第42期 建設産業における雇用対策とその推進のために

建設産業における雇用対策とその推進のために
小零細建設業者、職人、労働者の受注・就労の確保と地域住宅産業の健全な発展を目指して
第4
2期建設政策検討委員会
年度の建設投資も同6.
2%減(62兆1,
417億円)
1.建設産業をめぐる
情勢
#
と引き続き減少するとしています(
(財)建設
経済研究所)
。その他の民間研究機関は2002年
度の実質経済成長率(GDP)は平均0.
7%と
しています。
一段と深刻化する雇用(失
業)情勢
これを裏づけるように国土交通省が4月30日
に発表した建設投資(名目)見通しでは2001年
度は9.
2%減(60兆4,
100億円)、
2002年度は5.
4%
①失業率は高止まり
減(57兆1,
300億円)と6年連続の減少となっ
2002年3月29日、総務省が発表した労働力調
ています。日本経済は景気の悪化と物価の下落
査によると、2月の完全失業率は5.
3%と前月
が同時進行するという戦後経験したことのない
と同水準となりました。完全失業者数は3
56万
危機的状況にはいっているといわれています。
人と前年同月に比べ38万人の増加と12ヵ月連続
の増加となっています。
$
一方、就業者数は6,
248万人で前年同月に比
べ104万 人 の 減 少 で1
1ヵ 月 連 続 減 少 し て い ま
す。
建設産業は縮小・再編!競
争と淘汰の時代へ"
①受皿の機能をなくした建設産業
産業別就業者数を前年同月と比べると、サービ
ス業は増加しているものの、農林業、建設業、
建設業は、住宅・社会資本整備の直接の担い
製造業、卸売・小売業は減少しています。昨年
手 と し て 大 き な 役 割 を 有 し、就 業 者 総 数 の
1
2月の完全失業率5.
6%という過去最悪を脱し
10.
1%(2000年)を占める一大産業であり、バ
たものの雇用情勢は依然として厳しい状況にあ
ブル経済崩壊以降の過剰な大型公共工事の推進
るといえます。
等による景気調整過程において景気の下支えと
民間シンクタンクが予測した不良債権処理に
してその役割を果たし、雇用の受皿を果たして
ともなう失業者は6
0万∼110万人の失業者増を
きました。
予想(そのうち建設業は20万∼15万人)、内閣
ところが、96年度以降の建設投資額の減少
府は20万人としています。
は、受注競争の激化を促し、その結果として建
設企業の収益低下、建設単価の下落、建設業の
新規求人数の低下、建設企業の倒産件数の増加
②景気回復のきざしない日本経済
を招き、また、赤字受注の増加による下請業者
2001年度の実質経済成長率(GDP)は前年
に対する指値発注といったしわ寄せも生じてい
度比0.
9%減(530兆6,
944億円)、2002年度は前
ます。さらにこの影響が建設に従事する職人、
年度比0.
2%減(529兆4,
353億円)と本格的な
労働者の雇用・労働条件の低下へと進んでいま
景気回復にはいたらないと予測されています。
す。
また2001年度の名目建設投資は6.
0%減(66
こうしたなかで、建設産業従事者は1997年の
兆1,
526億円)と大幅な落ち込みを見せ、2002
685万人をピークに減少を続け、2001年には639
―1―
万人となっています。
かけたダンピング受注と指値発注、低単価発注
建設経済研究所の試算では、公共工事の削減
など中小零細事業者・職人へのしわ寄せが進行
が建設産業に及ぼす影響は2003年度の建設業就
し、工事代金不払い等がさらに深刻化していま
業者数は2000年度の653万人から56万人、10%
す。
また、建設業での現場技能・技術労働者の大
の公共工事削減が実現した場合さらに1
6万人の
半は、日本の企業の多くが採用する常傭雇用・
雇用が失われるとしています。
もはや建設産業は雇用の受皿としての機能を
年功序列の雇用関係とは異なる環境にあり、工
なくし、雇用の維持ができないという失業を生
期単位の短期間雇用による日雇・日給・日給月
み出す産業へと変化しました。
給が常態であり、その変形が手間請です。元々
大手建設会社65社が加盟する(社)日本建設
仕事による流動性が基本となっている雇用関係
業団体連合会は、!これからは競争と淘汰の時
の中で、常傭雇用と年功を前提とする現在の労
代"と宣言し、
!建設業はもはや雇用の受皿で
働基準法の網からはずされています。
こうした現状は、大手ゼネコン、住宅企業の
はない"と明言しています。
このことは、弱肉強食の!ルールなき戦い"
賃金・労働条件等、雇用関係を曖昧にさせると
に突入したことであり、生き残りをかけた企業
ともに、低賃金、賃金不払い等を助長させてい
間競争が激化してくると思われます。
ます。
"
②競争の激化と住宅建設の減少の影響
政府の雇用対策について
2001年1月∼12月(歴年)の新設住宅着工戸
政府の雇用対策は!総合雇用対策"にみられ
数は1
17万3,
858戸(前 年 同 期 比4.
