ミュージカルコメディー本日スコブル晴天なり

ミュージカルコメディー本日スコブル晴天なり
2013.12.8 第 1 6稿 白川恵介 作
佳華「今でしょ」
ぶつぶついいながら行く。
佳華「なんで新聞販売所なんかに生まれたんだろう」
ブリッジ 1-2。転換幕降りる。
1ベル、2ベル。開演前に前奏曲
幕前
影の声
夫「おい、新聞がないぞ。誰か持っていったのか?」
妻「お父さん、今日は新聞休刊日よ」
夫「今日休みか。世の中は動いてんのに新聞が休んでていいのか」
妻「新聞社の人だって、新聞配達の人だって、休まなくっちゃ体が持たないでしょう」
夫「そらそうだな。でも新聞がこないと何か調子狂うな」
妻「テレビのニュース、見ればいいじゃない」
夫「テレビ? 軽いんだよテレビは。女子アナがチャラチャラしてて。ニュースはやっぱり新聞、新聞でなけり
ゃダメなんだよ!」
緞帳が上がる。
1場
○街角(夏の夜明け)
販売店から、配達員が出発している。新聞配達をしている。やがて、背景がビル群に。
歌「ヒーロー戦隊新聞マン」
めざまし時計が鳴る前に ふとんをスルリと抜け出して
星のきらめく 空見上げ 眠気と戦う戦士
休みは 一年10日だけ 新聞休刊日 それでも僕は負けないよ 朝日に向かって
そこに僕らを待っている人がいるかぎり これはただの紙きれじゃない 世界の入り口さ
明日になれば 古新聞って名前が変わってしまい
ひもにしばられ ごみポストの檻の中
新聞 新しいインクの薫り 新聞 光り輝く 正義の味方
月曜休みは 床屋さん 水曜休みは 魚屋さん 木曜休みは 花屋さん 土曜休みは 公務員
僕らに休みはないけれど 弱気を助けるため 悪の組織を倒すのさ それがヒーローさ
そこに僕らを待っている人がいるかぎり これはただの紙きれじゃない みんなのヒーロー
佳華がだるそうに帰ってくる。
佳華「ただいまー。あー眠い」
机に倒れこむ。
父「佳華、亀山のじいちゃんと会ったか」
佳華「あ・い・ま・し・た。とても80歳とは思えないようなウォーキングで・し・た」
父「そらよかった。じいちゃん、今年も富士山登るっていってたからなあ。でも足大丈夫かなあ」
母「亀山のおじいちゃん、確か春ばあちゃんと同級生じゃなかった」
佳華「何で年寄りって毎朝あんなに元気なの?」
父「佳華、小山さん、起こしてくれただろうな?」
佳華「あ! 忘れた」
父「急いで行って来い」
佳華「えー」
母「小山さん、この間、会社に遅刻したらしいわよ」
佳華「私、目覚まし時計じゃないんだから」
配達店の壁にかかっている社訓を読む。
父・母「たかが新聞、されど新聞。地域に貢献する販売店を目指します」
佳華「行けばいいんでしょ行けば」
父・母「いつ行くの?」
2 場(幕前)
○教室(夏、日中)
国語の学習時間。グループごとに新聞を作っている。先生は、机間巡視をしている。
先生「はい、それでは手を止めて前を向いてください。見出しができたグループありますか?」
なっち「はい」
先生「はい、1班お願いします」
1班は、壁新聞を持って黒板に貼って、見出しを発表する」
なるみ「のら犬、佳華さんの妹ちなちゃん、噛む」
先生「1班の見出し、どうですか?」
かよ「短くてすっきりした見出しだと思います」
先生「すっきりしていますね。他に意見がある人?」
まいか「すっきりはしていますが、伝えたいことがはっきりしていません」
こたろう「どこがだよ」
まいか「だって、のら犬がちなちゃんを噛んだのか、のら犬をちなちゃんが噛んだのかがわからないじゃない
の」
りい「なんで、ちなちゃんが犬を噛むのよ。噛むのは犬。当たり前でしょ」
噛まれたことのあるメンバー(こたろう、ようじ、慶次郎)が腕を出す。
噛まれたメンバー「佳華の妹、ありうる」
慶次郎「あいつならやりかねない。ほらここ見てくれ」
みんな寄って来て傷口を自慢し合う。
佳華「ごめん。あの子、気に入らないことがあるとすぐ噛むの」
みゆ「まだ小さいからしかたないわよ。でも犬を噛むことはないでしょ」
先生「事実はどうなの?」
なっち「ちなちゃんがのら犬を噛みました」
全員「じぇじぇ」
きょう「事実は、小説より奇なりね」
先生「できるだけ正確に書かなければ、事実は間違って伝わってしまうのよ」
あぐり「どうやればいいのかな?」
歌「5W1H」
(先生)新聞記事を書く時は 正確な情報が必要よ 取材の基本は 5W と 1H よ
(子供)5W1H?
(先生)When いつあったの? Where どこであったの? Who 誰と誰とが What 何したのよ?
(先生)When(子供)いつあったの?(先生)Where(子供)どこであったの?
(先生)Who(子供)誰と誰とが(先生)What(子供)何したの?
(先生)How to do ? こんな風に How to be あんな様に 書いていくのよ
(先生)Why どうしてを探して どこまでも続く旅よ
(子供)When いつあったの? Where どこであったの? Who 誰と誰とが What 何したの?
先生「5W1H を落とさずに、しっかり書くと、正確に伝えることができるのよ」
のり「なるほど。私の記事には、Where、どこがないのね。」
先生「そう。どこかのグループ、やってみる。」
りい「私たちがやります。」
(子供1パートと先生)When いつあったの? Where どこであったの?
Who 誰と誰とが What 何したのよ?
(子供2パート)昨日よ 広場で 子猫が産まれた ニャーオ
(子供2パートと先生)When いつあったの? Where どこであったの?
Who 誰と誰とが What 何したの? また?
(子供1パート)一昨日 うちの中で パパとママがけんかした
(子供全員)また? How to do ? こんな風に How to be あんな様に いつものことよ
(子供1パート)Why どうしてを探して どこまでも続く旅よ
(子供2パート)When いつあったの? Where どこであったの?
Who 誰と誰とが What 何したの?
りい「先生、Why どうしてが入っていません。」
なるみ「夫婦喧嘩にたいした理由なんてないのよ。酔っ払って帰ってきたとか、化粧品の買い過ぎとか」
(子供1パート)Why どうしてを探して どこまでも続く旅よ
(子供2パート)When いつあったの? Where どこであったの?
Who 誰と誰とが What 何したの?
先生「皆さんも知っての通り、高津小学校は、来年の3月で閉校になります。それで、8月15日に学校を開
放して、卒業生や地域の人たちが集まります。その時、みなさんの壁新聞を掲示します」
全員「じぇじぇじぇ」
先生「みなさんは子ども新聞記者です。高津小学校の歴史をよーく調べて新聞を作ってくださいね」
子ども「はーい」
ブリッジ 2-3。転換幕上がる。
3場
○新聞社編集部(夏 日中)
インターンシップで、ジャーナリスト志望の大学生智幸が会社訪問している。
しかしやる気のない編集部。スマホでゲームをしている記者スマホ、パズル大好き割付担当パズル、
マンガを読んでる挿絵担当まんが、自分の買い物のために新聞広告をチェックしている記者ちらし。
智幸「失礼します」
誰も返事をしない。
智幸「失礼します。あのー」
それぞれが自分のことをしている。
ちらし「誰か来とうよ。パズル行ってけろ」
パズル「また私ですか?」
名刺を渡しながら
智幸「はじめまして。東京情報大学 3 年の池内智幸と申します」
パズル「池内智幸さん」
ちらし「えー、卵が 88 円!火曜日か。誰か火曜日遅番代わってけろ?」
智幸「インターンシップ職場体験でご訪問させていただきました」
パズル「誰か、この人のインターンシップを受けた人いますか?」
智幸「平山様という方から受け入れて頂けるとうかがったのですが」
パズル「編集長です。今、取材に出てます」
まんが「その辺、空いてる席に座れ、もう帰ってくると思うさー」
智幸「編集長自ら取材なんて、何か大きな事件ですか」
ちらし「大きな事件ねえ。小さな事件を大きくしてしまうのが編集長の長所であり短所だべ」
まんが「アリが10匹死んでいたのを見て、天変地異の前触れかはちょっとやりすぎだってよ」
客が来る。
客「すみません」
まんが「三国様、いつもお世話になっています。どうなされたんです」
客「旦那がリストラなのよ」
まんが「それはお気の毒に」
客「消費税も上がるでしょう。生活切り詰めるといったら、新聞代ってことになったのよ。ごめんね」
まんが「また、よろしくお願いします」
客「コラム書く人が変わったの?ほら、スコブルっていうコラム。あれが面白かったのよ」
まんが「ええ。あのコラムは前の編集長が書いておりました」
客「そうなの。最近のコラム、アリ10匹で天変地異は言いすぎよお」
記者たち顔を見合す。
記者たち「やっぱり」
客帰る。
スマホ「これからリストラが増えると契約解除が増えるのね」
ちらし「あれいいわけよ。あの人、美容院代にどれだけ使ってるんだべ。それにあれ毎朝新聞からもらったト
ートバックよ」
パズル「それっていいんですか?」
ちらし「公正競争違反」
まんが「でも新聞を読まない世代が増えてくるってよ」
スマホ「ネットの方が情報速いし、読みたい記事が検索出来るし、それに無料だし」
ちらし「ネットの情報も、新聞の取材の垂れ流しだべ」
パズル「テレビだって、ボードに新聞貼って、解説してるだけだし」
スマホ「もう紙の新聞は、なくてもいいんじゃないの」
まんが「インター、どう思う?」
智幸「え、僕はまだよく分かりませんが、メディアは多様化していますから」
スマホ「残念だけど新聞は消え去る運命なのよ」
NewYorktimes から来たターナー、古株記者クラブ元さんが出てくる。
元「新聞は消え去る運命?おだやかでないね」
ちらし「新聞は去らねっちゃ」
パズル「私も去らないと思う」
ターナー「新聞は不滅だ」
まんが「新聞は、去るさー」
紙の新聞肯定派、元、ちらし、パズル、ターナー、否定派、スマホ、まんが、智幸。
歌 「21 世紀メディア戦争サルサ」
テレビやラジオはもう古い パソコンだって埃かぶる
今はスマホ タブレット ツィッターで革命も始まるわ
ライン ミクシー ツイッター フェイスブック !
