5近世法 1 1 近世の社会構造と法の空間 近世社会の構造幕藩体制の概略図 (武家領主) ← 将軍(幕府・公儀)*1 (統 轄) 統轄 授権 ? → 天 (領知*3) → 老中 奉行 所司代 城代 役職 (公家領主) 皇 寺社 (寺社領主) 上使 城 *1 関白型公儀(←天皇権威) 将軍型公儀(←武威) *2 将軍型大名(領域) 官僚型大名(譜代) 郭 郷 在府 在所 大名(藩) □□ *2 村 郡代 遠国奉行 (領知*3) □□役人(郡・町奉行) 禁裏御料 寺社領 村・町役人(庄屋等) *3 領知 庶民(農・工・商) 2 御料=天領 □□ 領分=大名 知行=旗本 給知=御家人 近世法の全体像 ⑴領主法 ⒜公家領主法:現実の効力と観念上の全国法 ⒝寺社領主法 ⒞武家領主法:個別的領域支配の法*>統一的国家法 ①将軍(=幕府法) 制定法:将軍朱印・黒印状 老中奉書 〔武家諸法度〕・服忌令・触書 法曹法(=判例集):(裁許帳・犯科帳)・御仕置例類集・ 〔公事方御定書〕 ②□□(=藩法):個別領知法* 刑法規定に注目=明清律系・幕府法系・折衷 ③□□(=知行法) ⑵庶民法 ⒜団体法 :地域団体(=〔村法〕・町法) 職業・身分団体(=仲間法・座法) 宗教団体(=寺法・社法・宗法) ⒝一般庶民法:民事・商事・親族・相続etc 民間の慣習法) 20 日本法制史(2016前期 Wed5・6)3/3 5近世法 1 2 武家領主法と御定書 幕府法の概略 ⑴制定法:「法令・法度・掟・定」「条目・条々(←箇条書)」 将軍□□状・黒印状・老中□□ *武家諸法度・服忌令・*触 ⑵法曹法〔判例集〕 評定所古来御仕置書抜 (1691~1716、 3冊) =御仕置部類 (留帳 100冊内) 御仕置裁許帳 (宝永年間) (長崎奉行所) 犯科帳 (1666~1867、145 冊) 裁許帳 (1702~1867、45冊) =民事事件 御仕置例類集(古類集・新類集・続類集・天保類集・新々類集) 以上并武家御扶持人例書=武士に関する刑事判例集 〔*公事方御定書〕 2 〔法律書〕問答書・地方書 武家諸法度 〔第Ⅰ期〕成立完成期 〔第Ⅱ期〕天和令復用、歴代襲用の例 ①1615元和令13条 ②1635寛永12家光令19条 〔第Ⅲ期〕動揺期 ③1683天和令 ④1710宝永新令 「文武弓馬之道、専可相嗜事」以下、居城の新築禁止・修築の届出義務、大名間 の無許可并婚姻禁止、参勤交替の義務・方法、領内政務の励行、五百石以上の 造船禁止、関所津留の新設禁止(②) 3 公事方御定書 ⑴制定 吉宗により□□改革の一環として制定 享保9 享保度法律類寄 寛保2.6 公事方御定書成立(形式的完成) 延享3.4 「御定書ニ添候例書」 ⑵内容 上巻81条 :警察行政・行刑に関する重要な書付・触書・高札類 下巻 103条:刑罰規定・刑事訴訟法規定 ⑶性格 ①御定書制定以後も判例の適用を妨げず ②□□法典 ③各条項が抽象的・一般的な法原則であると容易に決定できないこと ④私法的規定が混在(=刑事法のみならず) 21 日本法制史(2016前期 Wed5・6)3/3 4 触 一般的な単行の制定法 「御触」「触書」「触事」 忘れることは前提<御触も年を経候得ば忘却も致すべく哉>→同一の反復触出 ⑴制定・交付 御用部屋 合議・決定⇦ □□□ 組頭が調査・起案に関与 ←老中etc 権力者の政策的意図 ⇩ 将 達 軍 裁可⇨公布 ⇨表右筆 写作成⇨ ⇦ 書付 ↓ ↓ <大目付> →大名(諸藩) 三奉行 <目 →旗本 付> →町村役人→回覧 □□ ⑵適用 全国法・恒久法 ①幕府の全国的支配権に属するもの ②幕府□□内に限定されるもの 5 藩 法 ⑴藩法の二面性 ①狭義:大名が独自に定めた制定法と,その権力機構内で発達した法曹法 ②広義:大名の支配領域(=領分)および江戸等の屋敷内に行われる領主法 ⑵藩の制定法 ⑶藩法と幕法 ①公儀御触がそのまま藩によって配布される場合 ②藩が幕府の触を遵奉しない場合 ③本来大名に宛てられたのではない幕法を参照し,これを藩の制定法にする場合 ⑷刑法典 ①明律系の藩刑法典:□□法の部分的継受として問題になる 熊本藩・□□□□□ 弘前藩・御刑法牒 会津藩・刑則 和歌山藩・国律 新発田藩・新律 高知藩・ 海南政典 〔中国法典摂取の動機〕 刑罰体系の破綻:当時多くの藩が直面 esp死刑・□□刑以外の刑種の模索 ②御定書を模倣した藩刑法典 22 日本法制史(2016前期 Wed5・6)3/3 5近世法 1 3 犯罪と刑罰の法 近世の裁判 石井良助『江戸の刑罰』(中公新書) ⑴裁判機関(裁判権) ①大名(=地頭):自分□□が原則→独自の判例集 ②特定集団 eg熊本藩「御刑法草書」 →庶民社会の法 ③幕府 :直轄領および他領・他支配の訴訟 esp.評定所 将軍御直裁判~代官・遠国奉行 1)評定所□□:寺社奉行・町奉行・(公事方)勘定奉行全員の合議体 老中の諮問機関+裁判機関(評定公事・一座掛詮議物) 2)裁判の場所として重要な吟味物の裁判(五手掛・三手掛) ⑵裁判の類型(訴訟手続による区別) ①出入物(=公事):民事に相当する(但し民事・刑事両訴訟手続と考えるべき) ②□□物 :刑事訴訟に相当(火付・盗賊・人殺・逆罪などは必ず吟味筋) 平松義郎『近世刑事訴訟法の研究』 ⑶吟味筋の手続 私人による □□提出 ↓ 被害届 ↓ 密告・告発 □□:海老責・釣責 捜査・逮捕 (狭義) 職権による 差紙による召喚 被疑者糺審 牢問:石抱 →自白・承引> <吟味 ↓ 吟味詰口書⇨申渡 2 近世の刑罰(仕置) 御咎め:軽い仕置・・「不埓・不束・不念」 御仕置:重い刑・・・「不届」 (判決申渡文) ⑴『公事方御定書』 103条「御仕置仕形之事」 主に百姓・町人に対する仕置の種類と執行方法を規定 ⑵刑罰の体系 ①□□刑 ②□□刑 鋸挽 斬罪 獄門 死罪 火罪 下手人 入墨 敲(=庶人の男子にのみ 軽敲50・重敲 100) 剃髪・親元帰し(離縁状なく他に嫁した女、縁談の決まった女の不義) 23 日本法制史(2016前期 Wed5・6)3/3 ③□□刑 遠嶋:伊豆七島(=八丈島・三宅島・新島←江戸) 薩摩・五島・隠岐・壱岐・天草(←大坂・西国・中国) 重追放 中追放 軽追放 江戸十里四方払・江戸払(大坂は三郷払、京都は洛中払)・所払 ◇追放刑は犯罪人の生害を奪い,無宿人の増加を来すなど弊害あり ⇨1722諸藩の追放刑を禁止 牢(未決拘留・遠嶋刑で出船待の囚人の拘留) 過怠牢(女子・幼年者の敲刑etc.に対する換刑) 永牢 (軽い自由刑)閉門・逼塞・遠慮(武士・僧侶)、戸〆・手鎖(庶民)、押込 (僧尼に対して)追院・退院 ④□□刑 闕所(重罪者の付加刑) 過料(=罰金) ⑤身分刑 奴 非人手下 ⑥名誉刑 役儀取上・叱 遊女奉公の強制 ⑵その他の刑事政策 ①佐渡水替人足(無宿者への威嚇・保安処分) ②人足□□ (犯罪のおそれある無宿の授産更生を目的) ◇保安処分として発足しながら、後には自由刑執行と混同 ⑶刑罰の段取 ⇨人足寄場の限界 (1806文化3完成) 〔普通刑罰体系〕 〔特別刑罰体系〕=盗賊御仕置段取 磔 主として盗犯に対する刑 獄門(=火罪) (賊刑・盗刑) 死罪(>下手人) 死罪 遠嶋 累犯処罰の体系として ⇧ 肉刑 重追放 中追放 軽追放 