6%減)で、
るように!就労、失業対策"よりも建設労働者
2000年 総 戸 数 よ り5万5,
985戸 も 減 少 し ま し
の他産業へ移動対策が基本となっています。し
た。
かし、厚生労働省の!99年雇用動向調査"によ
今後、少子高齢社会による世帯数の減少や長
ると建設業から離職した人の再就職先について
期化する不況などの影響で1
00万戸台になると
は、その6割以上が同じ建設産業に再就職する
予想されています。
という結果となっており、建設産業が他産業へ
大手住宅企業の中間決算は業績の悪化を証明
の転職が難しい業種であるとしています。この
するように低下しており、新設住宅のみでな
調査の結果からしても、今後大量に発生するこ
く、住宅リフォームに本腰を入れはじめていま
とが予想されている建設産業からの失業者に対
す。市場競争と価格競争の激化が進んでいま
応できないことは明らかです。
す。
そのほか、先の臨時国会では緊急雇用対策で
平成13年度補正予算として!緊急地域雇用創出
!
特別交付金制度"が成立(3,
500億円)されま
中小零細建設業・職人、建
設労働者の現状
した。また国土交通省は!当面の雇用対策につ
いて"をまとめ、他産業に頼るのではなく、建
不良債権の早期処理による中小零細建設業者
の倒産、廃業や都市銀行等の貸し渋り、貸し剥
しが横行しています。また、消費の低迷や公共
工事の減少による仕事不足など、中小零細建設
業者、職人は経営危機と生活危機に直面してい
ます。
一方、大手ゼネコンを中心とした生き残りを
―2―
設産業の内部でも雇用の受皿をつくるため新市
場の開拓や下請保護策等を提示しています。
#
2.全建総連の雇用対
策について
!
全建総連が掲げる雇用対策
①受注・就労機会の確保・拡大のための
方策
当面取組むべき課題
ア)大型プロジェクト公共工事を削減し、学
公共工事の削減、民間投資の停滞、長期景気
校、保育園、幼稚園、老人ホーム・介護施設、
低迷による倒産、失業、就労減、新設住宅着工
福祉施設等の新設、増設、改修、補修及び耐震、
の減少、大手ゼネコンの横暴な下請業者や労働
バリアフリー化などの公共工事に転換し、その
者いじめ等、仲間のくらし、仕事をめぐる状況
工事の推進にあたっては、地域の小零細建設業
は深刻となっています。
者、職人に受注機会を確保すること。
また、不良債権処理の進展、市場の縮小にと
イ)平成13年度補正予算で確保した!緊急地
もない、建設産業における雇用・就労の確保と
域雇用創出特別交付金"については、地域の小
雇用ルールの確立、災害防止対策は重要な課題
零細建設業者、職人、労働者の仕事や雇用創出
となっています。
や消費効果を生み出す、住宅の維持・改修等へ
こうした状況を踏まえ、雇用・就労の場を確
保するための方策、雇用、下請契約等のルール
の補助、助成金制度に活用できるような措置を
講ずること。
の確立(法整備等)のための対策、小零細建設
企業、職人、労働者の保護・育成の方策などを
ウ)公共施設建設については、木造建築を推
進すること。
さらに推進することが急務と言えます。
エ)公共工事発注に際しては、官公需法に基
これらをふまえ、全建総連は以下の視点で提
言し、その実現を期待するものです。
づく契約目標率の引き上げを図り、地域の小零
細建設業者に受注機会の確保・拡大を図るよう
地方公共団体を指導すること。
"
オ)公共工事の発注に関しては元請業者へ、
基本的視点
下請業者選定については地域小零細建設業者を
①小零細建設業者、職人、労働者の受注、就労
選定するよう指導すること。
機会の拡大を図るため、地域密着型小規模公
共工事の事業を推進すること。
カ)自治体発注の小規模工事については、随
意契約として地域の小零細建設業者を選定する
②雇用・失業保障制度の拡充及び創設をはか
よう指導すること。
り、小零細建設業者、職人、労働者の雇用・
生活の安定を図ること
キ)民間の福祉施設等や耐震住宅、高齢者住
宅などの点検・診断、リフォームの促進、介護
③優れた技能者・技術者の確保・育成による建
設業の基盤を確立すること。
保険制度による住宅改修の促進のために、自治
体の裁量に基づく融資の増額や上乗せなどの補
④公契約法(条例等)等の制定による雇用と労
助、助成制度を積極的に拡充、創設すること。
働条件の安定を図ること。
ク)民間住宅の需要喚起を図るため、住宅金
