(1)流体解析による人工腎臓の透析効率の向上 血液透析器は、直径 200μmの中空糸1万本を束にして円筒容器に格 納したものであり、中空糸外部を流れる透析液は、内部を流れる血 液から老廃物を除去する。腎臓疾患を持つ 20 万人以上の患者を一日 でも多く延命するためには、透析効率が1%向上することも重要で あり、血液の流れの向きと透析液の流れの向きを反転し、全表面積 が2m2に達する中空糸表面に凹凸をつけて透析液の流れを均一にす る等の工夫がされている。透析液は中空糸に沿う方向には流れやす いが、中空糸に直交する方向には流れにくく、透析液の入口では中 空糸に直交する方向に流れるため、中空糸の束の深い部分に透析液 が届きにくい困難がある。MRI及び中空糸に沿う方向と直交する方向 の浸透係数を厳密に分離した精密な流体計算によって、透析液の入 口で円筒容器の形状を変えることが、透析液を中空糸の束の深い部 分への浸入を容易にして、透析効率が向上することを実証した。 (2)固体、微粒子と液体の界面のゼータ電位の測定精度の向上 細胞表面のタンパクは水中で水素を解離しゼータ電位を持つため、 電場をかけると電気泳動を行う。白血病患者の白血球は、ゼータ電 位にばらつきが多い。プリンターのトナーやシリコンウェハーの研 磨剤は、水中で特定のゼータ電位を持つと程良くコロイド分散して 効果を保つ。このように疾患の判定及び、微粒子のコロイド分散の ために、細胞及び微粒子表面の精密なゼータ電位の測定が要請され る。溶融石英でできた溶液セルの表面は水酸基が吸着して負のゼー タ電位となり、水中の陽イオンが表面に集まり、電場によって流れ (電気浸透流)を発生する。粒子の泳動速度はレーザー散乱で測定す るため、濃度が高い場合は液体の表面で測定する必要があり、石英 表面で発生する電気浸透流は測定を妨害する。微小な溶液セルで発 生する電気浸透流の精密な流体解析を行って、測定を劣化する因子 を回避して、高濃度微粒子の表面ゼータ電位の測定を可能とした。
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