新聞編集会議前 ネットは世界を駆け巡る ウサギと亀の比じゃないよ 新聞、ネットに勝ち目なし
サルササルサ 新聞サルサ サルササルサ 何処へ
ネットの契約うなぎのぼり 誰にも止められない
新聞の購読右下がり 下がって下がって上がる見込みなし
The 21st century media wars outbreak
二十一世紀メディア戦争開戦 後戻りはできない
サルササルサ 新聞サルサ サルササルサ 何処へ
ネットがサルサ踊る時 新聞浴衣で盆踊り
時代のリズムに乗り切れず 新聞 鼻緒の緒が切れた
サルササルサ 新聞サルサ サルササルサ 新聞サルサ
大手の新聞社 肉食竜 ティラノサウルス ガオー
頭が大きくなり過ぎて バランス崩して 倒れこんでしまう
The 21st century media wars outbreak
二十一世紀メディア戦争勃発 後戻りはできない
サルササルサ 新聞サルサ サルササルサ 新聞サルサ
The 21st century media wars outbreak
二十一世紀メディア戦争開戦 後戻りはできない サルサ!
編集長平山が帰って来て、書類を探している。
パズル「編集長、また、解約のお客様が」
平山「そうか。今月に入って 1 割減ってるな。ゴキブリ1匹見つけると20匹はいるっていうからな」
みんな「出たー大げさコメント」
平山「あれ?君だれ?」
智幸「インターンシップでお世話になる池内智幸です」
平山「ああ、智幸君。いやな話を聞かしたね。だけどこれが現実だから」
智幸「全然大丈夫です。よろしくお願いします」
平山「ちょっと出てくる」
編集長は出る。
パズル「編集長、最近どこ行ってるですかね?」
まんが「うちの新聞社の存続の鍵を握る人物のところ」
スマホ「鍵を握る人物?」
まんが「前の編集長の息子さん」
パズル「前の編集長って、スコブルのコラム書いていた人ですか?」
まんが「そう、その息子さんは、マリンスポーツ事業で成功を収めた大実業家」
パズル「新聞社の経験は?」
まんが「さあ、結構ワンマンらしいってよ。リストラが始まるさー」
ちらし「リストラされるとすれば、まず始めに」
一斉に元さんを見る。
元「おれか? やめてくれよ。おれ子どもまだ小さいんだよ」
ちらし「パソコンできなくって未だに手書きだべ」
元「パ、パソコンがなんだ。メールがなんだ。おれは伝書鳩飛ばして記事を送っている頃から新聞記者やって
んだ」
パズル「息子さんの線はないと思います。経営感覚の鋭い人が斜陽の新聞事業に関わるはずがないと思いま
す」
元「そう願いたいな。ターナー、犬猫問題はどうなっている」
ターナー「明日、市役所に取材に行く予定です」
まんが「頼まれていた挿絵、できてます」
元「了解」
新聞否定側「サルササルサ新聞サルサ、サルササルサ新聞サルサ」
元「やめてくれ」
ブリッジ 3-4。転換幕降りる。
4 場(幕前)
○市役所の廊下
廊下でぶら下がり取材をしている。
記者クラブ1「それでは、小学校跡地利用検討会の座長、矢沢市議会議長様にお伺いします。会議の経緯をお
話いただけますでしょうか」
矢沢「本日、公聴会を開催いたしました。あの場所は、旧市内の一等地でもあり、 マンション需要も高まって
おりましてね。土地の売却は、市財政建て直しだけでなく、地域住民のニーズに答える重要な選択肢であると
いうご意見を頂いたところです」
元「日日新聞の後藤です。ひとつご質問させていただきます。今、議長から公聴会のお話を伺いましたが、公
聴会の人選に偏りがあるのではないかというご意見もあるようですが、いかがでしょうか?」
矢沢「誰がそんなこと言っとるんだ。私にはそんな話は上がってきておらん」
元「意見書の提出について検討中と伺っております」
矢沢「他に質問は? ないようだな」
記者クラブ1「ありがとうございました。次回は、動物保護条例について、会見を行っていただく予定ですの
で、よろしくお願いします」
矢沢「動物の保護は私の政治信条の根幹にかかわる問題ですからな」
矢沢、記者団は去る。自治会の代表日下部が通りかかる。
元「失礼します。今日の会議の流れでは、土地の売却の方向に動いているようですが、自治連合会として、ど
うお考えですか?」
日下部「個人の意見としては、別の選択肢もあるけど。連合会となると、意見をまとめるのは難しいわなあ。
この間も家に土地開発会社の方が来て説明受けたけど、ようわからん」
矢沢「日下部」
日下部「おお」
矢沢「何の話だ」
日下部「たいした話ではない。またな」
日下部は慌てて去る。
矢沢「まだいらっしゃんたのですか。ご熱心ですなあ」
元「ちょっと気になることがありまして」
矢沢「ところで最近の日日新聞の論調は、マンション建設反対のように感じられるのは私だけでしょうか」
元「公平な報道を心がけておりますが。失礼します」
蝉の声。転換幕上がる。
5場
○新聞販売所と日下部米屋の前
智幸は、ターナーと一緒に取材体験。子どもは、先生と一緒に取材に来ている。
ターナー「かのん」
先生「ターナー。取材?」
ターナー「ああ、閉校関連の」
日下部は、子どもの質問に答えて、
日下部「え、そしたら、あの門柱もなくなるんか」
先生「その様に聞いていますけれど」
日下部「それはいかん」
なるみ「あの門、おじさんが子どもの頃からあったの?」
日下部「あったよ。校舎は木造やったからな、残っとんは門ぐらいか」
佳華「うちのおじいちゃんやおばあちゃんの頃もあったのかなあ」
日下部「あの門のことは、春ばあちゃんが一番よう知っとるよ」
佳華「春ばあちゃん? 聞いたことない」
日下部「そうか。まだ気持ちが、整理できてないんかな」
こたろう「あの校門も古いから残してもなあ」
慶次郎「6 年間ずっと通った学校の門がなくなるんだよ」
まいか「私も同じ。お父さんも、お母さんも高津小学校卒業で、あの門を通って通ったのよ」
みゆ「でも今のままじゃ、地震が来たら潰れてしまうでしょ」
りい「耐震工事すればいいじゃない」
佳華「古いものが消えていくのはしかたがないわ。時代の流れよ」
かよ「門だって、新しい方がいいじゃない」
新しい学校派、佳華、なるみ、こたろう、みゆ、かよ、のり、わか、あぐり。なつかしい学校派、慶次
郎、まいか、りい、ようじ、きょう、なっち、えり。
歌「新しい学校 懐かしい学校」
かよ「教室の壁 剥がれ落ち」
みゆ「うだるような暑さに苦しみ」
こたろう「トイレは臭く 鼻つまむ」
なるみ「そんな校舎とオサラバよ」
新しい学校 新しい校舎 教室はピカピカ 廊下はホテル並よ
新しい学校 新しい校舎 トイレはシャワー付き とっても気持ちいい
暑い日は、クーラーあるし 寒い日は、ヒーター ポカポカ
脚折れても大丈夫 エレベーターあるから
新しい学校 新しい校舎 何もかもが新しいご自慢の学校さ
慶次郎「新しけりゃいいなんて、まだまだ子どもだな」
佳華「古い方がいいなんて、小学生のくせに骨董趣味?」
慶次郎「温故知新。古きをたずねて、新しきを知る」
佳華「何それ。年寄りくさい」
何言ってんの 新しいだけじゃないの 卒業の記念樹 一本も残らないわ
最初だけ新しいだけじゃないの そのうち汚れて一緒になるわ
暑い日は扇風機あるし 寒い日は おしくらまんじゅう
脚折れても大丈夫 友だちいるから
懐かしい学校 (ガラクタばかりだわ)懐かしい校舎 (誰も見向きはしないよ あの学校)
何もかもが懐かしい思い出の学校さ(思い出よ さようなら)
きょう「あれ? なんか顔みたことがあるんだけど、新聞記者さん、ひょっとして、先生の彼?」
なっち「あ、そうだそうだ。ぜったいまちがいない。先生の彼よ」
子どもたち「ワオーワオー」
(子供)When いつ出会ったの? Where どこで出会ったの?
Who 誰と誰とが What 何したの?
