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日本法制史
◆2016年後期版◆
前近代日本の法と社会を体系的に把握するために
1
2
講義の目的
そこで経過した千数百年を法と制
東アジアの、さらに東の端に位置する日本列島
度という観点から体系的に把握する。日本史の基礎知識を法という観点から整理し、歴
史学と社会科学的な視点から再構成する柔軟な発想を養ってほしい。同時に、法史学情
報をITツールを駆使して取得する手法を提示することも試みたい。
講義の内容(日程には多少のズレがあります)
2
1 法制史学の概要
日本法制史の時代区分
〔09月14日〕
〔09月16・21・23日〕
1
2
法の生成と氏族社会
法のり罪つみ罰はらえ と裁判ことはり
〔09月28日〕
〔09月30日〕
1
律令法の継受
(同上2)
律令法の体系
令制行政機構と構成原理
(同上2)
律令刑事法① 律の構成原理
律令刑事法② 犯罪と刑罰と裁判
転換期の法と国家
〔10月05日〕
〔10月07日〕
〔10月12日〕
〔10月14日〕
〔10月19日〕
〔10月21日〕
〔10月26日〕
〔10月28日〕
2
3
4
中世の社会構造と三法圏
(同上2)
中世の三法圏 公家法と本所法
御成敗式目の世界と封建制
中世の法概念 職と知行
〔11月09日〕
〔11月11日〕
〔11月16日〕
〔11月18日〕
〔11月23日〕
1
2
武家社会の構造変化
戦国家法の制定と機能
〔11月25日〕
〔11月30日〕
2
3
4
5
6
1
1
3
〔講義予定日〕
近世の社会構造と法の空間
(同上2)
2 武家領主法① 幕府法
3 武家領主法② 犯罪と刑罰の法
4 武家領主法③ 藩法と地域社会
5 裁判のシステム 吟味と出入
6 庶民社会の構造と法の空間
7 村法の諸相
近代法への展開
過去の定期試験問題例
一問選択,具体的かつ簡潔に論ぜよ.
〔12月02日〕
〔12月07日〕
〔12月09日〕
〔12月14日〕
〔12月16日〕
〔12月21日〕
〔01月06日〕
〔01月11日〕
〔01月13日〕
法源の進化(逆進化)という観点から,日本法の移り
変わりを論ぜよ/律令法の構成原理(法の体系)を説明し,以後の日本法への影響を論ぜよ/中世に
おける法の世界を概観し,新しく登場した武家法の原理を論ぜよ/近世法の全体像を説明し、庶民法
の具体像および幕藩法との関連を論ぜよ/①~③のうち一問選択.裁判(刑事または民事)の手続き
を説明し,法の世界を中心とする当時の社会
4
状況を描きなさい.①断罪②所務沙汰③公事(近世)
留意点と希望
毎回出席→全員合格!を希望する.
時間の終わりにミニレポート(10分程度) 講義→授業→授業評価
法制史研究会URL http://wwwhou1.meijo-u.ac.jp/housei2/index.html
1
日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
はじめに
1
法制史学の概要
法制史学の概要
⑴世界の諸法系
〔日 本〕
律令法←
↓
武家法
↓
↓ ←
近代法
↓ ←
↓
現代法←
⑵法
中国法
エジプト法
インド法
□□□
ドイツ法
フランス法
英米法
源
不文法
⇧
⇩
成文法
⇔
⇔
⑶法の時空
⑷法の舞台と法文化
2
メソポタミア法
法
ギリシャ法
□□□□法
イ
ス
ラ
ム
法
慣習法
①不文慣習法
⇧
②不文制定法
⇩
③成文慣習法
制定法
④成文制定法
(日本にも法化社会の到来)
日本法制史の体系
⑴原始法
歴史法に先立つ一つの体系, 未知の分野?
