2012北信越クラブユース選手権(U-15 大会)レポート 【報告者 酒井雄高(長野県クラブユース連盟技術委員長) 】 ■大会概要 8 月に開催されるアディダスカップ、ディベロップカップ、インターシティカップへの出場権を争う大会。北信 越各県代表クラブ2チーム(ホスト県の新潟は3チーム)の計11チームによるトーナメント形式で開催 ・期日 2012 年7月7日(土)・8日(日) ・14日(土)・15日(日) ・会場 新潟聖籠スポーツセンター(アルビレッジ) ■大会結果、優秀選手 別紙参照 ■長野県代表クラブの結果 【1回戦】エスポワール白山(石川)4(2-1)(2-1)2 ASA FUTURO ※ASA は1回戦敗退 ASA は中盤では白山と互角の試合をしたが、白山の前線・サイドの選手のスピードに乗ったドリブル突破への 対応で後手に回る時間が多く試合を支配された。 【2回戦】長岡 JY(新潟) 8 (4-0)(4-0) 0 CEDAC CEDAC は前半の早い時間にミスから失点を許すと、 長岡の前線の選手の個人技に終始翻弄され失点を重ねた。 【敗者 T】敦賀 FC(福井) 4 (2-3)(2-0) 3 CEDAC 【敗者 T】丸岡 FC(福井) 3 (2-1)(1-0) 1 CEDAC ※CEDAC は 8 位 ■今大会の長野県代表クラブの戦いぶりから考察する長野県サッカーの育成への提言 長野県クラブユース選手権で優勝した CEDAC が長岡 JY(新潟)に0-8で大敗した試合は衝撃的であった。 また ASA が1回戦で2-4と敗れた白山は2回戦でアルビレックス新潟に0-5で一方的に敗れている。この ことから見ても長野県クラブは他県クラブ、特に新潟県からは大きく遅れてしまっていると言わざるを得ない。 今大会の長野県クラブの戦いを振り返りながら他県の指導者の話も交え、長野県サッカーの育成への提言という 形でまとめてみたいと思う。 ① 武器のある選手育成の必要性 長野県クラブで CEDAC・ASA 両クラブは「個」の高い選手が集まっているクラブとして長野県 U-15 年代を 牽引してきた。しかし、今大会においては北信越各県代表チームの中で「個」で完全に負けていた。印象的だっ たのが他県クラブにはどのクラブにもスピードに乗ったドリブル突破を武器にしている選手が前線・サイドに複 数いて、CEDAC・ASA はその選手に守備を切り裂かれる場面が多く見られたことだった。特に全国大会に進ん だ新潟勢のアルビレックスと長岡 JY には各ポジションに目立つ(目を引く)個性を持った選手がいて印象的だ った。スピードに乗ったドリブル突破で局面を打開出来る選手に加え、シュートが上手く決定力のあるストライ カー、小柄ながら圧倒的なスキルで有効にボールを散らすボランチ、DF ラインから何度も相手 DF ラインの裏 へフリーランを繰り返す DF、長いボールをヘディングでことごとく競り勝てるセンターバック、試合を通じて 的確なコーチングでゲームコントロールしている DF・GK、など。 ちなみに、今大会の優秀選手16名に長野県から選出されたのはテクニックと広い視野で CEDAC の中盤を牽 引した高野歩夢選手1名だけだった。 話は大会から離れるが、毎年、長野県クラブユース連盟技術委員会ではクラブ選抜選手の選考を行っている。 その中で、指導者からここ数年の選考において「特徴のある選手が少なく選考が難しい」という話が出る。つま り、ボールを扱う上手さは全体として UP しているが、金太郎飴のように同じように見えるから選考しにくい、 というのである。このことからも、現在、長野県サッカーの4種~3種の育成年代も以前に比べて、テクニック のある「上手い」選手は多くなったが、試合で戦うための「武器のある」選手、また相手に驚異を与える「怖い」 選手が少なくなってしまっているのではないかと感じる。