子どもたちは茶化す。
先生「もういいかげんにして。今日、地域の人にインタビューしたことをまとめておくこと。これが今日の宿
題です。家が近い人はここで挨拶します 。さようなら」
子どもたち「さようなら」
様々な方向へ帰って行く。
慶次郎「佳華、壁新聞のテーマ、門柱に変えないか。お年寄りにインタビューすると、みんな
口を揃えて門柱のこというだろう。絶対、門柱は大切な思い出なんだよ」
佳華「別にいいけど」
ブリッジ 5-6。新聞販売所がひっくり返って、自宅居間に。
6場
○佳華の家 夜
佳華が、ご飯を食べながら。家の人に学校の思い出を取材している。
ダンス部メンバー(はな、あや、もとこ、らも、ねい)がやってくる。
はな「こんばんわ」
母「はーい。おとうさん出て」
父は店舗前にでる。母も遅れて出てくる。
父「こんばんわ」
ねい「私たち、新聞配達のバイトをさせてもらえませんか」
父と母は顔を合わす。
まや「私たち高津高のダンス部なんです」
母「あ、おめでとう! 高津高のダンス部、全国大会にでるんでしょ」
父「学校でもみんな応援してくれるだろう」
らも「それが・・・部費が少なくって、旅費も出ないんです」
母「えー。それでバイト」
父「うちはうれしいけど、朝早いよ。起きられる?」
はな「朝早く起きることも、配達することもトレーニングになると思うんです」
母「でもあなたたちだけでは決められないわ。おうちの人に了解してもらわないと」
まや「親はOKです」
父「偉い! 自分で旅費を作るなんて。それじゃ、あしたから来てもらおうか」
ダンス部「ありがとうございます」
父「朝4時に来てくれるかな」
ダンス部「はい。よろしくお願いします」
ダンス部は喜びながら、帰っていく。
父「よかったなあ。ちょうど来週から中川さんが来れなくなるからな」
部屋に入る。
佳華「お父さんとお母さんも高津小の卒業生でしょ」
母「おばあちゃんも、春ばあちゃんもよ」
ちな「私も高津小にいくの?」
母「ちなは、新しい学校の高津第一小学校にいくのよ」
ちな「みんな高津小学校なのに、私だけ違うのは、やだ、やだ」
母「ちなは、ぴあぴかの学校にいくの。ラッキーじゃない」
ちな「ちな、やだ、やだ」
父「ちな、新しい学校にはプリキュアがいるらしいぞ」
ちな「プリキュア?じゃあいく」
佳華「おとうさん、そんないいかげんなこと言って、後でばれたら噛まれるわよ」
父「覚悟してる」
佳華「お盆には、学校開放があって、卒業生や前勤めていた先生たちが集まるんだって」
母「春ばあちゃん行くの? 春ばあちゃんの教え子いっぱいいるんだから」
佳華「春ばあちゃん、門柱のこと教えて、私、門柱のこと壁新聞に書かなくちゃならないの」
春ばあちゃん「もう忘れた」
母「春ばあちゃん、佳華ももう 6 年生ですよ。話して下さい」
佳華「米屋のおじさんが、門柱のことを一番知っているのは、春ばあちゃんだって」
春ばあちゃんは仏壇でりんを鳴らし、手を合わせている。
ブリッジ6-7。転換幕を降ろす。
7場(幕前)
○病院
平山は、前編集長公造のお見舞いに。姉に最後のコラムを渡す。
平山「ありがとうございます。がんばります。それでは今日はこれで失礼します」
病室を出た平山は、廊下で公一と出会う。
公一「わざわざお見舞いいただきまして、ありがとうございます」
平山「この間の件、何卒よろしくお願いします。」
公一「少しお時間をいただけますか」
平山「分かりました。いいお返事を期待しております」
公一は病室に入る。公造は寝ている。
公一「親父どう?」
姉は、公造の聞こえないところへ呼び、
姉「今夜が・・・」
公一「姉さん、おれ・・・・」
姉「さっき平山さんから聞いたわよ。お父さん、口では公一を日日新聞に近づけるなって言っていたけど、本
心はやって欲しかったんじゃないかしら」
公一「親父は俺にこう言ったんだ。お前は事業で成功しているようだが、地域のために何をやってるんだっ
て」
姉「お父さんらしい言い方だわね。でもお父さん、いつもあなたの仕事について、誇らしげに話していたのよ。
これ、お父さんの最後のコラムよ」
最後のコラムを読む。途中で公造の声に代わる。コラム BGM
姉「いよいよ今回が、コラム『スコブル』の最終回である。コラムの名称『スコブル』は、反骨のジャーナリ
スト宮武外骨氏の言葉から頂いたものだ。外骨氏は、徹底して言論の自由を問い続け、いかなる相手であって
も怯むことはなかった。その手法は、軽妙洒脱、過激にして愛嬌あり。わたくしもそうありたいと願ってきた。
人生、スコブル悲しい時も、スコブル嬉しい時もあるだろう。今がどんなに辛い時であっても愛嬌を持って、
明日はスコブル晴天なりと夕焼け空を眺めていたい」
公一は、平山に電話する。
公一「公一です。先程はありがとうございました。平山さんのお話、お受けいたします。ただ、やるからには
社外ではなく、常勤の取締役にさせてください。はい。よろしくお願いします」
姉「お父さん? お父さん! 公一、お父さんが」
公一「姉さん、ナースコール」
姉「すみません、江上です。父の容態が」
公一「親父、親父、返事してくれ、親父。俺、やるんだよ。親父の日日新聞。返事してくれよ。公一、よく言
ったと言ってくれよ。親父! 絶対日日新聞守るから。俺、この地域のために・・・」
歌「ひと夏の忘れ物」
なぜ あの時 言えなかったのか?
夏の日の 一瞬の閑さに 鳴き遅れた蝉の声 ひとつ
誰も聞かず 誰にも届かず その声 岩にしみ入り 閉じ込められたまま
同じ季節巡りても あの日は帰らず 同じ言葉繰り返せども ただ 空に消ゆ
ひと夏の大きな忘れ物 我が心に止まりぬる蝉の抜け殻
歌の最後で転換。転換幕上がる。
8場
○門柱前 路上(早朝)
上手花道、佳華が新聞を配達している。
佳華声「小山さーん。おはようございます。新聞でーす」
小山の声「佳華ちゃん、ありがとう。今日は会社遅刻しないですむよ」
佳華は歩いている亀山のおじいちゃんに出会う。
佳華「おじいちゃん。おはようございます」
亀山「佳華ちゃん、おはよう。頑張ってるね」
佳華「おじいちゃんに、朝起きる方法を教えてもらいたいくらいよ。気をつけてね」
矢沢が学校の門柱の前に子犬を段ボールに入れて捨てている。
亀山「あんた、何しとる」
矢沢は慌てて、道路の真ん中に置いて逃げる。亀山は追いかけようとしてつまずいて怪我をする。
亀山「イタタタ」
佳華が駆けつける。
佳華「おじいちゃん」
亀山「あれ」
ダンボールを指差す。佳華は段ボールの中の犬を抱き上げる。
佳華「おじいちゃん立てれる? もうすぐここを、高津高ダンス部のお姉さんたちが通るから。それにしても
こんな可愛い仔犬を捨てるなんて誰?」
亀山「暗くて姿はよく見えんかったが、スマートフォンを持っていた。ストラップが見えたんじゃ。あれはコ
ーギー犬のストラップじゃった」
佳華「それだけで、犯人見つかるかしら?」
亀山「あれはな、海洋堂の限定版ストラップじゃ」
佳華「おじいちゃんすごい! 若い頃、何の仕事してたの?」
亀山「ちいと、ものを書く仕事じゃ」
佳華「あ、お姉さん、こっちこっち」
ダンス部のメンバーが近づいてくる。
はな「佳華ちゃん、どうしたの」
佳華「おじいちゃんが足挫いて」
まや「おじいちゃん、肩につかまって」
ねい「その仔犬は?」
佳華「捨て犬」
ダンボールの中の紙を見て
らも「ほら、ここにコロをよろしくって書いてあるわ」
もとこ「コロ、おまえコロっていうのか」
佳華「とりあえず、うちの家までよろしくお願いします」
はな「OK」
亀山「みんなに優しくしてもらって、怪我をしてよかった」
はな「何言ってるの」
亀山をたたく。
亀山「いたあー。東京オリンピックに出る体じゃ。大事にしてくれ」
みんな笑いながら、亀山のおじいちゃんを連れて帰る。
コロの泣き声で転換。転換幕降りる。
9 場(幕前)
○市役所
役所保健衛生課で、野良犬、猫の取材
智幸「今から、何の取材ですか?」
ターナー「犬猫」
智幸「犬猫? そうですか」
ターナー「何かあるの」
智幸「いや、大学の友人は毎朝新聞で、殺人事件とか経済関係の取材に同行させていただいているそうなん
で」
ターナー「あ、そうゆうこと。犬や猫のことが嫌なら他にいけばいい」
智幸「いえ、そういうことではありません」
ターナー「われわれはジャーナリストじゃなくて、ローカリストなんだ。ローカルな問題を扱っているようで、
それがグルーバルな問題と繋がってるんだよ。そのうち分かる」
市役所のカウンターで
ターナー「すみません。日日新聞、ターナーです。課長さんに、動物愛護法についての取材をお願いしている
のですが」
