フッ化水素 0.概要 フッ化水素

フッ化水素
0.概要
フ ッ 化 水 素 ( H F ) は 2 5 ℃ で は 気 体 で 、そ の 水 溶 液 は フ ッ 化 水 素 酸 ( フ ッ 酸 ) と 呼 ば れ る .
フロンガス、フッ素化合物の原料となるほか、ガラスの艶消し、半導体のエッチン
グ、金属の酸洗いなど、工業的に広く用いられている.
弱酸ながらきわめて強い腐食性があり、その作用は強酸の硝酸や硫酸よりも強い.
また、曝露経路にかかわらず、体内に容易に吸収され、フッ素イオンとして低カル
シ ウ ム 血 症 等 の 全 身 症 状 を 引 き 起 こ し 、死 亡 す る 例 も あ る こ と が よ く 知 ら れ て い る .
曝露した場合は汚染除去ののち、充分な循環管理・血中のカルシウム濃度の測定を
行い、グルコン酸カルシウムの投与を積極的に行う.
[毒性]
経 口 : 最 小 致 死 量 1.5g( ま た は 20mg/kg)、 9%溶 液 15mL で の 死 亡 報 告 が あ る . 22)
吸入:眼と鼻の刺激発現濃度
5ppm(5mg/L)
2)
経 皮 : 100%HF 体 表 2.5%曝 露 で 10 時 間 後 に 死 亡 し た 例 が あ る .
( 血 中 フ ッ 素 濃 度 3mg/L, カ ル シ ウ ム 濃 度 2.2mg/dL)
47)
[中毒学的薬理作用]
・粘膜への刺激と腐食作用
フッ化水素は透過性が高く、他の酸に比べて組織の深部まで浸透する.
・フッ素イオンによる作用
細胞内で遊離したフッ素イオンがカルシウムやマグネシウムと結合する、
あるいは直接的に作用することにより、全身毒性を示す.
[症状]
腐食による局所症状とフッ素イオンによる全身症状の両者が発現する.
腐 食 に よ る 局 所 症 状 (化 学 損 傷 )
・傷害の程度は濃度に依存する.
5)
・症状の特徴は激しい痛み、凝固による白色化と水疱形成であり、治療しない
と組織の破壊が進行する.
5)
フッ素イオンによる全身症状
・経皮、吸入など、経口以外の局所曝露でも速やかに浸透、体循環に進入し、
全 身 症 状 が 出 現 し 、 死 亡 す る こ と も め ず ら し く な い . 28)29)30)47)
・低カルシウム血症、低マグネシウム血症、高カリウム血症
・代謝性アシドーシス
・ 循 環 器 系 症 状 (心 筋 障 害 、 不 整 脈 、 心 室 細 動 )
・ 消 化 器 系 症 状 (悪 心 、 嘔 吐 、 下 痢 、 消 化 管 出 血 、 腹 痛 )
・ 神 経 系 症 状 (筋 力 低 下 、 疲 労 、 中 枢 神 経 抑 制 、 痙 攣 な ど )
経口:嘔吐、下痢、腹痛、流涎、嚥下困難、吐血を伴う出血性胃腸炎、出血性肺
水腫. 喉頭浮腫の結果、気道閉塞がおこることもある.
低 濃 度 の 場 合 で も 1 ~ 7 時 間 以 内 に 全 身 症 状 を 引 き 起 こ す .致 死 的 な 場 合 は
循 環 不 全 や 呼 吸 不 全 に よ り 2~ 4 時 間 で 死 亡 す る .
吸入:重篤な咽喉頭刺激、咳、呼吸困難、チアノーゼ、肺水腫
急 速 に 出 血 性 肺 水 腫 が 出 現 し 、 30 分 ~ 150 分 で 死 亡 す る こ と が あ る .
5)
経 皮 : 初 期 症 状 の 重 篤 度 は 濃 度 に よ っ て 異 な り 、 濃 度 50%以 上 で あ れ ば 直 ち に 組
- 1 -
織 の 崩 壊 を き た し 痛 み を 感 じ る が 、濃 度 2 0 % 以 下 の 場 合 は 曝 露 後 2 4 時 間 経
過 し て か ら 痛 み や 紅 斑 が 出 現 す る こ と も あ る の で 注 意 が 必 要 で あ る . 5)
重度の皮膚化学損傷では皮膚の移植が必要となる場合があり、抜爪や指
切 断 に 至 っ た 例 も あ る . 26)32)
局 所 曝 露 で も 速 や か に 浸 透 、全 身 症 状 が 出 現 し 死 亡 す る 可 能 性 が あ る .4 7 )
眼
:痛み、流涙、角膜混濁など
頭部および頸部曝露、全身曝露の場合:
噴出したフッ化水素を浴びた等の事故の場合、急激に全身状態が悪化し、
数 十 分 以 内 に 心 肺 停 止 を き た し て 死 亡 す る こ と も あ る . 28)29)30)
[治療]
・ 解 毒 剤 ・ 拮 抗 剤 : 有 (カ ル シ ウ ム 製 剤 )
・禁忌事項:経口の場合は催吐禁忌、塩化カルシウムの局所投与は禁忌
・ 皮 膚 の 化 学 損 傷 面 積 が 50cm(2)以 上 の 患 者 は 入 院 が 必 要 で あ る .
100cm(2)を 超 え る 場 合 や 経 口 摂 取 、 吸 入 、 全 身 症 状 の 徴 候 が あ る 場 合 は 、 ICU
に 入 院 さ せ る . 26)
静 脈 路 を 確 保 し 、不 整 脈 の 出 現 に そ な え て 直 ち に 1 2 誘 導 心 電 図 を と り 、少 な く
と も 24~ 48 時 間 は 厳 重 に 観 察 す る 必 要 が あ る . 5)
・血中のカルシウム濃度、特にカルシウムイオン濃度の測定を定期的に行う.
(1)基 本 的 処 置
経 口 の 場 合 : 希 釈 ( 牛 乳 、な け れ ば 水 ) 、胃 洗 浄 ( 摂 取 後 9 0 分 以 内 ) と 粘 膜 保 護 を
行う.活性炭投与はフッ化水素の物性から適応でない.
6)22)
吸 入 の 場 合 : す ぐ に 新 鮮 な 空 気 下 に 移 し 、 衣 服 と 皮 膚 の 除 染 を 行 う . 5)
速 や か に 100%加 湿 酸 素 投 与 を 行 う . 26)
経 皮 の 場 合:た だ ち に 大 量 の シ ャ ワ ー で 少 な く と も 1 5 ~ 3 0 分 か け て 十 分 洗 う .
眼に入った場合:生理食塩水か等張塩化マグネシウム液か水ですぐに洗浄する
(2)生 命 維 持 療 法 お よ び 対 症 療 法
呼吸・循環管理、不整脈対策、電解質異常・アシドーシスの補正
ただし炭酸水素塩の投与については、炭酸カルシウムが沈殿するので、カル
シ ウ ム 注 入 中 は 行 う べ き で は な い . 26)
(3)特 異 的 治 療 法
[解毒剤・拮抗剤]
A.カ ル シ ウ ム 製 剤 の 投 与
カルシウムは速やかにフッ素イオンと沈殿を形成するので、フッ化物の皮膚曝
露の際には体循環への吸収を阻止するために有効である.また、吸収されたフ
ッ化物による全身性の低カルシウム血症にも有効である
20)
グルコン酸カルシウムが多用されているが、局所以外であれば、塩化カルシウ
ム が 使 わ れ る こ と も あ る . (塩 化 カ ル シ ウ ム は 刺 激 が 強 く 局 所 投 与 禁 忌 . )
経口、吸入、経皮で全身症状が予想される場合:静注
カ ル シ ウ ム の 補 正 目 的 で 行 う . 22)
・適応基準:重篤な曝露を受け、低カルシウム血症が予想される場合
・投与量:グルコン酸カルシウムの場合
10-20mg/kg
5)20)
9)
(8.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 注 (カ ル チ コ ー ル )で 0.12-0.24mL/kg)
塩化カルシウムの場合
2-4mg/kg(小 児 に は 10-30mg/kg)
22)
( 2 % 注 射 液 で 0 . 1 - 0 . 2 m L / k g 、0 . 5 モ ル 補 正 用 液 で 0 . 0 3 6 - 0 . 0 7 2 m L / k g )
・ 用 法 : 心 電 図 を モ ニ タ ー し な が ら 10mL あ た り 10-15 分 か け て ゆ っ く り 静 注 .
- 2 -
症 状 が 再 発 す れ ば 、 20 分 か ら 30 分 ご と に 繰 り 返 し 投 与 す る .
吸 入 : 2.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム の 吸 入
有 効 で あ る と い う デ ー タ は な い が 有 害 作 用 は な い の で 試 み る 価 値 は あ る .2 6 )
10%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 1.5mL を 滅 菌 蒸 留 水 か 生 理 食 塩 水 4.5mL に 加 え 、
100%酸 素 と 一 緒 に ネ ブ ラ イ ザ ー で 吸 入 さ せ る . 26)
経皮:グルコン酸カルシウムゼリーの塗布、グルコン酸カルシウムの注入
皮膚はカルシウムを透過させないため、外用剤塗布、皮下注入、静脈注入、
動 脈 注 入 な ど 、 種 々 の 方 法 が 試 み ら れ て い る . 26)
a)軽 度 の 場 合
グルコン酸カルシウムゼリーの塗布
非侵襲的で痛みがなく現場で可能な処置としてもっとも頻繁に行われている.
皮下への浸透を防ぐという目的から考えると、曝露した可能性があればフッ
化 水 素 の 濃 度 に か か わ ら ず 、ま た 症 状 が な く て も 使 用 を 開 始 す べ き で あ ろ う .
・ 適 応 基 準 : 軽 度 の 皮 膚 化 学 損 傷 の 場 合 . 26)
・ 使 用 薬 剤 : 2.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム ゼ リ ー 製 剤
・日本では未承認薬であるため、院内製剤とする.
18)
・ 代 表 的 な 調 整 法 : グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 3.5g と 水 溶 性 潤 滑 ゼ リ ー (ex.
K-Y Jelly) 1 5 0 m L (141.75g)を 混 合 す る . 22)
・方法:洗浄の後、ゼリーを浸透させない手袋をつけ、痛みがおさまるまで
約 15 分 程 度 マ ッ サ ー ジ す る . 痛 み が 戻 れ ば 再 塗 布 す る .
b)重 症 の 場 合
グルコン酸カルシウム液の注入
広く行われているのは皮下注入のみで、静脈注入、動脈注入については方法
・有効性とも検討の段階であり、治療法として確立されていない.
1)皮 下 注 入 (infiltration)
5)8)20)22)
グルコン酸カルシウムを曝露皮膚に注入し組織にカルシウムを供給する.
・ 適 応 基 準 : 濃 度 20%以 上 、 も し く は 局 所 塗 布 が 効 か な い 化 学 損 傷 の 場 合
・ 使 用 薬 剤 : 10%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム を 生 理 食 塩 水 で 5%に 希 釈 す る .26)
・ 方 法 : 27 か 30 ゲ ー ジ の 注 射 針 で 0.5mL/cm(2)を 化 学 損 傷 部 分 の 周 囲 0.5
cm 程 度 ま で 注 入 す る . 5)20)26)
2)静 脈 注 入 (intravenous i n f u s i o n , perfusion)
10)18)19)22)23)
四 肢 の フ ッ 化 水 素 化 学 損 傷 に 対 し 、 疼 痛 を 軽 減 す る た め に Bier block 法
(経 静 脈 内 局 所 麻 酔 法 )に よ る グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 局 部 静 脈 注 入 を 行 う こ
とがある.
3)動 脈 注 入 (arterial i n f u s i o n , perfusion)
5) 10)20)22)23)
四肢のフッ化水素曝露時に、グルコン酸カルシウムや塩化カルシウムの
10%~ 20%溶 液 を 動 脈 注 入 す る こ と を 推 奨 す る 文 献 が あ る が 、 ど れ も 十 分 な
対照試験を行っておらず、有効性は確立していない.
5)22)26)
眼 : 2.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム の 点 眼
効果は立証されていない
20)
B . マ グ ネ シ ウ ム 塩 、第 四 級 ア ン モ ニ ウ ム 塩 、フ ッ 化 水 素 専 用 洗 浄 液 H e x a f l u o r i n e ( R )
いずれも賛否両論があり、一般的な治療法ではない.
