Q1:前立腺癌の二次ホルモン療法におけるステロイドの使用量は? A

Q1:前立腺癌の二次ホルモン療法におけるステロイドの使用量は?
A:前立腺癌診療ガイドラインに以下の記載がございます。
去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に対する低用量ステロイド療法は歴史が長く,デキサメタ
ゾン(0.5~2.25 mg/日),プレドニゾン(10~20 mg/日),ヒドロコルチゾン(40 mg/日)
などが二次ホルモン療法として広く用いられてきた。しかし,いずれの薬剤を,どのよう
な患者に,どのタイミングで投与すべきか,に関してエビデンスレベルの高い論文は少な
い。
(参考)
デキサメタゾンは,ヒドロコルチゾンやプレドニゾンに比べ,グルココルチコイド活性が
高く,ミネラルコルチコイド活性は弱い。
ヒドロコルチゾンやプレドニゾンは抗癌薬や抗アンドロゲン薬の第Ⅲ相臨床試験のコント
ロール群の治療として採用されてきた。21~22%の症例で PSA 減少(50%以上)を認め,
有意に QOL が改善したことが報告されている。生存期間は治療薬群とコントロール群で
は有意差を認めていない。
一方,デキサメタゾンの大規模な臨床試験はなく,二次ホルモン療法として用いた場合,
49~62%の症例で PSA 減少(50%以上)を認め,骨転移の疼痛緩和も PSA と相関するこ
とが報告されている。
これまでの報告では,PSA 減少(50%以上)の効果が,ヒドロコルチゾンやプレドニゾ
ンに比べ,デキサメタゾンの方が高いが,RCT ではないため,明確ではない。また,いず
れのステロイド薬も生存期間を延長させる効果は明らかではない。
低用量ステロイド療法は,去勢抵抗性となった際の二次ホルモン療法として行われた報告
が多いが,どのタイミング(抗癌薬の前または後)で,どのような患者に行うべきか議論
が分かれる。
去勢抵抗性前立腺癌に対する現在の標準化学療法がドセタキセル療法であることを考慮
すれば,ドセタキセルによる化学療法が適さない患者(高齢,重度の合併症,ADL の低
下など)はよい適応と考えられる。
低用量ステロイド療法に伴う重篤な有害事象は稀であるが,耐糖能低下,免疫能低下など
に注意が必要である。しかし,低用量デキサメタゾンはペプチドワクチン療法における免
疫能を低下させないことが報告されている。一方,ステロイド療法を中止,休薬する際に
は離脱症候群に留意し,漸減することが原則である。
Q2:前立腺癌に合併する骨粗鬆症の治療法は?
A:前立腺癌診療ガイドラインに以下の記載がございますように、主にビスホスホネート
製剤が使用されているようです。また、骨転移に関してはゾメタが使用されることがある
ようです。
・ホルモン療法に伴う有害事象およびその対策にはどのようなものが推奨されるのか?
⇒ホルモン療法の有害事象として,骨塩量の低下,骨折リスクの上昇があるが,対策とし
て静注あるいは経口の第 3 世代ビスホスホネート併用は,骨塩量の低下を予防し,リスク
を低下させる可能性が小規模 RCT で示されている。(推奨グレード B)
(参考)
ホルモン療法は,最初の 1 年間に 2~5%程度,骨塩量を低下させるが,測定部位によって
も異なり,腰椎で 2.2~3.1%,股関節で 1.9%の減少という RCT がある。骨折リスクにつ
いては,大規模コホート研究では,6 カ月以上,特に長期のホルモン療法は骨折リスクを
上げるとされ,非ホルモン療法群に比べ,1.5~3.7 倍と報告されている。Alibhai らは,19,079
名の 66 歳以上の前立腺癌を対象に検討し,6 カ月以上のホルモン療法において,年齢,慢
性腎臓病,骨粗鬆症による骨折の既往,認知症などが骨折の付加的リスク因子と報告した。
第 2 世代あるいは第 3 世代のビスホスホネートの併用は,1 年間の評価で骨塩量の低下を
有意に防止することが RCT で示されている。Izumi らは,ホルモン療法を受ける 56 名の
日本人患者をリセドロネート(第 3 世代)投与群と対照群に分け前向きに 1 年間観察し,
リセドロネート投与群で有意に骨塩量減少を予防できたと報告した。また,Greenspan ら
は,ビスホスホネートの投与の開始時期,継続性について 112 名の二重盲検 RCT で検討し,
1 年間の週 1 回のアレンドロネートは,骨密度を改善させ,骨回転を低下させ,2 年目も継
続することによりさらに効果があるとした。一方,投与中止は骨密度が低下し,骨回転が
上昇し,投与開始の遅延も骨の健康に対し,有害であることを報告した。
・前立腺癌骨転移に対する薬物療法にはどのようなものが推奨されるか?
