日本の証券・銀行におけるリスクマネジメントの今後について 〜新たな

平成 25 年度三田祭論文
経済学部 池尾和人研究会
日本の証券・銀行におけるリスクマネジメントの今後について
〜新たなマクロプルーデンスツール〜
慶應義塾大学経済学部経済学科3年
池尾和人研究会 20 期
石田桃子
亀崎泰広
菅貴大
証券パート
藤田将貴
2013 年 11 月
1
森田沙理奈
目次
はじめに ............................................................................................................................ 3
第1章
金融リスクマネジメント ..................................................................................... 4
第1節
金融リスクとは................................................................................................ 4
第2節
金融リスクマネジメントとは .......................................................................... 5
第2章
ミクロプルーデンス ............................................................................................ 6
第1節
ミクロプルーデンス政策とは .......................................................................... 6
第2節
水平的・二次元アプローチ .............................................................................. 9
第3節
垂直的・三次元アプローチ .............................................................................11
第4節
中長期的・四次元アプローチ ........................................................................ 12
第5節
自己資本管理 ................................................................................................. 13
第3章
マクロプルーデンス .......................................................................................... 14
第1節
マクロプルーデンス政策とは ........................................................................ 14
第2節
バーゼル規制 ................................................................................................. 16
第3節
金融モニタリング基本方針 ............................................................................ 20
第4章
従来のリスク管理における問題点 ..................................................................... 21
第1節
マクロリスクに対する問題意識 ..................................................................... 21
第2節
VaR の問題点................................................................................................. 22
第3節
ストレステストの問題点 ............................................................................... 26
第5章
提言 ................................................................................................................... 28
第1節
マクロリスクを考慮した統合的リスク管理 ................................................... 28
第2節
CoVaR ........................................................................................................... 28
第3節
マクロストレステスト ................................................................................... 32
第6章
おわりに ............................................................................................................ 35
あとがき .......................................................................................................................... 36
参考文献 .......................................................................................................................... 36
2
はじめに
1980 年代に始まる金融業務の自由化・国際化によって、金融業界を取り巻く環境は大き
く変化した。金融市場の活性化とともに金融機関の資産・負債管理が複雑化したためリス
クも同様に増大した。一方でそれに伴って VaR を用いた計量的リスク管理手法も発達して
きた。しかしながらそれだけでは金融リスクマネジメントは不十分であり、サブプライム
ローンに端を発した世界金融危機で改めてリスク管理の問題が顕在化した。この原因は今
まで個別金融機関ごとにリスク管理をすること(ミクロプルーデンス)で、金融システムの
安定性が保たれると信じられていたことにある。世界的なシステミックリスクにおいては
各金融機関のリスク管理だけではなく、より視座を高くした全体でのリスク管理(マクロプ
ルーデンス)が必要となる。
これまでに監督当局はバーゼル規制や金融モニタリング基本方針などいくつかのマクロ
プルーデンス政策を策定してきたが、個別金融機関に対応を求められる VaR やストレステ
ストなどのリスク計測の面は未だにマクロリスク1を対処しきれていない。そこで、従来用
いられてきた VaR やストレステストの欠点を補足する手段として、CoVaR やマクロスト
レステストを導入し、より精緻なリスク計量を実現するべきである。
論文の構成としては、第1章で金融リスクとはなにか、金融リスクマネジメントとはな
にかを明らかにしたうえで、第2章で個別金融機関ごとに行われてきたミクロプルーデン
ス政策について統合的リスク管理を中心として説明する。第3章で金融危機後に重要性が
高まったマクロプルーデンス政策としてバーゼル規制と金融モニタリング基本方針につい
て述べたのち、第4章で個別金融機関がこれまで行ってきたリスク管理についてマクロプ
ルーデンスの観点から問題点を指摘する。第5章ではそれを改善する手法として CoVaR
とマクロストレステストを提言する。
1
マクロリスクに関しては第4章第1節で後述する。
3
第1章
金融リスクマネジメント
本章ではまず金融リスクの定義を行う。その定義に基づいた上でリスクをカテゴリー化
していき、どのようなリスクがあるのかを把握する。次にそのカテゴリー化されたリスク
をどう管理していくべきか、金融リスクマネジメントについて定義する。
第1節
金融リスクとは
リスクとは想定の範囲を超えた(負の)影響を与える事象が発生する可能性のことである。
あらかじめ予想される期待損失は業務を行う上でのコストであり、リスクとして認識すべ
きはあらかじめ予想していない非期待損失である。つまり金融リスクとは、業務に不測の
損失を生じさせ、金融機関の経営のベースとなる資本を毀損する可能性をもつ要因と定義
できる。しかしながら上記のように金融リスクを定義したとしても、金融機関において実
際に損失が発生する要因は様々である。リスクマネジメントの実務を構築するためには定
義に基づいた上でリスク要因を分類、そしてリスク要因ごとにふさわしいリスクマネジメ
ントを検討し、さらにそれに対する対応を適切な組織や資源を充てて行うことが必要にな
る。本稿では金融機関が晒されるリスク要因を以下のように定義する。(図表 1-1 参照)
図表 1-1
金融リスクの主な種類
