P 86 猫から人への贈り物 ~セラピーキャットの動物介在活動~ 公益

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猫から人への贈り物 ~セラピーキャットの動物介在活動~
公 益 社 団 法 人 日 本 動 物 病 院 福 祉 協 会 (JAHA) が 主 催 す る CAPP( 人 と 動 物 の ふ れ あ い ) 活 動 は 動 物 介 在 活 動 =
Animal Assisted Activity(AAA)、動物介在療法= Animal Assisted Therapy(AAT)、動物介在教育= Animal Assisted
Education(AAE) に大別されます。猫が活躍するのは主に動物介在活動(AAA)、その様子を同協会顧問で獣医師、そ
して赤坂動物病院・院長の柴内裕子先生にお話を聞きました。
【動物達の能力を人の健康、医療、教育に生かし、社会参加する活動】
▼ CAPP 活動・動物介在活動(AAA) とは
人と動物の絆(ヒューマンアニマルボンド)を大切に、健康で幸せに暮らしている飼い主と家族としての犬や猫、
兎、
小鳥等が、高齢者施設やホスピス等を訪問し、ふれあうことによって様々な効果を生み出す活動です。
CAPP 活動は、人の福祉や医療、教育に動物たちが役立ってくれるプログラムです。この活動が多くの人々に理解
して頂ければ、動物達の社会的処遇も変わってきます。それも大切な目的の一つと言えるでしょう。
▼活動を始めたきっかけを教えて下さい
すでに 30 年以上も前から欧米各国では、このプログラムが始められていましたが、本会の目的の一つでもあり、
私の獣医師としての願いでもある獣医学を通じて、社会に貢献するという理念を実現するために、同協会の会長をし
ていた 1986 年に海外から講師を招いて講演会を開いたり、少しづつ取り組みました。幸い当時、厚生省の認可を得て、
本会は社団法人として広く活動を始めました。
▼海外での活動状況は?
各国様々ですが、米国では小児病棟へのセラピー犬の訪問はごく普通で、高齢者施設などでは、積極的に同居動物
を推奨しています。
子供達を対象にした AAE では、児童の読解力を高める為に犬や猫に読み聞かせをするリード・プログラムや、人
のリハビリテーションのために作業療法や理学療法に働いてもらったり、最近は、病気の人々だけでなく、大病院の
血液バンクで働く人々を訪問して心を和ませ、緊張をほぐし、仕事の効率を上げる手伝いにも活用されています。
また、病院の待合室や薬の受け取り待ちの方々の心を和ませる目的でセラピー犬が働いている場面もみられます。
▼猫はあまり社交的な動物ではないので、セラピー活動は難しいと思われがちですが...
本来、猫はわざわざ知らない人や他の動物とコミュニケーションを持ちたいと願う動物ではありません。むしろ孤
立化しても、お互いに適度な距離がある方が心地よいと感じる動物です。また、猫の個性、性格は、生後母猫の母乳
を十分に飲み、兄妹猫と接し、3週間目からは、社会化(周囲のものごとに慣れる)の大切な時期となります。優し
い飼い主の声や手、肌、周囲の物や音、全てが心地よく優しいものであれば、安心して落ち着いた人好きの猫に育ち
ます。自分から人のひざの上に乗ってくるような人好きな猫になるには、遺伝的な要因もありますが、飼い主の接し
方や、多くの人々に優しく触れられる環境も大切です。
▼活動は主にどういった場所で行われていますか?