[排泄促進]
強制利尿
フ ッ 化 物 は 主 に 腎 排 泄 で あ る た め 、 充 分 な 利 尿 を 確 保 す る . 26)
血液浄化法
血 液 透 析 : フ ッ 素 除 去 と 高 カ リ ウ ム 血 症 の 改 善 の た め 必 要 な 場 合 も あ る . 5)
[その他]
- 3 -
外科的処置:壊死組織切除、抜爪、皮膚移植など
1.名称
起因物質名
21)
化学名:フッ化水素
別名
Hydrogen Fluoride
無水物:無水フッ化水素
水溶液:フッ化水素酸
フッ酸
Hydrofluoric acid
Fluohydric Acid
C A S N o .: 7 6 6 4 - 3 9 - 3
国 連 番 号 : 1052(無 水 物 )、 1790(水 溶 液 )
化学式:HF
2.分類コード
試薬
6-58-1102-101
フ ッ 化水素酸
金属表面処理剤
6-60-1502-000
フ ッ 化水素酸
木材しみ抜き剤
6-60-9198-020
フ ッ 化水素酸
3.成分・組成
フ ッ 化 水 素 (無 水 フ ッ 化 水 素 )
99%以 上
(液 化 ガ ス 、 荷 姿 : ボ ン ベ 、 タ ン ク ロ ー リ ー )
フ ッ 酸 (希 フ ッ 化 水 素 酸 )
55~ 80%
( 水 溶 液 、荷 姿 : ポ リ エ チ レ ン 缶 2 5 k g 入 り 、特 殊 コ ン テ ナ 、タ ン ク ロ ー リ ー )
・ 通 常 50~ 60%の 水 溶 液 と し て 使 用 さ れ る
2 1)
・ 錆 取 り や ア ル ミ ニ ウ ム の 洗 浄 に は 0.6-12%の 比 較 的 薄 い フ ッ 化 水 素 酸 が 広
く利用されている
5)
・フッ化水素含有商品の例
木材しみ抜き剤
レ ブ ラ イ ト (R)(フ ッ 化 水 素 9.5%)
金属表面処理剤
ラ ス ノ ン W E L ( R ) M - 5 0 0 ( フ ッ 化 水 素 4 . 5 % 、硝 酸 1 3 . 5 % )
4.製造会社及び連絡先
ステラケミファ、森田化学、ダイキン工業、日本軽金属、セイミケミカル、
トーケムプロダクツ、セントラル硝子、旭硝子
2 1)
5.性状・外観
常温で発煙性の液体.無色、刺激臭がある
2)
大 気 中 の 水 分 に と け 、 ガ ス や 微 粒 子 状 で 存 在 す る (水 と 親 和 性 が 高 い )
[構造式]
HF
[分子量]
20.01
[比重]
無 水 物 : 0.987
21)
21)
71%水 溶 液 : 1.230
43)
- 4 -
[融点]
無 水 物 : - 92.30℃
21)
71%水 溶 液 : - 71.0℃
[沸点]
無 水 物 : 19.4℃
21)
71%水 溶 液 : 65.8℃
[蒸気圧]
43)
43)
無 水 物 : 400mmHg(25℃ )
70%水 溶 液 : 150mmHg(26.7℃ ア セ ト ン ・ク ロ ロ ホ ル ム と 同 程 度 )5)
[蒸気密度]
0.921g/L
[溶解性]
水によく溶ける
[液性]
会 合 性 が あ り 、 水 溶 液 中 で (HF)2、 (HF)3 の 形 で 存 在 す る
( H F 分 子 間 に 水 素 結 合 が 働 き ,会 合 分 子 ( H F ) n ( n は 2 ~ 6 ) が 生 じ る )
弱 酸 で あ る が 腐 食 性 が 強 い 21)
希 釈 液 は 比 較 的 弱 い 酸 で 、 解 離 定 数 は 塩 酸 の 1/1000 程 度
解離定数
Kd= 3.53×10(-4)
[H+][F-]/[HF]=2.4×10(-4)
[爆発性・引火性]
5)
5)
(25℃ )
17)
なし
ただし、金属との接触により可燃性の水素ガスを発生した際には、空気と
の 混 合 に よ り 引 火 爆 発 す る こ と が あ る . 42)43)
[化学反応性]
多くの金属とよく化合してフッ化物を生じる
Au、 Pt に は 作 用 せ ず 、 Ag、 Cu に は 常 温 で 徐 々 に 作 用 す る
Pb は そ の 表 面 を 侵 し 、 そ の 他 の 金 属 は 全 部 溶 か す
17)
ガラスなどケイ酸質を侵食する特性がある
4HF+SiO2→ SiF4+2H2O
21)
加 熱 分 解 に よ り 腐 食 性 あ る い は 有 毒 な ガ ス や 微 粒 子 を 生 成 す る . 42)
水 と 急 激 に 反 応 し 、 腐 食 性 あ る い は 有 毒 な ガ ス を 生 成 す る . 42)
[取り扱いと保管]
保護具
29)42)44)45)
呼 吸 器 :呼 吸 用 保 護 具 (酸 性 ガ ス 用 防 毒 マ ス ク 、 空 気 呼 吸 器 )
顔 面 : 顔 面 シ ー ル ド (ゴ ー グ ル 型 保 護 眼 鏡 ・ シ ー ル ド 付 ヘ ル メ ッ ト )
上 肢 : 保 護 手 袋 (ネ オ プ レ ン な ど の ゴ ム 手 袋 )
体 幹 ・ 下 肢 : 保 護 衣 (上 下 耐 酸 衣 )
下 肢 : 保 護 長 靴 (ゴ ム 長 靴 )
保管
42)
直射日光を避け、涼しく乾燥し、換気のよい場所で貯蔵する.
6.用途
フロンガスの原料、アルキルベンゼンの触媒、ガソリンのアルキル化剤、
ガ ラ ス の つ や 消 し・蝕 刻 、ス テ ン レ ス そ の 他 の 金 属 の 酸 洗 い 、鉱 石 類 の 分 析 、
半導体のエッチング、その他フッ素化合物の製造原料
21)
7.法的規制事項
毒物及び劇物取締法
大気汚染防止法
第 2 条 毒 物 (フ ッ 化 水 素 及 び こ れ を 含 有 す る 製 剤 )
第 2 条有害物質
- 5 -
その他
21)
8.毒性
[ヒト中毒量]
・吸入
眼と鼻の刺激発現濃度
5ppm(5mg/L)
最小中毒量
刺激性
32ppm
2)
2)
[ヒト致死量]
・経口
最小致死量
9%溶 液 15mL 摂 取 で 死 亡 し た 報 告 が あ る (Webster 1930)
1.5g(20mg/kg)程 度 と 低 い (Greekdyke 1964)
5)
5 ) 22)26)
・経皮
最小致死量
100%HF 体 表 の 2.5%曝 露 、 約 10 時 間 後 に 死 亡
47)
[致死的血中フッ素およびカルシウム濃度]
死 亡 例 に お け る 剖 検 時 血 中 フ ッ 素 濃 度 の 報 告 値 は 8.3~ 56.2mg/L と 幅 が あ る が 、
別 の 文 献 で は 2.6mg/L で も 死 亡 例 が あ る と あ る . (正 常 値 0.1mg/L 以 下 )
22)
・経口
救命例
8%HF 約 60mL 直 後 に 嘔 吐 し 20 分 後 に 受 診 、 心 室 細 動 発 現
1 時間後
11)
カ ル シ ウ ム 濃 度 6.6mg/dL(1.65mmol/L)
10%HF 100mL 50 分 後 に 受 診 、 心 室 細 動 発 現
75 分 後
12)
カ ル シ ウ ム 濃 度 7.7mg/dL(1.91mmol/L)
・経皮
死亡例
100%HF 体 表 の 2.5%曝 露 、 約 10 時 間 後 に 死 亡
剖検時
47)
血 中 フ ッ 素 濃 度 3mg/L(0.3mg/dL)
血 清 カ ル シ ウ ム 濃 度 2.2mg/dL
70%HF 体 表 の 8%曝 露 、 心 室 細 動 に よ り 死 亡
(Mulleett 1987)
血清総カルシウム濃度
6 時 間 後 3.5mg/dL
カルシウムイオン濃度
6 時 間 後 1.7mg/dL
70%HF 体 表 の 25%曝 露 、 心 停 止
31)
カ ル シ ウ ム イ オ ン 濃 度 1.7mg/dL
22)
70%HF 体 表 の 17%曝 露 、 20 分 後 心 肺 停 止
剖検時
22)
28)
血 中 フ ッ 素 イ オ ン 濃 度 44.8mg/L
血 清 カ ル シ ウ ム 濃 度 2.9mg/dL
70%HF 顔 面 曝 露 、 32 分 後 心 肺 停 止
剖検時
29)
血 中 フ ッ 素 イ オ ン 濃 度 64mg/L
血 清 カ ル シ ウ ム 濃 度 4.9mg/dL
60%HF 体 表 の 30%曝 露 、 25 分 後 心 肺 停 止
剖検時
救命例
30)
血 中 全 フ ッ 素 濃 度 605mg/L(605μ g/g)
30%HF 体 表 の 44%以 上 曝 露 、 心 室 細 動 発 現
13)
血 清 カ ル シ ウ ム イ オ ン 濃 度 1.76mg/dL(0.44mmol/L)
71%HF 体 表 の 7%曝 露 、 3.5 時 間 後 心 室 細 動 発 現
35 時 間 後
8 時間後
血 中 フ ッ 素 濃 度 0.23mg/L(12.3μ mol/L)
尿 中 フ ッ 素 濃 度 110.2mg/L(5800μ mol/L)
血清カルシウムイオン濃度
小児 2 例
27)
来 院 時 2.7、 3.5 時 間 後 4.9mg/dL
体 表 の 3-4%、 8-10%の Ⅰ 度 化 学 損 傷 、
カルシウム濃度と心機能に異常なく全身症状もなし
[動物急性毒性]
経 口 モ ル モ ッ ト ; LDLo
80mg/kg
- 6 -
2)
22)
吸 入 ラ ッ ト ; LC50
1276ppm、 1 時 間
22)
経 皮 ラ ッ ト ; approximate lethal dose(ALD 概 算 致 死 量 )500mg/kg,1~ 2 分 8)
[その他の毒性]
刺 激 性 : 眼 と 鼻 の 刺 激 発 現 濃 度 5ppm
5)
(参 考 )
許容濃度
3ppm(OSHA)、 2.5mg/m(3)(NIOSH)
ACGIH 勧 告 値 ; TLV-C
22)
3ppm
即 時 危 険 値 (IDLH)
20ppm
20)
9.中毒学的薬理作用
[腐食作用]
粘膜の刺激と腐食作用
4)
液体や蒸気の曝露による傷害は、同じ濃度の他の酸よりも著しい.
・ フ ッ 化 水 素 は 水 と 近 い 透 過 率 (水 p=1.4×10(-4)cm/s)を も つ の で 透 過 性 が 高
く、非イオン性の拡散によって生体膜を通過する.
5)
第一段階の腐食:遊離水素イオンによる速やかな脱水と凝固壊死.
第二段階:皮下に浸透したフッ素イオンとカルシウムとの結合によって緩や
かに壊死を引き起こす.
軟 組 織 の 融 解 壊 死 、 骨 の 脱 灰 、 腐 食 が 起 こ る . 26)
・塩酸による傷害は蛋白凝固によってある程度表層に限局されるが、フッ化水
素は組織の深部まで浸透するので、アルカリによる化学損傷のように、傷害
は 24 時 間 以 上 進 行 す る .
4)5)
[フッ素イオンによる作用=細胞毒性]
細胞内で遊離したフッ素イオンがカルシウムやマグネシウムと結合する、あるい
は直接的に作用することにより、全身毒性を示す.
特に、循環器に対する毒性ではいくつかのメカニズムが提唱されているが、い
ず れ も 完 全 に は 解 明 さ れ て い な い . 27)
カルシウム・マグネシウムとの結合
5)6)22)26)27)
不溶性の沈殿を生成することにより、組織内や血中のカルシウムイオン、マグ
ネシウムイオンが欠乏する.その結果、細胞内および細胞膜のカルシウム代謝
やカルシウム・マグネシウム依存性の反応を障害して細胞毒性を発揮する.
・血中カルシウム濃度、マグネシウム濃度の低下
・血中カリウム濃度の上昇
カ ル シ ウ ム 依 存 性 N a + ,K + - A T P a s e を 阻 害 す る こ と に よ り 、カ リ ウ ム チ ャ ン
ネルが開放された状態になり、組織や赤血球からカリウムが放出される結
果 と し て 二 次 的 に 起 こ る . 26)27)
皮下組織では、神経末端からカリウムを細胞外液へ遊離させるので激しい
痛 み を 引 き 起 こ す . 4)
・各種酵素阻害
解 糖 系 酵 素 の 活 性 阻 害 (そ の 結 果 、 組 織 呼 吸 を 障 害 す る )
コリンエステラーゼ阻害
26)
26)
フッ素イオンによる直接作用
・アデニル酸シクラーゼの活性化
心 筋 の ア デ ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ を 直 接 活 性 化 す る と 、 心 筋 の cAMP が 増 加 し 、
心 筋 が 著 し く 刺 激 さ れ て 、 難 治 性 の 不 整 脈 が 発 生 す る . 26)27)
- 7 -
・心筋への直接毒性
カテコールアミン性心筋炎に類似した心筋層変性の報告があり、心筋への
直 接 の 毒 性 に よ る と 思 わ れ る . 5)
・中枢神経系への直接毒性
10)22)
10.体内動態
[吸収]
透過性が高いため、経皮曝露でも速やかに皮膚に浸透して体循環に入る.
5)
・フッ素の電気陰性度が極めて大きいため、フッ化水素は水溶液中では容易に
電 離 せ ず 、 イ オ ン 化 し な い 状 態 で 皮 下 組 織 の 細 胞 膜 を 容 易 に 通 過 す る . 26)
・いったん細胞内に入るとフッ素イオンを遊離し、カルシウムやマグネシウム
と 不 溶 性 の 塩 を 形 成 し 、 他 の 金 属 イ オ ン と 可 溶 性 の 塩 を 作 る . 26)
・ ア ル ビ ノ ラ ッ ト に よ る 実 験 で は 、 50%HF を 体 表 の 1.7%の 範 囲 に 0.5mL 塗 布 し
た 場 合 、5 分 後 に 血 清 中 フ ッ 素 濃 度 が 上 昇 し 、3 0 分 後 に は 低 カ ル シ ウ ム 血 症 、
低ナトリウム血症、高カリウム血症を呈した.
5)
[分布]
分 布 容 量 : フ ッ 化 物 と し て 0.5~ 0.7L/kg
長期曝露で長管骨への蓄積がある
22)
2)
[排泄]
尿 中 排 泄 、 半 減 期 : 2~ 3 時 間
22)
フ ッ 化 物 の 経 口 摂 取 で は 、 24 時 間 以 内 に 50%以 上 が 尿 中 排 泄 さ れ る . 27)
11.中毒症状
[概要]
腐食による局所症状とフッ素イオンによる全身症状の両者が発現する.
腐 食 に よ る 局 所 症 状 (化 学 損 傷 )
・傷害の程度は濃度に依存する.
