2015.12.21ことばっちの冒険2015

ことばっちの冒険・2015(3)
古書店といえるかどうかわからないが、ブックオフに出かけることが多くなった。
児童書を中心に眺めている。ことば遊びに関する本がお目当てなのだが、既にコレ
クションして、西砂小学校の2・3年生の教室で回覧してもらっている本棚にある
本がときどき見つかる。買ってある本を買う気はないのだが、108円に値下がり
していると、念のために買っておくかとついつい手に取ってしまう。
念のためとはなにか・・・2・3年に1冊ずつあってもいいかってことと、読ま
れているうちに、破損することを見越しての予防措置。いや、1993年からはじ
めた「ことば遊びコレクション」で取り上げていない本を紹介してみたいという色
気?・・・。
角野栄子『なぞなぞあそびうたⅡ』(1992 年・のら書房)
確か2冊とも本棚に並んでいたが、もう一冊買い置きしておこうと買い求めた。
<なぞなぞ>を少し長い詩に仕立ててあるので、ゆっくり読み聞かせながら当てっ
こするのがおもしろのではないか。
(6月5日に2年生で試みたが、楽しい時間にな
った)
どんなかたちでくなぞなぞ>が表現されて
いるか。百聞は一見に如かず、1ページを転
載してみる。
(若干縮小)ご覧の通り、スズキ
コージさんの絵が、大きなヒントになってい
ることがわかる。かな文字をマスターした小
さい子が、一人で読んで楽しめる仕様ではな
いかと思う。
<なぞなぞ>の技法は、このように擬人法
になっているものがほとんどだ。そのなかに、
擬人的表現を使いながら、ことば遊びの技法
をも投入した作品がいくつかある。
①
①はよ<知られた昔話が下敷きになっているという意味では<パロディ>だとい
える。②は<シヤレ>であるし、④は1文字を加えるアナグラム(綴り替え)であ
る。③は対句になった表現であり、
「とるーとられる」が多義的なことばだから、絵
がないと分かりにくいかもしれない。取る、捕る、採る、撮る、盗る・・・。
「あな
たがいるーわたしがいる」の対句も「いる」が居る、射る、要る・・・で混乱する。
答えは「写真」だが、いまではスマホで自撮りできるから、
「わたしがとって、わた
しがいる」なんてことになっている。
寺村輝夫『あいうえおうさま』(1979 年・理論社)
108円で入手したのは、2004年9月第102版。和歌山静子さんの絵で、
「ぼくは王さまシリーズ」として、ロングセラーになっている絵本のアクロスティ
ック作品だ。この作品は「あいうえおうさまかるた」として商品化され、アクロス
ティック形式のカルタの先駆け、嚆矢になった。
このシリーズは、1冊でも読めばわかるのだが、わがままでやんちゃな王さまと
は、いうまでもなく子供のことである。このような物語づくりは、児童書の定番・
王道、子供が自分を投影して対象化することができる作品である。いかにも、子供
のことだと思えるものを3つ拾っておく。
きたやまようこ『りっぱな犬になる方法』(1992 年・理論社)
なりたいと思わなくても、将来、いきなり犬になるなんてことはよくある二とな
ので、これは犬が教えてくれた、ちゃんとした犬になる方法の本だ・・・と、いき
なりなことが書かれている。
そこで、
「犬」とはつまり、従順に生きることを強いられるってことかなどと思い
ながら読むと、まあ当たらずといえども遠からずの表現に出会う。また、子供が賢
く生きていく知恵を「犬」に喩えて書いているのではないか。そうかと思えば、
「て
がみ」の項では、友達への手紙や返事は、散歩に行ったとき片足で書こうなどと、
これは「犬」のことだなとおもえる文もある。
本の構成は、
「てがみ」のような項目が五十音順に挙げられていて、ほぼ一項目が
見開き2ページになっている。目次にある、あ~な行までの項目と「ひと」という
項目の記述をコピーしてみよう。
「ひと」の項目は、なかなかである。これは子ども
へのメッセージではないかと思います。
末政ひかる『たれごよみ』(1999 年・小学館)
「たれぱんだ」の何冊目かの本である。表紙にも背表紙にも著者名がなく、背に
は「年がら年中たれています」とのサブタイトル?春夏秋冬の暮らしの行事をネタ
に、たれぱんだを様々なものごとに見立てたイラストの表現が楽しい。夏祭りの「い
そべまき」と夏休みの宿題「どくしょかんそう文」の見立てをコピーさせてもらう。
また、たれぱんだのキャラクターを表した、ことわざや俳句の作り替え(パロデ
ィ)がいくつかある。
・とらの衣をかるぱんだ。
でもぜんぜんこわくない
・春眠にかぎらず暁を覚えず。
・あさがおに てあしとられて たれぱんだ。
・たれの考え休みに似たり。(勤労感謝の日)
