グローカル・マーケティングによるブランド構築 ―レクサスのブランド構築とディーラーの役割― 植木美知瑠* 우에키 미치루 <요지> 미국 고급 자동차 브랜드 중 높은 평가를 받고 있는 도요타 자동차의 렉서스는 1989 년에 북미에서 판매 된 후 구주와 아시아 등에서도 판매되고 있다. 미국시장에서는 지속적인 판매 대수를 올리고 있다. 미국 고급자동차시장에 있어서 후발참가 기업인 렉서스가 어떻게 현지에서 받아들여 졌으며, 브랜드 가치를 향상 시켰는가. 새로운 브랜드의 구축에 있어서도 새로운 브랜드를 매스컴광고를 통해 전달하는 것으로 용이하게 시장침투 할 수 있는 것인가. 본고에서는,①글로컬・마케팅 시점에서,②렉서스의 전매점,③TMS(미국 도요다 판매회사)에 의한 판매원 지원,④현지 판매원에 의한 주체적인 고객 가치창조 활동을 분석하고, 그 성공요인을 밝힌다. 미국에서의 렉서스 브랜드 구축의 성장요인은 글로컬 ・ 마케팅의 성과이다. 도요타 자동차는 글로벌 렉서스 ・ 브랜드를 전개하는 한편, 현지화로의 대응에 있어서 지적 정보의 현지화를 독자적인 방법으로 실시한 것이다. 도요타의 고성능, 고급 디자인성 , 적 정 가 격 을 책정하여, 렉서스의 제품・품질기준을 글로벌로 통일시켰다. 또, TMS의 렉서스 사업부는 새롭게 렉서스 전용 판매자 망을 구축하여 회사 전체가 렉서스 브랜드 개념을 공유하여, 독자의 고급감을 추구하고 있다. T M S 는 판매원의 교육훈련을 통해서, 판매원의 고객서비스를 충실히 하였다. 더욱이, 미국의 고객정보에 근거한 판매원의 의견이 렉서스 사업부와의 공식・비공식의 회의에서 반영되고 있어, 렉서스 사업부와 판매원이 쌍방향적으로 대화하는 것으로 장기적인 신뢰관계를 양성한 것도 성공요인으로서 지적된다. 주제어 : 글로컬 마케팅(Glocal maketing), 글로벌 브랜드(Global brand), 렉서스・브랜드의 구축(Construction of the LEXUS brand), 딜러의 역할(Role of dealer) 1. はじめに 本研究では、グローカル・マーケティングの分析視角から米国レクサス・ブラン * 明治大学大学院経営学専攻、博士前期課程 2 年次 - 149 - ドの事例を検討し、ブランド構築における競争力の源泉として、ディーラーの主体 的な顧客創造活動の特徴を明らかにする。 はじめに、グローカル・マーケティングにおけるグローバル・ブランドの概念と 意義を論ずる。次にグローバリゼーションとローカリゼーションを折衷した「グロ ーカリゼーション」の概念と理論をレビューする。なお、本研究では、大石(1996) の国際マーケティングにおける「複合化理論」を包含する概念を踏まえた上で 1、 グローカル化の概念を述べる。 本稿におけるグローカル・マーケティングの概念は、ローカル固有のブランドや サービスなどの知的資産価値の重要性の高まりと相まって、 多国籍企業2が「ロー カルに考え、グローバルに行動する」という革新的融合戦略の視点に基づいている。 さらに、グローカル・マーケティングにおけるグローバル・ブランドの位置づけに ついても明らかにし、グローバル・ブランド管理を考察する。 事例分析対象として、レクサス・ブランドを取り上げる。本研究では、米国市場 において持続的に自動車販売台数を上げているトヨタによるレクサス・ブランド構 築の成功要因を考察する。トヨタ自動車は生産・販売台数が世界のトップクラスで あり、その成功要因について大きな注目が集まっている。トヨタ自動車の 2006 年 度地域別の連結販売台数を見てみると、連結売上高の約三分の一が北米市場である 3 。北米では自動車保有台数や販売台数が多く、年間約 2000 万台の自動車需要があ り、そのうちの 1700 万台は世界最大の米国自動車市場によって占められている4。 米国の自動車市場では、米国ブランドだけでなく、欧州ブランド、日本ブランド、 韓国ブランドが競い合って市場に参入しているため競争が極めて厳しい。米こく市 場における自動車企業は競争優位を獲得するために市場のニーズに対応し、ブラン ド力や製品力を強化することが問われている。このような状況下で、米国市場にお けるトヨタ自動車が成功した理由として、1970 年代以降の小型車の開発と燃費効率 の良さが挙げられる。また、1990 年代以降のミドル乗用車の標準化の確立が挙げら れる。さらに近年では、SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)よりも乗用 車の乗り心地を体感できる高級CUV(クロスオーバー・ユーティリティ・ビーク 1 2 3 4 大石(1996)、126-127 頁。 United Nations, Department of Economics and Social Affairs(1973),Multinational Corporations in World Department, New York. 国連は多国籍企業を「資産を 2 ないしそ れ以上の国において統轄するすべての企業である」と定義している。 トヨタ自動車ホームページ http://www.toyota.co.jp/jp/ir/financial/high-light.html 参照。 FOURIN(2005)、2-3 頁。 - 150 - ル)セグメントにおけるレクサス・RX車の需要を喚起させたことも成功要因とし て挙げられている5。 このような米国自動車市場におけるトヨタの歴史的な展開の背景を踏まえて、本 研究では高級車市場におけるレクサス・ブランドの参入と構築について考察する。 本稿では、TMS(米国トヨタ販売会社)によるディーラー支援と現地のディーラー の主体的な顧客価値創造活動に焦点を絞って検討する。 なお、本研究では、FOURIN『北米自動車産業 2006』の米国高級ブランド車両 販売台数や専売店比率を経営指標データとして参照する。また、米国におけるレ クサス・ブランドの競争力である品質の高さと販売店での対応における顧客満足 度の高さを示す指標として、J.D. パワー・アンド・アソシエイツによる 2006 年 米国自動車耐久品質(VDS)調査、2006 年米国自動車サービス満足度(CSI) 調査の結果を参考にする。 2. グローカル化の概念 多国籍企業のグローバル事業活動は、顧客や従業員にさまざまなメリットをもた らすが、グローバル化に抵抗する現地の競争相手や地域社会と摩擦を生じさせるこ とがある。伊丹(1991)は、企業活動のグローバル化に対する現地の摩擦を解消する 手法として、グローカル経営を主張した。伊丹は、企業活動のグローバル化により、 現地の抵抗が生じる理由として、①所得格差による被害の発生(所得摩擦)、②国家 間における異文化受容の障害(異文化摩擦)を指摘している6。 このようなグローバルな事業統合や経営のグローバル化に対する現地の摩擦に 適応するため、グローバルな企業活動の一元的管理とローカル市場での経営の分権 化・自律化を両立させるというグローカル経営の概念がある(Takeuchi and Porter 1986;諸上・根本 1988;Bartlett and Ghoshal 1989;Yip 1992;伊丹 1991,2004)。 グローカル経営のメリットとして、①グローバルな事業効率の向上、②国家間にお ける技術移転のスムーズさ、③現地組織における文化摩擦の緩衝が挙げられている 7 5 6 7 。グローカル経営においては、グローバルな統合のメリットのみを追及するので FOURIN(2005)、9 頁。 伊丹(1991)、63-64 頁。 伊丹(1991)、63-64 頁。 - 151 - はなく経営活動の現地化を行うことも求められている。この経営活動の現地化には、 ①ヒトの現地化、②モノの現地化、③カネの現地化、および、④無形資産としての 知的情報の現地化が包まれる。本稿では知的情報の現地化に注目する。そこで、経 営資源としての情報の概念を検討してみよう。 石井(1996)は Penrose(1959)、吉原他(1981)、伊丹(1984)の研究に依拠し、経営 資源の概念を整理している。石井によると、経営資源は可変的資源と固定的資源に 分類される。必要に応じて市場から調達する可変的資源に対して、固定的資源は保 有量を増減させるのに時間がかかり調整にコストがかかるが、戦略の遂行において、 意図的に取得され、蓄積されることが望ましい。戦略上重要な固定的資源は人的資 源、物的資源、および資金的資源、情報的資源に分類される。その中の情報的資源 は環境情報、企業情報、情報処理特性に分類される。環境情報は市場や技術に関す る企業の日常活動を通じて得られるものである。企業情報はブランド・イメージ、 企業の信用、広告のノウハウなどの企業に関する情報であり、一般に利害関係者が それらを持っている。情報処理特性は個人や組織が持っている情報処理のパターン であり、組織メンバーの志向、組織独特のものの考え方や価値観、企業家精神の大 小、モラールの高低などである8。石井によると、情報的資源は個人や組織の能力 による経験によって自然に蓄積され、企業内で多重に利用可能である。価値のない 情報的経営資源である場合でも、それがいったん蓄積されると、個人や組織はそれ を意識的に消去することができないのである。彼は蓄積された情報的資源を「知識」 として捉え、その有効活用が企業の能力になることを指摘している 9。本稿ではこ のような情報的資源を知的情報として捉える。 これらの知的情報を現地化させるためには、生産管理の技術力、販売会社におけ る顧客満足度、ブランドのプレステージ・イメージの確立や流通チャネルの支配力 などを高めることが必要とされる10。また、多国籍企業は、現地に販売会社を設立 させ、市場情報を探索し、自社特有の経営資源としてのブランド構築に関わる知的 情報を蓄積させることが求められている11。さらに、知的情報を有効に活用するた めには、ブランドの維持を担う有能なディーラーを育成することが肝要である12。 このような知的情報の活用について、浅川(2006)は現地特有のナレッジの発掘と 8 石井(1996)、119-120 頁。 石井(1996)、120-123 頁。 10 高橋(1994)、172 頁。 11 高橋(1994)、163-173 頁。 12 高橋(1994)、163-173 頁。 9 - 152 - 獲得はローカル規模で行われるのが最適であるが、現地スタッフのみに過度に依存 してはならないという13。それは、①現地特有の暗黙知のもつ潜在的価値を過小評 価するリスク、②本社や他国拠点による現地ナレッジ活用方法に対する理解不足な どの問題点が存在するためである14。そのため、欧州や北米といったリージョナル 規模で、ローカル規模のナレッジをグローバル規模の活用に繋げることが有効であ る(Asakawa and Lehrer 2003; 浅川 2006)。