⑤不良債権処理に伴う連鎖倒産防止のためのセ
融公庫の低金利融資の拡充を図ること。
ーフティネット制度の強化、信用保証制度の
拡充を図ること。
ケ)地方公共団体が行うリフォーム等融資制
度の拡充や介護保険制度の住宅改修費の増額、
⑥建設産業の成長分野(住宅の維持・改修など
または補助・助成措置を講ずること。
リフォーム)への支援を行うこと。
コ)住宅リフォームを推進するため、増改築
相談員などの活用による住宅相談窓口の設置や
耐震診断・改修、高齢者対応住宅を促進する対
―3―
策を講ずること。
生に関する制度の活用・充実を図ること。
d)建設現場における労働者の安全と健康を
維持するための制度適用などを促進するこ
②雇用保険・失業保障制度の拡充、雇用
安定・労働条件確保のための方策
と。
ウ)企業倒産、連鎖倒産等による被害防止・
セーフティネットの充実
ア)雇用保険制度の改善及び加入促進
a)建設業に従事する者は手間請、日雇など、
a)元請企業やゼネコンの倒産から下請業
就労形態が複雑なため、失業給付などの算定
者、労働者を救済するために、倒産時の労働
基準に適合しにくい実情に鑑み、日雇被保険
債権の保証を優先順位の第1位とすること。
手帳のような、例えば賃金額に従った雇用保
b)労働賃金を主体とする手間請または重層
険印紙貼付方式(制度)を検討する等、建設
下請の労働者、契約労働者の賃金も一般労働
業の雇用保険適用が進むようにすること。
者と同じく労働債権としての先取特権として
b)上記新設の建設業雇用保険制度の導入に
保護するとともに、賃金確保法を適用するこ
際しては、保険料の引下げ(事業主・労働者
と。
共)を図るとともに、受給資格日数の短縮を
c)雇用確保と労働債権を優先した民事再生
行い、建設労働者に適合できるようにするこ
法の活用を図ること。
と。
d)貸し渋り、貸し剥がし等による不良債権
c)一人親方等については、労災保険のよう
処理は行わないこと。あわせて、中小企業特
な特別加入制度を創設し、雇用保険の加入・
別保証制度の拡充を図り、小零細企業者等へ
促進を図ること。
の必要な融資等の確保と小零細企業の保護・
d)雇用保険加入者については、失業給付日
育成を図ること。
数を改善し、給付延長措置を図り、失業者の
e)建設労働者に係る受入れ、送出情報の提
生活保障を行うこと。また未加入者で失業中
供に努め、その促進を図ること。
の者にあっては、
“越冬手当”のような生活
f)離職を余儀なくされた建設労働者を雇入
支援給付を検討すること。
れた事業主に対する助成制度の創出を図る
e)雇用保険制度の拡充、新たな制度創出に
等、救済するための措置を充実させること。
関し、国は国庫負担を含めた制度拡充・創設
g)転職を希望する建設労働者の転職のため
を検討するための調査・研究費等を計上し、
の教育・訓練制度の充実を図ること。
実現に向けた検討を進めること。
h)小零細企業の経営安定・維持のための助
イ)公契約法(条例等)などの制定による雇
成・支援措置を講ずること。
i)下請契約における代金支払いの適正化な
用安定、労働条件の向上
a)公共工事に関し、公共工事における賃金
どの推進、前払い制度の一層の措置を講ずる
等の確保法(公契約法(条例)
)の制定を行
こと。
うこと。
j)下請セーフティネット債務保証制度の積
b)労働契約の締結(雇入れ通知書などの賃
極的活用等を図ること。
金労働条件の文書交換など)や、不公正な取
k)公共工事において元請企業が倒産した場
り扱いを禁止するため、現行労働法の遵守・
合は、発注者が代金の一部を下請企業に直接
適用や改正をはかり、建設労働者を保護する
支払う制度をつくること。
こと。
ウ)優れた技能者・技術者の確保・育成のた
c)労働協約には、社会保険、賃金、労働時
めの方策
間、諸手当など、建設雇用に関する契約を明
a)雇用保険事業により、事業主が行う後継
確化し、労働者の長時間労働の規制や福利厚
者育成、能力開発事業等への助成や支援を拡
―4―
充すること。
暮らしを守る運動が求められています。
b)建設教育訓練助成金制度などの活用によ
そのため、いままで提言した課題の豊富化と
り、建設事業主による就労者の能力開発を促
具体的な運動の取り組みは急務となっていま
進し、資格取得、転換訓練、再開発訓練のた
す。
めの技能訓練を拡大させること。
!