ユーラシア大陸を舞台とする壮大な ロマンを語る←猪熊兼繁
Ⅰ古代法
⑵氏族法
氏族社会における不文の制定法、原初的な意味での固有法
法源は「のり」、氏上が神意を宣る神授法=法と宗教は未分化
⑶律令法
7C中国法の継受によって成立、これが変質して固有法化する一連の過程を
含む法の体系
Ⅱ中世法
⑷武家法
律令 中国法の全面継受による日本最初の大成文法典
格式 律令の変更・細則
⇨新立法を含
慣習法 律令 格式のプロセスで発生
んで公家法
本所法 荘園支配の法
寺社法 宗門・寺社内規制
12C 武家政権の成立とともに武士・武家領を支配する法体系
「□□」の意識を中核として公家法 (家法的要素が内在)+本所法
Ⅲ近世法
⒜鎌倉幕府法
武家法・公家法・本所法の鼎立
⒝室町幕府法
武家法の優越
幕府法・分国法に分化、法権は分裂
⒞戦国家法(分国法)
⒟江戸幕府法
制定法律は多いが一般的には慣習法が支配的、訴訟では判
前期:武家諸法度その他の封建制維持立法
例法を重視
中期:公事方御定書以後は立法の重点が民政に移行
諸大名は藩法を制定 (幕府法系・□□律系・折衷系)
領主法と民衆法(=村法・町法・座法・仲間法)
Ⅳ近代法
⇨Ⅴ現代法
2
日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
はじめに
1
2
時代区分
Ⅰ古代法
原始法
氏族法
日本法制史の時代区分
A
石井
良助『日本法制史概説』
不文慣習法
上代
⑴上代
603推古天皇11
律令法
702大宝 2
⑵上世
810弘仁元
967康保 4
Ⅱ中世法
1185文治元
武家法
中代
⑶中世
1333元弘 3
1467応仁元
Ⅲ近世法
1600慶長 5
⑷近世
1742寛保 2
1858安政 5
Ⅳ近代法
縄文・弥生時代
大和時代
冠位十二階の制定
前期 飛鳥時代
大宝律令施行
中期 奈良時代
蔵人所設置
後期 平安時代前期
摂関常置体制の開始
前期 平安時代後期
守護地頭設置の勅許
中期 鎌倉時代
後醍醐天皇の還幸
後期 室町時代
応仁の乱勃発
前期 安土・桃山時代
関が原の戦
中期 江戸時代前期
公事方御定書完成
後期 江戸時代後期
日米修好通商条約締結
⑸近代
明治~
敗戦
近代
1945昭和20
不文制定法
時代区分
⑹現代
Ⅰ
B
固有法時代
成文慣習法
成文制定法
?
判例法
Ⅴ現代法
2
成文制定法
瀧川政次郎『日本法制史研究』
⒜純固有法時代
Ⅱ
⒝大陸法継受時代
中国継受法時代
⒜律令時代
⒝固有法復活時代
Ⅲ
融合法時代:各法系割拠
行事(=慣習法)
⒜式目時代
判例・傍例(=先例)
⒝国法時代
⒞定書時代
Ⅳ
欧米継受法時代
3
日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
1上代法⑴
1
法の生成と法のり罪つみ罰はらえ 裁判ことはり
法の生成
⇦猪熊兼繁『法史学素描』
⑴春耕秋収=人間生活の定型化
cf
農耕社会
遊牧社会
慣習(法)
自然の力・神々の力・財産の力⇨〔支配=服従〕〔保護=奉仕〕
⑵集団の組織原理(?)
big-man → chiefdom → kingdom⇨
state
(←日文研共同研究「王権と儀礼」)
2
上代の時期区分
⑴初期氏族社会(=先史時代)
〔新石器~金石併用時代〕
農耕の始まり→氏族制度の萌芽(分立・対立状態)
規範力は宗教的威力(?)