浅川は、ナレッジを有効活用するため にはローカル特有のナレッジの探索や市場対応をおろそかにしてはならないとい う15。こうしたリージョナル規模での調整を含む現地スタッフによる現地特有のナ レッジの発掘と獲得によって、ナレッジを世界中の拠点に移転・共有し、活用でき るのである16。 国際マーケティングの分野でも、グローカル戦略に関する研究がある。従来のグ ローカル戦略とは、「グローバルに考え、ローカルに行動する」という世界標準化 によるグローバル化とローカル化を両立させることを指している(Wills,Samli and Jacobs 1991;大石 2004;根本 2004)。また、大石(1996)は、国際マーケティング 活動における世界標準化と現地適合化の両立に関する既存研究を踏まえ、マーケテ ィング機能の世界標準化と現地適合化のメリットを同時に達成するという「複合 化」の概念を指摘している17。グローカル化に関する先行研究において、マーケテ ィング・ミックスにおける製品政策・ブランドは、世界標準化されやすいことが指 摘されている(Sorenson and Wiechmann 1975; Quelch and Hoff 1986; Takeuchi and Porter 1986; Boddewyn and Grosse 1995; 大石 2004)。一方、マーケティング・ミ ックスにおける流通チャネルや人的販売は、ローカルに根ざしているため現地適合 化されやすいことが指摘されている(Takeuchi and Porter 1986)。 大石は、マーケティング機能における「複合化」の規定要因として、企業要因、 製品・産業要因、環境要因を挙げている18。これらの三つの要因を通じて、多国籍 企業は国際マーケティング・プロセスと国際マーケティング・プログラムを実行す 13 14 15 16 17 18 浅川(2006)、20-21 頁。 浅川(2006)、20-21 頁。 浅川(2006)、20-21 頁。 浅川(2006)、20-21 頁。 大石(1996)、126-127 頁。 大石(1996)、138-140 頁。なお、企業要因には、①競争優位・非優位の所在、②戦略・志 向、③国際化度、④親子関係がある。製品・産業要因には、①産業特性、②製品タイプ、 ③製品ポジションがある。環境要因には、法・政治、制度、経済、地理、文化に関して① 法制度化された強制、②強い拘束力のある半強制、③任意の三つがある。 - 153 - る。国際マーケティング・プロセスは、①子会社による計画策定、②親会社による 統制、③親子間のコミュニケーションである。国際マーケティング・プログラムは 製品政策、価格政策、流通経路政策、およびプロモーション政策である。大石によ ると、国際マーケティング・プロセスは、標準化を妨げる外的制限要因を受けにく いため、容易に実行できる。このように、多国籍企業が規定要因を加味し、国際マ ーケティング・プロセスと国際マーケティング・プログラムを実行することによっ て、世界調整や統合化が有効に行われることが指摘されている19。 情報化とネットワーク化の進展が益々高まる今日、ローカル固有のブランドなど の知的資産価値が重要性を高めている現状を踏まえて20、 「ローカルに考え、グロ ーバルに行動する」という視点によるグロ-カル化戦略の意義が注目されている。 本研究では、企業活動のグローバル化の摩擦を解消させ、ブランド価値の差別化 による優位性を確保する手段として、このような新たなグローカル化の概念に依拠 し、グローカル・マーケティングにおける無形資産としての知的情報の現地化に注 目する。このように、販売会社における知的情報の現地化とリージョナル規模での 調整によって、顧客のニーズに合ったサービスを行うことで、顧客の信用やブラン ド・イメージを向上させ、競争優位を獲得することができると考えられる。 3. グローバル・ブランドの概念と意義 Aaker(1991)や多くの論者に共通するブランドの定義としては、 「他社ブランドと 自社ブランドを識別する名前、分類記号、および識別記号」21である。 ブランドとは、「ある売り手あるいは売り手グループの財またはサービスを識別 し、競合業者の製品・サービスから差別化しようとする特有の名前(ロゴ、トレー ドマーク、包装デザインなど)、または、シンボル」である(Aaker 1991)。また、 ブランドの識別記号を狭義のブランド概念とし、ブランドに関する記憶や連想を含 むものを広義のブランド概念として区分する(小林 1999)。また和田(2002)による と、「人は、モノ、サービス、ブランドそのものをただ消費するのではなく、自ら のライフスタイルを構築するためにそれらを消費する。つまり、ブランドは顧客に 19 20 21 大石(1996)、138-140 頁。 浅川(2006)、20-21 頁。 Aaker(1991)、p.7. 邦訳 9 頁。 - 154 - とってライフスタイルの表現であり、人生の希求価値の代替物である」22と指摘し ている。和田はここでいうライフスタイルを生活基盤形成部分と生活の豊かさ演出 部分に区分している。生活基盤形成部分におけるブランド価値は、基本価値と便宜 価値である。ここでいう基本価値は、製品の品質そのものの価値であり、便宜価値 は製品の購買・消費に関わる内容である。また生活の豊かさ演出部分におけるブラ ンド価値は、感覚価値と観念価値である。ここでいう感覚価値は製品、パッケージ、 広告物、販促物に対する魅力度や高感度であり、観念価値はブランド対する共感度 や自らのライフスタイルとの共感度である。