5)
・症状の特徴は激しい痛み、凝固による白色化と水疱形成であり、治療しない
と 組 織 の 破 壊 が 進 行 す る . 5)
フッ素イオンによる全身症状
・経皮、吸入など、経口以外の局所曝露でも速やかに浸透、体循環に進入し、
全 身 症 状 が 出 現 し 、 死 亡 す る こ と も め ず ら し く な い . 28)29)30)47)
・低カルシウム血症、低マグネシウム血症、高カリウム血症
・代謝性アシドーシス
・ 循 環 器 系 症 状 (心 筋 障 害 、 不 整 脈 、 心 室 細 動 )
・ 消 化 器 症 状 (悪 心 、 嘔 吐 、 下 痢 、 消 化 管 出 血 、 腹 痛 )
・ 神 経 系 症 状 (筋 力 低 下 、 疲 労 、 中 枢 神 経 抑 制 、 痙 攣 な ど )
経口:嘔吐、下痢、腹痛、流涎、嚥下困難、吐血を伴う出血性胃腸炎、出血性肺
水腫. 喉頭浮腫の結果、気道閉塞がおこることもある.
低 濃 度 の 場 合 で も 1~ 7 時 間 以 内 に 全 身 症 状 を 引 き 起 こ す .
致 死 的 な 場 合 は 循 環 不 全 や 呼 吸 不 全 に よ り 2~ 4 時 間 で 死 亡 す る . 6)
吸入:重篤な咽喉頭刺激、咳、呼吸困難、チアノーゼ、肺水腫
急 速 に 出 血 性 肺 水 腫 が 出 現 、 30 分 ~ 150 分 で 死 亡 す る こ と が あ る .
5)
経 皮 : 初 期 症 状 の 重 篤 度 は 濃 度 に よ っ て 異 な り 、 濃 度 50%以 上 で あ れ ば 直 ち に 組
- 8 -
織 の 崩 壊 を き た し 痛 み を 感 じ る が 、濃 度 2 0 % 以 下 の 場 合 は 曝 露 後 2 4 時 間 経
過 し て か ら 痛 み や 紅 斑 が 出 現 す る こ と も あ る の で 注 意 が 必 要 で あ る . 5)
重度の皮膚化学損傷では皮膚の移植が必要となる場合があり、抜爪や指切
断 に 至 っ た 例 も あ る . 26)32)
局 所 曝 露 で も 速 や か に 浸 透 、全 身 症 状 が 出 現 し 死 亡 す る 可 能 性 も あ る .4 7 )
眼
:痛み、流涙、角膜混濁など
頭部および頸部曝露、全身曝露の場合:
噴出したフッ化水素を浴びた等の事故の場合、急激に全身状態が悪化し、
数 十 分 以 内 に 心 肺 停 止 を き た し て 死 亡 す る こ と も あ る . 28)29)30)
[詳細症状]
* 腐 食 作 用 に よ る 局 所 症 状 (化 学 損 傷 )
[経口]
・痛み、組織凝固による水疱形成など、化学損傷症状が出現する.
・ 嘔吐、下痢、腹痛、流涎、嚥下困難、吐血を伴う出血性胃腸炎
喉頭浮腫の結果、気道閉塞を起こしうる.
・ 吸 入 の 事 実 が 明 ら か で な く て も 出 血 性 肺 水 腫 を 起 こ す 可 能 性 が あ る . 5)
・ 症 状 の 多 く は 1 時 間 以 内 に 出 現 す る . 26)
[吸入]
・ 空 気 中 5ppm の フ ッ 化 水 素 で 、 鼻 の 刺 激 を 起 こ す .
5)
・重篤な咽喉頭刺激、咳、呼吸困難、チアノーゼ、肺水腫
22)
喉頭浮腫の結果、気道閉塞
・ヒトの吸入例で、急速に出血をともなう肺水腫が出現、気道出血が進行して
30 分 ~ 150 分 で 死 亡 し た と い う 報 告 が い く つ か あ る .
5)
・K l e i n f e l d の 報 告 ( 1 9 6 5 ) で は 、5 分 間 の 曝 露 で 3 時 間 後 に 出 血 を と も な う 肺 水
腫 が 出 現 し 、 急 激 に 重 篤 化 、 10 時 間 後 に 死 亡 し た 1 例 が あ る .
5)
[経皮]
・ 初 期 症 状 は 軽 度 の 紅 斑 か ら 重 篤 な Ⅲ 度 の 化 学 損 傷 ま で さ ま ざ ま で あ る . 5)
・傷害の重篤度は、濃度、曝露時間、曝露面積、組織への浸透性、治療開始ま
で の 時 間 な ど に 依 存 す る . 27)
・ National Institutes of Health は フ ッ 化 水 素 化 学 損 傷 に つ い て 、 接
触 時 間 は 考 慮 せ ず 、 濃 度 の み で 分 類 し て い る . 5)
20%以 下 の 濃 度 で は 、 痛 み や 紅 斑 は 曝 露 後 24 時 間 出 現 し な い こ と が あ る .
20~ 25%濃 度 で は 、 1~ 8 時 間 で 化 学 損 傷 症 状 が 出 現 す る .
50%以 上 の 濃 度 で は す ぐ に 痛 み を 感 じ 、 組 織 の 破 壊 が 進 行 す る .
・症状の特徴
5)
(1)激 し い 痛 み (数 時 間 遅 れ て 現 れ る こ と が あ り 、治 療 し な い と 数 日 間 継 続 す
る)
(2)凝 固 に よ る 白 色 化 と 水 疱 形 成
(3)進 行 性 の 組 織 の 破 壊 (治 療 し な い と 進 行 す る )
(4)指 に 曝 露 し た 場 合 に は 、 爪 下 組 織 に ま で 及 ぶ
爪下組織には角質層がないので、爪床部分に急速に浸透し、指の骨崩壊
を 生 ず る こ と も あ る . 5)
・ 損 傷 の 深 さ を 、 初 期 の 外 観 や 痛 み の 程 度 か ら 判 断 す る こ と は 難 し い . 26)
・ 治 療 を し な い と 、 皮 膚 化 学 損 傷 は 表 面 方 向 に は 4~ 7 日 、 深 さ 方 向 に は 5~ 7
週 間 に わ た り 進 行 す る 可 能 性 が あ る . 26)
- 9 -
・重度の場合、中心部は青白く周囲は紅斑であるが、やがて白~黄白色の水疱
が 出 現 す る .6 ~ 2 4 時 間 で 壊 死 性 潰 瘍 の の ち か さ ぶ た と な る こ と も あ る .2 6 )
・ Rocky Mountain Poison and Drug Centerで 把 握 し た 、 6-11%程 度 の 薄 い フ ッ
化 水 素 酸 に 経 皮 曝 露 し た 237症 例 に 関 す る 検 討 31)
症 状 あ り 219例 (92% )の 主 な 症 状
皮 膚 の 腫 脹 か 発 赤 も し く は 両 方 (55%)、 水 疱 形 成 (5%)
爪 下 の 黒 色 変 色 (5%)、 疼 痛 の み (27%)
3例 で 指 の 皮 膚 壊 死 が み ら れ た .
曝 露 し て か ら 症 状 が 出 現 す る ま で の 時 間 : 0.5~ 24時 間
・ 医 療 機 関 か ら 日 本 中 毒 情 報 セ ン タ ー に 報 告 の あ っ た 経 皮 曝 露 33 例 32)
症 状 あ り 32 例 の 主 な 症 状
来 院 時 疼 痛 29 例 、 発 赤 16 例 、 皮 膚 の 変 色 12 例 、 び ら ん 10 例 、
灼 熱 感 10 例 、 化 学 損 傷 6 例 、 腫 脹 4 例
経過中:壊死 6 例、潰瘍 3 例、水疱 2 例であった.
3 例で抜爪、2 例で手指の部分切断が行われた.
・ 濃 度 5 0 % 以 上 に よ る 化 学 損 傷 、頭 部 お よ び 頸 部 の 化 学 損 傷 、体 表 面 積 5 0 % 以 上
の化学損傷、閉鎖空間での化学損傷、フッ化水素が付着した衣類の除去が遅
れ た 場 合 は 、 吸 入 に よ る 障 害 が 発 現 す る 可 能 性 も あ る . 26)
[眼]
・ 眼 は フ ッ 化 水 素 に 極 め て 高 い 感 受 性 を 有 し 5ppm で も 刺 激 を 受 け る . 26)
・フッ化水素の傷害の程度は、濃度に依存する.
ウサギによる実験では
濃 度 0.5%
結膜の虚血
10 日 で 回 復 .
8%
重篤な虚血
65 日 後 で も 回 復 せ ず .
20%
す ぐ に 角 膜 混 濁 と 壊 死 を 引 き 起 こ す . 5)
・ 症状としては痛み、流涙、角膜混濁.
合 併 症 と し て 眼 球 穿 孔 、 ブ ド ウ 膜 炎 、 緑 内 障 、 結 膜 の 瘢 痕 形 成 な ど . 5)
*フッ素イオンによる全身症状
経 口 摂 取 で は 、低 濃 度 の 場 合 で も 1 ~ 7 時 間 以 内 に 全 身 症 状 を 引 き 起 こ し 、死 亡 す
る 場 合 が あ る . 10)26)
経 皮 、吸 入 な ど 経 口 以 外 の 曝 露 で も 全 身 症 状 が 出 現 し 、死 亡 す る こ と も あ る .2 2 )
経 皮 曝 露 の 場 合 、 体 表 の 1%以 上 の 曝 露 で 全 身 症 状 を き た す 可 能 性 が あ る . 27)
・低カルシウム血症
カルシウムイオンとフッ素イオンとの結合で引き起こされる.
・ 頭 痛 、 脱 力 、 感 覚 異 常 、 反 射 亢 進 、 筋 の 被 刺 激 性 の 増 加 、 痙 縮 (spasm)、
テタニー、まれに痙攣
・ 低 カ ル シ ウ ム 血 症 の 出現の可能性は次のような場合に最も高い
22)
・経口の場合
・ 濃 度 50%以 上 を 体 表 1%以 上 に 経 皮 曝 露 し た 場 合
22)
・ 濃 度 に 関 係 な く 体 表 の 5%以 上 に 経 皮 曝 露 し た 場 合
22)
・ 濃 度 60%以 上 の 液 を 吸 入 し た 場 合 (理 論 上 ) 22)
・ 低マグネシウム血症
7 0 % H F 液 を 浴 び た 6 0 才 男 性 で 、低 マ グ ネ シ ウ ム 血 症 ( 0 . 6 m g / d L ) を 呈 し た .2 2 )
・ 高カリウム血症
フッ素イオンが赤血球からのカリウム放出を促進させることによって起こる.
- 10 -
5)6)7)
in vivo お よ び in vitro の 実 験 結 果 で 示 唆 さ れ て い る .
低カリウム血症をきたしたという症例報告もある.
22)
11)16)
・代謝性アシドーシス
・ 心 筋 障 害 、 不整脈、心室細動
電 解 質 異 常 、ア シ ド ー シ ス 、低 酸 素 症 な ど に よ っ て 二 次 的 に 起 こ る 可 能 性 が
あ る . 5)26)
・低カルシウム血症と高カリウム血症による心筋被刺激性の亢進のためと
考 え ら れ る . 5)6)7)
・低 マ グ ネ シ ウ ム 血 症 に よ り 膜 が 興 奮 し や す く な り 不 整 脈 が 増 悪 す る .2 6 )
フ ッ 素 イ オ ン の 心 筋 へ の 直 接 の 毒 性 が 示 唆 さ れ る . 5)26)
・電解質異常、アシドーシス、低酸素症などがない患者で心室細動をきた
し た 例 が あ る . 27)
・ 全 身 の 7-10%曝 露 で カ テ コ ー ル ア ミ ン 性 心 筋 炎 に 類 似 し た 心 筋 層 変 性 の
報告がある.
5)
・ ウ サ ギ の 吸 入 実 験 で 20%に 心 筋 の 壊 死 、 充 血 、 浮 腫 が 認 め ら れ た . 5)
・骨の脱灰
・ 昏迷、昏睡などの意識障害、および合併症として呼吸不全
中枢神経系への直接毒性による
10)
・悪心、嘔吐、下痢、消化管出血、腹痛などの消化器症状、筋力低下、疲労、中
枢神経抑制、痙攣など
アセチルコリンエステラーゼ阻害の結果、アセチルコリンが過剰となったた
め に 発 生 し た 可 能 性 も あ る . 26)
・ Rocky Mountain Poison and Drug Centerで 把 握 し た 、 6-11%程 度 の 薄 い フ ッ 化
水 素 酸 に 曝 露 し た 237症 例 に 関 す る 検 討 で は 、 全 身 症 状 を き た し た 症 例 は な
か っ た . 31).
・ 医 療 機 関 か ら 日 本 中 毒 情 報 セ ン タ ー に 報 告 さ れ た 経 皮 曝 露 33 例 中 2 例 で 血 中
カ ル シ ウ ム 濃 度 の 低 下 が 認 め ら れ た が 、全 身 症 状 が 出 現 し た 例 は な か っ た . 3 2 )
* 頭部および頸部曝 露 、 全 身 曝 露 の 場 合
噴出したフッ化水素を顔面に浴びた等の事故の場合には、急激に全身状態が悪化
し、数十分以内に心肺停止をきたして死亡することもある.
・血管が密に分布する顔面では急速に吸収されるので、ごくわずかな面積の曝
露 で あ っ て も 全 身 性 の 影 響 が 出 る こ と が あ る . 100%フ ッ 化 水 素 の 体 表 面 積 の
2.5%の 顔 面 曝 露 で の 死 亡 が 報 告 さ れ て い る . 26)
・経皮のほか口腔内、呼吸器、眼への曝露も起こる可能性がある.
・ 顔 面 あ る い は 頸 部 付 近 の 曝 露 に よ り 、3 0 分 程 度 で 心 肺 停 止 と な り 蘇 生 に 反 応
せず死亡した 2 症例の剖検結果では、いずれも曝露部位の化学損傷以外に諸
臓 器 、特 に 肺 の う っ 血 が 認 め ら れ 、血 中 の フ ッ 素 イ オ ン 濃 度 が 上 昇 し て い た .
