平成16年度卒業論文 「Web サービスを用いた小売業・製造業間データ共有システムの構築」 学籍番号 200101020 所属 筑波大学第三学群社会工学類 主専攻 経営工学専攻 氏名 土井 隆寛 指導教員 佐藤 亮 1 目的 本研究では小売業者と製造業者間での「データ共有」の部分に、ビジネスの連携を実現 する技術として注目を集めている Web サービスを適用させることによって、余分なデータ ベースを持たず、データの受け渡しを動的に行うシステムを設計・構築すること、そして システム構築を通して Web サービスの定義や利点を理解することを目的として行った。 2 特色 本研究では UML を用いて分析・設計を行い、.NET プラットフォーム上で商品データ取 得サービス、発注サービス、売上データ閲覧サービスを提案し、小売業・製造業間でのデ ータ共有を実現した。 3 結論 本研究では、従来の問題を解決すべく Web サービスを用いたシステムの構築を行い、デ ータ共有を人の手を介さずに行えることを可能とした。また、実際にシステム構築を行う ことによって Web サービスについての理解を深めることができた。 すでに、金融や e ラーニングなどの分野で実際のビジネスの世界で用いられており、Web サービスはもはや目新しい技術とは言えない。しかし今後、セキュリティなどの問題を踏 まえつつ、様々な分野に応用していくことで、新たなビジネスやサービスを生み出すこと ができるのではないかと考える。 平成 16 年度 卒業論文 Web サービスを用いた小売業・製造業間データ共有システムの構築 筑波大学 第三学群 社会工学類 経営工学専攻 学籍番号 200101020 土井 隆寛 指導教官名 佐藤 2004/01/26 1 亮 目次 第1章 研究目的 ................................................................................................. 4 第2章 Web サービス .......................................................................................... 5 2.1 Web サービスとは サービスとは ................................................................................................ 5 2.2 Web アプリケーションと アプリケーションと Web サービス ................................................................... 6 2.3 技術仕様 ............................................................................................................ 7 2.4 Web サービスの サービスの利点 ........................................................................................... 9 2.5 ビジネスにおける ビジネスにおける Web サービスの サービスの適用 ............................................................... 10 第3章 小売業と 小売業と製造業の 製造業の連携に 連携に関する現状 する現状の 現状の分析と 分析と問題の 問題の定義 ....................... 11 3.1 小売業と 小売業と製造業の 製造業の連携に 連携に関する現状 する現状 .................................................................. 11 3.1.1 小売業者が 小売業者が製造業者に 製造業者に注文を 注文を行うまでの流 うまでの流れ ............................................... 12 3.1.2 製造業者が 製造業者が小売業者の 小売業者の売上データ 売上データを データを閲覧するまでの 閲覧するまでの流 するまでの流れ ............................. 13 3.2 問題の 問題の定義 ....................................................................................................... 13 3.3 システムの 14 システムの提案.................................................................................................. 提案 第4章 UML を用いたデータ 17 いたデータ共有 データ共有システム 共有システムの システムの分析と 分析と設計..................................... 設計 4.1 UML とは ......................................................................................................... 17 4.2 要求分析 .......................................................................................................... 18 4.2.1 ユースケース分析 18 ユースケース分析........................................................................................ 分析 4.3 .3 仕様分析 .......................................................................................................... 24 4.3.1 シナリオ分析 シナリオ分析 ............................................................................................... 24 4.3.2 オブジェクト分析 28 オブジェクト分析.......................................................................................... 分析 第5章 データ共有 データ共有システム 共有システムの システムの実装 ..................................................................... 30 5.1 開発環境 .......................................................................................................... 30 5.2 ASP.NET によるシステム 32 によるシステムの システムの実装......................................................................... 実装 5.3 Web サービス実装 35 サービス実装............................................................................................. 実装 5.4 クライアントアプリケーションの クライアントアプリケーションの実装 ...................................................................... 