市役所職員1「すみません。課長は今、出張していまして」
ターナー「いつお戻りになります?」
市役所職員1「私の方ではわかり兼ねます」
ターナー「そうですか」
市役所職員2「課長はどこ行ったの」
市役所職員3「産廃現場で、仏さんが出たらしい」
市役所職員1「しー」
智幸「ターナーさん。殺人事件ですよ。スクープです」
ターナー「そのうち記者クラブが行くだろう」
智幸「スクープですよ」
歌「スクープ」
スクープ 誰も知らない 何処にも書いてないニュース
スクープ 誰も惹きつける 悪魔が囁いたニュース
朝も昼も 夕も夜も ネタを捜して
明日の朝の一面躍る活字紡ぎ出す
スクープ 一生に一度 誰よりも早くつかみたいよ
スクープ 記者ならつかみたいニュース
僕らの仕事は野次馬じゃない 事件の背景探ること
スクープ いつかきっと どこよりも早くぬいてみたいよ
スクープ 記者なら ぬいてみたいニュース
智幸「すみません、場所を教えてもらえませんか」
市役所職員 3「どこの?」
智幸「殺人が起こった産廃現場」
市役所職員 3「君、なんか勘違いしてない」
智幸「え・・・」
市役所職員 3「仏さんが出たって、死体じゃないよ。仏壇。結構奇麗な仏壇が出たんだよ。もったいないな
あ」
智幸「仏壇・・・」
ターナー「がっかりするな」
矢沢が通りかかる。
矢沢「君どこの新聞社?」
ターナー「高津日日です」
矢沢「高津か。おたく、閉校の取材してるだろう。余計なことは書かんでもらいたいな。市民から選ばれた委
員を中心に公平に議論しているんだ。思いつきの意見をあたかも住民の総意ように思われても困るからな」
ターナー「公平な報道を心がけておりますから」
矢沢「あまりひどいようだと、こちらにも考えがあるぞ」
公一が通りかかる。
矢沢「やあ、公一君」
公一「矢沢先生。先日は、父の葬儀にご参列頂きましてありがとうございます」
矢沢「いやいや、お父上は、わが市のジャナーリズムを支えて来られた大功労者ですからなあ」
公一「生前は、相当嫌なことも書かせて頂いていると存じますよ」
矢沢「いや、よく議論し合ったものです。いいライバルでしたから。ただ、日日新聞さんも大物の記者さんが
いなくなってこれからが、正念場ですね」
公一「そのようですね」
矢沢「それではこれで」
公一「矢沢先生、私、この度、日日新聞の代表取締役社長に就任いたしました。この新聞は正義の剣として、
守らなければなりませんから」
矢沢「君とは親子二代でいいライバルになりそうだ」
矢沢、去る。
ターナー「社長。日日新聞のターナーです」
公一「君がターナーか。親父が Newyorktimes から来たいい記者がいるって自慢してたよ」
智幸「Newyorktimes!」
公一「君は?」
智幸「インターンでお世話になっている池内です」
公一「面白い時期にインターンにやってきたな」
智幸「面白い時期?」
公一「今に分かる。ターナー、今から作戦会議だ」
公一、ターナー、智幸去る。
音声だけ。転換。
ゆうき「パパ、コロちゃんいい人にもらわれていったのかなあ」
矢沢「ああ、感じのいい人だったよ」
ゆうき「よかったね、コロ」
矢沢「コロは絶対幸せになるよ」
ゆうき「ゆうき、またコロに会いたいなあ」
10場(幕前)
○教室
先生「今日は、日日新聞の新聞記者のみなさんを先生に、壁新聞作りの仕上げをしたいと思います」
まいか「え、本物の記者さんが教えてくれるの?」
先生「各班に一人一人入ってもらいますからね。分からないことがあったら、何でも質問してください」
子どもたち「はーい」
スマホ「ここの班は何を取材したの?」
わか「私たちは昔の給食を調べました」
歌「学校の歴史」
昔の給食はね 脱脂粉乳飲んでいた 嫌いな人は鼻つまみ 流し込んでいた
一番人気は揚げパンで お肉は、鯨の竜田揚げ 先割れスプーンを突き刺して かぶりついていた 学校の歴史
スマホ「よくまとまっていますよ」
まんが「この班は何しらべたね?」
りい「私の班は校舎のことを調べました」
昔の校舎には 怖い話があったそう ベートーベンが夜笑う トイレから泣き声
二宮金次郎歩き出す 鏡に霊が映ってる 廊下で誰かが付いて来る まだあるよ七不思議 学校の歴史
ちらし「この班は何ば調べたのか」
なるみ「私の班は先生の思い出を調べました」
昔の先生は 名物先生いっぱいさ プリント舐めて配る先生 チョークを投げる先生
四文字熟語を言う先生 おやじギャグすべる先生
話の長い校長先生 竹の棒持った先生 学校の歴史
パズル「この班は何を調べましたか?」
慶次郎「僕の班は、門柱について調べました。」
今ある門柱は 別の場所に立っていた 明治時代に建てられて ずっと残っている
パズル「それだけなの?」
慶次郎「はい」
こたろう「新聞も見出しだけじゃないか」
みゆ「取材ができてないの?」
佳華「取材はしたわよ。でもみんな黙って」
パズル「私たちといっしょにもう一度取材やってみる?」
のり「はい。やってみます」
先生「でもあまり時間はないわよ。学校開放の日まで後一ヶ月。卒業生が小学生時代を懐かしく思い出してく
れるように、いい新聞を作ってくださいよ」
チャイムがなる。
ようじ「起立、礼」
子どもたちは記者たちと遊びに行く。3班とターナー、先生は残っている。
ターナー「僕にも経験がある。取材される側には、あまり言いたくない思い出もあるのさ。そんな方に、話し
てもらうためには、相手の心に寄り添わなければならないんだ」
歌「寄り添って」
心の片隅にしまいこんだ想い あなたの言葉に乗せて伝えて
その瞳に私を映して まなざしを向けて
私は両手広げ どんな言葉も 受け止めるから
小さな若葉を揺らす そよ風のように あなたの心に寄り添っていたい
歌で転換。暗転で転換幕上がる。
11場
○新聞社編集部
記者たちは、不平不満を言っている。
ちらし「もう我慢できね。記者クラブはこっちにぜんぜん情報ば流さねんだ」
スマホ「矢沢議員の意向に沿わない新聞社はうちだけだもんね」
まんが「これは言論統制さー」 パズル「購読者の切り崩しも激しいようです」
ちらし「完全にうちをつぶしにかかってるんだべ」
平山「日日新聞の名前が地球上からなくなってしまうかもしれない」
まんが「また大げさコメント」
元「いや、編集長のおっしゃる通り、言論の自由を言う前に、本当に会社がなくなってしまうかもしれない
な」
公一が入ってくる
公一「私は、どんな相手でも屈するつもりはない」
ちらし「理想論はやめてけろ」
まんが「社長は、新聞のことが分かってないさー」
元「お前ら、社長に失礼だろ」
公一「元さん、構わん。俺は新聞業界では素人だ。ただ、今まで通りの経営で、この危機は乗り越えられない。
残すものは残す。切るものは切る」
スマホ「やっぱり」
ちらし「噂どうりの冷たい人だっぺ」
まんが「私を切ってくれていいさー。沖縄帰って、マリンスポーツのインストラクターでもするさー」
ちらし「まんが、何言ってんだ。おらを切ってけろ」
公一「何か勘違いしてないか。切るのは不要な不動産や他の新聞社とかぶっている事業だ。私は、記者を解雇
するつもりはない。記者は新聞社の宝だ」
記者たち「社長!」
公一「みんなのアイデアを出してくれ。パズル、割付で相手に悟られず、こっちの考えを伝えていく忍者のよ
うな方法はないか」
パズル「読者がよく見るのはトップ記事と三面記事です。一番伝えたいことを二面に持っていけば。それに、
元さんの手書き原稿をそのまま使えばかなりインパクトがあると思います」
元「パソコンで打ち直さないならお手のもんだ」
公一「それで行こう。まんが、跡地利用問題の風刺画を描いてくれ。両面見開きで」
まんが「両面見開き! きつーい風刺画を描いてやるー。腕がなるさあ」
公一「ちらし、折込は、本紙以上に情報を伝えられるらしいな。折込で自社広告を打つか」
ちらし「普段は日陰の存在のチラシにスポット当てるなんて、社長は天才だ」
元「さっきは、社長をコキ下ろしていたくせに」
笑い。
ちらし「許してけろ。最高のチラシ作るっぺ」
公一「任せた。スマホ、うちの新聞のツイッターがあるそうだな」
スマホ「フォロア数は少ないですけど」
公一「毎朝新聞の公正競争違反の事例をツイッターでつぶやいてもらおう」
スマホ「社長、すみません。実は・・・ 毎朝新聞の取材データーが飛んでしまいました」
記者たち「何やってるの」
スマホ「みんな、ごめん」
元「記録はあるよ。聴きとりしていた横で、メモしておいた」
メモ帳を見せる。
記者たち「元さん」
スマホ「元さん、ありがとう」
公一「さすがだな」
元「アナログも少しは役に立つだろ」
ちらし「時々ね」
