自動認識技術の特質と今後の展望

第9回
第9回
自動認識総合展
自動認識総合展
特別寄稿
特別寄稿
自動認識技術の特質と今後の展望
(社)日本自動認識システム協会
研究開発センター長
柴田 彰
歩のみでは解決できない問題であり、情報を扱う人
の正統性確認、認証が重要になる。本来、日本の社
会システムは構成員が「善」であることを前提にし
市場のニーズ
ており、このシステムが破綻してきている。年金の
問題からすると、かなり以前に破綻しているのかも
情報技術が格段に進歩し便利な社会へと進化して
いる反面、社会的ひずみが顕在化している。自動車、
しれない。この問題は日本だけではなくいろいろな
国で顕在化している。
ガス湯沸かし器、温風暖房機などのリコール、保険
第四に環境問題の解決がある。二酸化炭素削減に
金の未払い、社会保険の支払い記録紛失、年金未払
関連した省エネルギー、省資源、熱回収や3Rの推進、
いなど多くの問題が噴出している。これらは基本的
環境有害物資の無害化などが、緊急に解決すべき問
にコーポレートガバナンスに関連する問題ともいえ
題である。
る。情報技術が進歩し技術的にはトレーサビリティ
以上述べた、
「安全・安心」の確保、セキュリティ
が可能になっているにもかかわらず、経営層が現状
の向上、環境対策の3つは互いに独立しているのでは
ではトレーサビリティは低コスト化に貢献しないと
なく、相関性があることに留意すべきである。市場
考えていることが根本的な原因と思われる。また、
に商品を供給する企業にとっては「安全・安心」の
後述する社会システムの上の問題も偏在していると
確保、セキュリティの向上、環境対策の3項目はどれ
考えられる。
も重要なものである。企業としてはこれらを総合的
市場のニーズとしては、第一に、残留農薬、賞味
に判断する必要がある。これらの3項目はISO9000、
期限の改ざん、原産地表示の改ざん、O-157、BSE、鳥
ISO14000、ISO27000の認定を取得すればわかると思
インフルエンザなどの食の「安全・安心」に関する
われるが、プロセス途中でのエビデンスを如何に残
要求が上げられる。第二に、患者の認識間違い、投
薬ミス、病院内感染、医療材料の不法廃棄、タミフ
ルなど薬の副作用確認遅れなどの医療の「安全・安
図表1 市場ニーズ
ISO9000
心」に関する要求が挙げられる。これらの「安全・
安全・安心
食品:残留農薬、賞味期限、原産地証明、
O-157、BSE、鳥インフルエンザ
医療:患者の間違い、投薬ミス、院内感染、
医療材料の廃棄、薬の副作用
安心」に関する問題の解決に向けて部分的に自動認
「安全・安心」
「環境保全」
「セキュリティ」は
それぞれ
相関関係にある
識技術が導入され効果を上げ始めているが、まだ不
十分である。法制度に基づく実地状況の確認など行
ISO28000
政にかかわる部分の遅れも気になるところである。
第三に登下校時などにおける子供の保護、偽ブラ
ンド品などの偽造問題、顧客情報の流出、個人情報
セキュリティ
テロ対策、子供の保護、
偽造品(偽札、偽ブランド品)
情報流出、情報改ざん
(コーポレートガバナンス)
の改ざんなどセキュリティにかかわる問題の解決が
上げられる。これらの問題はコンピュータ技術の進
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JAISA 2007 自動認識総合展特別編集号
ISO27000
トレー
サビリティ
の向上
ISO14000
環境保全
省エネルギー、省資源、熱回収、
3R(リデュース、
リユース、
リサイクル)、
環境ホルモン、有害物質、
フロン、
二酸化炭素
すかということになる。言葉を変えればトレーサビ
図表2 トレーサビリティの本質
リティをいかに向上させるかということになる。
業務が正常に行われている
ときはトレーサビリティは不要
トレーサビリティの本質
導入のしきい地が高い
保険
低コスト、省エネルギー、