⑵統合的氏族社会
〔前期古墳時代(2,3 ~4,5 世紀) 〕
〔魏志倭人伝〕倭人在帯方東南大海之中 (略) 其国本亦次男子為王、住七八十年
倭国乱、相攻伐歴年、乃共立一女子為王、名曰□□□、事□□、能惑衆、
年已長大、無夫婿 (略)
cf女治:
佐喜真興英『女人政治考』 (人類原始規範の研究)
女性は法 (原始規範) の維持執行者×男性は法の違反者
宗教的呪力(=呪術)によって支配された祭政一致の社会
⇨天皇氏を中心とする氏族連合国家の成立
〔5C応神天皇の韓土経営~上代末〕
⑶氏姓社会:国家観念の発達
宗教の社会規範力は衰退
3
氏族社会
⑴貴族: 氏姓階級
⑵公民: 国造・稲置等(=朝廷の地方官)の支配を受ける天皇直轄民
⑶部
イ) 品部: 朝廷で編成, 管理を諸氏の氏上(=伴造) に委嘱
ロ) 私民部・部曲
⑷奴婢(=やつこ・家之子):氏人に隷属
4
日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
4
法
源(法のり)
『宮崎道三郎先生法制史論集』
⑴上代法の系統⇨上代人の系統
中田
薫『法制史論集』
⑵上代法の淵源=不文の制定法
のり(cf神授法):規範(=国法) の定立×宗教・道徳・風俗上の規範
〔記紀の用例〕「太古之遺法いにしへのこれるのり」
法
法則
制
式
教
憲
則
風
礼
典
内教
法式
度
律
法と宗教の未分離の状態:法 (とよぶもの) の規範力は宗教的威力により維持
神
↓
が支配する社会
(cfイスラム法学者・宗教指導者)
(神秘的威力)
↓
首長
↓
氏族統率
祭・奉: 神に仕えて神意を知ること=政事
儒教の伝来:法と宗教を分離⇦修身・斉家・□□・平天下=王土王民の思想
5
罪つみと罰はらえ
⑴つみ
⒜天津罪:〔畔放・溝埋・樋放・頻蒔・串刺〕
(8条)
〔生剥・逆剥・屎戸〕
*農耕・土地占有・財産に対する侵害行為&人命殺傷行為
⒝国津罪〔けがれ〕生膚断
(14条) 〔災〕
死膚断
昆虫之災
〔呪術〕
畜什志
白人
高津神之災
胡久美
高津鳥之災
蠱物為罪
〔性秩序〕己母犯罪
己子犯罪
母与子犯罪
*人民が古来, 当国土で犯してきた罪
子与母犯罪
畜犯罪
〔延喜式大祓詞〕
石尾芳久『日本古代法の研究』
⑵はらえ
通常
祓具の提供(→財産刑の萌芽?)(除凶之礼=呪術の宗教化?)
禊
重罪
6
穢れの除去:罪人を国外に放逐(→追放刑の萌芽?)
裁判ことはり(ことはる・さばく・わきまへる)
⑴
裁判権(氏上⇨
⑵
訴訟手続
神判(神証⇨
)
)
イ) 盟神探湯
ハ) 卜
ロ) 蛇裁判
ニ) うけひ
5
日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
占
2上世法
1
1
律令法の継受と法の体系
律令法の継受と編纂
律令法の継受と日本的展開
⑴上世の時期区分
①前期(603~702): 大化改新を中心とする律令編纂期
推古天皇11年=冠位十二階の制定:大小の徳・仁・礼・信・義・智(色別)
皇極天皇4(=大化元) 大化改新
→同2.正
改新の詔 (於難波長柄豊崎宮)
大化5年:冠位十九階の制定
⇨儒教 (修身→斉家→治国→平天下) の影響
⇨中国的国家思想←氏族・家
②中期(702~810): 奈良時代を中心とする律令全盛期
大宝元年:大宝律令の制定→大宝2年施行:改新の詔の理想を一応達成
養老2年:養老律令の制定 (→ 施行は天平勝宝9)
⒜公地 <口分田を基礎とする班田収授法>
⒞租庸調を財源とする
⒝公民 <戸籍の制> を基礎とし
⒟天皇親政の中央集権的国家体制
<律令官僚制><太政官政治> は最もよく実現された⇨律令国家の全盛期?
cf 723養老7 墾田三世一身法 743天平15墾田永代私財法
792延暦11軍団制の廃止
③後期(810~967): 平安時代前半の律令衰退期(=転換期)
律令衰退期:口分田の班年の延長・遅延→(⒜⒝⒞の弛緩・実行不能
弘仁元年:
□□□の設置 (嵯峨天皇)→側近政治=公私混淆の開始
(→⒟官僚機構の変質)
律令法→格式法
2
律令の編纂
⑴近江令 (22巻)
668天智7制定、程なく施行
(←唐太宗の貞観令)
668〔弘仁格序〕*至天智天皇元年制令廿二巻、世人所謂近江朝廷之令也 (制定)
671〔書紀
天智天皇10〕春正月甲辰、東宮皇太弟奉宣、施行冠位法度之事、
大赦天下、
⑵浄御原令 (22巻)681天武10編修開始、完成時不明
689持統3施行
(施行)
<飛鳥浄御原令・天武令>
(←高宗の永徽律令)
〔書紀
天武10〕 (略) 朕今更欲定律令改法式、故倶修是事、
(制定)
〔書紀
持統 3〕六月庚戌(=29日) 班賜諸司令一部廿二巻、
(施行)
6
日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
⑶大宝律令 (律6巻・令11巻)
701大宝元年制定、翌年施行
700〔続紀〕文武天皇4.3.15詔諸王臣読習令文、又撰定律条、