過去の長野県クラブチームでは CEDAC 出身の三沢慶 一(ヴィッセル神戸~ザスパ草津)は圧倒的なスピードという武器を持っていた。彼は技術的には荒削りだった が、自分の武器でいかに勝負するのか、ということを常に考えてプレーしていた「怖い」選手だった。おそらく クラブでもそのような指導がされていたのであろう。 子供達はみんな「個性」を持っている。指導者側の発想として良くない部分(足らない部分)にフォーカスし て改善するだけではなく、いかにその「個性」にフォーカスし「武器」に育て上げていくのか、そのような育成 の発想が今改めて必要ではないかと切に感じる。そして、そのためには種別を超えた指導者のヴィジョンの共有 とリレーのための体制作りが不可欠である。 ② ハイプレッシャー・ハイスピードの日常化(ぬるま湯からの脱却) CEDAC のコーチが北信越大会と長野県大会では DF のアプローチの距離が「半歩」違った、と大会を振り返 っていた。北信越大会ではその半歩の距離の寄せが、長野県大会では華麗なパスサッカーで勝ち上がった CEDAC の選手のパスミスを生んだ要因の一つなのだろう。4種の年代も含め日頃のトレーニングや試合から、ハイプレ ッシャー・ハイスピードを「日常化」していく必要がある。 また今大会ではサッカーの試合の中で最も攻防が激しく、試合の結果を左右する「ゴール前の攻防」でも CEDAC・ASA は負けていた。チャンスに決められず、相手にチャンスを簡単に決められてしまう場面が多く見 られた。一つのチャンスを決めきれるかどうかで試合の結果は大きく変わる。ゴール前の攻防についても日常の トレーニングで多く取り入れたり、試合では U-15 年代であって8人制を導入して意図的にゴール前の攻防を意 図的に増やすなど工夫していく必要がある。 ③ 環境整備の必要性 ある新潟県のクラブチームの指導者が「新潟県大会を勝ち抜くのが本当に大変」と言っていて、新潟県の層の 厚さを感じたが、そんな中で今大会、新潟県第3代表として大会に出場してきたのが上越地区の上越春日 FC だ った。昨年までは新潟市周辺や長岡市などの下越、中越地区のクラブが新潟代表を独占していたが、今回、上越 のクラブが出場権を勝ち取った背景の一つとして「上越地区に人工芝のグランドが続々と出来て環境が整ってき ている」ことが挙げられるという。今大会で ASA が敗れた白山(旧、松任)の指導者からも「 (自クラブの)練 習会場のクレーのグランドが人工芝になってから選手の顔が上がるようになりチームが急成長した」という話が 聞かれた。長野県も人工芝のグランドが徐々に増えてきているが、上越や白山のように日常的にそのような施設 を利用できるクラブはほとんどなく、人工芝のグランドに代表される育成のための環境整備の充実も、行政との 協力を含め我々指導者に求められている大きな役割ではないかと感じる。 ■終わりに ロンドンオリンピックでは男女代表が素晴らしい戦いぶりを見せました。チームのまとまりの良さと同時に、 際立っていたのが個の選手の輝きでした。それは注目されやすい攻撃の選手だけではありません。男子の権田、 吉田、徳永、鈴木など守備の選手も素晴らしく輝いていました。今後、長野県クラブユース連盟から日の丸を背 負い、世界の舞台で輝いてプレーする「個性のある」選手を育てていきましょう。 今回の自分のレポート・提言が、今後の長野県クラブユース連盟、そして長野県サッカーの選手育成のたたき 台となれれば幸いです。サッカーにも、指導方法にも「答え」はありません。だからこそ、連盟の仲間みんなで 一緒に作り上げていきましょう。 2012.8.9 長野県クラブユース連盟 技術委員長 酒井雄高
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