動物介在活動における人と動物の行動の経時変化 ・宮地智恵美 2(非会員) ○甲田菜穂子 1・宮地与志雄 2(非会員) (1 東京農工大学大学院農学研究院・2 日本アニマルセラピー普及協議会) キーワード:動物介在活動、イヌ、ネコ Longitudinal changes in behaviors of humans and animals in animal assisted activity Naoko KODA1, Yoshio MIYAJI2,# and Chiemi MIYAJI2,# 1 ( Tokyo University of Agriculture and Technology, 2Japan Animal-Assisted Therapy Council) Key Words: animal assisted activity, dogs, cats 目 的 認知症高齢者の増加に伴い、高齢者福祉施設への入居希望 者も多くなっている。身体機能の低下、職員の人手不足、外 的刺激の減少などにより、入居者の心的機能の低下も課題と なっている。 伴侶動物は、人の心身の健康や福祉の向上に有用なことが ある。高齢者福祉施設における入居者の生活の質を向上させ る手段の一つに、動物とのふれあいを取り入れた動物介在活 動がある。動物介在活動では、イヌを用いることが圧倒的に 多い。それは、イヌはしつけがしやすく、飼育経験者も多く、 親しみやすいことが挙げられる。しかし、甲田ら(2015)は、 イヌ同様、人との長い関わりの歴史を持ち、ペットとして人 気の高いネコも動物介在活動に用いることは可能であり、動 物介在活動の幅の拡大に貢献しうることを発表している。 本研究は、イヌとネコを用いて特別養護老人ホームにおい て動物介在活動を継続して実施し、入居者の社会的行動を観 察した。そして、イヌ在場面とネコ在場面における入居者の 社会的行動の変化を明らかにすることを目的とした。 方 法 特別養護老人ホームにて、ボランティア団体による施設訪 問型動物介在活動を月に 1 回、計 15 回にわたり観察を行なっ た。対象者は、特別養護老人ホームの入居者 14 名(女性 12 名、男性 2 名)であり、平均年齢は 86 歳であった。彼らは重 度の認知症や身体障害を抱え、日常生活における対人コミュ ニケーションは困難な状態にあった。動物は、小型犬 4 頭、 ネコ 7 頭を用いた。動物は、動物介在活動にふさわしい、穏 やかで健康な個体を選別した。入居者と動物のふれあいは、 施設内の約 5×5m のロビーにて実施した。ふれあいの様子は、 2 台のカメラを用いて部屋の両脇から録画した。各回、イヌ は 2~4 頭、ネコは 3~5 頭を使用し、動物と実施者(ハンド ラー)はペアになって参加した。入居者は 2 班に分かれ、毎 回、イヌとネコ各 15 分間ずつふれあった。 分析には、各ふれあいの開始直後と終了直前の 2.5 分ずつ を除いた 10 分間を採用した。録画映像を再生し、入居者 1 名 ずつ、動物/実施者に対して「した/された」行動については 10 秒ごとのワンゼロサンプリング法、他者との身体接触は 10 秒ごとの点観察法を用いて記録した。 行動の生起量の経時変化を明らかにするため、15 回の実践 を 5 回ずつ 3 期に分けた。行動ごとに対応のある一元配置分 散分析(下位検定はテューキーの HSD 検定)を用いた。 結 果 動物とのふれあい場面においても、入居者の活動性は全般 的に低く、他者との関わりは多いとは言えなかった。それで も、社会的関わりが生じた場合は、入居者と動物との関わり では、イヌ在場面とネコ在場面共に、入居者は動物に注意を 向け、撫でる、触るなどの身体接触を主に行なった。入居者 と実施者との関わりでは、動物種に関わらず、動物を介して 発声による相互交渉を主に行なった。 行動量の経時変化では、入居者は、イヌ、ネコ共に注意を向 ける行動の発現を増加させた。一方、入居者が動物と身体接 触をする、実施者と話すという基本的な相互交渉は維持され たが、介在動物種に関わらず、他の社会的関わりの生起量は 減少していくものがあった。 考 察 特別養護老人ホームにおけるイヌとネコを用いた動物介在 活動では、動物は入居者の関心を引き、重度の障害がある入 居者でも、動物を触り、実施者と話すことで他者と関わりを 持つことが分かった。つまり、ネコもイヌも、入居者の関心 を引き起こす刺激になり、入居者に動物や実施者という他者 に対して行動を起こさせる効果をもっていたと言える。動物 介在活動は、対人コミュニケーションが困難になった高齢者 にとって、単純な行動を用いて、自然な感じで他者に社会的 関わりができる機会を提供することができる。 動物介在活動を継続すると、入居者の動物への関心は高ま っていった。しかし、これは明白な社会的行動の増加には結 びつかなかった。動物に触る、実施者と話すという基本的な 関わり行動は経時的に維持されたものの、社会的関わりの生 起量は減少したものがあった。これらの結果をもたらした要 因には、まず、入居者は動物に関心はあったものの、加齢に よる機能低下が行動の発現を阻害した可能性が考えられる。 さらに、動物とのふれあい場面は、対象者、実施者、動物の 3 者によって作り上げていくものであるため、3 者の相互作用 の影響も考えられる。すなわち、訪問チームは、これまで本 研究の対象者のように、活動性の低い人達を対象とすること がなかったため、初期には比較的、活発に行動をしたが、活 動を重ねるにつれ、入居者の状態に合わせ、静かに関わる方 法を調整したことが考えられる。つまり、通常の動物介在活 動のように、動物と活発にゲームをしたり、遊んだりするの ではなく、落ち着いた場面を構成し、入居者が動物と実施者 と一緒に、場と時間を静かに共有するように変化していった とも解釈できる。 謝 辞 本研究は、科学研究費補助金若手研究(B) 、大阪ガスグル ープ福祉財団の助成を受けました。研究の実施にあたり、近 藤千里氏、今萌美氏、施設職員、ボランティアの皆様に多大 なご協力をいただきました。 引用文献 甲田菜穂子・宮地与志雄・宮地智恵美 (2015). 特別養護老 人ホームの動物介在活動における人と動物の行動 日本発 達心理学会第 26 回大会論文集.
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