省資源に貢献
低コストのうち
効率化の実現が最も近道
前項で市場ニーズはトレーサビリティの向上であ
ることを述べたが、ここでは「トレーサビリティの
本質」を明らかにしてみたい。まずトレーサビリテ
ィは何のためにあるのであろうか? 良くある回答
●消費者の賢い選択
●政治的圧力
(法律、環境保全、
リサイクル)
は「製品履歴がわかる」
「貨物・荷物が追跡できる」
サプライチェーンの
効率化が有望
アジア物流
コスト
(20%)
は
日欧米(10%未満)
に比べて倍以上
コスト負担者と
受益者が
異なる場合
がある
トレーサビリティの実現
「所在地がわかる」などである。しかし、これらは本
当の回答になっていない。なぜ、
「製品履歴がわかる」
「貨物・荷物が追跡できる」
「所在地がわかる」が必
要となるのかを、明確にしなければならない。
率化」を実現するのに適しているのはサプライチェ
ーン効率化である。サプライチェーン効率化を実現
するに当たり注意すべきことがある。それは、デー
結論を言えば、トレーサビリティは何か問題が発
タキャリア(例えばRFID)の費用負担者(企業)とその効
生したときに必要となるのである。業務が予定通り
率化を享受する者(企業)が異なる場合が多いと言う
行われているときには、トレーサビリティは必要が
ことである。グループ企業内のサプライチェーンで
無いと思われる。問題も無いのにいちいち追跡する
あれば、調整が比較的容易であるが、サードパーテ
必要は無いからである(もちろん1部の業務では追跡
ィロジスティクスなどを使用したサプライチェーン
管理が必須のものもある)。言い換えれば、トレーサ
では実現が困難になる場合が多い。
ビリティは保険のようなものである。従って、企業
また、トレーサビリティを実現する最も有力な手
の経営者から見ると、
「保険に金を払うくらいなら、
段は法制化であるが、民間企業としては極力避けた
業務の見直し、改善に金をかける」ということにな
いのが本音であろう。しかし、消費者の強い圧力に
る。もっと、具体的に書いてみよう。市場に出した
よりその可能性は否定できない。また消費者の賢い
商品の不具合があった場合、その早急なる故障解析
選択が企業の方針を転換させる原動力になるかもし
が可能、リコールすべきかどうかの判断材料を提供
れない。
(市場への影響度合い)、リコール時には選択的回収
が可能などの理由で品質保証部が社長にトレーサビ
リティシステムの導入を進言したとしよう。多くの
自動認識技術の本質
社長は「問題を起こした後のことを、一生懸命考え
るくらいなら、問題を起こさないようにすることを
考えろ」と言うのではないだろうか。
しかし、トレーサビリティシステムを構築するこ
ここでは、トレーサビリティを実現するのに必要
不可欠な技術である自動認識技術の本質について考
えてみたい。何のために自動認識技術を導入するの
とにより、
「省エネルギー」
「省資源」
「低コスト」が
か? 企業によっていろいろな理由が考えられる。
実現できるという話なら、事態は急展開する。企業
自動認識技術導入の目的として、ミスの無い発注業
経営にとって優先順位の高い項目であるからである。
務、受け入れ検品作業の効率化、ミスの無い部品組
その中でも「低コスト」(効率化)実現が最も優先さ
み付け、スムーズな段取りがえ、自動仕分け、ピッ
れる。トレーサビリティシステム構築の目的が「効
キングの効率化、配送ミスの防止、配送確認、作業
率化」実現であれば導入の閾値が最も低くなる。
「効
者の認証、入門者の認証(セキュリティの向上)など
自動認識総合展特別編集号 2007 JAISA
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が考えられる。これらに用いられる自動認識技術と
このデータベースの形態により使用されるデータキ
は、対象に付加された情報を自動的(機械的)に読み
ャリアが異なることに注意すべきである。集中シス