吸入による肺水腫、フッ素イオンとカルシウムの結合による低カルシウム血
症 、生 成 し た フ ッ 化 カ ル シ ウ ム 沈 殿 に よ る D I C な ど が 直 接 死 因 と 推 定 さ れ る .
28)29)
・ 全 身 の 3 0 % 以 上 の 曝 露 に よ り 2 5 分 程 度 で 死 亡 し た 症 例 で は 、血 中 の フ ッ 素 イ
オン濃度が上昇していたが、肺のうっ血は部分的であった.気道内にフッ化
水素を吸引したことによる呼吸不全よりも、フッ素イオンの循環器系への直
接 的 な 作 用 に よ り 死 亡 し た も の と 推 定 さ れ る . 30)
- 11 -
[その他]
・直腸投与
・6 ~ 8 % H F 液 の 直 腸 投 与 に よ り 、S 状 結 腸 穿 孔 を 伴 う 重 篤 な 直 腸 S 状 結 腸 の 化 学
損 傷 の 報 告 が あ る .患 者 は 3 6 時 間 治 療 が 遅 れ た た め 、外 科 的 直 腸 閉 鎖 と 人 工
肛 門 形 成 術 を 受 け た 例 が あ る . (Foster 1989)
3)
・ 8%HF+6%リ ン 酸 の 直 腸 投 与 に よ り 死 亡 し た 症 例 が あ る . (Beveridge 2000)22)
・皮下注
7%HF 含 有 サ ビ ト リ 剤 5mL 皮 下 注 に よ り 全 身 症 状 (洞 頻 脈 、 重 篤 な 低 カ ル シ
ウ ム 血 症 、 軽 度 の 低 ナ ト リ ウ ム 血 症 、 低 カ リ ウ ム 血 症 、 低 ク ロ ル 血 症 )を 来
した例がある.
16)
[予後]
・経口
(1)致 死 的 な 摂 取 で は 循 環 不 全 や 呼 吸 不 全 に よ り 2~ 4 時 間 で 死 亡 す る .
6)
( 2 ) 摂 取 後 、2 4 時 間 生 存 す れ ば 予 後 は 良 好 .但 し 回 復 ま で に は 長 期 間 必 要 .
6)
・吸入
吸入後、4 日間生存すれば予後は良好.但し回復までには長期間必要.
6)
・経皮
重 度 の 皮 膚 化 学 損 傷 で は 皮 膚 の 移 植 が 必 要 と な る 場 合 が あ る . 26)
抜 爪 や 指 切 断 に 至 っ た 例 が あ る . 32)
・ 眼 の 受 傷 で 失 明 す る こ と も あ る . 26)
[慢性曝露]
・ フ ッ 化 水 素 の 気 体 や 微 粒 子 の 長 期 曝 露 に よ り 、フ ッ 素 沈 着 症 と そ の 結 果 骨 格 異
常をきたすことが報告されている.
・予後:回復までには 1 年以上要する.
12.治療法
[概要]
・ 解 毒 剤 ・ 拮 抗 剤 : 有 (カ ル シ ウ ム 製 剤 )
・禁忌事項:経口の場合は催吐禁忌、塩化カルシウムの局所投与は禁忌
・ 皮 膚 の 化 学 損 傷 面 積 が 50cm(2)以 上 の 患 者 は 入 院 が 必 要 で あ る .
100cm(2)を 超 え る 場 合 や 経 口 摂 取 、 吸 入 、 全 身 症 状 の 徴 候 が あ る 場 合 は 、 ICU
に 入 院 さ せ る . 26)
静 脈 路 を 確 保 し 、不 整 脈 の 出 現 に そ な え て 直 ち に 1 2 誘 導 心 電 図 を と り 、少 な く
と も 24~ 48 時 間 は 厳 重 に 観 察 す る 必 要 が あ る . 5)
・血中のカルシウム濃度、特にカルシウムイオン濃度の測定を定期的に行う.
(1)基 本 的 処 置
経 口 の 場 合 : 希 釈 ( 牛 乳 、な け れ ば 水 ) 、胃 洗 浄 ( 摂 取 後 9 0 分 以 内 ) と 粘 膜 保 護 を
行う.
活 性 炭 投 与 は フ ッ 化 水 素 を 吸 着 し な い た め 適 応 で な い . 6)22)
吸 入 の 場 合 : す ぐ に 新 鮮 な 空 気 下 に 移 し 、 衣 服 と 皮 膚 の 除 染 を 行 う . 5)
速 や か に 100%加 湿 酸 素 投 与 を 行 う . 26)
経 皮 の 場 合:た だ ち に 大 量 の シ ャ ワ ー で 少 な く と も 1 5 ~ 3 0 分 か け て 十 分 洗 う .
眼に入った場合:生理食塩水か等張塩化マグネシウム液か水ですぐに洗浄する
(2)生 命 維 持 療 法 お よ び 対 症 療 法
- 12 -
心電図、電解質モニター
血中のカルシウム濃度、特にカルシウムイオン濃度の測定を定期的に行う.
呼吸・循環管理、不整脈対策、電解質異常・アシドーシスの補正
(3)特 異 的 治 療 法
[解毒剤・拮抗剤]
A.カ ル シ ウ ム 製 剤 の 投 与
カルシウムは速やかにフッ素イオンと沈殿を形成するので、フッ化物の皮膚曝
露の際には体循環への吸収を阻止するために有効である.また、吸収されたフ
ッ化物による全身性の低カルシウム血症にも有効である
20)
グルコン酸カルシウムが多用されているが、局所以外であれば、塩化カルシウ
ム が 使 わ れ る こ と も あ る . (塩 化 カ ル シ ウ ム は 刺 激 が 強 く 局 所 投 与 禁 忌 . )
経口、経皮、吸入で全身症状が予想される場合:静注
吸 入 : 2.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム の 吸 入 (有 効 で あ る と い う デ ー タ は な い )
経皮:グルコン酸カルシウムゼリーの塗布、グルコン酸カルシウムの注入
a)軽 度 の 場 合
グルコン酸カルシウムゼリーの塗布
b)重 症 の 場 合
グルコン酸カルシウム液の注入
広く行われているのは皮下注入のみで、静脈注入、動脈注入については方
法・有効性とも検討の段階であり、治療法として確立されていない.
眼 : 2.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム の 点 眼 (効 果 は 立 証 さ れ て い な い )
B . マ グ ネ シ ウ ム 塩 、第 四 級 ア ン モ ニ ウ ム 塩 、フ ッ 化 水 素 専 用 洗 浄 液 H e x a f l u o r i n e ( R )
いずれも賛否両論があり、一般的な治療法ではない.
[排泄促進]
強 制 利 尿 : フ ッ 化 物 は 主 に 腎 排 泄 で あ る た め 充 分 な 利 尿 を 確 保 す る . 26)
血 液 透 析 : フ ッ 素 と カ リ ウ ム を 除 去 す る た め 必 要 と な る 場 合 も あ る . 5)
[その他]
外科的処置:壊死組織切除、抜爪、皮膚移植など
[治療法詳細]
*経口の場合
(1)基 本 的 処 置
A.希 釈 : 牛 乳 に よ る 希 釈 . な け れ ば 水 (コ ッ プ 1~ 2 杯 )で も よ い .
・牛乳中のカルシウムイオンがフッ素イオンと結合し、フッ素イオンの浸
透性を減少させるので有効.
5 ) 22)
・内視鏡検査を予定している場合は、牛乳が粘膜表面を見えにくくし、検
査を難しくするので、避けた方がよいかもしれない.牛乳を飲んだ場合
は 、 内 視 鏡 検 査 の 前 に 水 か 生 理 食 塩 水 で 洗 い 流 す べ き で あ る . 26)
B.催 吐 : 禁 忌
C.洗 浄 : 摂 取 後 90 分 以 内 な ら ば 柔 ら か い 経 鼻 チ ュ ー ブ に よ り 胃 内 容 物 の 吸 引 .
引き続いて胃洗浄.
22)
・フッ素イオンによる全身症状を起こす可能性があるので、フッ化水素大
量摂取の場合は胃吸引を行うことが望ましい.嘔吐がなく、摂取してか
ら の 時 間 が 90 分 以 内 で あ れ ば 、 胃 洗 浄 も 考 慮 す べ き で あ る . 5)
・日本中毒学会の推奨する標準治療では、胃洗浄は強酸や強アルカリなど
の腐食性毒物に関しては基本的に禁忌であるが、その解説によると最終
的 に は リ ス ク (嘔 吐 を 誘 発 す る 、 穿 孔 や 誤 嚥 の 危 険 が あ る )と ベ ネ フ ィ ッ
ト (接 触 時 間 を 短 縮 で き る 、 吸 収 を 防 ぎ 全 身 症 状 を 軽 減 で き る )を 勘 案 し
- 13 -
た 医 師 の 裁 量 に 任 さ れ よ う と あ る . 46)
フッ化水素の場合は、胃洗浄による穿孔の危険性よりも、フッ素イオン
が吸収されることによって引き起こされる全身的影響の危険性のほうが
致 命 的 で あ る . 5)22)
・ カ ル シ ウ ム が フ ッ 素 と 結 合 す る 可 能 性 が あ る の で 、 洗 浄 液 に 10%の 割 合
でグルコン酸カルシウムを加えてもよい.
D.粘 膜 保 護 : 頻 回 の 牛 乳 や 酸 化 マ グ ネ シ ウ ム の 投 与
5)22)
22)
・塩 化 カ ル シ ウ ム 液 5 m L を 1 L の 牛 乳 ま た は 水 で 希 釈 し 、成 人 に 2 0 0 m L 投 与 .
・制 酸 剤 ( 水 酸 化 ア ル ミ ニ ウ ム ゲ ル = マ ー ロ ッ ク ス R ) も フ ッ 素 イ オ ン と 結 合
するので有効
6)
E.吸 着 剤 : 解 離 し た フ ッ 素 イ オ ン が 小 さ く 活 性 炭 に 吸 着 し な い た め 、 活 性 炭 の 投
与は有効ではないと考えられる.
他の中毒物質を併用したときのみ考慮する.
6)
(2)生 命 維 持 療 法 お よ び 対 症 療 法
呼 吸 器 と 消 化 器 穿 孔 、 出 血 、 循 環 器 ・ 電 解 質 等 の モ ニ タ ー が 必 要 で あ る . 5)
A.呼 吸 ・ 循 環 管 理
・静脈ラインを確保し、心電図で不整脈の出現を監視する.
26)
・ カ ル シ ウ ム 、 カ リ ウ ム 、 マ グ ネ シ ウ ム 、 フ ッ 素 イ オ ン 濃 度 モ ニ タ ー 22)
・症状がある場合は胸部 X 線
22)
・吸入の事実が明らかでなくても出血性肺水腫を念頭において診療する.
5)
B.不 整 脈 対 策
・電解質異常、アシドーシス、低酸素状態により 2 次的に不整脈を起こす可能
性があり、根本的な原因の特定と補正を行うべきである.
5)
・キニジンが不整脈と高カリウム血症の治療に効果的であるという動物実験
があるがヒトでは報告がない.
C.電 解 質 異 常 対 策
・ 高カリウム血症
一 般 的 な 補 正 (炭 酸 水 素 塩 、 カ ル シ ウ ム 、 グ ル コ ー ス 、イ ン ス リ ン 等 )
6)
ただし、これらの方法で補正するのは難しく、血液透析や陽イオン交換樹
脂 に よ っ て 除 去 す る し か な い . 26)
・ 低カルシウム血症
グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム も し く は 塩 化 カ ル シ ウ ム 投 与 (特 異 的 治 療 法 参 照 )
・低マグネシウム血症
成 人 に 10%硫 酸 マ グ ネ シ ウ ム 1~ 2g を 15 分 か け て 静 注 あ る い は 筋 注
小 児 に は 25~ 50mg/kg/1 回 を 4~ 6 時 間 毎 に 3~ 4 回 投 与
乳 児 に は 20mg/kg
を ゆ っ く り と 静 注 .マ グ ネ シ ウ ム 濃 度 が 正 常 に な る ま
で 12 時 間 毎 に 100mg 筋 注 投 与 す る .
D.ア シ ド ー シ ス 対 策
炭 酸 水 素 ナ ト リ ウ ム で 補 正 す る . 5)26)
ただし、炭酸カルシウムが沈殿するので、カルシウム注入中には、アシド
ー シ ス を 補 正 す る た め の 炭 酸 水 素 塩 の 投 与 は 行 う べ き で は な い . 26)
(3)特 異 的 治 療 法
[解毒剤・拮抗剤]
A.グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム ま た は 塩 化 カ ル シ ウ ム の 静 注
低 カ ル シ ウ ム 血 症 が 出 現 あ る い は 示 唆 さ れ る 場 合 は 、 補 正 目 的 で 行 う . 22)
・ 吸 収 さ れ た フ ッ 化 物 に よ る 低 カ ル シ ウ ム 血 症 に 有 効 で あ る . 20)
- 14 -
・ 高 カ リ ウ ム 血 症 に よ る 循 環 器 へ の 影 響 を 軽 減 す る 可 能 性 が あ る . 26)
・ 経 験 的 に 行 わ れ て い る が 、 有 効 性 は 確 立 さ れ て い な い . 26)
70%HF の 体 表 8%曝 露 例 で 重 篤 な 低 カ ル シ ウ ム 血 症 (3.5mg/dL、 4.1mg/dL)
を起こしたが、化学損傷により生じた痂皮と血管内へのカルシウム注射
により生存した例 3 例も報告されている.
22)
・ 適 応 基 準 : 経 口 摂 取 時 や 低 カ ル シ ウ ム 血 症 が 発 症 し た 場 合 (テ タ ニ ー な ど )
経口、経皮、吸入にかかわらず重篤な曝露を受け、低カルシウム血
症が予想される場合
5)20)
・使用薬剤・投与量:
グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム の 場 合 10%溶 液 と し て 0.1-0.2mL/kg(10-20mg/kg)
9)
・ Trevino ら は 10%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 液 20mL を 1L の 晶 質 液 に 加 え 予 防
的に投与することを推奨している.
