第 19 号 栄養科学研究所年報 健康科学部門活動報告 田中 明 平成 24 年度は、①食後のレムナントリポ蛋白の成分の特徴に関する研究、②LDL コレステロール(LDL-C)直接法に関する研究、③non-alcholic steatohepatitis(NASH)、 non-alcholic fatty liver disease(NAFLD)の成因に関する研究、④Lp(a)コレステ ロールの代謝と測定意義に関する研究、などを行った。 ① 食後のレムナントリポ蛋白の成分の特徴に関する研究 食後のレムナントリポ蛋白の成分はカイロミクロンレムナントよりもむしろ VLDL レムナントの方が多いことを報告した(Clin Chim Acta 413(11): 1077-86, 2012)。食後であるので、食事の影響が大きい小腸由来のカイロミクロン系のレム ナントの成分が多いことが予測されたが、検討の結果むしろ肝臓由来の VLDL 系 のレムナントの成分が多いことが明らかにされた。この結果は、メタボリックシン ドロームの場合に多く見られるインスリン抵抗性が脂肪組織から肝臓への脂肪酸 動員を増加させ、肝臓での VLDL 合成、分泌の増加につながるメカニズムの重要 性を指摘するものである。 ② LDL-C 直接法に関する研究 LDL-C は血清トリグリセリド(TG)が高値の場合に、測定キット間の誤差が大 きくなることを指摘した(Atherosclerosis 225:208-215, 2012)。総コレステロ ール(TC)が高値の場合でも HDL コレステロール(HDL-C)の高値による場合と LDL-C の高値による場合とがあり、それぞれ動脈硬化リスクが異なるため、TC で はなく LDL-C および HDL-C を測定して動脈硬化リスクを評価すべきであることが 強調された。その結果、2007 年に発表された日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患 治療ガイドラインにおける評価項目は LDL-C、HDL-C、TG とされ、TC は削除さ れた。しかし、その後、LDL-C 直接法は TG 高値の場合に測定キット間のばらつき が大きいことが指摘され、2012 年に発表された動脈硬化性疾患治療ガイドライン では、LDL-C は TC、TG、HDL-C から計算される Friedewald 式を用いる、nonHDL-C (TC−HDL-C)を脂質異常症の評価に用いることが提唱された。今後、LDL-C 直接 法キットの標準化が待たれる。 ③ NASH および NAFLD の成因に関する研究 NASH、NAFLD、および健常者において、酸化ストレス誘導マーカーとして metallothionein(MT)-1/2、MT-3、heme oxgenase-1(HO-1)および adiponectin の肝 臓中の発現パターンを比較した(未発表)。MT-1/2 は肝細胞中、Adiponectin は血管 壁中、HO-1 はクッパー細胞中に発現を認めたが、いずれも NASH は健常、NAFLD よりも低下していた。酸化ストレス誘導マーカーの発現低下は肝組織の障害の程度 と関連があることを示した。 ④ Lp(a)コレステロール(Lp(a)-C)の代謝と測定意義に関する研究 Lp(a)は低比重リポ蛋白(LDL)のアポ蛋白であるアポ B100 に糖蛋白である アポ(a)がジスルフィド(S-S)結合した構造を持ち、LDL と類似した組成を持つ リポ蛋白である。血中 Lp(a)濃度は遺伝的に規定されており、環境因子による変動 が少ないことが知られているが、Lp(a)の代謝は全く明らかにされていない。これ まで、血中 Lp(a)濃度は蛋白成分が測定されてきたが、Lp(a)の増加は動脈硬化の危 険因子となるとの報告が多い。しかし、最近、糖尿病発症と Lp(a)が負の相関する との報告があり、必ずしも Lp(a)増加が悪玉ではない可能性が指摘されている。 最近、東ソー(株)でイオン交換クロマトグラフィーを用いた Lp(a)-C 測定法が 開発され、我々はメタボリックシンドローム例における食事・運動療法による介入 の前後で血中 Lp(a)-C の変化を検討した。血中 Lp(a)-C 濃度は介入により増加を認 め、Lp(a)の善玉説を支持する結果を得た。また、Lp(a)-C は IDL-C との関連を認め たが、LDL-C との関連は認めず、Lp(a)は LDL から変換されるのではなく、IDL か ら LDL への変換と平行して生成される可能性が推測された(未発表)。 2013 年度 主な論文 1、Nakajima K, Tanaka A.et al: The characteristics of remnant lipoproteins in the fasting and postprandial plasma. Clin Chim Acta 413(11): 1077-86, 2012 2、Tada H, Akira A,et al.:Post-prandial Remnant Lipoprotein Metabolism in Autosomal Recessive Hypercholesterolemia.Eur J Clin Invest 42: 1094-9, 2012 3、Miida T,Tanaka A,et al.: A multicenter study on the precision and accuracy of homogeneous assays for LDL-cholesterol: Comparison with a beta-quantification method using fresh serum obtained from non-diseased and diseased subjects. Atherosclerosis 225:208-15, 2012 4、Yatsuzuka S, Tanaka A,et al.: Adiponectin and hsCRP are more strong olasma dianostic markers for non-alcholic fatty liver disease (NAFLD) than those for metabolic syndrome (Met S). Ann Clin Biochem (in press)
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