台湾の“旬”と“今”をお届けします。

2014.02発刊 Vol.7
株式会社ジェック経営コンサルタント
台北事務所 平川正紘
台北市中正區衡陽路51號12樓308室
TEL:(886)-2-2313-1218
台湾の“旬”と“今”をお届けします。
はじめに…
春節を迎える台湾ではスーパー各店で林檎・梨・桃・葡萄・干し柿等日本のフルーツがギフト用に大々的
に販売されています。台湾は環太平洋経済連携協定(TPP)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への
参加に対して前向きな姿勢を示しており、食品分野の輸出促進を図る日本にとって農林水産物の第3位の
輸出国である台湾の今後の動向は見逃せません。売場では日本産フルーツが地位を確立しつつある一方
で、野菜はまだまだその存在感は薄くインパクトに欠けています。今回は台湾の野菜に関する事情をレポ
ートします。
台湾の農業事情
1.食料自給率や産地
台湾の行政院農業委員會の資料によると2012年の食料自給率はカロリーベースで約33%、生産額ベース
で約68%です。その内訳は米・野菜・果物・肉類・卵・水産物品などの主要産業80%を超える高水準である一
方、小麦・大豆をはじめとした穀類や乳製品・芋類・油用種子類等が著しく低い状態となっています。
▼台湾の食料自給率(2012年) 【単位%】
穀類
全体値
米
いも類
砂糖 油用種子
野菜
蜂蜜類
豆類
きのこ類
果実類
肉類
鶏卵類
魚介
牛乳
海藻類 乳製品
カロリーベース
32.7
27.1 106.9
22.3
9.8
3.3
88.4
87.9
82.7
100.0
153.2
33.0
生産額ベース
68.0
40.3 106.9
22.3
16.0
5.6
83.4
86.1
68.8
100.0
124.1
33.0
出処)行政院農業委員會農業統計資料
台湾の農業は中西部・南部で非常に盛んであり、
全体の生産量の7割以上を占めています。気候は北
回帰線を境に分類され、北回帰線の北部にあたる
中西部エリア亜熱帯気候、南部にあたる南部エリア
熱帯気候となっており、主要な品目がそれぞれ異な
ります。
●中西部エリア
台湾最大の農業県と言えば、現在、台湾初の農業
博覧会(期間:2013年12月25日から2014年3月6日)
が開催されている人口73万5千人の「雲林」です。台
湾は西部地区を中心に開発が進んでいますが、雲
林県の主要産業は農業・畜産業・水産業といった第
一次産業であり、面積1290平方㎞の9割が平地であ
ることも農業を発展させた要因です。「筍」「キャベツ」
「ニンニク」「人参」「レタス」等が野菜の主要品目です。
【彰化県(中西部エリア)】
農地面積:4785km²
生産金額:249(億NTD) 【雲林県(中西部エリア)】
農地面積:59,743km²
生産金額:347(億NTD) 北回帰線
▲亜熱帯気候
▼熱帯気候
【台南県】
(南部エリア)
農地面積:48824km²
生産金額:239(億NTD) 【屏東県(南部エリア)】
農地面積:31953km²
生産金額:210(億NTD) ▲台湾の農業産地
出処:中華民國統計資訊網
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●南部エリア
南部の代表的な産地と言えば「マンゴー」「パイナッ
プル」「リュウガン」等をはじめ、トロピカルフルーツが
有名な「台南県」です。このエリアは5~9月の雨季に
年間降水量の全体の8割を占め、10~4月の乾季は
殆ど雨が降らないという気候条件で、昔は安定的な
農業が望めませんでした。「台湾の農業の父」と称さ
れる石川県出身の八田與一氏が「烏山頭水庫」や灌
漑システムなどの利水事業を手掛けたことで嘉義か
ら台南県にかけて広がる大きな嘉南平野を一大産
地へと推し進められました。
2013.02発刊 Vol.7
2.輸入状況
台湾の農林水産物の輸入総額は14,673百万US$であり、その内が農産品
は9,242百万US$と6割以上を占めています。中でも穀物類(2,390百万US$)
と油用種子類(1,518百万US$)で4割以上を占めており、自給率との関連性
が読み取れます。一方で果物類や野菜類が占める割合はそれぞれ約7%
(770百万US$)、約3%(313百万US$)程度であり、大半の青果類は台湾で生
産・自給されていると読み取れます。(左下グラフ) 果物類、野菜類共に米国が最大の輸入国であり、野菜では「じゃがいも」
「玉ねぎ」「カリフラワー」「レタス」等、果物では「林檎」「桃」「葡萄」「チェリー」
が主に輸入されています。また近年は中国産の安価な野菜の輸入が増加し
ており、外食産業からの需要が高まっています。(中央グラフ・右下グラフ)
米国産の青果はローカルスーパーでセール品として販売(写真上)されてい
るものから、高級スーパーで高価格帯の商品として販売(写真下)されてい
るものなど、幅広く流通しています。また台風の多い台湾は農作物の被害も
深刻であり、安定供給が可能であることも大きな要因と言われています。
アメリカ産野菜の販売の様子(スーパー)
アメリカ産野菜の販売の様子(高級店)
▼2012年農林水産物の輸入内訳 ▼2012年果物の主要輸入国
11%
19%
8%
18%
農産物
14,673
(百万US$)
畜産物
水産物
63%
林産物
5%
42%
770
5%
(百万US$)
7%
11%
11%
1.
穀物類:2,390
2.
油用種子類:1,518
3.
酒類:832
4.
果物類:770
・
・
・
8.