5)
・ 日 本 で の 製 剤 は 8.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 注 (カ ル チ コ ー ル )で あ る の で 、
0.12-0.24mL/kg と な る .
塩化カルシウムの場合
24)
CaCl2 と し て 2-4mg/kg(小 児 に は 10-30mg/kg)
22)
・ 日 本 で の 製 剤 の 場 合 、 2%塩 化 カ ル シ ウ ム 注 射 液 で は 0.1-0.2mL/kg(小 児 に
は 0 . 5 - 1 . 5 m L / k g ) 、0 . 5 モ ル 補 正 用 液 で は 0 . 0 3 6 - 0 . 0 7 2 m L / k g ( 小 児 に は 0 . 1 8
-0.54mL/kg)と な る
24)
・ 用 法 : 心 電 図 を モ ニ タ ー し 、 10mL あ た り 10-15 分 か け て ゆ っ く り 静 注 す る .
症 状 が 再 発 す れ ば 、 20 分 か ら 30 分 ご と に 繰 り 返 し 投 与 す る .
・使用上の注意
・ 血 中 の カ ル シ ウ ム 濃 度 の 測 定 を 定 期 的 に 行 う . 5)
・炭酸カルシウムが沈殿するので、カルシウム注入中には、アシドーシスを
補 正 す る た め の 炭 酸 水 素 塩 の 投 与 は 行 う べ き で は な い . 26)
[排泄促進]
A.強 制 利 尿
フ ッ 化 物 は 主 に 腎 排 泄 で あ る た め 、 充 分 な 利 尿 を 確 保 す る . 26)
・軽度のアルカローシスがラットにおいてフッ化物の腎クリアランスを増加さ
せ た と い う 報 告 が あ る 49)が 、 ヒ ト の 有 効 性 は 不 明 で あ る . 5)6)26)
特にカルシウム注入中は、炭酸水素塩の投与を行うと炭酸カルシウムが沈殿
す る の で 、 行 う べ き で は な い . 26)
B.血 液 浄 化 法
血液透析
・血清中の過剰なフッ素とカリウムを除去するため、透析が必要となる場合も
あ る . 5)
フ ッ 素 は 低 分 子 イ オ ン で あ り 蛋 白 結 合 も な く 容 易 に 透 析 膜 を 通 過 す る .2 7 )
薬物療法に反応しない高カリウム血症の改善には唯一有効な方法である.
・フッ化水素の経皮曝露で電解質が正常であるにもかかわらず心室性不整脈を
起 こ し た が 、 血 液 透 析 に よ り 救 命 し た と の 報 告 が あ る . 27)
・フッ化ナトリウムの経口摂取の際に透析を行い、良好な成績を上げたという
2 報 告 が あ る . 27)
*吸入の場合
吸 入 に よ っ て 傷 害 を 受 け た 可 能 性 の あ る 患 者 は 、 24-48 時 間 は ICU に 入 院 さ せ る
べ き で あ る . 26)
(1)基 本 的 治 療
- 15 -
・ す ぐ に 新 鮮 な 空 気 下 に 移 し 、 衣 服 と 皮 膚 の 除 染 を 行 う . 5)
・咽頭浮腫、肺炎、肺水腫、肺出血、全身症状をモニターする.
10)
・ 全 身 毒 性 の リ ス ク が 高 い の で 、で き る だ け 速 や か に 1 0 0 % 加 湿 酸 素 の 投 与 を 行
い 、 た だ ち に 適 切 な 処 置 を 始 め る べ き で あ る . 26)
・ デ ュ ポ ン 社 の MSDS で は
100%酸 素 の 投 与 、 24~ 48 時 間 は ICU で 厳 重 管 理 す べ き で あ る .
8)
(2)生 命 維 持 療 法 お よ び 対 症 療 法
・定期的な動脈ガス分析と胸部 X 線により厳重観察し、状況に応じて呼吸管理
を行う.
・ 肺 水 腫 は 24 時 間 以 上 遅 れ て 発 症 す る こ と も あ る の で 注 意 す る .
・ ス テ ロ イ ド と 抗 生 剤 は 安 易 に 使 う べ き で は な い . 26)
・必要に応じて、経口の場合に準じて治療する.
(3)特 異 的 治 療 法
[解毒剤・拮抗剤]
・全身症状に対しては、経口に準じ、グルコン酸カルシウムの静注を行う.
・ 2.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム の 吸 入
・ Trevino ら は 2.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム の 噴 霧 を 推 奨 し て い る が 、 実 証 す る
データはなく、効果は立証されていないなどの報告もある.
5)20)22)
・有効であるというデータはないが、有害作用なく患者が耐えられるので、試
み る 価 値 は あ る .1 0 % グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 1 . 5 m L を 滅 菌 蒸 留 水 か 生 理 食 塩 水
4.5mL に 加 え 、 100%酸 素 と 一 緒 に ネ ブ ラ イ ザ ー で 吸 入 さ せ る . 26)
・ デ ュ ポ ン 社 の MSDS で は
速 や か に 、 座 位 で 2.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 液 +30mL 生 理 食 塩 水 を ネ ブ ラ イ
ザ ー を 使 用 し 、 20 分 吸 入 さ せ る .
8)
*経皮の場合
・ フ ッ 化 水 素 に よ る 化 学 損 傷 の 治 療 は 、1.た だ ち に 除 染 す る 、2. カ ル シ ウ ム 投 与
な ど に よ り フ ッ 素 イ オ ン の 毒 性 を 抑 え る 、 の 二 段 階 か ら な る . 5)
・ 皮 膚 の 化 学 損 傷 面 積 が 50cm(2)以 上 の 患 者 は 入 院 が 必 要 で あ る . ま た 100cm(2)
を 超 え る 場 合 や 全 身 症 状 の 徴 候 が あ る 場 合 は I C U に 入 院 さ せ 、2 4 ~ 4 8 時 間 は 観
察 す べ き で あ る . 26)
・ 希 釈 液 へ の 短 時 間 曝 露 で 受 傷 面 積 が 50cm(2)以 下 の 場 合 は 、 直 後 の 処 置 の の ち
慎重なフォローアップが必要である.直後に診察を受けたうえ、無症状の場合
は 痛 み が 生 じ た 時 点 で 、生 じ な く て も 2 4 時 間 後 に は 再 受 診 す べ き で あ る . 2 6 )
(1)基 本 的 処 置
A.洗 浄 : た だ ち に 大 量 の シ ャ ワ ー で 洗 浄 し な が ら 、 汚 染 し た 衣 類 を 除 く .
・ 眼 を 保 護 す る ゴ ー グ ル は 最 後 に は ず す こ と . 22)
・ 少 な く と も 15~ 30 分 、 十 分 に 洗 う 5 ) 10)
ただし洗浄時間にこだわり他の治療の妨げにならないようにする
8)
・ フ ッ 化 水 素 曝 露 専 用 洗 浄 液 Hexafluorine(R)の 使 用 を 勧 め る 報 告 が あ る .
→ (3)特 異 的 治 療
[解 毒 剤 ・ 拮 抗 剤 ]
D. Hexafluorine(R)参 照
B.病 院 搬 入 前 処 置
・ 2.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム ゼ リ ー が 現 場 に 常 備 さ れ て い る 場 合 は 、 水 洗 後
ゼリーを汚染部位にぬり、ゼリーを浸透させない手袋をつけマッサージを
つづけながら病院に搬送する
8)
・ 冷 却 し た ア ル コ ー ル や 4 級 ア ン モ ニ ウ ム 化 合 物 (塩 化 ベ ン ザ ル コ ニ ウ ム や
- 16 -
塩 化 ベ ン ゼ ト ニ ウ ム )ア ル コ ー ル 溶 液 に 浸 し た 布 で 覆 う
6)
(2)生 命 維 持 療 法 お よ び 対 症 療 法
・ 軽 度 の 場 合 、 1~ 4 時 間 の 観 察 6)
無 症 状 で も 24 時 間 後 に は 再 受 診 す べ き で あ る . 26)
・重症の場合、心電図、血中カルシウム濃度を含む電解質のモニター.
体 表 65cm(2)以 上 の 化 学 損 傷 の 場 合 に は 、 心 電 図 、 血 中 カ ル シ ウ ム 濃 度 を
含 む 電 解 質 の モ ニ タ ー を す る . 47)
・必要に応じて、経口の場合に準じて治療する.
(3)特 異 的 治 療
[解毒剤・拮抗剤]
A.カ ル シ ウ ム 投 与
カルシウムイオンは速やかにフッ素イオンと沈殿を形成するので、フッ化物の
皮 膚 曝 露 の 際 に は 体 循 環 へ の 吸 収 を 阻 止 す る た め に 有 効 で あ る . 20)
皮膚はカルシウムを透過させないため、外用剤塗布、皮下注入、静脈注入、動
脈 注 入 な ど 、 種 々 の 方 法 が 試 み ら れ て い る . 26)
全身症状に対しては、経口に準じ、グルコン酸カルシウムもしくは塩化カルシ
ウムの静注を行う.
a)軽 度 の 場 合
グルコン酸カルシウムゼリーの塗布
も っ と も 頻 繁 に 行 わ れ て お り 、 選 択 す べ き 治 療 法 で あ る . 5)
濃 度 6 ~ 1 1 % の 薄 い フ ッ 化 水 素 に 曝 露 し た 程 度 で あ れ ば 、洗 浄 と グ ル コ ン 酸 カ
ルシウムゼリーの塗布が痛みに対し最も有効である.
3)
皮下への浸透を防ぐという目的から考えると、曝露した可能性があればフッ
化 水 素 の 濃 度 に か か わ ら ず 、ま た 症 状 が な く て も 使 用 を 開 始 す べ き で あ ろ う .
・適応基準
皮 膚 の 軽 度 の 化 学 損 傷 の 場 合 . 26)
・ 濃 度 70%の フ ッ 化 水 素 曝 露 な ど 重 篤 化 が 予 想 さ れ る 場 合 も 、 初 期 治 療 と
し て 行 わ れ て い る . 27)
・ 痛 み が 45 分 以 上 持 続 す る よ う で あ れ ば さ ら に 積 極 的 な 治 療 が 必 要 で あ
る . 26)
・使用薬剤
グルコン酸カルシウムゼリー製剤
・ イ ギ リ ス ・ エ セ ッ ク ス 社 や カ ナ ダ で は H-F Antidote Gel(R)と し て 市
販されている.
・日本では未承認薬であるため、院内製剤とする.
18)
・ 水 溶 性 軟 膏 基 剤 30g(お よ そ 30mL)に グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 1g の 割 合 で
混合したゲルを用意する.
20)
・ 代 表 的 な 調 整 法 (poisindex)
22)
a)緊 急 製 剤 と し て 、
グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム (USP)
3.5g
水 溶 性 潤 滑 ゼ リ ー (例 : K-Y Jelly(R))
5 オ ン ス (141.75g 150mL)
を混合する.
b)グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 粉 末 が な い 場 合 に は 炭 酸 カ ル シ ウ ム 錠 を
粉砕し利用する.
日本では沈降炭酸カルシウム粉末が医薬品集に収載されている
炭酸カルシウム
6.5g 相 当 (650mg 錠 の 場 合 10 錠 )
K-Y Jelly
20mL
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22)
c)そ の 他 の 可 溶 性 の カ ル シ ウ ム 塩 (乳 酸 カ ル シ ウ ム な ど )も 理 論 的 に は 代
用可能である.ただしグルコン酸カルシウムの代用として塩化カルシ
ウムを局所には使用しない.
( 塩 化 カ ル シ ウ ム 自 体 が 刺 激 作 用 を 有 し 、傷 害 を 重 篤 化 す る た め )
22)
・方法
ゼ リ ー を 浸 透 さ せ な い 手 袋 を つ け 、 洗 浄 の 後 、 2.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム
ゼ リ ー で 痛 み が お さ ま る ま で 約 15 分 程 度 マ ッ サ ー ジ す る .
・できるだけ早期にゼリーを投与すれば症状の回復も早い.
・壊死による凝固性の塊がある場合には取り除いてから塗布する.
・ 少 な く と も 4 時 間 ご と に 観 察 し 、 塗 布 し な お す . 26)
・ 推 奨 さ れ て い る 塗 布 方 法 は さ ま ざ ま で 、45 分 か ら 数 時 間 、痛 み が な く
な る ま で と 幅 が あ る . 26)
・痛みをモニターにして各所の処置を行う.
22)
痛みがなくなるかどうかが良い指標となり、痛みが戻ればゲルを再塗
布 す る . 26)
・ デ ュ ポ ン 社 の MSDS で は
3 0 分 以 上 行 っ て は な ら ず 、3 0 分 以 上 痛 み が 続 く よ う で あ れ ば 、グ ル コ
ン酸カルシウム局所注入を行うこととある
8)
・利点と問題点
・ 非 侵 襲 的 で 痛 み が な い . 家 庭 で も 可 能 で あ る . 5)
・ 効 果 は 限 ら れ て お り 、 抜 爪 が 必 要 と な る こ と が あ る . 5)
・ ジ メ チ ル ス ル ホ キ サ イ ド (DMSO)の 使 用
副 作 用 の 報 告 も 多 数 あ り 、 勧 め ら れ な い . 26)
ラ ッ ト の 実 験 で は 、ゼ リ ー と 同 量 の D M S O と 1 0 % グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 混 合
製 剤 は カ ル シ ウ ム イ オ ン の 経 皮 吸 収 を 促 進 さ せ る と い う 報 告 が あ る . 22)
・ グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム ゼ リ ー を 準 備 す る ま で の 間 、 発 泡 性 の カ ル シ ウ ム 20g
を 水 2L に 溶 解 し た も の に 浸 漬 し た 包 帯 で 、 局 所 を 覆 っ た 例 が あ る . 27)
b)重 症 の 場 合
グルコン酸カルシウム液の注入
皮下注入、静脈注入、動脈注入等があるが、広く行われているのは皮下注入の
みである.静脈注入、動脈注入については、方法・有効性とも検討の段階であ
り 、 治 療 法 と し て 確 立 さ れ て い る わ け で は な い . 5)
1)皮 下 注 入 (infiltration)
5)8)20)22)
グルコン酸カルシウムゼリー塗布後も痛みの軽減がない重篤な化学損傷の
場合には、グルコン酸カルシウム液を直接曝露皮膚に注入し、組織にカル
シ ウ ム イ オ ン を 供 給 す る . 5)
・適応基準
・ 濃 度 20%以 上 の 場 合 も し く は 局 所 塗 布 が 効 か な い 化 学 損 傷 の 場 合
26)
* 濃 度 20%以 下 の 場 合 は よ ほ ど 深 い 化 学 損 傷 や 強 い 痛 み で な け れ ば 注 入
療法が必要となることはまれである.