ターナー「社長、うちの新聞が地域に貢献してきた歴史を100周年号として発行してはどうでしょうか」
公一「よし、高津小の学校開放の日にフリーペーパーで配ろう。スポンサーはおれが探す。智幸、その時、何
かイベントを企画できないか。感性に訴えるものがいい」
智幸「ダンスパフォーマンスの企画してみます」
公一「ダンス、いいな。」
平山「私は何を」
公一「編集長はいつも通りに、大げさなコラムを書いてくれればいいんだ。コラムの名前は、スコブル」
平山「スコブルに戻すんですか。プレッシャーです!」
公一「親父のことは忘れて、新しい編集長の個性を前面に出してくれ」
平山「でっかいコラム書くぞ」
公一「スコブルプロジェクトの開始だ。宮武外骨のように、相手の裏をかいて逆襲する」
歌「外骨先生」
外骨先生 神出鬼没 悪事を見抜いて ズバッと書くよ
外骨先生 容赦はしない 相手が誰でも怯みはしない
頓智 滑稽 パロディ 風刺 奇人変人
スコブル 元気いっぱい 面白半分 茶化すよ
いつでも ざっくばらん 愛嬌で乗り切るよ
まんが「インターン、景気づけ」
智幸「僕ですか?」
ちらし「インターンっていったら、おめえのことだあ」
弱弱しく。
智幸「それじゃあ、エイエイオー」
パズル「何それ」
笑い。
スコブル 過激全開 軽妙洒脱な文章
(外骨先生 投獄平気 政治家 警察 不正を暴く)
宿敵権力者 絶対 負けないぞ
(外骨先生 戦争反対 検閲 発禁 何でもござれ)
ちらし「景気づけに、カラオケでも行くべ」
パズル「インターンさんも行きましょ。元さんの歌うももクロの『サラバ愛しき悲しみたちよ』は、絶品よ」
智幸「元さん、ももクロですか!」
元「百田のファンクラブに入っているが、 悪いか?」
智幸「いや、意外なだけです」
元「おまえも歌え」
笑いながら、出て行く。公一は、財務書類を見ている。
公一「そうとう悪化してる。中間決算を乗り越えられるか。日日新聞が生き残る道は・・・」
公造の声がする。
公造「公一、新聞はなあ。草の下で鳴いている小さな虫の声に耳を傾けて、大きくするもの」
公一「親父!」
公造「昔や今をことを未来へ送り届けるもの。地球のある一点で起こったことを場所を超えて伝えるものだ。
もし、この世に新聞がなかったら、虫の声はかき消されてしまう。小さな虫は確かに鳴いているんだ」
歌「ひと夏の忘れ物2」
ひと夏の大きな忘れ物 いつかおやじに届けたい 俺は誓う
公造(おまえの信じる道をまっすぐ行くのだ 迷うことなく)
緞帳下りる。1幕終わり
間奏曲 終わりで緞帳上がる。
2幕
12場
○門柱の前
学校開放当日。卒業生作品(木彫りの顔)、壁新聞が掲示してある。ダンスパフォーマンス。その前
で、フリーペーパー配布。
智幸「高津高校ダンス部、ダンスパフォーマンス戦闘ヒーロー新聞マン!」
ダンス部の hiphop ダンス。
智幸「高津高校ダンス部のみなさんでした。もう一度、拍手をお願いします」
日下部「それでは、ごゆっくり校内見学を行ってください」
ダンスが終わった後、校庭見学。
もとこ「あ、これ私が作ったやつ」
らも「何この顔、いやーだ」
ねい「こんなのまだ置いてあったの」
はな「必要な人は持って帰っていいんだって」
ねい「こっちよ、あなたの顔」
はな「ピカソなみね」
まや「それ褒め言葉」
らも「ほら、卒業の時埋めたタイムカプセルはあるかなあ」
もとこ「後で掘ってみよ」
まや「三村先生だ。先生!」
三村先生「みんな来てたの?」
全員「先生!」
三村先生「みんな立派になって」
卒業生は、壁新聞を見て
父「いたいたこんな先生」
みつお「これ板倉先生のことだろう」
父「お前よく、廊下に立たされてたなあ」
みつお「お前こそ、先生の投げたチョークが口に入っただろう」
りい「みんな私たちの壁新聞読んでくれてる」
なるみ「がんばったかいがあったわね」
先生「今日は、卒業生のみなさんに学校を案内するのよ。合言葉は?」
子どもたち「オ・モ・テ・ナ・シ。おもてなし」
子どもは昔の衣装に着替え
母「佳華! 春ばあちゃん連れてきたよ」
ちな「お姉ちゃん!」
佳華「春ばあちゃん、ありがとう」
春ばあちゃんの教え子たちが集まってくる。
みつお「春先生、お元気でしたか!」
春ばあちゃん「あんた誰かの?」
みつお「みつおです。1年生の時教えていただいた」
春ばあちゃん「みつお?」
日下部「先生、醤油屋の次男のみっちゃんですよ」
春ばあちゃん「おー、みっちゃんか。電信柱にしっこかけたいうて、お巡りさんさんに、しょっちゅうおこら
れよった」
みつお「先生、もうそれ言わんといて下さい。反省しとりますから」
春ばあちゃん「今、あんた何してんの?」
みつお「住宅の水周りの会社経営しとります。新しい校舎のトイレ作らせてもらってます」
春ばあちゃん「社長さんかいな。さすが、みっちゃんやな。大人になっても、しっこのことやっとる」
みつお「せんせえ」
笑い声
千代「先生、お元気そうで」
春ばあちゃん「ちよちゃんか。あんたとこは、親子二代で教えたなあ」
千代「はい。私たちも学校なくなるんわ、さみしいけど、先生もこの門柱がなくなるんわ、辛いやろうな」
父「え、この門柱なくなるんは、いかんやろう」
千代「このフリーペーパーに書いとるよ。跡地利用検討会は、座長の強引ともいえる議事運営で、門柱撤去に
意見をまとめるって」
日下部「しゃないんや。市の財政もようないけん、土地売却も考えんと」
父「お前、自治会の代表で会議に出とんやろう。お前がおりながら何や。この門柱が何かわかっとるやろ」
日下部「わかっとるよ。そやけどな」
千代「座長って矢沢君じゃないの」
父「矢沢?」
みつお「日下部、お前、今も付き合いあるんだろ」
日下部「ああ、矢沢も考えていることがあるんや」
父「ばあちゃん、若いもんはみんな、門柱のこと知らんの違うか」
みつお「先生、教えてやってえなあ」
春ばあちゃん「もう私の出る幕ではないわ」
父「えんか、ばあちゃん、門柱なくなってもえんか」
みつお「一度なくなったらしまいや。春先生」
千代「先生、私がいじめられよった時、思っとることは黙っとったらいかん。伝えないかん言うて先生、励ま
してくれたやろう」
佳華「春ばあちゃん。今まで、この門柱のこと、ただの石の塊だと思っていたけど、取材すればするほど、み
んながこの門柱のことを大切に思ってて、それでいて、誰も何も言ってくれないの。みんな春ばあちゃんに気
遣って。私知りたいの。この門柱のこと、春ばあちゃんのこと」
春ばあちゃん「よし分かった。これが私の最後の授業。みんなように聞いとき。みっちゃん、よそ見しとらん
とこっち向きなさい」
みつお「はい」
春ばあちゃん「人の話は目で聞くんで」
みつお「はい」
千代「久しぶりに先生の口癖聞いた」
みつお「30 年ぶりにしかられた」
笑い。
春ばあちゃん「あれは、昭和 16 年の 7 月やった」
13場
○門(昭和16年7月)
校舎からオルガン伴奏の校歌が聞こえる。
歌「高津小学校校歌」
ふるさとの山 広がる海 豊かな自然に囲まれ 学ぶところ
やさしさを持って 勇気をひとつ胸に この門柱に誓うよ 高津小学校
この学び舎に 集う若人 大きな大志抱いて 学ぶところ
絆をつないで 希望をひとつ胸に この門柱に誓うよ 高津小学校
子どもたちが校門から飛び出してくる。
中村先生「こら! 宿題忘れた者は、残って勉強せんか!」
昔こたろう「先生、今日は無理や」
中村先生「なんでえ」
昔まいか「今日、7月19日で」
中村先生「7月19日になんかあるんか?」
昔みゆ「おいべっさんの夏まつりや」
中村先生「祭りか・・・」
昔きょう「今日、芝居がくるんで」
昔なっち「はよ、行こう」
昔みゆ「先生 さよなら」
子どもは帰る。門の中にいる吉男(昔慶次郎)。
中村先生「吉男、なんでお前はいかんのや」
吉男「まつりやいきとうない」
中村先生「何かあったんか」
昔かよ「吉男のとうちゃん赤紙きたんやって」
昔かよも後を追う。
中村先生「そうか。とうちゃんに赤紙きたか・・・。実はな。せんせとこにもきたんや」
吉男「せんせとこも?」
中村先生「ああ。吉男のとうちゃんはどう思うかのう。おまえがこんなところでぐずぐず泣いとったら。せん
せがとうちゃんやったら、しっかりせえ吉男。ゆうで」
吉男「せんせ、春せんせしっとん?」
中村先生「誰にもゆうとらん。吉男にゆうんがはじめてや」
吉男「おれ、まつりいくけん、せんせもきてよ。ぜったいきてよ」
中村先生「後でな」
吉男が走っていく。ちょうさの太鼓の音と祭りの雑踏で転換。
1 4場
○夏祭りの渡し
町には提灯が並んでいる。北浜と東浜の渡り。ゆかた姿の人々でにぎわう。ちょうさの音が聞こえる。