40 5.5 実装結果 .......................................................................................................... 43 5.5.1 顧客登録 .................................................................................................... 43 5.5.2 商品データ 44 商品データ取得 データ取得、 取得、注文................................................................................. 注文 5.5.3 売上商品データ 売上商品データ閲覧 データ閲覧 ................................................................................... 46 2 第6章 結論 ...................................................................................................... 48 参考文献........................................................................................................... 49 参考文献 謝辞 .................................................................................................................. 51 3 第1章 研究目的 原材料供給業者・製造業者・流通業者・小売業・消費者といった原材料の購買から顧客 が消費するまでの全体の流れを効率化するために、小売と製造業者が売上や在庫などのデ ータを共有し、それをもとに計画を立て、予測をし、それに基づいて商品の補充を行いサ プライチェーンで溜まってしまうバッファ在庫を失くしていく Collaborative Planning Forcasting and Replenishment(CPFR)という考え方がウォルマートに代表される米国 の小売業界で浸透している[14]。 現在この「データ共有」に関しては主に Electronic Data Interchange(EDI)や Web-EDI が用いられているが、EDI は専用回線を必要とするため導入・維持コストがかかるうえに 特定の企業間でしか繋げることができず、Web-EDI はインターネット経由なので、低コス トで単に電子データを交換することはできるが手作業が介在するため、電子データに基づ いた企業間連携(一連のビジネスプロセス)を自動化・効率化することはできない[11][14]。 本研究ではこの「データ共有」の部分に、ビジネスの連携を実現する技術として注目を 集めている Web サービスを適用させることによって、余分なデータベースを持たず、デー タの受け渡しを動的に行うシステムを設計・構築することを目的とする。そしてシステム 構築を通して Web サービスの定義や利点を理解していく。 4 第2章 Web サービス 本研究の中心となる“Web サービス”は最近雑誌やインターネット上などで耳にするよ うになった。しかし、 “Web サービス”という言葉は認知されつつも、実際に仕組みを理解 したり活用している場面は少ない。この章では“Web サービス”の定義や仕組み、技術仕 様について説明を行う。 2.1 Web サービスとは サービスとは “Web サービス”の定義はインターネット技術の標準化団体 W3C (World Wide Web Consortium) のワーキング・グループ「Web Services Architecture Working Group」によ って以下のように定義されている。 Web service [Definition: A Web service is a software system identified by a URI [RFC 2396], whose public interfaces and bindings are defined and described using XML. Its definition can be discovered by other software systems. These systems may then interact with the Web service in a manner prescribed by its definition, using XML based messages conveyed by Internet protocols [15]. Web サービスとは、URI によって識別されるソフトウェア・システムであり、そのイン ターフェースやバインディングは、XML を用いて定義、記述、公開され他のシステムから 検索可能である。また、XML 書式のメッセージをインターネット・プロトコルを介するこ とによって他のソフトウェア・アプリケーションとの直接的なやりとりをサポートするも のである。 Web サービスとは、SOAP/XML 形式のメッセージ交換によってネットワーク上の自律した アプリケーションを連携させる技術、またはそのアプリケーションのことを指し、企業間・ 組織間のコラボレーションを実現するために Web 上でシステムを連携させる標準技術のひ とつであり、 ・インターネット上で、アプリケーションから利用できるサーバ・プログラム ・インターネット上の遠隔手続き呼出しとデータ交換 とも表現できる[9]。 5 2.2 Web アプリケーションと アプリケーションと Web サービス 従来の Web システムで用いられてきた Web アプリケーションはブラウザを通じてクライ アントがアクセスをし、データのやり取りはクライアントとサーバー間のみで行われると いうもので、その結果も HTML で返されるためその後データの処理・加工を行うことはで きなかった。一方 Web サービスはプログラムからアクセスを行う Web サーバ間の遠隔手続 き(プログラム)であり、処理結果は XML で返されるためデータの処理・加工を行うこと も可能である。 図 2.1 Web アプリケーションの概念図([9]p22 の図を参考に作成) 図 2.2 Web サービスの概念図([9]p24 の図を参考に作成) 6 2.3 技術仕様 (1)XML(eXtensible Markup Language) XML とは文書やデータの意味や構造を記述するためのマークアップ言語の一つである。 マークアップ言語とは<>で囲まれた「タグ」と呼ばれる特定の文字列で地の文に構造を 埋め込んでいく言語であり、HTML もマークアップ言語の一つである。しかし、HTML で はタグの意味は固定であり、決められたものしか使えず<>に囲まれた文字列は表示する だけのものでコンピュータが何のデータであるかを判断することはできない。 対して XML は、システム間で交換するデータを記述するために使用され、ユーザーが独 自のタグを指定することが可能で、データの構造・意味を明確に記述することができる。 また、Web サービスで交換されるデータは XML で記述されるが、XML は単なるテキス トデータなのでプラットフォームに依存することなく交換できる。 (2)SOAP(Simple Object Access Protocol) XML と HTTP などをベースとした、他のコンピュータにあるデータやサービスを呼び出 すためのプロトコルで、 XML 同様プラットフォームに依存しない。