・Ⅱ度以上の化学損傷の場合
26)
8)
・組織の傷害がすぐに生じた場合や紅斑や痛みが続く場合
22)
・使用薬剤
10%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム を 生 理 食 塩 水 で 5%に 希 釈 す る . 26)
・希釈することにより、刺激を抑え瘢痕化を低減できる.動物実験によ
る と 、 10%で は 組 織 の 損 傷 が 起 こ り 、 治 癒 に 支 障 が 出 る . 5)26)
・グルコン酸カルシウムの代用として塩化カルシウムを局所には使用し
- 18 -
な い (塩 化 カ ル シ ウ ム 自 体 が 刺 激 作 用 を 有 し 、 傷 害 を 重 篤 化 す る た
め )5)22)
・方法
27 か 30 ゲ ー ジ の 注 射 針 で 0.5mL/cm(2)を 化 学 損 傷 部 分 の 周 囲 0.5cm 程 度
ま で 注 入 す る . 5)20)26)
・手技は局所麻酔と同様、皮下に注入する.
8)
た だ し 手 、 足 、 顔 へ の 注 射 は 特 に 慎 重 に 行 う べ き で あ る . 26)
指先やつま先への注入は熟練医が行うこと.
22)
・痛 み が 取 れ な い 場 合 は 1 ~ 2 時 間 の 間 隔 を あ け て 2 ~ 3 回 繰 り 返 す . 2 0 )
・使用上の注意
痛みが治療効果判定の指標になるため局所麻酔剤の使用はしない.
・問題点
8)
5)26)
(1)注 入 時 の 痛 み が 強 い .
(2)量 に よ っ て は 循 環 障 害 や 組 織 の 壊 死 が 起 き る 可 能 性 が あ る .
(3)局 所 的 な 浸 透 圧 や カ ル シ ウ ム の 上 昇 で 組 織 損 傷 が 増 悪 す る こ と が あ る .
(4)組 織 に 到 達 す る カ ル シ ウ ム 量 に は 限 界 が あ る .
( 5 ) 爪 下 組 織 の 傷 害 が あ る 場 合 に は 、こ の 治 療 で は 不 充 分 で 抜 爪 が 必 要 と な
ることもある.
2)静 脈 注 入 (intravenous i n f u s i o n , perfusion)
10)18)19)22)23)
四 肢 の フ ッ 化 水 素 化 学 損 傷 に 対 し 疼 痛 を 軽 減 す る た め に 、B i e r b l o c k 法 ( 経
静 脈 内 局 所 麻 酔 法 )に よ る グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 局 部 静 脈 注 入 を 行 う こ と
がある.
・適応基準
濃 度 20%以 上 の 場 合 も し く は 局 所 塗 布 で 効 果 が な い 四 肢 の 化 学 損 傷 の 場
合 26)
・使用薬剤
10%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 10mL を 0.9%食 塩 水 も し く は 5%ブ ド ウ 糖 液 3040mL で 希 釈 す る . 26)
・方法
19)26)
①受傷した手の甲に静脈内カニューレを留置する
②手を挙げた状態を 5 分間維持し、血管を虚脱させる
③肘より上をダブルカフの止血帯で止血する
④ グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 希 釈 液 を 注 入 す る (最 大 量 15mL)
⑤ 虚 血 状 態 を 25 分 間 維 持 し た 後 、 カ フ を 3-5 分 か け て 徐 々 に 緩 め る
・ 最 適 な カ ル シ ウ ム の 量 と 止 血 位 置 に つ い て は 、 確 立 さ れ て い な い . 26)
・適応例 7 例
19)
2.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム ゲ ル の 塗 布 で 30 分 以 内 に 痛 み に 対 し 効 果 が
な い 場 合 、 Bier block 法 に 準 じ て グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 投 与 .
(全 て 心 電 図 モ ニ タ ー )
曝 露 濃 度 5-49%の 7 例 の 適 応 結 果 、
完全に成功:4 例
20 分 以 内 に 痛 み 和 ら ぐ
効果なし
止血帯を緩めた際、痛みの改善なし
:2 例
いったん効果あり:1 例
止血帯を緩めた際には痛みなし
5 時間後に再び痛み、動脈注入療法適応
副作用:温感、熱感、カルシウム注射・止血帯の不快感など
1 例で止血帯解放後 1 時間程度、一過性の前腕部繊維束性攣縮
- 19 -
効果・弊害について、動脈注入法との比較検討が必要
・適応したが、痛みの軽減ができず、抜爪に至った例もある
23)
・利点と問題点
動脈注入に比べ侵襲性が低く、合併症を起こしにくい.また、他の治療法
より傷害部位にカルシウムが高濃度で供給される可能性がある.一方で、
全 身 循 環 に 入 っ た カ ル シ ウ ム に よ る 毒 性 が 問 題 に な る 可 能 性 も あ る . 26)
3)動 脈 注 入 (arterial i n f u s i o n , perfusion)
5)10)20)22)23)
四肢のフッ化水素曝露時に、グルコン酸カルシウムや塩化カルシウムの
10%~ 20%溶 液 溶 液 を 動 脈 注 入 す る こ と を 推 奨 す る 文 献 が あ る が 、 ど れ も 十
分 な 対 照 試 験 を 行 っ て お ら ず 、 有 効 性 は 確 立 し て い な い . 5)22)26)
動脈内ルートへのカルシウム投与は侵食が複数の指にわたる場合や爪下の
領域に及んでいる場合に必要になることがある.
20)
・適応基準
指 3 本以上を含む四肢、もしくは四肢の広範囲にわたる化学損傷の場合
26)
・使用薬剤
確立されておらず、濃度・使用量は文献によってさまざまである.
a)10%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 液 10mL ま た は 塩 化 カ ル シ ウ ム 10mL を 40mL
~ 50mL の 5%ブ ド ウ 糖 に 混 合 し た も の .
5)
b)橈 骨 か 尺 骨 動 脈 を 使 う 場 合 5)
20%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 液 10mL を 生 理 食 塩 水 40mL で 希 釈 し た も の
上 腕 動 脈 を 使 う 場 合 5)
20%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 液 20mL を 生 理 食 塩 水 80mL で 希 釈 し た も の
c)10%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム (塩 化 カ ル シ ウ ム は 不 可 )20mL を 5%ブ ド ウ 糖
ま た は 生 理 食 塩 水 250mL に 希 釈 し た も の
・方法
20)
5)26)
①動脈造影によって、受傷部位に供給する動脈路を確保する.
② 橈 骨 、尺 骨 、上 腕 動 脈 な ど 近 位 の 適 当 な 動 脈 に カ テ - テ ル を 留 置 す る .
③カルシウム塩の希釈液を 4 時間以上かけて注入する.
・ 動 脈 カ テ ー テ ル の 留 置 中 は ヘ パ リ ン を 投 与 す べ き で あ る . 26)
・再投与
注 入 後 4 時 間 以 内 に 痛 み が 解 消 し な い 、 も し く は 再 発 し た 場 合 26)
要 す れ ば 12 時 間 ご と に 繰 り 返 し 投 与
5)
・利点と問題点
・ Velvart に よ れ ば 、 受 傷 後 6 時 間 以 上 経 過 す る と こ の 方 法 で は 壊 死 を 防
ぐ こ と は で き な い が 、 痛 み の 軽 減 に は 24 時 間 後 で も 有 効 .
5)
・この療法は、傷害された組織にカルシウムイオンをより多く供給するに
は良い方法であり、局所カルシウム剤注入時の痛みや抜爪および合併症
を防ぐと考えられるが、動脈痙攣や血栓などの合併症の可能性がある.
5)22)26)
・より多くの経験と研究をかさねて、局所注入法よりも優れていると証明
されるまで行うべきではないという意見もある.
5)22)
・ 時 間 と 費 用 が か か り 、 し か も 合 併 症 を 起 こ す 可 能 性 が あ る . 26)
B.マ グ ネ シ ウ ム 塩 の 使 用
10)22)
・動物実験によると有効だが、臨床検討が必要
10)
ラ ッ ト 実 験 に よ れ ば 皮 膚 曝 露 時 に 10%酢 酸 マ グ ネ シ ウ ム ま た は 硫 酸 マ グ ネ シ
- 20 -
ウム液の注入が有効であったという報告があり、フッ化水素による炎症の深
さや進行を最小に防いだとのことであるが、ルーチンに行うまでにはより多
く の 研 究 が 必 要 で あ る . 5)22)
・塩化マグネシウムは塩化カルシウムより水に溶けやすく、局所適応で組織の
深部まで浸透可能と考えられるが、動物実験の結果では他の治療法より効果
が 低 い . 26)
C.第 四 級 ア ン モ ニ ウ ム 塩 の 使 用
・塩化第四級アンモニウムは、塩化物イオンをフッ素イオンと置換し、非イオ
ンフッ化物錯体とする.塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムを局所
に 1-6 時 間 適 応 し た 症 例 報 告 が あ る が 、 他 の 治 療 法 と 比 べ 特 に 優 れ て い る と
は い え な い . 5)26)
D.フ ッ 化 水 素 専 用 洗 浄 液 Hexafluorine(R)の 使 用
・ フ ッ 化 水 素 酸 曝 露 時 に 使 用 す る 解 毒 剤 と し て 、 PREVOR 社 (フ ラ ン ス )で 開 発 ・
販売されている液体.日本国内では未発売.
・ 皮 膚 洗 浄 用 (5L、 消 火 器 様 容 器 )と 眼 洗 浄 用 (500mL) が あ る .
・ 曝 露 直 後 ( 6 0 秒 以 内 ) の 除 染 に 使 用 す る こ と に よ り 、水 素 イ オ ン と フ ッ 素 イ オ
ン を 急 速 に 吸 収 し 、組 織 へ の 浸 透 を 防 止 す る ( ヘ キ サ フ ル オ リ ン 分 子 の 結 合 力
は グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム の 100 倍 )
33)
・ 成 分 は 公 表 さ れ て い な い .物 性 [ p H 7 . 4 、沸 点 1 0 0 ℃ 、凝 固 点 - 1 ℃ 、比 重 1 . 0 4 7 ]
34)か ら 、 水 に 微 量 成 分 を 添 加 し た も の と 推 定 さ れ る .
・ 使 用 実 績 が 少 な く 、 有 用 性 に 賛 否 両 論 が あ る . 35)36)37)38)39)40)41)
有 用 で あ る と い う 報 告 35)38)40)は PREVOR 社 か ら 出 て い る . 39)
・ 16 名 の 眼 、 皮 膚 曝 露 に お い て 、 初 期 に Hexafluorine(R)で 洗 浄 し た 場 合 、
重 篤 な 化 学 損 傷 は み ら れ な か っ た . 38)
・H o j e r の 報 告 で は 、ラ ッ ト 背 部 に 5 0 % フ ッ 化 水 素 3 分 間 曝 露 し 3 0 秒 後 5 0 0 m L
の H e x a f l u o r i n e ( R ) 、水 洗 、水 洗 + グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム に よ る 治 療 の 比 較
を 行 っ た と こ ろ 、 水 洗 +グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム が 効 果 的 で あ り 、
Hexafluorine(R)に つ い て は 水 洗 よ り も 予 後 が 悪 か っ た . 37)
[その他]
外科的処置:壊死組織切除、抜爪、皮膚移植など
・壊死組織切除
グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 注 入 後 、 局 所 麻 酔 下 に デ ブ リ ー ド マ ン (壊 死 組 織 切 除 )
を行う.
難 治 性 の 場 合 は 、 壊 死 が 進 む 組 織 を 切 除 す る の が 最 後 の 手 段 と な る . 26)
・抜爪
指 先 に 高 濃 度 の フ ッ 化 水 素 を 曝 露 し た 場 合 に は 抜 爪 を 行 う が 、1 0 % 以 下 の 濃 度
であれば、おそらく必要ない
5 ) 22)
・皮膚移植
・ bulky dressing
重 篤 な 場 合 に は 化 学 損 傷 部 分 が 隆 起 す る の で 、酸 化 マ グ ネ シ ウ ム 軟 膏 ( A & D 軟
膏 )を 塗 布 し 大 き い 包 帯 (bulky dressing)で お お う
6)
*眼に入った場合
(1)基 本 的 処 置
洗浄:生理食塩水か等張の塩化マグネシウム液か水ですぐに洗浄するのが最
も良い.
- 21 -
・ 乳 酸 リ ン ゲ ル 液 あ る い は 牛 乳 、 1%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 含 有 生 理 食 塩 水 は
カルシウムイオンの供給という点から有効である可能性がある.ただ、使
用 す る 液 よ り 、 い か に 早 く 洗 浄 す る か が 重 要 で あ る . 26)
・ pH 試 験 紙 で 涙 液 pH を 調 べ な が ら 、 正 常 に な る ま で 洗 浄 す る .
22)
・多 剤 で 洗 浄 す る と 角 膜 潰 瘍 の 発 生 率 が 4 0 ~ 6 0 % 増 加 す る と い う 報 告 が あ る .
