2 掲載論文要旨 (1) 富山県における環境因子と金属の大気腐食との関係 鳥山成一、奥村秀一、近藤隆之、日吉真一郎、溝口俊明、山﨑敬久、木戸瑞佳 掲載誌:Journal of Ecotechnology Research 10,91−99(2004) 富山県は日本海沿岸地域で冬季には降雪が多く、 着、ろ紙残留物、大気汚染物質、海塩粒子等の環 また、古くからの銅器・アルミの美術工芸品の伝 境因子との関係について、地域特性が明確に現れ 統地場産業や、アルミサッシに代表されるアルミ た。また、重回帰分析(説明変数:屋内 9 項目、屋 ニウム関連企業が多数立地しており、金属の腐食 外 27 項目)を行ったところ、金属腐食にはSPM、 について関心も高い。そこで、富山県内6地点で 風速、SO2 等の環境因子が大きく回帰式に寄与し 1988年から1997年までに各調査地点毎に各1∼2 ていた。これらの重回帰式を用いて環境因子から 年間実施した金属腐食調査を取りまとめ、気象、 それぞれの腐食量を推定したところ、比較的よく 大気汚染物質、酸性雨等の環境腐食因子との関係 一致した。 について詳細に調査し、重回帰分析を行い、各環 炭素鋼板及び銅板のリーチングによる鉄成分 境因子の寄与について検討した。 及び銅成分の溶出量及び不溶解性成分量につい X線回折では、炭素鋼板の腐食生成物は水和酸 て、各金属板の腐食増量・減量と同様な地域特性 化鉄(α-FeOOH、γ-Fe2 O3 ・H2 O)であり、屋外 が見られた。また、鉄成分及び銅成分の溶出量及 曝露では安定なγ-Fe 2 O3 ・H2 O が多かった。銅板 び不溶解性成分量と環境因子との関係について の腐食生成物は塩基性硫酸銅 (Cu4 SO4 (OH)6 ・H2 O) 重回帰分析(説明変数:27 項目)を行ったところ、 と酸化第一銅(Cu2 O)であり、屋内曝露では塩基 金属板のリーチングには SPM、SO42−(湿性)、H+ (湿 性硫酸銅が多く、屋外曝露では Cu2O が多かった。 性)、Ca2+(乾性)等の環境因子が大きく回帰式に寄 銀板の腐食生成物は各地点とも塩化銀(AgCl)で 与していた。これらの重回帰式を用いて環境因子 あり、酸化銀(Ag 2 O)、硫化銀(Ag 2 S)が認めら からそれぞれの溶出量及び不溶解性成分量を推 れる地点もあった。 定したところ、比較的よく一致した。 各種金属板の腐食量(1か月毎)と気象、湿性沈 64 (2) 人工植物暴露装置を用いたガス状ホウ素化合物による ゼラニウムの被害の検証 鳥山成一 1)、近藤隆之 1)、水畑 剛 1)、奥村秀一 1)、水上昭弘 1)、神保高之 1)、山﨑敬久 1)、 木戸瑞佳 1)、日吉真一郎 1)、溝口俊明 1)、安田 洋 2)、田中 田尾 博明 5)(1:富山県環境科学センター 敦 3)、西川雅高 3)、吉永 2:富山県林業技術センター 淳 4)、 3:国立環境研究所 4:東京大学大学院 5:産業技術総合研究所) 掲載誌:環境化学 14,825−834(2004) 2001 年、県内のある鉄鋼製造工場から、工場周 辺において樹木の葉が枯れる等の被害がみられ Drying oven(Max 220℃) Artificial environment control room たとの相談を受けた。植物被害現況調査、工場発 (35℃) Air pump (20L/min) 生源・周辺環境、樹木葉中のホウ素濃度等の総合 Outlet ○ ○○ 的な調査を行った。工場に対し、ホウ素の排出抑 Outdoor air Temperature controller S ensor of Raw material ( Boric 制に関する技術的な指導を実施したところ、排ガ ス中のガス状ホウ素化合物濃度の低減が図られ Hot air generator た。