中村先生と春先生(浴衣)は渡りの真ん中で話している。
中村先生「まつりも今年が最後かもしれんな」
春先生「・・・中村先生、吉男君から聞きましたよ」
中村先生「あいつ・・・」
春先生「いつですか?」
中村先生「来週の初めや」
春先生「来週初め?。そんなに早く・・・。無事で帰ってきて来てください」
中村先生「もちろん。俺、学校好きやから。それに・・・」
春先生「それに何?」
中村先生「いや・・・その・・・子どもが好きやから」
渡りの両岸に子どもが集まっている。
吉男「それに俺は」
子どもたち「春先生が好きやから」
中村先生「こら、お前たちいつの間に」
吉男「せんせ。おれたちのせんせは、中村せんせしかおらんけん」
昔のり「ぜったいかえってきてよ」
中村先生「分かった。ぜったい帰ってくるからな」
昔あぐり「約束して」
中村先生「約束や」
春先生「先生の留守の間、私が学校を守ります」
中村先生「お願いする。帰ったら、また春ちゃんのオルガン聴かせてもらうよ」
春先生「はい」
周次がやって来る。
春先生「周ちゃん」
周次「清登、おまえにも来たんだな」
中村先生「ああ。行ってくる」
周次「俺はこの足では呼ばれないだろう。この足がいいの悪いのか」
中村先生「銃後の仕事やって、お国の大事な仕事や。おまえには情報を伝える大事な仕事があるやないか」
周次「あんなの嘘っぱちだ。今は本当のことが書けない。ほとんどの新聞社は、大本営発表をそのまま流して
いるだけだ。米国との戦争が始まれば、日本は必ず負ける」
中村先生「声が高い」
ヤクザ「今、日本が負けると言わんかったか」
周次「ああ、言った。日本はこの戦争に負ける」
ヤクザ「お前、どこかで見たことがあると思たら日日新聞の記者か。お祭りを楽しんでいらっしゃる皆さん。
ここに非国民がおりますよ」
周次「誰がなんと言おうと言論を抹殺することはできない」
ヤクザ「何をほざいとんじゃ」
ヤクザが周次を殴る。
中村先生「やめろ」
ヤクザ「これは中村のボンさん」
中村先生「こいつにはよう言うて聞かすから、これで許せ」
金を渡す。
ヤクザ「中村さんの顔立てて今日のところは許してやろうか」
ヤクザは去る。
中村先生「周次」
春先生「周ちゃん」
周次「構うな」
中村先生「周次、俺は行くけど、お前はそのまっすぐな目線でこの時代を記録して置いてくれ。いつかその記
録が目覚める時がくるから」
周次「清登、帰って来いよ」
中村先生「ああ。春ちゃんのことは、お前が守ってくれ」
周次「おまえに言われるまでもない」
春先生「みんなでお参りしましょう」
中村先生「俺はさっきお願いしてきた。周次と一緒に行ってこい」
春先生「中村先生、行きましょ」
中村先生「二回お願いするとおいべっさんに、しつこいって言われそうや」
春先生「それじゃ。周ちゃんでいいわ」
周次「周ちゃんでいいわはないだろう」
笑い。春先生は、お参りに。
周次「思いを伝えるのは今しかないぞ」
中村先生「春ちゃんを苦しませるだけだ」
周次「不器用な二人だな」
周次は、お参りに。
歌「守る」
(中村先生)
いつも俺の後を追いかけていた
おさげ髪の少女は 髪をあげて大人になった でもその横顔にはまだ 幼い日の面影が
国を守るために 俺はゆくのか? いや 違う! 愛しきものを守るため
俺の体 朽ち果てても 俺の教え子 俺の大切な人を 盾となって守るよ
周次、春先生が戻ってくる。
(周次)
愛する人を残して 戦地に向かうお前の心 その悔しさを押し殺し やがて異国の地へ
国を守るために 俺は書くのか? いや 違う! 名もなき兵士の叫び伝えるため
俺のペンよ 真実語れ 俺のペンよ 逆巻く時代の渦に抗う楔打ち込め
(中村先生が二重唱でかぶってくる)
俺の命 消えるさるとも 君を守る 子どもたちをよろしく頼む
(春先生)
お兄さんの様に 慕っていた先生 来週には見知らぬ町へと旅立ってゆくのね 学校を守ること お約束します 先生 必ず! ご無事でお帰りください 祈ります
(周次)
俺が守る 心配するな お前の帰る時が来るまで 必ず 春ちゃんを守るよ
(中村先生)
俺の命 消え去るとも 君を守る 子どもたちを よろしく頼む
(春先生)
あー 恵比寿様 私の願い聞いて下さい 先生のご無事を祈る
歌終わり転換。転換幕降りる。
15場(幕前)
上手
○回想戦中日日新聞社編集部
一県1紙 BGM
周次「編集長、こんなことっていいんですか?」
記者1「一つの県にひとつの新聞、指定された新聞社以外は、廃刊か統合」
周次「これは新聞用紙の配給ストップを名目にした言論統制だ」
記者1「どうあがいても、紙がこないんじゃ新聞を発行できないじゃないですか」
周次「創刊以来、30 年間かけて作り上げた言論の自由を潰されてたまるか」
記者1「じゃあどうするの」
周次「編集長!」
昔編集長「来たる 10 月 31 日を持って、高津日日新聞は廃刊とする」
周次「編集長、それでいいんですか」
昔編集長「敢て国策に順応し、本紙廃刊を宣言す。これは名誉ある撤退である」
周次「編集長」
昔編集長「ただし! 伝えなければならないことあらば、粛々と伝えることはやぶさかではない」
記者1「紙もないし、印刷するインクも配給されないのですよ」
昔編集長「われわれには、ペンがある。倉庫には買い置きの紙もある。ジャーナリズムの語源をしっているか。
ローマ帝国時代の広場に掲げた手書きの壁新聞だ。我々にできることはまだあるはずだ」
周次「壁新聞か」
下手
○街角
農作業をしている。周次が掲示板に壁新聞(近々空襲あり、油断するな)を貼っている。
昔もとこ「何かあるん?」
周次「近々空襲がある」
昔ねい「空襲予告ビラ見たわ」
昔らも「高津は大きな軍事施設もないけん、空襲はないやろうって」
周次「いや、ビラをまかれた町は何日か後に空襲を受けてる。油断してはだめだ」
昔まや「岡山もやられたしな。花火見とるようやった」
春先生「周ちゃん」
周次「春ちゃん、今日は危ないかもしれない。警報が鳴れば学校に行くよ」
春先生「ありがとう」
暗転。空襲警報で転換幕上がる。
16場
○空襲(昭和20年7月4日)
夜になる。空襲警報が鳴る。
歌「空襲」
昔ちらし「空襲警報。逃げて!」
(ちらし)暗黒の空 地獄の花火が落ちてくる (パズル)燃える子どもを背負った母 川の中へ
(全員)火の雨が降り注ぐ どこに逃げればいいのか 血の赤と 火の赤に町は染まる
(ちらし・パズル)あー火の粉が舞う あー息ができない
子どもを連れて、逃げ惑う人々。ひとり取り残された子どもが泣いている。
昔きょう「かあちゃん! かあちゃん!」
昔パズル「なんしょんな。はよにげんと」
昔きょう「かあちゃんがおらんよなった」
昔パズル「おばちゃんといっしょににげよ」
昔きょう「かあちゃんさがす」
昔パズル「いっしょにさがしてあげるけん」
昔パズル、きょうの手を引いて逃げる。
(子ども)私たちの学校 私たちの校舎 教室が燃えてる
昔パズルが返ってきて、子どもたちを誘導する。
昔まんが「春先生!何やっとん。はよ逃げて」
春先生「早く消さないと学校全部焼け落ちてしまう」
昔ちらし「もう無理よ。自分の命がなくなってしもたら、もともこもないわ」
春先生「私は死んでもかまん」
昔まんが「何言よん。春先生が死んだら、学級の子どもを誰が見るん」
春先生「学校を守らいかんの。学校は、学校は町の宝なんよ」
数人で春先生の両腕を抱える。
(大人)焼け石に水 火の勢いは ますます広がり衰え知らず
ガラス窓溶け 歪んだ顔が飴色の涙を流す
(ちらし・パズル)門柱が泣いている 怒りの歌、歌っている
周次「春ちゃん、もういいから」
春「 私はここにおる。学校を守らないかんの」
(周次)君を守ること 清登と約束したのさ
春先生「いや、離して!」
(春)私も約束したの学校を守るの
(中村)俺の学校 何があった
(大人)校舎燃える 天をも焦がす鬼火に包まれて 今崩れる
(周次)俺の命 消え去るとも 君を守る 清登と交わした約束守る
(春)あー子どもたちの教室 オルガン 先生帰るまで 私は守る
学校は焼け落ち、春は防空壕から出てくる。 門柱にしがみついて
春「中村先生!」
火事の音で転換。
17場
○門柱前
焼け残った門柱前、周次と春
周次「春ちゃん、新聞社に情報入れてくれた人がいてな。清登なあ。もう、帰らん。沖縄戦でなあ」
春は門柱に泣き崩れる
子どもたちがやってきて、口々に「春せんせ」
春「みんな無事だったん」
昔みゆ「きみちゃんが行方不明や」
春「そうなん。・・・吉男くん!」
吉男「とうちゃん死んだ」
春、吉男を抱きしめる。
吉男「せんせ。泣いとったら、とうちゃんにしかられる。おれがしっかりするんや。おれがかあちゃん守らな