このようなブランド概念を踏まえて本 稿では、より広義の視点から、ブランド価値概念を「ブランドの消費体験を通じて 自らのライフスタイルに合わせた生活の質を高める顧客のトータル価値」と捉える。 近年、グローバル市場におけるブランド価値の重要性が高まっている。現代にお けるグローバル・ブランドの本質とはどのようなものなのか。Aaker(1996)による と、グローバルなブランドとは、ブランド・アイデンティティ、ポジション、広告 戦略、製品、パッケージ、外観、使用感などに関して世界的に統一されたブランド である。グローバル・ブランドの例として、VISA、マルボロ、ソニー、マクドナル ド、ナイキ、IBM、ハイネケン等が挙げられる。多国籍企業はグローバルにブラン ドを管理する場合、現地受入国に対して、世界統一的な共通ブランドを投入する戦 略と各現地受入国の環境・風土に合わせた現地ブランドを投入する戦略のどちらに 効果を見出すことができるかという課題に直面するのである。その点に関して、 Aaker(2000)は、企業がグローバル・ブランドを展開する際、国や地域別に政府の 規制、商慣行、文化規範、顧客の嗜好等を考慮し、部分的にブランドを修正する可 能性があることを指摘している。つまり、多国籍企業は国や地域別に顧客や市場特 性が異なることを認識しなければならないが、同時にグローバル効率性を活かしな がらグローバル・ブランドを創造することで、自社ブランドを確立しなければなら ない。そのために、現代の多国籍企業はグローバル・ブランドを全社的に管理し、 他企業とのグローバル競争に打ち勝ち、競争優位を獲得することが求められている。 大石ら(2004)は、組織・制度アプローチからグローバル・ブランド管理の意義を 指摘している。大石らによると、グローバル・ブランド管理とは、日・米・欧の三 地域以上において、企業の組織、制度、コミュニケーション、マーケティング活動 に関連しながら、共通に市場投入された企業の製品・サービス評価などに関するブ 22 和田(2002)、136-138 頁。 - 155 - ランド要素をいかに構築、管理、活用するかということである。大石らによると、 グローバル・ブランド管理の役割として、ブランド管理主体(ブランド管理組織や ブランド・マネージャーなど)による自社の国内・外の職能部門や取引関係にある 国内・外の外部組織に及ぼす影響、管理内容や管理プロセスを解明することが挙げ られている。大石らの多国籍企業によるグローバル・ブランド管理の分析枠組みで は、親会社・地域統括本社・現地子会社の流通・販売部門による国内・外の広告会 社や顧客に対する関与が間接的であると言われている。一方、流通・販売部門によ る国内・外の流通企業に対する関与は間接的であるが、顧客に対しては関与してい ないと言われている。それは流通企業が顧客に対し独自に統制をしているため、親 会社・地域統括本社・現地子会社の流通・販売部門は顧客に関与していないためで ある。このような先行研究を踏まえた上で、以上に述べた先行研究レビューを踏ま えて、本稿ではトヨタ自動車における親会社・地域統括本社・現地子会社の流通・ 販売部門による国内・外の流通企業や顧客に対する間接的関与という新たな分析ア プローチに基づきその問題を究明する。 多国籍企業はどのように現地の顧客に対して間接的に関与しているのだろうか。 その点に関して、小林・高橋(2005)は、マーケティング活動によって、企業により 創られたブランドが顧客の思い描いたブランド・イメージに近づけられるものであ ると指摘している23。本稿では、TMSのマーケティング活動における調整機能と 現地ディーラーによる主体的な顧客創造活動が、ブランドと顧客のブランド・イメ ージのギャップ、すなわち情報の非対称性を改善し、融合化させるものであると考 える。 ここでいう情報の非対称性に関して例を挙げると、トヨタ自動車はレクサス・ブ ランドに高級車としてのアイデンティティを付与したが、顧客は企業側の意図通り にレクサスを高級車として認識するのだろうかという認識ギャップが存在するこ とである。 23 小林・高橋(2005)、23 頁。 - 156 - 4. レクサスのグローバル・ブランド戦略 4.1 米国におけるレクサスの沿革と発展 トヨタ自動車のレクサスは、1989 年に北米で高級ブランドとして販売され、その 後、欧州やアジアなどでも販売されている。図 1 に示すように、米国におけるレク サスの販売台数は 1999 年に 18 万 5890 台、2000 年は 20 万 6037 台、2001 年は 22 万 3983 台、2002 年は 23 万 4109 台、2003 年は 25 万 9755 台、2004 年は 28 万 7927 台となった。このように、近年持続的に販売台数を上げている24。 図1 米国高級ブランド・ブランド別乗用車・小型トラック自動車販売台数 (1999~2004 年) 米国高級ブランド・ブランド別乗用車・小型トラック自動車販売台数 (1999~2004年) 2 ,0 0 0 ,0 0 0 Po rsc h e Jagu ar Lan d Ro ve r Saab Au di Lin c o ln Vo lvo I n f in iti M- B e n z Ac u ra Cade illac B MW Le xu s 1 ,8 0 0 ,0 0 0 1 ,6 0 0 ,0 0 0 1 ,4 0 0 ,0 0 0 1 ,2 0 0 ,0 0 0 1 ,0 0 0 ,0 0 0 8 0 0 ,0 0 0 6 0 0 ,0 0 0 4 0 0 ,0 0 0 2 0 0 ,0 0 0 0 1999 2000 2001 出所:FOURIN(2005)『北米自動車産業 2002 2003 2004 2006』,65 頁より筆者作成。