ キ ( 3 8 5 )。 / !7 山 瀬 駅 : ク ロ ガ ネ モ チ
(340)。/!8山崎八幡宮(山川町字宮島89番地):イチョウ
)内の数字は前記同様幹周囲を
表し,単位はcmである。付記のない場合は地上
(♂643)。/!9 諏 訪神社:クスノキ(595)。/@0 忌 部神社
(山川町字忌部山):ムクノキ(348,303,327)境内は除草
剤 で 草 本 類 は な し 。 / @1 岩 戸 神 社 : ク ス ノ キ ( 5 3 8 ,
こんしょう じ
1.3mの位置での計測値である。樹幹が途中で2幹
405)。/@2金 勝 寺: クスノキ(595)。/@3荒神さん(山川
以上に分岐している場合は分岐した個々の計測値を
町石堂):ムクノキ(420)。/@4 熊 野神社(山川町字旗見
加算して表している。
q中ノ郷のアカガシの巨樹
中ノ郷の万代池から旧山道に沿って約30m南に登った西斜
面にアカガシの巨樹が生育している。近くの観光案内板には
マテバジイと誤って標示されている。計測結果は次のとおり
103番地)(旗見集会所):スギ(344)。/@5野郷神社(山川
ひ
え
町東麦原208):ムクノキ(335)。/@6日吉神社(日吉会館)
(山川町湯立329番地):ケヤキ(311)。/@7忌部神社(天村
雲神社)(山川町村雲122番地付近):クスノキ(395)。/@8
川田中小学校:クスノキ(317,(406+311)
)
。
3)希少植物
であった。
幹周囲(地上130cm位置)5m36cm。根回り10m50cm。
樹高13m。枝張り:東西方向に18m,南北方向に20m。推定
樹齢:600年(全国のアカガシの巨樹の太さを参考に推定)
県内のアカガシで最大のものは井川町岩坂山神社の7.76m,
本地域の植物については古くから調査が進んでい
て,多くの調査報告がある。希少植物については
「山川町で見られる絶滅危惧植物」(真鍋佳資監修出
6.76m(昭和58年8月30日)の2樹があることから,本樹は
版年不明)という冊子があり,写真57種と写真のな
県内第3位の太さと考えられる。
いもの10種(変種・品種を含む)が掲載されている。
w白人神社(楠根地294番地):ムクノキ(517,338,327,
338)/e金木神社:(川田舟戸):バクチノキ(吉野川市
天然記念物:147,112,105,56:地上1m)他6本,幼植
き づき
この中にはシコクカッコソウ,アワコバイモ,イワ
ギリソウなどの高越山の代表的な重要種が多く掲載
物多数。/r杵築神社(山川町字川田118番地):スズムシ
されている。それ以前の高越山の植物に関する文献
バナ(約50株:幅4m×10m)。/t藤岡神社:高木層:ム
では,「高越山の自然」(日本生物教育学会徳島県支
クノキ(385,335)。/y楠木神社(山川町川田403):クス
部1978)があり,多くの重要種が報告されている。
ノキ(12m80cm:南側を切除してあるため腐朽が進行。/
u西福寺:モミ(347:地上1m位置)。/i八坂神社∼水
また,高越山の植物目録も掲載され,1001種(変
田 : 境 内 : ク ス ノ キ ( 5 0 9 )。 / o 西 原 の 榎 : エ ノ キ
種・品種を含む)もの植物が記録されている。後に
(429)。/!0井田の大楠:樹齢700年クスノキ(770)。/!1天
出版された「改訂山川町史(改訂山川町史刊行会
日神社:ムクノキ(498),クスノキ(354)。/!2 野 郷神社
1987)」の高越山の植物目録にはそれが引用されて
(山川町川田大塚:北島東集会所):ムクノキ(465)。/!3
総合運動公園横:クスノキ(325)。/!4中野御前神社:クス
いる。ここでは,今回の調査で実際に生育を確認し
ノキ(400),イチョウ(351)。/!5春日神社(山川町字春日
た希少植物や県内初記録の植物などについて記し
18番地の1):クスノキ(811),エノキ(393,310)。/!6
た。栽培品や本来の自生でないものは除いた。
34
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2012.7
阿波学会紀要 第58号(pp.25-36)
a 特記すべき植物
ないが,ヒメナツトウダイの類似種が高越山の山麓
オオユリワサビ Eutrema okinosimense「徳島
や船窪周辺に生育していた。日本におけるこの分類
県植物誌に記録なし」:青森,福井,長野,福島,
群については,現在,解析が進行中のようであり
秋田,岩手などの内陸部と北陸から山陰,九州の日
本海側に分布。四国では徳島県のみに分布(木下他
2011)。本町の奥野井でも生育を確認。自然遷移に
より激減。
(高知県牧野財団2009),その成果を待ちたい。
s 「徳島県版レッドデータブック(2001)」掲載
種
絶滅危惧Ⅰ類:絶滅の危機に瀕している種
ヤマアマドコロ Polygonatum odoratum var.
