学 位 論 文 要 旨 研究題目 Extension of recovery time from fatigue by repeated rest with short-term sleep during continuous fatigue load: Development of chronic fatigue model (慢性疲労モデルの確立:短時間睡眠を伴う断続性疲労負荷は疲労状態を遷延させる) 兵庫医科大学大学院医学研究科 医学科専攻 器官・代謝制御系 内分泌代謝学(指導教授 小山英則) 氏 名 神﨑 曉慶 生物は長年の進化を経て、生理機能に最適な内部環境を獲得しており、生体内の神経・ 内分泌・免疫などの恒常性維持機構は巧みに作用し合って、安定した内部環境を維持 している。しかしストレスなどの外的負荷によって、生体は安定した内部環境から一 時的に逸脱し、生体機能の低下を招くが、このような状態を”個体の疲労”状態と定 義することができる。通常、これらの個体の疲労は充分な休息や睡眠をとることで回 復するが、充分に回復する前に疲労負荷がかかるなど、疲労状態が時間とともに徐々 に蓄積すると、疲労は慢性化して行くと考えられる。過去に断眠・精神的ストレスお よび筋性疲労を複合的に負荷することで、疲労困憊に陥る“複合疲労モデル”と呼ば れる動物モデルが開発されている。しかしながら左記モデルでは疲労状態からの回復 が早期に起こるため、疲労の遷延化は未だ再現できていない。そこで我々は、負荷状 態と負荷解除状態を頻回に繰り返すことで、恒常性維持機構を撹乱させ疲労の遷延化 を誘導することを試みた。その結果、疲労負荷期間中に反復される一定の睡眠を伴っ た休息をもつ動物において、夜間自発行動量が負荷解除後“複合疲労モデル”に比し 有意に遷延することを突き止めた。また過重負荷強制水泳試験、強制水泳試験を通じ て、この夜間自発行動の遷延は肉体疲労ではなく、精神疲労の遷延による可能性を提 示した。また、休息期間中に動物はしばしば睡眠に陥るのだが、その一日の総睡眠量 は疲労負荷 2,3 日目までに増加するが、その後再び低下し、疲労負荷後期には再び上 昇し始める個体も現れるなど、生体内の恒常性維持機構が一旦疲労負荷に適応するも のの、再度破綻に陥る可能性を示唆する所見も得ている。更に、休息時の睡眠時間に ついて、180~240 秒程度の睡眠時間をより多くとった個体が、夜間自発行動量の回復 が遷延することも見出した。この事から、短時間の睡眠を伴う断続的な疲労負荷によ って恒常性維持機構の機能紊乱が引き起こされ、疲労の慢性化に陥る可能性が示唆さ れた。尚、我々は摂食やストレス応答に関わる血中ホルモンの調整機構の機能破綻を 示唆する所見も得ている。本研究の結果は日常疲労の蓄積から慢性化に陥る過程を再 現することで、疲労からの回復過程の分子機序の解明につながる礎として大変重要で ありここに報告する。
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