c)小零細事業主が行うOJT(職場内訓練)
に訓練手当を支給すること。あわせて民間企
業・団体の職業訓練校などに委託して行う訓
練費用の補助金を増額すること。
d)新規採用の建設業労働者を!建設業労働
移動支援助成金制度"の対象とすること。
e)建設技能労働者養成に向けて、雇用保険
中央・地方における国・地
方公共団体(都道府県・市区
町村)などへの要求行動の積
極的展開、そして実現に向け
た運動の強化が欠かせませ
ん。
勘定の雇用改善事業として、技能者養成負担
全建総連としては、その運動の推進に向けた
金制度を導入し、雇用・開発機構の中に公・
環境作りと対策は重要であり、以下の対応を進
労・使が参加する建設技能者養成基金を設置
めることが必要といえます。
させ、全国の養成訓練に必要な資金を給付す
ること。
①雇用、仕事・就労、生活防衛対策
f)民間企業・団体が行う高齢者住宅、バリ
アフリーなど、住宅改修等の工事技術取得、
ア)雇用保険制度の改善拡充
リフォームコーディネーター等の教育につい
雇用保険加入キャンペーンの推進、雇用保険の
て補助金を支給し、リフォーム工事の促進と
特別加入制度の創出、雇用保険制度改善要求の
良質なリフォーム工事の推進を図ること。
具体化等
g)住宅ストック市場の活性化と、有効活用
イ)建設業退職金制度の充実と加入促進
を図るため、住宅リフォームの技術講習や理
共済契約者、被共済者の把握と組織化の検討
論講習などの訓練・教育への助成・補助を行
うこと。
ウ)労働対策の強化
公契約法(条例)の制定、労働協約締結への取
組み
エ)労働保険制度の改善・拡充、労災保険の
3.全建総連の雇用対
策の推進にむけて
加入の徹底、賃金不払い等の対策強化
オ)労働者供給事業の検討、求人・求職活動
の対策
雇用の調整弁であった建設業も最悪の状態の
カ)仕事対策の推進
中で、この局面に対し、建設労働者、職人、小
ゆうゆう住宅の普及(新設住宅対策)、住宅
零細建設業者の就労・雇用・受注対策と、地域
改修事業の推進、リフォームメニューの豊富化
住宅産業の育成、そして建設産業の近代化を展
(リフォーム対策)等の対策強化、住宅デーの
望した運動など、新たな闘いと対応が必要とな
強化・推進、情報提供の強化等
っています。
キ)地域住宅センター等の組織化と事業活動
建設業を取り巻く情勢が大きく変化する中
で、72万人組織の力をもって、全建総連の果た
の展開
す役割は重要性を増しており、町場・住宅企業
センター活動の活性化、介護改修事業の取り
・野丁場対策、小零細建設業経営対策、組合事
組み等
業の豊富化、就労・仕事対策等、仲間の仕事と
―5―
②技術・技能対策、地域住宅産業育成対策
ア)技能者養成基金の研究・検討
実現に向けた制度の具体化の検討等
イ)住宅リフォーム等技術向上のための研究
・検討
リフォーム、バリアフリー、健康住宅の促進
等
ウ)経営・営業対策、情報提供の強化
倒産防止、経営・経理支援、貸し渋り・貸し
剥がし対策、住宅関連情報の提供等
!
各県連・組合においては、
地方公共団体等への要請等、
その実現に向けた取り組みと
あわせ、以下の対策を講じる
ことが必要といえます。
①工事受注に向けた受け皿(住宅センター等)
体制の整備
②他団体との住宅改修等の事業提携の推進
③仕事・営業に関する学習会の強化等、情報提
供の充実
④住宅相談活動、住宅デーの推進・強化
4.むすび
以上の課題を実現するため、全建総連、県連
・組合が関係各部の方針として、具体化し、運
動を推進するとともに、地域の建築関係団体な
どと連携して取り組むことを期待するもので
す。
―6―