野菜類:313
▼2012年野菜の主要輸入国
米国
チリ
NZ
中国
タイ
日本
その他
林檎・桃・葡萄・
チェリーetc
28%
3%
4%
5%
313
(百万US$)
10%
38%
12%
米国
中国
タイ
ドイ ツ
オラ ンダ
日本
その他
じゃがいも・玉ねぎ・
カリフラワー・レタスetc
行政院農業委員會農業統計資料を元に作成
▼林檎とながいもの輸出額
香港・米国に次いで農林水産物の第3位の輸出国
である台湾ですが、その内訳は煙草が最も大きく約
30%を占めており、果物では「林檎」が約4.4%(約27億
円)、芋類では「ながいも」が約1.8%(約11.5億円)とな
っており青果という視点では決して大きくあません。
しかしこれら「林檎」「ながいも」は「世界への総輸出
額の中での台湾」という視点では、その割合は非常
に高く台湾では高評であると言えます。(右表)
日本産の「林檎」に関しては青森県を筆頭とした十
数年来のプロモーションにより、現在では確固たる
地位を確立し、現在では日本の産地間で競争してい
る状態です。また第二第三の「林檎」となるべく「桃」
「梨」「葡萄」なども高級スーパーを中心に販売されて
おり、台湾産や韓国産との競争が激化しています。
「ながいも」は薬膳料理の食材として人気があり、ス
ープの具材として使用されています。産地は北海道
産が主流であり、近年は同じ薬膳という切り口で北海
道産の「百合根」の輸出も促進されています。
輸出額全体
台湾への輸出額(割合)
林檎
33億円
27億円(約80%)
ながいも
17.5億円
11.5億円(約65%)
台湾産の光波梨 1350NTD/箱
鳥取のあたご梨 2274NTD/箱
北海道産のながいも
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2013.02発刊 Vol.7
3.
日本の野菜を台湾に
野菜に関する台日の違いは次の通りです。
台湾の方は日本人の様に「●●産地の●●」とい
った産地に対する強いこだわりが無く、あくまで「大
根は大根、白菜は白菜」であり、安全で安価であるこ
とが消費者にとっての価値となります。また「走り」
「名残り」といった旬に対する意識も日本人と比較す
ると低いと言えます。これらは「中華は味を付ける調
理法が主流で、和食は素材の味を活かす」というバ
ックグラウンドの違いが要因と言われています。
一方で「有機」というキーワードには根強い人気が
あり多くのスーパーには専用のコーナーが設けられ
ています。価格も日本のように通常の2・3倍ではなく、
3割増し程度であることも人気の秘密です。ただし日
本の有機野菜と台湾の有機野菜は認証機関や規格
が異なるため、日本の有機野菜であっても必ずしも
台湾で表示できるとは限りません。
また「台湾で栽培した日本品種」も多く見かけます。
日本産と比べると価格も手頃であることから日本料
理店等からの引き合いも多いようです。中にはパッ
ケージも日本語表記されているものもあり、一見する
と日本の野菜と勘違いしてしまう商品もあります。な
お規格は日本のように「真直ぐ」「根元が均一に揃っ
ている」という程、厳しくありません。ただし日本の品
種と言っても台湾と日本では気候が違うこともあり、
日本の品種は「Made in Japan」に勝るものはないそ
うです。
有機野菜コーナー
台湾への野菜の輸出を考える場合、物価差・運送
コスト等によって現地ではかなりの価格(日本価格
の2-3倍)となり、参入時の販路は限定的となります。
そのため「高品質の日本産品を売る」という感覚では
なく『台湾の消費者と一緒に「●●産の●●」という
市場を育てる』という様に視点を変えることで活路が
見出されます。
そのためには輸入者となる現地貿易会社と販売先
となる小売店と共同でプロモーションを行うことが必
須となります。具体的には一定量を一括して仕入れ
る貿易会社に対しては(自治体等の助成金制度を活
用するなど)現地のTVショッピング等で広く周知する
と共に、実際の売場では日本の調味料を使った試食
販売を継続的に行うことが地道ではありますが非
常に大切です。
「市場を育てる」という意味では試食販売を長期にわ
たって行う覚悟も必要です。
また台湾では記述の通り大半の野菜は自国で自
給し、また日本品種も珍しくありませんが、通年出荷
・流通という概念はありません。特に夏場7-10月は
気温が高く収量が減少傾向にあると共に、台風によ
って農産物の収穫に被害を与えることも珍しくありま
せん。そのため台湾の気候や収穫時期等に合わせ
た生産・出荷体制を構築することも有効的と考えら
れます。
-規制等は注意! 台湾はシンガポールや香港と違い輸入関税だけ
ではく輸入規制や検疫等があるため事前調査は欠
かせません。今年の1月には「日本産のいちごから
基準値を超える残留農薬が検出」
といったニュース
もありました。
日本では「みかんの皮」は食用ではないので皮部
分の残留農薬は問題視されませんが、台湾では規
制対象であるなど、台湾と日本では農薬の種類や
考え方も違うとのことです。
日本語標記の台湾産春菊
台湾プチ情報 【 李登輝元総裁の講演会開催 2014.01.16 】
台北市日本工商会の月例会で李登輝元総統による講演が行われました。
(会場:国賓大賓館)講演のテーマはリーダーシップであり、哲学を持って人生
を歩むことの大切さや日本がアジアのリーダーとして牽引していくことの意義・
重要性を強く感じさせて頂きました。質疑応答では今後の「台日の交流促進」や
「両岸の今後の関係」などといった点に関して意見交換がなされました。
また前日の1月15日は李登輝元総統の91回目の誕生日であり、講演会終了後
は台北市日本工商会をはじめ拝聴者全体で祝福を致しました。
-3-
祝福される李登輝元総裁