公益財団法人大林財団 研究助成実施報告書 助成実施年度 2007 年度(平成 19 年度) 研究課題(タイトル) 学園都市ルーバン・ラ・ヌーブとつくばとの比較分析 研究者名※ 大澤 所属組織※ 筑波大学システム情報工学研究科 研究種別 研究助成 研究分野 都市計画、都市景観 助成金額 150 万円 概要 ベルギーの新都市ルーバン・ラ・ヌーブはオランダ語圏域古都ルー 義明 バンにあった 1425 年創立のネーデルランド地方最古の私立大学を 仏語圏域へ分割移転することにより,1970 年初頭に建設が開始され た.ほぼ同時期の 1960 年後半に日本における筑波研究学園都市に おいても建設が着手された.規模,歴史的変遷の点も含め両新都市 には共通点が多く,現在でも世界を代表する学園都市である.21 世紀に入り,ルーバン・ラ・ヌーブは,新規住宅の大量供給,大規 模ショッピングセンターの誘致により欧州の首都ブリュッセル通勤 圏の一都市として位置づけられるようになった.筑波研究学園都市 でもつくばエクスプレス開業により東京通勤圏への住宅供給が始ま り,大規模ショッピングモール建設などにより,イメージも「筑波」 から「つくば」へと変わりつつある. それぞれ,都市としての新たな成長戦略として,住宅,商業に重点 を置いた,中間及び夜間人口流入の施策を導入したのである.この ように,コミュニティの変化という身近な問題から地域間・国際間 競争というグローバルな問題を含め,似通った課題を抱える両学園 都市を現時点で比較する意義は大きい.本研究の目的は,両学園都 市の機関大学であるルーバン・カトリック大学と筑波大学との都市 計画専門家による,現地調査や統計分析により,新都市建設後 40 年を経て両学園都市が直面する都市計画に関する現況を分析し,課 題・問題を整理することにある.特に,両学園都市の都市計画を, 1990 年代に加え 2000 年代でも整理する. 発表論文等 ※研究者名、所属組織は申請当時の名称となります 1.研究の目的 ベルギーの新都市ルーバン・ラ・ヌーブはオランダ語圏域古都ルーバンにあった 1425 年創立のネーデルランド地方最古の私立大学を仏語圏域へ分割移転することにより, 1970 年初頭に建設が開始された.ほぼ同時期の 1960 年後半に日本における筑波研究学 園都市においても建設が着手された.規模,歴史的変遷の点も含め両新都市には共通点 が多く,現在でも世界を代表する学園都市である. 21世紀に入り,ルーバン・ラ・ヌーブは,新規住宅の大量供給,大規模ショッピン グセンターの誘致により欧州の首都ブリュッセル通勤圏の一都市として位置づけられ るようになった.筑波研究学園都市でもつくばエクスプレス開業により東京通勤圏への 住宅供給が始まり,大規模ショッピングモール建設などにより,イメージも「筑波」から 「つくば」へと変わりつつある.それぞれ,都市としての新たな成長戦略として,住宅, 商業に重点を置いた,中間及び夜間人口流入の施策を導入したのである.このように, コミュニティの変化という身近な問題から地域間・国際間競争というグローバルな問題 を含め,似通った課題を抱える両学園都市を現時点で比較する意義は大きい. 本研究の目的は,両学園都市の機関大学であるルーバン・カトリック大学と筑波大学 との都市計画専門家による,現地調査や統計分析により,新都市建設後 40 年を経て両 学園都市が直面する都市計画に関する現況を分析し,課題・問題を整理することにある. 特に,両学園都市の都市計画を,1990 年代に加え 2000 年代でも整理する. 2.研究の経過 大きく分けると,以下の三段階から成る. 1)ルーバン・ラ・ヌーブ現地調査:(2008 年 11-12 月): 大澤(筑波大学教授)がルーバン・ラ・ヌーブを訪問し,現地を視察した.21 世紀に入 り,新たに建設された施設群の都市計画的位置づけなど,新都市計画後どのように計画 が見直されてきたのかの把握に努めた. 2)筑波研究学園都市現地調査:(2009 年 3 月): ドミニク・ペータース(ルーバンカトリック大学教授)が筑波研究学園都市を訪問し, 現地視察を実施した.