・たれぱんだの手もかりたい。
でもとくにやくにたたない。
このように特定のキャラクターに合わせて、ことわざ・慣用句を作り替える遊びは、
昨年発行されたサンリオの『ぐでたま哲学』
(大和書房)につながっている趣向であ
る。
谷川俊太郎『いちねんせい』(1988 年・小学館)
初めて入手したのは、21世紀になろうかというときだったと記憶する。108
円也の古書を買ってみて、谷川さんとは、拙著『素敵にことば遊び』
(學藝書林)に
付けた「しおり」の対談をさせていただいたのだが、その時より早く発行されてい
たことがわかり、あまりの迂闊さにあきれてしまった。出版した本の宣伝なぞ一切
なさらないからなあ・・・。作品を3つほどとりあげ、思い出すことを書いてみよ
う。
「あ」という詩が一番初めに出ている。
で始まり、三連のあと「あ だいすき/ あ またあおうね」で終わる。この詩を
入学式のセレモニーでつかった。2年生の子どもに音読してもらって、先生3入の
1年生の担任に「あ」を小黒板に書いてもらうという演出。
「あな」は、
という、5・7調のフレーズが5つある作品。黒板に書きながら、最後のフレーズ
をあてっこするという授業を3、4回試みた。4連日に、
「からだにあった あなひ
とつ」があり、
「のぞいてみたら うんこさん」とある。授業は、ここで佳境に入る
仕掛けだ。
「つまんない」は
という3行のフレーズが4つある作品。これに曲が付けられて、波瀬満子さんが舞
台で披露された。作曲者はどなたかわからないが、ひっとしたら、谷川賢作さんか
もしれない。歌えないこともないが、聞かせられるほどではない・・・。(6・5)
2
新聞の小さな広告にもことば遊びの技法を駆使したものが、ときどき掲載される。
無造作にノートやファイルに挟み込んだまま、出然してしまうのが常である。必要
があってノートを開いたときに、こんなのもあったなあと、ここで会ったが百年目
は大げさだが、切り抜いたのがずいぶん昔のような気分がやってくる。あるいは全
身麻酔の手術から覚めたときのような空白感とでもいおうか・・・。そんな広告を
3点。
いつの掲載かはメモがない。○○の目は、乳酸菌
の日のように、数字の語呂合わせによるものが多い
が、
「電池の日」は、11月11日を漢数字で考えた
点がユニークだ。石ちゃんの胃腸薬の広告はテレビ
でも盛んに登場するが、
「コボちゃん」の下の欄にと
きどき掲載される。
ちなみに、6月9日は「ロックの日」だそうで、
一瞬音楽のロックかと思ったが、カギのこと。静脈
での開錠システム、ロックしたことを確認できるカ
ギ、防犯対策のあれこれなどが、夕方のニュース番組で報じられていた。 (6・9)
3
テレビコマーシャルを観察していると、その技法をいくつかに分類でできそうな
気がしてくる。音声と活字で構成された画像で、会社名や商品をダイレクトに見せ
る手法が主流だが、ちょっと手が込んでいたり、ユーモアがあったりなどする広告・
作品もある。ドラマの仕立ての続き物の映像を次々に見せて、宣伝費が潤沢である
ことを誇っているかのような企業もある。どこか?って、野球チームも強いあの会
社ですよ。
さて、ちょっと手が込んでいるというのは、わたしが気づくことから、会社・商
品名をダイレクトには宣伝・表現しないで、ことば遊びの技法を活用しているという
意味である。現在気づいている範囲で、いくつかを紹介しておこうとおもう。
OPEN
HOUSE(オープンハウス)
会社名である。織田裕二と柄本明が、ねこのぬいぐるみを着て土手で会話してい
るCM。柄本が「オぺンホーセ」と言ったあとで、会社のロゴが映る。正式の会社
名を言わないで、
「なんか変だぜ!」という違和感を誘う仕掛けだ。会社名のロゴに
注目してしまう。
アリエール
洗剤のコマーシャル。
「ありえないでしよ?いえ、アリエールでしよ」という音声
がポイント。有り得ない⇔有り得るの<シャレ>だと、すぐわかる技法。国語辞典
では、
「有り得る」は「ありうる」しか出ておらず、その否定形として「ありえない」
だと書かれている。しかし、パソコンでは「ありえる」で「有り得る」と変換する
ので、間違いだとはいえなくなっているのかもしれない。
OS- 1
所ジョージさんが出演しているコマーシャル。「ストップ脱水・ストックOS-
1」と活字が映される。1字違いの綴り替えで、<シャレ>の一種だといえる。
やまたまや
JR八王子駅のコンコースにオープンした、山梨と多摩地方の物産を扱う店で、
青梅線・中央線の電車広告で見た。いうまでもな<、<回文>でできている。山梨
の「やま」と多摩の「たま」に・・・屋の「や」をつけた共同店舗の名前といった
ところか。
ソラドレ