(着手年不明、撰定途上)
701
大宝元.3.21 始依新令、制官名位号 (略) 始停賜冠、易以位記、
元.8. 3(略) 撰定律令、於是始成、大略以浄御原朝廷為准正、
元.10.14頒下律令干天下諸国、
⑷□□律令 (律令各10巻)
718養老2編修開始
3
2~3年後に一応完成
757天平勝宝9施行
律令法の体系
⑴
律令格式
〔弘仁格式序〕
蓋聞、律以□□為宗、令以□□為本、格則量時立制、式則補闕
拾遺、四者相須足以垂範、古者世質時素、法令未彰、無為而治、不粛而化、
曁乎推古天皇十二年、上宮太子親作憲法十七箇条、国家制法自茲始焉、*爰
逮文武天皇大宝元年(藤原)不比等奉勅撰律六巻令十一巻、養老二年・・更
撰律令,各為十巻、今行於世律令是也 (略) 養老年中・・刊修律令 (略)
cf〔唐六典〕凡律以正刑定罪、令以設範、格以禁違正邪、式以軌物程事、
①律 (懲粛法):
刑罰法
禁止法
刑法
②令 (勧誡法):
非刑罰法
教令法
行政法 (的規定)
③格: 律令を補足・変更する規定、またはそれを類聚編纂したもの
→『類聚三代格』
④式: 律令格施行の細則、またはそれを類聚編纂したもの
弘仁式・貞観式・延喜式→『延喜式』
⑵
法体系の混同
①律令・格式の出入
〔官位令集解〕令有律語、律有令語、格者蓋量時立制、或破律令出矣、或助律令
出矣、但有称律謂格文耳、其式者補法令闕、拾法令遺、但有称律謂式処耳、
②根本法と補足修正の法
③法の実効性←法社会学的関心(分析・評価は未完)
7
日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
2上世法
2
令制行政機構と構成原理
1二官八省 (一台五衛府) 制
⑴二官 1) 神祇官:祭祀を掌る任
2) 太政官:現世的な政治に関与する官、綱紀維持・治邦国が任務
(長官)
太政大臣
(次官)
左大臣
(判官)
大納言
右大臣
(主典)
左□官
史
少納言
外記
右□官
史
中務・式部・治部・民部省
兵部・刑部・大蔵・宮内省
* 令制の官以外に□大臣・□納言・参議・権大納言・権中納言
⑵八省 1) 中務省(←中書省)
4) 民部省(←戸部)
7) 大蔵省(←大府寺)
2) 式部省(←吏部)
5) 兵部省(←兵部)
8) 宮内省
3) 治部省(←礼部)
6) 刑部省(←刑部)
これら八省には被官の諸官司が付属、権限の大小により寮・司・職を置く
2
官僚機構の構成原理
⑴官位相当制
官職←職員令 (職掌・員数)
⇨官低位高、位階の集約化
位階←官位令
⑵四等官制
〔1〕
〔2〕
〔3〕
〔4〕
神祇官
伯
副
祐
史
八
省
卿
輔
丞
録
〃
2位
弾正台
尹
弼
忠
疏
〃
3位
衛
府
督
佐
尉
志
〃
4位上・下
京
職
大夫
亮
進
属
外・
〃
5位
〃
太宰府
帥
弐
監
典
〃
〃
6位
〃
国
守
□
掾
□
〃
〃
7位
〃
郡
大領
少領
主政
主帳
〃
〃
8位
〃
大・少初位
〃
正・従1位
〃
8
日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
⑶地方官制:□□□という画一的な地方制度+特別地域としての京職・摂津職・太宰府
1) 京
2)
坊令(4坊ごと)
師:左右京職
国
坊長
:大・上・中・下の等級 (定めた式は不明)
畿内5
東海道15
東山道8
北陸道7
山陽道8
南海道6
西海道(9国 2島)
上12~
中 8~
下 4~
山陰道8
郡
:大20~16
小~2 ( 戸令)
里
:50戸、里長は里内の百姓の中から清正強幹のものを任じた
戸
:郷戸 (内に房戸)
3) 太宰府 (遠の朝廷)
4) 摂津職 (←難波京)
793延暦12廃止
⑷軍事制度 1) 五衛府:宮城・中央官庁の警固
2) 軍
団:諸国 (国ごと 1~数個) 国司の指揮監督の下、地方の軍事的諸役
割、兵士は正丁の内から 3人に 1人の割で徴発された農民
防人司=太宰府管轄下、外敵防禦のため
ともに負担は過酷
鎮守府=令外官、陸奥蝦夷征討のため
3
官僚制から貴族制への転換
大化改新の後、整備されてきた行政組織(=官制) は、大宝令の制定によって名実と
もに完成:
氏姓的閥族の打破
大化 5
八省百官の制設立←唐制の修正・簡略化による国情斟酌
相剋のプロセス
<氏姓制度×官位制度>
↓
eg太政官・神祇官の併立
(三師・三公・尚書令 7官を
太政大臣 1官に)
大宝令:一般官吏の採用には氏姓不問、個人の能力による任官
しかし重要な官職は実際において世襲されることとなった
⑴□□制と官位相当制の結合
五位以上の有位者の子孫に位階→相当の官職
国政を左右する高級官吏に意味あり
⑵郡領の譜第任用制
郡司は前代の国造の後身=譜第の家柄に世襲させる方式
官吏としては下級官の郡司は常に人民に接する役人として行政の
実際上は重要な立場
主要官司の組織を規定したのは職員令、令制定の後、必要に応じて新たな官職が
設置され、□□官と称された.