SOAP による通信では、 プロトコルヘッダにエンベロープと呼ばれる付帯情報が付いたメッセージ(SOAP メッセ ージ)を、HTTP などのプロトコルで交換する。 SOAP 自身は XML ベースの規格でプロトコルには依存しないので、適切なヘッダを付加 することによって様々なプロトコルでの通信を可能としており、実際の通信内容はエンベ ロープに記述する。 エンベロープはヘッダ部分とボディ部分からなり、ヘッダ部分には電子署名などのセキ ュリティ情報やルーティング(転送経路)情報といった付加情報が入り、ボディ部分には 接続先のアプリケーションに渡すデータ本体が入る。 7 (3)WSDL(Web Services Description Language) WSDL とは Web サービスのインターフェースを記述するための、XML をベースとした 言語仕様である。それぞれ1つの Web サービスに対して1つの WSDL ファイルが存在す る。WSDL では Web サービスの機能や、やりとりするデータの型や並び、利用方法などが 定義され、Web サービス提供者が公開し、利用者は公開された WSDL を参照し、利用プロ グラムを作成して Web サービスを利用する。 (図 1.3) 図 2.3 Web サービスにおける WSDL の利用([9]p40 の図を参考に作成) (4)UDDI(Universal Description, Discovery, and Integration) UDDI とは XML を応用した、インターネット上に存在する Web サービスの検索・照会シ ステムである。企業各社がインターネット上で提供している Web サービスに関する情報を 集積し、業種や名称、機能、対象、詳細な技術仕様などで検索可能にする仕組みを持って いる。 Web サービスを提供する企業は、自社のサービスを「UDDI レジストリ」と呼ばれるリ ストに登録し、サービス利用者は使用したい Web サービスを UDDI で検索し、発見した Web サービスを利用する。(図 1.4) 8 図 2.4 UDDI と Web サービスの関係([9]p42の図を参考に作成) 2.4 Web サービスの サービスの利点 Web サービスの利点として以下のような点が挙げられる[10]。 ・ 異なるプラットフォーム間の連携が可能 ハードウェアや OS、Web サーバ、開発言語を問わず接続可能で特定のベンダーに依存せ ず、標準に準拠し、相互運用性が高い。 ・ データの入力・受け渡しの自動化 システム間で XML 形式のデータを自動的に受け渡しできる。 ・ 複数の情報の一覧表示 各サイトの情報が Web サービスとして提供されていれば、統一されたフォーマットで一 覧表示したり、並び替えて見たりすることができる。 ・ 既存プログラム資産の有効活用、安価な開発・運用コスト 従来の Web アプリケーション開発の技術を活かすことができ、開発・運用コストも抑え ることができる。 ・安価な導入コスト 通信ネットワークとして、既存のインターネット・イントラネットを利用できるので新 たなインフラの導入コストを抑えることができる。 9 ・ ダイナミックなシステム連携が可能 特定の相手だけでなく、必要なときに必要な相手と接続することが可能。 ・ アウトソーシング 相手先のシステムと自社のシステムの連携を Web サービスを用いて行うことにより、自 社のリソースをコアコンピタンスに集中できる。 2.5 ビジネスにおける ビジネスにおける Web サービスの サービスの適用 ビジネスにおける Web サービスの適用は形態によって次のように分類される[11] ・ プロセス統合型 Web サービスを用いて、複数の企業や組織の業務プロセスを統合するシステム連携を実 現する。例えば現在 EDI を用いて取引を応じているが、取引先を限定したくない場合やコ スト的に EDI を導入できない企業との連携があげられる。 ・ 取引仲介・情報集約型 複数の企業や組織の情報を集約して検索サービスなどを提供する各種ポータルサイトや、 バイヤーとサプライヤーのマッチングサイト、複数のサイトにまたがった関連する手続き を一括で行うワンストップ・サービスなどがあげられる。 ・ 機能提供・ビジネスコンポーネント型 汎用的に使える情報や専門的なノウハウが必要な処理を、再利用可能なアプリケーション 部品として提供するもの。例えば、Web サイトの表示内容や Web サービスの処理内容をユ ーザーに合わせてパーソナライズする個人情報サービスがあげられる。 10 第3章 小売業と 小売業と製造業の 製造業の連携に 連携に関する現状 する現状の 現状の分析と 分析と問題の 問題の定義 3.1 小売業と 小売業と製造業の 製造業の連携に 連携に関する現状 する現状 現 在 、 小 売 業 と 製 造 業 の 間 で CPFR ( Collaborative Planning Forecasting and Replenishment)という手法が浸透してきている。CPFR とは小売業と製造業が協力しなが ら計画を立て、予測をし、それに基づいて商品の補充を行おうとする取り組みであり、さ らに商品企画、販促計画などについての連携を強め、未来情報である需要/販売/発注予 測をもオンライン上で共有し、消費者需要に適合した商品補充を製造・物流・販売の各業 者が協働で行おうとする次世代のビジネスプロセスである[14]。 一連の情報の流れは[11]の P&G の例によると ① 個別の店からのオーダと手持在庫及び入荷確定量情報が小売業流通センターに集 められる。 ② 小売業本部に一旦データが送られ、分析・販売促進などが行われる。 ③ P&G本部にそのデータが送られ、個々の工場に生産要請を行う。また、運送業者 に流通センターへの配送を要請する。 ④ 流通センターから各店舗へ商品の配送 というようになっている。 そ し て 、 そ れ ら の 多 く の 小 売 業 者 と 製 造 業 者 間 の 情 報 は EDI ( Electronic Data Interchange)や Web-EDI を用いて交換されている。具体的には小売業者と製造業者双方 が商品や在庫に関するデータベースを管理し、EDI や Web-EDI を用いて同期をとっている。 しかし、EDI は専用回線を必要とし、Web-EDI ではデータ更新を手動で行わなければなら なく、どちらの手段を用いるにしても小売業者、製造業者双方にとって本業と直接的に関 係のない作業を行う必要がある。 11 3.1.1 小売業者が 小売業者が製造業者に 製造業者に注文を 注文を行うまでの流 うまでの流れ [11]の例より、小売業者が製造業者に注文を行うまでの現状の流れを示す。 ① 製造業者が商品データベースの更新を EDI,Web-EDI 等で行う ② 小売業者はそれぞれの商品のデータを閲覧 ③ その中で購入したい商品を扱っている製造業者に注文をする ④ 注文を受け取った製造業者は注文書の内容を納入書に再入力する 図 3.1 小売業者が注文するまでの概念図 12 3.1.2 製造業者が 製造業者が小売業者の 小売業者の売上データ 売上データを データを閲覧するまでの 閲覧するまでの流 するまでの流れ [11]の例より、製造業者が小売業者の売上データを閲覧するまでの現状の流れを示す。 ① 小売業者が売上データベースを EDI、Web-EDI 等で更新する ② 製造業者が各データを閲覧する 図 3.2 製造業者が商品の売上データを閲覧する際の概念図 3.2 問題の 問題の定義 小売業者と製造業者の現状より以下の5つの問題があげられる。 ・ 製造業者の商品データベースを小売業者が持つ必要がある ・ 同様に膨大なすべての売上データベースを製造業者が持つ必要がある ・ データベースの同期をとる際 EDI、Web-EDI 等でデータを送信する必要がある ・ 小売業者の売上データベースは商品が売れるにつれて逐次更新されているのに、データ ベースの更新は EDI、Web-EDI 等手動で行われているので、製造業者が閲覧するデー タは常に最新と言うわけではない ・ 小売業者から注文を受けた際、製造業者は注文データを入力しなおさなければならず手 間がかかる上に入力ミスが発生する 13 3.3 システムの システムの提案 以上の問題を解決するために Web サービスを用いて次の3つのシステムを構築すること を提案する ・ 商品データ取得サービス 製造業者のデータベースと小売業者を Web サービスで繋げることによって、小売業者は 製造業者の商品データベースを持つ必要がなく、必要なときに商品データを取得すること を可能にする。 ・ 発注サービス 小売業者と製造業者を Web サービスで繋げることによって、小売業者が商品データ取得 サービスで閲覧した商品の直接購入を可能とする。また、製造業者がデータを自ら再入力 する必要がなくなる。 ・ 売上データ照会サービス 小売業者のデータベースと製造業者を Web サービスで繋げることによって、製造業者が 常に最新の商品の売上状況を照会することを可能にする。また、小売業者が販売データを 逐次送信する手間を省く。 14 (1)システム導入後の小売業者が製造業者に注文を行うまでの流れ ① 小売業者は商品データサービスを用いて各製造業者の商品データを閲覧 ② 発注サービスを用いてそのまま製造業者に商品を注文する 図 3.3 小売業者から見たシステム導入後の概念図 15 (2)製造業者が小売業者の売上データを閲覧するまでの流れ 製造業者が売上データ照会サービスを用いて各小売業者の売上データを閲覧する 小売業者A 売上データベース 売上データ提供 Webサービス 製造業者 小売業者B 売上データ照会Webサービス 売上データベース 売上データベース 売上データ提供 Webサービス 売上データベース 売上データ提供 Webサービス 図 3.4 製造業者から見たシステム導入後の概念図 16 第4章 UML を用いたデータ いたデータ共有 データ共有システム 共有システムの システムの分析と 分析と設計 本章では、UML を用いてデータ共有システムの分析と設計を行う。また、今回の分析・ 設計では主に[1]、[2]を参考にした。 4.1 UML とは UML とは(Unified Modeling Language)の略称である。UML は乱立していた多くの オブジェクト指向を用いた方法論を統一すべく、ソフトウェア標準化団体 OMG(Object Management Group)によって標準化されたソフトウェアの成果物を仕様化、図式化する ときに使用する言語である。言い換えると、オブジェクト指向で業務を分析、設計、開発 するときに必要な要素とそれらを描画する図の記法を規定したもので、問題を図としてモ デリングする過程を助けるもの、とも言える。 UML ではシステムを様々な側面から多面的に捉えるために8つの図(ダイアグラム)を 用いて複雑なシステムを分析設計していく。 複雑なシステムを分析設計する際、システムを多面的に捉える必要があるため UML では 以下のような図(ダイアグラム)を定義している。 定義内容 視点 ダイアグラム名 要求図 モデル化対象に対する要求を表す ユースケース図 構造図 モデル化対象の静的な構造を表す クラス図 オブジェクト図 パッケージ図(クラス図の一種) 振舞い図 モデル化対象の動的な振舞いを表す シーケンス図(相互作用図) コラボレーション図(相互作用図) アクティビティ図 ステートチャート図 実装図 モデル化対象の物理的な実装を表す コンポーネント図 配置図 表 4.1 UML で定義されている図(ダイアグラム) ([13]の表より作成) 17 4.2 要求分析 要求分析とはシステムへの要求を具体化し、開発するシステムが置かれる外部環境とそ の中での使われ方を明らかにして、システムの境界を確定する作業である。ここでは UML の一つであるユースケースを用いる。 4.2.1 ユースケース分析 ユースケース分析 ユースケース(use case)とはその名の通り開発するシステムの使用実例をしめし、要求の 機能的側面を整理する1つの手段として使われる。ユースケース分析ではシステムを利用 するアクターとシステムが提供するユースケースとの関係という視点で分析する[13]。 (1) ユースケース図 ユースケース図ではシステムが外部に提供する機能を表現する。ここでは動作をユーザ の視点においてシステムの内部のことではなく、システムの使用機能と外部環境との関連 を示す。 ユースケース図はシステム内の機能を表す「ユースケース」とシステムを起動したりユ ースケースを利用する人間や他のシステムなどの実体を表す「アクター」との関係を表し ている。また、システム内部と外部の境界をユースケースを囲む「システム境界」によっ て表している。 (図 3.1) 図 4.1 ユースケース図の表記 18 図 3.2 はデータ共有システムのユースケース図である。ユーザは小売業者と製造業者で、 それぞれ最初に顧客登録を行い、登録をされたものだけがログインでき、登録された小売 業者は商品データ取得・注文を行えるようになり、製造業者は売上データ閲覧を行えるよ うになる。 顧客登録 <<include>> ログイン <<include>> 小売業者 <<include>> 売上データ 閲覧 商品デー タ取得 商品別 データ検索 <<include>> 注文 部門別 データ検索 製造業者 商品別 売上検索 部門別 売上検索 時間別 売上検索 図 4.2 データ共有システムのユースケース図 (2) ユースケース記述 各ユースケースに関して、以下の項目を記述することによって詳細な機能を文章で表す。 ・ ユースケースの名前と ID:簡潔な名前を付ける。管理 ID を明記する。 ・ 概要:機能の概要を簡単な文章で記述する。 ・ 対応するアクター:このユースケースを利用するアクターを列挙する。 ・ 前提条件:このユースケースを起動するときに成立している前提条件を記述する。 ・ 処理:アクターとシステムの間のインタラクションを記述する。 ・ 例外項目:どんな例外が発生するのかや、そのときにどう対処するかを記述する。 ・ 後条件:このユースケースが終了した後に成立している条件を記述する。 19 「ユーザ登録」のユースケース記述 ユースケース名:顧客管理システム::ユーザ登録を行う(RS01) 概要:顧客情報を登録する。 アクター:小売業者、製造業者 前提条件:アクターが登録すべき情報を持っている。 処理: 1.アクターは顧客情報を入力する。 2.アクターは登録ボタンを押す。 3.システムは入力された情報をデータベースへ格納する。 4.システムは登録が完了した旨を表示する。 5.アクターは登録が完了した旨を確認する。 例外項目: 1. 処理3において必須入力項目欄に空白がある、同じデータがすでにデータベースに存在 する、書式が間違っている場合。 1.1 システムが警告メッセージを表示する。 後条件:データベースに登録した情報が記録されている。 「ログイン」のユースケース記述 ユースケース名:ログインシステム::顧客のログイン(RS02) 概要:システムにログインする。 アクター:小売業者、製造業者 前提条件:アクターがシステムに登録されている。 処理: 1.アクターは ID とパスワードを入力する。 2.アクターはログインボタンを押す。 3.システムは入力された情報が正しいものかデータベースに問い合わせる。 4.システムは次の画面を表示する。 例外項目: 1.処理3において必須入力項目欄に空白がある、ID とパスワードが正しくない場合。 1.1 システムが警告メッセージを表示する。 後条件:アクターに応じて次画面が表示される。 20 「商品別売上検索」のユースケース記述 ユースケース名:商品別売上検索サービス::商品別の売上データ取得(S001) 概要:商品別売上データを取得する。 アクター:製造業者 前提条件:売上データ検索画面から商品別売上検索を選んでいる。 処理: 1.アクターは任意の商品を選ぶ。 2.システムはアクターが選んだ商品の売上データを表示する。 後条件:商品の売上データが表示される。 「部門別売上検索」のユースケース記述 ユースケース名:部門別売上検索サービス::部門別の売上データ取得(S002) 概要:部門別売上データを取得する。 アクター:製造業者 前提条件:売上データ検索画面から部門別売上検索を選んでいる。 処理: 1.