German Innovation Award 報道関係者各位 2013年 6月18日 ドイツ 科学・イノベーションフォーラム 東京 在日ドイツ商工会議所 第 5回ドイツ・イノベーション・アワード German Innovation Award 「ゴットフリード・ワグネル賞2013」 受賞者発表 日独科学技術交流の促進に向けて 在日ドイツ商工会議所(代表:マンフレッド・ホフマン、東京都千代田区)とドイツ 科学・イノベーシ ョン フォーラム 東京(ディレクター:レギーネ・ディート、東京都千代田区)は、6月18日(火)にドイツ 連邦共和国大使公邸で第 5回ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞 2013」授賞 式を開催し、受賞研究 5件を発表しました。 本賞は、日本を研究開発の拠点として活動しているドイツのグローバル企業 10 社によるプロジェクト で、日本の若手研究者支援と科学技術振興、そして日独の産学連携ネットワーク構築を目的としてい ます。応募対象は、環境・エネルギー、健康・医療、安心・安全の3分野における応用志向型の研究で、 応募資格は日本の大学・研究機関に所属する 45歳以下の若手研究者です。今回の公募には、全国 39の 大学・研究機関から91件の応募がありました。 授賞式では、フォルカー・シュタンツェル駐日ドイツ連邦共和国大使とマンフレッド・ホフマン駐日 ドイツ商工特別代表の挨拶のあと、2001年にノーベル化学賞を受賞した独立行政法人理化学研究所 理事長の野依良治氏による記念講演が行われました。引き続いて本賞選考委員会委員長の相澤益男 氏(独立行政法人科学技術振興機構顧問 )より、受賞者が発表されました。受賞者には共催企業 10 社 からの賞金のほか、ドイツ学術交流会とドイツ研究振興協会より、副賞としてドイツで研究滞在するた めの助成金が授与されました。 「ゴットフリード・ワグネル賞2013」 受賞者 最優秀賞 (賞金 400万円)1件 「1分子シークエンシング技術の開発」 谷口 正輝(たにぐち まさてる) 40歳 大阪大学 産業科学研究所 バイオナノテクノロジー研究分野 教授 優秀賞 (賞金 200万円)1件 「スピンダイナミクスを利用した不揮発性メモリーの研究」 小野 輝男(おの てるお) 45歳 京都大学 化学研究所 教授 秀賞 (賞金100万円)3件 「FRETバイオセンサーによるCML 分子標的薬治療効果予測法」 大場 雄介(おおば ゆうすけ) 43歳 北海道大学 大学院医学研究科 教授 「二酸化チタン透明導電体の開発」 一杉 太郎(ひとすぎ たろう) 41歳 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 准教授 「燃料電池への応用を目指したイオン導電性高分子の開発」 宮武 健治(みやたけ けんじ) 44歳 山梨大学 クリーンエネルギー研究センター 教授 1/ 5 German Innovation Award German Innovation Award 受賞研究概要 最優秀賞 「1分子シークエンシング技術の開発」 谷口 正輝(たにぐち まさてる) 40歳 大阪大学 産業科学研究所 バイオナノテクノロジー研究分野 教授 2003年に終了したヒトゲノムプロジェクトにより、個別化医療の到来が期待されてきたが、装置の処 理能力に依存した DNAの塩基配列決定(シークエンシング)に要するコストと時間がその実現を妨げ てきた。 そのため、米国立衛生研究所は 2004 年、超高速、ラベルフリー、低コストな DNAシークエンサーを 開発する「1000ドルゲノムプロジェクト」を開始した。このプロジェクトでは、ナノポアと一対のナノ電極 から構成される「ゲーティングナノポアデバイス」が開発目標とされた。しかし、ナノポアを通過する1本 の DNAの塩基配列をトンネル電流で解読できるとされたその性能は、なかなか実証されてこなかった。 そうした中、大阪大学の谷口正輝教授は、ゲーティングナノポアデバイスを開発し、トンネル電流を 使った1塩基識別に世界で初めて成功した。さらに、トンネル電流によるDNAとマイクロRNAの塩基配 列決定を実証し、メチル化シトシンの1分子識別も実現した。 また、このナノポア DNAシークエンサーを用いてより高速で高精度な分析を実現するには、1分子の速 度制御技術の開発が必須である。そのため、谷口氏は、電界効果トランジスタの原理にヒントを得た1 分子速度制御技術の原理を考案した。ナノデバイスを開発して、その原理が正しく機能することを実証 した。 同氏は、 「今回開発した電気的な1分子シークエンシング技術と1分子速度制御技術を融合すれば、 今後1分子解像度で高精度な定量遺伝子解析が実現されるだろう」と今後の抱負を述べている。 