助成番号 08 - 061 松下国際財団 研究助成 研究報告 【氏名】土屋 智子 【所属】(助成決定時)カリフォルニア大学サンディエゴ校 【研究題目】 アメリカ占領期に生じたアメリカ人兵士と日本人女性の「異人種間結婚」と「戦争花嫁」の歴史的意義の考察 【研究の目的】 本研究は、アメリカ占領期に生じたアメリカ軍人と日本人女性の結婚を政治的に捉えることにより、戦後のアメリ カ国家と冷戦政策、またその中で形成された日米関係の再考を試みる。またアメリカ占領期に米兵と結婚した 日本人「戦争花嫁」に焦点を当てることにより、戦後の「アメリカの世紀」を支えた人種、ジェンダーの力学を明ら かにする。具体的には、戦後アメリカ国家のアイデンティティや「結婚、夫婦、家族」という価値観が冷戦政策、 日米関係構築の中でどのように定義されたのかに注目する。戦後アメリカ占領下で構築された日本人「戦争花 嫁」に関する言説を通して、「結婚、夫婦、家族」に関する概念を検討することになるだろう。これらの概念は戦 後日米関係を支える糧となった重要な価値観であったことを明らかにし、これからの日米和平を考える新たな視 点を提案する。 【研究の内容・方法】 本研究は学際的なアプローチをとり、様々な資料を使用して、日本人「戦争花嫁」に関する言説を分析する。ま た、結婚、並びに日本人「戦争花嫁」をトランスナショナルな領域で捉えるため、日本とアメリカ、両国の資料を 使用する。これらの結婚は戦後の日米関係構築時期にトランスナショナルな過程を経たのにも関わらず、英語 文献、または日本語文献のいずれかのみが使用される傾向にあり、日本とアメリカで偏りのある、また相容れな い結論が出されてきた。本研究はそのような偏りを減じるため、両国で発行、出版された英語、日本語文献を使 用する。 本研究は「アメリカの世紀」を最初に支えることとなった「アメリカの日本占領の記憶」を、これまで 日米史の中で周縁に置かれがちであった米兵と日本人女性との結婚を通して見直す作業を試みる。それ により、従来のアメリカ占領を経済改革、労働改革などの政策面から見直す作業では見えなかった、ア メリカによる日本占領の記憶が保持する「結婚、夫婦、家族」に関する概念を分析し、そこに内在する 人種とジェンダーの力学を探る。「結婚、夫婦、家族」に関する先行研究は政治や外交のような公的領 域からは切り離され、私的な領域として独立して語られたり、史実の付属的要素として語られたりする ことが多く、これらの概念の政治性は見逃される傾向にあったと言えるだろう。本研究ではそれらがい かに戦後「アメリカの世紀」を築き上げる「生産的な力」になっていたのかを模索する。 【結論・考察】 これまで、アメリカ人兵士と結婚した日本人女性像ばかりが「偏り」や「ステレオタイプ」の対象となってきたが、本 研究ではいかに「アメリカ人兵士像」が偏っているのかに注目した。言い換えれば、日本人女性とアメリカ人兵士 像を同時に分析することによってお互いの創出のプロセスを考察した。 日本人女性とアメリカ人男性の結婚は、 戦後の冷戦政策と結びついて、「アメリカによる日本解放」の枠組みの中で捉えられた。すなわち、日本人女性は 日本の家父長制の中で夫、家族の犠牲となる、と考えられた。その考えに基づき、日本人女性と結婚したアメリカ 人兵士は日本人女性を家父長制の中での犠牲から「解放」した夫と捉えられた。この表象は、冷戦期にアメリカが 日本占領を「侵略」ではなく「救済と解放」と定義づけようとした中から創出したものであった。 そしてこの表象は 人種を軸とした抑圧、すなわちアメリカ人兵士による日本人への抑圧を隠蔽する効果を持った。
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