麻酔・集中治療とテクノロジー 2009 –81– フリーウェア「Cassava Editor」を用いた薬剤投与量計算表 築地 崇，末田 彩∗ はじめに 我々麻酔科医は麻酔時に様々な薬剤を使用す る．特に心臓手術や重症な心疾患を合併した患 者の麻酔においてはカテコラミンなどの循環作 動薬をはじめ数多くの薬剤を (持続) 投与するこ とが多い．これらの薬剤は投与量の誤り (多くは 過量投与) により重篤な後遺症を来す可能性が高 いため，投与量の間違いは許されない．しかし 各薬剤の濃度は様々であり，体重当たりの投与 量の計算は時に複雑で，特に多忙時には投与量 の間違いをきたす可能性をはらんでいる．また 現在の医療体制では十分な休息が取れないまま 夜間の緊急手術や当直明けで麻酔を行わざるを 得ない状況があり，睡眠不足の状態では計算力 の低下が懸念される．投与ミス (計算ミスや濃度 や希釈の仕方の記憶違い) を防止することは重要 な課題である． 今回「Cassava Editor」というフリーウェアを 用いた薬剤投与量計算表を作成したところ，非 常に簡便で投与量間違えの防止に有用であった ので報告する． とができないことがしばしばあり，不便に感じ ていた． 一方，当院では自動麻酔記録システム (日本光 電社製 CAN システム) を使用しており，各手術 室にパソコンが設置してある．このパソコンを 利用することはできないかと考えた． 手始めに体重 50kg の患者を想定した表をテキ ストファイルを作成しそれを閲覧する方法をとっ てみたが，体重に応じた計算は出来ず，また表 として見づらく，実用的ではなかった． 次に Microsoft EXCEL 利用することを考えた が，我々には CAN 端末パソコンの Windows2000 の管理者権限がないため，自由にインストール することはできない．6 部屋ある手術室のパソ コンそれぞれに EXCEL をインストールするこ とはコスト面からも現実的ではなかった．Open Office などのフリーで公開されている表計算ソフ トの導入も考慮したが，やはり管理者権限がな く自由にインストールできないことに加え，コ ンピュータの安定動作の面からもレジストリに 変更を加えるような大きなプログラムをインス トールすることは避けたいところであった． 作成の経緯 従来当院では麻酔医室にあるコンピュータか らファイルメーカー Pro で患者の体重に応じた 薬剤投与量の一覧表を作成・印刷し，各手術室 何かよいアイディアはないかと思案していた ところ，Cassava Editor というフリーウェアを 見つけ，これを利用してみることにした． Cassava Editor とは に持ち込んで利用していた．しかし麻酔医室で しか作業できないため，緊急手術時には手術室 Cassava Editor は あすかぜ氏による CSV での麻酔準備に忙殺されて一覧表を作成するこ (Comma Separated Value) ファイルの作成・編 神戸赤十字病院麻酔科 ∗ 神戸赤十字病院初期研修医 (現：関西労災病院麻酔科) –82– フリーウェア「Cassava Editor」を用いた薬剤投与量計算表 図 1 「循環作動薬計算.csv」を開いた直後の画面 集を目的に作られたソフトであり，テキストエ ためシステムが不安定になる可能性も低い． ディタと同じ感覚で表形式のデータを編集でき る．式を記入しておけば計算も行え，マクロを 薬剤投与量計算表の作成 使って簡単な計算や定型動作を実行することが できるなど，単なる csv ファイルの編集ソフト Cassava Editor を起動し，図 1 のようにデー にとどまらない．フリーウェアとして公開され タを入力した．患者の体重を入力し，ツールバー ており，商用・非商用を問わず無料で利用する にある「セル内計算式を処理」ボタンをクリック ことを作者は許可している．インストール権限 する (図 1) と，計算式を入力しているセルの背景 がないパソコンでもプログラムのコピーができ が水色となり，計算結果が表示される (図 2)．薬 れば使用できた．フリーウェアであるため不都 剤の投与量を計算したい時には薬剤名の隣のセ 合が生じてもソフトウェアの作者に対して一切 ルの数値を変更し (γ [=µg/kg/min] などの単位 責任は問えないが，現在のところ重大な不具合 で入力)，ツールバーの「表示の更新」をクリッ は報告されておらず，レジストリを変更しない クすると，すぐにポンプでの設定速度 (ml/h) に 麻酔・集中治療とテクノロジー 2009 –83– 図 2 計算結果表示画面 計算された結果が更新される (図 2)． がかかることによる投与開始の遅延もなくなっ Cassava Editor を csv ファイルに関連付けて た．投与ミスを防ぐばかりでなく，麻酔時の薬 おけば，作成した csv ファイル自身あるいはそ 物投与に伴うストレスがわずかでも軽減される のショートカットをデスクトップなどに置くこ ことが期待できる． とですぐに起動できるようになる．関連付けは Cassava Editor のオプションメニューからもで き，この方法が最も容易である． 実際に使用してみて… 循環作動薬などの薬剤投与量が簡単に計算で き，かつ各手術室のパソコンで即座に参照でき るようになったことで利便性が飛躍的に向上し た．多忙時や疲労時の計算ミスや，計算に時間 比較的新しい薬剤であるレミフェンタニルや ロクロニウムについても一覧表を作成した．そ れらの薬剤はフェンタニルやベクロニウムと薬 剤の濃度や使用方法が異なっており，特に当院 での採用直後は投与量で戸惑うことが多かった が，一覧表を参照することにより投与量過誤の 防止に有用であった． 最近では術前に抗凝固薬や抗血小板薬を投与 フリーウェア「Cassava Editor」を用いた薬剤投与量計算表 –84– されている患者が増え，当院でも術後に iv-PCA や薬剤投与量計算に伴うストレス軽減に効果が を使用する患者が増えた．当院の電動式の PCA あると考えられた． ポンプは台数が少ないため，ディスポーザブル 謝 辞 ポンプを用いて PCA を施行する症例が増えて いる．ディスポーザブルポンプは持続投与量や このような簡便で有用なソフトをフリーウェ PCA の 1 回量が決まっているため，患者の体重 アとして提供され，今回の発表について快諾し や年齢，手術侵襲などに応じて麻薬濃度の調整 ていただいた Cassava Editor 作者のあすかぜ氏 が必要である．この計算が意外に面倒であるが， に感謝する． 現在では Cassava Editor を使用し，簡便に計算 Cassava Editor のホームページ http://www.asukaze.net/soft/cassava/ できるようにしている． Cassava Editor を当院では 2 年近く CAN シ ステムと同時に使用しているが，Cassava Editor 自体の動作は非常に安定しており使用上の問題 ABSTRACT Drug dose calculators made with a freeware “ Cassava Editor ” Takashi Tsukiji and Aya Sueda は起きていない． 結 語 CSV ファイル編集ソフトである Cassava Editor を用いて薬剤投与量計算表を作成した．手術 室内で簡便に薬剤投与量が確認できるようにな り，計算ミスによる薬剤投与インシデント抑制 We use many kinds of drugs in anesthesia, but busyness or fatigue put us at risk making mistakes of drug dose. We made drug dose calculators with a freeware “ Cassava Editor ”. They are very easy to use, and effective in drug dosage incident restraints by miscalculation. Department of Anesthesiology, Kobe Red Cross Hospital Kobe, Hyogo 651-0073, Japan
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