リスクカテゴリー
市場リスク
信用リスク
定義
市場の動きにより、保有ないし執行する金融資産・負債ポ
ジションの価値が変動し損失を被るリスク
取引相手の信用状態の悪化等により、与信取引の価値が
減少ないし消失し、損失を被るリスク
負債に対する資産の流動性が確保できないことや予期せ
流動性リスク
ぬ資金の流出により支払不能に陥る、あるいは負債の調
達コストが著しく上昇することにより損失を被るリスク
オペレーショナルリスク
不適切な内部手続、人的要因、システムあるいは外部要因
から損失が生じるリスク
市場のある参加者の債務不履行が、市場の他の参加者の
システミックリスク
債務不履行を引き起こし、その結果として金融市場全体
の安定性を損なうリスク
出典:藤井[2008] p121 より筆者作成
上記のようにリスクカテゴリーを明確にし、リスクの定義を厳密に行わなければ 2 種類
の管理上の問題が生じてしまう。1 つはリスクの定義が厳密に行われず、定義されたリス
4
クの間に隙間が存在することである。この場合、どんなにリスク管理を徹底しても狭間に
落ちたリスクが管理対象からもれてしまう。もう 1 つは定義したリスクに重複が存在する
ことである。重複しているということはそのリスクを二重に管理するということでより安
全なリスク管理となるが、リスク管理は管理業務を担うコスト部門であり不必要なコスト
をかけることは避けなければいけない。以上よりリスクを定義する際は狭間に落ちるリス
クがないように可能な限り厳密な定義づけを行う必要がある。
第2節
金融リスクマネジメントとは
金融業を含む全ての事業はリスクとリターンの組み合わせであり、高いリターンを目指
すのであればそれに見合ったリスクをとらなければならない。リスクをゼロにして利益を
得ることは不可能であり、リスクとリターンはトレードオフ2の関係にある。そもそも株主
からの収益期待に応えるために金融機関が能動的にリスクテイクし、より高いリターンを
目指すのは当然のことである。しかしながら闇雲にリスクをとり、リスクが顕在化した際
に経営破綻してしまうことは許されない。このことは特に高い公共性を持つ金融機関にお
いて言える。リスクが顕在化し損失が発生した場合でも金融機関はそれを資本で吸収し、
金融事業を継続するとともに、預金者等の一般債務者には影響がないようにしなければな
らない。つまり金融リスクマネジメントとは、
「金融機関がさらされるさまざまなリスクを
認識し、経営に安全性を確保しながら株主価値の極大化を追求する過程で、発生するリス
クを取締役会等が定める範囲内にとどめる活動」3と定義できる。リスクを可視化しそれが
いつ顕在化しても対応できるようにあらかじめ資本を備えておく必要がある。
また期中のリスクテイクは期初にリターン目標を設定した際に決められているが、問題
は期中のリスクテイクが予想を超えて増えてしまう場合である。こうした想定外のリスク
が生じたときには早期に感知してリスクを縮小することで当初規定したリスクの範囲内に
収める、あるいは業務環境の変化に応じて業務計画そのものを修正する必要がある。この
ような対応もリスクマネジメントの一つとして含まれる。
・リスクマネジメントの手法
リスクマネジメントの手法として主に、①リスクマップ方式、②リスク評点化方式、③
リスク計量化方式、の 3 つが挙げられる。
①リスクマップ方式とは網羅的に抽出されたリスク事象をリスクの発生可能性と影響度
に応じて分類する方式のことである。分類したリスクのうち発生可能性が高く、影響度も
大きいリスクに対してそのリスクの重要度が高いと評価する。
②リスク評点化方式とはリスクの発生可能性、影響度、コントロールの有効性をそれぞ
2
3
一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態・関係のこと。
東京リスクマネジャー懇談会[2011] p6
5
れ評点化し乗じることによってリスクを評点化する方式のことである。その評点に閾値を
設け、それを超えるときにそのリスクの重要度が高いと評価する。
③リスク計量化方式とはリスクの発生可能性を確率で表し、それの影響度を金額ベース
に換算する方式のことである。確率、金額が一定水準を超えるときにそのリスクの重要度
が高いと評価する。
3 つの方式いずれにおいてもリスクの重要度や優先順位を決めることは可能であるが、
当該組織の収益・経営体力と対比して過大なリスクを負っているか否かを判断できるのは
リスク計量化方式のみである。つまりリスクを計量化して保有する資本と照らし合わせる
ことで、低確率で起こる大規模な損失が発生してもそれを資本で吸収でき、経営の健全性
を高めることができる。この考えから近年ではリスク計量化手法を中心としたリスクマネ
ジメントが行われている。
第2章
ミクロプルーデンス
第1章では金融リスク、金融リスクマネジメントの定義について述べた。本章では 2008
年の世界金融危機以前に行われてきた個別金融機関ごとのリスク管理手法として統合的リ
スク管理、自己資本管理について述べる。構成としては統合的リスク管理とは何かを明ら
かにしたうえで、VaR をはじめとしたリスクの計量化と組織的リスク管理、リスク管理の
高度化についてそれぞれ述べていく。その後にもう一つの軸である自己資本管理に関して
言及していく。
なおこの章は藤井[2008]を特に参考とした。
第1節
ミクロプルーデンス政策とは
ミクロプルーデンス政策とは個々の金融機関が健全性を確保することで金融システムの
安全性を保とうとする政策であり、世界金融危機以前はこの考えがリスク管理の中心とな
っていた。特に日本においては金融検査対応を意識した各個別金融機関のリスクマネジメ
ントが行われており、その流れで重要な役割を果たしてきたのが金融検査マニュアルであ
る。金融検査マニュアルとは、検査官が預金等受入金融機関を検査する際に用いる手引書
として位置付けられるもので、各金融機関においては金融検査マニュアルを参照しつつ、
自己責任原則に基づき、それぞれの規模・特性に応じた方針、内部規程等を作成し、金融
機関の業務の健全性と適切性の確保を図ることが期待される。つまりこれは金融機関の能
動的なリスク管理を目的として導入されたのだが、金融機関は各チェックリストの項目充
足を目的としてリスト上の個別の着眼点に対する「消しこみ」を重視し、チェックリスト
6
からくる個別の質問に対して答えるための回答や対応をリストとして準備するという行動
様式に出た面が否定できない。一方で、特にマニュアルの導入当初は対象となる金融機関
の規模や業務内容、業務の複雑さが異なるにもかかわらずマニュアルを画一的に適用した
という批判もなされていた。
・統合的リスク管理
その金融検査マニュアルの中心的考えとなっていたものが、
「統合的リスク管理」である。
統合的リスク管理とは金融検査マニュアルによると「金融機関の直面するリスクに関して、
自己資本比率の算定に含まれないリスク(与信集中リスク、銀行勘定の金利リスク等)も含
めて、リスクカテゴリーごと(信用リスク、市場リスク、オペレーショナルリスク等)に評価
したリスクを総体的に捉え、金融機関の自己資本(経営体力)と比較・対照することによっ
て、自己管理型のリスク管理を行うこと」としている。またその中でも「各種リスクを
VaR(後述)等の統一的尺度で計り、各種リスクを統合(合算)して、金融機関の自己資本と対
比することによって管理するもの」を「統合リスク管理」として別に定義している。これ
らの関係は図表 2-1 に示されるような関係であり、両者の狭間にあるリスク管理について
は「統合リスク管理によらない統合的リスク管理とは、例えば、各種リスクを個別の方法
で質的又は量的に評価した上で、金融機関全体のリスクの程度を判断し、金融機関の自己
資本と対照することによって管理するもの」としている。
つまり、統合的リスク管理で求められているのは、金融機関がその直面する様々なリス
クを計量化できるものも計量化できないものも自行なりに評価したうえで総体的に捉えて、
その総体が自行庫の自己資本に照らしてどうなっているか(自己資本の範囲内に収まって
いるか等)を比較・対照したうえで管理するということである。
図表 2-1
統合的リスク管理概念図
統合リスク管理
統合的リスク管理(金融機関がさらされたリスクの総体)
出典:藤井[2008] p28 より筆者作成
「統合リスク管理」によらない統合的リスク管理
統合的リスク管理では各種リスクを自己資本と比較しているがその意味合いは何である
のか。業務から損失が発生した場合にそれを吸収する役割を果たすのが自己資本である。
7
金融機関も例外ではなく、各種リスクから発生する損失が自己資本の範囲内にとどまって
いる限りは、仮にその金融機関が破綻したとしても損失は株主が負担すればよいが、自己
資本を超える損失が発生した場合は株主の責任を超え、債権者の債権が毀損することにな
る。金融機関における債権者の大部分は預金者であり、自己資本を超える損失が発生する
場合に預金者保護の観点から大きな問題になると考えられる。そのためリスク管理体制を
構築して予想外の損失の発生を抑える、特にそれを自己資本の範囲内に抑えるという自己
資本管理との役割が重要になってくる。
統合的リスク管理態勢は様々な要素を考慮しており、全体像を把握しにくい。そのため、
①水平的・二次元アプローチ、②垂直的・三次元アプローチ、③中長期的・四次元アプロ
ーチ、という連続する 3 つの「次元」から整理して考えるべきである。(図表 2-2 参照)
図表 2-2
統合的リスク管理の三つの次元
統合的リスク管理
(中長期的・四次元アプローチ)
◎高度化
◎組織体制
垂
直
的
・
三
次
元
ア
プ
ロ
ー
チ
)
◎モニタリング
(
◎PDCA
統
合
的
リ
ス
ク
管
理
)
統合リスク管理