現在日本におけるセラピーキャットの活躍の多くは、主に高齢者施設で、他には障害者施設やホスピスなどです。
高齢者の方々の多くは、若い頃に猫と暮らしていた方も多く、猫は親しみ易くとても人気があり、静かに穏やかにふ
れあう事に幸せを感じる方々が多くみられ、大歓迎を受けます。
・写真キャプション(右)
さまざまな季節のイベントに合わせて楽しい工夫をして、ボランティアさん達が施設を訪問する。
・写真キャプション(左)
お年寄りの気分や体調、そして猫へのストレスにも細心の注意を払いながら活動を行う。
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【セラピーキャットとハンドラー(飼い主の)の信頼から生まれるボランティア活動】
▼活動の中で印象的だった出来事とは
長年、ベッドに寝たきりで、全ての看護を受けていたおばあさんに猫を近づけると、昔の記憶が蘇ったのでしょう、
ご自分でパジャマの胸のボタンを外して猫を押し込もうとされたのです。それまでは、施設の方が身の回りのお世話
を全てしていたので、手を動かされた瞬間、スタッフ全員がとても驚きました。それから日常のケアも考え直し、生
活が少しづつ変わりました。
また、普段は無口で全く会話をなさらないおじいさんが、急に雄弁になり猫との思い出を語りだしたり、仲違いを
していたお二人が、猫を間についおしゃべりをしてしまい、仲直りの橋渡しをしてくれることもあります。
その他にも、動物と暮らしたり触れ合うことは、多くの効果が認められています。笑顔や発語、手足を動かす回数
が圧倒的に多くなります。通院や入院日数の短縮、心臓発作で入院し退院後一年目の生存率がおよそ 22%も高いなど、
世界各国から数多くのデータが寄せられています。
▼活動に参加するプロセスを教えて下さい
初めに、飼い主さんに半日の講習会を受けていただき、講習後、CAPP 活動に参加の意識を強くされた方で、家族
としての犬や猫がこの活動にふさわしいと思われたら、本会の事務局(地方は各チーム)に連絡を入れて最寄りのチー
ムを紹介してもらい、初めは飼い主だけでそのチームの活動先に参加し、現場活動を見学し、続いて次の機会に自分
の犬や猫を連れて控室でチームリーダーに初期の適性試験をしてもらいます。
また、控室で他の動物達と接した時の様子を観察し、問題が無いようであれば、次の活動で先輩のボランティアに
付き添ってもらいます。また、
参加動物は事前に協会の定める健康診断用紙を使い、主治医の診断書の提出が必要です。
▼活動にベッドはなぜ必要なのですか?
猫にとって楽に入れる浅い布製のベッドは、知らないところなどで不安を少なくするのにも、抱いて移動するのに
も役立ちます。猫は不安定な場所は苦手なので、
ベッドに入れると足元が安定しリラックスします。活動中は必ずハー
ネス(胴輪)を付けて飼い主(ハンドラー)は手を放しません。どんなに適性のある猫でも大きな音に驚いて飛び出
したりすることも想定して、ベッドの底にリードを通せる小さな穴を付けて工夫しています。
▼飼い主がハンドラーではならない理由はなぜですか?
どのような場合であっても、自分の猫がストレスを感じるようであってはなりません。その猫を一番に理解してい
るのは飼い主です。小さな変化にも気づき、優しく安心させる言葉を一番理解するのも飼い主です。飼い主(ハンド
ラー)も動物(パートナー)も楽しく活動して始めてこの活動を受ける方々にとって最も楽しく効果的に働きかける
ことが出来ます。これ等は世界各国の関係団体共通の基準です。
さて、
JAHA では 1986 年5月に CAPP 活動をスタートしてから 2013 年3月までに、延べ 19,441 頭のセラピーキャッ
トが参加。また活動する猫の中には、一つ上のクラスの試験、CAPP 認定試験に合格して、CAPP 認定パートナーズ
という資格を持って活動している猫もいます。
『動物達は人類が優しさを忘れないように、そして健康で明るく暮ら
せることを様々な能力で支えてくれています。
』と語る柴内先生。
人と動物のこれからの幸せの為に、参加してみてはどうでしょう。
適切な動物のいない方も参加して下さい。
(#)
CAPP 活動= 情緒的な安定や生活の向上を目的に、動物とのふれあいの場を提供する AAA(Animal Assisted
Activity) 動物介在活動。医療従事者の指導のもと、リハビリなど動物を介在させた補助治療、AAT(Animal assisted
Therapy) 動物介在療法。小中学校などを訪問し命の尊さなどを学ぶ教育活動、AAE(Animal Assisted Education) 動物
介在教育を実践する公益社団法人日本動物病院福祉協会の社会貢献活動です。
柴内裕子先生(プロフィール)
獣医師、赤坂動物病院 院長
1959 年 日本大学農獣医学部獣医学科卒業(現生物資源科学部)
1963 年 同大学アイソトープ研究室助手
1963 年 東京赤坂に赤坂獣医科病院(現赤坂動物病院)を開設
1985 年 日本動物病院協会第4代会長就任
1986 年 CAPP 活動をスタートさせる
現在公益社団法人日本動物病院福祉協会(JAHA) 顧問
www.akasaka-ah.com
・写真キャプション 動物介在教育の一つ、子供達の学力向上、心身の安定に優れた効果のあるリー ド(READ)プログラム。動物たちは
子どもたちの緊張を減らし、自尊心を高め、意欲を育む。読む流暢さは1分あたり96文字から 121 文字まで 30%
増加するというデータのもと、全米各地の学校や図書館で行われている活動。