両学園都市での長期の生活体験を踏まえながら研究者の視点で, 筑 波 大 学 で 開 催 さ れ た 日 本 オ ペ レ ー シ ョ ン ズ リ サ ー チ 学 会 2009 年 春 季 大 会 で 「Louvain-la-Neuve and CORE」という演題で講演した.欧州オペレーションズリサー チ研究中心機関であるルーバンカトリック大学計量経済オペレーションズリサーチ研 究所(CORE)での研究者生活を,日本を代表するオペレーションズリサーチ研究機関で ある筑波大学社会工学系での経験と比較しながら紹介した. 3)研究とりまとめ:(2009 年 7 月): ルーバン・ラ・ヌーブにおいて,大澤とペータースにより研究の総括を行った.それぞ れが整理した内容をパワーポイントで発表し意見交換を行った.大澤は道路網比較など の交通制御政策を,ペータースは生活経験に基づき俯瞰的に両者を比較した.そして, データの整合性に注意しながら統計的分析の数値結果の意味,精度,解釈などの確認作 業を行った. 3.研究の成果 3-1.類似点 ルーバン・ラ・ヌーブでは計画実行段階からブリュッセルと結ぶ鉄道を導入した.そ して,例えばグランプラス建設(写真1)など当初のマスタープランに従い,拡張し続け ている.一方,筑波研究学園都市はつくばエクスプレスの 2005 年開通で秋葉原や北千 住と直結した.このような鉄道整備もあってか,1990 年代で顕著だった中心地区での 界隈性の相違は縮小した.大雑把ではあるが,ルーバン・ラ・ヌーブで起きていること が,筑波研究学園都市の先行指標となり追随している,このことが確認できた.欧州諸 国と近接し,日本に比べ規模の小さいベルギーでグローバル化の影響が顕在化するため であろう 1)住宅開発 ルーバン・ラ・ヌーブではブリュッセルへの通勤圏との位置づけから,開発当初から 住宅建設が盛んであった.そして,ブリュッセルが EU 統合により欧州の首都という位 置づけになり,オフィース需要が高まりブリュッセル近郊では住宅地がかなり不足した. ルーバン・ラ・ヌーブは住宅ブランドの評価が高く,多くの高所得層者をブリュッセル から移住させることに成功した.筑波でもつくばエクスプレス沿線の地価は常磐線沿線 より高い.このように,学園都市というブランドがプラスに影響していると思われる. 2)ショッピングモール 2000 年代に入り,両学園都市で巨大ショッピングモールが相次いで開店している. ルーバン・ラ・ヌーブではベルギー南部最大と言われているショッピングセンター(写 真2),とショッピング・モール(写真3)が,筑波研究学園都市には北関東最大と言わ れているショッピングモールが 2008 年に開店した.そして,これらの建設は,中心地 区の界隈性(学園都市としての魅力)に少なからず貢献している. 3)混合型土地利用 ルーバン・ラ・ヌーブの都市域には,多くの広場,オープンスペースが配置され,郊 外には,森,人造湖周辺を利用して緑地が確保されている.そして,これらと中心地区 を歩行者専用道がツリー構造で繋いでいる.都心地区では,大学,図書館,食堂,商業, 住居,小中学校,郵便局などの公共施設が混在し,土地利用の複合化が積極的に図られ ている.特に,1,2階を商店,カフェ,レストラン,それ以上の階を住居とする建物 が計画当初から配置された.住棟密度も高く,ルーバン・ラ・ヌーブでは,都心地区で の界隈性の確保,対面交流の実現を明示的に図っている.一方,筑波研究学園都市でも, 土地利用混合の概念がようやく認められつつある.例えば,研究学園駅付近では,マン ション 1 階部分への店舗誘導のための税制緩和処置が導入されている.この点も筑波研 究学園都市が追随していると言えよう. 4)人口分布 1990 年代と現在との人口ピラミッドデータを比較した.両新都市の人口動態変化に 着目すると,大学生が両学園都市の主力であることもあり,20 歳代の人口が多いこと は不変であるが,僅かではあるがともに高齢化が進行していることを確認した. 5)転出入 ルーバン・ラ・ヌーブでは,特にベルギー南部の地方部から人口を流入し,ブリュッ セル方面である北部へ人口流出していることが分かった.筑波研究学園都市でも,日本 全体から人口を集め,東京などの首都圏へ人口を流しており,面的に人口を獲得し点的 に人口をはき出すという人口の社会動態は,両学園都市共通な傾向を示している. 3-2.