アクターは任意の部門を選ぶ。 2.システムはアクターが選んだ部門の商品の売上データを表示する。 後条件:商品の売上データが表示される。 「時間別売上検索」のユースケース記述 ユースケース名:時間別売上検索サービス::時間別の売上データ取得(S003) 概要:時間別売上データを取得する。 アクター:製造業者 前提条件:売上データ検索画面から時間別売上検索を選んでいる。 処理: 1.アクターは任意の時間を入力する。 2.システムはアクターが選んだ時間に売れた商品の売上データを表示する。 後条件:商品の売上データが表示される。 21 「商品別データ検索」のユースケース記述 ユースケース名:商品別データ検索サービス::各商品のデータ取得(R001) 概要:各商品のデータを取得する。 アクター:小売業者 前提条件:商品データ検索画面から商品別データ検索を選んでいる。 処理: 1.アクターは任意の商品を選ぶ。 2.システムはアクターが選んだ商品の売上データを表示する。 後条件:商品のデータが表示される。 「部門別データ検索」のユースケース記述 ユースケース名:部門別データ検索サービス::部門別の商品データ取得(R002) 概要:部門別売上データを取得する。 アクター:小売業者 前提条件:商品データ検索画面から部門別データ検索を選んでいる。 処理: 1.アクターは任意の部門を選ぶ。 2.システムはアクターが選んだ部門の商品のデータを表示する。 後条件:商品のデータが表示される。 「商品データ取得」のユースケース記述 ユースケース名:商品データ取得サービス::商品データ取得(R01) 概要:商品データを検索する。 アクター:小売業者 前提条件:アクターがシステ 1.アクターは商品別データ検索、部門別データ検索から検索条件を選ぶ。 2.システムはアクターが選んだ検索画面を表示する。 後条件:詳細な検索画面が表示される。 22 「注文」のユースケース記述 ユースケース名:発注サービス::商品の検索(R02) 概要:商品データ取得サービスによって取得した商品を注文する。 アクター:小売業者 前提条件:システムが商品データを表示している。 処理: 1.アクターは注文ボタンを押す。 2.システムが受け取ったデータを製造業者のデータベースに送る。 後条件:システムは注文完了画面を表示する。 「売上データ閲覧」のユースケース記述 ユースケース名:売上データ閲覧サービス::商品の売上データ閲覧(S01) 概要:商品売上データを閲覧する。 アクター:製造業者 前提条件:アクターがシステムにログインしている。 処理: 1.アクターは商品別検索、部門別検索から検索条件を選ぶ。 2.システムはアクターが選んだ検索画面を表示する。 後条件:詳細な検索画面が表示される。 23 4.3 .3 仕様分析 仕様分析とは要求分析で具体化したシステム要求を満たすよう、システムの内部の構造 と振舞いをユーザの視点から規定する作業である。ここではまず UML のひとつであるシナ リオ分析によってシステムの振舞いのモデルを作成し、オブジェクト分析によってシナリ オ分析の結果を束ねて構造のモデルを抽出する。 4.3.1 シナリオ分析 シナリオ分析 シナリオ分析ではシナリオを実現するオブジェクトを抽出し、各オブジェクトが受け持 つ範囲を明確にしながら、オブジェクト間の操作の呼出し関係を決めることによってシス テムの振舞いのモデルを作成する。ここではその中のシナリオ記述とシーケンス図を用い て分析を行う。 (1) シナリオ記述 あるシナリオにおける条件(システムへの入力や内部状態など)やそのシナリオでの処 理の流れや結果(システムの出力など)を文章で記述する。 (2) シーケンス図 オブジェクトの相互作用を表す相互作用図の 1 つで、オブジェクト間のメッセージのや りとりを時系列に沿って表現するもの。メッセージの順序を示すことが重要なときや、メ ッセージ間の時間的な制約を記述したいときに適している。 横軸にオブジェクトを縦軸に時間の流れ(ライフライン)をとる。時間は上から下へと 流れていく。オブジェクト間のメッセージのやり取りは実線の矢印でメッセージを送る側 から送られる側へと引いて表現し、メッセージのリターンは点線の矢印で表す。また、オ ブジェクトがある手続きを実行する期間、手続きの実行とその手続きを呼び出す側の制御 の関係を細長い長方形の箱を用いて表現し、活性区間と呼ぶ。(図 3.3) 図 4.3 シーケンス図の表記 24 シナリオ1 顧客登録 ユーザ(小売業者および製造業者)は顧客登録画面を開く。続いてユーザーは顧客情報 (顧客 ID、氏名、住所、電話番号、メールアドレス)を入力する。その後登録ボタンを押 すと、入力された情報に書式上の誤り、不足がなく、同じ顧客番号が既に存在しなければ、 顧客情報データベースに登録される。 図 4.4 シナリオ1のシーケンス図 シナリオ2 商品データ取得 ユーザ(小売業者 A)は商品データが更新されていないか確かめるために、ブラウザから 商品データ取得システムにログインし、検索方法選択の画面で部門別データ検索へと進み、 部門 10 を選択し検索ボタンを押す。部門別データ検索サービスは部門番号を引数として受 け取ると商品情報データベースより「おいし牛乳」 「まろやか牛乳」「しっとりヨーグルト」 の商品 ID、商品名、価格、製造業者 ID を表示した。 25 図 4.5 シナリオ2のシーケンス図 シナリオ3 注文 ユーザ(小売業者 A)は商品データを取得している。注文ボタンを押すと発注サービスは 注文内容を製造業者に送信し、注文が完了したことを画面に表示した。 図 4.6 シナリオ3のシーケンス図 26 シナリオ4 売上データ閲覧 ユーザ(製造業者 A)は自社の商品の売上データを閲覧するために、ブラウザから売上デ ータ閲覧システムにログインし、検索方法選択の画面で部門別検索へと進み、 「部門 10」を 選択し検索ボタンを押す。売上データ検索サービスは商品名を引数として受け取ると売上 情報データベースより「部門 10」の売上商品の売上 ID、商品名、販売価格、個数、売上時 間を表示した。 図 4.7 シナリオ4のシーケンス図 27 4.3.2 オブジェクト分析 オブジェクト分析 オブジェクト分析とはシナリオ分析の結果を受けて各シナリオで識別したオブジェクト を束ねてクラスを抽出する作業である。 (1) クラス図 クラス図はシステム化対象をクラスを用いて静的に表現する図で、ユーザの視点からど のような物や概念があるかを考える。 クラスは3つの区間に分割された長方形のアイコンで表現し、上から順にクラス名、属 性名、操作名を書く。 (図 3.7)クラスを構成する情報の中で静的な情報を属性を、操作は 動的な情報を表す。 図 4.8 クラスの表記([2]のp74 の図を参考に作成) (2) クラスの関係 クラス間に構造的な関係がある場合には実線で結び関連と表す。あるクラスが他のクラ スの一部を構成しているようなとき集約と表現し、関連の全体側の終端にひし形をつけて 表記する。また、2つのクラス間に存在する利用関係は依存関係と表され、利用する側か ら利用される側に矢印付の点線を引いて表現する。さらに、一般的な要素と特定化された 要素の関係は汎化と表され、特定化された要素から一般的な要素に白抜きの三角の直線で 示す。 (図 3.8) 28 図 4.9 クラスの関係の表記 図 4.10 データ共有システムのクラス図 29 第5章 データ共有 データ共有システム 共有システムの システムの実装 本章では第3章で分析設計したデータ共有システムを実装する。 5.1 開発環境 データ共有システムの実装は以下の開発環境で行った。 OS Windows XP Professional プラットフォーム .NETプラットフォーム 基本コンポーネント .NET Framework 開発ツール Visual Studio.NET 2003 開発言語 Visual C#.NET Webサーバ IIS(Internet Information Server) データベース SQLServer2000 表 5.1 開発環境 (1)プラットフォーム プラットフォームとはアプリケーションソフトを動作させるうえで基盤となる環境のこ とである。.NET プラットフォームとは Web Service や Web アプリケーションの開発・実 装・運用を支援するためにマイクロソフトが提供するソフトウェア・プラットフォームで ある。