「スピンダイナミクスを利用した不揮発性メモリーの研究」 優秀賞 小野 輝男(おの てるお) 45歳 京都大学 化学研究所 教授 現在のコンピュータでは、半導体メモリーや磁気ディスクが記憶装置として使用されているが、これ らは全てエネルギー消費の観点から問題を抱えている。半導体メモリーの欠点は、電源を切ってしま えば情報が失われる「情報揮発性」であり、情報を保つためだけに多大な電力が消費されている。現 在一般的に用いられている磁気ディスクは、大容量かつ廉価な情報蓄積装置として我々の日常生活に 不可欠であるが、ディスクの回転のために常にエネルギーを消費しているという問題がある。 京都大学の小野輝男教授は、電流と磁気モーメントの直接相互作用に関する独創的基礎研究を行 い、電流によって磁気ワイヤ中の磁壁が移動するという現象を見いだし、この現象を利用した磁気メ モリーの動作実証に成功した。このメモリーによりトランジスタあたりに保存できる情報量が飛躍的 に増加することで、コストカットが期待されるほか、情報の読み出しと書き込みの高速化が期待される という。 小野氏によると、これまで使われてきた半導体メモリーや磁気ディスクを、今回開発したデバイスに 置き換えることで、動作中のみエネルギーを使うコンピュータやモバイル機器などの電力消費量が非 常に小さい電子機器の実現が期待できるという。同氏は、 「今回の成果は、省エネルギーの観点から 環境問題に大きく寄与するだろう」とその有効性を述べている。 2 /5 German Innovation Award German Innovation Award 秀賞 「FRETバイオセンサーによるCML 分子標的薬治療効果予測法」 大場 雄介(おおば ゆうすけ) 43歳 北海道大学 大学院医学研究科 教授 メシル酸イマチニブは、慢性骨髄性白血病(CML )の原因分子 BCR-ABL に対する分子標的薬であ り、CMLの治療概念を革新して、この疾患を「経口薬で制御可能ながん」とすることに成功した薬剤で ある。しかし、この薬剤に抵抗性および不寛容を示す症例も少なからず存在している。 こうした問題を解決するため、北海道大学の大場雄介教授は、チロシンキナーゼ活性を持つ BCR- ABLの主な基質であるCrkLを蛍光タンパク質で修飾し、フェルスター共鳴エネルギー移動の原理を応 用してBCR-ABLの活性を測定するバイオセンサーを開発した。 この新しい診断法は、既存の診断法より感度が高く、生細胞中の BCR-ABLキナーゼ活性を正確に測 定することができる。測定する細胞数が少なくても測定の精度は保たれ、メシル酸イマチニブ感受性細 胞の中から1%以下の薬剤耐性細胞を検知することも可能である。 さらに、治療前のみならず治療中においてもこのバイオセンサーによる診断を行うことで、メシル酸 イマチニブの薬効を予測し、将来的な薬物耐性出現の有無を予見できることも明らかになった。 迅速かつ簡便・正確にBCR-ABLの活性を測定できる本診断法は、各 CML 患者について、治療直後だ けでなく将来的な治療効果をも予測できる有望な方法と考えられ、患者と臨床医の双方にとって有益 な技術として今後の普及が期待される。大場氏は、 「本研究は、活用が基礎研究分野に限定されてい た蛍光タンパク質を、実際の臨床現場に応用する道を切り開いた点でも画期的な成果である」と本研 究の意義を語っている。 秀賞 「二酸化チタン透明導電体の開発」 一杉 太郎(ひとすぎ たろう) 41歳 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 准教授 透明導電体は、可視光透明性と高電気伝導性を併せ持ち、液晶ディスプレイや太陽電池、発光ダイ オードといったオプトエレクトロニクスデバイスの透明電極として広く用いられている。その代表的材 料がインジウム酸化物( ITO)であるが、インジウムは希少資源であるため、ITO を代替する透明導電 材料の開発が待望されてきた。 そこで東北大学の一杉太郎准教授は、地殻中に豊富に存在するチタン( Ti)を活用することに着目 し、TiO 2が透明導電体となることを実証した。TiO 2は典型的な半導体として知られていたが、今回、一 杉氏は実用化に最適なスパッタ法(ターゲットにイオンを衝突させ、叩き出された分子や原子を基板上 に付着させて薄膜を作る方法)によって、高い可視光透明性のみならず、ガラス上で抵抗率 6x10 -4Ωcm という高い電気伝導性をTiO2に併せ持たせることに成功した。 開発されたTiO2 透明導電体は、遷移金属酸化物を母物質とした初めての透明導電材料であり、その ため、従来の透明導電体とは異なる物性が期待されるという。高い屈折率は他の透明導電体では決し て実現できない特性で、一杉氏はこの特性を活用して高効率青色発光ダイオードや太陽電池を試作し、 検証を進めている。 