ミヤコミズ,ヤマブキソウ,コガネネコノメソウ,コフウ
thunbergii「徳島県新産」:アマドコロに似ている
ロ,オオカラスウリ,ツリフネソウ,ミズマツバ,シコクカ
が葉裏に乳頭状突起を密布。四国での報告はない。
本町の西野峰で初確認。
コダイコンソウ Geum japonicum var. iyoanum
「徳島県新産」:ダイコンソウよりも小型で花の数
が少なく根生葉の小葉が深裂するもので,県内では
報告されていなかった。山城町に生育しているが,
本町の船窪でも確認した。
シロバナタカクマヒキオコシ Isodon shikoki-
ッコソウ,スズムシバナ,イワギリソウ,ウスバヒョウタン
ボク,クシバタンポポ,セトウチホトトギス,アワコバイモ,
イヌアワ,コガマ,オオナキリスゲ,アキザキヤツシロラン,
フウラン,オオヤマサギソウ,キバナノショウキラン,オオ
ヤマカタバミ,ヤマハコベ,ハナタツナミソウ。
絶滅危惧Ⅱ類:絶滅の危機が増大している種
クロフネサイシン,ミヤコアオイ,シコクスミレ,タコノ
アシ,ホソバノイブキシモツケ,ケオオクマヤナギ,オオキ
ヌタソウ,サワルリソウ,キクガラクサ,イズハハコ,クロ
モ,ヒメニラ,オオミクリ,カタクリ,エビネ ,キンラン。
anus var. intermedius f. albiflora(仮称)「徳島県
準絶滅危惧:生息条件の変化によっては「絶滅危惧」
新産」:タカクマヒキオコシのシロバナ品で,高知
に移行する要素がある種
県にも知られる(高知県牧野財団2009)。本県では
初記録。正式名の記載はないと思われるので,上記
仮称で報告。船窪への途中に生育。
シコクナベワリ Croomia sp.(仮称)「日本新産
ヤマシャクヤク,ヒカゲツツジ,アオヤギバナ,ユキモチ
ソウ,ミズワラビ,カワヂシャ。
情報不足:評価するだけの情報が不足している種。
ウスゲチョウジタデ,テリハキンバイ。
過去に高越山に生育記録があるクチナシグサ,ミヤマツチ
未発表」:ナベワリより草丈が大きく,花弁の4枚
トリモチ,ツチアケビなどの他,今回の調査では確認できな
が同形となるもの。四国では高知県,愛媛県,香川
かった希少種も少なくない。また,蛍川にデンジソウが現存
県にも知られる。県内では三好市,つるぎ町,神山
町などの高山に生育。本町の高越山でも類似種を確
認。花期に再確認が必要。
トネリコ Fraxinus griffithii「徳島県新産」:
吉野川河畔の岩場に生育。半田町で初確認したが,
本町でも確認。四国には分布記録がなく,花期に再
検討が必要。
ハナタツナミソウ Scutellaria iyoensis:高越山
と船窪で生育を確認した。葉の形,花冠の大きさ,
形などから本種としたが,通常のものに比べて,草
丈が小さく,葉の表面には腺点がなく,花冠には開
出する腺毛が多いなどの違いが見られ,それらが変
異の範囲内なのか検討中。一応,本種として報告す
る。
しているとの情報を得たが確認には至らなかった。
4)帰化植物
日本における帰化植物は毎年増加の一途を辿り,
最近出版された日本帰化植物写真図鑑(清水他2010)
によれば,これまでに約1100種が報告されている。
本町でも吉野川河川敷,市街地周辺,養鶏場の周辺
などでは多くの外来植物が生育していた。本町の帰
化植物は「改訂山川町史(改訂山川町史刊行会1987)」
に43種が記録されている。今回の調査では帰化植物
に注目して調べた訳ではないが,県内初記録のムラ
サキアオゲイトウ,県内2例目のコゴメイなどを確
認した。「改訂山川町史」の既報告種を除いて,調
査中に確認したものを記すと次のものがある。
ムラサキアオゲイトウ(県内初記録)(ひゆ科),コゴメイ
(県下,阿南市に続いて2例目)(いぐさ科),ホソバツルノ
ヒメナツトウダイ類似種 Euphorbia sp.