ガス状ホウ素化合物で植物被害が本当に発生 Artificial environment control room Air pump (35℃) (20L/min) wet scrubber (Draft fan ) Temperature controller するのかどうかの検証と植物に対する影響範囲 ( sodium hydroxide) Heater Sensor や影響濃度(閾値)の解明を目的とし、ガス状ホ of ○ ○○ Measurement point Measurement points Senser of temperature Fan ウ素化合物発生装置を用いて人工植物暴露装置 Heater cooler Temperature controller へ導入し、実際に植物被害が発生するかどうかゼ ラニウムで検証した。 とを示した。ゼラニウムの葉が障害を起こす過剰 ホウ素化合物による植物暴露試験では、既報の 限界濃度は、最終段階で 1600、3000、5000μg/g 植物被害の発生状況と同様に、葉の先端・周縁部 で一定にならなかった。 に枯れが見られ、その濃度は 160∼5000μg/gで、 以上の結果から、ゼラニウムを用いてガス状ホ 暴露日数にほぼ比例してホウ素濃度の増加が見 ウ素化合物が気孔から取り込まれ、蒸散流に乗っ られた。暴露葉の先端部/中央部は 1.2∼3.6 倍濃 て先端・周縁部に移動し、先端・周縁部でホウ素 度が高く、また、先端部の暴露葉/未暴露葉は 2.2 が濃縮され過剰限界濃度を超えたため褐変・枯れ ∼45 倍で先端部の暴露葉の濃縮割合が高いこ の障害を起こすことが推定された。 65 (3) 人工曝露装置を用いた酸性霧,ガス及びエアロゾルによる 金属溶出及び各イオン表面挙動 鳥山成一,大西勝典,奥村秀一,近藤隆之,日吉真一郎,山﨑敬久,溝口俊明, 木戸瑞佳 掲載誌:環境化学 13,733−738 (2003) 金属板の腐食は因子として酸性雨,ガス(ガス状 大気汚染物質;SOX,NO X 等)及びエアロゾルに大 Flow sensor 別される。酸性雨(酸性霧又は純水霧)及び雰囲 FogAtomizer generation point Atomizer 47mmf Exposure m etal Fog Emission point An acrylic holder 気(ガス+エアロゾル又はガスのみ)の違いによ Fan or Clean bench る 3 通りの条件下で,曝露する金属板を既報より 0 air intake point Mil lipore filter (0.8µm,White AAWP,47mmf) Sampler 約 12 倍大きくし,各種金属板の溶出特性及び各 Air compressor イオン成分について検討した。 Flow controller Pomp Artificial acid rain 炭素鋼板中の Fe(イオン) の溶出寄与率は,エア or Pure water Fig.1 ロゾル分が 80%,ガス分が 14%でエアロゾル占め る割合が大きかった。アルミニウム合金板中の Leaching tests by artificial acid fog and pure water fog 各金属板接触後の各雨水イオン成分の濃度は, Al(イオン)は,人工酸性霧分が 51%,エアロゾル分 曝露面積を約 12 倍大きくしたが,各種イオン成 が 24%,ガス分が 25%で人工酸性霧分が大きかっ 分の増減については,H+ は減少が現われたがそれ た。青銅板及び銅板中の Cu(イオン)や青銅板及び 以外は余り大きくなく,腐食生成物上の各種ガス 鉛板中の Pb(イオン)は,人工酸性霧分が 60%,59%, の酸化反応や金属表面へ物理吸着など,より明確 49%,25%,ガス分が 40%,58%,36%,69%でガスの にすることはできなかった。 占める割合も大きかった。また,各金属板の各金 金属板接触後の成分とブランク成分の母集団 属イオン溶出量は,既報より曝露面積を大きくし に違いがないかと検定を行ったところ,有意差の た分,2例以外は増加を示した。 見られるイオン成分が多かった。 