払えなければ 入墨刑 ← × →↑入墨重敲 敲 ← × →↑入墨敲 両者の複合刑 × →↑入墨 江戸十里四方追放← (過料) 独自の意義 江戸払 ← →↑重敲 →所払 ← →↑敲 刑 →手鎖 急度叱・叱 ◇一等重きは一段上り、一等軽きは二段下る 24 日本法制史(2016前期 Wed5・6)3/3 5近世法4 1 庶民社会の法と出入でいり 領主法と庶民法 ⑴庶民生活と法の領域 ⑵庶民法(→村法・町法・仲間法) 2 出入物 ⑴目安懸りの訴訟 小早川欣吾『近世民事訴訟法の研究』 ①□公事:通常民事訴訟 ②□公事:特別民事訴訟 ③仲間事:訴訟法上無保護の債権関係→「無取上」=自然債務 ⑵出入筋の手続 訴訟人(原告) (裏判訴状) ↓ <目 ← 安>→ 月番裁判所 <裏判下付> 相 方 出 廷 ↑ 相手方(町村役人) <答弁書> 対 下役による 留役・調 役与力 奉行所 25 日本法制史(2016前期 Wed5・6)3/3 ・他支配の被告の場合は 代官・領主の添簡 ・目安糺:訴状の形式・内容 ・管轄 ・裏書には差日(=原被双方の 出廷日)記載 決(初而公事合)<一通吟味> 白州における概略吟味 :審 問 <追々吟味> 口書作成(=裁判調書) ↓ :両当事者の押印 □□ 裁許状作成 裁 許 ↓ ⇩ 内済取替証文の提出→済口聞届 ⇩ 裁許請証文・ 裏判消印願(双方)提出〔訴訟終了〕 3 村 法 前田正治『日本近世村法の研究』 ⑴村法の意味 近世村落(⇦庄園村落)における村民の自治的規約、大部分は不文の慣習法 村定・村極・村掟・村中取締一札・条々・条目・法度・覚 申合・議定・協約・連判状etc.(起請文の形もある) ⑵村法の由来 ①中世庄園の隠置文(□□同心) ②戦国期の村法 (□□契状) ③検地と逃散 (傘連判状) ⑶内容・性格 ①強制作用としての制裁:一定限度の制裁権は村法上の慣習として領主が黙認 ⇦封建的協同体的性格に因 □□□(村法に独自的な制裁) 追放(村法上最も重い制裁罰) 過料(適用の最も多い制裁罰) 協同意識への違反 ⇩ 制裁事由 陳謝 ⇩ 領主法上の犯罪 概念とは相違 体罰(簀巻・片鬢剃・晒etc.) 1) 親不孝・集会不参・農事不出精 過料以外の財産的制裁 2) 農耕・用水秩序違反 自由刑的制裁(謹慎・手鎖) 3) 博奕・山盗・畑盗 ②入会争論に関する村法 ③倹約と「五人組前書」 ④村の組織に関する規定: 村寄合への出席義務、決議の遵守を要求 年貢・村費・出役の義務、農耕・用水秩序に関する規制 4 近世の村落 ⑴近世的村落の形成 ①氏族村落 ②律令郷村制 ③庄園村落 →惣村 ④近世村落 ←検地 ⑵村落の自治と幕藩体制 ⒜地縁団体(←自然村落) →<行政組織に編入> ⒝公法的な行政区画 ⒞一定範囲の自治 ⑶村落の構成 本百姓(=高持・平百姓・小前) □□百姓(=小作人) 26 日本法制史(2016前期 Wed5・6)3/3 郷士・僧尼・神官・職人・商人 名子・披官・穢多・非人 ⑷法的性格:法人格 村役人と村民の総体より成る総合人(ゲルマンGenossenschaft ) ・村自体が納税・土地所有・契約・債務負担・訴訟etc.