PC から携帯電話まで幅広くカバーし、上位のソフトウェアも共通性が高いものとな っている。 図 5.1 .NET プラットフォームの概念図([12]を参考に作成) 30 (2)基本コンポーネント .NET Framework OS の上位に位置し、Web サービスや Web アプリケーションに対するサービス・インタ ーフェイスを提供するのが.NET Framework である。.NET Framework は Web サービス などの上位ソフトウェアを開発するためのクラスライブラリと CLR(Common Language Runtime)から成り立っていて、クラスライブラリには今回の研究でも使用した ASP.NET も含まれている。また、CLR とは.NET Framework の OS に代わるアプリケーション実行 のプラットフォームとなる性質、共通言語ランタイム(Common Language Runtime)で ある。この性質により、.NET Framework で開発されたアプリケーションは OS に関わら ず実行可能である。 図 5.2 .NET Framework の概念図([12]を参考に作成) ASP.NET .NET Framework の Web サービス向けのクラスライブラリ。Web サービスや Web アプ リケーションの開発・実行のためのプラットフォームで、従来からある ASP(Active Server Pages)同様、アプリケーションはサーバー(IIS)上で動く。ASP との違いは ASP で書か れたスクリプトが毎回サーバーでコンパイルされるのに対して、ASP.NET は最初の1回だ けしかコンパイルされないのでクライアントへのレスポンスが良いという点があげられる。 31 (3)開発ツール・言語 Visual Studio.NET Visual Studion.Net は.Net Framework 上で動く Web アプリケーションや Web サービス を作成するための統合開発ツールで開発言語として Visual Basic.Net、Visual C++.NET、 Visual C#.NET、Visual J#.NET が用意されている。 Visual C#.NET 今回使用した Visual C#.NET は Web サービスや Webアプリケーションを開発すること を念頭において、C/C++を発展させオブジェクト指向言語である JAVA の特徴も大幅に取り 入れられた.NET Framework 環境向けソフトを開発するためのオブジェクト指向言語であ る。 5.2 ASP.NET によるシステム によるシステムの システムの実装 (1)Web サービスの作成 ASP.NET で Web サービスを作成する場合、 主に以下の3つのファイルがその中心となる。 asmx ファイル Web サービスの本体となるファイルで、Web サービスのプログラムは、asmx ファイル に記述する。このファイルを IIS の wwwroot の中に置き、IIS でアプリケーションの設定 をすることで利用できるようになる。正しく設定できたかどうかは asmx ファイルの URL を直接リクエストすることによって確認できる。 また、 asmx ファイルは Web サービスとして機能するために、 最初の行は必ず WebService ディレクティブを記述する必要がある。ここで Web サービスを記述するために使用してい るプログラム言語と、Web サービスのメソッドを含むクラスをそれぞれ指定する。また、 この行は“<% ~ %>”のブロックで囲まなければならない。さらに、クラスには WebService 属性をメソッドには WebMethod 属性を記述する。 32 Web.config ファイル XML をベースとした構成ファイルで Web サービスを格納した仮想ディレクトリの設定 をする。ドメインのルート以下、任意のディレクトリに置くことができ、そのディレクト リ以下の動作を設定できる。 cs ファイル C#で記述されたファイル。コンパイラによってコンパイルされた後 dll ファイルを作成す る。Web サービスを公開するのに必要なファイルは asmx ファイルと dll ファイルだけなの で実行時には不要である。 Web サービスの呼び出し クライアントは、Web サービスの呼び出しとして、SOAP プロキシが SOAP メッセージ を生成し、送信する。受け取ったサーバでは、その SOAP メッセージを SOAP リスナが解 釈し、その上でサーバ側の SOAP プロキシが実行結果を XML 文書(SOAP メッセージ) として生成し、送信元へ返す。 Webサーバ メ ッセー ジを 解釈し、Webサー ビ スを 呼び 出す Webサービス SOAPリスナ SOAPプロキシ 要求 に 応じたSOAP メ ッセージ を 組み 立て、送信 SOAP プ ロ キ シが SOAP を生成 し、サー バへ 送信 Webサー ビ ス呼 び 出しが実行 さ れ、SOAP プ ロ キ シを 呼び 出す Internet SOAPプロキシ SOAPリスナ 戻っ てきた SOAP メ ッセー ジを 解 釈し、アプ リケー ション に対 して 戻り値 を与える クライアントアプリケーション クライアント 図 5.3 クライアントが Web サービスを呼び出す際の概念図 33 (2)クライアントアプリケーションの作成 今回クライアントアプリケーションとして Web アプリケーションを使用した。ASP.NET で Web アプリケーションを作成する際、以下の4つのファイルが中心となる。 aspx ファイル Web アプリケーションの本体となるファイルで、Web フォームを作成する際デザインに 関するプログラムを記述するファイル。 ascx ファイル aspx ファイル同様 Web アプリケーションの本体となるファイルで、ユーザコントロール を作成する際デザインに関するプログラムを記述するファイル。 Web Config ファイル Web アプリケーションの動作を設定するためのファイル。ドメインのルート以下、任意 のディレクトリに置くことができ、そのディレクトリ以下の動作を設定できる。 cs ファイル C#で記述されたファイル。デザインを記述したファイルにさらに拡張子.cs を付けたもの はそのデザインに対する動作に関するファイルとなる。 34 5.3 Web サービス実装 サービス実装 売上データ照会サービスを例にとって実装手順を説明していく (1)プロジェクトの生成 Web サービスを開発するにあたり、最初にプロジェクトを作成する必要がある。まず「プ ロジェクトの種類」から今回使用した言語である「Visual C#プロジェクト」を、 「テンプレ ート」から「ASP.NET Web サービス」を選択する。その後「場所」に URL を記述すると、 その場所に新しい Web サービスが作成される。 今回のサービスの URL は http://localhost/GT/retail/SalesService と指定した。 図 5.4 プロジェクトの作成 プロジェクトを作成すると、デフォルトのサービス Service1.asmx.cs のウインドウが開 かれている。このファイル名を任意なものに変更し、プログラムソースを編集していくこ とで Web サービスを構築していく。 ファイル名は SalesService.asmx.cs と変更した。 35 図 5.5 SalesService.asmx.cs の編集 (2)メソッドの実装 プロジェクトを作成し、開発準備が整ったらシステムに必要となるメソッドとして実装 する。 <SalesService.asmx> <%@WebService Language="c#" Codebehind="SalesService.asmx.cs" Class="Sales.SalesService" %> SalesService.asmx ファイルに記述されているのは上のように WebService ディレクティ ブが記述されているだけである。 