から筆者作 成。 また、図 2 に示すように、J.D. パワー・アンド・アソシエイツによる 2006 年米 国自動車耐久品質(VDS)調査のブランド別ランキングでは、レクサスは、ジャガ ー、BMW、キャデラック、ベンツ等の競合他車をしのいで 12 年連続第 1 位に評 価されている25。 24 25 FOURIN(2005)、259-261 頁。 J.D.POWER ASIA PACIFIC http://www.jdpower.co.jp/press/pdf2006/2006US_VDS_J.pdf 参照。 VDSスコアは 100 台当たりの不具合件数により算出され,スコアが低いほど耐久品質が 高いと判断される(pp 100: Problem per 100 Vehicles)。なお,自動車耐久品質が高いこ - 157 - 持続的に自動車販売台数やブランド評価を高めているレクサスは、米国において どのようにブランドを展開してきたのだろうか。レクサスの沿革と発展をみてみよ う。 図2 「2006 年米国自動車耐久品質(VDS)調査」ブランド別ランキング (100 台当たりの不具合指数単位:pp100) 0 50 100 レクサス 150 200 250 136 マーキュリー 151 ビュイック 153 キャデラック 163 トヨタ 179 アキュラ 184 ホンダ 194 ジャガー 210 BMW 212 インフィニティ 215 リンカーン 220 オールズモービル 224 フォード 224 業界平均 227 出所:J.D. パワー・アンド・アソシエイツ 「2006 年米国自動車耐久品質(VDS)調査」から筆者作成。 レクサスは米国市場での事前調査を加味して、1989 年 1 月に初の LS400 モデル を米国市場に投入した。そのレクサスは、ユーザーに優雅なデザインで高級感を提 供しつつ、車の乗り心地の良さや静粛性などの高品質も体感させている。このよう なレクサス・ブランドの特性とは、他社が達成できなかった高級デザインと機能性 を両立する新しい概念の高級車を創造したことである。また、レクサスは製品の仕 様や、レクサスの品質基準であるレクサスMUSTs(レクサスマスツ)、レクサス のデザイン・フィロソフィーである「L-finesse(エル・フィネス)」および、走行 とによって下取り価格を高く維持できるため,中古車価格は高くなる。また不具合件数が 少ないことが顧客の購入意向を強めてブランド評価を高めることになる。 - 158 - 性能を世界標準化させている26。ただし、レクサス車は、ベンツ、BMW等の高級 車と比べて車体価格がやや低めであり、ブランドの大衆化が懸念されている一面も ある27。このように、レクサスは仕様、品質基準、デザインを工夫することによっ て独自の高級車を開発したのである。 レクサスはその後、2~3 年ごとにモデル・チェンジを行い、品質の信頼性を高め ながら、効果的な製品展開を行ってきた。レクサスは早くも 1990 年 7 月に J・D パ ワー社の米国自動車初期品質調査部門で 1 位になった。1991 年 12 月にはレクサス の年間販売台数が 7 万 1206 台に達し、米国における輸入車販売の第一位を記録し た 。 1993 年 10 月 に レ ク サ ス は 業 界 初 の 認 定 中 古 車 制 度 C P O (Certified Pre-owned Program)を導入し、高級中古車市場でも販売規模を拡大させている28。 このプログラムには、認定中古車制度の広告、100 ポイント点検プログラム(機械部 品および外観両方の修理を含む)、修理基準、およびディーラー向けの条件(例えば、 認定された車と認定されていない車とを一緒に展示しないなど)が含まれている。 また、レクサスはインターネット再販システムを立ち上げ、インセンティブの内容 を変更しながら、ディーラーが需要と供給のアンバランスを修正できる環境を整備 した29。CPOを導入することによって中古車の販売においても高級車としてのブ ランド価値を下げないようにしている。 またレクサスは 1998 年に高級CUVというセグメントをつくり、フルライン(R X、GX、LX)で揃えている30。このCUVは、用途の広さと有用性を備え、同時 に乗用車のような乗り心地を持っている。高速道路やオフロードでも快適に走行で き、場所、時間、人を選ばない。また、ユーザーのニーズに応え、今日のライフス タイルに適応している。このCUVは、ユーザーから高く評価され、レクサス車の 販売を牽引することになる。1998 年 7 月にはレクサスの年間販売台数が米国市場 で初の 8 万 3041 台に達した。2003 年 1 月に初めて北米でRX330 の生産を発表し た。2005 年 1 月には年間販売台数が 28 万 7927 台に達した。さらに、2005 年 4 月に世界初のハイブリット高級車RX400hを投入した。 26 『Automotive Technology』2005 年秋号、135 頁。なお、トヨタ・ブランド車は製品仕様を 地域最適化させている。 27 『週刊東洋経済』2005 年 11 月 12 日号、31-33 頁参照。 28 FOURIN(2003)、259-261 頁。 29 Wheeler・Hirsh(2000)、44-50 頁。 30 FOURIN(2005)、65 頁。 - 159 - 4.2 米国レクサスにおけるブランド構築の成功要因 阿久津(1998)は米国市場におけるトヨタ・レクサスのブランド構築の成功要因と して、トヨタ自動車が米国で社会的責任活動に配慮した経営を行ったことにより、 米国人がトヨタ・レクサスを「フェアネス」であると認識したことを挙げている31。 このように、トヨタ自動車の「フェアネス」というコミュニケーション活動によっ て、ブランドと顧客のブランド・イメージのギャップが埋められたと考えられる。 その他の成功要因として、トヨタ自動車は、限定的にレクサス専売店を建設し、 高級ブランド自動車を販売していることが挙げられる。米国レクサスは、米国の自 動車流通システムと同様に、フランチャイズ・システムによって自動車を店舗販売 している。日本と同様に、アフター・サービスへの特化やディーラー支援等の日本 的販売方法システムを取り入れているため、米国における競合他社のチャネル政策 と比べると、メーカーとディーラーの関係は長期志向であり、相互信頼関係が高い。 小林(2005)によると、米国レクサスのチャネルは、ディーラーのメーカーに対する 取引依存度の高さ、ディーラーの利益確保の保証、ディーラーへのコミットメント の要求、ディーラーへのきめ細かい支援、ディーラーとメーカーの共存共栄の精神 などのように日本型垂直的チャネル・システムにおける系列チャネルの特徴を色濃 く持っている32。米国においては、独占禁止法によりメーカーが直接ディーラーを 統制することができないものの、メーカーによるディーラー管理の核心はディーラ ーに対する販売促進の支援活動にある。ディーラーとレクサス事業部の良好な信頼 関係の構築は、準系列チャネルと考えることができる。 ブランド構築では、適切なコミュニケーション活動によって形成されたブランド と顧客の良好な関係構築がブランドの信頼性を高める。TMSのディーラー支援と 現地ディーラーによる主体的な顧客価値創造活動は、ブランド構築の重要性を確認 する上でも興味深い。本稿では、次に①レクサスの専売店、②ディーラーの顧客サ ービス・知的情報の現地化、および③TMSのディーラー支援について検討する。 4.2.1 レクサスの専売店 まず、ディーラーの専売店制に関する先行研究をみると、川越(1980)によれば、 31 32 阿久津(1998)、35-38 頁。 小林(2006)、90-92 頁。 - 160 - 専売店制における売主側の一般的なメリットとして、以下の三つを指摘している。 第一に、製品の差別化機能が挙げられる。専売店では、他社製品は販売されないた め、特定ブランドのイメージを守ることができる。製品イメージは、狭義において は商標や意匠等により守られているが、より広く店舗全体のイメージによっても守 られている。第二に、専売店において、特定ブランドに販売活動を集中させ、販売 意欲を促進させる。第三に、専売店制による統一的なマーケティングの展開によっ て、顧客情報をフィードバックし、教育訓練やディーラー支援を行い、競合ブラン ドに対する情報漏えいを防止することが可能になる33。 次に、米国におけるレクサス・ディーラーの特徴をみると、レクサス・ブランド 独自のディーラー網が創造され、統一されたコンセプトに基づいた販売店が新規に 開設されている。 米国における高級ブランド車種別のディーラー数・専売店数とディーラー当たり 販売台数を比較してみると、レクサス・ブランドの専売比率が比較的高く、ディー ラー当たりの販売台数が多い34。 例えば、2004 年のレクサスの専売店比率は 78.6%で、日産が展開している Infiniti ブランドの専売店比率 95.3%の次に高い比率である。また、ディーラー 当たりの販売台数は 6.7 台で米国における高級ブランドの中で最も販売台数が多い。 このように、レクサスは少数ディーラー制の採用によってディーラー数を制限する ことでディーラーの収益性やテリトリー(商圏)を守っているのである。このような レクサスの専売ディーラー制の採用は、高級ブランドとしての差別化機能を強化さ せるのに重要な役割を果たしているのである。 33 34 川越(1980)、143-145 頁 FOURIN(2005)、95 頁。 - 161 - 表 1 米国ブランド別ディーラー数・専売店数とディーラー当たり販売台数(2002-2004 年) ディーラー数 専売 総数 専売 総数 専売 ディーラー当 専売店 ディーラー販売台数(台) たり販売 比率 台数(台) 総数 2002年 2003年 Lexus 148 196 155 200 162 206 78.6 1,182 1,280 1,384 6.7 BMW 178 340 186 340 125 340 36.8 683 709 765 2.3 Cadillac 165 1490 148 1488 174 1488 11.7 134 146 157 0.1 Acura 182 258 200 261 215 263 81.7 638 653 755 2.9 M-Benz 196 310 203 317 143 326 43.9 681 680 676 2.1 Infiniti 113 157 152 162 161 169 95.3 551 717 768 4.5 Volvo 165 346 164 341 167 347 48.1 322 391 399 1.1 Lincoln NA 1419 NA 1376 NA 1372 NA 107 116 102 0.1 Audi 45 261 70 259 75 261 28.7 330 332 297 1.1 Saab 62 212 63 217 88 239 36.8 176 210 156 0.7 100 140 101 148 99 156 63.5 285 257 222 1.4 Jaguar 47 150 49 160 45 169 26.6 395 332 268 1.6 Porsche 31 193 43 192 52 192 27.1 111 148 69 0.4 Land Rover 2004年 出所: FOURIN(2005)『北米自動車産業 4.2.2 2004年 2002年 2003年 2006』 、95 頁より作成。 