(水平的・二次元アプローチ)
◎リスクカテゴリー(市場・信用・オペレーショナル)
出典:藤井[2008] p73 より筆者作成
8
第2節
水平的・二次元アプローチ
水平的・二次元アプローチとは、市場リスクや信用リスク等をリスク要因ごとに整理し、
可能な限り計量化して合算するアプローチである。金融検査マニュアルでいう「統合リス
ク管理」の考え方がこれにあたる。この次元では様々なリスクを横串で比較して足し上げ
ることから、出来るだけ基準をそろえて合算する必要がある。
・VaR
リスクの計量化において既に業界標準で用いられているのが VaR(Value at Risk)である。
VaR とは、「過去の一定期間(観測期間)の変動データに基づき将来のある一定期間(保有期
間)のうちにある一定の確率(信頼水準)の範囲内で被る可能性のある最大損失額を統計的
手法により推定した値」4である。例えば「信頼区間 99.9%で保有期間 10 日の VaR 値は
10 億円である」は、現在のポジションを 10 日間持ち続けた場合に 0.1%の確率で 10 億円
以上の損失が発生することを意味する。始まりとしては JP モルガンが 1992 年に分散共
分散法に基づく標準的な手法と市場データセットを「リスクメトリクス(Riskmetrics)」と
いう商標名で公開したことで、米国銀行を中心に普及したとされている。
VaR の特徴として、過去のデータに基づき統計的手法を用いて求められるため客観性が
高いということがある。一方でその前提条件を確認する必要があるということ、求められ
た値はあくまで推定値のためバックテストなどで統計的に「検証」する必要があるという
こと、過去のデータからの推測のため予測値として限界があるということを認識したうえ
で用いる必要がある。
元々は市場リスクの計測のために用いられてきたが、改良が加えられ、信用リスク・オ
ペレーショナルリスクにも用いられるようになった。リスクカテゴリーによって損失分布
の形状は異なるのでモデル化の方法にも差異が生じる。市場リスクは利益と損失ともに生
じる可能性があるので、損失分布は左右対称の釣鐘型となる。信用リスクやオペレーショ
ナルリスクは、少額の損失は発生頻度が高く、多額の損失については発生頻度が低いと考
えられるので、損失分布は片側に裾野の長い形状となる。
4
FFR+[2010] p86
9
図表 2-3
リスクカテゴリー別にみた損失分布(イメージ)
注 図中の EL(Expected Loss)とは期待損失のことを指す
出典:碓井[2008] p22
・VaR の計測手法
VaR の計測手法には、①分散共分散法、②ヒストリカルシミュレーション法、③モンテ
カルロシミュレーション法の 3 つがある。
①分散共分散法(デルタ法、Variance-Covariance 法)とは、リスクファクターが正規分布
に従って変化すると仮定し、それを金融機関のポジションに当てはめることで VaR を算出
する方法のことである。計算が容易である反面、現実には満たされないことが多い正規分
布を仮定していること、非線形リスクの強いデリバティブ5などは評価できないという問題
点がある。
②ヒストリカルシミュレーション法とは過去のデータをシミュレーション用データとし
て用いて VaR を算出する方法である。分散共分散法と異なりリスクファクターの分布につ
いて制約がないが、過去のデータのみを参照しているため未知のリスクに対応できないと
いう問題がある。
5
金融派生商品。
10
③モンテカルロシミュレーション法とは多数の乱数を発生させることで将来の市場リス
ク要因の動きをランダムに発生させてその動きを現在保有するポジションに適用し、そこ
から発生する損失を計算、そしてその損失を順に並べて設定した信頼区間に対応する損失
額を VaR とする方法である。非線形リスクの強い商品の評価が可能だが、計算に時間がか
かるという難がある。
・ストレステスト
VaR にはいくつかの計算手法があったが、いずれの方法でも「過去は繰り返す」という
基本的な考え方に基づいて推定されていると言える。このため VaR は客観性が高いリスク
指標ではあるものの予測値としては限界があり、それを超過するリスクに関しては把握す
ることは出来ない。
リスクマネジメント上、その VaR の限界を補完するためにはストレステストを行うのが
一般的である。ストレステストとはある想定のもとでリスクファクターを大きく変動させ
たときにポートフォリオの価値がどれだけ変化するかを調べるもので、過去のショック時
の変動を参考にするものから、起こり得る変動を自由に設定するものまで存在する。
第3節
垂直的・三次元アプローチ
このステージはリスク管理の「態勢面6」の問題である。ここでは定量的7な内容も定性
的8な内容も含まれることになり、先の水平的アプローチが定量的な「統合リスク管理」で
あったのに対してより全体をカバーする「統合的リスク管理」が可能になる。具体的には
組織体制やリスク管理ポリシーの決定などがこれに含まれることになる。
・組織体制
リスク管理における組織体制で、最も一般的なのはリスクの種類に対応して組織体制を
あてがう方法である。例えば市場リスクについては市場リスク管理部、信用リスクについ
ては信用リスク管理部が担うという方法である。しかし全社的なリスク管理を行なう上で
は、こうした個別のリスク管理部門に加えて、より高い視点からリスク管理を行なう「統
合的リスク管理部門」も求められることになる。この部門は各部門に任せているリスク管
理手続きが総体として見て、整合性が取れていなかったり狭間に落ちるものがあったりし
ないように調整機能を果たすことが期待されている。
6「体制」が組織立てを重視したものであるのに対して、
「態勢」は組織体制だけではなくそれを取り巻
く規程類やメカニズムも含めたトータルのものであると考えられる。
7 過去の売上高や利益率など、数値として表される情報。決算書など財務諸表から客観的に把握するこ
とができる。
8 将来の事業計画や取引先など、財務諸表に現れない情報。
11
・リスク管理ポリシーの決定
統合的リスク管理態勢を構築するうえでリスク管理に関する全社的なポリシーおよび手
続きの制定は態勢整備の中核的位置づけとなる。金融検査マニュアルにも記されているよ
うに基本方針は取締役会が決定すべきものである。基本方針では、そもそも金融機関とし
て能動的にリスクを取る方針であるか、相応のリスクを取るならばどのように管理したい
か、どのような部署にリスク管理をさせたいか、リスク管理をどのように報告させたいか
などが示されることになる。この方針が大きな方向性を定め、具体的な管理内容は下部組
織である各リスク部門などが規定することとなる。
・リスクモニタリング
リスク管理の実務では、以下の一連の行動が含まれることになる。①管理対象としたリ
スクの内容や度合いを評価、②それをモニタリングし、③その結果を取締役会や経営陣を
含めた関係者に報告、④必要に応じてリスクをコントロールないし削減する、といったア
クションを起こすという流れである。
第4節
中長期的・四次元アプローチ
中長期的・四次元アプローチとは、以上のような構成要素に期間の概念、すなわち高度
化計画の考え方を加えるものである。そもそもリスク管理はある程度概算で対応したり、
軽微なリスクを捨象していたりするため、現時点で完璧なリスク管理方法は存在していな
い。また時代の流れとともに対応すべきリスクは増加、複雑化しているため、リスク管理
態勢は常に高度化を図っていくべきである。
あるサイクルで行った統合的リスク管理の高度化の試みは、その達成度や達成による成
果、あるいは達成できなかった反省や見直しの必要性の検証等を経て次のサイクルの高度
化に繋げていく必要がある。もちろん、業務計画や資本計画に基づく業務内容の変化やリ
スク内容の変化からくるリスク管理上の要請もあるし、単年度計画だけでなく、当初より
統合的リスク管理態勢整備にかかわる中長期の高度化計画を策定することも考えられる。
このリスク管理態勢高度化の考え方は金融検査マニュアルで触れられている PDCA サイ
クルに通ずるものである。PDCA サイクルとは「Plan-Do-Check-Act」というサイクルの
過程で出てくる四つのプロセスの頭文字をつなげた略称であり、各プロセスの処置は図表
2-4 の通りである。
この四つの段階が完了すると、最後の Act を次回の PDCA サイクルの Plan につなげて
いくことで継続的な業務改革を実現していくこととなる。
12
図表 2-4
PDCA サイクルの各プロセス
【P】Plan(計画)
:過去の実績やその評価、将来の予測などに基づいて業務計画を策定
する段階
【D】Do(実施・実行)
:計画に基づいて業務を遂行する段階
【C】Check(検証・評価)
: 実施された業務が計画に沿ったものとなっているか、あっ
ていないところや改善すべき点がないかと確認・評価する
段階
【A】Act(処置・改善): Check プロセスで行われた評価に基づいて、計画どおりいか
なかったところに改善に向けた処置を施す段階
出典:藤井[2008] p209 より筆者作成
第5節
自己資本管理
・自己資本管理の必要性
自己資本管理とは、
「不測の損失に対して自己資本が損なわれるリスクを管理し、金融機
関の健全性とその存続を確保するための枠組み」9であると考えられる。損失が大きく自己
資本が損なわれた場合、残された自己資本では業務のリスクを支えきれなくなるという事
態も考えられ、最悪の場合は自己資本が全て失われて債務超過になり、預金者に被害が及
ぶことさえ考えられる。自己資本管理はこうした事態が発生しないようにあらかじめ業務
のリスクと資本の関係をモニタリングして自己資本が十分に確保されていることを常に確