ここではこのファイルが Web サービスであること、Web サービスを作成する際使用する 言語が C#であることを明らかにし、また、Codebehind=””でプログラムのコード部分を分 離して記述するファイルを、Class=””で Web サービスのメソッドを含むクラスをそれぞれ 指定している。 Codebehind 属 性 の 部 分 で 述 べ て い る 通 り 、 プ ロ グ ラ ム の コ ー ド 部 分 は SalesService.asmx.cs に記述されるので、実際にメソッドを実装するのはこのファイルであ る。 36 次に SalesService.asmx.cs のソースコードの一部分を解説していく。 <SalesService.asmx.cs> 1:[WebService(Description = "商品の売上検索表示サービス", 2: Namespace ="urn:SalesService")] 3:public class SalesService : System.Web.Services.WebService 4:{ -------省略------5:[WebMethod(Description="部門別検索")] 6: public dataInfo[] GetdataInfo(string int_bumon) 7: { 8: string sql=String.Format(@"select Sales2.商品ID,Sales2.商品 9:名,Sales2.個数,Sales2.価格,Sales2.販売時間,Sales2.部門 from Sales2 "); 10: DataSet dc =makeDs(sql); 1~2行目 この Web サービスの概要を“商品の売上検索表示サービス”とし、名前空間とし て”urn:SalesService”を指定している。 3行目 System.Web.Services.WebService を継承している。これによって SalesService が Web サービスを提供するクラスとなる。 5行目 公開するメソッドに WebMethod 属性を付加し、次の行から始まるメソッドの概要を“部 門別検索”と説明している。 6行目 このメソッド命は GetdataInfo で、引数に文字列(今回はユーザが選択した部門番号) をとる。戻り値は dataInfo クラスの配列となっている。 8~10行目 SQL 文により Sales2 テーブルから売上商品データを取り出しデータセット”dc”に格納し た後、条件に適合するものだけを抽出していく。 37 (3)Web サービスの実行 作成した Web サービスは asmx ファイルの URL を入力することでブラウザで表示させ ることができる。 図 5.6 Web サービス実行 このページには「サービスの説明」と各メソッドにリンクが貼られている。 「サービスの 説明」リンクをクリックすると図 4.6 のような XML 形式のデータが表示される。これ は.NET Framework により自動的に生成される WSDL である。また、表示されている各 メソッドは Web サービスとして公開されており、リンクをクリックすると SOAP と HTTP POST の要求および応答のサンプルが表示され、HTTP POST プロトコルを使っ たテストを行うことができる。 図 5.7 .NET Framework によって自動生成される WSDL 38 図 5.8 Web サービスとして提供されるメソッドのテスト画面 テスト画面では値の欄に引数を入れ、起動ボタンを押すことによってメソッドを呼び 出すことができる。この時引数として「10」を入力した場合図 4.8 のように部門10の 売上データが XML 形式で表示される。 図 5.9 Web サービスのテスト結果 39 5.4 クライアントアプリケーションの クライアントアプリケーションの実装 4.3 で作成した売上データ照会サービスの売上データ検索メソッド(GetItemInfo メソッ ド)を呼び出すアプリケーションを例にとって説明していく。 アプリケーションの実際にアクセスするファイル(aspx ファイル)は以下(一部)のよ うに Web フォームのデザインについて書かれており、Codebehind 属性により、動作を表 す部分は aspx.cs ファイルに記述されている。 <ItemResult.aspx> <%@ Page language="c#" Codebehind="ItemResult.aspx.cs" AutoEventWireup="false" Inherits="ItemSelect.ItemResult" %> <HTML> </HEAD> <body MS_POSITIONING="GridLayout"> <form id="Form1" method="post" runat="server"> <FONT face="MS UI Gothic"> <asp:Label id="Label1" style="Z-INDEX: 101; LEFT: 96px; POSITION: absolute; TOP: 80px" runat="server" Width="80px">検索結果</asp:Label> <asp:DataGrid id="DataGrid1" style="Z-INDEX: 102; LEFT: 96px; POSITION: absolute; TOP: 112px" runat="server" Width="376px" Height="168px" DataSource="<%# dataSet11 %>"> </asp:DataGrid> <asp:Button id="Button1" style="Z-INDEX: 103; LEFT: 136px; POSITION: absolute; TOP: 344px" runat="server" Text="Button"></asp:Button></FONT> </body> </HTML> 40 次に ItemResult.aspx.cs のソースコードの一部分を解説していく。 <ItemResult.aspx.cs> 1: private void Page_Load(object sender, System.EventArgs e) 2: { 3: string n=(string)Session["KEYWORDS"]; 4: retailap.localhost.SalesService rs=new retailap.localhost.SalesService(); 5: retailap.localhost.ItemInfo[] rb =rs.GetItemInfo(n); 6: SqlConnection sb= 7:newSqlConnection("server=(local);uid=sa;pwd=admin;database=sales"); 8: SqlDataAdapter sdb =new SqlDataAdapter("select * from item1",sb); 9: foreach(retailap.localhost.ItemInfo rec in rb) 10: { 11: DataRow r =itt.Tables["item1"].NewRow(); 12: 13: r[0]=rec.syouhin_id; 14: r[1]=rec.syouhin_name; -------省略------15: itt.Tables["item1"].Rows.Add(r); 16: } 17: DataGrid1.DataSource=itt; 18: DataGrid1.DataBind(); 1行目 以下にこのページが呼び出されたときに行う処理内容を記述する。 3行目 Session オブジェクトにより、前のページで入力された文字列(部門番号、商品名、時間) を n として引き渡す。 