ディーラーの企業家精神と対顧客コミュニケーション 図 3 に示すように、J.D. パワー・アンド・アソシエイツによる 2006 年米国自動 車サービス満足度(CSI)調査によれば、ブランド別のランキングで、レクサスは 2004 年の 5 位から 2005 年には 4 位、2006 年には第 1 位となり、トップクラスの地 位に上がった35。 レクサスのディーラーは、修理・メンテナンス情報に基づき作成された自動車カ ルテを活用し、各市場にあった顧客サービスを提供している。その細やかなサービ スとは、定期点検修理サービスやレクサス車の代車サービスなどである36。ディー ラーのサービスは所有体験と顧客満足を追及するものである。米国のウィンスコン シン州の販売店「レクサス・オブ・マディソン」では、販売員が納車一ヵ月後に、 再度顧客の自宅を訪ね、車の機能に関する顧客の疑問・要望に応えるサービスも独 自に行っている37。 35 J.D. POWER ASIA PASIFIC http://www.jdpower.co.jp/press/pdf2006/2006USCSI_J.pdf 参照。 FOURIN(2005)、95 頁。 37 『日経ビジネス』 、2005 年 11 月 28 日号(30-45 頁)、2006 年 1 月 23 日号(10-11 頁)。 36 - 162 - 図3 「2006 年米国自動車サービス満足度(CSI)調査」 サービス満足度ランキング(1000 ポイント満点) 600 700 800 900 1000 レクサス 912 ビュイック 911 キャデラック 909 ジャガー 908 リンカーン 906 マーキュリー 905 サターン 904 ポンティアック 903 アウディ 890 ミニ 890 ボルボ 890 アキュラ 889 シボレー 887 インフィニティ 887 ポルシェ 887 BMW 884 ホンダ 883 ハマー 882 サーブ 880 GMC 879 業界平均 873 出所:J.D. パワー・アンド・アソシエイツ 「2005 年米国自動車サービス満足度(CSI)調査」から筆者作成。 「レクサス・オブ・マディソン」の Lancaster 社長は、ディーラーとレクサス事 業部間で建設的に話し合う協調的な良好関係が、全米ディーラー満足度(全米ディ ーラー協会の調査結果)の高い理由の一つであることを指摘している38。例えば、 Lancaster 社長はディーラーからの意見を反映させた結果、自社店舗をターゲット 顧客である富裕層が居住する郊外地域に移転させ、顧客への適切なアフター・サー 38 長谷川(2005)、147-148 頁、Lancaster(2005)「FOCUS SESIONS DISC 5 変わる日本の高級 車販売」 『2005 東京国際自動車会議』日経 BP 社参照。 - 163 - ビス等による販売力を強化した。このように現地のディーラーからの提案を販売活 動に活かすことは、米国において企業家精神の強いレクサス・ディーラーの持続的 な動機づけを高めた。さらに、充実した研修プログラムを受けたディーラーの営業 スタッフが質の高い製品とサービスを提供することにより、レクサス・ブランドの 一貫性や信頼性が確立されたのである。 このようにして、優秀なディーラーによって差別化されたブランド価値をユーザ ーに伝えてもらうということがブランドの浸透や販売促進に効果的であった。以上 のような取り組みにより、レクサス・ディーラーによる顧客サービスは、継続的に 改善され、顧客満足度を高めているのである。 4.2.3 TMSのディーラー支援 最後に、米国におけるレクサス・ブランドの成功要因として「TMSのディーラ ー支援」を取り上げ、検討してみよう。 レクサス事業部では、憲章や明確なブランド概念を本社とディーラー間で共有し、 ブランド価値を統一させている。レクサス憲章は、レクサス関係者と顧客との神聖 な契約という意味をこめて作られた。それはレクサスの基本方針を示し、ディーラ ー間の一体感を強化するのに役立っている39。 1998 年にTMSは「UOT(ユニバーシティ・オブ・トヨタ)」という教育機関を 創設した。TMSのレクサス事業部によるディーラー支援においては、現地のディ ーラーとのコミュニケーションをとるために、多くの意見交換・情報共有の場が設 けられてきた40。レクサス事業部は、公式なディーラー支援だけでなく、非公式な 会議などを開くことにより、ディーラーと信頼関係を築き、ディーラーからの顧客 サービスに関する要望や質問を受け入れる体制を持っている41。 また、レクサス事業部は、全国のディーラーを支援するために、全米 4 ヵ所にエ リア・オフィスを設け、ディーラーのマネージャーや販売・サービス担当者と情報 を共有している。レクサス事業部のマネージャーは毎月ディーラーを訪問すること により、サービスの仕組みやベストプラクティスを提案している42。