66 (4) 大気中のホウ素化合物の工場発生源排出濃度及び周辺環境濃度 測定方法の検討 鳥山成一* ,近藤隆之* ,奥村秀一* ,水上昭弘* ,山﨑敬久* ,木戸瑞佳* ,日吉真一郎* , 溝口俊明* ,田中 敦** ,西川雅高** (*:富山県環境科学センター 掲載誌:Journal of Ecotechnology Research **:国立環境研究所) 11,23−27(2005) ガス状ホウ素化合物が原因と見られる植物被 Outlet Stainless tube Heater 害が発生し,公定法もない状態で総合的な調査を Heater Temperature sensor 実施し,その結果を報告した。工場に対し、ホウ Air pump (20L/min) 素の排出抑制に関する技術的な指導を実施し、排 ガス中のガス状ホウ素化合物濃度の低減が図ら Temperature controller れた。 Stainless tube Vinyl chloride tube Mimic measurement points (five points) Temperature sensor Temperature controller Stainless steel container(2L) Raw material(Boron acid) Drying oven( Max 220℃) Washing device of Temperature sensor the discharge gas Temperature controller (Caustic soda) 正確な発生源排出ガス濃度及び周辺環境濃度 の 把 握 を 目 的 と し , 実 験 室 内 で 250 ℃ 以 下 、 Fig.1 The generator of boron compounds. 1.3mg/m3 ∼2.7mg/m3 濃度のホウ素化合物発生装 置を開発した。ホウ素化合物の発生装置を使って, 吸収瓶で捕集し,ICP−MSで測定する方法で 工場発生源・周辺環境の測定技術の検討を行った。 ある。 ガス状ホウ素化合物の測定方法は,発生源測定 発生源及び大気環境測定において,ICP−M については 130℃保温で,大気環境測定について S測定上,各種汚染の問題があり,試薬の選択, は常温で,それぞれ 0.2μm テフロンフィルター オートサンプラーのメソッドの追加,内標元素の を通過させて粒子状物質を除去した後,吸収液に 見直しを行い,測定精度の向上で定量限界を 0.5 3%過酸化水素溶液入れたポリプロピレン製の μg/m3 以下まで下げることが可能となった。 67 (5) Mineral dust layers in snow at Mount Tateyama, central Japan: formation processes and characteristics K. Osada1 , H. Iida2 , M. Kido 3 , 2 K. Matsunaga1 , and Y. Iwasaka1 1 Nagoya University, 3 Now at Toyama Prefectural Environmental Science Research Center Tateyama Caldera SABO Museum, 掲載雑誌:Tellus, 56B, 382-392 (2004) 立山連峰の西側中腹に位置する室堂平(標高 峰であった。6 年間にわたって得られた積雪中の 2450m)に堆積した冬季積雪中の不水溶性粒子降 ダスト分布を見ると、ダスト濃度は春季にしばし 下量を測定した。大気中のエアロゾル粒子濃度の ば高く、ダスト降下量は年によって大きく異なっ 時系列変化および積雪深の増加、積雪中のダスト ていた。室堂平における冬季から春季にかけての 濃度の解析から、立山積雪に含まれる厚みのある 平均ダスト降下量( 7.7g/m2 )は日本付近の海底堆 汚れ層は主に湿性沈着によって形成されること 積物から見積もられた年間フラックスに近かっ が示唆された。積雪中の汚れ層には、典型的な黄 た。これは、春季の汚れた降水が大気を介して輸 砂粒子に見られるカルシウムに富んだ物質が含 送される鉱物ダストの年間降下量に大きく寄与 まれていた。積雪中に含まれるダストの体積中央 していることを示す。 径は 6∼21μm であり、粒径分布は一峰または二 68
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