4行目 使いたいメソッド(GetItemInfo())を含むクラスのインスタンス「rs」を生成する 5行目 n を引数として GetItemInfo メソッドを呼び出し、戻り値を ItemInfo クラスの配列 rb に渡す。 41 6~16行目 データベースと接続し、空のデータセットに商品データを一つづつ格納していく。 17~18行目 格納されたデータを DataBind オブジェクトにより、ひとつのデータソースへまとめ、 表示する。 また、作成したアプリケーションと内容は以下の通りである。 ファイル名 内容 Entry.cs 顧客登録を行う。 login.aspx ID とパスワードを受け取り認証する。 Select.aspx 商品の検索方法を選ぶ。 ItemSelect.aspx 商品名を受け取り ItemResult.aspx に渡す。 ItemResult.aspx 売上データ照会サービスを利用して検索した結果を表示する。 CategorySelect.aspx 部門番号を受け取り CategoryResult.aspx に渡す。 CategoryResult.aspx 売上データ照会サービスを利用して検索した結果を表示する。 TimeSelect.aspx 時間を受け取って TimeResult.aspx に渡す。 TimeResult.aspx 売上データ照会サービスを利用して検索した結果を表示する。 OrderOver.aspx 注文完了を通知する。 表 5.2 作成したアプリケーションとその内容 (1)Web 参照の追加 作成したクライアントアプリケーションから Web サービスを利用するためには SOAP プ ロキシを生成しなくてはいけない。SOAP プロキシを生成ために Web 参照を追加する必要 がある。Web 参照を行うためには「Web 参照の追加」を選択し、URL 欄に利用する Web サービスの URL を入力する。 図 5.10 Web 参照の追加 42 図 5.11 生成された SOAP プロキシ 5.5 実装結果 実装した機能について、シナリオ記述に従って実際の画面を示しながら説明を行う。 5.5.1 顧客登録 システム管理者は顧客情報を以下の入力フォームに入力し、登録ボタンを押す。すでに同 じ顧客 ID が登録している場合にはエラーメッセージが表示される。 図 5.12 顧客登録画面 43 5.5.2 .5.2 商品データ 商品データ取得 データ取得、 取得、注文 (1)ログイン ユーザは ID とパスワードを入力する。ID とパスワードに間違いがない場合は次の検索方 法選択画面に移る。 図 5.13 ログイン画面 (2)検索方法選択 ユーザは部門検索・商品検索のいずれかを選び、ボタンをクリックする。 図 5.14 検索方法選択画面 44 (3)検索 表示されたものから商品を選び、チェックを入れ実行ボタンを押す。 図 5.15 商品選択画面 (3)結果表示 商品データが表示される。この商品を注文する場合実行ボタンを押す。 図 5.16 商品データ取得画面 45 (4)注文完了 注文が完了した旨を通知する。 図 5.17 注文完了画面 5.5.3 .5.3 売上商品 売上商品データ 商品データ閲覧 データ閲覧 次に、売上商品データ閲覧についての説明を行う。なお、4.5.2 と内容が重複するところ は省略する。 (1)ログイン (2)検索方法選択 ユーザは部門検索・商品検索・時間検索のいずれかを選び、ボタンをクリックする。 図 5.18 検索方法選択画面 46 (3)検索 表示された部門のなかから、検索したい部門にチェックを入れ、実行ボタンを押す。 図 5.19 部門選択画面 (4)結果表示 チェックを入れた部門の売上一覧が表示される。 図 5.20 結果表示画面 47 第6章 結論 本研究では、サプライチェーンのあり方の変化やその実態の調査を踏まえたうえで、従 来の人の手によって行われていたデータ共有という作業を改善すべく、Web サービスを用 いたシステムの構築を行った。 第2章では、システム構築を行ううえで必要となる Web サービスを理解するために、Web サービスの定義や技術仕様についてまとめ、また、混同されがちな Web アプリケーション との比較を行った。 第3章では、小売業と製造業の連携に関する現状の分析と問題の定義を行い、新たなシ ステムを提案した。 第4章では、UML を用いて第3章で提案したシステムについて分析を行うことで、具体 的な機能や用件を明らかにした。 第5 章では、 第4章で明ら かにした システムを実 際に構築 するため、開 発環境 や ASP.NET についてまとめ、その後実装したシステムについて画面を示しつつ説明を行った。 本研究では、従来の問題を解決すべく Web サービスを用いたシステムの構築を行い、デ ータ共有を人の手を介さずに行えることを可能とした。また、実際にシステム構築を行う ことによって Web サービスについての理解を深めることができた。 すでに、金融や e ラーニングなどの分野で実際のビジネスの世界で用いられており、Web サービスはもはや目新しい技術とは言えない。また、セキュリティの問題は重要な問題で ある[10]が本研究では扱わなかった。今後、様々な分野に応用していくことで、新たなビジ ネスやサービスを生み出すことができるのではないかと考える。 48 参考文献 [1] 吉田裕之、山本里枝子、上原忠弘、田中達雄著 「UML によるオブジェクト指向開発実践ガイド」 技術評論社 1999.1 [2] 株式会社オージス総研著 「簡単 UML[増補改訂版]」 翔泳社 2003.11 [3] 鎌形俊幸著 「レシピで選ぶ食料品注文システムの構築~Web サービスによるシステム連携~」 筑波大学社会工学類 平成15年度卒業論文 2004.3 [4] 北村俊宏著 「理容室における顧客管理と顧客サービスシステムの構築」 筑波大学社会工学類 平成15年度卒業論文 2004.3 [5] 小野修司著 「これからはじめる Visual C#.NET」 秀和システム 2002.7 [6] 吉松史彰、山崎明子著 「C#.NET プログラミングマニュアル」 技術評論社 2002.9 [7] 瀬尾佳隆著 「C#によるコンポーネントプログラミング」 オーム社 2003.10 [8] 増田智明著 「Visual C#.NET ではじめる Web プログラミング」 ナツメ社 2003.2 49 [9] 岩本のぞみ著 「事例でわかる Web サービス・ビジネス」 日本ユニシス 2004.1 [10] 西澤秀和、早瀬建夫、矢野令、山田正隆、山本純一著 「Web サービス分析・設計ガイド オブジェクト指向によるモデリングの手引き」 ソフトバンクパブリッシング 2002.12 [11] チャールス・C. ポアリエ、スティーブン・E. レイター著 Charles C. Poirier、Stephen E. Reiter 原著 松浦 春樹、尾西 克治、山田 勝也、平田 智也 翻訳 「サプライチェーン・コラボレーション―原材料調達・生産・販売システム最適化の追求」 中央経済社 2001.9 [12] @IT―アットマーク・アイティ 「http://www.atmarkit.co.jp/index.html」 [13] オブジェクト倶楽部 「http://www.objectclub.jp/」 [14] ITmedia―アイティメデイア 「http://www.itmedia.co.jp/」 [15] World Wide Web consortium 「http://www.w3.org/」 50 謝辞 本研究を行うにあたり、大変お忙しい中にも関わらず、研究全般においてご指導くださ いました佐藤先生に心より感謝いたします。 また、同じ研究室で共に卒業研究を進めるうえで、客観的な視点からの意見をくれた大島 さん、日頃から研究に関する細かな相談に乗ってもらった笠井君、研究の進め方から技術 的なことについてまで様々なアドバイスをくださった研究室の先輩方には大変お世話にな りました。深く感謝致します。 51
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