具体的には、 ディーラーに財務、アフター・サービス事業の収益性などを分析するための経営管 39 40 41 42 Mahler(2004)、pp. 58-61.および、長谷川(2005)、112-113 頁。 長谷川(2005)、147 頁参照。 Lancaster(2005)「FOCUS SESIONS DISC 5 変わる日本の高級車販売」 『2005 東京国際自動 車会議報告』日経 BP 社参照。 長谷川(2005)、147 頁参照。 - 164 - 理支援を行っている。例えば、1991 年から公式の「エリート・オブ・レクサス・プ ログラム」が導入され、全てのディーラーの業績が販売数量、顧客満足度、施設な どの項目により評価されている43。さらに、サービス現場では、修理書と部品カタ ログの CD-ROM を活用しながら、サービス本部との間で情報を共有し、問題解決を 双方で行っている44。また、レクサス事業部がディーラーの販売店舗に対してベス トプラクティスを共有化させることは、レクサスに対するブランド価値の向上と顧 客満足度を高めることに役立ったのである。このようなレクサス事業部によるディ ーラー支援によって、レクサス事業部とディーラー間で長期的な信頼関係が醸成さ れてきたのである。 5. 結び 本稿では、レクサスの成功要因として、第一に、グローカル・マーケティングの 展開、第二に、レクサスの専売店、第三に、TMSの現地のディーラー支援、第四 に、ディーラーの主体的顧客創造活動を取り上げた。米国市場において、トヨタ自 動車はグローバルなブランド展開を図る一方で、リージョナル規模で調整を行いつ つ現地化への対応において、現地のディーラーによる無形資産としての知的情報の 現地化を独自の方法で実施しているのである。トヨタは高級車を販売するため、専 売比率が高い独自のディーラー網を構築した。レクサスは、製品・品質基準をグロ ーバル標準化させている。レクサスは、高性能・高機能で、消音や低振動による快 適な乗り心地を提供し、かつ高級なデザインを兼ね備える自動車である。レクサ ス・ブランドの車両価格は、他社と比べて品質のわりに適正に設定してある。さら に、TMSのレクサス事業部では、全社的にブランド・ステートメントなどを共有 させ、独自の高級感を追求している。また、TMSは販売員の教育訓練を通じてデ ィーラーの顧客サービスを充実させ、レクサスのブランド価値を高めている。さら に、現地の顧客情報に基づくディーラーの意見がレクサス事業部との公式・非公式 の会議において反映されている。現地のディーラーからの提案を販売活動に活かす ことは、米国において企業家精神の強いレクサスのディーラーの持続的な動機づけ 43 44 長谷川(2005)、148 頁参照。 長谷川(2005)、107-109 頁。 - 165 - を高めた。このように本稿では、レクサス事業部とディーラーが双方向的に対話す ることにより、長期的な信頼関係を醸成してきた経緯を論じた。そして、この信頼 関係に基づき、知的情報の共有化や人材育成などのTMSのディーラー支援・調整 機能とディーラーの企業家精神を発揮した主体的なレクサス・ブランドの構築への 協働的な取り組みがレクサスを全米トップのブランド評価に導く成功要因となっ たことを解明した。 本論文で述べてきた考察結果に対する残された課題として、2005 年 8 月にレクサ スは日本市場においても段階的に販売を開始しているが、予定通りの販売量に達し ていないことが挙げられる。グローカル・マーケティングの視点から、米国レクサ ス事業部とディーラーによるレクサス・ブランド構築や顧客価値創造活動のベスト プラクティスが、レクサスの販売がやや低迷している日本市場にも適用することが 可能かどうかについての検討が必要である。これらの残された課題については、今 後実地調査を加味して、実証的・理論的に究明していきたい。 <参考文献> • 阿久津聡(1998)「ブランド構築のコンテクストとしての文化-トヨタの米国市場ブランド 戦略に見る『フェアネスの重要性』 」 『マーケティング・ジャーナル』第 68 号、30-41 頁。 • 浅川和宏(2006)「メタナショナル経営論における論点と今後の研究方向性」『組織科学』 Vol. 40、No. 1、13-25 頁。 • 石井淳蔵(1996)「第 5 章 経営資源展開の戦略」石井淳蔵・奥村昭博・加護野忠男・野中 郁次郎『経営戦略』有斐閣、95-124 頁。 • 伊丹敬之(1984)『新・経営戦略の論理』日本経済新聞社。 • 伊丹敬之(1991)『グローカル・マネジメント』日本放送出版協会。 • 伊丹敬之(2004)『経営と国境』白桃書房。 • 大石芳裕(1996)「第 6 章 国際マーケティング複合化戦略」角松正雄・大石芳裕編著『国 際マーケティング体系』ミネルヴァ書房、126-149 頁。 • 大石芳裕編(2004)『グローバル・ブランド管--理』白桃書房。 • 川越憲治(1980)『流通系列化と独占禁止法』ビジネス社。 • 小林哲(1999)「ブランド・ベース・マーケティング」 『経営研究』第 49 巻第 4 号、113-133 頁。 • 小林哲・高橋克義(2005)「組織行動がブランド・マネジメントに与える影響」『マーケテ ィング・ジャーナル』第 98 号、20-37 頁。 • 小林哲(2006)「チャネル・マネジメントのイノベーション」『マーケティング・ジャーナ ル』第 100 号、88-95 頁。 • 塩地洋・T. 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