・洗 浄 を 繰 り 返 し て も 効 果 は な く か え っ て 角 膜 潰 瘍 の リ ス ク が 上 昇 す る .2 6 )
(2)生 命 維 持 療 法 お よ び 対 症 療 法
必要に応じて、経口の場合に準じて治療する.
(3)特 異 的 治 療
・ 2.5%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム の 点 眼 に よ る 効 果 は 立 証 さ れ て い な い
20)
・ デ ュ ポ ン 社 の MSDS で は
5 分 間 流 水 で 洗 浄 し た の ち 、 1%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 含 有 生 理 食 塩 水 を 継 続
的に点眼し 、 速やかに専門眼科医による治療をうける
8)
・動物実験によると、フッ素イオン除去目的のグルコン酸カルシウムの結膜下
への注入は危険である.また、等張の塩化カルシウムやその他の 2 価の陽イ
オンの注入は結膜に対する傷害を増し、マグネシウムや硫酸マグネシウム眼
軟 膏 、0 . 2 % 塩 化 ベ ン ゼ ト ニ ウ ム 液 、0 . 0 5 % 塩 化 ベ ン ザ ル コ ニ ウ ム 液 も す べ て 眼
に対しては有害であった
5)22)
・不確かな結果であるが、洗浄の後、病院搬入までにアイスパックを使用し、
搬 入 後 1%グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム で 5~ 10 分 洗 浄 、 2~ 3 分 ご と に 1%グ ル コ ン
酸 カ ル シ ウ ム を 2~ 3 日 間 、 滴 下 し た 例 も 報 告 さ れ て い る
・オイルや眼軟膏を使用しない
5)22)
8)
13.中毒症例
フッ化水素による事故の多くは、毒物であるという認識が不充分なために保護具
が 不 備 な 状 態 で 薬 剤 を 使 用 し 、経 皮 ( 特 に 手 指 ) 曝 露 し た と い う も の で あ る .3 1 ) 3 2 )
しかしながらわが国の化学プラントにおいて、フッ化水素ラインの破損等により
全 身 曝 露 し 30 分 程 度 で 心 肺 停 止 を き た し て 死 亡 し た 例 が 2001~ 2004 年 の 間 に 少
な く と も 3 件 発 生・報 告 2 8 ) 2 9 ) 3 0 ) さ れ て お り 、労 働 衛 生 上 も 非 常 に 問 題 で あ る .
(1)経 口
症 例 1: 経 口 摂 取
1 回 目 の 摂 取 後 に 大 量 嘔 吐 、 40 分 後 に 心 室 細 動 を き た し 、
電気的除細動により救命された生存例
11)
70 歳 女 性 、 8%HF 含 有 サ ビ ト リ 剤 2 回 に 分 け て 計 2oz(約 60mL)摂 取
1 回目摂取直後:咽頭痛、大量に嘔吐
20 分 後 搬 入 : 脈 拍 140 回 /分 、 BP102/64
40 分 後 : 脈 拍 152 回 /分 、 血 圧 低 下 (BP81/49)、 心 室 細 動
1 時 間 後 : 低 カ ル シ ウ ム 血 症 (1.65mmol/L)グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 投 与 開 始
低 Mg 血 症 (0.45mmol/L)、 低 K 血 症 (3.3mmol/L)、 QT 間 隔 延
長 (0.44 秒 )エ ピ ネ フ リ ン と リ ド カ イ ン の 投 与 、 除 細 動 (2 時 間
で 22 回 )
7 時 間 後 : 洞 リ ズ ム 正 常 (98 回 /分 )、 血 圧 ・ QT 間 隔 ・ カ ル シ ウ ム 、 Mg、 K
正常化
胃腸管出血・穿孔なし
症 例 2: 経 口 摂 取
90 分 後 に 心 室 細 動 を き た し 、 塩 化 カ ル シ ウ ム 投 与 、 電 気 的
除細動により救命された生存例
- 22 -
12)
33 歳 男 性 (リ ド カ イ ン ア レ ル ギ ー 有 )、 10%HF 含 有 サ ビ ト リ 剤 100mL 摂 取
50 分 後 来 院 : 吐 血 (約 100mL)、 腹 部 不 快 感 、 脈 拍 150 回 /分 、 BP120mmHg
75 分 後 : BP84/63、 低 カ ル シ ウ ム 血 症 (1.91mmol/L)、 代 謝 性 ア シ ド ー シ ス
(pH7.04)、 フ ッ 化 物 濃 度 17.5,38.4mg/L
塩化カルシウム静注開始、気管挿管
90 分 後 : 心 室 細 動 、 電 気 的 除 細 動 、 硫 酸 マ グ ネ シ ウ ム 1g 静 注
経 鼻 胃 チ ュ ー ブ で 血 液 100mL 吸 引 、 塩 化 カ ル シ ウ ム 20mL 含 有
生食で洗浄
3 時 間 後 : カ ル シ ウ ム :2.36mmol/L、 心 室 細 動 、 除 細 動 (2 時 間 で 7 回 )
塩化カルシウムの静注・経鼻投与によるカルシウム総投与量
250mmol
7 時 間 後 : 急 性 腎 不 全 (ク レ ア チ ニ ン :220mmol/L)
3 日後:覚醒、軽い腹部圧痛、4 日後:内視鏡、表層性潰瘍、
12 日 後 : 退 院
(2)経 皮 (全 身 )
症 例 1:体 表 の 2 . 5 % 曝 露 で 死 亡 し た 例( 経 皮 の 最 小 致 死 量 、最 初 の 死 亡 報 告 )
47)
男 性 、石 油 工 場 で 加 圧 H F を 触 媒 と し ハ イ オ ク ガ ソ リ ン を 製 造 す る 作 業 に 従 事
終 業 時 に プ ラ グ を 抜 こ う と し て 、 無 水 HF(100%HF)を 顔 面 曝 露
安 全 シ ャ ワ ー の 位 置 が よ く わ か ら ず 、 10 分 ほ ど か か っ て か ら 除 染 開 始
10 分 後 : 救 急 隊 到 着 、 顔 面 に Ⅲ 度 の 化 学 損 傷 、 バ イ タ ル 異 常 な し
110 分 後 : グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 局 所 注 入 、 挿 管
145 分 後 : QT 延 長 、 Ca 低 下
3 時間後:デブリードメント施行
Ca 3.5mg/dL、 ア シ ド ー シ ス 併 発 (pH7.21)、 Ca・ O2 投 与
6 時間後:心室細動、除細動成功
9 時 間 30 分 後 : 4 回 目 の 心 室 細 動 で 心 停 止
Ca2.2mg/dL
10 時 間 後 : 肺 水 腫 、 痙 攣 併 発 、 死 亡
剖検結果
フッ素濃度
上気道粘膜と肺の浮腫(吸入を示唆する出血あり)
血 液 3mg/L、 肝 4.2mg/L、 腎 6.2mg/L
考察:曝露直後のパニックで除染が遅れた上、グルコン酸カルシウム適応ま
で 100 分 以 上 要 し た た め 、 そ の 間 に フ ッ 素 イ オ ン が 吸 収 さ れ 、 低 カ ル
シウム血症、低マグネシウム血症を来たした.
呼吸器からの吸入よりも皮膚からの吸収が大きかったと思われる.
*注
本 症 例 は 、 70%フ ッ 化 水 素 を 体 表 の 2.5%曝 露 し て 死 亡 し た 最 小 致 死 例 と
し て 引 用 さ れ て い る 5)22)が 、 原 文 に は HF under pressure, anhydrous
HF acid, the concentration of the acid approached 100%と い う 記 載
が あ り 、 70%は 引 用 者 の 誤 解 で あ る 可 能 性 が あ る .
症 例 2: 経 皮 ・ 吸 入 曝 露 に よ り 20 分 で 心 肺 停 止 を き た し 、 死 亡 し た 例
28)
35 歳 男 性 、 フ ッ 化 水 素 製 造 工 場 勤 務 、 70%HF を 大 型 タ ン ク か ら ポ リ タ ン ク に
移す作業の直後、バルブが外れて頸部に曝露
2 分後:救急要請、全身水洗、グルコン酸カルシウムゼリー塗布
16 分 後 : 救 急 隊 到 着 、 意 識 JCSⅡ -30、 呼 吸 苦 著 明
20 分 後 : CPA
36 分 後 : 病 院 到 着
Ca 2.9mg/dL、 K 7.0mEq/L Mg 1.3mg/mL、 pH6.878、 BE-21.0mmol/L
78 分 後 : 蘇 生 に 反 応 せ ず に 死 亡
- 23 -
剖検結果
17%Ⅲ 度 の 化 学 損 傷 、 呼 吸 器 ・ 消 化 器 の 出 血 、 諸 臓 器 の う っ 血 、
フッ素イオン濃度
血 液 44.8mg/L、 尿 13.6mg/L、 肺 29.7mg/L
考察:低カルシウム血症、低マグネシウム血症、
DIC(F-と Ca+, Mg+ の 反 応 に よ り 生 じ た 沈 殿 に よ り 微 小 血 栓 が 形 成 さ
れたことによる)
症 例 3: 吸 入 ・ 経 皮 曝 露 に よ り 32 分 で 心 肺 停 止 を き た し 、 死 亡 し た 例
29)
6 5 歳 男 性 、フ ッ 化 水 素 製 造 工 場 勤 務 、フ ッ 化 水 素 ガ ス 冷 却 液 化 工 程 で 析 出 し
た硫酸カルシウムの除去作業を行おうとして、残存していたフッ
化水素高濃度液を顔面に曝露
直 後 : 同 僚 の 話 に よ る と 顔 色 ね ず み 色 、「 息 が 苦 し い 」「 胸 が 苦 し い 」
20 分 後 : 救 急 要 請
28 分 後 : 救 急 隊 到 着
32 分 後 : CPA
56 分 後 : 病 院 到 着
Ca 低 下 (4.9mg/dL)、 K 上 昇 (6.2mEq/L)
約 2 時間後:蘇生に反応せずに死亡
剖検結果
顔面化学損傷、両側肺のうっ血、
フッ素イオン濃度
血 清 6 3 . 8 m g / L 、 心 嚢 内 液 6 1 . 7 m g / L 、、 胸 水 5 3 . 7 m g / L 、
尿 66.0mg/L (正 常 値 血 清 中 0.5mg/L、 尿 5mg/L)
考察:フッ化水素の残留を想定していない状況での事故であったため保護具
不十分であり、かつフッ化水素曝露の認識が遅れた.
直接死因はフッ化水素の吸入による著明な血液ガス交換障害
フ ッ 素 イ オ ン の 全 身 流 入 に よ る 障 害 (特 に 腎 機 能 障 害 )
低カルシウム血症による心機能障害を合併した可能性あり.
症 例 4: 全 身 曝 露 に よ り 25 分 で 心 肺 停 止 を き た し 、 死 亡 し た 例
30)
59 歳 男 性 、 化 学 工 場 の ダ ク ト を 修 理 中 、 ダ ク ト が 突 然 破 裂 し 、 噴 出 し た
60%HF を ほ ぼ 全 身 に 浴 び た
直後:同僚が服を脱がせ、水洗、救急要請
10 分 後 : 救 急 隊 到 着 、 意 識 清 明 、 呼 吸 困 難 あ り
25 分 後 : 病 院 到 着 、 CPA
蘇生に反応せずに死亡
剖検結果
皮 膚 : 体 表 30%(前 頭 部 ・ 胸 部 ・ 下 肢 )が 緑 褐 色 の ち 暗 褐 色 に 変 色
口腔、咽頭、喉頭、気管粘膜には変色・糜爛なし.
肺は部分的うっ血、肺胞上皮変化なし.
全フッ素濃度
血 液 605μ g/g、 尿 552μ g/g、
左 前 腕 皮 膚 609μ g/g、 左 肺 14.2μ g/g
考察:気道内にフッ化水素を吸引したことによるよりも、皮膚に浴びたフッ
化水素が皮下の血管を介して血流に入り、直接的な作用により死亡し
たものと判断した.
症 例 5: 経 皮 曝 露
全身症状を来した生存例
13)
64 歳 男 性 、 30%HF の 爆 発 に よ り 体 表 面 積 44%以 上 に 曝 露 、 Ⅲ 度 の 化 学 損 傷
2 時間後:呼吸困難、気管挿管
2.5 時 間 後 : 血 圧 低 下 (60mmHg)、 QT 間 隔 の 延 長 、 低 カ ル シ ウ ム 血 症 (Ca+
0.44mmol/L)、 低 マ グ ネ シ ウ ム 血 症 (1.2mg/dL)
グルコン酸カルシウム投与
5 時間後:心室性頻脈と心室細動を来す.エピネフリンとリドカイン投与
除 細 動 (80 分 間 に 7 回 )、 QT 間 隔 の 延 長 (0.51 秒 )が 60 時 間 持 続
- 24 -
78 日 後 : 退 院
症 例 6: 経 皮 曝 露 に よ り 全 身 症 状 を き た し た が 、 透 析 を 行 い 、 回 復 し た 例
27)
46 歳 男 性 、 金 属 加 工 工 場 で 流 量 メ ー タ ー 交 換 中 、 71%HF を 体 表 7%に 曝 露 .
直 後 : 同 僚 が 服 を 脱 が せ 、 水 洗 、 救 急 要 請 (カ ル シ ウ ム 塗 布 せ ず )
30 分 後 : 救 急 車 で 病 院 到 着
意識はあり、痛みを訴えていた
塩 化 カ ル シ ウ ム を 含 む 水 で 洗 浄 、 心 電 図 モ ニ タ ー し 、 ICU 入 室
初 期 の カ ル シ ウ ム イ オ ン 濃 度 0.67mmol/L
Ca0.9%の グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 10mL を 静 脈 投 与
グルコン酸カルシウムゼリーがなかったため、発泡性のカルシウ
ム 20g を 水 2L に 溶 解 し た も の に 浸 漬 し た 包 帯 で 、 局 所 を 覆 う .