相違点 1)交通と環境 ルーバン・ラ・ヌーブでは,計画当初から袋小路,車線狭窄,ハンプなどの積極的な 導入により中心地区においては徹底的な自動車交通排除を行っている.さらに,交差点 ロータリー処理,同レベル道路の交差点での右折優先等により,電源を必要とする信号 機は全くない.移動手段の自動車利用は不向きな都市構造を維持し,計画当初から環境 志向最先端都市であった.一方で,筑波研究学園都市では依然として,信号機処理に頼 っており,移動手段として自動車利用分担率が圧倒的に高い.このような環境や防災面 での相違は 2000 年代に入っても,拡大している.実際,ルーバン・ラ・ヌーブ周辺で は,国道でさえ多くの場所で信号からロータリーへ移行している.筑波研究学園都市で は,つくば3E 活動やつくばスタイルの実践など科学都市を活かした環境啓蒙活動が始 まっているが,ハード面での環境志向の整備は圧倒的に遅れている. 2)文化 都市デザインにおいて,ルーバン・ラ・ヌーブでは,欧州の歴史都市を尊重している. 歩道と広場との繰り返しや,アーケード,コルネード,バルコニー,アルコーブなどによ る建物ファサードの凹凸により,伝統的な欧州都市を踏襲し景観の分節化を図っている. また,建設前からある既存のベルギー典型的な農家住宅や牛舎を少劇場や酒場として再 利用している.また,アイストップとなる建物壁面には壁画が描かれている.駅構内に は,マグリットと並んで 20 世紀のベルギーを代表する画家デルボーの絵画のレプリカ を展示している.2000 年に入り,タンタン博物館(写真4)が 2009 年に開館した.ルー バン・ラ・ヌーブの方が地域の文化をより尊重している姿勢が感じられる. 3)大学色 ショッピングセンターなど建物のハード面は類似してきたが,計画を策定し実行する 主体が依然として大きく異なる.ルーバン・ラ・ヌーブでは,私立大学で,しかも移転 のため多額の資金をベルギー政府から得たルーバン・カトリック大学が都市計画や不動 産経営へ直接参画している.広大な土地を利用して,土地は借地,建物は持ち家という 定期借地権方式に似た99年方法という独特の方法で不動産事業を行っている.この方 法により,建築コントロール及び管理(違反建築の摘発も含め),土地の投機的取引の 制限,コミュニティ形成など良好な都市環境の確保を目指している.大学の規模と自治 体の規模を比較すると,ルーバン・ラ・ヌーブの方がその比率が高く大学と都市との関 係が相対的に強い.このような点が,筑波大学と異なる重要な点であるかもしれない. 2000 年代に入り中心部の再開発として,グランプラスに大型のオードトリアム(写真 5)やシネマコンプレックス(写真6)を建設したことは,1990 年代には想像できないこ とだった.イベント開催による一時的な集客のみならず,映画館開設による安定した集 客を狙っている.一方,筑波大学が筑波研究学園都市のまちづくりへ直接関与する機会 は,表面的には少ない.大学が都市の中心から離れているのも負の方向に影響している. いずれにせよ,地域貢献や社会貢献という狭い意味ではなく,つくばのまちづくりを牽 引するような姿勢が必要であろう.活動実績の周知,さらには,組織としての活発な展 開がより一層必要であろう. 4.今後の課題 今後の課題として,以下の2点があげられる. 1)21 世紀に入り,ルーバン・ラ・ヌーブの町に関して多数の書籍,写真集,データ 集が発刊された.それらはほとんどがフランス語で書かれており,また,地理的集計単 位が揃わないという問題はあるが,両学園都市のデータ比較は極めて有効な手段である. 2)市民参加の活動状況を把握していない.1994 年にルーバン・ラ・ヌーブにて大学 によるまちづくり説明会があり参加したが,参加人数の多さとデータを用いた客観性に は感銘を受けた.市民,大学,市などのステークホルダーの比較も必要であろう. なお,2007 年に締結された筑波大学とルーバン・カトリック大学との交流協定をも とに,今後も研究を継続する予定である. 写真1 写真2 写真3 写真4 写真5 写真6 21 世紀に建設されたルーバン・ラ・ヌーブの建築群
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