I S S N 0387−3900 No. 108 2015 March Articles Estimation Precision of Statistical Matching and Selection Effects of Common Variables ……………………………………………………………………………… Yukiko KURIHARA (1) The Relationship between Price Variation and Bias in the Lower Level of Aggregation ……………………………………………………………………………… Suzuki TAKAHIRO (16) Notes Double deflation and single deflation as the quantity measure of value−added: Including a comparison of Japan and China GDP statistics ……………………………… Jie LI (32) A Study of the Practical Effectiveness of Using the Official Statistics Learning System Stanavi 統 計 学 第一〇八号︵二〇一五年三月︶ STAT I ST I CS ……………………………………………………………………………… Tsuyoshi ONODERA (42) 統 計 学 第 108 号 論 文 統計的マッチングにおける推定精度とキー変数選択の効果 ― 法人企業統計調査ミクロデータを対象として ― ………………………… 栗原由紀子 ( 1 ) 下位集計における価格変動とバイアス………………………………………… 鈴木 雄大 (16) 研究ノート 付加価値の数量測度としてのダブルデフレーションとシングルデフレーション ― 日中 GDP 統計に関連しながら ― …………………………………………… 李 潔 (32) 政府統計学習システム「すたなび」の活用効果に関する考察……………… 小野寺 剛 (42) Compilation and Analysis of Regional Tourism Satellite Account in Hyogo 兵庫県観光 GDP の推計と利用上の課題について …………………………… 芦谷 恒憲 (53) Prefecture and the Related Issues ………………………………………… Tsunenori ASHIYA (53) 書 評 Book Reviews 齋藤 昭 編著『「農」の統計にみる知のデザイン』(農林統計出版,2013 年) Akira SAITO ed., Design of knowledge in the statistics of ‘agriculture , Nourin Toukei Press, 2013 …………………………………………………………………………………… 田中 力 (63) …………………………………………………………………………………Tsutomu TANAKA (63) 長屋政勝 著『近代ドイツ国家形成と社会統計:19 世紀ドイツ営業統計とエンゲル』 Masakatsu NAGAYA, Staatsgestaltung und Sozialstatistik: (京都大学学術出版会,2014 年) ……………………………………………… 坂田 大輔 (68) Die Entwicklung der Gewerbestatistik des Deutschlands im 19. Jahrhundert und Ernst Engel, Kyoto University Press, 2014 ………………………………………………… Daisuke SAKATA (68) 海外統計事情 奈良観光統計ウィーク…………………………………………………………… 大井 達雄 (75) Foreign Statistical Affairs Nara Tourism Statistics Week ………………………………………………………… Tatsuo OI (75) 追悼 浜砂敬郞会員を偲んで…………………………………………………………… 伊藤 陽一 (79) Obituaries Activities of the Society Activities in the Branches of the Society ………………………………………………………… (83) Prospects for the Contribution to the Statistics ………………………………………………… (87) JAPAN SOC I ETY OF ECONOM I C STAT I ST I CS イロ スミ 経 済 統 計 学 会 Keiro HAMASUNA(1946−2014)……………………………………………………Yoichi ITO (79) 本会記事 支部だより………………………………………………………………………………………… (83) 『統計学』投稿規程 ……………………………………………………………………………… (87) 2015年 3 月 経 済 統 計 学 会 【海外統計事情】(『統計学』第 108 号 2015 年 3 月) 奈良観光統計ウィーク 大井達雄* Ⅰ はじめに されている。