認するとともに、必要があれば資本を調整したり、リスクを減少させたりというコントロ
ール行動につながるための管理枠組みを整備するものである。
・資本効率運営のための自己資本管理の必要性
自己資本管理は金融機関の健全性の確保のためだけではなく、資本効率を高めるための
方法とも考えることができる。つまり使ったリスク資本に対して良好なパフォーマンスと
考えられるか、あるいは物足りないかというリスク勘案後のパフォーマンス評価を考慮し
て、各業務部門に最適なリスク資本を配賦する手立てを提供することになる。
資本配賦を決定する際にはリスクを勘案した利益の指標を用いる必要がある。具体的に
は RAROC、SVA などを用いて各業務を評価し、収益性の高い分野に焦点を当て経営資源
を投入する「選択と集中」を実践し、収益性の向上と財務の健全化を図る。
9
藤井[2008] p242
13
図表 2-5
リスクを勘案した利益の指標の例
RAROC (Risk Adjusted Return On Capital)
=リスク調整後収益10/リスク資本
SVA (Shareholders Value Added)
=リスク調整後収益-リスク資本×資本コスト率
出典:FFR+[2010] p27 より筆者作成
・ALM
自己資本管理と似た意味合いを持つ言葉として ALM がある。言葉の意味合いは若干異
なるものの目指すべき方向性は同等である。ALM(Asset Liability Management)とは資産
と負債に対するマネジメントのことであり、時代とともに様々な意味合いを持つようにな
っているが、主に 3 つの用途・目的で使われてきた。1つ目は、流動性リスクを把握する
ことを目的とした資金繰り管理としての ALM である。資金・負債に存在する金融商品か
ら生じるキャッシュフローについて、そのタイミングを把握し、キャッシュフロー発生タ
イミングを把握・管理するというものである。2つ目は金利リスクを把握することを目的
とした ALM であり、将来の金利変動が資産・負債の価値に与える影響を把握するもので
ある。3つ目は期間損益に金利が与える影響を把握することを目的とした ALM である。
金利収支が金利変動によってどのように影響を受けるか把握することで予算策定や決算の
着地見込みを分析することとなる。
第3章
マクロプルーデンス
第2章では従来のリスクマネジメントであるミクロプルーデンスについて述べた。本章
では、それとは相対的な考え方であるマクロプルーデンスについて述べる。はじめに前述
したミクロプルーデンスとの比較によりマクロプルーデンスについて説明し、次に日本や
欧米諸国におけるマクロプルーデンス政策の現状について述べていく。
第1節
マクロプルーデンス政策とは
ミクロプルーデンスとは、「個々の金融機関が健全経営を行えば、その集合体である金
融システムは安定する筈であり、規制・監督はそうしたミクロ・レベルの健全性実現に焦
点を当てることで対応する」11という考え方であるのに対して、マクロプルーデンスとは、
「実体経済と金融市場、金融機関行動の相互連関を意識して、金融システム全体の抱える
10
11
リスク調整後収益=収益-予想損失
白川[2009]
14
リスクを分析し、そうした評価に基づいて意識的な制度設計、政策対応を行っていく必要
がある」12という考え方である。つまりミクロプルーデンスは個々の金融機関の健全性の維
持に焦点を当てた監督規制体系であるのに対して、マクロプルーデンスは金融システムに
脅威を与えるシステミックリスクの軽減と個々の金融機関の破綻防止策を区別し、システ
ミックリスクを軽減することで金融システムの安定性の維持を目的とした監督規制体系で
ある。
マクロプルーデンスという言葉が初めて使われたのは、バーゼル銀行監督委員会の前身
であるクック委員会のクック委員長が 1979 年の 6 月の会合においてマクロプルーデンシ
ャルという言葉を発したときである。同時期にはイングランド銀行のペーパーでもマクロ
プルーデンシャルという言葉が使われるなどマクロプルーデンスは 1970 年代後半に使わ
れ始めた概念である。1980 年代後半には国際決済銀行においても使用されるようになっ
た。それから数十年が経過し、マクロプルーデンスという言葉は規制・監督の分野で定着
した。特に 2007 年以降のグローバルな金融危機を背景に研究が本格化し、マクロプルー
デンスという言葉が使われる頻度は飛躍的に増えている。
ここでは、ミクロプルーデンス政策とマクロプルーデンス政策の概要を図表 3-1 にまと
めた。
図表 3-1
ミクロプルーデンス政策とマクロプルーデンス政策の比較
ミクロプルーデンス政策
マクロプルーデンス政策
金融システムの広範囲に及
短期目標
個々の金融機関の破綻防止
最終目標
消費者(投資家、預金者)の保護
経済全体へのコストを回避
リスクの特性
外生的
(部分的に)内生的
無関係
重要
プルーデンシャルなコン
個別金融機関のリスクの観点
システム全体のリスクの観
トロール方法
から
点から
金融機関の相関や共通の
エクスポージャー
ぶ危機を防止
出典:Bolio[2003] p2 より筆者作成
図表 3-1 よりマクロプルーデンス政策とは個別金融機関の健全性を規制監督することで
はなく、金融システム全体の観点から規制監督を実施することであると言える。政策目標
は金融システムの危機拡大を防止し、経済成長への負の影響を回避することである。これ
はミクロプルーデンス政策が個々の金融機関の破綻を防ぎ、投資家や預金者の保護を図る
ことを目標にしていることと異なる。またリスクの特性は個々の金融機関の行動ではなく、
12
白川[2009]
15
金融機関の集団的行動によって生じるものと考えられている。ミクロプルーデンス政策と
は異なり、金融機関同士のつながりの状況や相互に影響を与え合う関係の内容が重視され
る。さらに政策の実施方法は金融システム全体の望ましい状態を目指す方式であり、それ
を通じて個々の金融機関の健全性を図っていくというものである。これに対してミクロプ
ルーデンス政策は個々の金融機関の健全性確保を最初に図る方式であり、それを通じて金
融システム全体の望ましい状態を目指していくというものである。両者はそれぞれ異なる
特徴を持つが二者択一的ではなく相互補完的である。
第2節
バーゼル規制
この節では、各国金融機関の国際基準で、銀行リスク管理と密接に関わるバーゼル規制
について論じる。バーゼル規制とは国際業務を行う銀行の自己資本比率に関する国際統一
基準のことで、国際金融間における金融システムの安定化を目的として導入されたもので
ある。1988 年にバーゼル銀行監督委員会により発表され、1992 年から適用が開始された。
その後、様々な金融市場の変化に対応するようにバーゼルⅡ、バーゼルⅢと規制内容が改
訂されていく。
・バーゼルⅠ
ブレトンウッズ体制が崩壊した結果として起こった金利自由化と国際的な資本移動の増
加を大きな契機として金融の国際化が進展した。為替制度が変動為替制に移行し、1970 年
代後半には規制金利の撤廃が進行していく。金融機関の資産・負債管理が複雑化したため
金利リスクや為替リスクが増大し、それらに対するリスク管理の重要性が増した。そして
変動為替制導入により為替市場・金利市場が変動するようになったため、その動きを捉え
る事によって収益をあげる可能性をもたらすトレーディング業務やデリバティブ取引が発
展していった。そのような流れの中でベアリングス銀行破綻など大規模な損失が相次いだ
ため、後手に回っていたデリバティブ取引に対する対応が金融機関をあげて必要になった。
デリバティブ取引等から生じた問題について監督当局からもデリバティブ取引に内在す
る信用リスク、市場リスク、決済リスクへの対応を求める動きが強まる。そこで金融関係
者が集まり結成した G30 は「デリバティブ:その実務と原則」=「G30 レポート」を公表
した。それに呼応してバーゼル銀行監督委員会がガイドラインを公表し、BIS 規制が導入
された。リスク量に対する損失吸収バッファーの大小を測る指標である自己資本比率が共
通指標として設定され、最低所要自己資本を設定して銀行に遵守を求めることになった。
各金融機関は国際統一基準として自己資本の額(分子)をリスク・アセット13総額(分母)で除
13
有価証券、債権、外国為替など相場の変動で資産価値が変動し、元本が訴訟されていない資産のこ
と。
16
した割合が最低 8%を維持する事を求められた。海外営業拠点を有しない銀行に対しては
国内基準として 4%の自己資本比率維持を求めた。その後、委員会は市場リスクに対して
も所要資本を求める事を決定し、BIS 規制に市場リスク規制が追加された。
・バーゼルⅡ
ヘッジファンド LTCM の破綻でデリバティブ処理が金融システミックリスクを引き起
こす可能性が懸念され、金融機関団による出資と処理が行なわれた。その過程で市場流動
性リスク、カウンター・パーティ・リスク14管理、ヘッジファンド等のレバレッジの高い機
関の管理、システミックリスクやテールリスクを想定するストレステストといったリスク
管理の問題が露になった。
そこでバーゼルⅠが改訂されて新たにバーゼルⅡが制定された。バーゼルⅡでは「3つの
柱」としてリスク計測の精緻化による最低所要自己資本比率規制改訂(第一の柱)、金利リ
スク・信用集中リスク等の自己管理(第二の柱)、情報開示の充実による市場規律の強化(第
三の柱)が打ち出された。3つの柱にそって各金融機関はリスク管理を行っていくものの、
全面的な問題解決には至らなかった。
(1)「第一の柱」
第一の柱では、リスク管理における銀行の自己責任と自主選択を求めた。バーゼルⅠは
単一の計算方式に依拠していたが、バーゼルⅡでは、銀行が自らの業務特性やリスク管理