いかんのや」
春「吉男くん・・・。あんたはりっぱやな」
昔かよ「せんせ、私、今松山小学校いっきょんで」
昔ようじ「僕は、花岡小や」
春「みんなバラバラになったんやね。ごめんな。学校を守るって約束したのに・・・」
周次「春ちゃん、守ったんだよ。一面の焼け野原の中に、この門柱はしっかりと立っている。門柱は確かに残
った。清登との約束は守ったよ」
昔りい「せんせ、また勉強教えて」
周次「やろう。春ちゃん。いや春先生! 校舎はなくても君には子どもたちがいる」
昔ようじ「せんせ」
春先生「私、学校を作ります」
昔こたろう「やった! また僕らの学校ができるぞ」
昔なるみ「またみんなと一緒に勉強できるわ」
昔ちらし町の人「わたしたちもできることからお手伝いするから」
昔パズル町の人「学校は町の宝だからね」
昔りい「ようし、新しい学校を作るわよ!」
子どもたち「おー!」
校歌を歌いながら、瓦礫などを片付ける。校歌の声を残して転換。
18場
○もとの学校
佳華「春ばあちゃん、ありがとう。話してくれて。私書く。この門柱と春ばあちゃんとみんなのことを。いや、
絶対書かかなくっちゃならないの」
母「門柱の話、みんなに聞いてもらいましょ」
みつお「日下部、跡地利用検討会の意見は撤去の方に傾いとんやろ」
日下部「ああ、今から覆すんわ、難しいやろうな」
千代「何言ってんの。先生いつも言ってたでしょ。少しでも可能性があるなら、諦めず何でもやってみなさい
って」
父「やらないで負けたら悔いが残る」
佳華「春ばあちゃん」
春ばあちゃん「ようし。中村先生の弔い合戦や。みんな、全力で門柱守るよ」
みつお「元気な先生が帰って来た」
父「日下部、こっちにおるもん集めて、門柱保存署名活動の開始や」
日下部「分かった」
父「他の地域に住んどるもんは、友達、親戚、卒業生に電話作戦頼むぞ」
佳華「ところで、周次さんって誰のこと?」
春ばあちゃん「みんなよく知ってる人よ。周ちゃん」
亀山「だれか、わしの名前呼んだか」
全員「亀山のじいちゃん。うそー」
記者クラブ1「これは面倒なことになってきたぞ」
記者クラブ2「矢沢議長にお知らせした方がいいな」
記者クラブは、向かう。
公一「明日のトップ記事は決まった」
ターナー「門柱保存に向けて署名活動始まる」
智幸「二面じゃないんですか?」
公一「今回は真っ向勝負だ」
記者たちは社に向かう。
佳華「3班集合!」
慶次郎、のりが集まってくる。
佳華「門柱の壁新聞作り直すわよ。門柱保存署名活動を応援する」
慶次郎「古いものが壊れるのはしかたないって言ってたのは誰だ」
佳華「古いものの中にも残さなければならないものはあるわ。あの門柱には心が宿っているもの」
歌「寄り添って」
心の片隅にしまい込んだ想い 私の言葉に乗せて伝えよう
あなたのこと伝えたい あなたの声聞かせて
私は真っ白な気持ちで 受け止めるから
子どもたちが集まってくる。
歌「君に伝えたい」
君に教えたいことがあるよ きっと君が知りたいこと
君に書きたいことがいっぱいあるよ ずっと残しておきたいから
雨が降っても 風が吹いても 雪が落ちても 嵐がきても 絶対伝えるからね
今日はスコブルいい天気 朝日がキラキラ 降りそそぐよ
君の想い 僕の思い 伝えあおう
声のみで転換。転換幕降りる。
矢沢「門柱保存署名運動始まる? 今年度で閉校になる高津小学校の門柱を保存しようとする市民運動が広が
りをみせている。門柱の歴史の語り部、元教員の話をきっかけに、卒業生のネットワークが生まれ、草の根の
署名活動が始まった」
矢沢「何だこれは」
秘書「すみません、日日新聞は、記者クラブと別の動きをしていまして」
1 9 場(幕前)
○市役所廊下
佳華、慶次郎、のりが市役所に探りに来ている。亀山はベンチに座っている。矢沢は日日新聞を読んで
矢沢「いくら購読者数が落ちてると言っても、ここまでデカデカと書かれると、世論が動きかねない。何か手
はないのか」
秘書「私もいろいろ調べてみましたが、ひとつあります。昔、新聞社を管理するために使った奥の手が」
矢沢「奥の手?」
策略を話し出す。
矢沢「待て。聴かれてる」
秘書「おじいさん、どうしたんですか?」
亀山「えー。何じゃと。ちいと耳が遠てなあ」
秘書「市役所に何か御用ですか?」
亀山「孫の誕生日のプレゼントを買いにきたんじゃが」
秘書「ここはおもちゃ売り場ではありませんよ」
亀山「そうですか。どうもご親切に」
矢沢「ぼけてるのか。ああもう寝てる。それで?」
秘書「日日新聞にロールを搬入しているのは有岡製紙です。有岡は関連会社から圧力をかければこちらの意向
に沿うでしょう」
矢沢「なるほど。やってみる価値はあるな。問題が大きくなる前に手を打ってくれ」
秘書「分かりました」
秘書は去る。
慶次郎「おい、後をつけるぞ」
慶次郎、のりは相槌を打って、つけていく。佳華は、亀山のところへ。
佳華「じいちゃん、行こう」
亀山「ああ、佳華か」
亀山と佳華は矢沢から少し離れる。
佳華「おじいちゃん、ちゃんと聴いた?」
亀山「ギャラクシーs4。録音済みじゃ」
佳華「ナイス」
亀山と佳華は去る。日下部がやってくる。
日下部「矢沢!」
矢沢「なんだ。めずらしいな」
日下部「分かってるだろう。門柱の件や」
矢沢「その件で話すことはない」
日下部「お前の気持ちは分かっとる。市の財政を立て直すために、売却に動いとんだろう。そやけどなあ、門
柱となると別や。あれは春先生の・・・」
矢沢「それ以上言うな。おれはどんなことがあっても、土地売却を実行する」
日下部「おまえの気持ちは分かった。おれは春先生と行動するからな」
日下部は去る。
歌「何があっても」
町のために 全力尽くすのが 我が政治信条 信じた道を行くだけだ
公一(おまえの信じる道をまっすぐ行くのだ 迷うことなく)
影の声のみ。
秘書「有岡製紙が日日新聞にロール紙を納入するなら、今後うちとの取引はないと思って下さい」
有岡「待ってください。日日新聞とは古い付き合いで・・・」
秘書「そうですか。まあ社長さんがそうおっしゃるならそれでもかまいませんよ。うちは香川製紙さんとの取
引を進めさせていただきますから」
有岡「・・・日日新聞さんのロール紙ですね」
秘書「有岡さん、よくお分かりで。それじゃお願いしますよ」
転換幕上がる。
20 場
○日日新聞編集部
パズルは電話で新聞用紙の確保先を探している。ターナーはパソコンで検索している。
パズル「はい、そこをなんとか・・・。そうですか。また、よろしくお願いします。編集長、どこもだめで
す」
慶次郎「戦争中の1県1紙政策と同じだ」
元「まさかこの手で来るとはなあ」
まんが「どこの会社も、日日新聞に紙を納品するなら、うちとの仕事を切るとかプレッシャーをかけられてる
のさー」
ちらし「紙がないんじゃ、戦いようがない」
佳華「どう考えても、おかしいじゃないの。新聞はみんなの思いを届けるのが仕事じゃないの」
慶次郎「そうだよ。マンション作るっていうのも、ひとつの意見なら、門柱を残すのもひとつの意見だろ。一
方の意見を載せたら潰されるなんておかしいよ」
スマホ「子どもには分からないけどそれが現実なのよ」
佳華「新聞は正義の味方じゃないの。弱い人や、小さな意見も守ってくれるんじゃないの?」
公一「そうだ。君の言う通りだ。何か方法はあるはずだ。こんなことで負けてたまるか」
亀山が有岡を連れてやってくる。
亀山「遅くなりました」
公一「有岡さん」
有岡「すみません。ロール紙は出せませんが、全紙をお持ちしました。それと輪転機」
公一「ありがとうございます」
有岡「日日新聞さんとは、先代からのお付き合いです。いくら小さな会社でも、真実を伝える魂だけは売るつ
もりはありませんからね」
のり「この紙があれば壁新聞がつくれるわ」
スマホ「社長、やりましょう」
公一「ようし、やろう。日日新聞の100年の歴史にかけて、ぜったいに言論の自由を守るそ」
全員「おー!」
慶次郎「矢沢のやつら、許さない。倍がえしだ」
佳華「慶次郎かっこいい周次みたい」
慶次郎「周次は亀山のじいちゃんだろう。ちょっとなあ」
亀山「慶次郎はわしの若いころとそっくりじゃ」
慶次郎「えー」
佳華「私たちは戦隊ヒーロー新聞マンよ」
歌「新聞マン2」
相手が 大きな権力でも 卑怯な手口でも それでも僕は負けないよ 心に誓って
そこに僕らを待っている人がいるかぎり これはただの紙きれじゃない 世界のヒーロー
りい「スクープスクープ。段ボールに入れて、子犬を捨てた犯人が見つかったよ」
佳華「誰?」
こたろう「矢沢っていう議員」
全員「矢沢?」
元「なんてこった」
ブリッジ 20-21。転換幕降りる。