ゲイトウ(ひゆ科),ホナガイヌビユ(ひゆ科),ホソアオゲ
徳島県植物誌(阿部1990)には高越山には記録が
イトウ(ひゆ科),ナガバギシギシ(たで科),エゾノギシギ
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吉野川市山川町の植物/植物相班
シ(たで科),アレチギシギシ(たで科)マルバアメリカア
録の再確認に終わる可能性が大きいと考えられた
サガオ(ひるがお科),アメリカアサガオ(ひるがお科),マ
が,調査を行ってみると,これまで記録されていな
メアサガオ(ひるがお科),ホシアサガオ(ひるがお科),ア
レチウリ(うり科),ヘラオオバコ(おおばこ科),ツボミオ
かった新知見を含め,多くの成果を得ることができ
オバコ(おおばこ科),ノヂシャ(おみなえし科),オオイヌ
た。河川については,最も期待した蛍川の周辺は開
ホオズキ(なす科),タマサンゴ(なす科),テリミノイヌホ
発されて,過去に記録された希少種が確認されず,
オズキ(なす科),ムラサキツメクサ(まめ科),イタチハギ
(まめ科),タマスダレ(ひがんばな科),サフランモドキ
多くの外来種が侵入し,繁茂していたのは残念であ
(ひがんばな科),オシロイバナ(おしろいばな科),アメリ
った。しかし,岩尾谷川は河川の自然環境は良好に
カミズキンバイ(あかばな科),メマツヨイグサ(あかばな
維持されていることが分かった。船窪のオンツツジ
科),ナンバンカラムシ(いらくさ科),フサフジウツギ(ふ
群落は国指定天然記念物として保護されてきたた
じうつぎ科),ヒメヒオウギズイセン(あやめ科),キショウ
ブ(あやめ科),オオニシキソウ(とうだいぐさ科),ナガエ
め,自然生態系が良好に維持され,多様な植物とと
コミカンソウ(とうだいぐさ科),ニワウルシ(にがき科),
もに,多くの希少種が存続していた。高越山につい
アレチハナガサ(くまつづら科),ヤナギハナガサ(くまつ
ては一部の希少種は消滅状態であるものの,山頂部
づら科),アメリカアゼナ(ごまのはぐさ科),タケトアゼナ
(ごまのはぐさ科),ビロードモウズイカ(ごまのはぐさ科),
やその周辺の樹林は自然植生がよく保たれていて,
オッタチカタバミ(かたばみ科),オオフタバムグラ(あか
多くの希少植物が生育し,豊かな自然環境が維持さ
ね科),トキワツユクサ(つゆくさ科),オオカナダモ(とち
れている地域であることが確認できた。船窪や高越
かがみ科),カラシナ(あぶらな科),ミチタネツケバナ(あ
山山麓の一部ではニホンジカの食害が見られたが,
ぶらな科),オランダガラシ(あぶらな科),セイヨウタンポ
ポ(きく科),ヒロハホウキギク(きく科),ヘラバヒメジョ
県西部や南部の剣山山系に比べればまだ軽微な状態
オン(きく科),ハキダメギク(きく科),アメリカタカサブ
であった。被害が拡大する前に十分な対策を講じる
ロウ(きく科),クルマバザクロソウ(さくらそう科),メキ
ことを望みたい。
シコマンネングサ(べんけいそう科),オランダミミナグサ
(なでしこ科),ヨウシュヤマゴボウ(やまごぼう科),キン
末筆ながら今回の調査で疑問種の同定等でお世話
ゴジカ(あおい科),ボタンクサギ(くまつづら科),ホソバ
になった元京都大学の村田源氏,京都大学総合博物
ヒメミソハギ(みそはぎ科)
,マルバツユクサ(つゆくさ科),
館の永益英敏氏,人間環境大学の藤井伸二氏の諸氏,
ノハカタカラクサ(つゆくさ科),シマツユクサ(つゆくさ
並びに貴重な情報をいただいた地元の真鍋佳資氏に
科),ムラサキゴテン(つゆくさ科),キシュウスズメノヒエ
(いね科),タチスズメノヒエ(いね科),アメリカスズメノ
感謝し,厚くお礼を申し上げます。
ヒエ(いね科),オオクサキビ(いね科),シナダレスズメガ
ヤ(いね科),メリケンカルカヤ(いね科),ヒメモロコシ
(いね科),セイバンモロコシ(いね科),オオスズメノカタ
ビラ(いね科),メリケンガヤツリ(かやつりぐさ科)。計71
種
文献
阿部近一(1990):徳島県植物誌 教育出版センター.
岩崎正夫(1990):徳島県地学図鑑 徳島新聞社.
木下 覺他(2011):つるぎ町一宇の植物(33−48頁)阿波学
会紀要第57号つるぎ町一宇総合学術調査報告 阿波学会.
5.おわりに
本町の植物相については,古くから高越山を中心
に多くの研究者によって調査が行われ,他地域に比
較してより解明されてきた地域である。したがって,
調査を開始した当初は,限られた期間では過去の記
徳島県版レッドデータブック掲載種検討委員会偏(2001):徳
島県の絶滅のおそれのある野生生物―徳島県版レッドデータ
ブック―.徳島県.
徳島地方気象台・日本気象協会(1991):徳島の気象100年 徳
島出版株式会社.
山川町史編集委員会(1987):改訂山川町史 徳島出版株式会
社.
Plants of Yamakawa Cho in Yoshinogawa City.
KINOSHITA Satoru, KATAYAMA Yasuo, TANIGAWA Mitsuaki, OGAWA Makoto, IBARAGI Yasushi, MATSUE Etsuko, KOMATSU
Ken−ichi, NARITA Aiji, UEGITA Chizuko,
Proceedings of Awagakkai, No. 58(2012), pp.25−36.
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