技術の水準などに応じて信用リスク、オペレーショナルリスクに関して自らに適した計算
方法を選択できるようになった。信用リスクは現行規制を一部修正した方式の標準的手法
と、行内格付けを利用して借り手のリスクをより精密に反映する方式の内部格付手法のう
ちから自らに適する手法を選択する。オペレーショナルリスクに関しては粗利益を基準に
計測する手法と過去の損失実績などを基に計測する手法のうちから選択する。
図表 3-1
自己資本
リスク・アセット
バーゼルⅠとバーゼルⅡ第一の柱の対比
≥ 8%
自己資本(現行のまま)

≥ 8%
リスク・アセット
(
信用リスクの精緻化、
オペレーショナルリスクの追加
)
出典:佐藤[2007] p87 より筆者作成
(2)「第二の柱」
14
デリバティブ取引等の金融取引における、取引相手の信用リスクのこと。
17
第二の柱では、各銀行が自発的にリスク管理の高度化を図ることにより健全性を維持・
向上することを目的とし、銀行自身が自らのリスク特性に応じて第一の柱で考慮されてい
ないリスク(信用集中リスク、金利リスクなど)を含めて把握・管理する「自己管理型」のリ
スク管理と自主的な自己資本充実の取組みを期待するものである。当局は銀行の自発的な
取組みを最大限尊重しつつ検証・評価する。
(3)「第三の柱」
第三の柱は第一の柱と第二の柱を補完し、情報開示の充実により市場参加者が銀行のリ
スク管理の優劣を評価することで、そうした市場からの外部評価の規律付けを通じて銀行
の経営の健全化を維持することを目的としている。従来、銀行法で求められていた開示内
容は主に会計基準等に基づく一般的な財務情報の開示であった(バーゼルⅠのときは計測
された自己資本比率の数値のみ開示)。これに対してバーゼルⅡ第三の柱に基づく開示内容
は自己資本の定量的な構成内容や銀行自身による自己資本充実度の評価方法の概要、銀行
のリスク管理態勢や自己資本政策など定性的な項目の開示が強化された。
・バーゼルⅢ
2007 年のサブプライムローンと証券化問題から生じた金融混乱は、2008 年秋に発生し
たリーマン・ブラザーズ証券の破綻をきっかけに金融危機に発展。大手金融機関の破綻や
買収、公的資金の注入等が相次ぎ金融機関はマヒして実体経済にも大きな影響を与えた。
金融機関の資本と流動性、リスク管理の立て直しが課題となりバーゼルⅢを中心とした金
融規制強化へつながる。バーゼルⅢは「バーゼルⅢ:より強靭な銀行システムのための世
界的な規制の枠組み」と「バーゼルⅢ:流動性リスク計測、基準、モニタリングのための
国際的枠組み」で構成され自己資本比率規制が厳格化されることとなったほか、定量的な
流動性規制や過大なリスクテイクを抑制するためのレバレッジ比率が新たに導入された。
「バーゼルⅢ:より強靭な銀行システムのための世界的な規制の枠組み」は銀行資本の
量と質の双方を改善し過度なレバレッジを抑制するものであり、自己資本比率規制の強化
とそれを補完する枠組みとしてのレバレッジ比率が導入された。資本の量の観点から新た
に資本保全バッファーという概念を導入し、8%に資本保全バッファー2.5%を加えた
10.5%を実質的な最低所要水準として求める。資本の質の観点からは普通株式や内部留保
からなり、損失が発生した際の損失吸収力が高い(=質が高い)普通株式等 Tier1 資本を重
視し、普通株式等 Tier1 資本が最低水準である 8%中 4.5%以上必要であるとした。
図表 3-2
バーゼルⅢにおける自己資本比率の強化
18
出典:金融庁(b) p3
それに加えて、銀行部門におけるレバレッジの積み上がりを抑制するために新しく導入
されたレバレッジ比率は非リスクベースの指標であり、Tier1 資本をエクスポージャー額
(オンバランス項目+オフバランス額)で除したものである。これはリスクベースの指標で
ある自己資本比率を補完するもので、バーゼル委員会はレバレッジ比率が 3%以上必要で
あることを定めた。
「バーゼルⅢ:流動性リスク計測、基準、モニタリングのための国際的枠組み」では流
動性について国際的な基準を導入する事が示される。流動性管理を確実にするための基準
として流動性カバレッジ比率(LCR)と安定調達比率(NSFR)の 2 つの指標が示され、それぞ
れを 100%以上とする事を求められた。(図表 3-3 参照)
流動性カバレッジは仮に金融危機から市場の機能不全が発生して市場からの資金調達が不
可能になるような場合でも、当座の資金繰りを乗り切れるような流動性の高い資産の保有
を求めたものである。安定調達比率は 1 年間先をみた資産負債構成につき、流動性が期待
できないような資産に対しては流動性の源となる安定的な負債と資本をより多く保有する
ことを求める。
図表 3-3
流動性カバレッジ比率と安定調達比率の算式
19
流動性カバレッジ比率(LCR)の算式
適格流動資産
30日間に必要となる流動性
≥ 100%
安定調達比率(NSFR)の算式
安定調達額(資本・預金等)
所要安定調達額
≥ 100%
出典:藤井[2013] p217
バーゼル銀行監督委員会はバーゼルⅢで求められる最低水準に対して主要国の金融機関
がどのような準備状況にあるかについて半年ごとにモニタリングを行ったうえでその結果
を報告している。バーゼルⅢで求められている普通株式等 Tier1 資本の増強は収益積上げ
による内部留保の増強か、普通株式発行でしか積上げる事ができないので時間がかかる事
が予想された。そのためバーゼルⅢの導入は、規制開始の 2013 年1月時点では普通株式
等 Tier1 資本で 3.5%を求める事から始め、現在は 2019 年 1 月の完全実施に向けて段階的
に増加させている。
第3節
金融モニタリング基本方針
ここまで国際的なマクロプルーデンスの取り組みであるバーゼル規制について述べたが、
第3節では国内のマクロプルーデンスに対する取り組みに触れる。国内における当局のマ
クロプルーデンスに対する方針を示したものとして先日公表された「金融モニタリング基
本方針」があげられる。これまで金融庁は毎事務年度初に「検査基本方針」、「監督方針」
を策定・公表し、その年度における検査運営の基本的な取り組み姿勢や重点検証項目を示
してきたが、今年度はマクロプルーデンスの機運の高まりから検査局・監督局の協働作業
を目的としてオンサイト・モニタリング15とオフサイト・モニタリング16を包括した「金融
モニタリング基本方針」として策定・公表することとしたのである。
「金融モニタリング基本方針」では大きく三つの方向性が示されている。一つ目はマク
ロプルーデンスの視点を重視することにより金融市場で何が起こっているかをリアルタイ
ムで実態把握し、潜在的なリスクに対応するということである。二つ目は大手金融機関等
についてはこれまでの規定された基準(ミニマム・スタンダード)を満たしているかの検証
ではなく、より優れた業務運営(ベスト・プラクティス)に近づく観点からのモニタリング
を実施することで金融業全体のレベルを引き上げていくということである。これはミニマ
ム・スタンダードを既に満たしている金融機関については従来の検査の有効性が減少して
15
個別の金融機関に対して、経営管理態勢、金融円滑化、法令遵守体制等の各種リスク管理態勢等の適
切性及び金融機関の経営実態を検査官が立入りを伴って検証する行為。
16 金融機関から任意の協力を得て行う情報収集(資料の提出、ヒアリング等)。
20
いるためである。三つ目はこれまでの個別金融機関の定点的な実態把握に変わって、オフ
サイト・モニタリングや水平的レビュー(後述)による横断的な分析を行うということであ
る。ミニマム・スタンダードの遵守については問題が少なくなってきたが、担保・保証に
過度に依存した融資などの適切なリスクテイクがされていないという指摘がされているの
で、なぜそのような状況になっているかを分析しそれを業界にフィードバックして改善す
ることが期待されている。
・水平的レビュー
水平的レビューとは複数の金融機関に共通する検証項目を選定し、それらの金融機関に
対して統一的目線で取り組み状況を横断的に検証する新たな金融モニタリング手法である。
具体的な流れとしては、①重点検証テーマの選定→②オフサイトヒアリングの実施→③オ
ンサイトヒアリングの実施→④レビュー結果の金融機関へのフィードバックというサイク
ルで実施される。
SIFIs17、一部地域銀行、大手保険会社等に対してそれぞれ本事務年度より試行的に開始
される。立入検査の一種であるが、ベスト・プラクティスや業界共通の実態・課題の把握
などに重点を置くものである。
第4章
従来のリスク管理における問題点
第3章ではマクロプルーデンスの概念、その政策として現状行われているバーゼル規制、
金融モニタリング基本方針について述べた。本章では初めに、金融危機を契機にマクロプ
ルーデンスに関する議論が交わされるようになった経緯について明らかにしていく。次に
VaR とそれを補完する役割を担っているストレステストの 2 つを用いてきた従来のリスク
マネジメントの問題点について述べていく。
第1節
マクロリスクに対する問題意識
従来のリスクマネジメントはミクロプルーデンスに基づいたものであり、特に計量的な
扱いにおいては金融工学に依拠している。これは、①独立性、②完全性、③不変性の 3 つ
の前提が満たされている限り複雑な市場のメカニズムとリスクを高精度に分析可能である。
図表 4-1
従来のリスクマネジメントにおける 3 つの前提の定義
Systemically Important Financial Institutions。金融システム上重要な金融機関。本金融モニタリ
ング基本方針における SIFIs とは、三菱 UFJ フィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグル
ープ、みずほフィナンシャルグループを指す。
17
21
項目
定義
対象となる商品や市場について、個別金融機関におけるリスク顕在化やそ
①独立性
れへの対応が、他の商品や市場に影響を与えるものではなく、ましてや、
元の商品や市場に再度影響をもたらすことはない
②完全性
③不変性
対象となる商品や市場は、常に取引が可能でありまたその自らの取引量に
より価格が変動することはない
対象となる商品や市場の動きの特性は不変であり、特に分散・相関関係も
不変である
出典:西口[2011] p140 より筆者作成
図表 4-1 は3つの前提の定義を示したものだが、金融危機においてはその 3 つの前提が
破れる事態が生じた。リーマンショックを契機に多くの金融機関が同一方向でのリスクテ
イクやその解消を行ったため、想定以上の市場価格の変動や信用の拡大・収縮が引き起こ
され金融システム全体が不安定化した。また、主要金融機関は証券化商品に投資を繰り返
していたため金融危機というマクロ経済変動を受けて価格が急落した証券化商品を抱える
ことになり、市場流動性の低下から資金流動性も低下した。このように今次金融危機にお
いては 3 つの前提が満たされておらず、ミクロプルーデンスに基づく従来のリスクマネジ
メントでは金融システムの安全性の維持、実態経済への波及を防止出来ないことが示され
た。個別取引のその瞬間は適切に金融工学が適用されリスク管理がなされているように見
えるが、実際は全体において無理をきたしており合成の誤謬が起こる。つまりどんなに金
融工学が発展し、またバーゼル規制により資本が強化されても個別金融機関が各々のリス
クを計り、それを合成するというプロセスには限界がある。そこで現在の金融システムが
抱えるような急拡大したシステミックリスクは市場全体のマクロなメカニズムからも解明
する必要がある。このような従来のリスク管理モデルで捕捉しきれない金融システム全体
のリスクをマクロリスクと定義し、これも管理すべきリスクカテゴリーとしてリスク管理
の枠組みの中に追加する必要がある。
第2節
VaR の問題点
以下では金融危機に際して VaR に関する問題点について論じる。金融危機を受け、これ
までにある程度有効だと考えられていたツールである VaR の有効性に疑問が生じた。従
来、合理的・先進的なツールとして VaR は金融機関に導入されてきたが、VaR は過去のデ
ータに大きく依存したリスク計量化手法であり市場環境の大きな変化(システミックリス
ク等)を明確には把握できない。今後、過去にない波及経路や規模となるリスクが顕在化す
る可能性は十二分にあるので、リスク計量化手法(VaR)だけでは捉えきれないリスクを把
握しなければならない。そのためにも VaR の限界性を認識する必要性がある。(図表 4-2
22
参照)
図表 4-2
金融機関が直面するリスクと計量化手法との関係
出典:日本銀行[2011] p4
図表 4-2 の中で述べられている「過去データに基づく統計的手法」とは、VaR などのリ
スクを定量的に評価する手法を指す。図表に示した通り、リスク計量化手法はリスク全体
をカバーし得るものではない。
「金融危機」や「通貨危機」などは過去のデータから予測し
難い事象であり、過去のデータ不足が考えられる。また、リスク計量化手法は平時の価格
メカニズムを前提としてリスクファクターを構築するので、市場の価格メカニズムが崩壊
するほどの局面変化が生じた際には、リスクを把握することが困難になる。
本稿では、VaR の限界性を認識した上で、システミックリスクに焦点を当てるために、
①テールリスク、②分散投資効果の二つの面に的を絞り、VaR の問題点を洗い出していく。
①テールリスク
23
図表 4-3 を用いて VaR の構造上の問題点を考察する。
図表 4-3
テールの形状が特殊な確率分布
出典:第一生命年金事業部[2008] p6
VaR は確率分布の分位点のみ測るため、VaR を超える大幅な損失を考慮していない。例
えば、デフォルト等の発生し得る債権の損益分布は、図表の確率分布 B のように、低い確
率で非常に大きな損失が生じる可能性を含んでいる。一般的な VaR に関する確率分布 A
では、現れない部分のリスク(確率分布 B において点線で囲まれている部分)のことをテー
ルリスクと呼ぶ。これは、VaR によるリスク指標が、損益分布の裾(テール)部分の損失に
関するリスクを完全に把握出来ず、リスクの大小関係を誤って判断してしまう可能性があ
ることを表している。金融危機などの、波及的なリスク(システミックリスク)が起こる際
には、VaR では捉えられないテールリスクが顕在化してしまう可能性がある。また、VaR
はあらかじめリスクファクターを設定するので、大規模なショックが生じた際、リスクを
計量化する上で前提そのものが崩れてしまう怖れもある。VaR をリスクメジャーとして使
用する場合には、想定外の損失をもたらしてしまう可能性を持つことに留意する必要があ
る。
加えて、VaR は金利や株価、収益率等をリスクファクターに設定して計測されるので、
仮に株価のボラティリティが極端に拡大した際にリスクが正確に把握されない場合が生じ
る可能性がある。実際に図表 4-4 のように、日経平均株価を見ても株価のボラティリティ
は一定ではない。また、2008 年に起きた金融危機や 2011 年の東日本大震災のような大規
模ショック時には、株価の上下動がその期間内に集中していることが読み取れる。
図表 4-4
日経平均株価の推移
24
出典:磯貝[2013] p5
②分散投資効果
分散投資効果とは、複数の証券に投資することで保有するポートフォリオのリスクを低
減できるというものであるが、言い換えるとポートフォリオのリスク量が、ポートフォリ
オが保有する個別の証券のリスク量の総和以下となることである。その効果の裏付けとし
て「劣加法性」という性質があるが、VaR では、この劣加法性を満たされていない。
以下の例で、VaR が劣加法性を満たさないことを示す。
設定:日経平均(現在 15,000 円)に対し、以下のポジションを考える。
25
ポジション A
16,000 円以上で+1 億
13,000 円未満で-1 億
ポジション B
17,000 円以上で-2 億
12,000 円未満で+2 億
図表 4-5
ポートフォリオに対するポジション例
A
B
A+B
将来の日経平均の値
確率
17,000 円以上
4%
+1 億
-2 億
-1 億
16,000~16,999 円
4%
+1 億
0
+1 億
13,000~15,999 円
88%
0
0
0
12,000~12,999 円
2%
-1 億
0
-1 億
12,000 円未満
2%
-1 億
+2 億
+1 億
0
0
-1 億
95%VaR
出典:第一生命年金事業部[2008] p7 より筆者作成
図表 4-5 を見ると、ポジション A では信頼区間 96%で起こる事象の中での最大損失額が
0 であり、96%以降は最大損失額が−1 億となる。よって、95%VaR の観点からの最大損失
額は 0 になる。同様に、ポジション B でみると、信頼区間 96%で起こる事象の中での最
大損失額は 0 であり、それ以降は−1 億であり最終的な最大損失額は 0 である。しかしなが
ら A+B のポートフォリオを考慮した際、信頼区間 94%で起こる事象の中での最大損失額
は 0 になるが、それ以降は最大損失額が−1 億になるので、信頼区間 95%VaR の観点から
の最終的な最大損失額が−1 億になり、ポジション A、B それぞれのリスク合算量 0 よりリ
スク量が多くなっている。
このように、VaR が劣加法性を満たさない場合、実際に起きるリスクに対しリスク量を
小さく見積もってしまう可能性があり、個別金融機関に過度のリスクテイクをとらせる怖
れもある。特に、システミックリスクなどの大規模で波及的なリスクが生じる場合、あり
とあらゆる経路でリスクが発生するので、単純なリスク合算では全体のリスクの総和を大
きく誤ってしまう。リスクマネジメントにおいて、VaR を用いてリスクを把握することの
難しさはここにもある。
第3節
ストレステストの問題点
ストレステストとは、個別金融機関の内部リスク管理の一つで、金融市場での不測の事
26
態が生じた場合に備えて、ポジションの損失の程度や損失の回避策をあらかじめシミュレ
ーションしておく手法をいう。
このストレステストが注目をされ始めたのは 1997 年のアジア危機、1998 年の LTCM
以降だが、2008 年のリーマンショックを機にその重要性が再認識され、2009 年 5 月、バ
ーゼル銀行監督委員会は金融危機下でのストレステスト実務の実績を検証し、「健全なス
トレステスト実務及びその監督のための諸原則」と題する銀行と監督当局双方に向けた提
言を公表している。同委員会の監督基準実施部会が 2011 年に行った監督当局による実施
状況の結果、ストレステストは既に監督当局による銀行の評価プロセスの中核となってい
ること、コンティンジェンシー計画策定やコミュニケーションのツールとして活用されて
いることが明らかになった。
第2章にあるように、ストレステストはテール事象を捉えるという意味で VaR の補完的
なリスク管理手法であり、包括的に行われる必要がある。現在の一般的なストレステスト
では、まず 1 つまたは複数の金利、株価、為替等のリスクファクターを決定し、そのリス
クファクターを変動させたときのポートファリオの価値の変化を推定している。そして求
められた最終損益や自己資本比率の変化があらかじめ設定された限度額を超過する場合に
は事業の縮小等の対処を行わなければならない。しかし、リーマンショックという大きな
金融危機によって VaR の補完的な手法であるはずのストレステストの問題点までもが指