開催期間中,40 以上の国から 世界観光機関(UNWTO)によれば,2013 200 名以上の参加者が訪れた。 年の国際観光客数は約 10 億 8700 万人と推計 観光統計グローバルフォーラムは,第 1 回 さ れ て い る。 さ ら に こ の 数 字 は 伸 び 続 け, は 1993 年にオーストリアで開催され,20 年 2030 年には約 18 億人に到達すると予測され を超える歴史を有する国際会議である2)。EU ている。今や,全世界の GDP の 9 %が観光 加盟国の持ち回りで開催都市が決定し,隔年 部門により創出され,雇用者の 11 人に 1 人 に行われる。しかしながら 2014 年は 5 月に は観光産業に従事しているといわれている1)。 チェコ共和国(プラハ)で第 12 回が開催され, このように,日本だけでなく,世界的にみて その半年後に奈良県で第 13 回が行われたと も観光市場の発展が経済成長において主要な い う き わ め て 特 殊 な 年 で あ っ た。 さ ら に 原動力であることが強く認識されている。一 UNWTO 観光統計スペシャルワークショップ 方で観光市場にかかわる実証分析については が行われることになったが,これはフォーラ 質量ともに不足している状態にある。この理 ムが日本で開催されるため,アジア諸国の参 由の 1 つとして観光統計が十分でないことが 加者が増えることが予想され,観光統計につ あげられる。ICT の発展により統計処理手法 いての世界的な交流を目的としたものである。 が向上したといえ,素材となるデータに問題 第 13 回観光統計グローバルフォーラムと があれば,その分析結果は無意味となる。今 UNWTO 観光統計スペシャルワークショップ 後,観光市場を対象とした実証研究が高度化 の内容については大きな差異はみられない。 していくためには,観光統計の信頼性や妥当 基本的には観光統計に関連する概念や定義, 性の改善が必要となる。 作成手法,分析結果,実務上の経験,および このような状況の中で,2014 年 11 月 17 日 改善に関する報告を各国の観光統計を担当す から 21 日にかけて奈良観光統計ウィークが る実務家や研究者が行い,意見交換すること 開催された。奈良観光統計ウィークとは前半 を中心としている。その後,各自がそれぞれ (11 月 17・18 日 ) に OECD,Eurostat, 観 光 の国に戻り,観光統計の改良を通じて世界的 庁と奈良県の共催による「第 13 回観光統計 な水準を高めることがこれまでの成果であっ グローバルフォーラム(13th Global Forum on た。 Tourism Statistics) 」 ,後半(11 月 20・21 日) 第 13 回観光統計グローバルフォーラムで に UNWTO,観光庁と奈良県の共催による は, 1 つの基調報告, 4 つの通常セッション, 「UNWTO 観光統計スペシャルワークショッ および 1 つの特別セッションが設けられ,計 プ(UNWTO Special Workshop on Tourism 26 本(ポスターセッションの 4 本を含む) Statistics)」という 2 つの国際会議から構成 の報告が行われた3)。基調講演とセッション * のテーマは以下の通りである(プログラム順 和歌山大学観光学部 E−mail:[email protected] に並べている) 。 75 『統計学』第 108 号 2015 年 3 月 基調報告 政策的視点からみた観光統計 坂西明子会員,菅幹雄会員,大井)が参加し た。宇都宮会員が UNWTO 観光統計スペシャ (Tourism Statistics: a Policy Perspective) セッション 1 地域観光市場の測定と経済 ルワークショップにおいて報告を行い,菅会 分析(Measurement and Economic Analysis of 員がワークショップのセッションの座長を担 Regional Tourism) い,大井が第 13 回観光統計グローバルフォー 特別セッション ヨーロッパとアジアの観 ラムにおいてポスター報告を行った。以下で 光統計(Tourism Statistics: the European and は,第 13 回観光統計グローバルフォーラム the Asian Cases) と UNWTO 観光統計スペシャルワークショッ セッション 2 観光需要の行動と消費の分 プを区別することなく,奈良観光統計ウィー 析(Analysis of Demand−side Behaviour and クで得られた成果として,観光統計における Consumption) ビッグデータの活用と観光サテライト勘定 セッション 3 観光統計におけるビッグ (TSA)の整備状況の 2 つのテーマに絞って デ ー タ の 活 用(Using Big Data for Tourism 紹介し,最後に奈良観光統計ウィークの成果 Statistics) と観光統計研究の課題についてまとめること セッション 4 事業,および政策分析のた にする。 