⇒前立腺癌の骨転移は,疼痛の原因となるだけではなく,病的骨折,脊髄圧迫,高カルシ
ウム血症などの原因となり,前立腺癌患者の ADL や QOL を大きく低下させる。去勢抵
抗性前立腺癌の骨転移において,ビスホスホネート製剤の一つであるゾレドロン酸の静脈
投与は病的骨折等の骨関連事象(SRE)の発生を有意に抑制し,疼痛緩和にも有効であり,
推奨される。(推奨グレード B)
(参考)
ビスホスホネート製剤のなかで第 3 世代に属するゾレドロン酸は,骨親和性が高く骨病変
内で長期間高濃度が維持されるため,骨吸収抑制効果が長期間維持されると考えられてい
る。骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌の患者において,ゾレドロン酸の長期投与により
SRE 発生率が 38%から 19%へと有意に減少し,SRE 罹患回数も年間 0.88 回から 0.42 回
へ減少したと報告している。さらに,試験以前に SRE の既往のある患者においても,ゾ
レドロン酸を投与すると SRE 発生率はプラセボ群と比較すると,10%減少し,SRE 発生
までの期間も中央値で約 100 日延長すると報告している。また,経口剤投与による RCT
では,前立腺癌骨転移前立腺に関する SRE 発生の抑制効果は認められなかったと報告さ
れている。これは,経口ビスホスホネート製剤は腸管から吸収されにくいことが原因とい
われている。
ビスホスホネート製剤投与による主な有害事象としては,腎障害,低カルシウム血症およ
び顎骨壊死が知られている。腎障害の危険因子として,①ゾレドロン酸治療の延長(6 カ
月以内 11.1%,24 カ月以上 26.3%),②パミドロン酸投与既往(あり 45.5%,無し 19.0%),
③ゾレドロン酸投与開始年齢,④腎疾患既往歴,⑤高血圧,⑥喫煙が挙げられている。ま
た低カルシウム血症に関しては,転移性骨腫瘍症例に対するビスホスホネート製剤投与に
より 38.8%の症例で低カルシウム血症を生じたという報告があり,ゾレドロン酸投与中の
カルシウム値モニタリングの必要性がある。顎骨壊死については,前立腺癌患者に対する
ゾレドロン酸投与症例の 3-18.6%に認められるといわれている。ゾレドロン酸投与による
顎骨壊死は,歯科治療歴や義歯の褥瘡と強い関連があるとされており,ゾレドロン酸投与
に際しては歯科医との緊密な連携が重要である。
一方,抗 RANKL モノクローナル抗体であるデノスマブは骨関連事象(病的骨折,脊髄
圧迫,骨に対する手術または放射線療法を要する状態など)を抑制し,ゾレドロン酸と比
較してより強力に骨関連事象の発生を抑制することが報告されている。デノスマブ投与に
よる骨塩量の低下や顎骨壊死の頻度はゾレドロン酸と同程度であるが,低カルシウム血症
および低リン血症の頻度は高率であり,ビタミン D 製剤およびカルシウム製剤の投与は必
須と考えられる。