リウマチ性疾患における疲労について 岡 寛1、松本美富士2 1 聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター 副センター長 2 藤田保健衛生大学七栗サナトリウム 内科教授 ◎要約 各種のリウマチ性疾患(関節リウマチ:RA、 線維筋痛症:FM、シエーグレン症候群:SS、)では、 80 ∼ 90% の高頻度に疲労が存在する。疲労はリウマチ性疾患の共通の主訴であり、各疾患における痛み やうつ症状、睡眠障害との関連が強く、互いに負のスパイラルを形成している。RA 治療には生物学的製 剤治療、FM にはガバペンチンやプレガバリン、SS にはピロカルピン塩酸塩といった非常に有効な治療 法が本邦でも明らかになってきている。各疾患において、これらの有効な治療法を速やかに導入すること が疲労を回復させる鍵であると考えられる。 ◎目的と方法 の疲労の改善度を早期 RA と長期罹患 RA で比 Pub Med や医中誌などを参考として、各種リ 較検討したところ、対照(プラセボ)群と比較 ウマチ性疾患(RA、FM、SS)のおける疲労の して長期罹患 RA の疲労感スコアの改善が明ら 出現頻度と疲労と相関する症状を明らかにし、そ かであったという報告がある 2)(図1)。この の対処法を自験例も含めながら提案する。 報告では、早期 RA において、対照群のメソト レキサート治療群でも疲労感スコアが改善して ◎結果 おり、早期の治療導入が生物学的製剤のみなら 1.RA について ず必要であることが示唆されている。 ① RA は、本邦で 70 ∼ 80 万人の患者が存在する 頻度が高いリウマチ性疾患である。 ② RA における全身倦怠感の頻度は約 80% であ り、他の全身症状である貧血や体重減少など を伴っていることが多い 1) 。 ③近年生物学的製剤の登場により、リウマチの予 ④他の生物学的製剤であるアバタセプトの反応性 は、痛みや疲労という身体的評価項目が精神的 評価項目よりも反応性が高かった3)。 ⑤ RA においては、疲労と痛みおよび疲労とうつ 状態が強い相関を持っており、疲労と疾患活 動性はむしろ低い相関であった(図2)。 後は飛躍的に改善したが、生物学的製剤の1つ であるエタネルセプトで 48 週間治療した RA 2.線維筋痛症について ①線維筋痛症は、全国疫学調査の結果では、200 万人の患者が存在し、その中(N = 257)で疲 図1 22 図2 RA における負のスパイラル 労は、90.9% と非常に高率であり、全身痛の 4) 91.7% に近い数値であった (表1) 。 ②線維筋痛症患者(N = 151)の実態調査にお て、本邦における診療ガイドラインでは、ガバ ペンチン、プレガバリンという抗痙攣薬がアン カードラッグとして考えられている 5)。 い て、 関 節 リ ウ マ チ の 疾 患 活 動 性 の ス コ ア で あ る DAS(Disease activity score)28 値 3.シェーグレン症候群(SS)について で は、 中 等 度 ∼ 高 度 の 疾 患 活 動 性 に 匹 敵 し ① SS は、30 ∼ 60 万人以上が罹患する代表的な た。日常生活動作性の指標(MHAQ: Modified リウマチ性疾患である。 health assessment questionnaire) で は、 中 ② SS における疲労の原因は、炎症のよるもの、 等 度 の 障 害 で あ り、Zung depression scale 唾液減少や萎縮性胃炎による栄養の吸収障害、 で は、 中 等 度 の う つ 状 態 で あ っ た。 さ ら に 抑うつ気分などの精神症状があいまって出現 Performance Status of Fatigue が 6.0 ± 2.4 で している。 あり unrecovered, recovered の順に多かった (図3)。 ③ SS 患者会の SS 100 人の訴えでは、主訴である 口が渇く(90%)の次に疲れ易い(82%)であり、 ③線維筋痛症の主訴は痛みであるが、 痛みと疲労、 痛みと睡眠障害が強い相関があり、痛みとうつ 状態がやや弱い相関があった。線維筋痛症にお いて、痛み、疲労、睡眠障害は互いに作用しあっ て、負のスパイラルを形成している(図4)。 ④線維筋痛症の痛みをコントロールする薬剤とし 表1 本邦繊維筋痛症患者の臨床症状 涙がでない(74%)よりもむしろ高頻度であっ た(図5)。 ④ SS では、主訴である乾燥症状と疲労の相関が 高く、負のスパイラルを形成している(図6) 。 ⑤ SS の治療においてピロカロピン塩酸塩(サラ ジェンⓇ)は、口腔乾燥のみならず、ドライア イ、ドライスキンにも有効であり 6)、早期の 診断と治療が望まれる。 図4 FM における負のスパイラル 図3 本邦繊維筋痛症患者の実態 n=151, 50.1 10.1(12-81)y. o., F: M=8:1 図5 SS 患者 100 人の訴え(SS 患者会資料) 23 2..Moreland W, Genovese MC, Sato R et al. Effect of Etanercept on Fatigue in Patients With Recent or Established Rheumatoid Arthritis. Arthritis & Rheumatism. 2006; 55 (2): 287 293 3.Wells G, Maxwell TL, et al. Responsiveness of patient reported outcomes including 図6 SS における負のスパイラル fatigue, sleep quality, activity limitation, and quality of life following treatment with ◎まとめ abatacept for rheumatoid arthritis Ⅰ.リウマチ性疾患(RA,FM,SS)では、80 ∼ 90% の高頻度に疲労が存在する。 Ⅱ.疲労は痛みやうつ状態との関連が強く、負の スパイラルを形成している。 Ⅲ.各疾患に有効な治療法を速やかに導入するこ とが、疲労の回復も可能にする。 2008 67: 260 265 4.松本美富士.第3章 疫学.病態(1)線維 筋痛症の疫学線維筋痛症ハンドブック 西岡 久寿樹編.日本医事新報社 東京 2007: 56 69. 5.岡 寛.5章2.薬物療法(a)神経因性疼 痛改善薬と随伴症状、合併症に対する治療 関連用語解説 60 64,線維筋痛症診療ガイドライン . 日本 ①生物学的製剤 リウマチ財団発行 東京 2010:60 64. 生物が産生した蛋白質を利用し、最新のバイオ 6.岡 寛,西岡久寿樹.シェーグレン症候群の テクノロジーを駆使して開発された製剤。本邦 乾燥症状に対する塩酸ピロカルピン(サラ において、関節リウマチの治療薬としては、3 ジェン)の効果,第 53 回日本リウマチ学会 つの TNF α阻害剤と1つの IL 6 受容体拮 総会・学術集会抄録集,2009(4):350. 抗薬の合計4つが認可されている。 ②ガバペンチン(ガバペン ®) 電位依存性カルシウムチャンネルのα 2 δサブ ユニットに結合し、 カルシウムの流入を抑制し、 興奮性神経伝達物質の遊離を抑制する。抗てん かん薬であるが、線維筋痛症を始めとする慢性 疼痛症に使用されている。 ③ピロカルピン塩酸塩(サラジェン ®) 唾液腺細胞のムスカリン性アセチルコリン受容 体(M3)に作用し、シェーグレン症候群の口 腔乾燥症状に有効であるが、諸外国では、ドラ イアイにも効能を持っている。経験的には、ド ライスキンにも有効である。 参考文献 1.L. C. Pollard, E. H. Choy, J. Gonzalez, et al. Fatigue in rheumatoid arthritis reflects pain, not disease activity. Rheumatology. 2006; 45: 885 889 24
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