権利義務の主体: ⇩⇧ 村民各個の変動に影響されない〔単一体〕 ・各村民の人格と分離・独立・対立せず ⇩⇧ 村民の人格によって組織され支持される〔実在的総合人〕 ⑸村役人(村方三役) ①名主・庄屋:村政一般を管掌、対外問題には村を代表 代官・地頭よりの御触の伝達 宗門改・人別改(=戸籍事務) 年貢の割当・取立・上納および村費の賦課・取立(=財政事務) 公水利・土木(=地方行政事務) 風紀取締・消防・水防(=警察事務) 訴訟・争論の仲裁、訴状・証書etc 加判 ②組頭・年寄(長百姓・畔頭) ③□□代(横目) ⑹村□□(村民の集会) ①村民の利害事項についての協議・決定機関(定期・臨時) ②村民の集会出席義務を強調(→故なく欠席すれば村制裁) 5町法・6仲間法(略) 近代法への展開 1 幕末・維新と法 天皇権の復活 ⑴タイクーンとミカド ⑵条約の締結と勅許 ⑶幕政の破綻 外交権の帰属 外圧と内圧 ⑷明治維新の必然性 2 外国人の見た幕末の法権 農本主義と資本主義 中央集権体制の組み替え ⑴尊皇攘夷と倒幕運動 ⑵王政復古 ⑶版籍奉還 ⑷廃藩置県 3 近代法への展開 1 シラバス 前近代日本の法と社会を体系的に把握するために 2 近代法への道程 法の大規模継受 ⑴旧刑法の制定←改定律例←新律綱領←仮刑律←御定書 ⑵明治憲法の成立 藩閥政府と自由民権運動 ⑶法典論争と民法典の編纂 ⑷近代法体制の確立 27 日本法制史(2016前期 Wed5・6)3/3 による回顧 トピックス (抜粋) 近代化の背景となった近世の社会モデル 法圏の移動 大名の所替を中心に 転封の関係史料を類型化してみると、一方において、大名家中がいくつかの領分を転々 としつつ、家中とともに持ち歩いた数少ない記録があり、他方において、固定した空間 (領域)を通過したいくつかの大名家中が、その領知期間に残した藩政の史料があるとい う、当然の認識を得るであろう。やや飛躍するが、これらを領知の法の記録になぞらえる ならば、家中に固有の、転封に伴って持ち込まれ、また持ち去られた家法の部分と、それ 。ここで取り上げる らを含んで領域に定着した領域法の部分に峻別できるように 「松平乗邑文書」は、伝存の形態と記録の内容という両側面から、右に述べた二つの類型 をみごとに兼ね併せた、極めて稀な転封の、そして同時に藩政の記録である。近世の一時 期、乗邑が当主であった大給松平家中は、中小規模の譜代大名の例に洩れず、典型的な転 封の家の一つであった。以後数度の所替を超えて伝わった経路は図2に示す同家の軌跡か ら明らかになるであろう。 図2 〔移封年〕 大給松平家の移動歴 〔城主〕 〔入封地・城〕 1661寛文 1 上野・那波(伊勢崎市) 家乗 美濃・岩村(恵那郡岩村町) 乗寿 遠江・浜松(浜松市) 上野・館林(館林市) 乗久 下総・佐倉(佐倉市) 1678延宝 6 肥前・唐津(唐津市) 1601慶長 6 1638寛永15 1644正保 1 1691元禄 4 1710宝永 7 1717享保 2 1723享保 8 1746延享 3 1764明和 1 元禄3 乗邑 従五下和泉守 13 勢州亀山住・勢州於亀山 勢州亀山住 山城・淀 (京都市) 城州於淀 大坂城代 (左近将監) 享保7 下総・佐倉(佐倉市) 老中 10従四下 総州於佐倉 元文2 勝手掛老中 於総州佐倉 罷免・蟄居 延享2 延享2 乗佑 のり 出羽・山形(山形市) さと 没(月心英忠源寿院) 於羽州山形 三河・西尾(西尾市) 於三州西尾 乗完 志摩・鳥羽(鳥羽市) 伊勢・亀山(亀山市) 乗秩 * 〔国友銘〕* 乗全 正栄 貞栄 貞栄 貞栄 命明 正命 正命 乗寛 国友銘は大給松平家の転封に従って移住した刀鍛冶.鍔銘に見える地名は 大名家中の移動に随伴した職人社会を如実に表現する. 家中が残したもの ①亀山拾冊 領知の記録と法令 ②鳥羽藩日記 転封の実務記録 ③近代化に適応する処理の機構とシステム 28 日本法制史(2016前期 Wed5・6)3/3
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