9
日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
2上世法
1
3
律令刑事法
犯罪と刑罰と裁判
律の構造 (養老律 500条)
⑴総則的規定
①名例律(←中国の古代に刑名・法例律)
(ア) 五刑
(ウ) 六議
笞
10~ 50
(イ) 八虐
謀反
杖
60~100
謀大逆
徒
1~3年(半年ごと)
□□
流
近・中・遠
悪逆
死
絞・斬
不道
親
(エ) 議章
大不敬
故
請章
□□
賢
減章
不義
能
贖章
功
(オ) 官当・除名・免官・減贖・自首
⑵各則的規定
2
①衛禁律
宮城警備・関所守固
②職制律
違勅・収賄・監守盗・職権濫用
③戸婚律
戸籍・婚姻・縁組等の違反
④厩庫律
官牧・官庫・飼育家畜等に関する規定
⑤擅興律
擅に兵馬を発する軍事に関する規定
⑥賊盗律
謀反・強窃盗・殺人・移郷・略取誘拐
⑦闘訟律
喧嘩・打撲・傷害・過失殺傷・戯殺・誣告・監禁
⑧詐偽律
詐欺・横領・通貨偽造・文書偽造行使・奏事不実
⑨雑
違令・違式・医師誤診・強姦・姦通・放火
律
⑩捕亡律
罪人・失囚等の追捕
⑪断獄律
不拷訊の事、衆証の事、拷問・職権濫用
律の構成原理
⑴思想的背景
①□□思想:家を中心(斉家)→天下国家に拡大:仁政(治国・平天下)〔孝〕
②□□思想:国を中心:信賞必罰の法(→不別親疎,不殊貴賎)
③仏教思想:大乗仏教の慈悲の観念:寛刑
⑵犯罪の成立と罪刑法定主義=臣下守法
④怨霊思想?(←氏族法)
cf近代刑法〔個人の権利×国家権力〕
①罪刑法定主義:諸司断事、悉依律令正文 (養老獄令)
断罪、皆須具引律令格式正文 (同
10
日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
〔忠〕
断獄律)
②犯罪行為の成立:
故
失(誤)
縁座(=近親者)
連座(官人の公罪)
責任能力:刑罰適応能力←儒家の仁政思想×有責行為能力
犯罪態様:親族相隠・自首覚挙等の免罪&共犯・更犯・二罪以上倶発等の規定
各種違法類型⇨各則規定
⑶法としての完成度:〔法規の抽象化・単純化〕×〔具体的煩瑣な多数条項〕
⑷刑罰の体系
3
①正刑(=五刑)
②換刑
1)贖
2)官当
③附加刑
1)免所居官
2)免官
④減刑
1)例減
2)僧に対する閏刑(←僧尼令)
3)除名
4)没官
5)移郷
裁判機関(=行政機関)
刑部省
太政官
天皇
在京諸司
:負債・良賎・名籍
治部省
:婚姻・譜第の訴訟
↓
京
↑
国
郡
太宰府
国
弾正台
4
3)加杖・留住役
職
郡
訴訟と断罪
一系統説と二系統説
⑴公式令の手続
訴訟追摂条集解
此条就財物訴訟耳
受事条
是此則物争歟、若以入罪之事訴者不在此例 (略)
〔□□〕
⑵獄
令の手続
〔□□〕
集解
①受訴官司
②公式令
③行事
①告言
④政事要略
〔不告不理の原則〕
②三審:罪責追求の意思確認手続⇨双方拘禁
③審理:五聴を働かせて心証形成⇨拷問
〔当事者平等主義〕
④判決:鞫状(=取調書) 作成→弁定・弁証→断文案⇨判決(=告知・伏弁)
⑤覆審
5
律令裁判制度の実効性と令制裁判手続以降の変化
〔検非違使庁の裁判〕
判決の権限は全て使庁に
×律令裁判制度の実効性
朝家置此職以来、衛府追捕、弾正糺弾、刑部判断、京職訴訟、併帰使庁(職原抄)
⑴治安維持に直接関係のある裁判に対する手続の改変:能率化・簡素化
⑵私的犯罪に対する手続の改訂:告言手続はむしろ律令よりも厳格化