取って、すでに存在するデータベースと紐付けする
テムでは対象の識別情報だけあればよいため、デー
技術であると言える。重要なことは、すでに紐付け
タ量が少ない1次元シンボルやRFIDが適している。
(比較)するデータベースが存在する必要があるとい
分散システムは必要となる情報量が比較的多くなる
うことである。従って、1次元シンボルを導入してい
ため、2次元シンボル、高容量RFIDやICカードが適し
る企業がデータキャリアを1次元シンボルからRFID
ている。しかし、データキャリアの宿命として、読
に切り替えるのは比較的容易である。なぜなら、す
み取りができなかった場合を想定しなければならな
でにデータベースが存在しているからである。逆に、
い。読み取りができなかった場合、処理できないこ
データベースのまったく無い状態から自動認識シス
とになれば、自動認識システムは導入されない。1次
テムを構築するのは、十分な費用対効果の検証が必
元シンボルは10進数併記、2次元シンボルは誤り訂正
要になる。
機能があるが、RFIDはICチップが故障した場合を想
ここから、商取引に話を限定する。生産活動の発
定して、リカバリー手段を持たせることが重要であ
端は簡単に言えば、受注である。注文があるから生
る。現時点では10進数併記やリライト紙の2次元シン
産活動が行われるのである (当然、予測生産もあり得
ボルとRFIDとを組合せて複合システムによるリカバ
るが注文がなければ企業として成立しない) 。どうい
リーがよいと思われる。
う商品を、誰が、何時、何処の、誰に、いくつ、納
サプライチェーンではいろいろなデータベースシ
入するかを示しているのが、受注(発注)情報である。
ステムを紐付けする必要があるため、どうしても複
受注情報からサプライチェーンが始まるのである。
数のデータキャリアを使用する必要があることに留
この受注情報をデータベース化していない企業は少
意すべきである。また現場で、いちいちネットワー
ないと考えられる。従って、自動認識技術はこの受
クにアクセスするような現場は日本にはほとんど無
注情報のデータベースとの紐付けをまず考えるのが
いということも事実である。
自然である。
情報技術の進展により、企業規模により、データ
量により、ビジネススタイルにより、データベース
データキャリアの本質
の形態も様々である。データベースの形態は大きく3
つに分けることができる。それは、集中システム、
すでに述べたようにデータベースシステムの多様
分散システム、複合(集中+分散)システムの3つである。
性に対応するためには複数のデータキャリアの利用
が不可欠な条件となる。またデータキャリア切換え
図表3 自動認識技術の本質
時やピラミッド型産業構造に対応するためには複数
自動認識技術
のデータキャリアの使用が必須の条件になる。RFID
データベース内のデータと
対象とを比較認証する技術
を例にとって考察してみよう。まったく新規にシス
テムを導入する場合は、費用対効果の検証で導入が
自動認識技術を導入するためには、
すでにデータベースが存在することが条件
決定される。この場合は比較的システム規模が小さ
●データベース集中システム
ネットワークオンライン
●データベース分散システム
スタンドアロン
●データベース複合システム
ネットワーク上の
データベース
へのアクセスは
効率低下か?
い。(不読時のリカバリーが現物から可能)
すでに1次元シンボルを使用している場合はどうで
あろうか? 1次元シンボルからRFIDへの切り換え
データベースシステムの形態により
使用される自動認識技術が異なる
●1次元シンボル ●ICカード
●2次元シンボル ●RFID
●磁気カード ●バイオメトリクス
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JAISA 2007 自動認識総合展特別編集号
である。一般論として、RFIDは離れて読めるので本
読み取り動作は
非効率か?