21場(幕前)
○議員自宅前
記者たちが集まっている。インターフォンごし音声のみ
週刊誌の記者2「こんにちは」
ゆうき声「はい」
週刊誌の記者2「ゆうきちゃん?」
ゆうき声「はい」
週刊誌の記者2「ゆうきちゃん、パパはいないの」
ゆうき声「うん」
週刊誌の記者2「ゆうきちゃん、パパにコーギー犬のキーホルダーを買ってあげたって聞いたんだけど、本当
?」
ゆうき声「ゆうきが、ワンワンフェスタに行った時、パパに買ってきてあげたよ」
週刊誌の記者2「そう、ありがとう」
週刊誌の記者1「娘のプレゼントから発覚した動物愛護推進議員の裏の顔。どうだ」
週刊誌の記者2「いいですね。それでいきましょう」
記者たちは去る。春ばあちゃんが来る。
春ばあちゃん「矢沢君、いるんでしょ。出てきなさい。出て来て何があったのか、気持ちを伝えなさい」
矢沢が出てくる。BGM2
矢沢「ご迷惑をかけてしまいました。娘が拾ってきた仔犬を飼ってやることができませんでした」
慶次郎「家は広いし、お金もあるし飼えるでしょう」
矢沢「娘は犬アレルギーなんです。今まではぬいぐるみでごまかしていましたが、あの日は本物を連れて帰っ
たんです。私は飼い主から連絡があったと嘘をつき、仔犬を段ボールに入れて置きました」
春ばあちゃん「よく話してくれました。30年前、拾った仔犬をどうするか、話し合いましたね」
矢沢「飼い主を見つけるために、壁新聞をつくろうということになりました」
春ばあちゃん「でもあなたひとり壁新聞を書かなかった。最後まで自分で飼うと言って」
矢沢「結局、仔犬は先生が引き取ってくれました。私がいつでも仔犬と会えるように」
春ばあちゃん「あなたは夏休みの宿題で仔犬の作文を書いてくると約束しましたね。あなたはその宿題をまだ
出していません。約束は守ってもらいますよ。期限は閉校式の日です。今回のコロちゃんも私が引き取ってい
ますからね」
矢沢「先生! ありがとうございました」
ターナー「どうするこの事件? スクープだぞ」
智幸「私なら、書きません」
慶次郎「え、今まであの人にどんな目に合わされてきたか忘れたの。100倍がえしでしょ」
ターナー「新聞は、仕返しをする道具ではないんだよ」
智幸「この事件は、私たちが戦う悪とは違いますから」
ターナー「書かない勇気を持たなければならない時もあるんだ」
佳華「書かない勇気」
花道校歌で転換。転換幕上がる。
22場
○門柱の前
門柱の前で閉校式。校歌を歌っている。(花道)
歌「高津小学校校歌」
ふるさとの山 広がる海 豊かな自然に囲まれ 学ぶところ
やさしさを持って 勇気をひとつ胸に この門柱に誓うよ 高津小学校
この学び舎に 集う若人 大きな大志抱いて 学ぶところ
絆をつないで 希望をひとつ胸に この門柱に誓うよ 高津小学校
慶次郎が司会、矢沢が来賓としてあいさつをする。
慶次郎「ご来賓のみなさまからご祝辞をいただきます。矢沢市議会議長様お願いします」
矢沢「みなさん、宿題をちゃんとしていますか。私には出し忘れていた夏休みの宿題がひとつあります。私は、
この宿題に30年かかってしまいました。今日、その宿題を出します」
作文用紙を出す。
矢沢『1年2組矢沢徹。学校の門柱には名前がついています。やさしさの門、勇気の門、きずなの門、希望の
門です。毎朝この門柱をくぐって登校するぼくたちは、この4つの言葉を心に刻みます。仔犬を門柱に置いて
いった人は、きっと仔犬にもそのことを教えたかったんだと思います。これから苦しいことや悲しいことがい
っぱいあるけれど、どんな時も、やさしい気持ちで、勇気を持って、支え合い、希望を胸に生きて欲しいと教
えたかったんだと思います』
矢沢は春ばあちゃんに作文を手渡す。
矢沢「先生! 遅くなりました」
春ばあちゃん「矢沢君、確かに受け取りましたよ」
ちな「宿題はもっと早く出しなさい」
笑い。
矢沢「今回、多くのみなさんから、この門柱を残したいというご署名をいただきました。跡地利用検討会とし
て、これを地域のみなさんの気持ちと受け止め、門柱を残すこととなりました」
全員感嘆の声
矢沢「みなさんの心の拠り所として、また歴史文化遺産として、いつまでもこの地に残します」
拍手
慶次郎「ありがとうございました。私たちの学校は今日で閉校します」
呼びかけ BGM
えり「お姉さん、お兄さんに手をひかれ」
ようじ「初めて入った一年生の教室」
わか「今では小さくなった椅子」
なっち「ひらがなばかりの黒板」
あぐり「どれも懐かしい思い出」
きょう「廊下の片隅に落ちていた短い色鉛筆」
こたろう「君と駆け回った運動場」
なるみ「仲直りした日、並んで夕日を眺めたベランダ」
りい「私の名前の書いてあるロッカーは、もう空っぽ」
みゆ「セピア色に染まった校舎」
まいか「100年を超え、子どもの声が響き渡った学校」
のり「あしたからは、長い眠りにつくけれど」
佳華「この学校の雄々しい姿は、いつまでもいつまでも私たちの心に刻まれてます」
慶次郎「閉校式の最後に、私たちを見守ってくれた門柱に感謝し、歌を送ります。お集まりいただいた皆様と
一緒に歌いたいと思います。門柱に見守られて」
歌「門柱に見守られて」
私の生まれるずっと前からここに立ち 喜び悲しみを見守ったこの門
その肌に歴史刻み 時代を超えた強さを 心に受け継いで 君は今旅立つ時が来た
これから幾人友と出逢い 幾つの夢追うのだろう 君の未来を門柱よ 見守ってください
戦火にも負けなかった強さ 雨受け止める やさしさ 陽の光に映える神々しさ そして命の輝き
いつまでも忘れない 幾年時が流れても この門に見守られて 生きていたこの場所を
校門 BGM。三々五々去っている。門を閉める。
ターナー「校門が閉じてしまうとなんとなくさみしいね」
先生「でも子どもたちは、思いをしっかり伝えられたから、新しい学校でもちゃんとやっていけると思う」
ターナー「僕たちももう一度、真っ白なページに書き始めようか」
先生「まず、一行目はどっちが書く?」
ターナー「僕から書くよ。一応書くことが仕事だから」
転換幕降りる。
(幕前)
ターナーと先生は去る。矢沢と公一が出てくる。
公一「矢沢先生」
矢沢「公一君、門柱の記事、いい記事だったよ。あれで世論が動いた」
公一「先生の潔い決断についても書かせてもらいますから」
矢沢「これからもいいライバルでいたいものだな」
公一「そう願います」
矢沢は去る。
公一「親父、少し分かったような気がするよ。地域と共に生きるということが。もうセミの抜け殻じゃない。
スコブル青い空に飛び立って、やかましいぐらい鳴いてみせるから」
転換幕上がる。
23場
○新聞販売店前
父「佳華、早く起きろ」
母「ちな、佳華が起きるように噛み付いてきて」
ちな「分かった」
佳華「いたー。こらーちな」
佳華はちなを追いかけて出てくる。
佳華「何よ、今日、新聞休刊日じゃないの」
智幸「号外です」
佳華「あれ、智幸さん」
智幸「こんどは新聞販売所のインターンです」
母「佳華、今日の第一面」
号外を見せる。
佳華「高津小学校閉校式。卒業生や地域の住民が思い出の門柱の元で再開し、新たな門出を祝った」
智幸「スコブルコラム読んでください。インターンの最後に特別に書かせてもらいました」
佳華「スコブルは、スコブル愉快だ。スコブル迷惑だというように、いい言葉にも、悪い言葉にもつけること
ができる言葉だ。人生には、喜びも悲しみもある。でも喜びには、スコブルをつけてみよう。それだけで元気
が出てくる。前向きに生きられる。今日、世界中がスコブル幸せな日でありますように」
智幸「佳華ちゃんなら何にスコブルをつける?」
佳華「うーん。今日はスコブルいい天気」
歌「君に伝えたい」
君に聞いてみたいことがあるよ あの日君が言いかけた話
君に話したいことがあるよ 胸にしまい込んでた言葉
地面揺れても 火山吹いても 雷落ちても 津波が来ても 絶対伝えるからね
明日はスコブルいい天気 夕陽が二人を包み込むよ 君の思い受け取るよ
書く勇気と書かない優しさの真ん中で揺れる心
佳華「春ばあちゃん」
春「佳華、みなさん、長い間心の底にしまっておいた思い、やっと伝えることができました。ありがとうね。
中村先生、門柱、守りましたよ。あースコブルいい気持ち」
今日はスコブルいい天気 朝日がキラキラ 降りそそぐよ
僕の思い 君の思い 伝えあおう
歌「寄り添って」
心の片隅に しまい込んだ想い あなたの言葉に乗せて伝えて
その瞳に 私を映して まなざしを向けて
私は両手広げ どんな言葉も 受け止めるから
小さな若葉を 揺らすそよ風のように あなたの心に寄り添っていたい
緞帳下りる。
挨拶。