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日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
2上世法
1
4
転換期の法と国家
統治形態の変遷
⑴天皇親政
←上世前期(=過渡期):皇太子執政・皇后執政⇨中国的天皇制
大化2.2 詔:夫君於天地之間、而宰万民、不可独制、要須臣翼、
臣下の補翼を原則←詔勅には太政官の加署が必要
〔蔵人所の設置〕=側近政治への傾斜
⑵摂関政治
臣下が摂政・関白として庶政を行う慣例=人臣摂政
摂関常置
⑶院
2
政
cf太政大臣との区別 (←令制太政大臣の職掌が抽象的)
①皇室家長権
②摂関政治の後身
←天皇之父祖=私的地位
太政官行政の変貌(⇨次頁図)
⑴令外官体制
①蔵人所:機密文書、詔勅に代わる蔵人所宣旨←少納言局・中務省
②検非違使:京中の非違糺察→全ての犯罪の専決処断の権限
朝家置此職以来〔衛府追捕〕〔弾正糺弾〕
〔刑部判断〕〔京職訴訟〕併帰使庁、
③関白・内大臣・中納言・参議・勘解由使etc.
⒜准令制官職:〔除目官〕=官位相当制を確認・推定できるもの
⒝〔宣旨職〕:任命が宣旨・詔による=天皇との私的関係が強いもの
⑵政務執行の変化:A〔政〕朝
政
→旬政→平座
↓
官
御前定
政(官結政)
↓
殿上定
陣定(esp条事定)
外記政(外記結政)
⑶慣習的処罰法の形成
3
B〔定〕
院殿上定
(→院評定制)
土地制度と国家論
⑴〔公地公民制〕→〔庄園公領制〕
⇦土地の私有+農民(=公民)の階層分化
⑵権門体制:権威の機能分化(→法権の分裂)
⑶王朝国家:地方の支配方式の変化
⑷公家政権:中世的王権の成立
岡野友彦『源氏と日本国王』(講談社現代新書)
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日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
(拙稿)「転換期の太政官行政-中世国家像によせて-」(『名城法学』37巻別冊 88. 3)
「貴族・家職・官僚制-法と社会に見る-」(『公家と武家 その比較文明史的考察』95.10)
太政官機構の概略
(太政官行政機構変遷図)
〔法源〕
〔権源=意志決定〕〔機構内意志決定〕
〔律令〕
太
政
〔実務=執行〕
官
天皇
詔書⇨
議政官会議
議政局←
→弁官局
↑
⇦論奏
↓
外記局
奏事
便奏
官符
勅書⇨
〔格式〕
宣旨
口勅
公卿僉議
公卿定
令外官
官宣旨
内廷部局→
例・行事
勘文
弾正台→
刑部省
蔵人所
検非違使
10C初
摂関
官底
続文
〔新制〕
陣
仗
(政所下文)
定
議
縮
小
再
編
太
政
官
機
構
院
∥
天皇
院評定
院宣
院庁下文
前
期
11C半↓
行事所
後
記録所
期
官
司
請
負
武家権門
(将軍)
各官司
諸 所
官務=大夫史
←算道
局務
←明経道
使尉
大判事
明法博士
←明法道
王
朝
国
家
体
制
寺社権門
公
家
(治天の君)
政
権
⇩
⇩
日本の中世国家
中世国家
公家政権
院政
天皇権(王権)
官司請負(家職・家業・家学)
令外官
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日本法制史(16年後期 Wed2・Fri3)1/3
律
令
天
皇
制
的
太
政
官
国
家
権門体制
鎌倉幕府
封建制