ワークショップ１－２ LDL コレステロール直接法の反応特異性について杉内博幸 1、松嶋和美 1、西村仁志 2、池田勝義 2、安東由喜雄 2 1 熊本保健科学大学、 2 熊本大学医学部附属病院中央検査部１．はじめに LDL-C は、以前は Friedewald の計算式（F 式）により間接的に求められていたが、10 数年前より自動分析装置で測定できる直接法が主流となっている。この測定試薬は、日本の試薬メーカー７社がそれぞれ原理の異なる試薬を開発し世界中に発売している。今年になって、2 年間の日米リポ蛋白標準化検討プロジェクトの検討結果として、冠動脈疾患や糖尿病患者などの脂質異常症を示す疾患群において、超遠心を用いる CDC 基準分析法（β-quantification： BQ 法）によって確立された目標値からの外れ値が多く、しかも測定キット間で差があるという内容の論文が Clin Chem に掲載され大きな社会問題となっている。本ワークショップでは、現在 LDL-C 直接法が抱えている問題点、特に IDL や Lp-X 等の特殊リポ蛋白に対する反応特異性について解析する。２．IDL に対する反応性 Ⅲ型高脂血症を含む高コレステロール血症の血清において、超遠心法で IDL 分画（1.006＜d ＜1.019）を分取して 7 社の LDL-C 直接法で測定し、回収率（分画の総コレステロールに対する比率）を求めると 28%～80%であり、各試薬間で大きな反応性の差が認められた。この反応性の違いは、IDL-C を LDL-C として測定すべきかどうかという議論が日本では十分に行われていないことも要因の一つと思われる。米国 CDC では、 IDL(1.006 ＜ d ＜ 1.019) 、狭義 LDL(1.019 ＜ d ＜ 1.063) 、 Lp(a) (1.050 ＜ d ＜ 1.080) の総和を LDL-C（広義 LDL）として測定する BQ 法が正確性の基本とされている。連続性のあるリポ蛋白のどの範囲の測定を LDL-C 直接法に求めるのかを勧告法等で明確にすべきであろう。３．Lp-X に対する反応性肝・胆道疾患の中で胆汁うっ滞を示す患者においては、高コレステロール血症を示す場合がある。この場合、Lp-X や Lp-Y などの異常リポ蛋白が出現していることが多い。これらの異常リポ蛋白は、超遠心では LDL(1.006＜d＜1.063)分画に含まれことから、BQ 法では LDL-C として測定される。 LDL-C 直接法では、Lp-X を LDL-C として測り込む試薬とそうでない試薬とがある。この試薬間の反応性の差は、直接法の測定原理の違い（消去法と選択的可溶化法）に起因するものと考えられる。Lp-X は、表面が PL、FC、蛋白（アルブミンが多い）の脂質二重層で構成された vesicle であり、HDL や LDL とは著しく異なる。このため、予め、第一反応で LDL 以外のリポ蛋白を界面活性剤と酵素で消去する方法（消去法）では、Lp-X の消去が不完全なために、第二反応で残存する LDL だけでなく Lp-X をも測定してしまうものと考えられる。一般的に消去法を原理とする方法では、用いる界面活性剤の種類や症例によって多少は異なるが、Lp-X を測り込むことが多い。Lp-X を測定することの善し悪しは別としても、試薬の特性を知っていないと臨床的混乱を生じる可能性がある。４．その他 Lp(a) に対する直接法の反応性は、 Lp(a) 増加検体、超遠心による Lp(a)分画を用いての検討では、各試薬間では 50%～70%程度の反応性を示し試薬間の差は小さい。５．おわりに Clin Chem の報告により、日本動脈硬化学会では、特定健診や日常診療には F 式による LDL-C や non-HDL-C を用いることも検討されている。直接法は、日本で開発され海外に輸出された試薬であるが、開発から 10 数年を経た今、冠動脈疾患大国である米国からボールが投げ返され、直接法の試薬が無くなるという大きな危機にさらされている。今後、早急に、各種リポ蛋白に対する測定上の制約や特質、メカニズムなどを明らかにし、試薬の改良を含めて、世界に向けて情報発信することが求められている。