平成16年1月15日 税制改正および中小企業政策に関する要望 東京税理士政治連盟 税制改正および中小企業政策に関する要望 平成16年1月15日 東京税理士政治連盟 Ⅰ税制改正 <所得税に関する事項(1・2)> 1.給与所得者に対する課税制度について、申告納税方式を制度上の原則とした上で、現行の 年末調整との選択制にするとともに、特定支出控除に代えて実額経費控除の選択を認めるこ と。 ▽ 給与所得者の申告機会拡大で「申告権」の回復を 特定支出の内容は極めて限定的で、実額経費とは程遠いものであり、特定支出控除制度の利用者 はゼロに近いのが現状である。 給与所得控除の内容を明らかにし、実額経費控除との選択を認めることにより、給与所得者の申 告の機会を拡大し納税者本来の権利(申告権)の回復を図るべきである。 ▽ 確定申告・年末調整の選択制の導入 年末調整は、雇用者に事務負担を強いるものであると同時に、被用者のプライバシーを雇用者に 告知しなければならない等の問題もある。そこで、給与所得控除等を適用して確定申告をする方法 を原則とし、現行の年末調整方式との選択制にするべきである。 2.各種の所得控除を整理合理化するとともに、基礎控除を引き上げること。 人的控除は国民の生存権を保障するという憲法上の要請に基づくものである。したがって、基礎 控除は生活の最低保障が実現できる程度まで引き上げるべきであり、人的控除(老年者控除等)の 整理合理化はその後に検討すべきである。 <法人税等に関する事項(3〜7)> 3.中小法人の資本の蓄積を阻害する同族会社の留保金課税制度は廃止すること。(法法67) ▽制度存続に合理性はなく、中小企業の活性化による景気の回復を阻害 ①資本市場での資金調達手段が乏しい中小法人(同族会社)にとっては、利益配当を抑え財務体質 を強化しようとする経営に対して、追加的な税負担を強いるものである。 ②繰越欠損金の控除により課税所得金額が零の場合でも、課税留保金の計算では繰越欠損金控除の 適用がないため、留保金に課税される場合があり、再建途上の赤字法人には過酷な追加課税制度 である。 4.欠損金の繰越控除期間を「無期限」とすること。また、欠損金の繰戻しによる還付制 度の停止措置を全面的に廃止すること。 欠損金の繰越控除期間を7年に延長する改正の方向には一応の評価をするが、現在の経済状況 下、中小企業は累積欠損を早期に解消することが困難な状況で、欠損金の繰越・繰戻し制度が制 限されていることは、中小企業育成の観点からも問題である。 1 企業会計におけるゴーイング・コンサーンの観点からみて、欠損金の繰越控除および繰戻し還付 の制度は中長期的な視点からの経営を可能とする合理的な制度であり、諸外国における繰越欠損金 の控除期間は、アメリカでは20年、イギリス、ドイツでは無期限となっている。 5.会社更生法および民事再生法による処理の場合に認められている期限切れ繰越欠損金の優 先利用を、私的整理の場合においても認めること。(法法59条) 6.中小企業特例として退職給与引当金・賞与引当金を復活すること。 退職給与引当金・賞与引当金は、企業会計上の負債性引当金として計上すべきものであり、これ を税法上も認めるべきである。 7.中小企業の「事業承継」円滑化のための措置を実施すること ①取引相場のない株式等に係る評価方法の更なる適正化 ②事業用資産に対する相続税課税の大幅軽減 ③自社株に対する相続税の軽減措置をさらに拡充 <消費税に関する事項> 8.消費税の中小事業者特例等を整備すること。 ①事業者免税点制度・簡易課税制度の改正 ②限界控除制度の復活 ③仕入税額控除の適用要件を整備 ④届出書等の提出期限を整備 ⑤総額表示方式の見直し ①平成16年4月1日以降開始する課税期間から、事業者免税点制度の適用上限が課税売上高 1,000万円に引き下げられたが、これを改正前の3,000万円に戻すこと。また簡易課税制度の適用 上限が課税売上高5,000万円に引き下げられたが、これを改正前の2億円に戻すこと。 ▽政府税調は事業者免税点・簡易課税制度の適用上限の引き下げを、消費税の信頼性・透明性 の向上に向けた改革の一環と位置付けているが、零細・中小事業者については経済取引の中 で消費税相当額の転嫁が困難な現実があり、結果として改正により新たな税負担を強いるこ とになる。 ▽事業者免税点制度・簡易課税制度はそもそも中小事業者の事務負担に配慮して設けられたも のであり、その必要性は現在においても変わらない。 ②課税売上高 5,000 万円未満の中小事業者については、税負担の激変緩和を目的とした「限界控除制度」 を復活させること。 ▽限界控除制度は、課税期間の課税売上高が5,000万円未満である場合に、免税事業者との間 に生ずる税負担の激変を緩和するために設けられた制度であったが、現在は廃止されている。 しかし現状においてもその必要性は変わりがなく、早急に復活させるべきである。 ③現在の仕入税額控除の要件は「帳簿及び請求書等」の保存であるが、従前の「帳簿又は請求書等」の 2 保存に戻すこと。 (消 30) ▽改正前(平成9年3月まで)の「帳簿又は請求書等」の保存と比較して、現行制度は特に中 小事業者に対して過度の事務負担を強いることとなっている。課税取引に係る事実の検証は 「帳簿又は請求書等」の保存で十分に行うことができるので、改正前の要件に戻すべきであ る。 政府税調は、将来の複数税率を想定し、適正かつ円滑な施行に資する観点から、税額を明記し た請求書等の保存を求める「インボイス方式」の採用に言及しているが、実際には現行の帳簿方 式で対応可能であり、同制度の導入の必要性はない。 ▽インボイス方式が導入された場合、法人税等の所得計算のための帳簿記帳のほか、新たにイ ンボイスの集計事務が加わることとなり、インボイス発行・保存等の事務とあわせて過重な 負担となる。 ▽複数税率の導入に際してインボイス導入が不可欠との議論があるが、わが国においては15 年間にわたり、帳簿方式により消費税額を計算してきた経験があり、実務家の立場から、仮 に複数税率が実施された場合でも帳簿方式で十分に対応可能であると考える。 ④課税事業者選択届出書、簡易課税制度選択届出書等の届出書等の提出期限を当該課税期間に係る 確定申告書の提出期限とすること。また、2年間の継続適用の規定については廃止すること。 現行制度では、課税期間開始の日の前日までに提出しなければならないこととされているが、 実務家の立場から言えば、これらの届出制度は、不確定要素に基づいて事前に判断を求めるもの であり、事業者にとって極めて「使い勝手」の悪い制度になっている。 ⑤消費税額を含めた総額の価格表示の義務付けについては、消費税額を明確に表示する方向で見直 しを行うこと。 <法人事業税の外形標準課税に関する事項> 9.法人事業税の外形標準課税の対象を中小企業に拡大しないこと。 <問題点> ①「人件費課税」が中小企業の「雇用」と「経営」を直撃する。 ②「付加価値の業種間格差」など問題が多い。 ③「経済の活性化」に逆行する。 <その他の事項(10〜12)> 10.税制改正に関するその他の重点要望項目 ①更正の請求期間を5年以内とすること。 ②郵送に係る税務関係書類の提出時期(効力の発生)は、すべて発信主義とすること。 ③中小法人に対する法人税の軽減税率適用所得金額の引き上げ(適用所得範囲の拡大)を図ること。 ④交際費課税については、交際費等の範囲を見直し、社会通念上必要な支出は原則として損金算入 とするとともに、定額損金算入限度額内の支出額の10%相当額を損金不算入とする措置を廃止 するなどの改善整備を図ること。 3 ⑤「貸し渋り」、「貸しはがし」等で資金繰りに苦しむ中小法人について、法人税の延納および地 方税の徴収猶予の制度を復活させること。 ⑥延滞税および利子税の税率を市場金利に連動して大幅に引き下げること。 ⑦中小企業投資促進税制の期間を延長すること。 11.電子申告制度について、円滑な実施・運用を確保するため、必要な措置を講じること。 ①納税者のプライバシー保護の観点から必要な法整備を行うこと。 ②納税者が自己責任の範囲を超えた要因(インターネット特有の問題に起因する送信の遅延、その 他システム上の問題等)により不利益を被ることのないよう、必要な対応措置を講じること。 ③住民基本台帳ネットワークシステム(「住基ネット」)については、個人情報保護の観点から全 面的な見直しを行うべきであり、また、電子認証に必要な電子証明書には住基ネットを利用しな いこと。 12.税務行政における適正手続の法的整備を早急に行うこと 税務行政における適正手続の法的整備を早急に行うことが必要であり、そのためには「国税通則 法」に次のような規定を置くべきである。 ◇納税者の誠実性の推定 ◇税務調査の事前通知 ◇税務調査における代理人選任権の教示 ◇税務調査の理由の開示 ◇税務調査におけるプライバシーの保護 ◇調査終了の通知 ◇重複調査の禁止 ◇違法調査の無効 Ⅱ中小企業政策 1.社会保険料の中小企業負担を現行以上に増大させないこと。 既に社会保険加入者の給与等の支給額に対して10%を超える社会保険料の会社負担を強いら れているが、更に数%の厚生年金の保険料負担が予定されている。更なる負担の増大は我が国の雇 用の大半を担っている中小企業の経営と雇用に大きな影響を与えることとなる。 2.中小企業政策の一層の整備・充実を図ること。 ①金融機関の不良債権処理等に伴う中小企業への「貸し渋り」・「貸しはがし」対応策として、中小企 業の資金繰りに対する不安を払拭するため、政策金融の活用を中心とした積極的な中小企業金融対策 の一層の整備・充実を図ること。 ②倒産、リストラによる失業者を雇用した中小企業に対して、一定期間(3年間程度)、雇用促進のた めの助成金を支給する制度を設けること。 以 4 上
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