めの観光統計の活用(Utilising Tourism StaⅡ 観光統計におけるビッグデータの活用 tistics for Business and Policy Analysis) 第 13 回観光統計グローバルフォーラムに UNWTO 観光統計スペシャルワークショッ おいて,ビッグデータのセッションが設けら プでは, 1 つの基調講演と 3 つのセッション れ, 4 本の報告が行われた。その中でも沖縄 から構成され,計 16 本の報告が行われた 。 県の事例を一部紹介する。沖縄県では携帯電 基調講演とセッションのテーマは以下の通り 話の位置情報から観光客の特性を把握する分 である(プログラム順に並べている) 。 析が行われた。地域別にみた場合,糸満市と 4) 本部町では日中において観光施設(沖縄県平 セッション 1 観光政策のため計測の重要 和祈念資料館や沖縄美ら海水族館)に多くの 性(Measurement Tourism for Policy Purpos- 観光客が訪問しているのに対し,恩納村では es) 夜から朝にかけて宿泊施設を中心に滞在人口 基調講演 観光統計から観光政策へ,さら が増加していることが読み取れた。また沖縄 に観光政策から観光統計へ(From Tourism 県で行われたプロ野球のキャンプ中にビッグ Statistics to Tourism Policy and Back Again) データを収集した場合,練習試合やオープン セッション 2 サステナブルツーリズムの 戦の開始前である 12 時から 13 時までの間に 発展を評価するための枠組みの構築 (Towards 多くの観光客が球場周辺に集まることが判明 a Framework for Measuring the Sustainable し,また観光客の居住地については,沖縄県 Development of Tourism) 以外では大阪府(12%)や兵庫県( 9 %)の セッション 3 観光サテライト勘定(TSA) 割合が高かった。 の作成のための制度的,および技術的要件 上記のような分析は従来の観光統計では把 (Institutional and Technical Requirements for 握が困難であった。しかしながらビッグデー Successful TSA Implementation) タを活用した場合,より迅速,かつ詳細な分 析が可能となる。それゆえ,効果的な観光振 経済統計学会から 4 名(宇都宮浄人会員, 76 興策の実施やマーケティング戦略の活用が期 大井達雄 奈良観光統計ウィーク 待される。具体的には一日のうちのピーク時 1 つの産業として認識することが可能となり, とオフピーク時,休日と平日,さらに繁忙期 その結果,観光産業による国家経済への貢献 と閑散期といった時間別の観光行動を把握す の把握や他産業との比較が可能となる。TSA ることができる。あわせて空間分析が可能と は以下の 10 の表から構成されている。 なることは,観光統計に限らず,観光学研究 の発展において有意義なものである。 またビッグデータにあわせて,行政が保有 するデータの活用を促進する,いわゆるオー プンデータについての報告もあった。具体的 な事例は紹介されなかったものの,オープン データの利用は,観光統計調査の簡略化(二 第 1 表 観光消費支出(インバウンド観光の 国内支出) 第 2 表 観光消費支出(国内観光とインバウ ンド観光の国内支出) 第 3 表 観光消費支出(アウトバウンド観光 の海外支出) 重統計の排除)や民間企業との連携などの調 第 4 表 観光消費支出 (国内観光消費の合計) 査の共同化によるコストの削減の可能性が指 第 5 表 生産勘定 摘された。一方で行政による統計調査が特殊 第 6 表 国内供給及び観光消費 なデータ構造を有するために,民間企業の経 第 7 表 観光雇用 営活動には役立たないといった意見もみられ 第 8 表 観光総固定資本形成 た。 第 9 表 観光集合消費 従来から指摘されている個人情報の保護の 第10表 非貨幣的指標 問題もあり,ビッグデータやオープンデータ の利用については多くの課題を有することが 報告において,アジア諸国と EU 諸国の 確認された。一方で現在の分析手法について TSA の整備状況に関する内容がそれぞれ紹介 は,大量のデータに対して記述統計の手法を された。アジア地域 11 カ国(ブルネイ,カ 適用したに過ぎず,より高度な分析手法の開 ンボジア,日本など)においては第 1 表から 発がもとめられている。また一部の報告では 第 7 表まで作成しているのは 6 カ国に及ぶ。 