日本食研が発売した野菜ドレッシングの名前。
「空と大地のドレッシング」がキャ
ッチコピーで、
「まるごとトマト・イタリアン」と「きざみ玉ねぎ・和風」の2種が
ある。空の「ソラ」と、ドレッシングの「ドレ」を合わせたネーミングだが、コマ
ーシャルでは「ソラドレ」を音階に合わせて合唱するという趣向。ドレミの音階(音
節)でできたことばさがしをすると面白いだろう。ドラミちゃんとか、美空ひばり
とか・・・。ちなみに、ソラシドエアーという格安航空会社がある。
4
小野寺牧子さんの『にほんご万華鏡・2』
(中央公論社)を読んでいる。図書館か
ら借りた本で、
「人生を豊かにする閑字」という副題がついている。1巻目はすでに
読んだが、小冊子への月1回の連載をまとめたもので、決まった漢字の熟語・慣用
句などに関するうんちくが語られている。2巻目は、見たり聞いたりしたことのな
いことばがこれでもかという感じで出てきて、ちょっと辟易ものだ。折々にニュー
スのコメントが書かれているのだが、キヤスターの口真似の域を出ておらず、どち
らかといえば嫌いな文章だ。
そのなかにことば遊びの視点で面白く思った内容を二つ。
「一本でもにんじん」と
いう歌を口ずさんでいたら、一石二鳥、二束三文などという四字熟語が浮かんでき
たといい、
「漢数字のしりとり風慣用句」をとりあげている。見聞きしたことのない
四字熟語もあるのだが、できるだけよく知られたものを拾ってみよう。
六・七、九・十のものは見つからず、八・九のものは聞いたことのない「八索九
丘」(はっさくきゅうきゅう)という特殊な熟語しかないらしい。
もう一つは、
「身近な忌詞」のコレクションが一章立てで取り上げられている。忌
詞(い
みことば)とは、不吉な事柄や否定的な意味を連想させるとして、使うのを避ける
ことばをいうのだが、その連想は<シャレ>、つまり同音語によるものである。以
下、本章の記述をもとにダイジェストしてみよう。
「おから」は「空」を連想させるので、
「卯の花 J といわれている。また、なし、
する、あしも避けられて、別のことばで言い換えられている。たとえば、梨は「無
し」に通じるので「ありの実」といい、
「する」が博打で負けることを意味するとこ
ろから、代わりに「当たり」と使う。たとえば、するめ→あたりめ、すり鉢→あた
り鉢、硯箱→あたり箱。加えて、スリッパをアタリッパ・・・などという落語のマ
クラがある。
水辺に生える「葦・アシ」を「悪し」を連想させるというので、さかさまにして
「善し」にちなんで「葦・よし」と言ってきた。この植物で作った簀子(すのこ)
を葦簀・よしずといい、これで囲った小屋のことを「葦簀張り」というそうだが、
アシズバリではない。同じ漢字に真逆な二通りの訓読みがある。ちなみにパスカル
の「人間は考える葦である」は「アシ」と読む。
死を連想させるというので、4号室がないとか、漢数字の「四」は「よん・よ」
と訓読みするとか・・・、逆に数字では縁起の良いものがあると考えられているな
ど。日本に明治期に「シネマトグラフ」という映写機が輸入「シネマ」と呼んでい
たが「死ね」につうじるというので「キネマ」を用いるようになったとのことだ。
そういえば、
「キネマ旬報」という雑誌があったが・・・。もっとも最近では、映画
館の名前や宣伝文句に「シネマ」は普通に使われているようだが・・・。
(6・15)
5
馬場雄二さんの新刊書『漢字力が身につく熟語練習帳』
(岩波ジュニア新書)を買
い求めた。パズル式の漢字ドリルで200問余りが掲載されている。熟語リレー、
誤字等をさがせ、熟語の部屋わけ・書き足し、熟語の漢字算の4章で編集されてい
る。いくつかを問題集としてコピーしておくので、チャレンジしてみてはいかが・・・。
まず、
「熟語リレー」は、お察しの通り<熟語しりとり>である。出来上がった熟
語しりとりを規則的に空欄にして、パズルとして当てはめさせる出題形式。
「王」の
字形になるリレーと回転するものとを一つずつ。
「王様リレー」の前に一列5文字の
ものがある。それは、「王」の横の形式と同じである。「回転するリレー」は、少し
ずつ字数が増えていき、複雑になって、次の「花の熟語リレー」に延長される。い
ずれも、
「ヒントの漢字」が書かれているので、大人にとってはさほど難しいとは思
えない。
もうひとつは「熟語の漢字算」というもの。漢字の足し算・引き算と称して、横
書きの式で書かれた問題があるが、この問題は、筆算の形式になっており、答えが
熟語になるという点で、新しい着想だといえる。掛け算・割り算も考えられている
が、ちょっとこじつけられている漢字・感じがしないでもない。掛け算といいながら、
足し算のようだし‥・。