90 分 後 : Ca0.9%の グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 160mL を 局 所 に 皮 下 注 入 、
20mL を 静 脈 投 与 後 、 血 中 Ca 濃 度 を み な が ら カ ル シ ウ ム 静 注
3 時間後:グルコン酸カルシウムゲル塗布
カ ル シ ウ ム は 最 初 の 2 時 間 ( 0 . 6 7 - 0 . 7 6 - 0 . 9 6 m m o l / L ) 、ま た マ グ ネ
シウムは最初低下していたがその後回復
カルシウム塗布以外にアシドーシスの補正のため大量の輸液
3.5 時 間 後 : 電 解 質 、 血 液 ガ ス が 正 常 で あ る に も か か わ ら ず 心 室 細 動 発 生
(カ ル シ ウ ム イ オ ン 1.23mmol/L)
その後 2 時間以内に心室細動を計 5 回起こし、除細動.
7 時間後:顔から首にかけての分泌物が増加し吸入の可能性があったため
気管挿管、人工呼吸
8 時間後:腎機能は問題なかったがフッ化物の排泄のため血液透析 4 時間
透析開始後は、不整脈発生せず
翌 日:循 環 器 の 酵 素 で は 心 筋 障 害 の 徴 候 な し .化 学 損 傷 の 管 理 の た め 転 院 .
3 0 時 間 後:持 続 的 静 脈 - 静 脈 透 析 ( C V V H D ) 4 8 時 間 施 行 ( フ ッ 素 排 泄 を 最 優 先 )
5 日目:左ひじ内側周囲の壊死した部分は切除、8 日目に皮膚移植.
術後、肺炎を起こしたが、徐々に回復
11 日 目 : 呼 吸 器 を は ず し 、 15 日 目 に 転 院 .
1 ヵ月後:退院
4 ヵ月後:ほぼ回復し、復職
フ ッ 素 の 定 量 (透 析 器 の フ ッ 素 定 量 は し て い な い )
8 時間後
尿 中 5800μ mol/L(正 常 値 2μ mol/L)
透析 8 時間後
35 時 間 後
尿 中 3850μ mol/L
血 中 0.23mg/L(12.3μ mol/L)
80 時 間 後 (CVVHD 終 了 2 時 間 後 )
尿 中 260μ mol/L
血 中 2.9μ mol/L
考察:心室細動発生時に電解質異常、アシドーシス、動脈血液ガス分析異常
などがなかったことから、フッ素による直接の心毒性が問題と考え、
フッ素の除去を行った.1 回目の透析が有効であったことは明らかだ
が 、 CVVHD の 有 効 性 に つ い て は 不 明 で あ る .
(3)経 皮 (局 所 )
症 例 1: 手 指 の 曝 露 に よ り 、 中 指 先 端 切 断 に い た っ た 例
32)
41歳 男 性 、 55%フ ッ 化 水 素 酸 を 取 り 扱 い 中 、 ゴ ム 手 袋 に 穴 が 開 い て い て 曝 露 .
直ちに水洗し、工場に常備のグルコン酸カルシウムゼリーを塗布した.
7時 間 後 : 来 院 時 、 手 の 灼 熱 感 、 疼 痛 、 皮 膚 変 色 が 認 め ら れ た .
グルコン酸カルシウムの局所皮下注入、ゼリー塗布を行ったが、疼痛、腫
脹が残存し、皮膚壊死に至った.
- 25 -
骨に障害はなかったが壊死部切除創閉鎖のため末節骨を含む中指先端切断.
第 31病 日 に 退 院 し た が 、 手 指 硬 縮 、 関 節 腫 脹 が 残 っ た .
症 例 2: 手 指 の 曝 露 に よ り 、 左 手 第 1 指 の 切 断 に い た っ た 例
32)
20歳 男 性 、 フ ッ 化 水 素 酸 希 釈 液 (濃 度 不 明 )を ゴ ム 手 袋 と 軍 手 を 重 ね て 使 用 .
作 業 開 始 1時 間 後 か ら 、 左 手 第 1指 に し び れ 感 出 現 、 次 第 に 疼 痛 増 強
水 洗 し た が 軽 快 せ ず 、 30分 後 に 近 医 受 診 、 ヒ ド ロ コ ル チ ゾ ン 点 滴 静 注
3時 間 後 : 来 院 時 、 灼 熱 感 、 疼 痛 、 発 赤 、 び ら ん が 認 め ら れ た .
塩化ベンザルコニウム希釈液での洗浄、グルコン酸カルシウムの
皮下注入を行ったが、壊死は骨まで達した.
13日 後 : 壊 死 部 除 去 、 基 節 骨 頭 除 去 、 骨 切 断 、 断 端 形 成 術 施 行 .
第 24病 日 に 退 院 し た .
(4)眼
症 例 1: 眼 曝 露
症状の再発例
15)
3 歳 女 児 、 ワ イ ヤ ー ク リ ー ナ ー (フ ッ 化 水 素 と リ ン 酸 含 有 )を 目 に ス プ レ ー .
痛 み と 充 血 が み ら れ た が 、水 洗 に よ り 消 失 .翌 日 の 検 査 で は 正 常 で あ っ た .
4 日後、充血、腫れ、痛みにより、排膿処置をうけた.
両 眼 (両 側 性 )に 結 膜 血 管 の 血 栓 を 伴 う 角 膜 の 混 濁 が わ ず か に 観 察 さ れ た .
局 所 の ス テ ロ イ ド と 抗 生 物 質 に よ る 処 置 で 30 日 後 に は 視 力 が 回 復 し た .
(5)そ の 他 の 経 路
症 例 1: 皮 下 注
全身症状を来した例
16)
35 歳 男 性 、 7%HF 含 有 サ ビ ト リ 剤 5mL 皮 下 注
前 腕 部 の 化 学 損 傷 (7×9cm の 卵 形 )、 壊 死 、 外 科 的 処 置 必 要 .
2 時 間 後 来 院 時 : 洞 頻 脈 (106 回 /分 )、
3 時 間 後 : 白 血 球 増 多 症 (WBC15700/μ L)
7 時 間 後 : 重 篤 な 低 カ ル シ ウ ム 血 症 (カ ル シ ウ ム イ オ ン 0.67mmol/L)
10 時 間 後 も 持 続
軽 度 低 Na 血 症 (123mmol/L)、 低 K 血 症 (3.4mmol/L)、 低 Cl 血 症
(95.6mmol/L)併 発 、 グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 、 塩 化 ナ ト リ ウ ム 、 塩 化 カ リ
ウ ム 投 与 で 徐 々 に 回 復 (8 時 間 以 上 )
症 例 2: 歯 牙 に フ ッ 化 水 素 を 塗 布 さ れ 、 140 分 後 に 心 停 止 を 起 こ し た 死 亡 例
48)
3 歳女児、歯科医院にて齲蝕予防のためフッ化ナトリウムを塗布する際、
誤って納品されフッ化ナトリウム液容器に移し替えてあった、
フ ッ 化 水 素 (濃 度 不 明 )を 塗 布 さ れ た .
直後より苦しみ、腹痛を訴え、歯肉がチアノ-ゼ~蒼白を呈した
歯 科 医 師 が 塗 布 液 の 異 常 に 気 づ き 、 55 分 後 に 救 命 セ ン タ ー 搬 送
140 分 後 に 心 停 止 、 蘇 生 に 反 応 せ ず 死 亡
剖検結果
口腔粘膜全域に剥離壊死、咽頭~十二指腸にかけて壊死、出血
性浮腫、脳の浮腫、胸水、喉頭粘膜出血性浮腫
集 団 災 害 事 例 : 工 場 内 で の 集 団 曝 露 例 (経 皮 、 吸 入 )
14)
工 場 内 で 150℃ の 硫 酸 70-80%、 フ ッ 酸 10%の 混 合 酸 噴 出 、 4 名 曝 露 (保 護 具 未
装着)
症例 1
49 歳 男 性 、 全 身 皮 膚 の 8%に 化 学 損 傷 (顔 、 首 、 足 )、 喉 -上 部 呼 吸 器 に
ガスや微粒子を曝露
入院時:胸の X 線像は正常で呼吸器系に関する症状なし
肺 浮 腫 の 予 防 的 処 置 (フ ロ セ ミ ド 、 テ オ フ ィ リ ン 、 メ チ ル プ レ ド
- 26 -
ニ ゾ ン 、 抗 生 剤 投 与 )、 グ ル コ ン 酸 カ ル シ ウ ム 皮 下 注 入
2 日目:肝腎障害、血液透析
数日後:広範な化膿性の気管気管支炎が出現
痰 よ り Proteus mirabilis と Staphylococcus aureus 検 出
気管支鏡では帯状のフィブリンの被膜と粘液がみられた
2 週間後:鼻咽頭、右気管支幹に広汎性の出血
右肺閉塞、ショック、血餅を気管支鏡で除去
その後、気管・気管支の出血繰り返し
4 週間後:呼吸不全により死亡
症例 2
38 歳 男 性 、 皮 膚 曝 露 な し 、 短 時 間 の ガ ス や 微 粒 子 曝 露
入院時:顔、首、喉、下肢外側の紅斑のみ、反応、見当識あり
肺に水泡音の原因となる軽度の痙性あり、症例 1 と同様の処置
2 日 目 : 軽 い 肝 腎 障 害 (輸 液 ・ 強 制 利 尿 に か か わ ら ず 、 ク レ ア チ ニ ン 、 尿
素高値)
数日後:肝腎値回復
4 日後 :咽頭、喉頭、声門下がやや赤く、びらん、潰瘍はなし
1 年後 :嗄声、咳による違和感、鼻咽頭の痛み、両側の鼻出血が続く
筒状に厚くなった声帯に部分的に線維性肉芽形成
肺機能、血液ガス分析結果では特に異常なし
症例 3
数時間後死亡、X 線所見、検査結果では死亡原因不明
症例 4
数滴浴びてすぐ脱出、軽い皮膚化学損傷として処置、入院必要なし
14.分析法
[ 定 量 法 ] 2)
インピンジャーを用いて試料を水酸化ナトリウム溶液に吸収し、試料液の
pH を 弱 酸 性 に 調 整 し た の ち 、 ラ ン タ ン 及 び ア リ ザ リ ン コ ン プ レ ク ソ ン を 加
え て 発 色 さ せ 、 赤 色 溶 液 中 に 現 れ る 青 色 の 吸 光 度 を 測 定 し て F-を 定 量 す る .
15.その他
[化学災害時の対応]
漏洩・流出した場合、フッ化水素の腐食性により、あらゆる経路の曝露が問題とな
る.また、フッ化水素自体は爆発性も引火性もないが、加熱分解や水との急激な反
応 に よ り 腐 食 性 の ガ ス や 微 粒 子 を 生 成 し 、被 害 を 拡 大 さ せ る 可 能 性 が あ る .さ ら に 、
金属との接触により可燃性の水素ガスを発生し爆発することもあるので、いずれの
場合も早期に対応しなければならない.
(1)立 入 禁 止 区 域 の 設 定 と 避 難
立 入 禁 止 区 域 の 設 定 (ゾ ー ニ ン グ )
漏 出 の 場 合 は 現 場 周 囲 の 少 な く と も 半 径 50-100m(タ ン ク ・ 鉄 道 ・ 輸 送 ト ラ ッ ク
の 火 災 で は 半 径 800m)は 、 周 囲 に ロ ー プ を 張 る な ど し て 、 許 可 さ れ た 者 以 外 は
立 ち 入 ら な い よ う に す る . 42)
避難
低い位置を避けて風上に避難する.必要であれば水で濡らした手ぬぐい等で口
お よ び 鼻 を 覆 う . 42)43)
(2)防 護
- 27 -
・作業の際には必ず空気呼吸器その他の保護具を着用し、風下で作業をしない.
保 護 メ ガ ネ 、 保 護 手 袋 、 保 護 長 ぐ つ 、 全 身 保 護 衣 、 陽 圧 式 呼 吸 器 (SCBA)
・ 消 防 服 は フ ッ 化 水 素 漏 洩 時 の 保 護 服 と し て は 不 十 分 で あ る . 42)
(3)措 置
漏洩・流出の場合
・ 危 険 が な け れ ば 容 器 か ら の 漏 洩 を 止 め る . 42)43)
・流出した薬品が少なければ不燃性のもので覆い、多ければ土砂でせき止めるな
どして水路や下水等に流れ込まないようにし、廃棄用の樹脂容器に回収する.
42)43)
・水と急激に反応するとフッ化水素のガスや微粒子が発生する可能性があるので
多量の水を直接薬品や容器にかけないようにする.まず、霧状の水をかけてあ
る 程 度 希 釈 す る (ガ ス や 微 粒 子 の 場 合 は 徐 々 に 吸 収 さ せ る ). 42)43)
そ の 後 、消 石 灰 等 の 水 溶 液 を 用 い て 処 理 を 行 い 多 量 の 水 を 用 い て 洗 い 流 す .4 3 )
火災の場合
・ 可 能 で あ れ ば 容 器 を 安 全 な 場 所 に 移 す . 42)43)
・ 容 器 の 破 損 が な け れ ば 、 容 器 の 周 囲 を 水 で 冷 却 す る . 42)43)
・ 異 音 が す る 等 、 容 器 の 破 損 の 予 兆 が あ れ ば 、 直 ち に 退 避 す る . 42)
(4)廃 棄 法
沈 殿 法 (CaF2 と し て 廃 棄 )
43)
・多 量 の 消 石 灰 水 溶 液 中 に 攪 拌 し な が ら 少 し ず つ 加 え て ( 気 体 の 場 合 は 吹 き 込 ん で
吸 収 さ せ )中 和 し 、 沈 殿 ろ 過 し て 埋 め 立 て 処 分 す る .
・消石灰水溶液と急激に混合すると多量の熱を発生し、酸が飛散することがある
ので注意する.
・ 中 和 時 の pH は 8.5 以 上 と す る . こ れ 以 下 で は 沈 殿 が 完 全 に は 生 成 し な い .
(5)環 境 へ の 影 響
資料なし
[参考資料]
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ID
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16.作成日
20050930
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