摘されることとなった。その問題点の一つは、ストレステストそれ自体のツールとしての
欠点である。リスクファクターの変動幅は外生的に与えられるが、それでは複数のリスク
ファクター間の相互連関性が曖昧になってしまう、また過去のデータに依存した計算を行
うと将来のリスクを想定するには不十分であるといった点が挙げられる。もう一つは、個
別金融機関がストレステストを効果的に扱うためのインセンティブが欠如しているという
問題だ。具体的には、多くの金融機関が関連会社や SIV ビークル18を含む全社的なストレ
ステストを行っていない、あるいは問題のないように逆算されたシナリオを固定して使用
するといった点がある。もし、正しいストレステストが行われたとしても、結果の把握に
留まったまま、その結果を踏まえたフロント部門19への提言や改善策への策定などが疎か
になっている可能性がある。
実際に、先述の「健全なストレステスト実務及びその監督のための諸原則」には「ストレ
ステスト・プログラムは、フォワード・ルッキングなシナリオを含むべきであり、さらに、
システム全体の相互作用やフィードバック効果を勘案することを目指すべきである」とい
う記述がある。
Structured Investment Vihicle の略。銀行が BIS 規制に対して、リスク資産をバランスシート上か
ら消すために本体から分離させることを狙った仕組み。
19 一般的には、企業の中で顧客に直接対応する外部との接点となる部門のこと。特に金融機関において
は、金融商品の売買契約を結ぶ部門のこと。
18
27
第5章
提言
第4章では、VaR とストレステストを用いた従来のリスクマネジメントではマクロリス
クを計量するのに限界があることを述べた。本章では、このマクロリスクを考慮した統合
的リスクマネジメントを構築する手段として CoVaR とマクロストレステストを提言する。
第1節
マクロリスクを考慮した統合的リスク管理
従来のリスクマネジメントモデルでは、①独立性、②完全性、③不変性の 3 つの前提が
崩れた際に個々の金融機関で計測されたリスクの合計が金融システム全体のリスクを下回
るということが起きる。この差額を本稿ではマクロリスクと定義しており、これが正確に
把握されないまま肥大化してしまったことが今回の金融危機では問題となった。金融危機
再発防止、金融システムの安定化に向けてこれらの徹底した管理が必要である。そのため
の提言をする前にここではまずマクロリスクを用いた個別金融機関のリスク算出方法を示
す。上記にもあるようにマクロリスクとは個々の金融機関で計測されたリスクの合計と金
融システム全体のリスクの差額分のことを指しており、このとき個別金融機関のリスクは
図表 5-1 のように表される。
図表 5-1
個別金融機関のリスク算式
各金融機関のリスク=従来の単独で計算される最大損失額
+マクロリスクの各金融機関相当額
出典:西口[2011] p142 より筆者作成
図表 5-1 からも分かるように、個々の金融機関で計測されたリスクを足し合わせた結果
が金融システム全体のリスクに相当するわけではなく、VaR の劣加法性の破れが起きてい
る。このマクロリスクを把握することが各金融機関の今後のリスクマネジメントにおいて
必要となってくる。そこで本稿では従来のリスクマネジメントに CoVaR とマクロストレ
ステストを導入することを提言する。これにより金融危機の主因であるシステミックリス
クが正確に管理され、今後、今回のような金融危機が起きないことが期待される。
第2節
CoVaR
第4章第2節で VaR の問題点についてテールリスクと劣加法性を指摘した。ここで
はその解決策として CoVaR について論じる。
CoVaR は損失が VaR を超えた場合に平均でどのくらいの損失になるかを表した額であ
28
り、VaR が「ある確率(信頼区間内)のもとで最大損失はいくらになるのか」を計測する指
標であるのに対して、CoVaR は「損失が VaR より大きくなる場合に平均的にどのくらい
の損失を被るか」を計測する指標である。
図表 5-2
CoVaR の定義
損失額を表す確率変数を X、信頼水準 100(1-α)%の VaR を𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)とすると、これに対応
する CoVaR を𝐸𝑆𝛼 (𝑋)とすると、𝐸𝑆𝛼 (𝑋)は以下のように定義される。
𝐸𝑆𝛼 (𝑋) = 𝐸[𝑋|𝑋 ≥ 𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)]
出典:山井/吉羽[2001a] p55 より筆者作成
図表 5-3
CoVaR の概念図
注:図表中の期待ショートフォールは CoVaR のことを指す
出典:第一生命年金事業部[2008] p8
・テールリスクにおける VaR と CoVaR の比較例
現在の価格が 100 の資産 X に一年後、以下のように 2 つのパターン(95%VaR)の価格変
動が起こると想定する。
29
図表 5-4
資産 X の変動額の分布
Xの変動額
-100
-80
-60
-40
-20
0
20
40
60
80
100
確率(A)
0.5%
1.5%
5%
11%
20%
26%
20%
10%
3%
2%
1%
確率(B)
3%
1%
6%
10%
19%
24%
19%
8%
5%
3%
2%
出典:第一生命年金事業部[2008] p9 より筆者作成
図表 5-5
X の変動額
出典:第一生命年金事業部[2008] p9
このとき 95%VaR は、それぞれの分布の下位 5%点で共に−60 である。それに対して 95%
CoVaR は以下のようになる。
A の 95%CoVaR= (−100) ×
0.5%
5%
+ (−80) ×
1.5%
5%
30
+ (−60) ×
3%
5%
= −70
B の 95%CoVaR= (−100) ×
3%
5%
+ (−80) ×
1%
5%
+ (−60) ×
1%
5%
= −88
VaR で測定した場合、変動額はどちらのパターンも−60 だったのに対して、CoVaR の方
法では A=−70、B=—88 と損益分布の違いで大きく値が異なる。CoVaR は特殊な部分での
損益特性を考慮できていることが分かる。この例から分かるように、CoVaR を用いる事に
よって VaR によって導かれた信頼区間を超える場合の損失額を測れるようになる。CoVaR
はより適切なリスク計測を行なうだけでなく、数値が VaR 値< CoVaR の値、となるので
各金融機関は VaR を用いていたときより多くの資産をリスク管理資金に当てるようにな
るのである。
・劣加法性
損失額 X の CoVaR を以下のように表す。
𝑥
̅̅̅
𝛼 ≡
1
𝐸 [𝑋1(𝑋≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)) ]
𝛼
2 つのポートフォリオの損失額をそれぞれ X,Y とし、確率変数 Z=X+Y を考える。CoVaR
の劣加法性を示すには、𝑦
̅̅̅、𝑧
𝛼 ̅̅̅を𝑥
𝛼 ̅̅̅と同様に定義し、
𝛼
𝑧𝛼 ≤ 𝑥
̅̅̅
̅̅̅
𝑦𝛼
𝛼 + ̅̅̅
を証明すればよい。ここで、次の関係に注目する。
1(𝑍≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑍)) − 1(𝑋≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)) ≤ 0 if 𝑋 ≥ 𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)
1(𝑍≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑍)) − 1(𝑋≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)) ≥ 0 if 𝑋 < 𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)
すなわち、(1(𝑍≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑍)) − 1(𝑋≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)) )(𝑋 − 𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)) ≤ 0である。
よって𝛼(𝑧̅̅̅
𝑥𝛼 − ̅̅̅)
𝑦𝛼 = 𝐸 [𝑍1(𝑍≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑍)) − 𝑋1(𝑋≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)) − 𝑌1(𝑌≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑌)) ]
𝛼 − ̅̅̅
= 𝐸 [𝑋 (1(𝑍≥𝑉𝑎𝑅𝛼(𝑍)) − 1(𝑋≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)) ) + 𝑌 (1(𝑍≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑍)) − 1(𝑌≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑌)) )]