来の生産活動を変更することなく読み取りができる。
1次元シンボルのように「読み取り」という追加の作
スICカードはすでに完了しており、乗車券を初めと
図表4 データキャリアの本質
して普及期に入っている。バイオメトリクスにして
データキャリア
も基本的な部分は標準化が完了した。
1種類のデータキャリアが
多用途に利用される
データキャリアが添付
された対象(物、人…)
を
識別する
不読み時のリカバリ手段
の有無がシステムの
採用に大きく影響する
クローズドシステムが
オープンシステムに
影響を与える場合がある
データキャリアの識別コード
=対象の識別コード
複数種類のデータキャリア
の活用
1次元/2次元シンボルは
影響小(狙い読み)、RFID
は影響大(離れて読める)
ICカード、RFIDは、
データ
キャリアの識別コードと
対象の識別コードとの
両方をもつ
UHF帯RFIDの出現により、データキャリアの利用
範囲が格段に広がったことは事実である。このこと
は1次元シンボル、2次元シンボル、HF帯RFIDなどの
・RFID+1次元シンボル
・ICカード+2次元シンボル
・1次元シンボル+OCR
プライバシー問題
複数のデータキャリアの共用が重要
利用が減少することを意味しない。産業界の利用シ
ーンは無数にあり、これらの利用シーンごとに最適
のデータキャリアが選択できるようになったと考え
るべきである。例えば、日本提案である2次元シンボ
ルのダイレクトマーキング規格が完了したことによ
り、本来、RFIDが苦手とする、金属部品にもローコ
業は不要である。従って、1次元シンボルの読み取り
ストでデータキャリアの付加が可能になった。この
作業をなくすことができるので、その分、効率化が
ことはRFIDの利用を減少させるものではない。そう
実現できる。この場合、本当に1次元シンボルはなく
いう意味においては、リライタブルハイブリッドメ
すことができるのであろうか? システム規模が小
ディアの標準化はRFIDの普及には不可欠な要素であ
さければ切り換えは可能であるが、ICチップが故障
り、JAISAとしても、総力をあげて成立を図る。関係
した場合のリカバリー手段として1次元シンボルは重
各位の絶大なる御協力をお願いする次第である。
これらのデータキャリアの標準化が完了すること
要である。
システム規模が大きいグループ企業内や協力企業
により、従来、部分的に使用されてきたデータキャ
までも含む場合は、すべてを同時に切り換えること
リアが製品のライフサイクル全域にわたり、環境保
は不可能である。システム移行期には1次元シンボル
全、セキュリティを加味した形で管理可能となる。B
を併用する必要がある。情報システムの常識である
to Bのビジネス形態ではサプライチェーン全域に適応
が、すでに何らかのシステムが存在する場合、新シ
可能なアプリケーションの標準化も完了したので、
ステムはアップワードコンパチを保障するのが当然
今後、爆発的な普及が期待できる。
である。当然、データキャリアシステムでも同じこ
規格開発の重点は通信、ネットワーク関連に移っ
ている。韓国が提唱したモバイルRFIDの規格開発の
とである。
データキャリアの情報は普通、データキャリアが
代表者会議が本年10月にソウルで開催される。日本
添付された商品(物)の識別情報(固有ID)である。今後
も積極的参加の意思表示をした。韓国からはモバイ
この固有IDが位置情報、センサー情報、URLなどに
ルRFIDの提案があったが、日本はすでに普及してい
拡大されているが、固有IDはプライバシーの問題と
るモバイルQRコードの提案を行うべく準備中であ
直結しており、慎重な対応が必要となる。
る。米国からは、センサーRFIDのネットワークに関
する提案がなされるようである。モバイル関連規格
は、データキャリアの利用範囲を飛躍的に拡大する
今後の展望
可能性がある。これは、主としてB to Bのビジネス分
野で用いられてきたデータキャリアがB to CやC to C
データキャリアは歴史的に、標準化が完了した時
のビジネス分野に拡大することを意味している。
点で普及(拡大)期に入る。代表的なデータキャリア
JAISAとしても積極的な対応をする所存である。会員
である1次元シンボル、2次元シンボルの標準化は完
各位の御協力を重ねてお願いする次第である。
了し、RFIDについてもほぼ完了した。コンタクトレ
自動認識総合展特別編集号 2007 JAISA
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