同氏は、 「本研究は環境に優しいデバイスの高効率化を実現するものであり、持続的発展が重視さ れた社会において非常に大きな役割を果たすと期待される」と今回の研究の有用性を述べている。 3 /5 German Innovation Award German Innovation Award 秀賞 「燃料電池への応用を目指したイオン導電性高分子の開発」 宮武 健治(みやたけ けんじ) 44歳 山梨大学 クリーンエネルギー研究センター 教授 クリーンエネルギーシステムの実現における有効なデバイスとして、燃料電池への注目がますます 高まっている。燃料電池の実用化と普及に向けた課題の一つは、現状で最も優れた固体高分子膜材 料であるフッ化スルホン酸樹脂を凌ぐ物性、すなわち、ガラス転移温度を超えても、イオン伝導性が保 持され、化学的・物理的に安定な物性を保つ高分子の開発である。 そこで山梨大学の宮武健治教授は、燃料電池の高性能化と高信頼化を目指してイオン伝導性高分 子電解質材料の開発に着手した。フッ素を含まない芳香族炭化水素系高分子に着目し、フルオレンを 含むカルド型の主鎖分子構造とイオン性基の導入を綿密に設計・制御して、新たな電解質膜を創製し た。その結果、この電解質膜に、これまで実現困難とされてきたプロトン伝導性と安定性を兼ね備えた 特性を持たせることに成功した。同氏によると、この膜のプロトン伝導率は固体高分子として世界記録 を達成した。 また宮武氏は、この膜が非フッ素系の高分子電解質膜としては初めて 5000 時間の燃料電池運転に も耐えることも明らかにした。燃料電池関連企業が実用化に向けて行った独自評価実験においても、 この膜が高性能を示すことが証明された。さらに同氏は、今回得られた分子設計指針がアニオン伝導 体にも普遍的に適用できることを実証した。 今回開発された電解質膜が示す高いイオン伝導性と安定性は、燃料電池のパフォーマンスを大きく 向上する。同氏は、 「この電解質膜は、2015 年に一般販売が計画されている燃料電池を搭載した自動 車の低コスト化と普及にも大きく貢献するだろう」と今後の可能性について語っている。 102-0075 東京都千代田区三番町 2-4 三番町 KS ビル 5F 在日ドイツ商工会議所内 ドイツ・イノベーション・アワード事務局 Tel: 03-5276-8819 [email protected] www.german-innovation-award.jp 4 /5 German Innovation Award German Innovation Award 「ゴットフリード・ワグネル賞2013」概要 応募資格 応募対象 日本の大学・研究機関に所属する 45歳以下の若手研究者(応募締切日時点) (1)環境・エネルギー、健康・医療、安心・安全のいずれかの分野における応用志向型の研究 ( 2)下記の産業分野において、ソリューションを提示する研究: 自動車・輸送機器、化学品・素材、エレクトロニクス・フォトニクス、医療機器・診断技術、バイオテ クノロジー・医薬品、ものづくり・製造プロセス・機械、エネルギー開発と供給技術(新エネルギー を含む) (3)現在進行中の研究、または過去 2年以内に完了した研究成果 賞金 最優秀賞(1件)400万円、優秀賞(1件)200万円、秀賞(3件)100万円 副賞 ドイツの大学・研究機関に最長 2カ月間研究滞在するための助成金 応募期間 2012年10月1日(月)∼ 12月9日(日) 審査方法 本賞の共催企業の技術専門家による予備審査の後、常任委員と専門委員から構成される選考委員会 において受賞者を決定します。 選考委員会(敬称略、50 音順) 委員長 相澤 益男 独立行政法人 科学技術振興機構 顧問 常任委員 岸 輝雄 独立行政法人 物質・材料研究機構 NIMS顧問 東京工業大学 元学長 濱田 純一 東京大学 総長 藤嶋 昭 東京理科大学 学長 松本 紘 京都大学 総長 主催 ドイツ 科学・イノベーション フォーラム 東京、在日ドイツ商工会議所 共催 (アルファベット順) BASFジャパン株式会社、バイエル、ボッシュ株式会社、エボニック デグサ ジャパン株式会社、 ヘンケルジャパン株式会社、メルセデス・ベンツ日本株式会社/三菱ふそうトラック・バス株式会社、 メルク株式会社、ショット日本株式会社、シーメンス・ジャパン株式会社、トルンプ株式会社 特別協力 ドイツ学術交流会、ドイツ研究振興協会 協力 フラウンホーファー研究機構、ドイツ語圏日本学術振興会研究者同窓会 後援 ドイツ連邦教育研究大臣、ドイツ外務省、独立行政法人 科学技術振興機構、独立行政法人 日本学術 振興会 5 /5
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