≤ 𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)𝐸 [1(𝑍≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑍)) − 1(𝑋≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)) ]
+𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑌)𝐸 [1(𝑍≥𝑉𝑎𝑅𝛼(𝑍)) − 1(𝑌≥𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑌)) ]
= 𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑋)(𝛼 − 𝛼) + 𝑉𝑎𝑅𝛼 (𝑌)(𝛼 − 𝛼) = 0
となり、𝑧̅̅̅
𝑥𝛼 + ̅̅̅を示すことができる。
𝑦𝛼
𝛼 ≤ ̅̅̅
次に、以下では第4章第2節であげた例を用いて CoVaR が劣加法性を満たすことを示
す。
図表 5-6
CoVaR の計算
31
A
B
A+B
将来の日経平均の値
確率
17,000 円以上
4%
+1 億
-2 億
-1 億
16,000~16,999 円
4%
+1 億
0
+1 億
13,000~15,999 円
88%
0
0
0
12,000~12,999 円
2%
-1 億
0
-1 億
12,000 円未満
2%
-1 億
+2 億
+1 億
-0.8 億
-1.6 億
-1 億
95%CoVaR
出典:第一生命年金事業部[2008] p10 より筆者作成
𝐴の 95%𝐶𝑜𝑉𝑎𝑅 = −1 億 ×
𝐵の 95%𝐶𝑜𝑉𝑎𝑅 = −2 億 ×
4%
5%
4%
5%
= −0.8 億
= − 1.6 億
ポートフォリオの 95%𝐶𝑜𝑉𝑎𝑅 = −1 億 ×
5%
5%
= −1 億
となり、ポートフォリオの CoVaR は、個別ポジションの CoVaR の和を下回っている。こ
れは、劣加法性が成り立つ。すなわち、CoVaR を用いることによってポートフォリオの分
散投資効果が反映されたより正確な計測が行えるのだ。
第3節
マクロストレステスト
前章では、個別金融機関のストレステストの問題点について「テスト自体のツールとし
ての問題」、
「テストを使うことに対するインセンティブの問題」、の 2 点を挙げた。我々は
これらの問題点に対する改善策として、マクロストレステストの推進を提案する。マクロ
ストレステストとは、
「例外的だが、蓋然性のあるマクロ経済ショックが発生した場合に金
融システムを及ぼし得る影響を検証する分析手法」20と定義されている。個別のストレス
テストが複数のリスクファクターを変化させるシナリオを策定するのに対して、マクロス
トレステストは GDP や格付け、平均株価等のマクロ経済指標をファクターとして外生的
に与える。そうすることで、各リスクファクターは内生的に決まるため、相互連関性は確
保される上、過去データに依存しないシナリオを考えることでフォーワードルッキングな
見方が可能となる。このストレステストにはトップダウンアプローチとボトムアップアプ
ローチの 2 種類のアプローチがある。
20
日本銀行[2012] p2
32
・トップダウンアプローチ
トップダウンアプローチとは監督当局が個別金融機関のバランスシート上のエクスポー
ジャーに基づいて、直接金融ショックのインパクトを想定するというアプローチである。
トップダウンアプローチとして現在日本銀行は金融システムレポート内で大手行と地域銀
行の計 118 行の連結ベースでの貸出債権の債務者区分推移、運用調達の残存期間別残高な
どバランスシート情報を基礎データとし、試験的ながらもマクロストレステストを実施し
ている。2012 年 8 月の金融システムレポート内で行われたマクロストレステストは、信
用リスクテストと金利リスクテストの 2 種類があり、それぞれベースラインシナリオとス
トレスシナリオの 2 本の柱で構成されている。ここでいうベースラインシナリオとは名目
GDP 成長率や LIBOR21というマクロ経済指標の変動を表し、ストレスシナリオとは 5 年
に 1 度程度の頻度で発生する負のショックを想定している。ここでは信用リスクテストに
ついて着目する。ベースラインシナリオは名目 GDP 成長率の民間予測機関の平均的な経
済の見通しに沿って成長を続け、長期的には過去の平均的な成長率である 1.5%に収束す
る。また、ストレスシナリオは株価と景気に対して 5 年に一度の頻度で起こる景気後退シ
ナリオを想定する。(図表 5-7、5-8 参照)
図表 5-7
名目 GDP のシナリオ
図表 5-8
株価のシナリオ
出典:日本銀行[2012] p7
そしてそのシナリオが信用コスト・株式評価額・コア業務純益22に及ぼす影響に基づい
て、先行きの Tier1 比率を試算する。その結果が以下の図表 5-9 である。
21
英国銀行協会が発表する、ロンドン市場における銀行間平均貸し手金利のこと。
スルガ銀行[2012]によると、コア業務純益とは「業務純益から特殊な要因で変動する一般貸倒引当金
繰入額と国債等債券関係損益の影響を除いたもので、より実質的な銀行本来の業務に関する収益力を表
す」。
22
33
図表 5-9
銀行ごとの Tier1 比率
出典:日本銀行[2012] p10
結果を踏まえると、「同じストレスシナリオのもとでも、内部留保の蓄積を通じて
Tier1 比率が改善し続ける銀行群と、景気回復局面においても Tier1 比率が低下し続ける
銀行群に二極化している。後者の銀行群は相対的に貸出債権の質が低く、収益率や自己資
本基盤が弱い傾向がみられる。」23
このように、監督当局によるマクロストレステストでは、システミックなリスク耐性を
評価し、その結果を踏まえて、対金融機関のフィードバックを行うことで金融システム全
体の安定性確保に貢献している。
・ボトムアップアプローチ
一方で、ボトムアップアプローチとは監督当局がストレスシナリオを設定し、それに対
してテストに参加する各銀行が自己のポジションやエクスポージャーについて評価を行
い、再び当局が集計し合算するというアプローチである。このとき、それぞれの銀行は各
銀行の内部で使用されている全エクスポージャーとパラメーターを用いるため、トップダ
ウンアプローチよりもより詳細な結果が期待できるだろう。さらに各金融機関が従来のス
トレステストに加えて、マクロ経済指標を組み込こむことでより広範な危機に対応できる
ようになると考えられる。現在のリスク管理において、このボトムアップアプローチは未
23
日本銀行[2012] p10
34
だ浸透しておらず、今後推進していく必要性は高い。具体的には、個別金融機関は経営部
門やフロント部門から独立したリスク管理部門を設置し、その部門が監督当局のマクロス
トレステストに倣って、まずマクロ経済変数を試算し、自行のパラメーターに適用してポ
ートフォリオ・エクスポージャーの評価を行うべきである。(図表 5-10 参照)
図表 5-10
ストレステストの流れ
出典:菅野[2013] p3 より筆者作成
このテストに参加する銀行はシナリオ作成の負担はないが、従来の個別ストレステスト
ではマクロ経済指標がリスクファクターとして使用されてこなかったため、リスク量を評
価するモデルを向上させていく必要がある。
ここで求められた結果は、当局にとって金融システムの現状を把握し、政策を考える際
の基礎情報の一つとなる。単なる評価だけに留まらず、必要に応じて金融機関のリスク対
応に繋げていくことも重要である。第 3 章で取り上げた金融モニタリング基本方針や金融
高度化センターの活動、国際会議での議論にも反映されている。最後に、ストレステスト
において留意しておきたいのは蓋然性にこだわり、シナリオ作りに腐心していては意味が
ないことである。具体的には、リスクアピタイトを明確化、情報システムの構築といった
事前準備を含め、責任の所在や取るべき施策の検討等を行う必要がある。
「リバースストレ
ステスト」のように、シナリオの蓋然性を度外視し、金融システムが一定程度機能不全に
陥るようなストレスのシナリオを逆算するテストの併用も有効だろう。
第6章
おわりに
本稿では、国際金融危機を契機に露見したシステミックリスクの課題について、マクロ
プルーデンスの必要性を説いた上で、その手段として CoVaR とマクロストレステストの
導入を提案した。
35
ただ留意しておきたいのは、第5章でも述べたようにこれらの計量手法を取り入れるだ
けでは不十分であるということだ。最も重要なのは、ツールとしての精度の向上というよ
りは、むしろ計測結果について関係者間で議論し、危機に陥った場合のその金融機関にお
けるルールメイキングや対応策についてコンセンサスを得て共有する PDCA サイクルな
のである。
しかし、監督当局が金融システムの安定を目指している一方で、個別金融機関はそれぞ
れの経営の健全性を向上させることを目指しており、それぞれの目的が異なっているので
各金融機関にはシステミックリスクに対するリスク管理を自主的に行なうインセンティブ
がない。今後、リスクマネジメントにいかにこのインセンティブを組み込むかが課題とな
るだろう。
あとがき
本稿の執筆にあたって、慶應義塾大学経済学部池尾和人教授には大変お世話になった。
池尾教授には論文の草稿段階から熱心に指導して頂き、示唆に富む助言を数多く頂いた。
深謝致します。また研究会活動において多くのコメントをしてくれた池尾和人研究会ゼミ
生一同に御礼を申し上げる。もちろん多くのコメントやアドバイスの後もかなりの加筆が
あるので本稿の見解に関する一切の責任は執筆者に帰することをここに記す。
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