GPS に代表される移動位置情報が既存の統計 また 7 カ国が第 7 表を作成していた。インバ 調査に置き換わることはないという意見がで ウンド観光に関する外国人消費実態調査を た。この意見には個人的には賛成であり,お 11 カ国すべての国が行っていたもの,宿泊 そらく,今後もビッグデータと既存の観光統 統計の整備については一部の国でのみ実施さ 計は相互補完的な関係を構築することになる れているだけで,全体として遅れている印象 と思われる。 を受けた。 EU 諸国の場合,28 加盟国のうち,22 カ国 Ⅲ 観光サテライト勘定(TSA)の整備状況 が調査に協力した。その結果,13 カ国が表 1 UNWTO 観光統計スペシャルワークショッ ∼ 7 を作成していた(部分的に作成している プでは, 2 日目のすべてを費やして,TSA に 国も含む) 。22 カ国中,第 1 表と第 4 表はす ついての報告や議論が集中的に行われ,有意 べての国が作成していた(部分的に作成して 義な意見交換がなされた。TSA とは SNA の いる国も含む)。第 9 表については, 6 カ国 サテライト勘定の 1 つであり,観光部門の経 しか作成されておらず,アジア諸国の結果と 済的測定を行う主要なツールとして位置づけ 同様に低い水準に留まっている。 られている。産業分類において観光産業とい 各国の統計制度の状況が異なることもあり, う定義は存在しないが,TSA を通じて観光を 単純比較はできないが,アジア諸国は EU 諸 77 『統計学』第 108 号 2015 年 3 月 国と比較して,TSA の整備状況において必ず ● TSA についてはヨーロッパやアジアにお しも遅れているとはいえないことがわかった。 ける整備状況を確認し,今後さらに発展 ただし,ヨーロッパ諸国が観光行政機関,統 するための問題点を確認することができ 計作成機関,および中央銀行などの組織間の たこと 連携が良好であるのに対し,アジア諸国の場 合は観光行政機関が中心となって作成してい 一方で,利用者の視点に立った研究分析が る印象を受けた。そのためアジア諸国の TSA 少ないことや,観光統計の信頼性や妥当性な の精度については少し疑問の余地が残る。 どの問題点の解消にはより一層の努力が必要 さらに従来から言われていることだが,多 となるという課題も浮き彫りになった。 くの報告で TSA を作成するための人材の育 このように観光統計はまだまだ課題が多い 成と予算の拡充がもとめられた。TSA の作成 のが現状である。そのため,世界的な視点で には高度な能力を有し,かつ時間を要するこ 観光統計に関する現状や課題について実務家 ともあり,人材の育成は急務である。また予 や研究者が日本に集まり,議論したことはと 算の増額についても 1 次統計の充実が必要と ても意義深いものであった。おそらく奈良観 なるためである。しかしながら,国によって 光統計ウィークは今後の観光統計制度の発展 観光政策の優先順位が異なることや,財政事 に大きく貢献した国際会議であったと評価さ 情の厳しい中で TSA の便益について統計部 れるであろう。 門の中に疑問視する声も根強い。それゆえ状 最後に今回の国際会議の誘致にあたっては 況は必ずしも明るいものではない。 観光庁や奈良県の並々ならぬ努力があったこ とをここで記しておきたい。また奈良観光統 Ⅳ おわりに 計ウィーク全般の準備,当日の運営,レセプ 奈良観光統計ウィークの全体的な成果とし ションやエクスカーションなどにおいても報 ては以下の点があげられる。 告者や参加者に対して最高のホスピタリティ が提供されたこともあり,成功裏に終えるこ ● ● ビッグデータやオープンデータの発展が とができた。この成果は今後の観光統計制度 行政や観光産業の意思決定に役立つ可能 の発展に貢献するだけでなく,国際観光都市 性があること としての奈良県のブランド価値の向上につな 今後,多種多様なデータを結合した加工 がったといえる。 統計が作成されること 注 1 )UNWTO, Tourism Highlights 2014 Edition(http://www.e-unwto.org/content/u03633/fulltext.pdf) 2 )第 1 回から第 10 回までは,International Forum on Tourism Statistics という名称で開催されていた。 3 )第 13 回観光統計グローバルフォーラムの報告に関する詳細な資料は http://www.mlit.go.jp/kankocho/naratourismstatisticsweek/global/index.html を参照のこと 4 )UNWTO 観光統計スペシャルワークショップの報告に関する詳細な資料は http://www.mlit.go.jp/kankocho/naratourismstatisticsweek/unwto/index.html を参照のこと 78
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