演題名: QOL向上と自立支援のための栄養管理を目指して 副演題名: PEM予防と改善のためのチームアプローチ 抄録: 【はじめに】老人保健施設は回復期リハビリテーションを実施しており、栄養課は、栄養 管理をすることにより回復リハビリの支援を業務とする。この栄養管理の充実を図るため、 平成14年度、日本健康栄養システム学会主催の栄養ケア・マネジメント(NCM)研修 に施設栄養士が研修する機会を得た。高齢者は、慢性的なエネルギーやたんぱく質の補給 不足あるいは生理的ストレスが負荷されると、たんぱく質・エネルギー低栄養状態(PE M)に陥り易くなり、このリスク軽減・解消が第一の課題となる。そしてこれが、個人の 栄養状態の改善とQOL向上を目指したNCM構築へと繋がる事を学んだ。そこで、平成 14年より、PEM リスク者に対し栄養介入を実施しており、改善の観られた1事例につい て報告したい。 【対象事例】大正 2 年生まれ、男性 て通院加療中、平成 16 年 3 月 平常時体重 45kg 要介護度 5 パーキンソン氏病に 一過性脳虚血発作にて入院。平成 16 年 4 月下旬 退院後 当施設に入所、入所時体重 43kg、パーロデル、ネオドパゾール等を服薬されていた。 【経過】入所当初は、嚥下困難や、食事中の傾眠傾向が観られていた。5月中旬には嚥下 訓練等によりやや嚥下状態が安定、食事前の嚥下体操で覚醒状態での喫食も可能となって きた。しかし、摂食動作には片麻痺があり、こぼしが多く観られた。 5月下旬、サービス担当者会議にて、サービス内容とニーズの見直しが討議され、ST は 嚥下訓練継続、PT は上肢機能訓練、介護士は必要時の食事介助、看護師からは、5月下旬、 褥瘡が出来たため褥瘡好発部位の観察、等が提案された。 これら情報を受け、栄養課は、①食べこぼし対策②血清アルブミン値の改善③体重を平 常時体重に④褥瘡軽減、以上4点の問題解決を目標設定した。 【栄養介入方法】食事形態については医師・リハビリ部と検討の結果、ミキサー食より 食べこぼしの少ない Gel 状とし、 「ソフト食」という名称で、委託業者の協力のもと提供を 開始した。テクスチャー改良剤で Gel 状にし、すくい易くまた口の端からの横だれをなく す様、配慮した。この Gel 用剤は、付着性が低く凝集性が高い利点があり、又、60℃ま で温めても溶解せず、適温での提供が可能なので多用している。食器は片麻痺用を使用し、 なるべく自力摂取を促した。 栄養補給量については、エビデンスに基づき、PEM改善のため安静時エネルギー量の 1.5 倍量を、たんぱく質量は現体重の 1.5 倍となる様設定した。給食だけでは不足分があ るため、濃厚流動食にて補足した。また、医師により、代謝促進のためビタミン B 群の薬 剤処方も追加された。栄養ケア実施目標期間はアルブミン値の半減期を考慮した4週間が 目安とされているため、これと設定致した。 【結果】栄養ケア実施目標期間の4週間後、①咀嚼回数が増加、また、ご本人様には食感 を気に入っていただけた。摂食率は食べこぼしが減少し、看護介護部の一部介助もあり、 補食分を合わせエネルギー量は約 31%、たんぱく質量も約 24%の増量。②Alb 値は 2.9 よ り 3.3g/dl に改善。③体重は 5.3%の増加が観られ、平常時体重に。④6月中旬、左臀部 の褥瘡、完治。以上の様な結果が得られた。 【考察】本事例は、栄養介入を各専門職にてチームアプローチし、栄養状態と、食事の 自立摂取量、増加等 ADL の一部改善が得られた。しかし、まだ Alb 値は PEM リスク域であ り、また、進行性疾患であるパーキンソン氏病もあるため日内変動や嚥下障害等、悪化す ることも考えられる。 今後の課題として、高齢者ケアは適時・的確な対処が必要であり、他部署も栄養ケア業 務を、そして栄養課も嚥下のしくみ等、医療の知識と技術をさらに習得し、より質を高め ていかなければならない。また、もっと早い時期からの積極的栄養介入も可能であったか も知れないと考えると、各部署がより連携を強め、情報提供を迅速かつ密にする事が重要 な事だと実感した。今後も、さらに充実した NCM 構築を果たし、顧客満足の向上を図って いきたい。
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